今週中にあと1話完成出来たらいいな、と思っています笑
裕兎は地面を思いっきり踏み込みカエサルとの距離を一気に詰める。
あまりに一瞬のことで驚いたのかカエサルの眉がピクッと反応していた。
その勢いのままカエサルの腹部目掛けて弧を描きながら横から一発蹴りを入れる。
地面が抉れ、土が崩れることで木々がぶっ倒れる程の力がカエサルに加わる。
それは、考えただけでも鳥肌が立つようなことの筈...なのだが...。
カエサルは後ろに少し飛ばされるくらいで、特に何も感じでいない様子だった。
「フンッ!まだまだじゃな。鍛え方が足りんのじゃ!わしが本物の力というものを見せてやろうかのぅ!」
全く効いていないのだろうか、カエサルは余裕な表情を浮かべると、裕兎の元へ一蹴りで距離を詰め腕を真っ直ぐ上に伸ばしそのまま斧を振り下ろす。
もの凄い音と共に目を疑うほどのことが起こった。なんと斧の柄まで深々と地面にめり込み山が真っ二つとまではいかなくとも、相当な深さそして遠い距離まで割れていたのだ。
裕兎は咄嗟に身体をそり辛うじて交わすが、その光景を見た瞬間、顔を青ざめ、これが当たってたら...と想像して鳥肌をたてていた。
「し...死ぬかと思った...!!」
「まさか避けられるとはのぅ。反射神経だけなら認めてやるかいのぅ。」
めり込んだ斧を軽々と上に持ち上げ斧の背で裕兎を襲う。
しかし、それもまた裕兎は上に飛び上がると地面に手をつきバク転をして避ける。
(あっぶねー!!振っただけでこの風とかエグ過ぎるだろ...!?)
奇跡的に避けれたことに感動しながらも足をガタガタさせていた。
すると、カエサルは左側にあった近くの木を左手でガシッと掴むとそれを握力で握り、むしり取る。
「えっ...何で、んなことを平然とやってんの...?...同じ人間だよな...?」
バキッ!と音を響かせると、木を投げ飛ばした。
60キロ以上はあるような大木がカエサルの手元から消えたかと思った時ドスンという重みを感じそのまま飛ばされる。腹部に直撃し激痛に襲われていると後ろにある木と飛ばされた木で挟まれ押しつぶされる。
「ぐっはぁ!!...は!吐きそう...!だぁ...!」
そのまま地面に落ちると膝をつき血を吐いた。骨と内蔵が一部潰れたらしい。
どうやらカエサルの"限界点"(リミットフェアー)は身体能力を最大まで高める技のようだ。
口端から垂れた血を腕で拭うと立ち上がる。が、そこには余裕な表情は伺えない。余裕どころか顔色が悪いレベルだ。
痛みを紛らわす為か深く深呼吸をするとカエサルをキッと見据えた。
「ふぅー。流石に簡単にはいかないか...。」
(ってか!大木を握り潰すだけじゃなく、投げ飛ばしてもくんのかよ!?...しかも、速ぇし!)
「裕兎とやらは、随分と脆い男なのじゃな。ガッカリじゃのぅ。」
既に勝っていると見据えているような眼差しで裕兎の元へ向かってくるカエサル。その顔には余裕しか感じられない。
そんな中、裕兎は次にどのように行くか考えているとカエサルが斧を片手に加速する。
「そういや、ここには木が沢山あるしあれが出来そうだな。」
何かを思いついたのか裕兎はニッと笑う。
「"二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン)!よし、これで相手の動きがある程度読めるしコオロギの持つ脚力も使える。」
(だが、バッタと比べると脚力は劣る...まぁ今は仕方ないな。)
そう思うとさっきの笑みとは対照的に苦々しげな表情を浮かべる。
"二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン)を使うと脚の膝辺りと前腕筋辺りから指先にかけてクリスタルのような茶色の鎧を纏う。
膝を曲げ狙いを定めると脚に力を込めカエサルの付近の木まで飛ぶ裕兎。
流石に、二度目の高速移動ではカエサルは驚くことは無かったが止められることもなく、狙った場所に移動することが出来た。木は大きく反れ葉はざわめき落ちていく。
「よし!あとは、踏み外さないように気をつければ完璧だな!」
休む暇もなく木から木へとカエサルの上を飛び回る。それと同時に木に飛び移るときに生じる脚への負担が踏ん張りに繋がり速度が徐々に上がっていく。その結果、ほとんど姿が見えなくなり、あちらこちらで木々が揺れざわめいていく。
