【真説】安珍・清姫伝説   作:月光法師

2 / 10
所々に伏線を張ってます。
回収してもしなくてもいいように張ってます。
回収したら安珍に良いこと尽くしです(ゲス顔)





白くうねるアンチクショウ

 

 

道中、立ち寄った村である噂が広がっている。

 

最近この辺りで可笑しな怪異が起きているというものだ。内容は、くねくねと動く白い物体を見た者が複数おり、確かめるために近付いて行った者達は皆戻らず、心配した村人たちで捜索に行ってみれば、そこには呪いを掛けられたように可笑しくなった村人たちがいたそうな。

 

村人たちはそれからも何度か遠目にくねくねと動く白い物体を見掛けることがあったのだが、その度に村人全員が家の中に閉じ籠ることでやり過ごすようになったそうだ。触らぬ神に祟りなし。恐らくくねくねと動く物体に近付いたが故に、最初に確認をするため動いた村人たちは可笑しくなったのだろう、と。そしてくねくねと動く物体は作物や家畜などに被害を出さないことから、やはり普通の生き物ではなく、下手をしたら神仏に名を連ねる者なのではないかと。以降、村人たちはその白く動く物体をくねくね様と呼称するようになったそうだ。

 

ただ、もしかすると神仏かもしれぬとは言っても、これ以上村人に被害が出ては堪らないということで、作物や家畜などを供物として差し出し、社を作って奉るようになったとか。

 

村人の誰もが安心した。これでもう大丈夫だろう、と。根拠などなにもない、不確かな安堵を村人全てが共有してしまったのだ。

 

そして事件は起こった。

 

社を作り、供物を差し出してから、幾らかの期間は何もなかったのだ。くねくね様を遠目に見ることすらなくなった。だからこそ村人は安堵したとも言えるが。しかしそれは、くねくね様が居なくなったわけでも、抱いてもいない怒りを鎮めたからでもない。

 

いうなれば嵐の前の静けさであった。

 

事件が起こったのは、ある日の夜のことだ。とある夫婦と幾人かの子供が住む家があり、そこが事件の最初の被害者となった。運がいいのか悪いのか、そこに住む夫婦の片割れ、夫の方が厠へ行くために夜中に起きたそうな。厠と言っても外に穴を掘っただけの簡易なもの。それも村に住む薬師の助言により、匂いや病を気にして少し離れたところに作ってあった。

 

夫は厠へ向かい、早速尿を足していたわけだが、そこでなにやら白い影を見た。寝惚け眼なのも手伝い眼の端にチラッと映っただけだった。その時は猫か何かだろうと思い、すぐに頭の彼方へと追いやりボーッとしながらも尿を足し続けていたんだそうな。

 

その時、突然に家の戸がガラリと開いた音がした。

 

(ははぁん、ガキの誰かが小便しに起きてきたな?)

 

とボンヤリ思いながら夫は尿を足し終え、クルリと踵を返し家に向かったんだそうな。

 

家の前について不思議に思った。

 

(なんで戸が開きっぱなしなんだ?)

 

もしかしたら寝惚けて開きっぱなしにしていたのかもしれない。夫は納得して家に入り寝床に向かおうとした。2部屋ある内の奥の部屋だ。そこは戸で仕切られており、そこも開けっぱなしになっていた。

 

また開けっぱなしにしてたか。頭を1つ掻いて仕切りの戸へと向かう途中、身体が喉の渇きを訴えてきた。

 

(ついでに水でも飲んどくか。)

 

夫は甕の蓋を外し杓子を持って顔を瓶に近付け水を啜った。

 

ふと、鮮明になった頭で不可思議に気付く。

 

(うちのガキはどこに行ったんだ?)

