人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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今回から幕間になります。
幕間の予定は、妖世館で囚われた捕虜や捕虜じゃない鬼の1日を3つ。

猛士のとある派閥視点。

最初の3匹VSある魔化魍軍団。
を予定しています。今回は捕虜たちの突鬼視点の話です。


幕間
妖世館での鬼の1日 突鬼編


 よお、久しぶりだな。え? 誰だって。

 俺の名前は佐賀 錬。鬼としての名は突鬼。

 北海道第1支部に居て魔化魍と戦っていたが、あの蛇野郎(マシンガンスネーク)にやられて捕虜になっちまった。

 ………って、誰に言ってるんだよ俺は、まあ、いっか。

 

 捕虜となって数ヶ月経った。

 最初の頃は囚人服のようなズタボロな服に動きの制限をする鎖、牢屋のようなスースーと風通しのある部屋であったが、蛇女(蛇姫)に付けられた腕輪(?)(双方の呪紐)で制限用の鎖は外されて、猛士の情報を話すと言う交渉でズタボロな服とあの牢屋から少しマシな程度の服と狭いながらも普通な部屋(外から鍵が掛かり地下にあるので窓は無い)に変わった。

 ほんと、あの服からこの服に部屋も変わったのは良かった。眠ろうとした時、寒く床で眠るせいで毎日身体中が痛かったので本当にありがたい。

 此処での生活に慣れ始めたと言っていいのだろうかと最近思う。

 

屍王

【ハハハ。今日も美しいな愛衣】

 

「はあーーー」

 

 今日もあのミイラが部屋に現れ、愛衣に愛の言葉を掛けている。

 同時期に捕虜となった愛衣に毎日欠かさず話している。最近では、反論するのも諦めたのか溜め息による返答が多くなった気がする。

 

屍王

【腕を出せ愛衣】

 

「はいはい」

 

 ミイラの言葉通りに腕を出す愛衣。

 その腕に何かを嵌めて、ミイラは笑う。

 

屍王

【どうだ】

 

「これは?」

 

 愛衣の腕には宝石の付いた金色の腕輪が着けられていた。

 

屍王

【我が自作した腕輪だ。お前のサイズに合うように作った】

 

「つ、作った!?」

 

屍王

【ああそうだ。お前は我が妻となる者だ。ファラオの妻となるからにはそれに合った装飾を作るのも夫たる我】

 

「ですから!! 私は貴方の妻になりません/////」

 

 ………愛衣。口ではそんなことを言っておきながら少し頬を赤らめていたら説得力がねえよ。

 ミイラから貰い物があった日にはミイラが部屋から出て少し経つと貰った物を眺めては恋する乙女のような顔をしているのを俺は知ってる。本人はそんな顔をしてる自覚も無いのか聞いてみたら必ず違うと反論する。

 しかし、本当にこの魔化魍のせいなのか日に日に、嫁になるのもいいかもしれないと思っている愛衣の姿に俺は何度心の中で驚いたことか。

 

屍王

【さあ往くぞ】

 

 いつの間にか愛衣の手を掴み部屋の外に出ようとするミイラ。

 

「ちょ、ちょっと待って。勝手に出たら厳罰をってあのメイドの妖姫が」

 

屍王

【心配はいらん。王から許可を貰い、我の部屋に連れて行くだけだからな】

 

「それもそれで、問題なのよ!!」

 

屍王

【いずれお前も住むことになるのだ今のうちに慣れると良かろう】

 

「そう言って、何度、ひゃっ!」

 

屍王

【ほう。そんな声も出せるのか、またお前のことを知れた。

 では往くぞ。ハッハッハッハッハッハッハハハ!!】

 

 ミイラは愛衣の腕を引いて身体を持ち上げて、童話の王子様のようにお姫様抱っこで抱え、恥ずかしい声を聞かれた愛衣は赤くなった顔を手で隠し、ミイラに連れられて部屋から出て行った。

 まあ、甲虫の王様が白馬の王子というのはおかしいと思うが。

 愛衣も居なくなり1人になった。特にやることもないし、このままもう一眠りでもとベッドに戻ろうとすると––––

 

【ふむお主だけか。だが問題はないか】

 

 そんな声が聞こえて、俺は眠ろうとしたベッドから降り、今日は大変だと思った。

 

 

 

 

 

 

 妖世館の地下に身体を動かしたい家族のためにお試しで造られた多目的訓練室。

 そんな部屋の中で突鬼と荒夜が戦っていた。

 突鬼は主武器であった音撃擦弦(バイオリン)が壊れたままなので、付属武器である弓刀を使い、荒夜は普段腰に差す刀ではなくシンプルな木刀を使っていた。

 突鬼は目の前から迫る剣閃を必死に防ぐ。対して剣閃を繰り出す荒夜は呼吸の乱れもなく静かに木刀を振るう。

 縦、横、斜めとあらゆる角度から迫りくる木刀による攻撃、殺し合いではなく鍛錬だからということで荒夜は刀を使わず、木刀を使っていた。だが、それでも当たり所が悪ければ骨が折れ、木刀の筈なのに切り傷が無数に出来る。

