人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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こんばんは。
今回の話は残った『鳥獣蟲同盟』の登場とふたつの襲撃される支部の長野支部での戦闘回(前半)です。
そして、幽冥のちょっとした話も出ます。


記録百玖

「ただいま戻った!!」

 

 そんな声とともに扉が勢いよく開き、中に入ってくる複数の人影。

 だが、扉を潜るとその姿を本来の魔化魍の姿へと変える。

 

 最初に姿を現したのは、触肢先が魚の鰭の形をした鎌で鮫の顔と背鰭を持った暗緑色の蠍の魔化魍だ。

 

【お帰りワイラ。幼体の子供たちは無事に逃がせたかニャ?】

 

【ああ、追手の鬼はそこまでいなかったからな。

 軽く蹴散らして、逃げ切れたよ】

 

 次に出てきたのは、稲妻の形をした特徴的な嘴に電気を纏った大きな翼を持つ鷲の魔化魍がその翼を羽ばたかせながらネコショウの元に飛んでいく。

 

【ネコショウ〜僕も無銘だけど鬼をかなり倒したよ】

 

【そうかニャ。ライチョウ、良くやったニャ】

 

 頬を撫でられて褒められたライチョウは、ネコショウから離れて後ろから歩いてきた人影の方へと飛び、その肩に止まる。

 山吹色の三つ編みの上にキャップを被り、首には銀のホイッスルをぶら下げ、傷んだような印象をもたせるダメージシャツの上に、無理矢理引きちぎったような片方の袖がない長袖の上ジャージを着て、上と同じ印象のあるダメージジーンズのような下ジャージを履き、赤のラインが入ったスポーツシューズを履いた女性。

 

「ネコショウ。今帰ったよ」

 

【お帰りだニャ】

 

 まあ、魔化魍の餌とかではなくライチョウの育ての親であるライチョウの妖姫だろう。今まで見てきた妖姫の中で最もアウトドアタイプというイメージだ。因みに黒は2番目くらいかな。

 

【ただいま〜………………え〜私には挨拶なし。差別だね、うん。クダン委員会に言いつけるよ〜】

 

 そんな妖姫の腕に抱えられて喋るのは某低予算勇者ドラマに出てきそうな顔をした仔牛の魔化魍。

 

【なに、そのクダン委員会って? 勝手に変な言葉作るな!!】

 

【あ、返事きた。私嬉しい。無視されなかったからクダン委員会へ言いつけるのは止めるよ〜】

 

【はいはい。はあ〜、面倒臭い】

 

 シュチュウは心底面倒臭いと言わんばかりのため息を吐く。

 

【王にも紹介出来てなかった仲間を紹介するニャ。

 右からワイラ、ライチョウ、ライチョウの姫、クダンだニャ】

 

 ネコショウの紹介が終わると仔牛の魔化魍の目線が私と合う。

 

【お? おお〜貴女が王ですね!!

 私はクダン。うん。宜しく】

 

 妖姫の腕から飛び出して私の側まで来ると自己紹介をする。

 

【初めましてワイラです。噂の王に会えて嬉しいです】

 

【僕はライチョウ。こんにちは王様】

 

「私はライチョウの妖姫です」

 

 クダンの挨拶を皮切りに残りの魔化魍と妖姫も自己紹介する。

 

 

 

 

 

 

 自己紹介も終わり『鳥獣蟲同盟』の魔化魍が揃ったことで改めて今回襲撃を掛ける猛士の支部への編成を私は考えるのだった。

 しかし、幽冥は悩んでいた。

 

 自分の家族の力は良く知っているし、『鳥獣蟲同盟』の魔化魍たちからもどのようなことが出来るのかも聞いている。だからこそ悩んでいる。

 

 幽冥が編成で悩むのは珍しいことだ。普段は謎の直感が働き、それで決めている。この世界に転生してからこの直感には何度も助けられている。

 

 狗威 朧ことヤドウカイと出会った時も。

 

 この世界の両親から逃げて今の家族に会う時も。

 

 この世界では姉へと変わった前世の兄の時も。

 

 猛士九州地方支部襲撃の編成を決めた時も。

 

 全てこの謎の直感に従って行動した結果で幽冥にとって良いことが起きている。

 しかし、その直感は何故かここ最近働かないのだ。何が原因なのかと考えても仕方ない。だからこそ今までの戦いの経験から編成を考えていた。

 

