人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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更新完了。
今回の話と次回の話で幕間は終了となります。
まあ、今回の内容はタイトル通りの内容です。
では、どうぞ!


敗北を知る家族

SIDE◯

 どこかの森の中。

 人が住まずに年数が経ったボロボロな廃屋で1つの影が自分以外誰も居ない部屋で誰かと会話していた。

 

【本当か? 本当なんだな】

 

【ああ。あの魔化魍の王を殺せば、お前は魔化魍の王になれる】

 

【そして、お前が新たな魔化魍の王として正しい(・・・)魔化魍を率いれればいい】

 

【そうか。分かった。早速私の仲間にこのことを知らさねば】

 

 会話していた影は話が終わると直ぐに外に出ていき、部屋には誰もおらず静かだった。

 

【ククク、馬鹿ね。今の魔化魍の王を殺せば王になれる。そんなわけ無いでしょうに】

 

【ハハハ、確かに。だが奴が王と戦い、王を殺せば儲けもんだ。その時には奴には褒美を与えねばな】

 

 誰も居ないはずの部屋で響く声はやがて聞こえなくなり、今度こそ本当に部屋は静寂に包まれたのだった。

 

SIDEOUT

 

 美岬が壊鯱の意思によって暴走させられてから1週間経った。

 美岬曰く、『暴走する心配はないから大丈夫』と、正直心配だったけど、いつもと同じように過ごす美岬を見て、その言葉は嘘ではないと分かったので良かった。

 それで、美岬を見ていてお出掛けの約束を思い出した私は美岬と出掛けようと思い、美岬を探すのだった。

 

 それから美岬を探し始めて数分経った。

 歩きながら改めて感じたが、迷家の力によって外で見た外見からは想像がつかないほどに広くなった妖世館での人探しは大変だ。

 小さすぎるのは住む家族(魔化魍)のことを考えるとしょうがないけど、まさかここまで広くなっているとは思わなかった。今も内部を弄る迷家にしばらくは広げる大きさを抑えるように頼もうかな。

 そんな事を考えてて、ふと最近の白たちが頭に浮かんだ。

 

「そういえば、前にも増してよく私と出掛けたがるようになったような」

 

 考えていたことがそのまま口に出たが、誰も居ない廊下で言った一言にわざわざ反応するものはいないだろう。

 そう。あの、美岬の暴走が収まったあの後から白や赤を筆頭とした妖姫や朧などの魔化魍が私と一緒に出かけようとアピールするようになった。

 あまり自身のことを出さない黒や灰も同じように行動をすることに驚いてる。

 

 しかし、何故私と一緒に出かけたがるのだろうか?

 ハッキリ言って、私が今代の魔化魍の王だということを抜いたら何があるのだろうか?

 魔化魍の元となった妖怪や悪魔の知識。前世の家族や友人たちから学んだ各知識と一部の知識を除けば、この世界でも学べることだ。

 それに私は魔化魍に近くなりつつあると言っても元人間だ。そんな私と一緒に出掛けたがるのは、何か違う理由があるの?

 

 今までの一緒に出掛けた白たちの様子を思い浮かべる。

 普段とは違う服に替えて私に感想を求めたり、私と手を繋くと頬を赤らめてたり、私を見てぼーっとしたり、私の身体にくっ付くように歩いたり、楽しそうだったり、とまるで–––

 

「白たちは私が好きなのかな」

 

 そんなまさかとありえないと考える。

 前世から恋愛をしたことも、考えたこともない私が言うのもなんだけど。

 ………ま、まあ、そんなことは後で考えればいいと、私は行けなかったお出掛けをする為に美岬を探すのを再開するのだった。

 

SIDE白

【わっしはモモンジイ。真なる魔化魍の王】

 

 王と美岬が出掛けて数時間経った位に、それは突然現れた。

 

〜回想〜

 王と美岬が出掛けたのを見送った私は久々に妖姫としての仕事をこなす。

 元々、魔化魍を育てる『育て親』である私ら妖姫は魔化魍の健康状態を軽く知ることができる。

 

 人間風に言うのなら健康診断のようなものだ。

 勿論、王に出会った頃に比べて増えた魔化魍(家族)全員を1人で見るのは時間が掛かるので、他の妖姫である黒や赤、灰、青にも協力してもらっている。

 見終わった者から中に戻って、各々好きなことをしている。

 

「次、来なさい」

 

土門

【よろしくおねがいします】

 

 普段掛けている縮小の術を解いている土門が私の前で静かに身体を下ろす。

 術を解いて本来の大きさに戻った土門たちをこうやって改めて見ると本当に大きくなったなと嬉しく思う。

 そして、土門に問題ないと伝えようとすると–––

 

