人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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更新完了です。
普段なら前後編に分けるのですが、面倒くさく勢いで書いたら結構長くなってしまいました。
土門たちとモモンジイの戦いが始まります。
今回のお話で今年最後の投稿かもしれません。間に合えば、そのまま鳥獣蟲宴編の話を1話投稿しようと思います。


リベンジする家族

SIDE白

 あの魔化魍がやったことの片付けと負傷した魔化魍の手当てを終えて少ししたら王が美岬と共に帰ってきた。あと少し遅かったら、絶対に何があったのかと王が聞かれると思うので、その前に片付いてよかった。

 王と手を繋ぐ美岬に羨ましさを覚えますが、それは後でにしておきましょう。

 取り敢えず、王のことは何があったのかを伝えた美岬に任せている間に土門たちに支度を済ましてもらい、あの魔化魍が油断するだろう時間に合わせて土門たちに出てもらおう。

 

 

 

 

 

 

 そして時間は経ち、時刻は深夜になるかならないかという時間帯。

 妖世館裏口にあたる場所には白を含めた複数の影がいた。

 

土門

【王のことを願いします】

 

「ええ。王は任せてください。貴方たちはあの愚か者の処分をお願いします」

 

鳴風

【大丈夫だよ。あのムカつく笑みを苦痛に歪ませて見せるから】

 

 成体になったばかりでまだ思考が幼いと思っていた我が子こと鳴風。

 少し前までの鳴風ならば、そんな言葉を吐かなかっただろうが、よほどモモンジイに対しての怒りが強いのかこのようなことを言ったのだろうと白は判断する。

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ ノォォォォォン ウォォォォォ

 

 その背後には顎と崩、羅殴が王にバレない程度の小さな雄叫びをあげていた。

 

土門

【ではいきます!!】

 

鳴風たち

【【【【おお!】】】】

 

 土門、鳴風、顎、崩、羅殴が館から出る。あの魔化魍(モモンジイ)を始末するために。

 あとは王にバレないように「ねえ、白」っ!!

 

「お、王。い、いつからそこに」

 

「土門たちを見送るあたりから」

 

 こ、これは隠しようがないのかもしれない。

 だが、王を愛する白でも今回なにが起こったのかを説明したくないので、なんとか話を誤魔化そうと白は考え始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEモモンジイ

 妖世館から離れた場所にモモンジイとその仲間の野良魔化魍たちが集まっていた。

 

【王に会えなかったが、仲間の力は分かった。あの程度ならわっしらの敵ではない!!

 チャカカカカカカカカ!!】

 

【流石はモモンジイ殿】

 

【よっ、真の魔化魍の王!!】

 

【チャカカカカ!! 褒めるな、褒めるな】

 

 仲間に持ち上げられ上機嫌なモモンジイはまだ見ぬ王に対して、どの程度かと考えながらいつ襲ったのか分からないほど腐りかかっている人間の腐肉を齧る。

 

【モモンジイ様、あれを!!】

 

 仲間の声で空を見上げれば半透明に近い膜のようなものが広がっていくのが目に入る。

 

【なんだ! なんだ!】 【なんだあの膜は!!】

 

【魔化魍なのか!?】 【いや、王の攻撃か?!】 

 

【チャカ。落ち着け! 結界だろう。わっしの協力者から教えてもらった。術者を殺せばいい】

 

 モモンジイは上に張られていくものの正体をすぐ看破し、仲間に声を掛ける。

 

【チャカカカカ、慌てるな。奴らの力量は把握している。

 中心に向かい結界を張った奴らを探し出して惨たらしく殺せ!! 王へのいい見せしめになる】

 

【【【【【おおおお!!】】】】】

 

 モモンジイの指示に従い野良魔化魍たちは結界の中心にいるあの紛い者の王の家族である魔化魍を殺すために動き出した。

 だが、不意打ちで負傷させたことと仲間からの言葉でいい気分になってるモモンジイは気づかなかった。既にこの時点で蜘蛛の糸に引っかかていることに気付かず。

 

SIDEOUT

 

 結界の中心に佇む影が1つ。

 モモンジイたちが集まっているだろう場所に結界を張ったのは崩だ。

 

結界なら任せろ。我ひとりでも数時間は保つ】

 

