亜人達に襲われている村へと向かっている中、レンに亜人種(デミヒューマン)について聞いていた。
「亜人種(デミヒューマン)ってのは俺たちみたいに特性を使ってきたりするのか?俺はあまり詳しく知らないから知ってることあれば教えて欲しい。」
「亜人種(デミヒューマン)は俺たちと違って特性は使えないよ。ただ、伸びしろの限界が無いんだ。」
「の...伸びしろ...?」
裕兎はどういうことか理解出来ずに首を傾げる。
「簡単に言うと努力した分だけ強くなれるってことだ。怪我をすることが多ければ免疫力といった回復力が向上し、すぐ再生したりする。その他の面でも同じだよ。筋力とかもね。だから、強い奴はとんでもなく強いよ。」
レンは亜人種(デミヒューマン)と戦闘の経験があったのか、苦笑いをする。
「そっか...。なら、俺が倒したあの亜人種(デミヒューマン)は弱い方だったのか。」
「うん。まだ戦闘経験の少ない者達だったのかも知れないね。」
ふと、何かを思いついたように裕兎に顔を向ける。
「裕兎、俺とミカは君らと比べて機動力は劣る。だから、機動力のある裕兎とカエサル、シャネルで先に獣人種(ビースト)の集落へと向かってくれ。俺とミカで村に向かうから。」
「え...俺らの任務は村救いなのに行っていいのか!?」
それに、と裕兎は続ける。
「それに、他種族を助けるのは国王への反乱に捉えられなくもないだろうし、裏切りを疑われると思うが?」
「大丈夫だよ。任務は必ず遂行するし、そこに居たから捕虜した、みたいなこと適当なこと言ってれば問題ないよ。それに、裕兎なら自分から向かってたでしょ?」
レンは本当に問題ないのか簡単にそんなこと言い、微笑んだ。
(俺が向かう、かぁ。まぁ、可能性は無くもないな。きっと向かっていたんだろうな。)
「あっこれからは私とレンが同伴では無いのだから念のため言っておくけれど特性は使い方や技の種類によって消費する体力が違うからそこら辺を気をつけないと死ぬわよ。」
ミカは手短に助言をしてくれた。
「おう。そこら辺はもう経験済みだ。だから大丈夫!」
裕兎は知っていたらしくニッと笑う。
だが、
「なぬ!?そうじゃったのか。ならば、移動の際は脚力の一部強化にしておくかいのぅ。」
逆にカエサルは知らなかったらしい...。
「シャネルは俺が背負って走るから任せとけ!」
裕兎はシャネルに笑顔を向け、胸をドンと叩いた。
「うん。分かった。ありがとう!」
すると、シャネルは馬の上から裕兎の背中に飛びついてくる。
(案外他種族への恐れとかないんだなぁ。)
などと思いながら何をベースにするか考えていた。
「カエサルのペースに合わせるから...うーん...コオロギ辺りでいっかなぁ。」
「うむ。それで構わぬぞ。では..."増脚力"(ルピエフェアー)。」
カエサルも馬から降りて脚の筋肉を増強させる。
「じゃあ、俺も準備すっか。"二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン)。」
2人同時に特性を使用した。
そして、互いに走り始めた。
二人が走り去ったのを確認するとレンとミカは二人の馬を一頭ずつ手網を掴むと村に向かって走り始める。
「さっき何故レンはあのようなことを言ったのかしら?」
さっきのことについて不思議に思いレンに聞いた。
「さっきって?亜人種(デミヒューマン)の説明のこと?」
「そうよ。確かに亜人種(デミヒューマン)は強い奴は強いけれど、そんなに沢山いる訳では無いと思うわ。何よりレンが手こずるような相手ではないと思うのだけれど。何故あのようなことを?」
どうやらミカはなぜレンが苦い表情をしたのか、とそう疑問を持ったらしい。
「少しは警戒するようにだよ。裕兎とカエサルは強い。だからこそ、ちょっとした油断で命を落としかねない。それに、今回たまたま強い亜人種(デミヒューマン)が居るかも知れないでしょ?だからだよ。」