【悩んでる、悩んでますね王よ。戦いの編成をそこで、如何でしょう。

 私がその編成の『お告げ』をしちゃいましょうか?】

 

 いつから居たのか目の前にいたクダンがそう言うと、その言葉を聞いた『鳥獣蟲同盟』からは何かどんよりとした暗い空気が流れてくる。

 

【えっと、王。クダンの『お告げ』はやめた方がいいですよ】

 

 そんな空気の中で忠告するかのようにワイラが口を開く。

 

「でも、その『お告げ』は興味があるし、『お告げ』お願いしようかな」

 

【はいはい。ではでは〜】

 

 私の言葉に嬉しそうな様子を見せて移動するクダンと、ますますどんよりした空気を流す『鳥獣蟲同盟』の魔化魍たち。

 クダンの『お告げ』が気になった本当のことだし、いつもの直感が働かない初めての編成の不安もある。それにクダンの言う『お告げ』は、おそらく私の世界でも件の伝承として言われる『予知』のことの筈だ。

 ここのクダンはどういう魔化魍かは知らないが、私の知る件のようにその数はかなり少ないのだろう。緑や古樹は会ったことがあるらしいが、このクダンとは別のクダンだったらしい。

 

【うーーーーーん】

 

 クダンは丸く座り込んで、唸り始める。

 

【始まったよ〜】

 

 その様子を見たライチョウがウンザリと言いそうな声であげるが聞こえていないのかクダンは口を開き、『お告げ』を告げる。

 

【え〜〜。編成はね。うん。うん。

 武器を使える者を長野へ、特殊な力を使える者を静岡へ連れて行った方がいいよ。うん。

 長野ではね人魚は嫌な再会をするかもね〜。

 あ、でもね。でもねえ〜王はね静岡に行くべき、うん。クダン的に言うとね、そこでね出会いがあるからね。あ! でも男女の出会いじゃないからね。

 この先のあることでの出会い、行くなら断然静岡。

 それと猫はお留守番。実力は今見せちゃダメだね〜。支部で見せると、展開的に危ないね。爆発3秒前って感じ、だから猫は留守番。そうだね角馬と蠍2匹、傘、若い樹木、古い樹木、布の龍、蟷螂、電気鳥と捕虜と留守番すればヨシ!!

 うん………ええっとこんな感じ】

 

「………あ、ありがとうねクダン」

 

 クダンのありがたい『お告げ』(?)も聞き幽冥は感謝の言葉をクダンに告げて、『お告げ』の内容を加味して襲撃メンバーの編成をするのだった。

 

SIDE長野支部

 猛士中部地方長野支部。

 中部地方支部の中でも狼鬼のいる岐阜支部に次ぐ魔化魍討伐率が高い支部だ。

 過激派の2大看板ともいえる狼鬼の弟子の1人が支部長を務めている。

 

「平和ですね〜」

 

 そんな支部の中でのんびりとお茶を飲むこの女性こそ狼鬼の弟子でありこの長野支部の支部長である浜 なたね。腕には変身鬼弦が巻かれており、そのことから鬼でもあることが分かる。

 そんな彼女は久々のお茶に心を安らげていた。一定の魔化魍を討伐した際に自分のご褒美として飲むもので、師である狼鬼から贈られた静岡産の最高級茶葉から淹れたお茶。日頃の鬼として、支部長としてのストレスから解放される彼女の唯一の楽しみと言っても過言ではない。

 だが、そんなのんびりとしたお茶の時間も–––

 

「…………」

 

 たったひとつの轟音と衝撃によって終わるのだった。

 落としてしまった愛用の茶器は机の上で砕け、中身は彼女の顔に掛かり、ポタポタと垂れていく。

 

「支部長!! 魔化魍の襲撃で、し、支部長大丈夫ですか!?」

 

 慌てて入ってきた長野支部の角である蒸鬼は支部長の状況に心配そうな声を出すが、部下の声を無視して浜は側に置いてある手拭いで自分の顔にぶち撒けられたお茶を拭き、拭いた手拭いを無造作に机の上に放り投げる。

 

「……ぐ………あ……」

 

「え? ひぃ」

 

 浜の声が聞こえなかった蒸鬼はなにを言ったのか聞こうとしたが、それを止める。

 

「ビチグソどもがぁああ!!」

 