 そもそも結界は術の素養と一定量の術を保つことが出来ればひとりでも使うことの出来る術だ。

 だが、オセの戦いの際には3体の魔化魍が結界を張っていたのだが、勿論これにも理由がある。

 結界は単体での使用の場合、相当な負荷を術者に掛ける。だがこれが複数で展開した場合、その負荷を分散することが出来る。故に、結界複数(・・)での展開が主な使用手段だ。

 しかし、単体での展開にも利点はある。複数展開の場合、結界を張った人数×50mと決まった広さまでしか展開出来ない。だが、単体展開は最小で25m、最大で100mを自由に展開出来る。

 

羅殴

【俺は崩の護衛をするぜ。な〜に、あのようなヘマはしねえ】

 

 そして、結界の維持で動けない崩を守るのは羅殴だ。

 羅殴は既に本来の大きさに戻っており、周りを警戒していた。

 

土門

【顎、貴方にモモンジイを頼みます】

 

【分かった】

 

鳴風

【ええ!! 私がやりたかったのに〜】

 

 自分が殺したかったと鳴風は文句を言うが、土門は気持ちは分かると思いながら、鳴風を宥めて、鳴風に頼むことを話す。

 

土門

【鳴風には、私と同じで周囲の雑魚をやります。むしろその方が楽しいと思いますよ】

 

鳴風

【……ううっ、仕方ない。じゃあ頼んだよ顎】

 

【任せておけ】

 

 顎はそう言うと足元の土に顔を突っ込み穴を掘って消える。

 そして、顎がモモンジイに向かったのを確認すると、ふたりは茂みの方を見る。

 

土門

【鳴風来ますね】

 

鳴風

【うん来たね】

 

 ふたりがそう言うと、目の前から数十もの種族が異なるモモンジイの仲間の野良魔化魍が現れる。

 ツチグモ種、ヤマビコ種、ヌリカベ種、ウワン種といった野良魔化魍たちが目の前にいる裏切り者(そう思っている)の土門と鳴風を睨む。

 

【あれが魔化魍の王の家族か?】 【おそらくそうだろう】 【弱そうだな】

 

【ツチグモの恥知らずが】 【モモンジイ様こそ真の魔化魍の王】 【楽勝、楽勝】

 

【油断するな】 【美味そう】 

 

土門

【まあ、雑魚の遠吠えはよく響く】

 

 土門の言葉が野良魔化魍たちの言葉を一斉に止める。

 

鳴風

【っぷ、ふふふ、土門。本当でも言っちゃうのは反則だよ〜!!】

 

 土門の言葉で大笑いする鳴風に野良魔化魍たちは一気に殺気をむき出しにする。

 

【はっ、紛い者の王など我らが殺してくれよう】

 

 言い返しのつもりか何気なく言った野良魔化魍のその一言が多少は慈悲でもと考えていた土門の考えを那由多の彼方まで吹き飛ばし、アッサリと殲滅する方向に思考が切り替わる。

 

土門

【まあ始めましょう。幻魔転身

 

ピィィィィィィィィィィィ

 

 土門の全身を糸が覆い始め、鳴風は翼からの風で生み出した渦巻く風の球体に飛び込む。

 

【はっ、所詮はコケ脅しだ!!】

 

 そう言ったウワンが鳴風の風の球体に近付くと–––

 

【ぎじゃああああ】

 

 球体を割くように放たれた線がウワンを燃やす。

 ウワンは一瞬にして灰に変えられて、その灰が宙に舞う。

 

【よくも!!】 【あいつの仇を!!】

 

 ウワンの仇と今度はツチグモとヌリカベが襲い掛かる。

 

【なっ!!】 【う、動けない】

 

 そこに壁が有るかのように動けないツチグモとヌリカベ。

 やがて、糸に覆われたドームが割れてそこからひとつの影が姿を現す。

 糸車に似た2つの突起物が両腰から生えて、背から生える3対の脚、2枚重ねの刃の鎌を両腕となった前脚の先端から生やし、頭には黒幕のようなものまたは黒子の頭巾のような布がその表情を隠すように垂れており、黒装束を纏った虎縞模様の黄金蜘蛛の人型。

 

 風を突き破るように飛び出たのは、身体よりも遥かに大きい2対の燕の翼、鷹の如き鋭利な爪を生やした燕の脚、全体的に空色がかっており、その中でも目に付くのが翼の中央にある菱形の水晶がある糸巻鱏。

 

 姿の変わった土門が腕をくいっとあげると動けないツチグモとヌリカベが互いに向き合いツチグモはヌリカベに向かって飛び掛かりヌリカベは胸部を開いて中のローラーを動かす。