自分がした行動の理由を話すと、ミカは自分の行動が間違っていたかな、と心配しているように弱ったような苦笑いを向ける。
「なるほど。そういうことね。」
ミカはレンの考えに納得がいきフムフムと頷き。そして、
「流石だわ。」
と笑った。
* * *
裕兎とカエサルが集落へと向かって結構時間が経っただろうか。
「もう少しで着くよ!」
裕兎からおんぶをされている状態のシャネルが裕兎の顔の横でそう叫ぶ。
「分かった。カエサルはこのペースで大丈夫か?」
「うむ。多少足場は悪いが特に問題はないのぅ。」
周りは木々で生い茂っており湿って滑りやすい場所や足を引っ掛けやすい木の根など足場の悪いところを裕兎とカエサルは森の木々を避けながら走る。
特に転けることや敵と鉢合わせすることがなく問題なく進んでいくと崖先に着いた。
「あれ?道がない...。」
「いや、あっちにあるのぅ。」
そう言うとカエサルは崖下に指をさす。
確かにそこには家がいくつかあった。
だが、それらの家々は崩れたり燃えたりしていてまるで戦争後のような有様だ。
ところどころに亜人種(デミヒューマン)の死体が転がっている。
シャネルは裕兎の背中から降りると家族や友達を探すかのようにそこを見渡し目を見張った。
「間に合わなかった...?そげな...。」
シャネルは今にも泣き出しそうにし、顔を俯かせた。
「すまなかったのぅ。お主の仲間を助けることが出来なくて......。」
カエサルも暗い顔をしシャネルの頭を撫でている。
だが、それでも裕兎は諦めずに集落を見渡しているとある事に気づく。
「いや、シャネル。お前の仲間はきっとまだ生きているぞ。」
裕兎は嘘でもでまかせでもなく、本当にそうであるように自信を漲らせながら言った。
「えっ...?」
裕兎の言葉にシャネルは驚き、俯かせていた顔を上げる。
「ほら、良く見てみろ。そこら中に転がってる遺体あれ全部亜人種(デミヒューマン)のじゃねぇーか。お前の仲間の遺体なんて一体も無い。」
カエサルはその言葉を聞いて再び集落へ目を向ける。
「本当じゃ!?良かったのぅ。」
そう言うとシャネルに笑顔を向ける。
シャネルはカエサルの反応を見て恐る恐る集落を再度見返した。
「ほんっちだ!?」
すると、シャネルは仲間が死んで居ないことを確認でき、喜びさっきまで落ち込んでいたのが嘘かのように綺麗な明るい笑顔となった。
「じゃあ、早くここを降りて探すか!」
裕兎はそう言うと、シャネルを抱き抱えるとカエサルと共に崖を滑り落ちる。
* * *
「着いたわね。」
ミカとレンは国王から命令があった襲われた村へと着いていた。
そこは、あらゆる建物が壊され沢山の人々が焼かれたり斬られ殺されていた。
「"熱波"(ヒートウェーブ)。」
そんな惨状の中、特に動じたりせずレンは目を閉じ人体熱がないか周囲の確認を始める。
「どうかしら?」
ミカが尋ねるとレンは残念そうに首を振る。
「居ないよ...。皆殺されたみたい...。」
「そう。」
「ここは俺の特性で一気に片付けようか。」
そう言うとレンは背負っていた大きな盾を左手で持ち、腰に携えた剣を引き抜き構える。
だが、今すぐにでも村を焼き消しそうなレンをミカがそれを制す。
「レンが特性を使うほどではないでしょう。」
「いや、でもこの村には敵しか居ないんだから俺の特性の方が効率いいよ?」
「断るわ。たまには私も戦わないと腕が鈍ってしまうわ。ここは私に任せなさい。」
ミカはレンに胸を張り自信満々に言う。
「そっか。分かったよ。なら宜しく頼むね。」
レンはミカに微笑むと頭を撫でる。
「別に撫でなくても構わないわ。...その、まぁ、行ってくるわ。」
レンに撫でられて頬を染めたミカだったが、すぐに顔を背けた。
そして、そのまま髪を結び始める。横髪はそのまま伸ばした状態にし、後ろ髪だけを黒いゴムで結んだ。そして剣を抜くと走り出す。
「じゃあ、ここで待ってるね。」
レンのほんわかした声が後ろから飛んできた。そんな声を聞きミカはフッと軽く笑いながら燃え広がる村の中へと進んでいった。