 それは先程まで穏やかな顔をしていた女性とは思えないほど歪んだ顔と言葉だった。

 

「蒸鬼、長野支部の総力を持ってクズ(魔化魍)の殲滅を始めなさい。

 塵ひとつ、奴らの痕跡を残さずに消し去れぇぇぇ!!」

 

「は、はい!!」

 

 唯一の楽しみを邪魔された浜は日頃のストレスと今の状況によってストレスが爆発してしまった。

 支部長である浜の言葉を聞いた蒸鬼は扉から急いで出て行き、連絡用のディスクアニマルを使い長野支部にいる全ての戦力に魔化魍殲滅の指示を飛ばす。

 そんな外では–––

 

 

 

 

 

 

 長野支部の建物に続く大門。いや、今では門らしき残骸がある場所では、クダンこと予言の『お告げ』を基に幽冥が襲撃を編成した家族が大門で門番をしていた無銘の鬼と天狗と戦っていた。

 

 既に無銘の鬼は何人かは流れた血で出来た血の池に倒れていた。

 

「ぐばっ……」

 

 無銘を斬り伏せる2つの影。

 

単凍

【話にならないな】

 

焼腕

【もう少し歯応えというか斬り甲斐のある奴はいないものか】

 

 単凍と焼腕という名を王から授かったイッポンダタラの兄弟コンビだ。

 

「背後からなら」 「ああ、仲間の仇を……」

 

 そんな単凍たちを狙う無銘の鬼の2人は横からきた轟音とともにバラバラの肉塊に変わる。

 

不動

【2人の邪魔はさせん】

 

 不動の砲撃、単凍と焼腕のコンビネーションによって、ものの数分で大門周辺の敵勢力を排除され、単凍たちは次の行動に移る。

 『お告げ』を聞いた幽冥が考えた3班に分かれて長野支部に向かうのだった。

 

 正面から敵に向かう班の単凍、不動、焼腕、黄。

 

 対奇襲撃退班の常闇、劔、緑。

 

 長野支部への侵入班の美岬、荒夜、狂姫。

 

 『お告げ』と今までの経験で決めた班に分かれた3つの班は行動を始める。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE単凍

 長野支部へ続く一本道。

 そこを堂々と歩く4つの影があった。

 

単凍

【気付いてるか?】

 

不動

【ああ】

 

「ええ。相当な人数が居ますね」

 

焼腕

【油断もせずに容赦なくいこうか!!】

 

 単凍たちの視線の先には多くの鬼と天狗、天狗の操る戦輪獣。

 そして、その中央で仁王立ちする者がいた。

 

「待っていたよ魔化魍!!」

 

 その者こそこの長野支部の支部長こと浜 なたね。

 

「貴様らがどんな目的でのこの長野支部に来たのか理由は興味ない。

 魔化魍はただ殲滅するのみ。貴様らクズども一片の欠けらも残さずに滅ぼしてくれる」

 

 浜はそう言うと、手に巻く変身鬼弦 植時を掻き鳴らす。

 

「植鬼!!」

 

 その音ともに浜の身体を地面から伸びた蔓が覆い隠し、蔓から飛び出たひとつの腕が蔓を薙ぎ払う。

 

 そこから出たのは浜 なたねの鬼としての姿。

 蔓が巻かれた特徴的な鬼面、新緑色に縁取りされた頭部、鬼面のように蔓が巻かれた一本角が額から伸び、腕や脚にも蔓の巻かれた鎧を持った鬼 植鬼へと姿を変える。

 姿を変えた植鬼の背後に控えていた鬼が植鬼の音撃武器を手渡し、戦闘準備完了とばかりにその手の音撃武器の刃先を単凍たちに向ける。

 

単凍

【これだけの人数が居るのなら試し(・・)に丁度いいな】

 

焼腕

【黄、以前渡したヤツのテストは?】

 

「まだだね。性能テストにはピッタリだね」

 

不動

【では、邪魔な天狗と戦輪獣はワタシが相手しよう】

 

 それを見た単凍たちは各々の武器を目の前の植鬼率いる鬼&天狗軍団に向ける。

 

単凍、焼腕

【【さあ、掛かってこい!!】】

 

 その言葉とともに戦いが始まった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE劔

 俺が王の家族となってから初めての大規模な戦いだ。

 荒夜との戦いで負けたあの日から俺は自らを鍛え続けた。

 

