人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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こんばんは。
実は最近、父方の祖母が亡くなり、その葬儀で忙しく更新が遅れたことをお詫びします。
さて、長野支部との戦い(後編)の予定でしたが、長くなりそうなので、3班のうち劔と美岬の2班の話、つまり長野支部戦中編です。


記録百拾

SIDE劔

 鬼との戦いを始めた俺だが–––

 

「てめえ、俺の邪魔をするな」 「邪魔はテメエだ!!」 「俺の前からどけ!!」

 

「お前こそどけ!!」 「俺の指示通りに動け!」 「誰がてめえの命令を聞くか!」

 

 戦闘開始から僅か数十分でコレ(・・)だ。

 1人の鬼の撃った音撃管の空気弾が味方に当たりそうになったり、振るった音撃弦が何もない空を薙いだり、互いに足を引っ張り合い、敵を前にして仲間との聞くに堪えない罵倒の掛け合い。

 正直言うと、この程度の鬼たちに魔化魍がやられたのは信じられない。

 

 俺はそんな光景を無視して、鬼の数と手元を確認する。音撃棒1、音撃管8、音撃弦1の計10名。

 確認が終わると同時に手に持つ槍を音撃管を持つ2人の鬼に目掛けて投擲する。

 

「なんだ? ぐばぁ…」 「なっ! がふっ!」

 

 口論に夢中だった2人の鬼の身体に槍は真っ直ぐと突き刺さり、その勢いのまま樹に磔になる。残り8。

 

「てめえ卑怯だぞ!!」

 

【敵を前にして何が卑怯だ。ただの注意力散漫だろう】

 

 劔の言葉に罵詈雑言を浴びせ合っていた音撃管を持った鬼たちは一糸乱れずに劔に向けて照準を合わせ一斉に鬼石の弾丸を撃ち始める。

 しかし、劔は手に持つ刀に翼を羽ばたかせた風を纏わせ、塊となった風を鬼石の弾丸に向けて振り下ろす。

 

「がは」 「ぎゃあ」 「がふっ」

 

 風の塊は迫る鬼石を吹き飛ばし、撃った鬼たちに降り注ぐ。内3名の鬼の身体に吹き飛ばされた鬼石の弾丸が急所に当たりその3名は倒れ、流れる血の上で痙攣している。残り5。

 

「テメエ!! よくもやりやがったな、コイツをくらいな!!」

 

 音撃棒を持った鬼が声を荒げながら手に持ったディスクアニマルを劔に投げる。投げられたディスクは空中で変形し、その姿を蟻のような姿へと変形させる。

 

【(牽制か? いやあれは)っ!?】

 

 投げられたディスクアニマルの正体に気付いた劔は両翼で身体を覆った瞬間、ディスクアニマルは劔の手前で爆発。

 その爆発に劔は飲み込まれる。

 

「ぎゃあははは。まんまと引っ掛かったなクソ魔化魍!! 橙蟻の爆発でお陀仏よ! ぎゃははははは」

 

 ディスクアニマル 橙蟻。

 戦輪獣も含めれば数十にも及ぶディスクアニマルの中で唯一の『自爆』という機能を持った特攻武器で、東南アジアに生息する自爆する蟻をモデルに作られたディスクアニマルだ。

 戦輪獣が開発される前に生み出されたこのディスクアニマルは、最低限の変形と数十秒という極端に短すぎる稼働時間、相手に組み付いて爆発という単純な機能故に他のディスクアニマルに比べて僅かな費用で量産出来る革命的なディスクアニマルだった。

 当時は鬼の弟子の護身具とされていたものだが、今ではその量産のしやすさで弟子のみならず猛士に所属する者は数枚持ち歩く者もいる。

 

 そんな橙蟻の爆発に巻き込まれた劔を見た鬼は笑いながら宙にいる常闇と緑の方に向く。

 

「次はテメエらだ。女っぽい身体なんだ手足を落としてゆっくり楽しまさせてもらうぜ!!」

 

「待ってたぜ!! 俺の下がさっきからビンビンなんだよ!!」

 

「俺は右の女にヌいて貰いてえなあ!!」 「俺は左だ。さぞ揉み心地が良いだろうな!!」

 