道中に人間の死体がゴロゴロ転がっていたがミカは動じることなく、ただただ残念そうな哀れみな目を向けては前方を見つめ直す。
しばらく走っていると亜人種(デミヒューマン)が五人程固まって移動しているのを発見した。
「居たぞー!ここにも生き残りがまだ居た!」
そのうちの一人がミカを見つけると他の場所で探してる亜人種(デミヒューマン)に知らせる為か大声を発する。
ミカは走る速度を上げ、どんどん亜人種(デミヒューマン)達と距離を縮めていく。
「へへっ。人間が一人突っ込んできたぜ。返り討ちにしてやるぞー!」
『おぉー!』
亜人種(デミヒューマン)は全員で叫び指揮を上げ、向かってくるミカとの戦闘に備え武器を構える。
ミカとの距離が近づき亜人種(デミヒューマン)達は剣や槍を振り斬り掛かる。
あらゆるところから迫りくる刃物にミカは冷静に見据える。
「"創傷悪化"(フェリータトアメント)。」
すると、ミカの剣が薄暗い霧を纏う。
その次の瞬間、亜人達の目の前にミカが一振りすると、上半身が宙へ飛ぶ者も居れば頭も飛ぶ者が現れた。それと、同時に彼らが持っていた武器もまとめて斬られていた。
ミカは 一振りで亜人種(デミヒューマン)五人を一気に倒したのだ。
「悪いわね。あなた達じゃ私には勝てないわ。」
ミカは剣を振り刃にまとわりついた血を飛ばす。まとわりついていた血はビジャッという音と共にレンガ造りの家や地面に痕が付く。
すると、次は前と後ろから亜人種(デミヒューマン)の群れが走ってくる。
「数はざっと50~70前後といったところかしら。」
ミカはあっという間に亜人種(デミヒューマン)に囲まれてしまう。
亜人種(デミヒューマン)達はミカにじりじりと近づいて行くと武器を振り上げ一気に襲いかかってきた。
だが、ミカは自分の身に襲いくる刃を避けることなくただひたすらに武器ごと亜人種(デミヒューマン)達を真っ二つにしていく。
上半身と下半身が分かれる者首が飛ぶ者右左で真っ二つにされる者など多く現れ、そこら中に血が撒き散らされる。
「なっ...なぜだ!?なぜこんなにも武器が意図も容易く斬られる!...ば..バケモノがぁ!」
動揺を隠せずに勢いに任せて襲いかかってきた者も容易く切り殺される。返り血を浴び、鎧の下に着ている服の裾や頬は赤く染まり、その姿が冷酷な表情と合わさり周りの者に畏怖を与えるほどの恐ろしさだった。
最初は50人を超えるという大人数だったのが今ではもう少数しか生き残っていない。
仲間が減り悲壮な表情を浮かべ諦め始めている中、声を張り上げ、集団の中から姿を現す者がいた。
「どけ!俺が行く。」
「オ...オーク副隊長!」
イノシシのような容姿をした亜人種(デミヒューマン)が現れた。
オーク副隊長と呼ばれる者は部下の間をくぐり抜けミカの目の前へと歩いていく。
オークの手にはとても重そうなデカイ斧を持っていた。
「俺はお前が今まで倒してきた奴らとは実力が違うぞ。俺の部下の仇を討ってやる!覚悟しろ!」
オークは自分の強大な力を活かし、一振りするのに時間がかかりそうな斧を素早く振り回す。
一振り一振りが重く地面に当たれば刃は地にめり込み、家や木に当たれば一瞬でズバッと切断し空気を切り裂く音は大きく響き渡る。
ミカはそれを一筋一筋をしっかりと見て避けていく。すると、今まで片手で振り回していた斧を両手で掴み力を込め、身体を捻ると横一直線に斧を振った。それをミカは咄嗟に姿勢を低くして避けると、後ろにあった家々が土煙を上げながら斬れ崩れていく。
更に、ミカは咄嗟の反射に無理な体勢をしてしまう。そこへ降りかかってきた斧を避けきれなかった。
「さぁ、死ね!」
しかし、地面が抉れたり土煙が舞うことが無く、ただただオークの目の前で血が飛び散りながら腕と武器が舞うだけだった。
どうやら、ミカはオークの斧と腕を斬り落としたようだ。
「な...何で俺の腕と斧が切り落とされてんだぁ!!」
オークは焦り冷や汗を垂らしながら無くなった腕を見て喚く。
