今回はあのウニ頭を出します。
はい、誰だかわかるかなー(棒読み)
それではどうぞ~
先程の銀行の一件から数分後、北桐はこれからお世話になる寮の管理人に挨拶をして部屋の鍵をもらい、管理人に言われた番号の部屋に向かっている。その顔はこれでもかというくらいにご機嫌であり、鼻歌まで歌っている。
それもそのはず、北桐はこの世に生を受けてからの15年間を両親と、そのうちの13年間を双子の妹を合わせ計5人で暮らしてきた。そんな北桐が今日から1人暮らし。思春期男子からしたら、これほど魅力的なものはないだろう。最初は寂しくなるなと思っていた北桐もいざ管理人から鍵を手渡されると、寂しさや不安よりも新生活への期待や自由を手に入れたという高揚感が上回り、現在の状態に至るというわけだ。
エレベーターが北桐の部屋のある階で止まり、扉が開く。視界には真っすぐ伸びる廊下が目に入る。彼はそこを軽い足取りで進んでいき、自分の部屋の前に到着し、立ち止まる。そして、これから始まる1人暮らしの第1歩を踏み出すために鍵穴に鍵を指し-------
「はあ~~~………」
-------込もうとした瞬間、何処からともなく聞こえてきた溜め息が彼の行動を中断させた。その溜め息の発生源に目を向けるとそこには、隣の部屋の前で体育座りをしている男がいた。
side北桐
(何だろうこの人。)
それが僕が彼に思った最初の疑問だ。確かに視界には入っていたが、遠目から見てごみの入ったゴミ袋かと思いあまり気にはしなかったが、近くで見ればそれがゴミ袋ではないことはすぐに分かった。
その男の顔は下を向いているため見えないが、髪はボサボサのウニ頭で服装は学生服の冬服だ。少し寒いのか小刻みに震えている。何故こんなところにいるのかは定かではないが、彼から漂うどんよりとした雰囲気から察するに何か不幸なことがあったのだろう。僕からしてみれば新生活の第1歩を邪魔をされて釈然としないが、明らかに落ち込んでいる人を見捨てて、のこのこと家の中に入るのは心苦しい。しょうがないので話しかけることにした。
「あの~、すみませ~ん。」
「うん?……うわっ!い、いつのまに!」
彼の容姿はこれと言って特徴がない平凡なもので、その顔は突然声を掛けられたためか表情が驚愕に染まっている。目尻には涙が溜まっていて鼻水を垂らしているところを見ると、先程まで泣いていたのが見て取れる。多分だが自分と同い年だろう。なら敬語はいらないか。
「なあ、どうかしたのか。こんなところに座ってたら風邪引くぞ。」
「………入れないんだ。」
「え?」
「入れないんだよ。実は上条さん、鍵を無くしてしまってですね……それでしょうがなくここにいるんでせう。」
なるほど、つまりこの上条さん?とやらは家に入れなくて泣いていたということか。
「それなら管理人さんに合鍵を貰えばいいんじゃないか。確かに少し叱られるかもしれないが、ちゃんと謝れば……」
「ダメだった。」
「は?」
「2日前にも鍵を無くして、その時合鍵を貰ったんだよ。鍵を再発行するのにあと1日掛かるみたいで………」
何とも不幸な人だ。この短期間でそんなに鍵を無くす人なんて見たことがない。
「……ならホテルに泊まるのはどうだ。それがダメなら友達の部屋とか………」
「金の入った財布は鍵と一緒に落として、友達の部屋には訪ねたけど、どいつもこいつ事情があってダメだった。」
「……………」
ここまで来るとフォローのしようがない。この人はギャグマンガのキャラクターか何かなのだろうか。の○太くん顔負けの不幸ぶりではないか。でもそれなら尚更このままにしておくわけにはいかなくなった。
「なら、僕の部屋に来るか。」
「………え?ホントか?」
「うん。実は僕、今日から君の隣の部屋に住むことになったんだ。まあ、引っ越してきたばかりだから何も無いけど、それでも良いなら………」
と言った瞬間彼は僕の手を両手で力強く掴み、まるで救世主を見るような目で見てくる。
「ありがとう!ホントにありがとう!」
「う、うん。それじゃあ中に入ろうか。」
まさか1人暮らし1日目にして、しかもまだ一度も入っていない部屋に呼ぶことになるとは。
