おれはお前を応援してるぜ(愉悦)
源氏に産まれたと思ったら安珍だった
───時は平安。
前世の記憶有する1人の男児がこの世に生を受けた。
この男児、産まれた当初からなんとも奇怪な運命の持ち主である。その奇怪な運命はこれからの人生の中でさらに複雑な様相を呈していくこととなるのだが、勿論のこと現在泣き叫ぶ赤子の男児は想像もしていない。
これはある武士の家系に産まれた男児のお話。
悲劇とも、喜劇とも言える生涯を綴った英雄のお話。
もし少しでも気になって頂けたならば御照覧あれ。
◆◇◆◇◆
私はどうやら、もう一度この世に生きることを赦されたようだ。全くもって可笑しなこともあるものだな。死んだ筈の人間が再び生を持ったと思えば、なんとそれは過去の世であったのだからな。
平安時代。
私が生きていた時代ではそう呼ばれていた。つまり、西暦1000年前後の世界に今の私は生きているわけだ。
あまり社会や地理に詳しいわけではない故、今がどんな社会情勢なのか、地域でいえば何処に居を構えているのか、全くと言っていいほどに分からん。
だが分かることもある。
この世界、力をつけねば容易く死ぬということだ。なんとこの世界では、妖怪や妖といった類いのものが蔓延っているらしい。いや、どこの創作物だそれは。しかも、この世界の人間ももはや人間と呼べる存在ではない。武器を持って振るえば岩を断ち、拳を突き出せば大地を割る。……おいふざけるな。
勿論それは戦いに身を置くものに限られるのだが、一般人も逸般人であった。なんで何百キロもあるような物をほいほい持ってるんだ?頭は大丈夫か?くそがっ!
とりあえず力を着けることを第一に考えないといけないと考えて行動している。
まぁしかしこの問題は呆気なく解決した。
私が産まれたのは武家であり、そこの三男であるからだ。というか源氏だった。
源 氏 だ っ た。
………。
なんだこれ。いや、なんだこれ。えっ、喜べばいいのか?それとも嘆けばいいのか?いやまあ今はまだ衣食住に恵まれて、剣術に体術、勉学などなど、様々なものを手に入れる土台がすでにあるためかなりの幸運であると言える。言えるけども!!!!!
なんか盛大な死亡フラグな気がするのは私だけだろうか。
ちょっと源氏から離れたい(願望)
理由としてはあれだな、妖怪退治に戦争にと死ぬ確率が非常に高いのが頂けない。これはどうにかならないものか。
ということで少し行動してみた。
そしたらなんか、源氏から離れて寺に出家することになった。
な ん で だ !!!!
えっ?なんで?なんでなん?どこがどうしてそうなった?
兄弟めちゃくちゃ多いし、源氏から離れたいって言えば離れられるんじゃね?と思ったから父に言ったわけだが、うん、簡単にオッケー貰ってしまったよ。喜んだよ。そしたらそこでいきなり、
「お前、ちょっと出家してきてくんね?」
どういうことだぁぁぁあああああああ!!!!!
それからあれよあれよと準備させられ、父の知り合いに住職がいるということでその寺、道成寺という寺へと連行された。
そこで住職に挨拶をした時、こう言われた。
「お主、これからは『安珍』と名乗るのじゃ。」
うん?安珍ってなんか聞き覚えが……。
ご丁寧に墨汁で書かれた紙を手渡され、文字を見たときにピンときた。
安珍・清姫伝説の安珍じゃね?
あっ(察し)
いやまぁ?もし清姫と出会っても不義理を働かなければいいわけですし?うむ、問題あるまい。……ないよね?
