異世界での生活も楽ではない   作:XkohakuX

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第15話 *謎の刺客*

どんどん大きくなっていく渦を目の前に裕兎はこの状況を打破するべく一つの技を思いついた。

「"駄津"(ニードルペシェ)。」

裕兎の口と鼻辺りの形が変形し鳥のクチバシのようなダツの口のように鋭く長くなった。

クチバシから耳にかけて藍色のマスクのような鎧を纏う。

それはまるでハロウィンとかで使われるコスプレマスクのような、そんな感じだった。

更に両腕の上腕二頭筋と両足の太ももの途中までが青色の鱗のような鎧を纏った。

「おぉ!息が吸える!それに喋れる!」

水中で呼吸や言動をすることが出来るようになりテンションが上がりながらもすぐさま膝を曲げ水中を蹴る。

その瞬間、もの凄い勢いで水中を移動した。その場から消えたような速さだ。

裕兎が水中を蹴った反動で湖の水は大きく揺れ泡がたくさん出る。

それは80キロほどだろうか。いや、それ以上はある速度だった。そのまま水面に向かって移動する。

そして、裕兎はカエサルを抱えると方向を変え浅瀬に向かって再び水中を蹴り移動した。

すると、大きな水飛沫が起き浅瀬とは逆方向に少し大きい波が起きる。

「なんじゃ!?...おっ裕兎ではないか。どうしたのじゃ?」

カエサルは急な衝撃に驚きはしたもののすぐに裕兎に運ばれていると理解した。

「海底に渦があった!このまま水に浸かってたら危ねぇ!だから、急いで運んでるんだよ!」

「うむ。分かったぞ。任せろ!」

力強く頷いたカエサルは不意に深く息を吸い始める。何を任せろなのか、今から何をするのか疑問に思っていると。

「お主らぁ!水に浸かっていては危ないぞぉ!今すぐ陸へ上がれぇ!」

大声で叫んだ。どうやら、皆に知らせるために息を吸っていたらしい。

カエサルの声を聞き取ったミカ達は急いで陸へと上がる。

「どうしたのかしら?」

「なんかいたんかいなぁ?」

「うふふ♪怖いですわねぇ♪」

「ソフィア、さぁ陸へ急いで上がりましょう!」

「う...うん!」

皆一体何があったのか分からずいた。が、それでも、鬼気迫る状況ということだけは理解してくれたようだ。

「ナイスだ!カエサル。助かった。」

「うむ。」

「じゃ、速度上げるぞ。しっかり耐えろよー?」

「余裕じゃな。風圧などには負けぬわ!」

裕兎も急いで陸に上がろうと更に蹴り上げ速度を上げる。その原因でカエサルの上半身は風の抵抗で進行方向とは逆側に身体が持っていかれそうになるところだが、それを余裕の表情で耐えていた。

だが、陸に着くときには勢いがあり過ぎたせいか水ごと陸に持ってきてしまった。つまり、小さな津波のようなものを起こしたということだ。となると当然、先に陸に着いていたミカ達にかかるのが当たり前であり文句言われるのも想像がつくだろう。

案の定、ドボォン、と音と共に先に陸に着いていたミカ達の女性陣と木にもたれ掛かって寝ていたレンにかかる。

「ぷはっ!えっ何!?何かあったの!?」

不意に浴びた水に驚きを隠せないでいるレン。

他にかかった女性陣も口々に口を開いた。

「あら、濡れてしまったわ。」

「そうですわねぇ♪」

「わぁーえらいいっぱい水かかったぁ。」

「おい!裕兎、ソフィアに水をかけたな!」

「大丈夫だよ?イザベラ。」

ミカとクロエは微笑み、シャネルはテンションを上げていた。

イザベラはソフィアに水をかけた裕兎に怒り、それをソフィアが宥めていた。

「あぁ、ごめん。」

(喜怒哀楽、綺麗に全部表現されてるんじゃね?これ。こんなこと滅多にないやろなぁ。)

