異世界での生活も楽ではない   作:XkohakuX

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第8話 *亜人は強い奴は強い*

ザザザッ。

裕兎とカエサル、シャネルは獣人種(ビースト)の集落を見つけ、崖を砂煙を上げながら滑り降りる。

「亜人の遺体が多いのぅ。そこら中に倒れとるわい...。」

カエサルは周りを見渡し獣人種(ビースト)がやったと思しき光景を目の当たりにし少しながらも畏怖を感じた。

「とりあえず、今は先を急ぐぞ。」

裕兎はカエサルにそう言うと走って奥へと進んで行く。

「そうですな。」

「うん!」

カエサルもシャネルもそれに続いた。

しかし、いくら亜人種(デミヒューマン)を早く討伐して住人を助けたいと思っていても情景は嫌でも目に映ってしまう。

そのせいか、先ほどからシャネルは仲間が殺られてないか心配するかのように周りをキョロキョロと見渡しながら走っている。

しばらく走り続けるとシャネルは何かに気づき足を止めた。

「何か来るよ!しかも、沢山!」

シャネルはそう叫ぶと裕兎達が向かっていた進行方向を睨む。

裕兎とカエサルもそれに釣られ前方に目を向けると、砂煙と共に徐々に多くの人影が現れ始める。

「な...結構居るな...。100?いや、200くらい居るかもだな...。」

裕兎は亜人の大軍を見て冷や汗をかき時間がない中どうするべきか思案する。

そんな裕兎を見てカエサルはシャネルに問いかける。

「シャネル、お主あの軍勢の中死なずに戦えるかのぅ?当然、わしも加勢するが。」

「あんだん実力は知らんたい。ばってん、まぁ、いけるっちと思うっちゃ。うちはこん集落でいっちゃんの実力者だからね!」

シャネルは自信満々にニッと笑い胸を張る。

「そうかのぅ。うむ、なら裕兎先に行ってくれぬか。あっちからあ奴らが来ておるということは、あの方向の先に大将が居るのじゃろう。ここはわしらに任せてくれぬか?」

そう言うと斧を肩に乗せる。

「お前らは大丈夫なのか...?」

裕兎は心配そうに尋ねた。

だが、

「大丈夫じゃよ。」

「よかよかばい!こぎゃんところで殺られとう場合じゃなかしね。」

二人は余裕だと言ってるかのように元気に笑顔で応えた。

「そうか。お前らがそう言うんなら大丈夫なんだろうな。」

裕兎は安心したようにふっと息を吐くと笑った。

「なら、行ってくるわ。お前ら...死ぬなよ。....."豹紋蛸"(プワゾンプルプ)!」

「うん!」

「うむ、分かっておる。じゃが、それはこちらも同じじゃ。お主も死ぬんじゃないぞ。」

裕兎は二人が戦闘の準備が出来たのを確認すると亜人に突っ込んだ。

「"変色"(クラールハイト)。」

無謀に突っ込んでいったと思われた裕兎の姿は徐々に消えていきすぐに見えなくなる。

「な...なんの起こったと!?」

シャネルは獣人種(ビースト)が生まれながら持つ特性"五感操作"(サンクヴィゴーレ)以外の特性を見たのが初めてで驚いているようだった。

「まぁ、見ておれ。少しじゃが、あやつの強さが分かるじゃろう。」

カエサルはシャネルの反応を見て落ち着くように促す。

そして、裕兎が向かっていると思われる方向をただ黙って見据える。すると亜人種(デミヒューマン)達がどんどん近づいてきている最中いきなりバタバタッと倒れはじめる。

「え...え!?」

急に倒れゆく亜人種(デミヒューマン)を見てシャネルは困惑を隠せずにはいられない様子だった。

向こうでは仲間がいきなり倒れたことにより慌てふためいていた。

「何かしやがったぞ!きっと奴らだ。奴らをさっさと殺すぞぉ!」

1人がそう叫ぶと、周りも「おぉ!」と声を張り上げて走る速度をあげてくる。

それでも、やはり倒れていく者は現れ続ける。

「何で奴らは倒れていってるの!?」

その光景を見ながらシャネルは驚き、その疑問を晴らそうと口をパクパクさせながらも何とかカエサルに問う。しかし、倒れゆく亜人種(デミヒューマン)から目が離せないのか釘付けのままだった。