 本気の姿になって荒夜に負けたのは、己の弱さもあるだろう。だが、あの時の敗因の何よりの理由は慢心だ。

 心のどこかで俺は慢心していた。

 

 この日本に来る前は、刺馬と共に故郷のイギリスで己と同じ強さの魔化魍とも何度も戦ってきた。

 その経験が自信が俺の慢心へと変わった。

 

 そんな慢心を捨てるために俺は自らの武器を封じて、様々な鍛錬を知る常闇に師事して貰い、己にあらゆる修行を課した。

 

 そんな中での今回の事件で、常闇は『己の力量を見る良い機会だ』と言い、『本来の姿は禁止』と言い渡され、更には今回の鬼との戦いにおいては手を出さないと言った。

 さて、そんな俺たちの目的は正面から堂々と敵陣に向かう単凍たちを不意打ちしようとする輩の妨害または排除だ。

 

 普段だったら俺は騎士道に反すると言うだろうが、『戦争に綺麗も汚いもなかろう』と常闇の一言が刺さった。

 

 そうだ。己の生存の懸かった戦いに卑怯もない。

 此処で死ねば誰があの子(刺馬)を守るのだ。

 

 そして、劔は背中の翼を広げて己の眼に映る単凍たちに不意打ちを掛けようとする鬼たちに攻撃を仕掛ける。

 

「うぐっ」 「ぎえぴっ」

 

 上空からの劔の攻撃に対応できず無銘の鬼の首が宙に舞う。

 

【不意打ちを掛けるということは、逆に自分たちが不意打ちされる事も理解しているよな】

 

 翼を羽ばたかせながら上から残った鬼たちに言葉を掛ける。

 

「魔化魍如きに不意打ちで殺されるのはそいつらが未熟だからだ」

 

 だが、鬼は劔の言葉に対し、死んだのは死んだ鬼の未熟と答える。その鬼の答えに他の鬼たちも嘲笑で答える。

 これには劔も驚く。人間は他者を思いやる心を持つと昔、ある魔化魍から教えられた。だが、鬼たちはそんなことをせず死者を嘲笑う。

 しかし、劔はその解答でやはり心の何処かに僅かに残っていた自身の騎士道に反する考えを振り払った。

 

【良かったよ】

 

「ああ?」

 

【貴様らのような外道に俺の騎士道は必要ないな。外道はその身に相応しい地獄に送ってやるよ】

 

 愛剣を構えた劔は外道()の首を斬るために天を駆けた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE美岬

 単凍の班と劔の班が交戦した同時刻。

 美岬たちは狂姫の術を利用して長野支部のある建物の裏口側に到着する。

 

狂姫

【美岬様着きました】

 

美岬

【ありがとう狂姫】

 

荒夜

【やけに静かですね】

 

美岬

【それはつまり、単凍たちが上手く敵を引き寄せたんでしょうね】

 

 美岬の言う通り、今この長野支部の鬼や天狗などのほとんどの戦力が単凍や劔のいる場所に向かったので、支部内には戦力はないと言ってもいいだろう。美岬は裏口の扉に手を掛けるが–––

 

美岬

【流石に鍵は掛かってるよね】

 

荒夜

【美岬様、離れてください】

 

 荒夜がそう言うと刀を抜き、扉鍵部分の斬り落として扉を開ける。

 

美岬

【ありがとう荒夜。じゃあいくよ】

 

荒夜、狂姫

【【はい!】】

 

 美岬は荒夜と狂姫を連れて長野支部の中に入った。

 

 

 

 

 

 

 誰も居ない長野支部は明かりは落とされて全体的に暗くなっている。

 そんな無人の長野支部に侵入した美岬たちは長野支部の地下へ通じる入り口を探していた。

 

 幸いにも地下の入り口自体はそんな時間を掛けることもなくすぐ見つかった。そして、そのまま美岬たちは地下へ向かう。

 

 上よりもさらに暗い階段を降りていく美岬たちは無人のはずでする必要もない警戒をしながら歩く。

 そして、階段からやがて大きな扉のある空間になり、美岬は何の迷いもなく扉を開け、中に入る。

 さて何故、美岬や荒夜、狂姫が無人と化し、戦力が居ないとされるこの侵入班にされた地下などへ向かうのか。その理由は–––

 

「おやおや、この場所に何か用かね? 魔化魍くん」

 