チャカカカカ

 

 聞き覚えのない声と共に地面が割れて、そこから1体の魔化魍が飛び出して来た。

 

チャカカカカカ

 

 突然現れたのは、三尸と似た姿をしている魔化魍だった。

 針鼠のような細長い針を首周りに生やし、ゴツゴツとした大小の岩のような鱗を全身に生やし、尾には何か掴むような3本の爪が生えてる二足歩行の襟巻き蜥蜴の魔化魍がいた。

 

チャカカカカカカカカカカカ

 

 その魔化魍が下に垂れた手を地面に振り下ろすと、地面が隆起し、あたりが激しく揺れ、とてつもない音が鳴る。

 魔化魍の突然の行動によって起きた衝撃によって私は気を失い、目を覚まして気付けば私たちは土で出来た手で拘束されていた。

〜回想終了〜

 

【王の魔化魍と妖姫はこれほどか? やはり、人間が王になるべきではなく、わっしのような正統なる魔化魍こそが王になるべきなのだ!!】

 

 地面に倒れて拘束される幽冥の家族の魔化魍たちにそう語る上機嫌な襟巻き蜥蜴の魔化魍ことモモンジイ。

 倒れながらも巫山戯るなと口論したいが、口や身体を抑える土の手によって喋ること動くことも出来ない。

 その中でも私や黒、赤などの妖姫たちに対しては念入りと言ってもいい程に土の手で身体の至る所を拘束されている。

 

【さぁあて、あの紛い物の絶望した顔を見るために数を少し減らしてやるわい】

 

 そう言ったモモンジイが地面に手を当てようとする。もうダメかと思った。

 

◯◯

【させると思うか!!】

 

◯◯

【白殿たちから離れろ!!】

 

 上空から降り注ぐ無数の赤い槍とその槍を掻い潜るようにモモンジイに迫る影がモモンジイをその場から離すことに成功する。

 

【まだいたのかい】

 

常闇

【簡単にやらせるわけなかろう】

 

荒夜

【その通りだ。次は私たちが相手をしよう】

 

 宙から降りてきて槍を構えた常闇と刀をいつでも抜ける姿勢を保つ荒夜が動けない私たちの前に立ち、モモンジイを睨む。

 そうやってモモンジイを睨んでる間に館の中で外の騒ぎを聞きつけた者たちが続々と外に集まってくる。流石に数の不利を感じた魔化魍は地面に転がる白たちの方に身体を向ける。

 

【ちぃい。邪魔が入ったのは仕方ない。

 今夜、わっしはもう一度此処に来る。紛い物の王を殺し、わっしこそが真の魔化魍の王となるために!! チャカカカ、チャッカカカカカカカカ】

 

 モモンジイはそう言うと、先程出現した際に出て来た穴に飛び込む姿を消す。

 

チャカカカカカカカカカカカ

 

 苛立つ笑い声がどんどん遠ざかっていく。遠ざかると同時に口や身体を抑えていた土の手は元の土に還る。

 

「負傷者に手当てを急げ!! 誰も死なせるな!! 王を悲しませないために!!」

 

 私の指示を受けて彼らはすぐに行動に移す。

 この時、不意打ちとはいえ幽冥の魔化魍たちは初めて敗北した。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE土門

 王が美岬と出掛けているタイミングの襲撃で良かった。

 少し外が荒れて怪我人も出たが、少しすれば片付くだろうし、目立たないように手当をしてくれるだろう。

 

 しかし、いきなり現れての不意打ちとはいえ傷を負ったのは不甲斐ない。

 私は前脚の一節の欠損、睡樹は右腕が岩に挟まって切断だけでまだマシというべきか、唐傘は右翼の翼膜の損傷、飛火を庇った葉隠は全身打撲、羅殴や写鏡を守った穿殻は攻撃を受けて割れた殻が内部のところどころに刺さって重症。

 他にも負傷を負った家族はいるが、蝕の薬や紫陽花の術、小雨の治癒の雨、縫の縫合で最悪の事態は回避した。

 

土門

【不意打ちとはいえ、あれは屈辱です】

 

鳴風

【うん。あれで勝った気になっているアイツ、ムカつく】

 

【……俺が下で工事してる間に、もっと早く気付けば】

 

 あの魔化魍が出現した際、健康診断を終えた顎は部屋の増設のために地下で同じく診断を終えた鋏刃、水底とともに穴を掘っていた。そのために被害が無かったのだが、自分の家族が傷ついていたのに気付かなかったことに自己嫌悪していた。

 