 勿論結果は言うまでもないヌリカベの胸部に飛び込んだツチグモはそのまま頭から潰されていく。

 

【おい!! 何をしている仲間だぞ!】

 

【分かんねえよ。身体が勝手に】

 

 ヌリカベの行動を咎めるウワンに、当のヌリカベは身体が勝手に動くという。

 

土門

【ふふふ、良いものですね】

 

【貴様がやったのか!!】

 

 野良魔化魍たちは今の状況を作り出したのは目の前の土門だと気付く。しかし––

 

【なっ!!】 【これは!!】 【動けない】

 

【どうなっている!?】 【あ、脚が勝手に!!】 【腕が!!】

 

 土門の前にいた野良魔化魍たちの動きが一斉に止まり、間を置くと自分の意思に反して動く身体に恐怖する。

 

土門

【さあ、今宵の恐怖劇場(グランギニョール)を始めましょう】

 

 腕を下ろして一礼すると、土門の腕と背にある脚が動き始め、それにつられて野良魔化魍たちは動き出す。

 

【やめろぉ!!】

 

 あるものは、否定の言葉を叫びながら仲間の頭に向けて足を振り下ろして頭を潰し。

 

【あああ、ああ!!】

 

 あるものは、泣きながら仲間の身体を刻み、その身体に執拗に刻む。

 

【死体が死体が、があ!!】

 

 あるものは、すでに死んでる筈の死体が体を動かし、関節という可動域を超えためちゃくちゃな軌道を描いて首を分断される。

 

 まさに地獄絵図、そう言っても過言ではないこの現状は土門がやったことだ。

 傀儡操糸劇団(マリオネットパーティ)

 それは土門が王の役に立ちたい。そんな一心で土門は人間の技術を研究し、ひとつの技術を見つけた。

 人形劇。その中で『糸繰り人形』に土門は目をつけた。ツチグモたる彼女の武器は何と言っても『糸』だ。自身の糸を目に見えない細さに変えて敵の身体に巻いて、敵の身体を意のままに操る。最大で100体を同時に操ることができる。

 更にこの技の恐ろしい点は意識がある状態で操れるということ原型がある程度残っている死体も操ることができる。

 意識があるものは自らの手で仲間を殺していくことを強制的に見つけられて、死体の場合は仲間だった死体が動き出して襲う。

 まさに恐怖、それを淡々とこなす傀儡師(土門)はどんどん死体を作り出していく。そんな光景に黒布で隠された土門の表情はおそらく満面の笑みを浮かべているのだろう。

 

 土門の傀儡操糸劇団(マリオネットパーティ)による同士討ちの側で鳴風は土門から逃れて残った野良魔化魍の半分を相手していた。

 

ピィィィィィィィィ

 

 鳴風が口から熱線を撃つたびにそれを受けた野良魔化魍は灰へと変わる。

 

【うわああああ!!】 【なんとかしろお!!】

 

 土門のところとは違い無理矢理ではなく本能のままに生き残ろうと、仲間を盾にしてでも生き残ろうとする野良魔化魍たちを鳴風は侮蔑の目で蔑みながら熱線を放つ。

 

ピィィィィィィィィ

 

 鳴風の放つ熱線は、ただの熱線ではない。

 鳴風の各翼に付いている菱形の水晶はただの水晶ではない。日中絶え間なく空から降り注ぐ紫外線を吸収するためのものである。鳴風はそれをエネルギーに変換し、飛行速度の上昇、成層圏から中層圏まで飛ぶ飛翔力と耐久性、そして攻撃に変換している。

 そして、その攻撃こそが鳴風から口から撃ち出す熱線である。

 

 ここで話は少し変わるがオゾン層というものがある。

 太陽から放射される有害な紫外線から人間などの動物や植物を守ってくれているものだ。だがこのオゾン層はフロンという化学物質によって壊され、そこにやがてオゾンホールというものが出来上がり、その穴から有害な紫外線がもろに降り注ぐことになる。

 鳴風の熱線はいわば、()いたオゾンホールから直接降り注ぐ紫外線。

 紫外線だったエネルギーを体内で圧縮し何倍も威力を高めて放つ攻撃なのだ。生半可な防御など無意味。浴びせた敵を一瞬で灰に変える必殺の武器。

 名付けるのなら紫外線熱線(ウルトラヴァイオレットレイ)