「充分楽しませてくれたら殺す!!」 

 

 普通の人間の女性よりも魅力的な姿の常闇と緑を見た鬼たちは卑猥な願望を口から垂れ流す。しかし–––

 

常闇

【呆れたものだ。まだ終わってないというのに】

 

「なんだと!!」

 

 常闇の言葉に鬼が反応した瞬間–––

 

「ぐっ」 「ぎゃふ」 「ざぶっ」 「どふ」

 

 4人の鬼の首が宙を舞い、頭を失くした身体が一斉に倒れる。

 

「なっ!!」

 

 転がる首を見た鬼は後ろを振り向くと、刀を振り上げる劔の姿があった。

 何故、橙蟻の爆発を受けた劔が無事なのか。それは、知識があったからだ。

 

 猛士九州地方宮崎支部を襲撃した際に迷家が支部内の全てのディスクアニマルと戦輪獣を奪ったのを覚えているだろうか。

 迷家は戦利品という意味で奪ったつもりだが、身内が鬼ということで幽冥は奪ったディスクアニマルと戦輪獣を姉である春詠に託し、全ての家族にそれらの解説を頼んだ。どのような特徴なのか、どう運用するのか、弱点は、知る限りの知識を春詠は家族全員に教えた。

 勿論、覚えの良い者や悪い者もいる訳だが、その中で劔は覚えの良い方だった。

 その結果、変形したディスクアニマルを与えられた知識から直ぐに橙蟻と判断した劔は自身の身を翼で覆うと同時に術で生み出した風を纏わせて防御に徹し、爆発と爆風から身を守ったのだ。

 

【残り1…………お前で最後だ。己の弱さを痛感しながら死ね!】

 

 劔の振り下ろした刀が鬼の身体を右袈裟に斬り裂き、その身から血と臓物を垂れ流しながら死んだ。

 翼から羽を1本抜き取り刀にべっとりと付いた血を拭い、鬼を磔状態にする槍を回収する。

 戦いが終わって常闇と緑が宙から降りてくる。

 

「お疲れ様です」

 

常闇

【良かったぞ劔。正直あの程度で手を貸すようなことになっていたら首を刎ねているところだったぞ】

 

 その通りだった。常闇の言いつけ故に常闇や緑の手も借りてはならなかったが、ハッキリ言ってあの程度の鬼たち相手に手を借りてたら恥だ。いや常闇の場合、恥を感じる前に首を刎ねそうだが。

 刀や槍を仕舞い込み、空を飛んでいく。背後からしか攻撃出来ない卑怯な輩の首を斬るために劔は天を駆けるのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 死んだと思われた猛士佐賀支部支部長の脳見 潘が謎の魔化魍と共に逃げる際に送り込んだ3体の怪物。

 頭から前脚近くまでの上半身が裂け、裂けた間には鋭い歯を生やした口があるエリュトロンD。

 

 背骨から直接生えたような翼、爛れた肌に黒い羽毛のようなものが混じった醜悪な身体、首には縫った跡のあるテングの頭を無理矢理付けた人型のメランC。

 

 全身がプリズムで、三角柱の形状をした特徴的な頭部と三角錐状の手足を持った人型のSカトプトロン。

 

 それら3体の中央の口の牙、羽根に覆われた拳、プリズムの三角錐の槍が一斉に狂姫に襲い掛かる。

 突然襲い掛かられた狂姫は反撃を考えずに目を閉じてしまうが、いつまでも来ない攻撃に目を開けると–––

 

狂姫

【っ! ……………美岬様! 荒夜様】

 

 愛する男(荒夜)敬愛する主人(美岬)の2人が自身の武器を交差させて3体の攻撃を防ぐ。

 

美岬

【ウチの子になに手を出してんの!!】

 

荒夜

【姫! 術を!】

 

 荒夜はメランCを刀の柄で殴り、美岬はSカトプトロンを蹴り飛ばして、残ったエリュトロンDは荒夜の言葉で術を使った狂姫の生み出した突風で遠くの壁に吹き飛ばされる。

 

美岬

【荒夜、狂姫。そこの2体の相手をお願いします。私はあの結晶人間の相手をします】

 