 一方的ともいえる荒夜の攻撃を受ける突鬼。どんどん体力も減り疲れが鎧越しに表れるようになっているのを見た荒夜は木刀を納める。

 

荒夜

【ふむ。ここまでにしよう】

 

「はーーー、はーーー」

 

 その言葉を聞き、仰向けに倒れた突鬼は荒くなった息を必死に整えようと激しく息を吸う。

 

荒夜

【やはり鬼と戦うのが経験になる。次も頼む】

 

 そう言うと和服男(荒夜)は去る。

 和服男(荒夜)が去り、息を少しずつ整えて体を起こそうとしたとき–––

 

「よう」

 

 低い声とともに顔にピトッと何か冷たいものが当てられる。

 

「また、お前か?」

 

 俺がこの生活する原因となった魔化魍とは違う異形の蛇野郎(マシンガンスネーク)だった。

 その手には俺の顔に当てていたボトルが握られていた。

 

「お前とはなんだ。少なくてもあいつとやり合ったお前を労おうとしてる俺に感謝するべきだろう」

 

「どうでもいいよ」

 

 そう言って、蛇野郎(マシンガンスネーク)の持ってきたボトルを掻っ攫い、そのまま飲み始める。

 疲れた身体に染み渡るスポドリを飲みながら目の前の異形に目を向ける。

 

「どうだ。此処での生活は慣れたか?」

 

「慣れたというより慣れるしかねえだろ」

 

「シャシャ、確かにな」

 

 そう慣れるしかない。

 鬼である俺と、いや俺たちを使って訓練しようとする魔化魍は此処には意外と多くいる。

 さきほどまで戦っていた和服男(荒夜)もそうだし。

 他にも蝙蝠女(常闇)鯱虎(拳牙)人魚剣士(美岬)柴犬(世送)馬野郎()鰐野郎()クソ餓鬼(零士)蠍野郎(レイウルス)といったメンツが週に何度か捕虜として捕らえている鬼から1人または2人選んで対鬼戦の訓練として戦わさせられている。

 大抵は鬼である俺たちが戦闘継続が不可能だと判断すると、訓練は終了する。稀に希望者が重なると日にちをズラすか、そのまま連戦することもある。

 ちなみに時折だが、捕虜ではない慧鬼や調鬼、紗由鬼といった鬼も鍛錬に付き合うこともある。

 

「ありがとうな」

 

「何がだ?」

 

 俺の言葉に疑問で口にする蛇野郎(マシンガンスネーク)に内心恥ずかしいが答える。

 

「こんな形だが生かされてることにさ。

 お前と戦い俺は負けた。だが負けたのは俺が弱かったからだ、それにお前の気まぐれか何かは知らねえがそれのお蔭で俺は生きてる。

 そこに対しては、感謝してるよ」

 

 俺は何を言ってるんだと思いながらグチャグチャな思考を戻すためにボトルの中身を一気に飲む。

 

「シャシャ、そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか居なくなっていた蛇野郎(マシンガンスネーク)を気にせずに自室である部屋に戻ろうとすると部屋の近くから声が聞こえてくる。王の家族の誰かが話してるのかと思いながら近付くと声の主の姿を見つける。

 この館の主人にして魔化魍の王となる少女(幽冥)と護衛の妖姫()と話す姿があった。

 

 この少女がこれから魔化魍の王となるとは俺にはとても思えなかった。

 見た目はそれこそ人間の少女だ。年齢も言うなら学生くらいだろう。学校を楽しみ、友達と遊び、青春を謳歌する筈だ。

 しかし、妖姫と魔化魍を家族と呼び、佐賀支部の『佐賀3人衆』の錫鬼を殺した姿を見たことがある俺はなるほどと思うこともある。

 

 そんな王になろうとする少女のお蔭で俺たちは生きている。

 魔化魍と戦う鬼の末路なんざ決まっている。魔化魍に喰われて終いだ。猛士と関わって、鬼となった人間にまともな死などない。俺自身もいつかは魔化魍に殺され、この身を喰われると思っていた。

 だが、今はどうだ?

 

 捕虜として囚われて、決まった部屋の中で暮らす。

 部屋の中でなら反抗の意思がないのなら何をしても構わない。時折くる王の魔化魍との訓練相手をするだけで良い。

 こんな姿を過激派に見られたら、『猛士のために魔化魍を道連れて死ね』と俺の身体に対魔化魍用音撃爆弾を括り付けて言うだろう。

 

 そんな考えごとをする俺を見つけた少女(幽冥)妖姫()を連れて俺に近付く。

 

「こんばんは。ええと突鬼でいいんだっけ?」

 

「ああ。でなんのようだよ」

 

「貴様、王に対してその「白いいよ」し、しかし」

 

「いいよ。白、ちょっと悪いけど、突鬼と話したいから少し向こうで待ってて」

 

「そ、そんな!!」

 

 妖姫()がガーンと擬音がつきそうな顔をして項垂れる。項垂れながら下に向く顔を私に向けると『何かしたら殺す』というような目つきで私を睨み、その場から離れた。そんな状況もあってか俺は少女(幽冥)に質問する。