 入った部屋の奥にひとつの影が立っている。

 灰色の三つ揃えを着て、丸縁の眼鏡を掛けた少し膨よかな男が立っている。

 

美岬

【やはり、生きていたのか脳見 潘!!】

 

 元猛士九州地方佐賀支部支部長 脳見 潘。

 かつてコソデノテの孫である雛の誘拐を目論み、世送が佐賀支部襲撃の際に死んだとされる男が美岬たちの前に立っていた。そして、クダンこと予言の『お告げ』が嫌な方向で的中したことに美岬は苦虫を噛み潰したよう顔をした。

 

「おお、その声はヤオビクニくんではないか。元気にしていたか?」

 

美岬

【乱風が死んだと言っていたけど、お前がそんな簡単に死ぬ筈はないと思っていた】

 

「信用されているようで私は嬉しいよヤオビクニくん」

 

美岬

【お前に喜ばれても私は全然嬉しくないよ】

 

 潘はまるで美岬を知っているかのように話すが、勿論理由がある。

 何故なら、脳見 潘が猛士に入るキッカケになったのは他でもない美岬が関わっている。この話は語ると長くなるため2人が知り合う理由については別の機会で話すとしよう。

 

「ヤオビクニくんは王の家族となった聞いているし、なら、この支部の壊滅は間違いなさそうだな。

 此処にいて死ぬのはごめんだから、私は引き上げさせて貰うよ」

 

美岬

【私たちが逃すと思う】

 

「もちろん逃がさせて貰うよ。それに迎えも来た」

 

狂姫

【迎え?】

 

荒夜

【!? 姫!!】

 

 荒夜は声を荒げて、狂姫の側に寄ると空を刀で斬り裂く。何もないはずの宙からツーと血が流れてくる。そこから姿を現すのは、黒いローブで姿を隠した何か。

 

【俺に気付くとは、中々やるな】

 

 だが、人間でないのは明白だ。その斬られたローブの中から見えるのは銀に近い白い毛に覆われた腕だったからだ。つまり現れたのは魔化魍だ。

 

「おお、来たか同志よ」

 

美岬

【同志!!】

 

 この男の言った言葉に美岬は驚く。なんとこの男は敵である筈の魔化魍に対して同志と言ったのだ。

 魔化魍を敵対視する筈の猛士では考えられないセリフだ。だが、潘のことを多少なりとも知っていた美岬は気付いた。この男は猛士としての魔化魍からの脅威から人々を守る気などハナから無いのだ。

 自分の好奇心の為に動く、人道を外れたバケモノ。それが脳見 潘なのだ。

 

「では私は行くよ。おっと、君たちの相手はコイツらに頼むとしよう」

 

 潘が指をパチンとすると潘の背後から3つの異形が飛び出す。

 

「エリュトロンD、メランC、Sカトプトロン、そいつらと遊んでいたまえ」

 

【さっさと、行くぞ】

 

「おお、そうだな………ではまた会うのを楽しみにしているよ」

 

 そう言うと潘は現れた魔化魍に捕まり、その場から消える。

 

美岬

【待て!! クソ!!】

 

荒夜

【美岬様、今はヤツらを】

 

 美岬は藩を逃したことで顔を歪めるが、荒夜の言葉で意識を藩の残した実験体に向ける。

 此処で長野支部内で潘の残した3体の実験体と美岬たちの戦いが始まった。




如何でしたでしょうか?
さらにキャラの濃いメンバーの登場、そしてこれで長野支部の戦いが始まり、脳見 潘は生きていたと言う話でした。実は脳見 潘が生きているという話は前々から考えていてどこで出そうかな考えてたら、此処で出すことにしました。
次回の話で長野支部壊滅と静岡支部(前編)をやろうと思います。

