異世界での生活も楽ではない   作:XkohakuX

16 / 17
サブタイトル、何かいい感じの思いつきませんでした笑(´д⊂)


第16話 *裏で舞台は着々と進められている*

裕兎は槍を片手に湖へと入る。

ひんやりと水の冷たさを身体全身に感じているはずだが気にする素振りもなく平然としていた。

「相手は水の塊だ。...なら、"駄津"(ニードルペシェ)!」

水の中でも陸にいる時のようにいつもと変わらずしっかり目を見開き男を見据えながら言う。

すると、裕兎の鼻と口が鋭くダツのように尖り長くなり、耳元まで藍色のマスクのような鎧を纏う。

更に両腕の上腕二頭筋と両足の太ももの途中辺りまで青い鱗のような鎧を纏った。

水中で身体を倒し少し前かがみになったところで膝を屈折させ曲げると勢いよく伸ばした。

それにより水は裕兎の進行方向とは逆方向へと泡を発生させ水飛沫を上げる。

そして、全身に水の抵抗を受けながらも速度を緩めることなく水中を蹴り進む。

湖の水から巨人の腹部へと入り胸部へどんどん男の元へと向かっていく。

鎧の色のお陰か裕兎は湖の水に溶け込んでいた。更にもの凄い速さを兼ね備えている。それは目を凝らさないと見失うほどだ。

しかし、男は見失うことなく裕兎を鋭い目つきで睨んでいた。

「あらら〜。お前、なかなかに速いねぇ〜。なら、これでどうだ。"水圧"(ヴァッサープーセ)!」

男は裕兎を見つけると特に焦ることなく冷静な表情でそう言った。

「うぐっ!がはぁ...!!」

裕兎はさっきまで物凄い勢いで水中を移動していたのに何故か動きが止まる。

そして、血を吐いた。口から出た血は水を赤く染め徐々に消えていく。

顔色は青白く血色の悪い色となる。

あろうことか片方の肺が潰れたのだ。

裕兎はその痛みに耐え歯を食いしばっていた。

「今お前の周りには水深400メートルのときの水圧がかかっている。このまま押しつぶされるんだな。」

裕兎は急な圧力に驚き苦しそうに顔を顰める。だが、急がないと死んでしまうと焦る気持ちを押さえつけ、打開策を見つけるため考え裕兎はすぐに次の生物へと変わった。

「このままじゃ、あいつを斬る前に殺られる...!"電気鰻"(エレクトシテアール)!!」

「何かするみたいだねぇ〜。そうなる前に終わらすかぁ〜。」

藍色に尖った口先は元に戻りマスクのような鎧は消え、青色の鱗のような鎧も消えた。

かわりに、裕兎の目は黄色へと変わり、髪も少し伸び黄色へと染まった。

そして指先はサイドに黒色の粒のような模様が等間隔に左右対称に現れる。

両腕や両足、肋のところも同じような模様が浮き出た。

更に胸筋辺りから両腕の指先まで竜の鱗のような黄色の刺々しい鎧を纏う。

両足もそれと同様に同じ模様で腰辺りから鎧を纏っていた。

電気を常に発しているせいか身体は淡白く輝いていた。

裕兎は圧力を感じ苦しそうだったが、それでも男を睨んでいた。

「あらら〜。雰囲気変わったねぇ〜。」

男は驚きの言葉を言っているものの表情は余裕に満ちた笑みを浮かべている。

「水中で今の俺に勝てると思うなよ。"雷槍"(エレクトリシテランツェ)!」

すると、裕兎の左手がバチバチッと音を響かせて白く輝く。

そこには電気が凝縮して作られた槍が出来上がっていた。

それを鷲掴みすると、腰を捻り腕を後ろへと引き男へ向かってぶん投げた。