 

【助けてくれ!!】 【逃げろ、にげ、】

 

【ぎゃああ!!】 【熱い、あつ、い……】

 

ピィィィィィィィィ

 

 空を飛ぶ手段を持たない野良魔化魍たちには空を駆けるように羽ばたく鳴風を止める事はできず、紫外線熱線の餌食となる。

 

 そこから作業ともいうような惨劇が広がる。

 土門が脚を動かすたびに野良魔化魍たちは互いを傷つけ合い、意識のある者も既に死んだ者も関係なく同士討ちによる殺し合いが展開され、鳴風の放つ紫外線熱線は瞬く間に浴びせた魔化魍たちを灰に変え、灰と共に一部の肉も飛び散る。

 阿鼻叫喚ともいうべき光景を見ていた崩と羅殴は野良魔化魍たちに同情する気はないがほんの僅かながら可哀想と思った。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、野良魔化魍たちとは違う場所を探すモモンジイ。

 

【チャガ、出てこい! 居るのは分かっている】

 

 そう言ったモモンジイからちょっと離れた場所からボコっと地面が盛り上がり、そこから姿を現すのは顎だ。

 

【お前がモモンジイか?】

 

【チャカカカカ。いかにもわっしがモモンジイ。真の魔化魍の王になる魔化魍。

 お前はあの王の魔化魍か。しかしあの時、あの場にいなかったぁ〜。お前は隠れてたのか?】

 

 自身の王を侮辱し、その場にいなかったことで挑発するモモンジイに対して、顎は静かに怒っていた。

 

【お前にはウチの家族が世話になったみたいだな】

 

 怒りを抑えながらモモンジイに聞くと。

 

【世話。チャカカカカカカカカ!!

 おお、わっしが世話してやったよ。誰か死んだか? あの紛い者の王は悲しんだか? 人間の分際で魔化魍の王を名乗るなど烏滸がましい!

 わっしが紛い者の王と偽りの家臣どもを殺して、真の魔化魍の王となるんだ!!】

 

ギリギリギリギリギリギリ

 

 手を上に掲げて自慢げに喋るモモンジイの言葉に抑えようとしていた怒りのゲージが一瞬にして振り切った顎は、上顎を擦り合わせ、口から白い煙を吹き出してその身全体に覆う。

 

【チャカカ? なんだもう逃げるのか。臆病者め、チャカカカカ……ちゃっ?】

 

 まさかの敵前逃亡かと、モモンジイは顎を馬鹿にしようとするが煙の中から何かを感じて、笑っていた声が中途半端に止まる。

 煙が晴れて現した姿は微々たる変化しかないが、その圧は先ほど感じたものとは違うとモモンジイは感じた。

 その姿は身体全体が紫に染まり、上顎は金色で鋭く鋭利なものへと変わっている。

 これこそ顎の新たな力。

 

 毒の特徴を持つ紫の属性の家族に自身に向けて毒を浴びせ続けてもらったことで生まれた顎の変異態。

 金属の王を融解させる毒を手にした顎門はその矛先を眼下の敵に向ける。

 

【チャカカカカ、それが切り札か? まあ、関係ない。真の魔化魍の王となるわっしの前には無意味!!】

 

 爪を伸ばしてモモンジイは一気に顎に近付く。

 顎は動かずにモモンジイを待ち、モモンジイの爪が遂に刺さりそうになると自慢の上顎でその爪を両断する。

 

チャカカカカ

 

 モモンジイは反対の爪を伸ばして顎の顔に突き刺そうとするが、顎は両前脚で爪を受け止める。

 顎は捻るように前脚を動かして爪を折り、捻った動きに合わせて身体を回転させて腹部でモモンジイを吹き飛ばす。

 

ギリギリギリギリギリギリ!!    チャガッ!

 

 腹部のスイングのような攻撃で怯んだモモンジイに顎は口から針のような形状した紫色の弾を撃ち出す。モモンジイはそれに対抗して口から砂のブレスを吹き出す。

 顎の弾をブレスで弾いたモモンジイは更にブレス吹き続けて、周囲が砂のカーテンで覆われる。

 

ギリギリギリギリ

 

 顎は砂で全く見えないなか、モモンジイを探すもどこにも見えない。

 

チャカカカカ

 

 モモンジイの声が砂で反響するせいか、そこら中から聞こえて顎は周囲を見渡す。すると–––

 

ギリギリッ!