 そう言った美岬の前に立つSカトプトロンが腕を交差させ身体が光ると、何かが美岬に向かって飛んでくる。

 美岬は直感的に堅鯨(けいげい)を取り出し、能力を使うと、美岬の身体に当たった何かがパリンと割れて、美岬の足元に落ちていく。

 

 私は堅鯨(けいげい)を盾のように構えながら下に溜まっている何かを拾い上げる。

 拾い上げたそれは、砕けてしまっているが結晶人間の身体と同じ結晶のかけら。そしてやはり、この結晶人間の相手は私で正解だった。

 

 荒夜の刀ではあの身体に傷を付けるのは難しいだろうし、遠距離攻撃を主体とする狂姫ではこの攻撃を防ぎながらの攻撃はキツイだろう。

 そう考えた美岬は堅鯨(けいげい)を横持ちのまま結晶人間ことSカトプトロンに突撃する。一方–––

 

SIDEOUT

 

 

SIDE狂姫

 風系の術を使ってエリュトロンDを壁まで吹き飛ばした狂姫。

 自身の武器である弓矢を取り出して、エリュトロンDに向けて矢を放つ。

 

ヴヴヴヴヴヴ

 

 エリュトロンDは中央の口から涎を垂らしながら砂嵐の起きたテレビ画面のような唸り声を上げながら、狂姫の矢を縦横無尽に避けては狂姫の身体に噛みつこうと飛び掛かる。

 

狂姫

【…うう、狙いが】

 

 勿論、狂姫はそれを避け、再び矢を番えては撃つが、同じようにエリュトロンDには当たらない。

 狂姫が人間だった頃、狂姫は『先弓』という異名を持った弓の名手だった。それは魔化魍となった今でも健在なのだが、相手が悪かった。

 

 狂姫と相対するこのエリュトロンD。

 それは複数の犬と無名の獣の魔化魍を合成させて誕生した脳見 潘の実験体のひとつだ。嗅覚に優れた犬と危機感知に特化した獣の魔化魍の特徴を持ったこの実験体は、狂姫の放った矢の僅かな空気の流れを体毛で感じ取り、矢を避けているのだ。

 

狂姫

【どうにかして動きを封じなければ】

 

 狂姫には嫉妬の矢という不可避の矢があるが、あれは対象が女性(・・)のみに使用できる矢で、エリュトロンDは実際は不明だが、おそらく性別はオスだろう。

 故に狂姫は嫉妬の矢とは別のなにかでエリュトロンDの自慢の回避力を削って攻撃出来るなにかが必要だった。

 

ヴヴヴヴヴヴ

 

 エリュトロンDは狂姫に考える時間は与えないと言わんばかりに、その背から大量の赤い触手を生やし狂姫を捕まえようと勢いよく伸ばす。

 それに対して狂姫は矢の1本を振って、迫る触手を矢で切り裂いていく。

 

 だがエリュトロンDは斬られた触手を再生させて更に手数を増やし、狂姫を捕まえようとする。

 狂姫は触手を斬り裂きながら思う。自分を捕まえて良いのは愛する者(荒夜)だけだ。犬畜生モドキにこの身体を触れさせない(・・・・・・)

 

 すると、狂姫の持つ矢が鈍く光り始める。

 それを見た狂姫は思い出す。自分が嫉妬の矢を手に入れた経緯を、あの時は荒夜に無理矢理迫る勘違いのメスをどうにかしようとした時、嫉妬の矢が生れた。

 

狂姫

【(これに賭ける!!)】

 

 その時のことを思い出した狂姫は手に持つ矢を弓に番え、構える。狙うはエリュトロンD………ではなく、その上空に向けて矢を放つ。

 

 天井に向けて勢いよく跳ぶ矢に目もくれずエリュトロンDは狂姫を噛みつこうと飛び掛かる。すると–––

 

ヴヴヴヴヴヴッッ

 

 飛び掛かろうとしたエリュトロンDの裂けた右の頭部に矢が刺さる。

 

ヴヴヴヴヴヴ

 