電気の痛みを感じないのか圧力以外のキツさは伺えず手も焼けることなく放たれる。

水の中では電気は通りやすく槍は裕兎の手から離れると瞬時に消え、いつの間にか男を貫いていた。

槍が通った経路は電気の熱により蒸発し風穴が空く。

更に水中には軽く電気が流れバチバチと音を鳴らしながら外の空気中へと抜けていく。

雷槍が巨人の外へと出ていくと空気中に電気をバチバチ鳴らしながら徐々に無くなっていった。

男は雷槍で腹部を貫かれてからも痺れ気を失っている。

また雷に打たれたように手足が軽く痙攣していた。

洋服は貫通したところは穴が空き皮膚を覗かせており、そこから中心に焦げ、皮膚もところどころ黒くなっており焦げていた。

裕兎は倒したかと安堵し深く深呼吸して特性を解除しようとしたところで男は意識を取り戻す。

「ぜぇ...ぜぇ...。これじゃあ、環境的に不利だなぁ...。"水大砲"(ヴァッサーカノーネ)!」

ギリギリのところで意識を保ち、さっきまでの余裕な表情が無くなった男はギリッと裕兎を睨むと叫ぶ。

すると、急に裕兎のいる周りの水の水流が変わり、そのまま勢いよく巨人の体外へと弾き出される。

あまりの咄嗟のことに反応出来ずにいた裕兎は水と共に木々と地面に叩きつけられる。

背中を強く打ちその反動で宙へ浮く。更に強く地面に叩き付けられたせいか額からは赤い液体が一筋に垂れていく。どうやら、頭を怪我し血が出たようだ。

そこら一体の木々はへし折れ倒れていた。

「いってぇ…。」

裕兎は頭を左手で抑えながら右手に持っていた槍を支えに立ち上がる。と、血を拭く。

「水じゃあお前に有利だからなぁ。"氷結化"(ゲフリーレン)。」

どうやら、男は裕兎を甘く見るのを辞めたらしく、冷ややかな能面のようなゾッとする冷笑的な薄笑いを浮かべていた。

まるで全力で殺しに行くと錯覚してしまうくらいに。

水の巨人の拳の部分の水温がだんだん下がっていく。そして、カチカチカチッという音と共に水は凍っていき、しばらくすると完全に氷となった。

そして、裕兎に向かって拳を連続で打ち付けた。

裕兎は驚きも恐れもせず平気な顔をし身体から微小な電磁波を発し空気の流れを掴み向かってくる拳を読み避けていく。

凍った拳が地面に叩きつけられる度にドンドンッと音を鳴らし氷は砕け飛び散り、地面は地割れ砂埃が起こる。

「どうするか…。あっそうだ。"雷槍"(エレクトリシテランツェ)。からの〜、"雷装"(ドナー)!」

特性を使っている状態で避け続けるのは体力的に負担があったのか、頬に一筋の汗が流れ何か方法はないか気を急いでいた裕兎だったが、思いつくとすぐ行動へと移した。

左手は電気で作り出した槍を握り右手では槍に電気を纏わせ横に振った。それゆえ裕兎に向かってきていた氷の拳は電気の熱によって氷を溶かし槍で切り裂かれる。

「あらら〜。斬られちまったかぁ。」

言葉は落ち着いていたが、やはり男にとっては予想外だったらしく些か愕然としていた。

「次で終わらす!これで俺の勝ちだ!」

切り裂かれて氷の奥にある水の巨体に包まれる男を狙って左手の雷槍を放つ。

「そう簡単に俺はやられねぇよ。」

男は不敵に薄ら笑いを浮かべると自分の前の水を凍らし電気は氷を伝って横に流される。

「受け流すか!?」

(いや、これが昨日レンが言ってた特性の質の差ってやつか。)