それからは修行に勉学、そこに道成寺での家事が加わっただけで今までの生活と余り変わりはしなかった。
ただ、気を用いて不可思議な術を行使できるようにする修行は楽しかった。どうやら陰陽師も同じようなことが出来るらしいし、出会うことが出来たらそちら方面も学んでみたいとは思った。
それからは代わり映えのしない毎日だ。
喰えないクソジジィの住職にボコボコにされ、道成寺を掃除し、鬼畜で容赦のない先輩たちにボコボコにされ、道成寺を掃除し、同時期に入ってきた同門たちをボコボコにし高笑いした。
そうして一定の実力が着いてくれば、住職から妖怪退治に強制出向させられるようになった。
恐ろしい燕と戦い、あり得ない強さを持つ鬼と戦い、神と見紛う竜と死闘を繰り広げた。
改めて思った。
この世界おかしい………。
そんなこんなで信じられない生活を続けていたのだが、ある日住職様に呼び出された。
今度はどんな無理難題かと見構えていたのだが、
「お主、旅に出ろ。拒否権はないぞい。」
どうやら、私は尋常ではない速度で成長しているらしく、まだ若造だというのに1人で旅に出るよう言われた。なんでも見聞を広め、行く先々で教えを説き、困った人がいれば助け、要は自身を更に高めるため、並んで世直しの旅に出ろということらしい。
本来ならば、私のような若造が旅に出るときは、正式に僧侶と認められた師匠とでも呼ぶべき存在の付き人として出向するらしい。
しかし、私は実力も学も十分以上に達しているらしく、旅に出ろと言われたその場で袈裟と具足戒を手渡され、正式に僧侶として認められた。階級は勿論のこと低いわけだが、僧侶の階級は実力や学ではなく、僧侶としての年数で決まるとのことだ。僧侶は日々厳しい修行をしなければならず、その修行を長く続けた奴ほど偉くなるという寸法だ。
あとこれもその場で住職様に聞いたことなのだが、
「実はのぉ、お主をもっと早くに旅に出そうと思っとったんじゃ。しかしのぉ、お主を叩くのは色んな意味で楽しいし、よく働いてくれるしで、中々旅に出すよい瞬間が見つからんかったんじゃよ。うむ。あ、今回の旅の期間は1年じゃから。」
このクソジジィ!!!
他のやつには手解きをたまにしかしないくせに、私のところには毎日ボコボコにしにやって来たのはそれが理由か!?叩くのが楽しい!?こっちは毎日地獄の時間だったんだぞ!!
それによく働いてくれるしって!なんか明らかに私よりも強い妖怪討伐が多くね?って思ってたけど!さては自分の仕事とか誰に回すか迷った仕事を全部私のところに寄越したんじゃないだろうな!?色んな人が「前より妖怪討伐の仕事期間に間が出来てるよな?前までは余裕ないくらいだったから助かるんだけどな。アッハッハ!」とか言ってた意味分かったわ!
しかも今回の旅はって!次も旅に出す気まんまんじゃないか!
この狸ジジィめぇええええええ!!!!
この時、私は盛大に顔を引き連らせていたのが自身で分かった。
現在は日もまだ昇っていない早朝だ。
袈裟等を含めた法衣を身につけ、編笠と錫杖を手に携え、その他の必要最低限の荷物は風呂敷に包み肩に背負う。
外に出ればとても清々しい空気が肺に入り込んでくる。天気は良く、雨の降る心配はしなくて良さそうだ。
見送りはない。昨日の内に話は済ませてあるのもあるが、この旅は修行も兼ねているためというのが大きな理由だろうか。何処までも堅いのは今に始まったことではない。
「では、行って参ります。」
壮大な門に一礼してから踵を返し階段を降り始める。
今この胸に占めるのは歓喜だ。
1年間はこの寺から離れられるぞ!住職様にボコボコにされずにすむぞ!妖怪退治の仕事を請け負わずにすむぞ!という歓喜だ。
お前僧侶だろ、そんなんでいいのかって?
いいんだよ(ゲス顔)
この1年は長期休暇だと思って諸国漫遊するから!私はやっと自由になったのだ!ふははははははは!
その時だ。
1羽の烏が私の肩に止まった。
「安珍よ、お主の動きわしが見といてやるからの。しっかりやるんじゃぞ。」
ク、クソジジィの声が烏から聞こえてきた、だと!?
えっ、っていうか今、私の動き見とくって言った?それって堂々とした監視宣言だよね?私のプライベートはどうなんの?
終わった(確信)
だってこの化け物住職様から逃げ切れる気がしないんだもの。これはあれか、わしからの監視を振りきれる程度には力を着けろよってことなのか。そうなのか。分かった。私頑張るわ。ちょっと本気出すから。
……今に見とけよクソジジィ!!!!!
安珍は美形です。
魅了の魔術顔にかかってね?
ってなるくらいには女性を魅了します。
なんでかって?
察しろよ(ゲス顔)
ちなみに型月についてあんまり詳しくないので、そこのところはご了承頂きたい。