 背中の触手を使い、エリュトロンDは刺さった矢を抜こうとすると、今度は違う別の矢がエリュトロンDの後脚に刺さる。

 そして、エリュトロンDが上に目を向けると、大量の矢が自分目掛けて飛んでくる光景だった。

 

 愛する者(荒夜)以外に触れられたく無いという狂姫の拒絶の願いから生まれたこの矢。

 さしずめ、拒絶の矢は、狙って撃つ矢ではなく、上空に向けて放つ。すると矢を中心とした半径10M内で数十もの矢に分裂し、一気に敵に雨のように降り注ぐ矢。

 

 エリュトロンDはそれを見て避けようとするも、狂姫が別の矢を撃ち、エリュトロンDの回避力を潰す。

 上空から降り注ぐ矢と直線で迫る矢によって空気の流れを探知出来なくなり、次々とエリュトロンDのその身体に矢が突き刺さっていく。

 

狂姫

【勝った………!!】

 

 やがて矢の雨は止み、矢で串刺しとなり活動を停止したエリュトロンDを狂姫が見ると–––

 

狂姫

【溶けていく】

 

 エリュトロンDの矢の突き刺さった身体の至る所から白煙を上げながらその身を溶かし、その姿は影も形もなくなり、残った矢も床に刺さると塵のように消えていき、1本の矢だけが残った。

 憎い敵の生み出した化け物でも哀れに思ったのか狂姫はエリュトロンDのいた場所に手を合わせ、死んだエリュトロンDの良き来世を願った。

 狂姫がエリュトロンDに勝利した中、荒夜のところでは–––

 

SIDEOUT

 

 

SIDE荒夜

 美岬と狂姫のいる地下とは違う部屋で戦う荒夜は、人にテングの首を無理矢理縫い合わせたメランCと戦っていた。

 

カカカカカー

 

荒夜

【はっ!!】

 

 荒夜の愛刀とメランCの拳がぶつかり合う。

 羽根で覆われたメランCの拳は荒夜の刀と斬り合っても斬れず、むしろ刀を折ろうと刀に連続で拳を打ち続ける。

 

荒夜

【チッ!!】

 

 刀に夢中なメランCの腹に荒夜は腰の鞘を振るう。

 

カカカカッ

 

 腹への強打にメランCは拳を引っ込ませて当てられた部分を摩るが痛みで摩るというよりまるで汚れを払うかのように摩っている。

 荒夜は何度か打ち合っている中でメランCの異常な頑丈さに目がいった。

 

 荒夜の持つ刀 心討(しんうち)は『煉獄の園(パーガトリー・エデン)』の主である鬼崎 陽太郎が荒夜の折れた刀を基に生み出した刀だ。

 本来なら脳見 潘の生み出した実験体などすぐさま切り捨てることが出来るのだが–––

 

荒夜

【(あの異様なほどの硬さ……‥まさか!?)】

 

 荒夜は何かを確認するかのようにメランCに刀を振り下ろす。

 だが刀はメランCの羽根に覆われた身体に阻まれる。

 

荒夜

【はっ!!】

 

 荒夜は刀を羽根の一部を撫でるように斬り裂き、斬れた羽根を掴み、その羽根を近くで見たことにより、メランCの頑丈さの理由が分かった。

 

荒夜

【(やはりグヒンか!)】

 

 グヒン。

 狼のような体躯でありながら毛ではなく羽根を生やし、マズル部分が嘴になっている狼の魔化魍。

 ヤドウカイの空属性の亜種であるハクロウテングから進化した派生特種で、ヤドウカイ種のような素早さと空を飛ぶ飛翔能力、そして物理に対する防御能力が極めて高い魔化魍だ。

 その理由は、『風遊び』という能力が関係している。

 『風遊び』とはグヒンの固有能力である風を操る能力によって自身の羽根に風を纏わせて、纏わせた風が空気の層を形成し、物理的な攻撃をその空気の層が軽減し、たとえ空気の層が割れたとしても周りにある大量の空気を再び取り込んで空気の層を作り直す。

 それ故にグヒンは音撃弦系統の武器や貫通能力を持った魔化魍や武具でしか倒すことが出来ない強力な魔化魍だ。

 