「実力では劣ってるってモチベーション下がるなぁ。テクニックで勝るしかねぇか。次は貫く!!」

「お前に次なんてねぇ!俺が先に倒す!」

裕兎はそう言うと再び左手に雷槍を再び作り持った。

「仕方ねぇ〜。体力を結構消費してしまうがそのくらいしないとお前には勝てないようだしな。」

男は斬られた拳を氷で再生させると湖に腕を浸し裕兎に向けて水を飛ばす。

勢いよく飛んできた水は凍り鋭く尖った氷となって裕兎を襲った。

どうやら、数多くの水を尖らせ凍らす為それなりに体力を消費するようだ。それでも男は余裕そうな表情を浮かべていた。

避けなければ身体に突き刺さりそうな程の勢いで飛んできた氷を裕兎は槍で切り捌き避けていく。

しかし、男はそれでも辞める気は無いらしく変わらず飛ばす。

裕兎の表情はだんだん曇っていく。

少しずつ体力がすり減らされているようだ。

そのうえ、飛んでくる氷が掠ったりし傷が増えていく。

「このままじゃ先に体力が切れて終わり、だな。なら、"雷動"(ラヴィテス)!」

裕兎は叫ぶと雷槍を巨人の顔付近から10メートル程離れたところへ投げ飛ばす。

雷槍が巨人の近くを通ると裕兎は雷槍に向けて静電気を発生させ磁石の原理のような引力を使い一瞬で槍の元へ移動した。

「速い...!こりゃあ、見失ってしまうな。」

裕兎が視界から消えたことにより男は驚きの表情を見せ顔を四方八方へと向け見つける。

「これで終わりだぁぁぁ!!」

不意をつくことに成功した裕兎は左手の雷槍を男に向けて放つ。

「まだやられねぇよ。残念だったね〜。」

「何...!?そろそろ体力の限界がきてるのに...。早く終わらせないと!」

裕兎が雷槍を放つとパキパキパキッと言う音を立て水の巨人の頭部は凍っていき男は電気を回避する。

「俺は今まであらゆる奴を倒してきたんだ。お前みたいなガキに殺られる実力じゃねぇよ。そろそろ諦めたらどうだ。」

未だに殺せずにいる裕兎は徐々に体力がなくなり苦しみ焦燥を感じ始める。

空中で雷槍も無くなり身動き取れなくなった裕兎の隙をつき男は腕を凍らせ叩きつけた。

巨大な氷に叩きつけられた裕兎は風を巻き起こしながら地面へと落ちる。

地面へと打ち付けられると地面は砕け裕兎はめり込む。

「うがぁ!!」

「ほんと丈夫だねぇ。そろそろ死んでもいいと思うんだがなぁ。」

裕兎がまだ息をしているのを確認した男は呆れ気味にそう言った。

裕兎は呼吸を荒げながらも立ち上がるとニヤリと笑い男に指を突き立てる。

「はぁ...はぁ...。お前は...もう俺に攻撃を与える暇なんて...ねぇぞ。ふぅ〜...、俺がそんな暇与えねぇし体力の限界だ。すぐに終わらしてやる。......お前はもう俺にはついてこれねぇよ。」

「ふはははっ!何を言い出すかと思えばそんなふらふらの状態で強がりはやめておけぇ。みっともないぞ。」

「ふっ。言ってろ。俺は負けねぇ...!"雷神"(トネールディーオ)!」

すると、黄色だった裕兎の髪と瞳、鎧は青白く変わり更に周りをバチバチッと電気を走らせながら淡白く光る。

また肋というより背中から左右一本ずつ電気で形成された腕が出来上がり槍を一本ずつ持つ。よって、それは腕が四本ある状態である。

それから裕兎は雷神が腰辺りから背中辺りの大きさまである小さな太鼓が繋がり背負っているみたいなものを電気で形成し作り出す。

その変わりようはまるで雷神のような様で。それを見ていた男は顔を引き締め警戒する。

「なんだぁ〜?その姿は。また変わったねぇ。潰れろ!」

凍った巨大な拳を冷静に見つめタイミングを測る裕兎を。

視覚から外され不意を突かれないようにしようもキリッと睨みつける男に裕兎は左手の雷槍を放つ。

「おせぇ!"雷動"(ラヴィテス)!」

「また消えたか!次はどこだぁ?」

予想通りだったのか、男は今回はあまり驚くような反応がなかった。

目の前で一瞬で姿を消した裕兎を見つけようと辺りを見渡すと巨人の右側で槍を口で咥え雷槍を四本持っている姿を見つける。

「そこかぁ!吹き飛ばす。」

見つけるとすぐに地面に叩きつけた拳を横へスライドし裕兎へと向かった。

「吹き飛ばされる前に俺はお前を先に倒す!」

「何をするか知らねぇが。止める!」

「分かった頃にはもうお前は殺られてるだろうよ。"雷分身"(フェルシュング)!...もって数秒だが、お前を倒すには十分だ!」

そう叫ぶと裕兎は四本の雷槍を巨人の付近へと飛ばす。

飛ばされた雷槍は青白く形成された裕兎そっくりの状態が作り出されていた。

四人の...いやこの場合は四つと言った方が正しいのだろう。

四つの偽物と裕兎は雷槍を四本持つと巨人に向かって構え始める。

それを見ていた男は。

「ほぅ...。全方向からすればどれかは当たるだろう、という算段か...。だが、残念だったな。"氷結化"(ゲフリーレン)!そんなもの全身凍らせばいいだけのことだろう。」