「ほう、速いのぅ。じゃが、まだギリ目で追えるのぅ。」
カエサルは感心していたが確かに裕兎を捉えていた。
だが、
「そんなもんは想定内済みだ。だからこそ"飛蝗"(カヴァレッタ) ではなく. "二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン) だ。」
裕兎はそんなこと想定済みだったようだ。
そして、裕兎はカエサルの方へ飛び勢いをのせたまま蹴りまたは尖った指先で傷を付けまた木へ飛ぶ。その一連の流れの動きを高速で行っていく。
その動きはまるで忍者のようだった。
あまりに素早いせいかカエサルの周りでは軽く砂ぼこりが巻き起こっていた。
カエサルは休む暇もなく脚、腹部、胸部、背中と色々なところを蹴られ引っ掻きまわされる状態となる。
だが、それでも全く見えない訳ではない。
「ちまちまと鬱陶しいのぅ!邪魔じゃぁァァァァァ!!」
カエサルは裕兎を視認し、来るタイミングに合わせて斧を横一直線に振る。
「当たんねぇよ!」
しかし、裕兎はそれを読み避けていた。
何故なら"二星蟋蟀"(アルタイアグリヨン)は自身を纏っている鎧のお陰で空気などの粒子レベルの動きすらも感じ取ることができ、その影響での空間把握能力に長けているからだ。
故に相手の動きが読める。だが、動きの速度までは読めないみたいだ。その為、裕兎は来ると察知出来ていたとしても目で見てタイミングを合わせることでギリギリ避けていたのだ。
(効いてはいそうだが、この方法も長くは持たなそうだな。いつまで持つか...?)
しばらくの間カエサルは裕兎の来るタイミングに合わせて斧を振っては交わされ蹴られる、が続く。
「くっ!!しかし、これは中々に効くのぅ...。」
どうやらカエサルも効いてきているらしく、顔を顰めていた。
「今ここで倒す!」
「さて、そろそろどうにかしないといけないのぅ。どうしたもんかのぅ。」
裕兎がこのまま押し切ろうとしていたとき...。
「"筋肉硬化"(ミュスクルローシス)!」
カエサルの身体に血管が浮き出る。そのことに気づいていない裕兎は、上からカエサルの元まで勢いをつけて飛んできており、そのまま身体を捻り回転しカエサルの肩へ思いっきり蹴りを入れた。すると、カエサルにダメージがあるどころか裕兎の脚の骨が折れてしまった。どうやら、カエサルは全身に力を込め身体を硬くしたようだった。
裕兎は地面に落ち脛を抑え悶える。
「う...うぐぁ...!!!」
「ん?折れたんかのぅ?そろそろ諦めたらどうじゃ?」
勘づいたカエサルは落ち着いた声音で諭すように言った。
「こんなに強い奴を...諦められる...かよ!」
そう言い放つ裕兎にカエサルは少し残念そうにする。
「なら、殺す気で行くんじゃが?」
「あぁ、俺もそのつもりだ。本気でいく!」
「その状態では、もう勝負がついたようなもんじゃろ?」
裕兎は諦めないと悟ったカエサルは覚悟を決めるかのように斧を握る手に自然と力が入った。
勢いよく斧を高らかに掲げると裕兎の折れていないもう一方の足を狙い真っ直ぐに振り下ろす。
そして、斧の刃が地面にめり込むと同時に裕兎の足が宙を舞っていた。
脚の切り口からは血がドクドクと溢れ出ていた。
「ぐっがぁぁぁ!!はぁ...はぁ..."三井寺芥虫"ァ(ボンバルディア)!」
腕に力を入れると指先が赤黒く手のひらにいくにつれて赤色となり肘辺りになると橙色といった感じの鮮やかなクリスタルのような鎧を纏った。
そして、裕兎はカエサルに手のひらを向ける。
次の瞬間右手から過酸化水素、左手からはヒドロキシンを放出した。
「ぐはっ。な...なんじゃ...!?」
ブシャーッ!と裕兎の手のひらから放出された高温ガスによりカエサルは身体が焼かれる。
更に放出されたガスの勢いによりカエサルは飛ばされ、地面もえぐれることで溝ができ草は熱により焦げている。
カエサルは飛ばされた先にあった木に強くぶつかり倒れていた。
「まさか、まだこんなに戦える...とはのぅ。」
どうやらカエサルは少しは効いたようだったがまだピンピンしていた。