 

小便をしに出て来たと思った子供と会わなかったのだ。可笑しい。必ずすれ違う筈である。それに、小便を足しているときにチラリと見えた白い影、人程の大きさではなかったか?今に思えばあれが猫とは思えない。ブルリと身体が震えた。

 

その時、またもやガラリと音がした。

 

バッ!と音がするほどの勢いで頭を上げて家の戸口に顔を向ければ、またもやチラリと見えた白い影。家から出ていくのがほんの少しだけ視界に入った。

 

可笑しい。可笑しい可笑しい可笑しい!

 

途端に頭の中で膨れ上がる疑問と恐怖。

 

そこで気付いた。

 

(俺の家族はどうなったんだっ!?)

 

手に持っている杓子を放り出し、奥の部屋へと駆けていけば開けっぱなしの戸をくぐり抜ける。そこにあったのは、可笑しくなってしまった家族の姿であった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

………いやこれってさ、くねくねぇええええええええええええええええええ!!?!!?!!?

 

待ってくれ。

 

なんでくねくねなんだよ。

 

現代の怪談話じゃなかったのか!

 

そして村長共!頭揃えて下げるんじゃない!お前らにとっては運良く村に寄った僧に助けを乞いたいんだろうが、私は御免だぞ!

 

と思ったのだが、私が今回この村に寄ったのは路銀と食料を手に入れるため。

 

面倒だが致し方ないか。……外では住職様の監視もあるしな。

 

「事情は分かりました。そのお話、お受け致しましょう。」

 

「ありがとうございます法師様。すでに村ではいくつもの家にくねくね様が入り込んで、被害は大きくなるばかり。どうか、どうか!この村をお救いください!」

 

「ええ、我が全霊を尽くさせていただきましょう。ただ、この村に寄ったのは少々の路銀と食料のため。この怪異を解決した暁には、そこのところを融通して頂きたいのです。」

 

しっかり言わせてもらう、そりゃ勿論のことだがね。この時代にただ働きなんて阿呆のすることだ。

 

「はい!その時は必ずや!」

 

はい言質とった!

 

「では、日の明るい内に準備を始めましょう。」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

さて、用意は全て終わった。

 

やったことは簡単だ。拳大の石を集めて4つ一組とし、そこに結界を施すために印と術を施す。そしてそれを各家の四隅に置いてもらう。今回は結界とはいっても、異物を感知するためだけの機能しかない感知結界だ。故に作るのは簡単だった。それに、くねくねが来るであろう家をある程度まで絞って結界を設置したというのもある。人と結界を設置した家の数は5件。その他の家の者には、中々の広さの屋敷に住んでいる村長宅に集まってもらった。この村長宅にだけは力を入れた結界を張った。効果は視認不可と気配遮断。

 

餌として5件の家にいてもらう勇気ある者たちには万が一のために守りの護符を渡してあるし、まあ大丈夫だろう。

 

さて、もうそろそろ夜も深くなってきたが。

 

……これは少しだけ村を調査して行き着いた考えだが、くねくねは間違っても神仏の類いではない。明らかに妖怪の類いだ。それも見た者を呪いにかけるという質の悪いものだ。しかし、この呪い厄介ではあるが強い者ではない。くねくねの詳細な姿を見なければ呪いにかからないのがその証拠である。本当に神仏クラスならば視線一つでもっと強い呪いをかけることが可能だ。

 

厄介な部分はどこであるのかといえば、やはり精神に作用する部分だろう。この御時世、呪いをかける方法は腐るほどある。それはそこらへんの村人でも可能だし、呪術師という呪いを生業にしている者もいる程だ。下手したら陰陽師や僧侶崩れというのもあり得ない話ではない。要は呪いを仕掛ける側が多いため、少し頭が回るものなら自身の存在を隠して呪いを実行することが可能なため、大元に辿り着くのが面倒なのである。例えば人を操作して、そいつに目的の人物を呪わせるとかな。

 