ーおまけー
迷家
【えーーー。皆さんおまけコーナーの時間ですー♫】

ドクター
【では、早速解説といきたいとこですが………】


【どうしたんでやすか?】

ドクター
【どの個体の解説をするべきかと悩んでおりまして】

常闇
【確かにな】

サーティセブン
【でしたら、解説のお題を皆様に聞いてみては如何でしょう?】

ドクター
【そうですね。では、御三方。
 どのような魔化魍の過程を聞きたいですか?】

迷家
【僕はね〜ツクモガミ種以外なら何でも良いよ】

常闇
【ふむ、ならば私とは違う人型の魔化魍を聞きたい】


【そうでやすね。あっしと似た術を得意とする魔化魍を聞きたいでやす】

ドクター
【なるほど、ツクモガミ種以外の術を得意とする人型魔化魍ですか】

迷家
【えっと、難しかった?】

ドクター
【いいえ、何を解説するか決まりました】

常闇
【で、何を紹介するんだ?】

ドクター
【今回のお題で紹介するのは………
 ヤマビコ派生特種 サルユメです】

迷家
【サルユメ? 跳知ってる?】


【いや、あっしも知らないでやすね】

常闇
【私も知らん】

ドクター
【そうですよね。それがサルユメの特徴ともいうべきところでしょうか】

迷家
【どうゆうこと?】

ドクター
【そうですね。では皆さんは夢を見ますか?】

迷家
【僕はね、寝てると時々見るかな】

常闇
【あまり見たくないな。昔を思い出すからな】


【あっしもたまに見る程度でやすが、それがどうしたんでやすか?】

ドクター
【サルユメは夢の中でしか活動できない魔化魍なのです】

迷家
【え!! 夢の中だけ!!】


【何故、夢の中だけなんでやすか?】

ドクター
【まあ、夢の中だけと言いましたが正確に言うのなら9割は人の夢で1割は現実で過ごす魔化魍です】

迷家
【完全な夢の中というわけじゃないんだね】

ドクター
【そうです。と言ってもサルユメが現実で過ごすのは3ヶ月に1度だけで、時間も1時間だけです。因みにサルユメの姿は黒い霧に覆われて手に何かしらの拷問道具を持ち、梟の眼と翼を生やし、車掌帽を被って車掌服を着ているオラウータンの姿をした等身大魔化魍です。
 そもそもサルユメは黒の属性のヤマビコ亜種 ヤンボシという魔化魍の派生特種です】


【ヤンボシでやすか! それはまた珍しい名がでやしたね】

常闇
【ヤンボシ?】

ドクター
【ヤンボシは全身が黒い毛に覆われ口元に嘴を生やしたチンパンジーの魔化魍です。
 ヤンボシの条件はたしかは丑三つ時に山を出歩く妊婦を数名喰らった子を宿したヤマビコが富士の樹海の奥地にあるとされる廃村に赴き、そこで産まれる魔化魍です】

常闇
【何なのだその条件は?】

ドクター
【さあ、私も偶々ヤンボシが産まれる瞬間に立ち会った際に、そのヤンボシを産んだヤマビコから聞いた話を言っていますので、そのヤマビコ曰く、『子の安全を願って』とおっしゃっていました】


【子の安全でやすか】

ドクター
【では、話はサルユメに戻しましょう。
 亜種の魔化魍は条件を満たすか、偶然条件を満たすか、はたまたは突然変異かで産まれます。
 多くの亜種は突然変異で産まれるために、『属性違い』による育児放棄(ネグレクト)が有りますが、中には意図的に亜種として産む魔化魍もいます。そういう魔化魍は基本的に『子を想って』産むそうです。
 産まれた亜種も派生特種へと進化するのにも同じように条件を満たすか突然変異しなければなりません。サルユメはヤマビコの派生特種の中でも最も条件が厳しいでしょう】

迷家
【それでその条件って?】

ドクター                      迷家
【以前、私の治療所に来たサルユメから聞いた話によりm【ちょっと待って!!】、どうしました?】

迷家
【会ったことあるのサルユメに】

ドクター
【ええ。数年くらい前になりますか。ある病に罹ってしまい。その治療のために】


【ある病とは?】

ドクター
【そこは患者の個人情報になりますので話すことはできません。
 では、話を戻して条件の話に戻りましょう】

ドクター
【そういえばヤマビコたちはサルユメに至る方法を『夢入りの儀』というそうです。
 まずヤンボシひとりで黒の属性にあたる魔化魍5体、5つの決まった方法で殺します。どの黒の魔化魍でも良いらしいですが種が被るのは駄目で必ず異なる5種になります】