「くっ...!今のうちに治さねぇと!"豹紋蛸"(プワゾンプルプ)。」
痛みを堪えながらも声を絞り出すと切断された脚も骨も急速に修復されていた。
「ふぅーなんとか治ったか。さぁて、結構効いてきたんじゃないか?カエサルはそろそろ倒れたかな?」
「ふん。この程度で倒れるほどわしは老いぼれちゃおらんわ。....そんなことより何故さっき斬った筈の脚が生えておる!?」
あれほどの蹴りを受け更には高温ガスまでも受けたにも関わらず立ち上がったカエサルは、裕兎の治りきった脚を見て驚きを隠せずにいた。立ち上がるカエサルに裕兎も驚く。
「まだ立てるか!?頑丈だなぁ...。まぁ、それが俺の特性だからな。これ以上長引けばまた追い詰められそうだし、今のうちにぱっぱと倒すとするかぁ!」
裕兎はカエサルの近くまで踏み込むとクネクネとしたタコの足でカエサルの手足を素早く絡ませ身動きが取れないようにする。
しかし、それを逃れようとカエサルは抵抗しようと力を入れ始める。
斧を地面に埋め込む程の力を持つカエサル相手に流石に長くは持たないと思った裕兎は
「発勁(ハッケイ)!」
カエサルが力を入れにくくするために一発腹部に打ち込んだ。
「そんなもんわしに通じるわけ.....ない...じゃろ..?」
余裕そうな表情をしていたカエサルが急にゴポッと口から血を吐いた。
「な...なぜ..じゃ....!?」
なぜ自分が血を吐いたのか分からないのか困惑するカエサル。
「俺は今テトロドトキシンという毒を纏っているような状態でな。さぁ、大人しくなって貰おうか。」
自分に優位性が持てたことにより表情が少しばかり涼しくなる裕兎。
だが、それで抑えられる相手では無かった。
「毒がなんじゃと言うんじゃ!こんなものでわしを抑えられると思われるとは甘く見られたもんじゃのぅ!」
カエサルは身体を捻ったり両腕を振り裕兎のタコ足を振り払おうと力を込めた。
そして、裕兎の締め付ける力が緩んだところをつかさず素早く斧振り回した。すると、カエサルの振りほどく力によりバランスを崩した裕兎はいつの間にかタコの足が全て切られ裕兎も軽く肩を切られそこから血が軽く吹き出していた。
「なっ!?...痛ぇ。」
「これで終わりじゃゃ!!」
裕兎が驚いて未だに態勢を立て直せずにいるとカエサルは斧の柄を両手で持ち上に掲げ力を込め裕兎目掛けて振り下ろす。
裕兎は避けようとしたが避けるより速くカエサルの振り下ろす斧の方が早かった。
(くそ!間に合わない!!)
「"黒硬象虫"(デュールウィーヴァル)!」
顔を含め、全身を黒く分厚いクリスタルのような鎧を纏う。
カエサルの斧と裕兎の鎧がぶつかり合うと今までとは比にならないほどの衝撃が起きる。
それはバチッバチッと火花を散らし周りの木々はぶつかった衝撃により起きた風で大きく揺れ葉が舞っていく。
そして、山はカエサルの居るところから山の下の平地まで一直線に真っ二つに切れている。それに続くように周りの土も平地まで流れていき土砂崩れが起こる。
そんなカエサルの攻撃を受けた裕兎は物凄い勢いで飛ばされていた。あらゆる木にぶつかりまくり、ぶつかった木々は裕兎とぶつかった衝撃に耐えきれずバキバキ折れていく。
ドスンドスンと飛ばされた裕兎は平地まで続く地面の割れ目に埋もれていた。死んだかと思われたがピクッと指先を動かしゆっくり顔を上げた。そこからなんとか起き上がろうとした。
だが右腕が無くなっていることに気づく。二頭筋の中間辺りから下が無いのだ。そこからは血が垂れていた。
「ぐ...!なんとか間に合って良かった...。が、切られたのは腕1本ってところか...。まぁ、クロカタゾウムシになれて無ければ死んでただろうな。」
(そう思うと間に合って良かったって思えるな....。)
裕兎はもう1度ヒョウモンダコになると腕を再生させ、右腕の手のひらをグーパーグーパーして状態を確かめると、割れ目から出る。
「よっと。さて、これからどう倒していくかなぁ...。そろそろ俺も体力的に限界が近づいてきたな...。特性の使い過ぎか?」
対策を考えながら、軽く深呼吸をするとフラフラな足取りで裕兎はカエサルの元へと向かっていった。
その頃カエサルは全力を出し切り息を荒らげていた。
