人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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お待たせいたしました。
今回のこの話で九州地方編は完結となります。
前までの話に比べて短いです。
おまけコーナーは前回の続きになります。



記録玖拾玖

 私が鉄と共に福岡支部を滅ぼし、集合場所の洞窟へ着くと。

 

鉄を除く全員

【【【【【【【【お帰りなさい王!!】】】】】】】】

 

 入り口付近で待っていた私の家族が一斉に喋る。

 聖徳太子じゃないから、そんな大人数とは話せないが、全員が私の無事や、計画の成功、戦果などを喋る。

 

「支部長を捕まえた!!」

 

迷家

【ふふんーー♪ どう、僕凄いでしょ!】

 

 そんな家族の話を聞いてる中で驚いたのが、捕虜という形になるのか、蝕や桂、迷家が捕まえた人物たち。

 蝕が捕まえたのは、鹿児島支部で主力だった焙鬼と名を持たぬ名無しの鬼こと無銘の3人の計4人の鬼。焙鬼と呼ばれた鬼は全身を布でぐるぐる巻きにされて放置されいるのだが、不気味な笑い声を上げている。3人の無銘は両手に長釘を突き刺され、脚には纏わりつくように張り付いた食香が足の自由を奪い、自由に動けないようにされていた。

 

 桂が捕まえたのは大分支部で主力であり支部長でもあった閃鬼こと布都 ミタマで、四肢を長斧で斬り落とされており反抗する気力がないのか無気力に洞窟を見ていた。

 

 そして、捕らえた人間で1番驚いたのは迷家が捕まえた宮崎支部の支部長 土浦 ふく。縄で全身を縛られてい蓑虫のように上から吊るされている。本人は命乞いをして騒ぐこともなく、状況に絶望するわけでもなく、静かにぶら下がっていた。

 更に迷家は宮崎支部から大量の鬼の道具などを盗んだらしい。

 そして、今しているのは–––

 

「捕虜で」

 

「はっ!?」

 

 流石に話すのにぶら下げたままだとということで、上から降ろされて身体だけ縄で縛った状態の宮崎支部の支部長 土浦 ふくと話をしていたのだが、驚くほど何もなく終わった。

 一応話をする前に鉄たちにこの支部長の身柄を渡そうとしたが、『我らの復讐は果たせた。後は王が決めたことに従う』と言い、縫たちを連れて、洞窟の別の部屋へ移動した。

 土浦と何の話をしていたかというと、私の名の下に5人の鬼と共に捕虜になるか、今この場にいる九州地方支部に恨みを持つ鉄たちに処刑されるか。

 鉄たちのことを考えれば、私は後者を選ぶべきだろうが、それでも少し残っている人間の心のせいか前者のことも考えてしまう。みっともない命乞いをひとつでもしたのなら、完全に鉄に任せようかなと思っていた。

 しかし、土浦はその2択を聞き悩むそぶりも見せずに『捕虜で』とすぐに答えた。

 あまりにも早い返答に言葉を詰まらせる私に不思議に思ったのか宮崎支部支部長(土浦 ふく)は首を傾けながら問う。

 

「うんと? 何か変なことを言ったかな?」

 

「いいや。そのこともそうだけど、屈辱とか思わないの?」

 

「全然!」

 

 演技かと疑うほどの即答ぶりだけど、本人の目を見ると嘘をついてるように見えない。本当に捕虜で良いと言っている。

 

「王様が不思議そうに思ってるから答えるよ。私はね別に猛士や魔化魍なんてどうでも良いの」

 

「はぁ!?」

 

 今度こそ本当に疑問だ。

 何でそんな思考をする人間が宮崎支部の支部長に選ばれているのかと。

 

「私は、一応宮崎支部の支部長だったけどね。なりたくてなったわけじゃないんだよね。

 宮崎支部の支部長は代々、前支部長からの指名と鬼数名から推薦がないとなれないっていうシステムでね。

 私は興味すら無かった。というか、思えば、何でこんなことしてるんだろうって思ってたよ」

 