 

 前脚に何かが突き刺さる。顎は何かの刺さった前脚を見るとモモンジイの首回りに生えている針が突き刺さっていた。

 

チャカカカカ

 

 また声が響くと今度は腹部が斬られ、着地したと思われる場所には地面に突き刺さっているモモンジイの爪だった。

 

チャカカカカ、チャカカカカカカカカ

 

 モモンジイの声が響けば顎の身体に針か爪の攻撃がくる。

 砂が晴れるとそこに身動きができない顎がいた。モモンジイの爪と針の攻撃によって顎の身体は地面に縫い付けるように抑えられてその場から動けないように固定された。

 

【チャカカ、どうだ動けんだろう。その場でゆっくりと貴様を解体して王の元にお前の死体を送ってやる!!】

 

 そう言いながら、更に爪を伸ばして顎に近付くモモンジイ。

 だが、モモンジイは忘れていた。自身を始末するために来たのは顎だけではないということを–––

 

【ん? なんだ】

 

 何かの音が耳に入り、周囲を見渡すモモンジイ。

 だが、音はどんどん大きくなっていき自身に近づいてくる。

 

ピィィィィィィィィ

 

【チャカカ!!】

 

 その音は遥か上空からモモンジイに向けて飛んだ鳴風。

 野良魔化魍たちを始末し、急いで顎のいる場所に飛んできたのだ。

 音に気付くも顎に身体を向けていたモモンジイが鳴風に対処出来るはずもなく、鳴風の翼に集まった真空の刃は容赦なくモモンジイの片腕を斬り落とす。

 

【チャガ、糞っ!! 卑怯者め、降りてこい!!】

 

 モモンジイは(そら)にいる鳴風に向けて馬鹿なことを喚く。

 戦っている相手の言葉を素直に聞くわけはなく、鳴風は宙を旋回するように飛ぶ。

 

【チャガ、おのれっ!!】

 

 モモンジイは宙の鳴風を睨む。モモンジイが喚くのはもちろん理由がある。

 モモンジイの操地流術(そうちりゅうじゅつ)の弱点。それは宙にいる敵に対して壊滅的といってもいいほど相性が悪い。

 別に攻撃出来るか出来ないかで言うのなら攻撃は可能だが、地に接していない宙はその攻撃の威力が大幅に減少する。おまけに鳴風によって腕を斬られたことで術を安定させることが困難になった。

 モモンジイは片腕でも構わないと、地に手を当てて上空を舞う鳴風に攻撃を仕掛けようとした瞬間–––

 

土門

【後ろがガラ空きです】

 

 そう言ってモモンジイの背後から現れたのは鳴風と同じように野良魔化魍を殲滅した土門だ。

 しかもモモンジイが襲撃でやったことと同じことを土門が行うという皮肉めいた登場だ。現れた土門は腕に絡めた糸を使って、地面に突き刺さっているのと顎に刺さっていたモモンジイの針と爪を抜いてモモンジイの身体に投げ飛ばす。

 

【チャガ!!】

 

 上空の鳴風へ攻撃しようとしたモモンジイの身体には土門が投げつけた針や爪が足や身体を貫き、さらには貫いた針先が地面に突き刺さりモモンジイの動きを止める。顎は動けないモモンジイに向けて駆ける。

 

ギリギリギリギリ

 

 顎は前脚でモモンジイの(あご)を上下に固定し、その開いた口に向けて顎はこの変異態の姿で最大の攻撃を放つ。

 顎の口から噴き出るのは絵の具のパレットでぐちゃぐちゃに混ぜた時のような色をした霧状になった毒。それを顎はモモンジイの口から体内に向けて猛烈な勢いで噴き出す。

 

【チャガ、ガガ、げほっ、チャげああ!!】

 

 流し込まれる物による苦しみから逃れるためモモンジイは顎からの攻撃の最中に顎の腹に蹴りを浴びせて、なんとか顎の攻撃から逃れる。モモンジイは反撃とばかりに首回り生える針に手を掛けようとした瞬間、異変に気づく。

 

【チャ、指が!!】

 

 針を掴もうとしたモモンジイの指がポロッと地面に転がる。落ちた地面で指はドロリと溶ける。

 指に続き今度は、皮膚が少し剥がれて同じように溶けていき、更に剥がれた所から身体が膿んでいき、膿んだそこから赤い液体がドロリと垂れていく。

 

【チャガアアアア!! わっしの身体が、身体がぁああ!!】

 