そう言い放つ。

ピキピキピキッ。

そんな音が響く。

男が...即ち水の巨人の表面が下からどんどんペースを上げ冷気が出始めた頃にはもう既に氷の像と化していた。

だが、それでも裕兎はあまり驚きもせず技を当てれる、そう信じて前を見ていた。

「まだそんな体力が残っていたのか。だが、まぁそれでも俺の攻撃は防げない。"十六本の天災"(ナトゥーアカタストローフェ)!!」

その声が響くと偽物の四つは四本の雷槍を放ちバチバチッと音を鳴らしながら消える。

放たれた十六本の雷槍は真っ直ぐに巨人へと向かい同時に当たった。

巨人は青白い光に包まれるものの男のところまで届く雷槍は無く、雷のような電気の音が響くだけだった。

「ふはははっ!残念だったな。やはり俺の所までは届かない!これで俺の、勝ちだ!」

そんな高笑いをしていると不意に。

ピキピキッパキッ!

そんな音が脈絡もなく唐突に鳴り響いた。

氷の像と化した巨人に。

ヒビが入ったのだ。

どうやら、多量の電撃を受け発生された熱により巨人は溶け始め液体となっているようだ。

だが、男にはそんなこと知る由もなくただ呆然と立ちつくし状況の理解をしようとする。

しかし、裕兎はそんな暇を与えず"雷動"(ラヴィテス)で巨人の背後へと回る。

「残念だったのはお前のようだったな。これで終わりだ!"大雷槍"(グロースランツェ)!!」

不意に咥えていた槍を右手で構え振りかぶり叫ぶ裕兎。

すると、右手で持っていた槍に電気が走りどんどん集まっていき次第に水巨人と同じほど、では無くとも腕くらいの大きさはあり、その大きさはざっと10メートルはあるだろう。

それを上半身を捻り力一杯ぶん投げた。

投げられた槍は一瞬にして巨人を貫き更にその中にいる男の腹部をも貫いた。

「うがぁぁぁ!...これは俺の...負け、のようだな。だが、俺は諦めはしない!」

力強く手を裕兎へと向けると

「"氷結化"(ゲフリーレン)!!これで道連れだ。」

水を集め水圧で潰す。

「な...!?や...ヤバイ!」

これは予測していなかったのか裕兎は水の中であたふたしている内に水が外側から徐々に凍っていく。

カチカチッカチン。

球型の氷になると湖へと落ちていき波を立たせ飲まれていった。

それと同時に巨人も普通の水と化し遠くでひたすら出続ける水傭兵もバシャッバシャッと地面に倒れ水溜りを作っていく。

「終わったのぅ...。」

「少し疲れましたわぁ♪」

「裕兎が倒してくれたのか!」

カエサルやクロエ、イザベラは裕兎が勝ったのだと喜び。

「怪我した人はいるかしら?」

「ソフィア様は大丈夫ですか?」

ミカとレンは周りの心配をする。

「私は大丈夫。皆無事で良かった。守ってくれてありがとう。」

ソフィアは皆に感謝し安堵していた。

 