「わしからも、すまぬな。」

裕兎とカエサルは水のかかったレン達に謝った。が、裕兎に関しては能天気なことを考えていた。

すると、どこかから声が響く。

「あらら〜、一人も殺られてないねぇ〜。なら、これでどうだ。"水竜"(ヴァッサードラゴーネ)。」

そう言い終わると湖の水が盛り上がり、そこから竜のような水の塊が三体裕兎達に向かって襲う。

「...あの渦も何者かの仕業だったか。」

裕兎はそう呟くと水の龍を何とかしようとする。

しかし、そこで三人の人影が前へと出た。

「ソフィアに向けて、そのような技とはぶった斬ってやる!"貫通する風"(ペネトラッションヴェント)!」

イザベラの剣の周りに風が巻き起こり、それを纏う。

左手を水竜に向けて狙いを定めるとその剣を前に突く。すると斬撃と共に鋭利に尖った大きな風が水竜へと直撃し吹き飛ばす。

周りの木々は巻き起こった風にざわめき葉は吹き飛ぶ。

水竜を吹き飛ばしたことにより水滴が飛び散り雨のような状況となる。更には辺りの木々が風圧で反ってたりもしていた。

ブワッと巻き起こった土煙は雨が止む頃には消えていた。

その隣ではカエサルが水竜を真っ二つにしていた。

「なかなかやりますのぅ。"増腕力"(ヴィーグルフェアー)。」

上半身の筋肉が更に引き締まり増大し向かいくる水竜に向かってカエサルも飛んで迎え撃つ。

そして、空中で斧を縦に振り下ろすと湖ごと水竜を真っ二つにした。湖を真っ二つにしたその斬撃は湖の向こう側まで続き、森の木々をなぎ倒していく。森では一部緑が消えていた。

カエサルが地面に着地する頃ではまだ森では土煙が立ちこもり、湖の水の流れは荒れていた。

ザバァンという音と共に水竜は湖に落ち普通の水に戻る。

最後に残った一体の水竜はイザベラやカエサルとは別のもう一人の人影へと向かった。

その人影は水竜が近くに来るのを待ち自分の攻撃範囲に入った瞬間、キラリと剣を鞘から引き抜く。

「"創傷悪化"(フェリータトアメント)。」

静かにそう言い放つとミカの剣が薄暗い霧を纏う。

そして、ミカは目にも止まらぬ速さで剣を振るい鞘に収める。

スチャッという音がなり完全に剣を鞘に収めると共に水竜は木っ端微塵に水滴となり飛び散った。多量の水が地面に落ちていき、それから起こった風でミカは髪をはためかせていた。

「やるなぁ〜。お前ら。なら......」

どこからか再び声が響き、また何かしようとした。ところで、裕兎も何かしようとする。

「一体どこにいるんだ。...そうだ。"阿弗利加鬼鼠"(オウガラッテ)。」

裕兎の尖った口がだんだん元の大きさに戻っていく。しかし、マスクのような鎧は相変わらず纏っており色は藍色から黒茶色へと変色した。

両腕、両足の青色の鱗のような鎧は元の人間の肌へと戻った。

変態し終わると裕兎はスゥーと勢いよく息を吸う。

「...なるほどな。そこにいるのか。」

裕兎はアフリカオニネズミの驚異的な嗅覚を用いて敵の居場所を特定した。

見つけると地面に伏せ右手に槍を構え足に力を込める。

「"飛蝗"(カヴァレッタ)。そして、"絶対なる進行"(パルフェクルス)!」

膝辺りから足先まで緑色と茶色の入り混じった色の鎧を纏った。

そして、伏せた姿勢の状態で地面を強く蹴り前へと飛ぶ。

裕兎の足元の地面は砕け、裕兎の進んだ逆方向に砂や石が吹き飛ぶ。

進んだ先にある木々は槍により切り落とされ貫通していく。

裕兎の通った道は砂埃が舞い上がり風が巻き起こる。

全く緩む気配のない速度で進むと20代後半辺りの男性の目の前へと来た。

その男はサングラスを掛けバンダナを頭に付けておりバンダナから少しはみ出てる髪は青色だった。

体格は細過ぎず太過ぎず筋肉質。肌は茶色と軽く焼けている。

身長は160程の平均よりちょっと下といったところだ。

そのまま男性を貫通しようとしたときその男は手を前に翳した。

「あらら〜。見つかっちゃったかぁ。"水大砲"(ヴァッサーカノーネ)。」

すると、翳した手の前に水の塊ができ徐々に大きくなっていった。

そして、その水の塊を裕兎へと飛ばす。

だが、たかだか水で裕兎の勢いが止まる筈もなく、それを粉砕し水滴が飛び散る。

それを見ていた男性はニヤッと笑うと開いていた手のひらを閉じた。

「"微水針"(クラインナーデル)。これで一人目終了だな。」

飛び散った水滴が急に振動したかと思ったら急に針のような形へと変化する。

そして、変形した水は裕兎へ向けて伸び裕兎はあらゆるところを貫かれた。

「やべっ!?...ぐはっ!」

水に串刺しにされ、あらゆるところから血が出る。

裕兎はその痛みにより狙いを外し男性を貫通出来なかった。

「次はあっちの奴らだなぁ〜。」

男性はカエサル達を見据えると歩いていく。

(どうやらあいつは俺らの特性を把握している訳じゃないんだな。よし。なら、後ろから狙うか。)