 顎がモモンジイの体内に向けて直接吹き込んだ儚散蟻酸(ぼうさんぎさん)は、顎が変異したことによって生まれた顎の切り札だ。

 顎の変異態であるオオアリ王水は、その体内には変異するためのキッカケとなった紫の属性の家族の強力な毒が存在し、それらが混ざり合い生まれた毒が顎を変異態へ変化させるキッカケとなった。

 そして、そんな顎の体内にある混ざり合った毒を更に体内で濃縮し完全なる攻撃用に転じたのが儚散蟻酸である。

 その効果は変異態の名にもある王水の名の通り、金属の王様 金すらも溶かす毒と同等いやそれ以上の強力な毒だ。しかもこの毒は空気中に毒霧のように吹けばその場に5日間以上も留まり、その場を通る者を全て溶かす。

 

【チャ、わっ、しは王に、ただしい、魔化、もうを】

 

 儚散蟻酸が全身に回ったモモンジイの身体は肉だった赤黒い液体を周囲に散らしながら僅かに残った頭と口で自身の抱いていた野望を呟く。

 その姿を煩わしく思った顎は残った頭を踏み潰そうと脚を振り上げるが–––

 

【何故止めるのだ土門?】

 

 モモンジイの頭を潰そうとした顎の脚を止めたのは土門だった。

 

土門

【……もうすぐ死ぬソイツには頭を潰しての楽な死なんて生ぬるい。誰に歯向かったのかと苦痛を味合わせてゆっくり死んでもらおう】

 

【そうだな】

 

【チャガ、か、お、お】

 

 薄れ消えゆく意識の中でモモンジイの身体はもはや液体に僅かな目玉と口が着いただけのものに変わっており、野望を呟いていた口は徐々に形が変わり、最後には肉の欠片など一切ない液体へと変わり果てた。

 幽冥を亡き者として王を目指そうとした愚かな魔化魍の成れ果てた姿を見ても誰もその光景を覚えないだろう。

 何故なら自分たちは王を守る矛であり、盾であり、王に愛された家族なのだから。

 

 

 

 

 

 

 モモンジイやその仲間の魔化魍の死骸を片付け、結界を解除した土門たちは静かに妖世館に戻った。

 時間帯としては深夜3時ほどの時間帯。館の灯りという灯りは既に落ちており、暗く静かな館に扉が開く音が鳴る。

 

土門

【…………ふう、王は眠っているようです。いs「お帰りなさい」…!!」

 

 土門たちの顔を向けた先には腕を組んで仁王立ちで待つ幽冥の姿があった。

 

土門

【!! 王、なぜ此処に?】

 

「白たちがなんか隠してるのは分かったし、土門たちが何処かに行くのも見てたし、おまけに少ししたら結界を張ったのを確認したら、白が教えてくれたよ。

 さあ、詳しく話してもらおうかな」

 

土門たち

【【【【【……はい】】】】】

 

 結局、幽冥にバレてしまい事情を説明することになった土門たちとそのことや負傷者がいたのを隠していた白たちは、普段怒ることがない幽冥によってこってりしぼられたのは言うまでもないだろう。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE◯

 顎によってモモンジイが始末される瞬間。

 その光景を遥か遠くから見ていた2つの影があった。

 

【やはり、ダメでしたねぇぇ。ねえ、25番】

 

【かまわん。我らの話を鵜呑みにして、行った者の末路など、どうでもいい。

 それと、その呼び方はやめろと言っただろう】

 

【いいじゃない。それだったら貴方もアタシを56番って呼べば良いじゃない。

 ………しかし、アレ(モモンジイ)はいい仕事をしました】

 

【ああ。そこには感謝してやってもいいなぁ】

 

 今、死んだモモンジイのことを語る2つの影の側に、新たな影が現れる。

 

【此処にいたのか】

 

【あら、40番じゃない。52番の集めたものを取りに行ってたんでしょ】

 

【ああ、奴が死んだのは惜しいが今、悲しむことじゃない】

 

【そうね〜。52番、母親に会いたいねぇ〜。

 クフフフ、馬っ鹿じゃない! その母親がどうなってるか知らずに】

 

 1つの影は死んだものに対して残念そうに言うが、もう1つの影は死んだものを嘲笑する。

 

【よせ。奴らに聞かれると面倒だ】

 