「裕兎の特性の一つじゃよ。今は体中に毒を纏っている状態じゃから、それに触れた亜人種(デミヒューマン)どもは倒れていってるんじゃよ。」

シャネルの反応に苦笑し、優しく諭すかのように落ち着いた声音で淡々と話した。

「触れるだけで倒れてしまうほどの毒って...すごい...ね..。」

裕兎の実力を見て呆気に取られていた。

しかし、カエサルは次第に近づいてくる亜人種(デミヒューマン)を睨むと自然と斧の握る手に力が入る。どうやら、初めての戦争で肩に力が入ってしまっているようだ。

「じゃが、裕兎は通りすがりに軽く倒すつもりのだけじゃろう。もう少しで倒れる者は居なくなくなる。準備はしておれ。」

「うん。」

カエサルの言っていた事が本当に起こり、さっきまでバタバタ倒れていたのに今では誰も倒れなくなっていた。

「数は減っておるがそれでも相当な数じゃ、充分に気をつけるんじゃよ。」

「よかよか!任しぇて。」

二人は亜人の群れに警戒をし身構えていると、いつの間に後ろに回り込んだのかカエサルの後ろで2つの影が現れる。

「きししし。まずはこっちの強そうなジジイから殺そうぜ!兄貴!」

「おう!」

きししし、と笑いながら弟と思わしき者は盾を片手にもう片方の片手用長剣を振り下ろし兄の方の大剣もそれに続いた。

「ぬっ...!?」

「うわ!?」

ギリギリのところで勘づいたカエサルはシャネルを小脇に抱え後方へと飛び退く。

ズシャッと音を鳴らし、弟が振った剣は地面に刺さり兄が振った大剣は地面に亀裂を走らせる。

「危ないのぅ。誰じゃお主らは!?」

シャネルを下ろすと苛立ちが混じった声を上げ剣を振ってきた相手を睨む。

隣では降ろされたときに付いた洋服の砂を払っていた。

そこには兄と呼ばれていた者はゴリラのような容姿をした3メートルはありそうなほどデカイ亜人と弟と思しき者は1.6メートルほどの大きさの猿のような亜人だった。

「俺はシャンパンゼ。」

「俺はグノン!俺たちは団長の幹部二番隊隊長と三番隊隊長だぜ。」

兄、弟と順番に名乗る。

シャンパンゼは落ち着いたような雰囲気だが、グノンは子供っぽい陽気な感じの雰囲気だった。ベラベラと元気そうに喋り、自分の実力に自信がありそうだった。

「ところで、お前らこそ何者だ...?見たところガキの方は獣人種(ビースト)のようだが、ジジイの方は人類種(ニンゲン)だろ。人類種(ニンゲン)がわざわざ何しに来た。」

シャンパンゼはカエサルが居る理由が分からず、すっと目を細め睨みつける。

「わしはカエサルと言うんじゃ。兵士をしていてな。王の命令...って訳じゃないが、我が主の命令でのぅ。」

カエサルは立ち上がると同時に斧を構える。

「そうか。兵ならば死ぬ覚悟が出来てるんだろうな。」

「逃げるなら今の内だぜぇ~!俺と兄貴のコンビネーションは最強だからなぁ!!」

シャンパンゼは静かにカエサルを睨み地面にめり込んだ大剣を持ち上げる。

グノンはシャンパンゼとは異なり愉快に高笑いをし盾と剣を構える。

「もちろんじゃ!...シャネルあの群れを何とかしてくれ。こいつらはわしが何とかしよう。」

「分かった!」

元気よく頷くと群れに向かって走っていく。

「よし、じゃあ始めるかいのぅ。」

「行くぞ。グノン!」

「よっしゃー!!兄貴!ジジイを殺すぞぉ!」

二人は息を揃えてカエサルの元へと走ってくる。

そして二人はコンビの良さを活かした迅速攻撃を仕掛けてきた。

シャンパンゼは重いはずの大剣を素早く振り回し、大剣を使っていないのではと錯覚させるほどだ。更に力が篭っており空気を斬る音が大きい。それに比べグノンは身軽さや運動神経を上手く利用しカエサルに隙が生まれる度に素早く長剣を奮う。