あ、そういえば………
「君の名前は何て言うのかな?僕は北桐博威。博識の博に威厳の威で博威だ。」
「あ、ご丁寧にどうも。俺は
「………うん、これからよろしく。」
これが
それから上条を中に入れて、自分の手荷物を置いたところで、自分がここに来てから何も食べてないことに気づき、上条に頼んでファミレスに案内してもらうことになった。
「いいのか、本当に奢ってもらって。」
「うん、別に気にしなくていいよ。それに案内してもらったのに、1人だけご飯食べるのは気が引けるからね。」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。あ、でもお金はちゃんと後で返すから。」
「いいよ別に。自分で言うのも何だけど、引っ越し祝いを1人でするのは、ちょっと寂しいからね。」
「………以外と寂しがり屋なんだな。」
「まあね。だから、これから1人でやっていけるか不安だよ。」
これは本音だ。確かに新しい生活は凄く楽しみだが、やはり心のどこかで寂しさは抜け切れないでいる。ここにいれば、能力を持っている自分を受け入れてくれるとは思うが、上手くやっていけるかと聞かれれば、それは分からない。
この学園にいる学生の6割はlevel0、つまり無能力者なのだ。その中にはlevel5である自分を疎む人もいるだろう。自分が通う学校は低能力者、無能力者の人が沢山集まっている。下手したらはぶられるかもしれない。人は自分が持っていない物を羨み、嫉む。それはしょうがないことなんだが、それが分かっていたとしても、友達は欲しいし、上手くやっていきたい。どうしたものかと考えていると、突然上条が口を開いた。
「1人じゃねえよ。」
「え?」
「少なからず俺はいるし、さっきも言ったけど困ったことがあったら俺が出来る範囲で助ける。だからそんな悲しそうな顔するなよ。」
……どうやら無意識のうちに感情が顔に出ていたみたいだ。恥ずかしくなって顔を逸らすも、上条はまだ言葉を続ける。
「それにさ、俺も最初不安だった。自分の体質で誰かを傷つけてしまわないかとか、上手くやってけるか、とかさ。でも案外上手くいってるし、俺はこの体質のおかげで困っている人を助けることの出来る機会に恵まれた。ここに来たからこそ自分の体質に誇りを持てた。だからお前も大丈夫だよ。」
僕は上条の言葉に聴き入ってしまった。今まで心配してくれる人はいたが、ここまで真っすぐな目を向けてきたのは、家族以外ではこいつだけだ。自分からしたら会ってまだ数十分の彼が何故ここまで励ましてくれているかさっぱりわからない。だがその疑問とは裏腹に自分の口が勝手に動き出した。
「僕、今日能力検査受けて、level5になったんだ。level5が凄く希少で僕を含めて8人しかいないって聞いた時、凄く不安になった。ここでも僕は特別視されるんじゃないかって、周りの人と対等になれないんじゃないかって。そう考えるとホントに不安でさ。」
「………そんなことねえよ。」
「え?」
「お前は周りと対等になりたいんだろ。ならそれを周りに分かってもらえばいい。確かに俺もlevel5って聞いて驚いたけど、それだけだ。別にお前を特別視するつもりもないし、お前はお前だろ。あってまだ数十分の奴が何言ってんだと思うだろうけど、俺はお前が助けを求めたら助けるし、支えになる。----俺はお前の味方だ。」
「……………なんで、なんでそこまで。」
分からない。何でそこまで真っすぐな目でそんなことが言えるのか。
「何でって、'友達'を助けたいと思うのに理由が必要なのかよ。」
その言葉を聞いた瞬間、頬に温かいものが伝うのを感じた。
「……本当にいいのか、僕と友達になんて。」
「何言ってんだよ、既に俺はお前のことを友達だと思ってるよ。」
「………ありがとう。改めてこれからよろしくな、上条。」
「おう!こちらこそよろしくな北桐。」
そう言って僕と上条は握手を交わし、笑いながらファミレスに向かう。
今日僕に学園都市に来て初めての友達ができた。
どうでしたでしょうか?
今回で第0章は終了です。
次回も頑張って早めに書きたいと思うので、
皆さんお楽しみに~