* * *

バシャーン。

巨人が崩れた付近で水飛沫を上げて湖から現れたのは巨人の中にいた男だった。

男は裕兎に腹部を槍で貫通され上半身だけ、となっていたが。

「ハァ...ハァ...。ふっふっふっ。ふははは。何とか奴を殺せた。最後の最後で油断しちゃったねぇ〜。」

堪え切れない笑いが湧き上がり、不敵に笑う。

腕で身体を引きづり陸に上がったため地面は水に濡れ土色が焦茶色と変色していた。

「はぁ...はぁ...。...なんとか、ゲミュートの命令通り裕兎を殺ることが出来た。今回は、ギリギリ、だったな...。」

なんとか息を整えようと深呼吸をしていると、不意に湖からザバァーンと何かが出てくる音がなる。

男は振り返ると視界に映ったものを見て男は呼吸することすら忘れ、死人のように力無い表情へと変わる。

「あー...死ぬかと思った...。ギリギリだったわ〜...。湖に俺が飛ばした槍があることを思い出せて良かったぁ...。」

「.....な...何で...お前..が生きて...るんだよ...!?」

湖からずぶ濡れで現れた男性。それは殺したと思っていた裕兎だった。湖から元気そうに現れたことに男は目を点にして驚いた。

そんな男を裕兎は見つけ指を指す。

「あ!お前まだ生きてたのか!?...てか、何でお前血、出てないんだ...!?」

目を見開き見つめていた裕兎の視線の先には確かに水に濡れ色が濃くなった土があるだけで、男の胴体の近くには血など、どこにも無かった。

そんな裕兎を見た男はニヤッと笑う。

「あらら〜。残念だったねぇ。俺は"偽物精製"(ファクティスファーレ)によって作られた偽物だったんだよ〜。まぁ、任務には失敗したが、手土産は作れそうだねぇ〜。」

どんどん透明になっていき、最終的には人の形の水となった。

「任務...?」

裕兎が呆気に取られていると、男は水の状態のまま風を切るような速さでカエサル達の元へと向かっていく。

状況処理が追いついてない頭で男の向かった先を見てやっとのことで男のしようとすることを理解する。

「そういうことか!!おーい!お前ら、気を付けろ!"電気鰻"(エレクトリシテアール)!間に合え!"雷槍"(エレクトリシテランツェ)。そして、"雷動"(ラヴィテス)。」

すると、裕兎の目と少し長くなった髪は黄色く染まり、両手、両足、肋といったところは黄色い鎧のようなものを纏い、そこには等間隔に小さな斑点模様が出来る。

右手に黒槍を持ち、左手には電気により作られた雷槍を持っていた。

その雷槍をカエサル達の元へと投げる。

手から離れるとビュンッと目を凝らしてやっと見ることの出来るような速度で飛んでいく。

裕兎がそんなことをしている間に男はカエサルやレン達の近くに既におり、地面から液体の状態で現れた。

「ん?何これ?...あっこいつまだ生きていたのか!?」

「レン!危ない!」

レンは避けようとするものの間に合いそうに無く、ミカは庇おうと前へ飛び出す。

カエサルやシャネル、クロエ、イザベラ、ソフィアの五人はレン達とは少し離れており、遠くからの声に振り向く程度だった。

人型の液体の右手には水で出来た剣のようなものを持っている。

男はレンを突き殺す気なのか剣の刃先をレンの頭へと向けていた。

曲げていた肘を伸ばし徐々に刃先がレンの頭へと近づいていく中、空気中でバチバチッと放電音が聞こえた。

いつの間に追いついたのだろうか、音が鳴ったかと思ったら裕兎がレンの頭上で槍を構えていた。

「よし!間に合った!この野郎。消えてなくなれ!」

黒槍に電気を纏わせ、裕兎の腕は弧を描きながらそのまま、男に向かって振り落とされる。

あまりの速さに追いつけずにいた男は避けることも出来ず槍が頭のてっぺんからまっすぐに突き刺さる。

更に、電気の熱により液体の身体は蒸発し消えて無くなっていった。

裕兎は特性"変態"(メタモルフォーシス)を解除すると、いつも通りの人間の姿へと戻る。

地面に足を付けると、そのまま崩れるように膝を折り手のひらを付く。そして、深くゆっくりと息を吐いた。

「疲れたぁ〜。つい最近、亜人種(デミヒューマン)と戦って疲れたのに、また戦闘とはなぁ...。あっレン大丈夫か?」

愚痴を零しながらもレンに顔を向け尋ねる裕兎。

「うん。助かったよ。ありがとう。ミカもありがとうね。」

「いえ。油断したわ。それにしても、生きていたとは驚いたわ。」

「あぁ、俺も倒せたと思ったんだがな。...それにしても、折角の休みなのに疲れて明日からも仕事かぁ...。」

レンはにこやかに笑いながらお礼を言い、ミカは安堵し胸を撫で下ろす。

裕兎はそんな二人を見て大きな傷がないのを確認すると安心し、それと同時に今日一日あまり休めなかったことを少しぼやく。

そんな中、カエサル達は裕兎達の元へと足を向けていた。

「おぉー。裕兎、無事じゃったかのぅ?」

「あん雷ピカーっち凄かった!」

軽くフラフラしながらも立ち上がった裕兎にすかさずシャネルは抱きつく。

そのお陰で、よろけ倒れそうになったのを何とか耐える。

「あぁ、大丈夫だ。と思ったが、やっぱ大丈夫じゃねぇわ...。ほら、今とか。」

「なんそい!ひどい!」

シャネルはぷくーと頬を膨らませると顔を背ける。

(その癖に離れないのか…。怒るんなら離れてくれよ。今はほんとに...無理...。)