「ほほぅ。なかなかやるのぅ。」

カエサルはひたすら避け続ける。だが、避けきれないのも少々あり少しずつ擦り傷が増えていく。

「きししし。兄貴!こいつぁ弱いなぁぁ!」

「あー!だなぁ!」

二人の笑い声がこだましその場で響く。そして、二人は速度を緩めるどころか更に上げてきた。

グノンが長剣を振り後ろへ飛び退いたところをシャンパンゼが上から飛び越し体重を掛け大剣を振り下ろす。

「これは避けれないのぅ。"筋肉硬化"(ミュスクルローシス)!」

カエサルは特性を使うと避けるのを止め全身に力を込める。

シャンパンゼとグノンは勢いを乗せて剣を振っていたが、少し切れた程度でそれ以上深く切れなかった。更にそこから抜くことさえも出来なくなっていたのだ。

どうやら、身体に力を込めた筋肉の圧力で剣が抜けないようにしているようだ。

「ぐっ!どういうことだ!?剣が微動だにしないぞ!」

「な...何でだぁ!」

剣が抜けないことに混乱しているとカエサルは兄弟の剣を片手で掴み斧を高くかざす。

「"限界点"(リミットフェアー)!」

「おい!グノン!これはヤバイ!ここは一旦離れるぞ!」

「分かった!」

シャンパンゼは焦り気味に早口でグノンに指示を出すと後方へ退こうとする。

「もう遅い!」

そう呟くと斧を勢いよく振り下ろした。

すると、斧は凄い衝撃と共に地面にめり込んだ。地面には地割れが出来ておりカエサルの付近はひび割れ状態となっていた。更には斧を振り下ろした一直線上は斬撃により地面が割れている。

ガゴッという音を鳴らしながらカエサルは斧を引き抜く。

すると、次はグシャッという音が鳴り響いた。

カエサルとグノンの間に一つの剣と腕が落ちていた。

「ぐあぁぁ!お...俺の!腕がぁぁ!」

グノンの片腕が切り落とされている。

「クソぉ!ぐがぁ!ぎぎぎぃ!」

ドタバタ暴れ苦しみながらも片腕に力をこめるとブシャッと腕が生えてきた。

「はぁ〜!深手を負うなんて久しぶりだ!再生ってこんなに疲れるもんだっけ!?」

生やした腕が正常に動くか確かめるかのようにグノンは腕をグルグル回す。

「ぬ!お主は再生が出来るのか...!?」

カエサルは驚いたのか素っ頓狂な声を出した。

「きししし!俺だけじゃなく兄貴も出来るぜ!俺たちはこの団の2番3番目の実力者だからなぁ!」

そんなカエサルの驚いた反応を見たグノンは喜び、まるでマジックのネタバラシをするかのように自慢げに高らかに言った。

「じゃが、流石に首を切り落とされれば死ぬじゃろ。」

「まぁな。お前が首を切り落とせれたら、の話だけどな。」

シャンパンゼは切り落とされない自信があるのか挑発的に言い、首を手でパンパンと叩く。

「笑わせるな。余裕じゃ。」

カエサルはそう強がってみせたが内心焦りと殺られる前に倒せるだろうか、という心配で冷や汗をかいていた。

(さて、どうするかのぅ...。全力で行けば倒せなくもなかろうが、裕兎の増援として力添えしたいからのぅ。体力は残しておきたいところじゃが...。ふぅ......仕方ない。死んでしまっては力添えすら出来なくなるからのぅ。全力を出すしか他あるまい。)

しばしの間苦悩していたが決意を固め身体中に力を入れる。

「"限界を越える増力"(リミットフォルス)!!」

すると、カエサルは筋肉量が増え上半身の服が耐えきれずビリッと破れ、鎧は邪魔だと言わんばかりに脱ぎ捨てた。

鎧が無くなり、刃物が通りやすくなったように感じるがさっきとは筋肉量が異なり迫力が大きく、より刃物が通らなさそうなオーラを放っていた。筋肉こそがカエサルにとって本当の鎧なのではないか、と錯覚させるほどに。

「さぁ、行くぞ!」

カエサルは力いっぱい地面を蹴るとそこは地割れが起き、えぐれ砂埃が舞う。

さっきまでとは比べものにならないほどの動きにより呆気に取られていたシャンパンゼとグノンは瞬時に近づかれたカエサルと距離をおくことが出来ずにいた。

その隙を狙ってカエサルはフンッと力を込め両手で握った斧を振り下ろす。

斧はカエサルの手元のところまで地面にめり込み、数百メートル...いや数キロ程先まで地面は割れる。その影響が崖にもきたのだろうか。崖も崩れ岩がゴロゴロと落ちてきた。更に振り下ろすことで生じる空気抵抗によりカエサルを中心に風が巻き起こり、周りの木々がなぎ倒され、散らばっていた亜人の死体は飛ばされた。

そんな化け物じみた攻撃をグノンはカエサルの攻撃が当たるギリギリのところでなんとか盾と盾の前に長剣を構えガードの二重構えをする。だが、カエサルの力に負け、ぐあぁぁという声と共にゴロゴロと頭や肩、腰といったところを地面にぶつけては跳ね上がりを繰り返されながら後方へと飛ばされる。