裕兎は男性が自分から気が逸れているのを確認すると怪我を治した。

「"豹紋蛸"(プワゾンプルプ)。」

そうボソッと呟くと両足が紫色の斑点模様の鎧を纏い腰からは同じ模様のタコ足が6本生えてきた。

水に貫通され空いた傷は塞がり治る。

裕兎は立ち上がると気配を忍ばせて男性へと近づく。そして、タコ足で男性の腕や胴体、足といったところに絡ませ縛り上げる。

「う...あ...あらら〜。捕まっちまったかぁ〜。」

裕兎は更に力を入れ更に締め上げていく。

「もう無理っぽいなぁ〜。仕方ねぇなぁ。"偽物精製"(ファクティスファーレ)。」

そう言った男性はいきなり身体がドロッとしたかと思うと水になり地面へとビシャッという音を響かせて消えた。

「あ...あれ!?消えた!」

目の前で男性が消え裕兎は驚きを隠せずにいた。

すると、湖からさっきの男性の声が響いてきた。

「こんなにも早く俺の偽物が殺られるとはなぁ〜。"水装巨人"(ヴァッサージガンテ)。」

声が聞こえるとすぐに湖が盛り上がり、そこから巨大な水の巨人が現れた。

その頭部にはさっきの男性が中にいた。

「コソコソ殺るのはもう面倒だし一気にいくとするかぁ〜。"水精傭兵"(ファクティスソルダート)。」

すると、湖から水の剣や鎌、槍などといった武器を持った水の傭兵が次々に現れる。

「皆、どいて。俺が行こう。」

さっきまで寝ぼけていたレンが前へと出た。何も持たずに。

「あっ俺、今日武器持ってきてない...!?仕方ない。"火炎噴射"(エリュプシオン)。」

武器がないことに慌てつつもすぐさま右手を傭兵へと向けた。

すると、手の平が橙色や赤色の入り混じった色に光っていき熱を帯びてくる。

そして、手の平から巨大な炎が噴出され水の傭兵と共に水巨人も炎に包まれた。

「あらら〜。これは危ないねぇ〜。"水大砲"(ヴァッサーカノーネ)。」

向かいくる炎に向けて水巨人も左手を前に向け巨大な水の塊を飛ばし炎とぶつけた。

火と水がぶつかったのだ。当然、多大なる蒸気が発生する。

その蒸気によって巨人は見えなくなった。

「や...殺ったのか?今回は武器が無かったからあまり力出せなかったんだけど...。」

敵は殺られたのか見定める為に皆一点を見つめ様子をみていた。

すると、蒸気の中から再び水の傭兵が現れた。

「やっぱり、倒せてないみたいだね...。」

敵が殺られてないと分かりレン以外の皆は武器を構え戦闘態勢へと入る。向かいくる大勢の敵に警戒をしていると不意に森の中から裕兎の声が響き渡る。

「皆はそこの傭兵を頼む!」

「裕兎、無事じゃったのか!」

「良かったですわぁ♪」

「任せて!。」

森から姿を現した裕兎を見て、カエサルとクロエ、シャネルは元気に言う。

「レンは下がっていなさい。」

「ごめんね。こんな時に戦えなくて...。」

「いえ、構わないわ。」

ミカはレンを守るために後衛に下げると傭兵を見据える。

「ソフィアも下がって下さい。」

「う...うん!分かった。イザベラも気をつけてね。」

「レン様!もしもの時はソフィアを宜しくお願いします!」

「うん。任せて。...あっそれと俺も呼び捨てで構わないよ?ねぇ...聞いてる...?」

「では。」

イザベラもミカと同じようにソフィアを後ろへ下げレンに護衛を任せる。途中、レンが何かしら話しかけていたが、こんなときに何を言ってるんだ、こいつわ。危機感を持ってソフィアを守って。という意思を込めてシカトするイザベラ。

「では、私達は傭兵狩りを始めましょうか♪」

「そうじゃのぅ。」

「うん!」

皆、準備は出来たようだった。

「じゃあ、俺も行くとするか。」

裕兎は水の巨人を見据え今戦いが始まろうもしていた。

 

 

 

 

 

 

 

第15話.......終


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