【クフフフ、安心しなさい。裏切り者や行方不明の8番や12番、15番、38番はさておき。

 30番と37番、53番は今居る場所から離れることはないからねぇ】

 

【それでもだ。それにお前の言う53番は侮れない奴だ】

 

【………まあ良い。帰るぞ】

 

【は〜い】

 

 そうして3つの影はその場から消える。




如何でしたでしょうか?
今回の話で幕間は終了です。最後のキャラたちは察しが良い方はおそらく直ぐに気づきます。
因みにそれぞれの変異態の名は、土門が、傀儡劇団のツチグモ。
               鳴風が、イッタンモメン陽射
               顎が、オオアリ王水となります。
次回からは鳥獣蟲宴編となります。

ーおまけー
迷家
【さあ、今日もおまけコーナーを【失礼】ふぇ!!】

【すまないね】

迷家
【だ、誰だよ君は!!】

【ふむ、私は…………そうだな。あえて言うならサーティセブン、と名乗ろう】

迷家
【サ、サーティセブン? そのサーティセブンが何のようだよ】

【君は、魔化魍の紹介が苦手だと言うのを聞いてね】

迷家
【うぐっ!】

【私はそんな君の代わりに紹介を任されたものだよ】

迷家
【誰に任されたの?】

【私をここに紹介したのは、君が変な人と呼ぶものだよ】

迷家
【う〜変な人の紹介じゃ仕方ない。お願いするよ】

【うむ。私に任せたまえ】

サーティセブン
【改めて私はサーティセブン。此度に登場した魔化魍モモンジイの解説をさせてもらう】

モモンジイの解説
種族:ヒトリマ亜種 モモンジイ
属性:茶
スタイル:堅
分類:中型
鳴き声:チャカカカカカ
容姿:針鼠のような針の襟巻きを首周りに生やし、ゴツゴツとした岩の鱗を全身に生やした
   二足歩行の襟巻き蜥蜴
特徴:幽冥の家族、暴炎ことヒトリマの亜種にあたる茶属性の魔化魍。
   主に草木も生えない岩場や狭い洞窟に生息している。
   従来のヒトリマは炎を喰らって生きる種族だが、亜種であるモモンジイは炎ではなく
   砂や岩などを喰らう。
   首回りに生えている針鼠の針のような襟巻きから獲物となる人間に向けて針を発射し
   、針に刺さって動けなくなった人間を生きたまま捕食する。
   ヒトリマは炎を操るが、モモンジイは地面、正確に言うなら地表を操作する。
   地表を隆起させたり陥没させたり、地面を割るなどの足場を不安定にして敵の行動を
   妨害または攻撃として使用する。
   人間なのに魔化魍の王として認められる(一部野良魔化魍の間)幽冥を魔化魍の王と
   は認めていない。
   ある存在に王を殺せば、王になれると吹き込まれて、自らこそが『真の魔化魍の王』
   であると証明するために仲間の魔化魍を引き連れて、幽冥と美岬が出掛けていた最中
   に宣戦布告する。
   最初は奇襲によって大勢の幽冥の家族に負傷を負わせ、幽冥が居なかったとはいえ、
   初めて家族たちに敗北を刻み込んだ魔化魍。
   再戦では、土門たちの奇襲によって予定を狂わされ、変異態となった顎と戦う。
   最初は自慢の『操地流術』や首回りの針を使った遠距離攻撃で顎を追い詰めるもの鳴
   風の不意打ちによる攻撃で『操地流術』で使う腕を片方を斬り落とされて形成逆転。
   地面に落ちていた針を土門がモモンジイに投げつけて動きを封じ、最後は顎の『儚散
   蟻酸』を口から吹き込まれて、内部から身体を溶かしてその一生を終えた。
戦闘:口から砂のブレス、首の針による遠距離攻撃、地面を使った操地流術(そうちりゅうじゅつ)
   爪を使った近接攻撃と射出による中距離攻撃
CV:伊藤健太郎(ニーズヘッグのファフナー)

サーティセブン
【どうだったかな?】

迷家
【うん。ありがとうね。僕が解説してたら多分、知恵熱で倒れたと思うし】

サーティセブン
【迷惑でないのならこれからも魔化魍の解説は私がやりましょうか?】

迷家
【いいの! じゃあお願いねサーティセブン】

サーティセブン
【ええ。任せてください】

迷家
【あ、こんな時間だ。じゃあ次のコーナーでじゃあね♪】

サーティセブン
【またお会いしましょう】

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