【いきなり物騒な条件でやすね】

常闇
【その5つの方法とは?】

ドクター
【『活け造り』、『抉り出し』、『吊し上げ』、『串刺し』、『挽肉』。これらの順番で魔化魍を殺し、その肉を全て喰らいます】

ドクター
【それぞれを説明しますと『活け造り』は魔化魍を死なないように解体して、足から上に向かって身体を喰べます。この際に心臓にたどり着くまでその魔化魍を死なせてはならない条件がつきます。
 『抉り出し』は生きてる魔化魍の臓器を抜き出して臓器を全て喰べ、臓器を喰べた後に残った身体を喰べます。
 『吊し上げ』は人工物を用いず、自然のものあるいは術で生み出した縄で魔化魍を吊るして首元を切り裂き、出てきた血を全て呑んでから身体を喰べます。
 『串刺し』はこれは生きていても死体でもどちらでも良いらしく、術で生み出した棘に魔化魍を突き刺し三日三晩掛けてその身体を喰べます。
 最後の『挽肉』は名の通りに魔化魍の身体を原型を残さないほどに粉々の挽肉(ミンチ)に変えて、その肉を用いた料理を喰べます。
 これが『夢入りの儀』の第一段階】

迷家
【『活け造り』って、最初だけ難しくない】

ドクター
【私にそう言われましても、おほん。
 で、次に人に化けたヤンボシは電車に乗ります】

迷家
【電車に乗るだけ?】

ドクター
【ええ乗ります。正確には電車に乗るのは儀の一部です。
 電車に乗ったヤンボシはどす黒く汚れた心を持った人間を男女比1:1で82名集めます】


【随分な数でやすね。それ程の人数ならば鬼に気づかれそうでやすが】

ドクター
【ヤンボシは認識阻害の能力を持っています。
 相当なヘマをしない限りは気付かれないでしょう。集めた人間の脳と心臓、生殖器を抜き取り、それらをひとつに纏めて作った肉団子を持ち、ヤンボシが産まれる富士の樹海奥地の廃村に向かいます。
 これが第二段階】


【抜き取られた人間の死体はどうなるんでやすか?】

ドクター
【死体は細かくバラした後に富士の樹海周辺に住まう魔化魍へと配られるそうです】

常闇
【何故死体を配る?】

ドクター
【富士の樹海周辺の魔化魍は遥か昔から生きた魔化魍が割と多くて、争いを避けるために人間の肉を配るんです。
 私もあそこに行く際には人間を幾つか用意しないと入れないんですよ】

常闇
【ほほう】

ドクター
【そして、最終段階。
 作った肉団子を廃村の奥にあるとされる奇妙な祭壇に置き、その祭壇の前でヤンボシはサルユメに至る為の(まじな)いを唱える。
 この(まじな)いを唱えてる最中に何が起きても絶対に祭壇から眼を逸らしてはならない】

迷家
【えっと、何で?】

ドクター
【祭壇は遥か昔にその廃村で崇められていたとされる魔化魍の作った祭壇で、村が廃れた後も祭壇はその場に残り、その魔化魍の帰りを待っているとされているのだが、もしも、この祭壇を用いた儀式の途中に祭壇から眼を離せば、祭壇に宿る『ナニカ』によって、儀式を行う者を殺すそうだ】

迷家
【え!! 眼を逸らしただけで!!】

ドクター
【眼を逸らす、つまり意識を別のことに向ける。
 それは祭壇で崇められたとされる魔化魍を否定すると、祭壇に宿る『ナニカ』は判断して不届き者を処断するのでしょう。
 オマケに祭壇はその間に儀式を行う者の覚悟を見るためにあらゆる方法で眼を逸らさせようとするそうです】


【その(まじな)いはどれくらい掛かるのでやすか?】

ドクター
【半日ほど】


【半日も祭壇を見続けながらの(まじな)い。あっしは到底出来そうにないでやす】

ドクター
【そして、半日(まじな)いを唱えた後に祭壇に捧げた肉団子を喰べて、その身をサルユメへと変化します。
 これがヤンボシがサルユメへと進化するための儀式『夢入りの儀』になります】

ドクター
【どうでしたか?】

迷家
【うんと? 難しいのはあんまり分からないけどスゴイということは分かった】


【あっしもまだまだ知らない魔化魍がいるということがよく分かったでやす。
 これからも色々な魔化魍の紹介をよろしく頼みやす】

常闇
【私もだいぶ興味深い話が聞けた。次も楽しみにしている】

サーティセブン
【ではドクターの解説は今日はここまでになります。
 彼女も不定期で来るそうですので次はいつかは分かりませんが楽しみにしていてください】

迷家
【じゃ、まったねーー】

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