それを隣で眺めていたシャンパンゼは自分の見ている光景を理解しカエサルに弟が重症にされたということに対する怒り、弟を守れなかったという悲しみや後悔、憎悪で我を忘れ、ただ怒りに任せそのままの感情をぶつけるかの如くカエサルに刃先を向ける。

「貴様ぁぁぁぁ!!俺の!弟をぉぉぉ!!」

我を忘れ力任せに振るう剣は先ほどまでと比べものにならないほどの力と速度だった。

地面に多くの切れ目が入り、カエサルにも次々に傷が増えていく。遂にはカエサルの腹部から厚い胸板にかけて深い傷を一斬り入れたのだ。

裕兎の攻撃をすら耐えたあの頑丈な肉体が...だ。

「ぐぬぬっ!」

そんな攻撃を受けたカエサルは血を吐き膝をついた。傷口からも血がダラダラと流れ出す。

無理に己が耐えれない力を使った為か体力の限界と今までのたくさんの傷によってカエサルは息を荒くし始める。

「ぶっ殺す!」

しかし、怒りと憎悪に満ちたシャンパンゼのその声は空気を震わせ疲れ始めるカエサルとは逆に力が増す一方だった。

カエサルを容易に真っ二つにしそうなほどの力で振り下ろされた大剣はガキンという大きな音と共に斧によって弾き飛ばされ火花が飛び散る。

「こんなところで死ぬ訳には行かんのじゃぁぁ!!」

筋肉が負担に耐えきれず壊れはじめ、いつ特性が切れてもおかしくない状態だが、それでもカエサルは踏ん張り力を振り絞る。

弾き飛ばしたことで斧は振動で小刻みに揺れていた。

強い力同士がぶつかりあったのだ手にも負担がかかり数本の指の付け根から血が出て滴り落ちる。

だが、それでも!

「こんな痛み気にしてる暇などなかわぁ!わしは負けぬ!!」

地面に着いていた右膝を前へ1歩進め、両手でしっかり斧を握りしめシャンパンゼに向かって振った。

横に勢いよく振られた斧は斬撃を飛ばし周りにあった木々や家すらも真っ二つにしていく。

そんな中、カエサルの目の前でブシャッという音が響き赤い液体が飛び散る。

勝ったとそう思い前を見ると、微かに生きていたグノンはシャンパンゼを押し飛ばし代わりに腹部から真っ二つにされていた。

グシャッ。地面に倒れるとシャンパンゼを見ながら悲しそうにグノンは手を伸ばす。

「あ...兄貴...。あまり...力に...カハッ!はぁ...はぁ...力に、なれなくて...悪かった...。」

涙を一筋流し苦しそうにそう言い残すとどくどくと血を流しながらグノンは次第に薄れゆく意識と共に伸ばす手を落とし息を引き取る。

「グ...グノォォン!!」

シャンパンゼは涙を流し泣き叫んだ。そして、グノンの仇を取ろうと大剣を手に取るとカエサルを睨みつける。

目からは血の涙を流し赤く染めていた。

「グノンの仇を取る!殺してやる!!」

大剣をしっかりと握りしめ、カエサルを倒そうと走る。

カエサルも感覚が無くなり始めた身体を動かし斧を手に取り立ち上がった。

ガンッガンッガンッと何回打ち合っただろうか。打ち合う度に空気は震え、火花が飛び散る。

二人が戦ってる土地はいつの間にかひび割れや穴、切れ目、倒れた木々などにより荒れ果てている。

相当な時間ぶつかり合い互いに汗と血が溢れ疲れ果てていた。

「次で倒す!」

「次で終わらす!」

二人は同時に言うと最後の力を振り絞り互いの武器を振るう。

「ウア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

「負けぬわぁぁぁぁぁぁ!」

大剣と斧がぶつかり合うと、今までで一番火花が散った。

カエサルの斧はシャンパンゼの首と共に大剣を真っ二つに切り落としたのだ。

ガシャン、という大剣の刃が落ちた音とグシャッという頭の落ちる音が同時に鳴った。

「裕兎、わしはもう少しの間行けそうにないんじゃ。すまないのぅ...。」

勝ったという安堵感と同時に無理した分の疲労が身体にどっとのしかかり、カエサルはズサッと崖を背に座るとゆっくりと目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

第8話.......終

 




明明後日はゴールデンウィークですので、沢山投稿していく予定です( *´꒳`* )

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