 つまり頑丈さの理由はどうやったのか不明だが、グヒンの『風遊び』が羽根に使われており、羽根によって斬撃による傷を軽減しているという事だ。だがそれならば倒す術はある。

 

 あれを試してみるか。

 荒夜はそう考えると腰にある鞘ではなくもうひとつの小太刀を抜く。

 

 その小太刀は異世界からの来訪者である幽霊族の末裔 幽吾の仲間のかまいたちから貰った刃を単凍に頼んで加工してもらい鍛造したもの。

 本来、単凍の造る武器には魂を用いるのだが、この小太刀には魂は無い。だが、それの代わりになるものがあるお陰でこの小太刀も単凍の造り出した他の武器同様に能力を持っている。

 魚呪刀とは違う小太刀。その名も風鼬(かざいたち)刀身から風を生む能力を持つ荒夜専用の小太刀だ。

 爽やかな風を思わせる黄緑色の細直刃の風鼬(かざいたち)の刀身に風が風巻(しま)き、反対の心討(しんうち)を回転させて熱を持った心討(しんうち)を鞘に納める。

 メランCは拳を握り、勢いよく走り出して荒夜の顔にストレートを放つ。

 

荒夜

煉獄旋閃(れんごくせんせん)

 

 熱を帯びた心討(しんうち)から繰り出される煉獄一閃(れんごくいっせん)と共に刀身が風に包まれた風鼬(かざいたち)の一閃が重なり、その一閃はメランCのストレートを繰り出す腕を斬り、そのまま腹部に横一文字の深い裂傷を作りだす。

 

カカカカカ

 

 腕が斬られ、腹部に深い傷もある筈のメランCは荒夜を嘲笑う声を上げる。

 脳見 潘の手によって生み出されたメランCは極端に痛覚が鈍くなるようにされている。

 打撃や斬撃による物理的な傷を軽減させるグヒンの羽根の身体によって相手に疲労を蓄積させる継戦能力を持つメランCは荒夜の攻撃による傷は蚊に刺されたようなものだ。

 メランCは斬られてない反対の拳を握り締め、荒夜に向かって走った瞬間–––

 

カカ、カカーーーー

 

 裂傷から炎が噴き出る。メランCは突然の現象に驚き、急いで手で消そうとするが。

 

カカーーーーー

 

 炎が風に吹かれたかのように勢いがつき、そのまま腹から全身に炎が回る。

 

 煉獄旋閃

 煉獄重閃(れんごくじゅうせん)同様にいつか再び相間見えるだろう陽太郎との戦いの為に編み出した技。

 だがこの技は幽吾の仲間のかまいたちとの訓練で偶然生み出した技だ。荒夜の煉獄一閃とかまいたちの風の斬撃が合わさり火災旋風にも似た状況を生み出した。

 その光景から新たな技になると判断した荒夜がかまいたちとの協力の末に技を体得するが、この技を使用するには刀が2振り必要だった。

 だが、かまいたちが元の世界に戻る際に自身の刃を託し、それを譲り受けた荒夜は単凍に頼んで小太刀にして貰った。

 

 そんな経緯で生み出されたこの技によってメランCの身体は徐々に端から炭化していく。

 

カ、カカ………

 

 何かに手を伸ばすかのように燃えながらメランCの身体は前のめりに倒れ、それでも何かに伸ばしていた手はボロっと崩れ、身体も所々が崩れ落ちていく。

 

荒夜

【…………かまいたち殿。貴殿のお陰で勝利できた。

 此処から届くが分からないが、感謝する】

 

 荒夜はメランCを一瞥すると手にした風鼬を眺め、元の世界に戻ったかまいたちに届くか分からないが感謝の言葉を述べた。

 荒夜がメランCは消し炭にした最中–––

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 美岬は、結晶人間と呼称するSカトプトロンの猛攻を防いでいた。

 一定の離れた距離では結晶の散弾、近付けばその鋭い三角錐状の腕と脚による連続刺突攻撃。それらの攻撃を美岬は堅鯨(けいげい)を巧みに操って致命的な傷を防ぐ。

 

ギギ

 