「何が起こったのか分からないといった様子かしら。私の特性は"悪化"(トアメント)。あらゆる者を悪化させるのを得意とする特性だわ。だから、私の剣に当たった時点で真っ二つに出来るわ。」
ミカは今まで見てきた穏やかなミカとは思えない程、無機質で怖い顔をしていた。
「な...そんなの勝てる訳がない!」
オークは恐怖を感じ後ずさりしているとミカに一瞬で距離を詰められ斬られる。
「ぐがぁー!!この俺がぁぁぁ!!」
オークは身体から血を吹き出しながら上半身が地面へとズレ落ちる。そして、次第に表情から生気が無くなっていった。
オークの身体から勢いよく飛び散る血はさながら赤い雨の如く降り注ぐ。
「さて、次はどなたが相手をしてくれるのかしら?」
亜人種(デミヒューマン)達が恐れおののいていると1人の亜人種(デミヒューマン)が前に出た。
「俺が相手をしよう。」
「ドラフ隊長!」
その亜人はトカゲのような容姿をしており二本のサーベルを持った者だった。
ドラフが現れると周りの亜人種(デミヒューマン)達は安堵したかのように肩の力が抜けていた。それほどに彼は強いのだろう。
二本のサーベルを指でしばらく器用に回していたが、不意にバシッと柄を握りミカに刃先を向ける。
次の瞬間、ドラフは強力な瞬発力でミカに近づき襲いかかる。予想以上の速さにミカは驚いていたが、なんとか避けることが出来た。
ドラフが距離を縮め尚且つ素早いサーベル捌きにより攻勢に出れずにいた。
「なかなかに速いわね。」
「瞬発力に自信があるのでな。お前の剣に触れたら終わりなら振らせる暇と距離を与えなければいいだけの話だ。」
ミカは攻勢に出るため、避けながらも距離を開けようとするが即座に近づかれひたすらに避けるしか出来ずにいた。
「このままじゃ体力が切れて負けてしまうわ。...だったら、"自然悪化"(ナトゥーアトアメント)。」
すると、足元に薄暗い霧がかかる。そのとき、ドラフが踏み混んだ地面が腐れ割れた。
「なっ!?」
その影響により足を滑らせ膝がガクッと折れ体勢を少し崩すドラフ。
そこを狙いミカは剣を振る。が、ドラフは後ろに飛び退きそれを素早く躱した。
「あっあぶねぇ...。」
「なかなかやるわね。」
次はミカが距離を詰め剣を振り攻撃をする余裕を与えないようにする。
「くそっ!このままじゃ俺が負けてしまうな。」
ドラフは隙が出来るのを待っていたが一向に隙が出来ない。次第に表情からは疲れが見え始める。
「このままでは少々時間がかかってしまうようね。」
ドラフが剣に気を取られている間に隙を見てデコに手を触れた。
「"視力悪化"(ヴィスタ)。」
「がっ...!な...何が起きた!何も...何も見えんぞ!」
指先に薄暗い霧を纏いミカの特性によりドラフの視力は壊される。
急な視覚遮断にドラフは状況を読めず目を抑える。
「クソ。剣に注意をし過ぎたか!」
ドラフは少しずつ後ろへ後ずさっていく。
「なかなかに強かったわ。」
ミカはそう言うと剣を振るい、ドラフの首を斬る。
斬られたドラフはグシャッと頭が身体から離れ落ち、身体は倒れる。
「や...ヤバイ。ドラフ隊長までもが殺られたぞ!」
ドラフが殺されると周りの亜人達も動揺し始めいつ逃げ出してもおかしくない状況となった。
しかし、それでも逃げ出せないのは腰が抜けた者や背を見せたら殺されるそう思う者がほとんどだったからだ。
ミカは恐怖に気圧された他の亜人種(デミヒューマン)達はもう動けないと分かると
「"空気汚染"(ルフトポルーション)。」
次の瞬間、ミカから半径50m程の円内にいた亜人達は苦しみ踠きだし、しばらくすると皆血を吐き出し倒れ死んでいった。
「やっと終わったわ。レンの元へと帰るとするかしら。」
そのまま歩いてレンの元へと帰っていく。
第7話.......終
今回は、軽い戦闘シーンですね( * ˊᵕˋ )
ミカの実力は予想以上だったでしょうか?
予想以上なら自分的に嬉しいです笑笑( *´꒳`* )