【気にするな。あの程度の負傷は怪我にもならん】

 

羅殴

【そうだな。だけど、ナメられたものだな】

 

 羅殴の言葉に一同は怒りが込み上げてくる。

 だが、その怒りは表に出さず、心の奥底に溜める。

 

【あの魔化魍に誰を敵に回したか。教えねばな】

 

鳴風

【………それと、王には内緒だよね】

 

 鳴風の言葉に一同は静かに頷く。

 

【王には知られてはならないな】

 

羅殴

【以前の悪魔魔化魍のような連中とは違うからな】

 

 そう。これは王に言うことでもないし、知られてはいけない。

 私たちを家族として迎えてくれたあの王には特に。

 魔化魍の王は、全ての魔化魍を支配できる存在と思われるが、それは違う。仮に支配できるのなら、以前に現れたオセと名乗った悪魔魔化魍や睡樹たちが倒したアロケルという悪魔魔化魍のような魔化魍は出てこないだろう。

 だからこそ明確な敵意を持っていた魔化魍に対しては歴代の魔化魍の王たちは自身の手でまたは配下の魔化魍に頼んでそういう輩を始末してきた。

 しかし、かつて自分を殺そうとした白を許し、自身の従者にした幽冥がそういうことを進んでやりはしない。

 歴代から見た幽冥は甘いと思われている。だからこそ、幽冥の家族である彼らがそういう魔化魍を始末する。それは、此処にいる土門たちだけでなく、安倍 幽冥の家族になった魔化魍や妖姫、怪人に戦闘員たちの総意である。

 

鳴風

【絶対に気付かれないように】

 

土門

【王を悲しませない為にも…………あの愚か者は私たちが始末します】

 

 だからこそ、私たちが王の代わりに愚かな奴らを片付ける。

 土門の言葉に大きく頷いた一同は、今日の夜に襲撃を予告した不届き者を始末する為の準備を始めた。




如何でしたでしょうか?
次に投稿する話で幕間は最後になります。
毎度勝ちばっかあれなので、初めての敗北を書いて見ました。ただし、幽冥がいない状況下での敗北ですので、幽冥を加えた敗北も後々書くと思います。
因みに前話の共存派の会議はこの話の始まる1週間の間に猛士であった話です。
幕間が終了したら、次の鳥獣蟲宴編になります。


ーおまけー
迷家
【はいはーーい。おまけコーナーの時間だよ♫
 このコーナーが始まってどれくらいやったんだろう? 正直、数えてないから分かんなだよね〜♪
 まぁあ、そんなことは気にせずに今日のゲスト紹介!!】

「なんだ、此処は?
 お! 迷家居たのか此処は何処なんだ?」

迷家
【はい。本日のゲストはおっちゃんこと、オルグ魔人 炭火焼オルグでーーす】

「おお、なんでい!! 急に俺の名前を呼んで!」

迷家
【ごめんね。此処は質問コーナー。いつも色んな人を呼んで質問をひとつして色々答えてもらう場所だよ】

「ほーーう。質問か。いいぜ。何を聞きたい?」

迷家
【おお。いつもはなあなあ気味に進んでるのに協力的で助かるよーー 
 じゃあ、そうだね。うーーーーーーん】

迷家
【お、そうだ!! 憑とは何処で出会ったの?】

「ほう。そいつを聞くか。
 …………まあ、対して面白い話じゃねえが教えてやるよ」

迷家
【うんうん】

「あいつと出会ったのは、今からざっと2年くらい前になるかな。雪が降る夜だったかな。
 そん時の俺は茂久とも会っておらずひとりで焼き鳥屋台をやってんだ」

迷家
【へえ〜】

「そんでな、いつものようにあっちへ、こっちへと焼き鳥を焼いては客に食ってもらってたんだ。
 もう店を閉めようとした時に空からあいつが降ってきた」

迷家
【降ってきた!?】

「そう降ってきたんだよ。俺の屋台の上に、突然のことにビックリしてな、俺も本来の姿に戻っちまったんだよ」

迷家
【ふむふむ】

「おまけにあいつ、鬼に追われててな。人間から変わる瞬間は見られてなかったから良かったが、本来の姿の俺を見て、魔化魍だって騒ぐからな。
 それで厄介ごとから逃れる為に屋台ごとあいつを連れて逃げたのが出会いだな」

迷家
【そうだったんだ。……………ねえ、なんか隠してることある?】

「………いいや。ねえよ」

迷家
【う〜ん。なんか隠してる気がするするけど、まぁ、いいか。
 聞きたいことも聞けたし、今日は此処でお別れだよ。バイバイ♫】

「俺も仕込みに戻るか」

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