 堅鯨(けいげい)は斬馬刀の形状をした美岬の持つ魚呪刀の中ではトップクラスのサイズと重量を誇る魚呪刀だ。

 扱いの難しさもあるが、そもそも単体の敵に対して使う刀ではない。だが他の魚呪刀には無いその能力故に美岬は刀を変えることが出来なかった。

 その力は、刀を所持してる間、物理的なダメージを無効化するという物理的な攻撃に対しては絶対的な防御力を発揮する。

 

 だがその力はこの刀を手にしている間のみであり、この刀とは違う刀に換装した瞬間、能力の効果は切れ、Sカトプトロンの攻撃を防ぐ術を失う。

 それが分かっているからこそ、美岬は刀を変えずに不利な戦いを強いられてるのだ。

 

 脳見 潘。

 あの男の存在は過去の私を殴り飛ばしたいと思う汚点。いや黒歴史とも言えるだろう。何故なら、あの男が猛士に入ったキッカケは他ならぬ()だからだ。世送から死んだと聞かされたが、それはありえないと思った。

 それは、私はあの男を既に2回も殺しているからだ。

 

 2回だ。1回ではなく2回。本来ならひとつだけの筈の人間の命。

 だが、あの男は私が最初に殺した3日後に無傷の状態で現れた。それに恐怖した私はあの男の首を斬り落とした。最初は違ったが、首を落とせば生物なら死ぬ筈だ。

 だがあの男は最初に殺した時と同じように3日後に落としたはずの首を付けて現れた。

 

 私は今度こそあの男を殺そうとしたが、それを遮るように複数の実験体が盾となってあの男は逃げた。

 

 そして今日、私はあの男と会った。

 最初に会った時から変わらない灰色の三つ揃えと丸縁の眼鏡を掛けて。

 

 そんな過去を思い出しながらも私は目の前の結晶人間の相手をする。

 その姿から元が人間とはとても思えない。あの男の実験体の素体は大抵人間、稀にただの動物も有るが基本は人間だ。

 ホームレスから上級家庭の金持ちの人間、障害持ちから健康的な肉体、赤ん坊から老人の老若男女問わずにあの男は自分の駒となるように洗脳し、才能があれば鬼として育て、才能のないものは素体として実験に掛けられる。

 

 物理の無効化と言っても、何が起きるか分からない戦いにおいて、油断は自らを殺す。

 結晶人間が飛び掛かるように両腕を突き出し、私はそれに合わせて峰で流し、そのまま峰を奴の頭に向けてスイングする。

 

 ヒビの入った音と共にSカトプトロンは壁に叩きつけられ、そのまま壁に沿ってズルっと倒れる。

 だが、あの男の実験体は確実に倒したという確証がない限り油断はできない。

 

ギギギギギ

 

 すると、声を上げながら壁に手を付けながら起き上がり、壁から手を離す。

 ヒビの入った特徴的な頭が目立つも、そこ以外に傷はなく、その身体を私に向けて腕を交差させる。

 また結晶の散弾かと、堅鯨(けいげい)を構え身構えるも、急に糸の切れた人形のように動きを止め、腕を下におろす。怪訝な表情を浮かべ、敵を注視してると–––

 

「ギギ………オレヲ…」

 

美岬

【!?】

 

「オレヲ、コロ、シテクレ!!」

 

 美岬の峰の一撃が偶然頭に当たり、それが原因か結晶人間ことSカトプトロンは消えた筈の人間としての意識を取り戻した。だが、それはほんの少しの間の奇跡のようなもの。それが分かっているのかSカトプトロンは意識のある内に自身の殺害を目の前の美岬に懇願する。

 

 元は普通の日常を生きてきたただの人間なのだろう。

 だがあの()に目を付けられて、その日常はなくなった。だからせめて–––

 

美岬

【その願い聞き届けた………ならば、人としてお前を殺して(救って)あげる】

 

 美岬は手にした堅鯨(けいげい)を天に向けて構える。

 堅鯨(けいげい)の刀身から迸る強大なエネルギーは刀身を包み鯨の如き巨大な刃へと変わる。

 

美岬

巨鯨轢圧斬(きょげいれきあつざん)!!】

 