だからこそ、この村は不幸中の幸い。くねくねという犯人がすでに分かっているのだから。しかも、見た者の精神を壊すとは言っても、遠目に見たり、くねくねの一部しか見ていないものには呪いがかからず、しっかりと情報を提供してくれる者を量産している始末。これがくねくねを見かけた者全てが狂ってしまっていたら、それこそ時間と手間がかかり厄介だった。

 

………おや、どうやらかかったらしい。

 

早速行くとしよう。隣の村長に一言置いてな。

 

「村長殿、どうやら奴が現れたようですので行って参ります。」

 

「本当ですか!御武運を!法師様!」

 

わたしは村長の言葉を背に駆け出した。この地獄の修行で身に付いた肉体強度は常人では捉えられない速度を生み出す。村長からは私が一瞬で消えたようにみえたことだろう。

 

然程時間もかからず、くねくねが出現した家に到着した。

 

ガラリと戸を開ければ、白いくねくねと動く気持ち悪い物体と、怯えて部屋の隅で震える村の若者。どうやら奴を見ても呪いにかからずにいることから、私の渡した守りの護符は正常に作用しているらしい。

 

うん?私か?化け物共とやり合うため必死に鍛え上げた心身だぞ?こんなの効くわけがないだろう。

 

「法師様!来てくださったんですね!」

 

若者が叫ぶように声を発した。相当怖かったと見える。私から見れば気持ち悪いだけだが。

 

「そこを動かないでください!いいですね!」

 

若者は必死に頭を上下させているし、あまり心配はいらないだろう。この場では彼に実害がないため、くねくねを逃がさないため家の入り口に立ち逃げ道を塞ぐ。

 

それにしても見れば見るほど気持ち悪い見た目だ。常にくねくねと動き続けている身体に、ニヤニヤと笑っているように、いや嗤っているように見えてしまう卵型の頭部。

 

「さっさと終わらせましょう。あまり長く見ていたい者でもないですからね。」

 

錫杖を右手に、数珠を左手に持つ。左手は顔の前で祈るように構え、錫杖を地に打ち付ければ、ジャラン!と聴くものの心を洗い流すような音が鳴り響く。その音に術を乗せれば、数珠の力も合間りどんどんと力が増幅されていく。くねくねに音が届いたときには、くねくねを囲む5つの光の輪が既に現れている。

 

伍光の権(ごこうのげん)!」

 

唱えれば、光の輪がくねくねを縛るように収縮する。ふん、やはり雑魚だったようだな。

 

ジャラン!と更に錫杖を鳴らせば、光の輪が内包する力を解放するように光を放ち、くねくねが光に包まれた。この部屋も強い光に満たされ、常人では何が起こったのか分からずに反射的に眼を閉じてしまうだろう。

 

証拠に村の若者は眼を閉じて両腕で顔を覆ってしまっている。

 

光が収まる頃、そこにはもう、なにも残ってはいなかった。あっ、家はちゃんとあるぞ?くねくねが一片も残らず消えてしまったのだ。

 

「もう安心ですよ。」

 

軽く微笑みながら村人に声をかければ、最初は茫然としていたものの、すぐに正気を取り戻し、

 

「ありがとうございます法師様!すぐに他のやつらにも知らせてきます!」

 

と言って家を出て行ってしまった。

 

うむ!完璧!私って優秀!

 

これにて一件落着よ!

 

 

 






安珍を過労死させたいんだが、それを考えるとこっちの脳が過労死しそうになるから困る


※追記
アドバイス頂きましたのでここに書かせてもらいます。
原作をすでに知っている方へ向けて、
本作において、『気』は魔力とイコールです。そのため、術やら陰陽術やらもイコール魔術と解釈ください。世界観を考えた上でこうした名称にしております。少しややこしくしてしまい申し訳ありません。

恐らく、これからも「こんなとこ気にしなくていいんじゃ……」とか、逆に「ここは気にした方がいいんじゃ……」といった部分が出てくるとは思いますが、長い目で見ていただければ幸いです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。