 宮崎支部支部長(土浦 ふく)の言葉にどういう事かと首を傾けるとその答えが本人の口から出る。

 

「私はその時は知らなかったんだけど、猛士直営の事務所でバイトしてたんだよ。ある日、資料整理の際に偶然見つけた魔化魍の資料を見て、間違い箇所を訂正したら、何故かいつの間にか魔化魍の資料整理することになり、それで魔化魍の資料も改帳したりしてたらいつの間にか、前支部長こと上司に指名されて、私が資料整理したお陰で生き延びた鬼たちからの推薦もあったとかで、あの宮崎支部の支部長になってたんだよ。

 何で支部長になったのって最初は思ったけどお給料結構貰ってるし、仕事内容も前やってたころとあまり変わらなかったから気にすることもなかったし」

 

 想像だにしない答えだったために、この支部長にいや、猛士に対して私は呆れる。

 確かにお姉ちゃんから猛士の人材不足の話は何度か聞いたけど、いくら何でもなんの事情を知らない一般人に猛士の仕事をバイトでやらせて挙げ句の果てには責任やら何やらが付き纏う支部長に強制的にされて、本人はやってる内容がどんどん変わってる筈なのに気にしないっていうのもどうかと思う。

 

「だから、自分の命も他支部だけど部下達の命も考えるなら捕虜がいいってわけ」

 

 にこやかな笑顔で説明する宮崎支部支部長(土浦 ふく)の言葉で私含め話を聞いていた全員がなんとも言えない顔をしたのは言うまでもない。

 

 結局、捕虜という方向性で捕らえた猛士の人間たちを連れて行くことにした。

 まあ、前にお姉ちゃんが猛士の情報を教える代わりに自分達の扱いをもう少し良くしてくれという条件で交渉し捕虜の鬼2人(突鬼&衣鬼)から情報を貰ったので、約束は約束。

 ちゃんと、あの2人の扱いは少しはマシにしようと思う。そこにこの捕虜達も加われば、2人の精神的にも良いだろうし。

 そんなことを幽冥はたった今捕虜となった宮崎支部支部長(土浦 ふく)を見ながら思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕虜をどうするか決めた後、私と鉄は隠れ家の外にある山道に来た。

 

【王。ありがとうございます】

 

「いいよ別にお礼を言われることじゃないし」

 

 私はそう言いながら、鉄と石を積んでいく。その石の下にはこの九州地方脱出を行った際に亡くなった魔化魍の形が残った亡骸と清められた魔化魍の塵と灰が埋められている。

 本来なら墓石を1つ買い、それで墓を作ろうとしたが九州地方の壊滅を聞いた猛士が墓石を目にして破壊する可能性がある。それを避けるためケルンと呼ばれるものを作っている。

 ケルンは高地地帯や稜線、山頂付近で組み立てられる積み石のことで、山の頂上を特徴付けることと特定のルートを示す道標、そして埋葬場所を示し慰霊するものだ。これならば、猛士は石が積み上げられたものとしか認識しないだろう。

 この九州地方で死んでいった魔化魍たちの魂の安らぎになればいいと思い。

 

「それは?」

 

【………私の盟友コダマの遺したものです】

 

 鉄の手には樹木から流れる樹液を固めた長剣が握られていた。

 本体は古い樹木の姿をしており、不特定域に『コダマの森』と呼ばれる特殊空間を何もない場所に作り出す。そして森に迷い込んできた人間を捕えて、等身大の木の皮の人型の傀儡を使って襲い掛かるという魔化魍。

 

「しかし、コダマは巨大な樹が本体だった筈だけど?」

 

【そうです。コダマは本体が清められても傀儡である人型を使って鬼と戦っていました。度重なる鬼との戦いと今まで受けた音撃で負傷し、九州地方から逃がそうとした幼体の魔化魍たちの護衛として戦いましたが、幼体の魔化魍を逃す殿となって清められました】

 

 その話の通りなら従来のコダマよりも長く生きたコダマなのだろう。劇中においては装甲響鬼の最強音撃 音撃刃 鬼神覚声を防ぐ頑強さを誇った傀儡。しかし、本体が傷付けられたことで弱体化し、威吹鬼の音撃射 疾風一閃によって倒された。