 美岬の放った斬撃は残された僅かな人間としての意識で動きを止めるSカトプトロンの身体へ振り下ろされる。

 

ギ、ギギ、ギギ

 

 美岬の渾身の一太刀を受けたSカトプトロンの身体はひび割れ、端からガラガラと崩れていくSカトプトロン。

 崩れていく中でSカトプトロンと視線が合う。既に身体の半分も崩れ、言葉を話せないSカトプトロン。だが、美岬の見開かれたその目には確かに見えた。

 『ありがとう』と感謝の言葉を告げる青年の姿が、その姿が消えると残りの半分も砕けて、床には砕けた大量の結晶が積み重なっていた。

 

美岬

【……………】

 

 それを見た美岬は手を合わせ潘の消えた場所を一瞥し、荒夜と狂姫を連れて他の班へと合流する為に地上へ繋がる階段を歩くのだった。




如何でしたでしょうか?
最後の1班は次の静岡支部との話に併せて出します。
エリュトロンDは赤の犬、Sカトプトロンは銀の鏡を英語とギリシャ語で考え、でメランCは黒い鴉をギリシャ語で訳しました。
モデルとしてはエリュトロンDは某ゾンビゲームの頭と上半身が半分になるヤツ、メランCは某運命の亜種特異点に出てくる72柱、Sカトプトロンは某筋肉男の王位争奪戦の結晶男(あの必殺技を撃たない)です。
それと大変個人的なことですが、感想ください。

ーおまけー
迷家
【お。お。お待たせ。おまけコーナーの時間だゼ!】

迷家
【早速本日のゲストの紹介だゼ!!】

「迷家? ドウシタンデス。ソノ喋リ方ハ?」

迷家
【今日のゲストはヤマビコの妖姫で羅殴の親、黒だゼ。質問の答えは今日の気分だゼ!!】

「気分? マア、ソコハイイデショウ。デ、此処ハドコ?」

迷家
【おっと、そうだったゼ。此処はおまけコーナー。
 僕がゲストに質問するとこだゼ】

「質問カ? デ、何ガ聞キタイノ?」

迷家
【話が早いから助けるゼ。そうだな……………お、そうだ。
 最近、春詠やあぐりと一緒に何かしてるみたいだが、何してるんだゼ?】

「? …………アア、アレカ。イヤ、大シタコトジャナイノデスガ……」

迷家
【いいから。いいから教えてくれだゼ】

「……ハアー。春詠トあぐりニハ私ノ言葉ノ勉強ニ協力シテ貰ッテイル」

迷家
【なんでだゼ?】

「……………笑ワナイデスカ?」

迷家
【ちょっとやそっとじゃ僕は笑わないゼ。教えてくれだゼ】

「………王ト」

迷家
【王と?】

「普通ニ喋リタインダ」

迷家
【普通に喋るって、黒は王と喋ってるゼ。どういう意味だゼ】

「私ハ人ノ名前ト漢字ダケ普通ニ発音出来ルガ、ソレ以外ハ片言ニナッテイル」

迷家
【おお、そういえば】

「ソレガ、偶ニ王ニハ聞キ取リズライミタイデ、私ハ王ト普通ノ会話出来ルヨウニナリタイ。
 ダカラ、春詠ヤあぐりニ頼ンデ正シイ会話ガ出来ルヨウ勉強シテル」

迷家
【ほお〜。なあ、その勉強でどれくらい喋れるようになったんだゼ? 僕は聞きたいゼ】

「少シダケナラ。ウ、ウ。ウウン。
 こんな感ジで、少シは喋レるようニナッた」

迷家
【おお!! 凄いゼ。途中途中ちょっと片言が混じってたけど、喋れてたゼ】

「デモ、マダマダ練習ヲシナイト」

迷家
【大丈夫だゼ。黒ならきっと普通に喋れるようになる筈だゼ】

「アリガトウ」

迷家
【おっと、そろそろ時間だゼ。
 じゃ、次回のおまけコーナーもよろしくだゼ!! ばいばいだゼ】

「ソレデハ」

迷家
【…………………はあ〜駄目。もう無理この喋り方、やっぱり普通に喋った方が楽だよ♫】

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