今回は本当なら模擬戦の部分も書こうと思いましたが、かなり長くなるのと時間が掛かることに気付き、分けさせてもらいました。
ツクモガミ。
付喪神または九十九神。日本に伝わる、長い年月を経た道具などに神や精霊などが宿ったもの。
本来、魔化魍は自然発生や交配によって産まれて産みの親、童子や姫に育てられるのだが、この魔化魍 ツクモガミは長い年月を経た道具が変化して産まれた最近現れるようになった新種の魔化魍で、育て親である童子も姫も存在せず1人で生きていく。
そして、今、私の目の前にいる2体のツクモガミ。
私の右側に居るのは、北海道から持って帰ってきた貸家が変化した全身が霧に包まれて宙に浮く竜の落とし子の姿をしたツクモガミ。
向かって左に居るのは、陽太郎さんの『
2体は自分の今の姿に気付いていないのか、辺りをキョロキョロと見回す。そして、竜の落とし子のツクモガミ目が私と合った。
【………】
「………」
【………】
「………」
竜の落とし子のツクモガミは、顔を下に向けてプルプル震え出す。
様子がおかしいので、近付こうとしたら–––
【
私の身体に飛びついて来た(本日2度目です)。
だけど、地面にぶつかりそうになった瞬間に、竜の落とし子のツクモガミの周りにある霧が私の背中に集まって厚いクッションのようになり、地面に倒れずに宙に浮くベッドで横になった状態になった。
【やっと話せる。ずっと話したかったのに話せなかったから、でも
感謝の言葉を述べながら私の身体にすりすりと頭を擦り寄せる竜の落とし子のツクモガミ。
【えーと、あ、そうだった。僕はマヨイガ。
そして、すりすりとするのを止めて幽冥から離れて、思い出したかのように頭を下げて自己紹介する竜の落とし子のツクモガミことマヨイガ。
「じゃあ私も紹介するよ。私は安倍 幽冥。貴方達、魔化魍の王になる予定の人間よ」
幽冥もマヨイガに向けて、自己紹介を返す。
【人間? まあいいや♪
マヨイガは霧から幽冥を下ろして、動かずに静かに佇んでいる骨の戦艦に乗った蛸足を生やした硨磲貝の人型のツクモガミに近付き、尾で人型を捕まえて、私の側に降ろす。
【ほらほら、
【………はあーー】
目が無いはず(私から見たら)なのにマヨイガを睨んでいるように見える硨磲貝の人型のツクモガミは溜め息を吐き、私の方に身体を向けて、立膝になる。
【初めまして王、私はユウレイセンと申します」
幽冥に向けて、挨拶をすると同時にその姿を変える。
白の巫女服を着て、青いスカートを履いた女性に姿を変える。そして、その背後にあった筈の骨の戦艦も消えていた。
「王。目覚めて早々に悪いのですが、会いたい人がいるので、そちらに向かって宜しいでしょうか?」
私はユウレイセンの言葉を聞き、会いたい人というのに気になったが、私は立膝をしているユウレイセンに許可を与える。
ユウレイセンは真顔に近い顔が少し喜んだ顔に変わったかと思えば、直ぐに真顔に戻り、そのまま立ち上がって会いたい人がいる場所に向かって歩いていった。
歩いていったユウレイセンを見送った幽冥はマヨイガを呼び、他の家族に紹介するためにその場を後にした。
SIDE鋏刃
妖世館は3階建ての洋館に睡樹や唐傘などがいた地下室があるが、この館の主人である幽冥の指示で地下室の下にさらに地下の部屋を造っていた。地下の部屋を造っている理由としては色々ある。
まず1つは、家族である魔化魍達の本来の食事である人間を大量に保存する為の部屋。
陽太郎さんから保存人間を貰ったり、料理人である炭火焼オルグことおっちゃんやドルフィンオルフェノクこと野間 茂久が料理を作ったりしているが、それでも人間の食事を必要としそれによって消耗する。
だからこそ、まだ保存人間がある間にこの部屋を造ることによって定期的に人間をご飯として提供できる。
2つ目は、今後も増えていくである新たな家族が暮らせる場所。
あらゆる魔化魍が家族として暮らす妖世館は多種多様な魔化魍によっては住む環境が違い、その環境下でしか生活できない者もいる。そんな家族の為に環境にあった部屋を造る。
これによって、少しでも生息環境に近い状態で暮らすことでストレスなどを減らしたりする。
そして、地下室の部屋に掘られた穴の中に2体の魔化魍がいた。
穴を掘っている顎とその背後からついてくる鋏刃である。
顎
【ちっ! またか、鋏刃頼む】
顎が掘った先には巨大な岩盤があり、顎の掘ろうとしている進行方向を見事に邪魔をしていた。
背後にいた鋏刃に岩盤の前に移動する。
ンキィ、ンキィ
顎の頼み事に鋏刃の鳴き声と鋏の音が響き、鋏刃は目の前にある岩盤に向けて、溶解泡を吹き付けて、更に背中を岩盤に向けると、背中に生えた藤壺からも溶解泡が吹き出し、先に吹き付けた泡と合わさり、岩盤を溶かしていた。