バランスを崩し裕兎が倒れかけたところで、ふと腰周りに腕が周り助けられた。

誰だろうと顔を向けるとそこにはニッコリと笑顔を浮かべるクロエがいた。

「相当疲れていますわねぇ〜♪大丈夫ですの?」

「疲れていると思うならお前は俺の血を吸うのを辞めろよ...。余計に疲れるだろうが。」

しれっと肩に噛み付き血を吸うクロエにジト目を向ける裕兎。

「だって、わたくしも疲れましたもの♪ご褒美が欲しいですわぁ♪」

「はぁ...。今日は帰ったら早めに寝よう…。」

クロエが満足そうにしている最中、対照的に裕兎がどんどん疲労していく光景を見てカエサルは、皆が無事で良かったと微笑ましく見ていた。

すると、視界の端でイザベラとソフィアが移った。

どうやら、イザベラはソフィアに怪我はないか心配しているようだ。

(それにしても、あやつは何でワシらを襲ったんかいのぅ。ワシらは別に金目の物など持っておらぬし…うーむ、考えても分からぬわ...。とりあえず、今は疲れたから早く帰って休むとするかのぅ。)

「裕兎、今日はソフィア達を王宮へ届けて、もう解散とするかいの?」

しばらく、こめかみを抑え考え込んでいたカエサルであったが頭が働かず諦める。

「そうだな。じゃあ、まず荷物纏めるか。あっあと水着も着替えないと。...ほら、シャネルもクロエも行ってきなさい。」

「はーい!」

シャネルは元気に返事をし、荷物を纏めに行く。が、クロエはニヤニヤしながらも名残り惜しそうに言う。

「あーぁ、裕兎へと誘惑ももう終わり、ですわねぇ。残念ですわぁ。」

「いや、お前は基本的にいつも誘惑してるだろ...。」

「誘惑なんてわたくししませんわぁ♪まさか裕兎がそんな風にわたくしを見ているだなんて♪」

「あーはいはい。分かったから行ってこい。」

大袈裟に目を開けて驚いたふりをするクロエに裕兎は適当にあしらえつつ、荷物を纏め始める。

そんな裕兎を見てクロエはふてくされたように口を尖らせて、いいもんとか色々と小言をいいながらミカ達が先に行った後を追いかけるように茂みの中へと姿を隠していく。

「じゃ、着替えるかな。」

纏め終わり、着替え始める裕兎に続きカエサルも着替え始める。

レンに関しては、裕兎達が纏めてる間に着替えたのか、いつの間にか水着では無くなっていた。

こうして、嵐鬼 裕兎の休日は慌ただしく幕を閉じていく。

 

 

* * *

とある高台から望遠鏡で遠くを覗く一人の男性とその傍らで立ち尽して待っている男性がいた。

「あらら〜。殺られちゃったねぇ〜。俺の分身体。」

「まぁ、相手はあのユグリス・レンが率いてる奴らだからな。仕方ないとは思うが、お前の実力を考えると一〜二人は殺れると思ったんだがな。」

「ちゃんとすまないと思っているさ。ゲミュート。」

「だといいんだがな。ファルシュ。お前は手を抜くことが多々あるからな。私の計画実行の時くらいは真面目にやるんだぞ。」

「へいへい。分かってるさ。」

ファルシュと呼ばれた男性はさっきまで裕兎達と戦っていた男の本体のようだ。

どうやら、今までこの高台で様子を見ていたらしい。

そして、ファルシュを従え隣に立って居るのがゲミュートというようだ。

彼は、黒く背中まである長い髪を一束に纏め、眼鏡を掛けている。

見た目は強そうではなく、ガタイは細いが身長はそれなりに高く、白衣を着てるその姿は研究者そのものでファルシュを従えそうには見えない。

ゲミュートは眼鏡をクイッと上げるとファルシュに命令する。

「まぁ、今回は特にお咎め無しにしといてやろう。私のただの思いつきだしな。」

「それに今回は力試しだしねぇ〜。じゃあ、次の本命作戦の実行準備といこうかねぇ〜。」

「あぁ。裕兎とか言う奴が現れたからどんなものかと実力データ分析をしたが、今回の計画の邪魔にならないだろう。」

「そりゃあ、何よりだねぇ〜。」

ファルシュは望遠鏡から目を離すと立ち上がり伸びをする。

それを合図だったかのようにゲミュートは後ろを向き歩き出す。ファルシュもそれに続き後ろを歩いていく。

「もう少しで私の夢の実現も可能となる!フハハハ!その日の為に今まで何年費やしてきたことか。遠い道のりだったな。」

「あらら〜。それは大変そうだねぇ〜。」

あまり興味なさげに言うファルシュに特に何も言う事が無く気にせず白衣を翻しながら姿がどんどん遠くに行っていく。

二人は不穏な空気を漂わせながら帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

第16話.........終


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。