 

「なあ、何でお前は俺たちを殺さないんだ」

 

 ずっと心の中で思っていたことを目の前の少女(幽冥)に聞く。

 

「うーーーん。あえて言うのなら、王の気まぐれってところかな」

 

「なんだそれ」

 

 そんな理由に今の俺はあんぐりと口を開いた滑稽な姿を晒してるだろう。

 

「まあ、貴女たちは私の家族が連れてきた捕虜。別に殺すのは構わないけど、無闇に殺しても意味がない。

 だったら反抗心をなくさせて、飼い殺しにすれば良いかなってね。あ、でも貴女たちが私の家族に手を出さないというのが確認できたらそれ(呪紐)もいつか外せるかもね」

 

「そ、そうか」

 

 少女(幽冥)の言葉を聞き考える。

 果たして、そんなことが出来る日が来るのだろうかと。

 

「大丈夫。貴女たちの身の安全は私がキッチリ家族に言っとくから安心して」

 

 その言葉を信じるとは言えないが、少なくてもこの少女(幽冥)が明確に俺たちを殺すつもりがないのは分かる。

 気まぐれと言うが、おそらく本当の理由は別だろう。その理由はおそらく––––

 

「おっと。もうこんな時間だね。私は部屋に戻るから、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

 そう言って、少女(幽冥)は先に待たせている妖姫の側に行き去っていった。

 

 部屋に入り、和服男(荒夜)との鍛錬で疲れた身体でベッドへと向かう。隣のベッドを見れば愛衣の姿はない。この時間になっても居ないということはおそらく今日はミイラのところで寝かされているのだろう。

 ひとりだと広く感じるのは愛衣がいない時のいつものことと考えながら俺はベッドに入り目を閉じた。




如何でしたでしょうか?
今回は捕まって捕虜となった猛士の鬼視点 突鬼編でした。
突鬼は大多数を占める過激派と少数存在する共存派とは違う傍観派に属する鬼です。上から命令されれば魔化魍を清めますが魔化魍を倒すのは積極的ではないです。
次回は捕虜ではなく主人公の姉(元兄)の慧鬼編です。


ーおまけー
迷家
【イエーーーーイ!♪ おまけコーナーの時間だよ】

迷家
【今日のゲストはこの人!!】

「おい。竜の落とし子」

迷家
【なに?】

「ここはいったい何処なんだよ!!」

迷家
【ここはおまけコーナー。変な人に頼まれて僕が司会をしてるんだ〜♪】

「へ、変な人?! って誰だよ!!」

迷家
【さあ〜、僕は知らな〜い。結構楽しくやらせてもらってるから〜
 あんま気にしてないんだよね〜♪】

「気にしろよ!!」

迷家
【まあまあ、気にしなーーい気にしなーーい。シワが増えるよ〜】

「お前のせいだろうが!!」

迷家
【じゃ、ツッコミは置いといて】

「置くな!!」

迷家
【突鬼への質問は、う〜〜ん。
 あ、そうだ。突鬼】

「な、なんだよ」

迷家
【突鬼って、(つがい)っている?】

(つがい)?……………はああああああああ!! なんでそんな質問が出るんだよ!!」

迷家
【だって、人間って(つが)って命を繋いでいくんでしょ?
 おまけに鬼って代々受け継いでいくみたいな感じじゃん。
 だったら産めよ増やせってなっててもおかしくないじゃん!!】

「お前ら魔化魍にそこらへんの事情がどう伝わってるのかはこの際、置いておいてやる。
 そんな質問に答えるのもバカバカしいと思うが、あえて言うなら俺に番もとい男は居ねえよ」

迷家
【なんで? 突鬼って言動はともかく綺麗だと思うんだけど】

「言動は余計なお世話だよ!! でも、まあ、ありがとう//」

迷家
【ん? なんか言った?】

「なんでもねえよ!!」

迷家
【で、なんで(つがい)が居ないの?】

「結局そこに戻るのかよ!! まあ、答えても問題ないから言うがな」

迷家
【うんうん】

「確かに猛士じゃあ、子を残せ、技を残せ、歴史を残せって上のアホどもが言っているが、そもそもな。いつ死ぬかも分からねえ仕事をやってて子孫残せると思うか?」

迷家
【無理だと思うよ〜】

「そう無理だ。
 俺は名持ちの鬼だからな。上が決めた見合いの席の話をよく上にされたが、正直言って余計なお世話って言ってやったよ」

迷家
【おお】

「何で赤の他人如きに自分の人生決められなければいけねえんだって、そん時特にウザかった上ぶん殴って北海道第2支部に飛ばされたんだよ」

迷家
【で、マシンガンスネークに負けて捕虜になったと】

「そうそう。って余計なこと言うな!!」

迷家
【でも事実だし♩】

「今ほど音叉がないのにムカついたことはねえよ」

迷家
【じゃ、時間的にお別れかな。じゃあ次のおまけコーナーで会おうね。
 バイバーーーーーイ♬】

「おい!! 何処いくんだよ。せめてこっから出せよ!!」

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