「はぁ...はぁ...。あの若造中々やるのぅ...。仲間になってもいいと思えるくらいの実力は認めようかのぅ。じゃが、負ける訳にはいかぬな。わしにもプライドがあるからのぅ。」
どうやらカエサルも限界が近づいているようで膝をついて呼吸を整えていた。
裕兎がカエサルの元へと着くと
「ほぅ、まだ生きておったのか。」
そう言い立ち上がるカエサル。
「まだ立ち上がるのか、と思ったがフラフラじゃねぇーか。」
「お主に言われとうないわ。お主もフラフラではないか。」
互いに疲弊しきった身体に力を入れ向きあう。
裕兎は深く息を吸うとムエタイのような構えを取る。それに続きカエサルも斧をゆっくりと持ち上げる。
「"紋華青龍蝦"(オドントダクティラズ)。」
すると、肩から指先まで緑や青、水色といった色に変わりそれは鮮やかな綺麗なクリスタルのような鎧を纏い、目は黒色から青色へと変わる。
裕兎とカエサルは互いに足を引きずりながら重たい身体を動かした。
「お主の力は認めよう。じゃが、勝つのはわしじゃぁ!!」
カエサルが斧を振り回すが裕兎はモンハナシャコの特徴の一つである視力を使い斧の軌道を読みカエサルの腕を押し軌道を変えたり、しゃがむ、反れるといった風に避けていく。
それでも構わず振り回すカエサル。
カエサルが斧を振る度に木々は切り倒されていく。
互いに倒れてくる木を避けながらひたすら続けることしばらく。
そんな中、裕兎はカエサルの隙を狙いシャコの強力なパンチに更に発勁をのせ一層重くした拳を1発1発確実に当てていく。
カエサルが斧を振り上げれば瞬時に腹部を殴り、振り下ろせば顔を殴る。また脚に斬りかかろうものなら腕を殴り軌道をずらしていた。それでも、カエサルは倒れること無く斧を振り続ける。
「ガハッ...ヒューヒュー...。」
やっとのことでカエサルも少しずつ効いてきたようだった。痣や傷だらけとなり血を垂れ流し、息をする度に喉の奥からヒューヒューと音を鳴らしていた。
だが、裕兎が左手で殴ったときにカエサルに腕を捕まれ力強く握られてしまった。振りほどこうにも振りほどけず、残った右手で何発も殴るが怯むことがなかった。
そして、そのまま裕兎は腕を斧で切断された。
裕兎の左手からは血が垂れ切断面からは熱いと感じるとともに激痛も走った。
しかし、裕兎も負けずと力を込め右手で一発大きく振りかぶってカエサルの顔面に殴りかかろうとする。
それをカエサルは斬りとった裕兎の腕を適当に放り投げると迎え撃つ。
しかし、カエサルが裕兎を斬るよりも早く裕兎の拳が先にカエサルの顔に当たる。
そして、そのままカエサルは飛ばされた。
その間にシャコの再生力を使って左腕を生やそうと力を込める。
「はぁぁぁ!」
なんとか左手を生やすことが出来たが、その一瞬の隙を狙ってカエサルは瞬時に裕兎の元へ来て勢いを乗せたまま、肩ごと腕いっぱいに斧を振り下ろす。
が、裕兎はそれを横へ飛び避け斧を持ってる右腕の肘に思いっきり一発殴り骨を折る。
骨が折れたことにより斧を落とすカエサル。流石に骨が折れるのは効いたのか眉を顰めた。
「うっ...!やるのぅ。じゃが、まだわしは諦めぬ!」
それでも、カエサルは諦めずに左手で殴ろうとしてきたがそれも左手で受け流し裕兎はカエサルの懐へと入り込み、最後の力を振り絞り渾身の一撃をカエサルの胸にぶつけ、そのまま地面へと叩きつけた。
「なぬっ!!」
ドスン!バギバギ!という鈍い音と地割れが起きる音を響かせながらカエサルは地面が凹み、地割れが起きた中心部で埋もれた。
周りの木々は起こった風により葉を散らしながら、今にも折れそうなくらい反る。
「はぁ...はぁ...。倒した..のか...?」
裕兎は警戒しつつしゃがみこみ、カエサルの頬をペシペシと叩き確認してみるとどうやら気を失っているようだった。
「よし!俺の勝ちだな。ふぅー...、今すぐ横になりたいところだが治療するために連れて帰らないと、だな。」
そう思い何の生き物が適策か思案する。
(あっゴマバラワシが適してるかもな。)
「"胡麻腹鷲"(マーシアルアークイラ)。」
大きな翼が生え、羽の付け根や肩から手首辺りまでクリスタルのような輝かしく刺々しい鎧を纏う。
裕兎はカエサルを持ちそのままアルジェへと向かい、飛び去った。
第5話........終