 しかし、このコダマの傀儡が本体が無くなっても音撃を何度も受けたと鉄は言っていた。つまり、劇中のコダマよりも遥かに強大な力を持った傀儡だったのだろう。

 鉄は積み上げた石の上にその剣を突き刺し、手を合わせる。私も同じように手を合わせる。

 数秒又は数分か経ち、手を合わせるのを止めて、私は服の裾から札を取り出し、コダマの剣に貼り付ける。

 

「これで猛士からはこの剣はただの花にしか見えない」

 

 私が貼ったのは貼られてる間はその形が別のものに見えるようにする札。貼った私にはコダマの剣にしか見えないが。

 

【すごい。本当に花に変わっている】

 

 貼った者以外にはこれが花に見えている。当初はこれを買った墓石に貼る予定だったが、墓を認識できなくなるのはということからケルンに変え、目印となるものにこの札を貼るという話になった。そして、再びケルンに向けて手を合わせる。

 幽冥と鉄の死んだ魔化魍たちの魂の安らぎを願った黙祷は白と縫が迎えにくる時まで続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間経った。

 隠れ家だった洞窟の外には幽冥や家族たちがいた。

 そんな家族たちの視線の先に鉄がおり、先程まで居た隠れ家の洞窟の入り口を破壊していた。鉄曰く、『私たちは王の家族となった。九州地方支部も壊滅したことで安全だが、それでここに住んでは王たちがピンチの時に助けれない』と言い、有用な隠れ家1つを残して、全ての隠れ家の入り口を鉄たちは手分けして破壊していた。

 破壊活動が終わり鉄たちが集合場所に集まったのを確認すると幽冥たちは蛇姫の方へ目を向ける。

 

「蛇姫。分かっているでしょうけど」

 

 白が服から鉄扇を取り出し、蛇姫に脅しのような質問をすると。

 

蛇姫

【だ、だ、大丈夫です。ここに来る前に調整しましたので、問題はありません!!】

 

 鉄扇にビビりながらも蛇姫は万全を期して、正確に丁寧に調整した『転移の札』と答え、それを聞いて問題ないと思ったのか白は鉄扇をしまう。

 

「じゃあ、蛇姫お願いね」

 

蛇姫

【かしこまりました】

 

 私のお願いを聞いて、蛇姫は転移の準備に入る。

 新しい家族と捕まえた捕虜と共に帰ろう。私たちの家へ。

 蛇姫が『転移の札』を使うと、辺りを光が覆い、そこにいた幽冥たちの姿は影も形もなく消えていた。




如何でしたでしょうか?
九州地方編完結しました。
次回は、幕間となります。
今のところは猛士視点と妖世館にいる鬼視点、最初の家族VSある魔化魍を考えています。


ーおまけー
迷家
【き、君は!!】

迷家
【ランピリス!!】

「はい。ランピリスです」

迷家
【なんで君が?】

「これが理由です」

迷家
【それって、眠眠のパイプ】

「このパイプはあの子の身体の一部いや本体ともいうべきものです。
 眠眠の精神状態をこのパイプが教えてくれたんです」

「まあ、それは置いといて、私が聞きたいのは……………眠眠に何を言ったんですか?」

迷家
【んぐ!!】

「このパイプが先程の状態になるのは2つあるんですよ。
 1つは、あの子が怒りに支配されたとき。
 もう1つは、あの子の過去に関わる何かを聞いたとき」

迷家
【過去のこと?】

「ええ。詳しいことはあまり言いたく無いのですが、あの子は私の前の所有者である人間の想いで産まれたツクモガミなんです。ですが、ある事件が理由で」

迷家
【…………ごめん。僕のせいで】

「いいえ。これは話していなかった私も原因です。今はダメですが、いつか話す時がくるでしょう。
 それまでは、胸の奥にしまっておいてください」

迷家
【分かった…………………あ、ごめんねみんな。今日はここまでにしておくね。次回のお話で会おうね。じゃ、バイバイ】

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