顎
【すまねえな鋏刃】
地下室の建設に関わっている顎が目の前の岩盤を溶かした鋏刃に感謝の言葉を述べ。鋏刃はそれに対して気にするなというように鋏をカチカチ鳴らす。
何故、地下室の建設に鋏刃が関わっているのかというと、今溶かした岩盤が理由だ。
この妖世館の下にある地面には理由は不明だが、土を掘ることに長けた魔化魍でも掘り壊す事が難しい岩盤が土の層が変わるところで、出ては掘る作業の邪魔をする。だが、この程度の岩盤なら顎の出す蟻酸でも溶かすことが出来るが、それでも溶けるのは僅かな部分だ。
そこで顎の背後にいた鋏刃が出てくる。鋏刃の種族であるバケガニは人間を溶解泡で溶かして骨にした後に喰らう魔化魍である。更に鋏刃には背中に生えた藤壺があり、そこからも溶解泡を吹く。
そして、鋏刃が出す泡と背中の藤壺から出る溶解泡を合わせると強力な溶解泡に変わる。その泡によって、顎の蟻酸でも溶かすことが出来ない巨大な岩盤をものの数秒で溶かす。
顎
【こっからは、俺でも行けそうだ。上がって大丈夫だ】
顎はそう言って、溶かした岩盤の先にある土に顔を突っ込み、そのまま巧みに顎を使って、土を退かしながら掘り進んで姿を消した。
顎が見えなくなったの確認した鋏刃は顎の掘った方向とは逆の方に進み、掘った入り口である穴から、這い出る。
穴から這い出た鋏刃はその巨体で部屋を壊さないようにその姿を変える。
右側頭部に蟹の鋏を模した髪飾りを着けた朱色の髪に割烹着を着た女性に姿を変える。
私はバケガニの鋏刃。魔化魍の王になられる幽冥様の家族。
顎からの頼み事も終わったので、私は最近の日課になりつつある船の整備に向かうおうと、地下室の扉に手をかけようとすると。
ガチャっと開けようと思った扉が開き、白い巫女服に青のスカートを履いた表情が無い女性が入ってくる。
この妖世館に住んでいる家族で見たことも無い姿の者を見た鋏刃は、扉から入って来た女から距離を取るように離れて、片腕だけ本来の姿であるバケガニの腕に戻して、女の動向を見ていた。
「見つけました」
「!?」
女は一瞬にして、距離が離れている鋏刃の前に現れ、突然現れた女に驚いた鋏刃は女に両腕を掴まれて、そのまま押し倒される。
女はそのまま鋏刃の顔を見て、その口角を少しあげる。
「ようやく見つけました。この館が広いのは、貴女が言っていたから知っていましたが、探すのに少し時間が掛かりました」
何に喜んでいるのか分からないが、この女はどうやら私に用があったようなのだが、私はあいにくこの女を知らない。
だが、人間では無いことは確かだ。私の総体重は少なくても目の前の女が押し倒せる程に軽くはない。だから、考えられるのは、私と同じ同族である魔化魍の擬人態である。
「どうしましたか?」
「……すまんな。私はお前が誰なのか分からなくてな」
女は少しショックを受けたような顔をするが、すぐに表情の無い顔に戻り、思い出したかのように口を開く。
「そうでした。この姿では貴女に会うのは初めてでした」
鋏刃の上で馬乗りの体勢に変えて、身嗜みを少し整え、女は自己紹介をした。
「私は貴女に沈められずにそのままこの館に置いてくれた船のツクモガミのユウレイセンです。本当にあの時は沈めないで有難うございます」
その言葉を聞き、鋏刃はあの世界から持って帰ってきた船を思い出し、女の正体が自分があの時に沈めるなと言った船が魔化魍になった存在だと知る。
確かにあの時、鋏刃は船を沈めようとする穿殻や浮幽に言って船を沈めるなと言ったが、それが何故、今のようにユウレイセンがまるで娘が母親に甘えるように鋏刃の膝に頭を乗せるているのか鋏刃は理解できないが。
「(………まあいいか)」
まるで気にしないと心の中で思った鋏刃はかつて自分を育ててくれた母のような存在であるバケガニの姫が生きていた時によくして貰っていたように膝に頭を乗せていたユウレイセンの頭を撫でた。
SIDEOUT
今、手の空いていない家族を除いて、マヨイガを家族に紹介していたら。
ルルル、ルルル
【えっ! ちょ、ちょっとーーーーーー】
突然、浮幽が触手でマヨイガを拘束して、妖世館の外に出て、私や他の家族も浮幽を追いかけて外に出る。
外に出ると、マヨイガを投げ飛ばし、赤と青の炎を灯した触手をうねらせて浮幽はマヨイガに攻撃を仕掛けた。
如何でしたでしょうか?
オリジナル魔化魍のユウレイセンは茨木翡翠さんのアイディアです。茨木翡翠さんアイディアありがとうございます。
次回はマヨイガと浮幽の戦闘回と家族の中のある1人が誘拐される回です。