アデレード王国に帰還した裕兎達は今回の任務の詳細を伝える為に中央区王都バルバトスへと向かう。
そこは国王の広大な領地。
あちらこちらで貴族のような皇貴な服装に身を包んだ人たちや兵士が歩いたりしている。
「ほぇ〜、ここが王都かぁ。広いな。」
「そうじゃのぅ。」
「しゅっご〜い!広い!建物のでか〜い!」
「ウフフ♪なかなかに凄いですわね♪」
王都に初めて来た裕兎、カエサル、シャネル、クロエの4人はそれぞれ感想をこぼし、皆驚きながらもソワソワしている。
「あーそういえば、4人は初めてだったね。」
「すぐに慣れるわよ。」
レンとミカは慣れているらしく、ソワソワすることなく王宮の入口へと進んで行く。
「流石、4騎帝。慣れているのぅ。」
「だな。置いてかれて迷子にならないようにはぐれないようにしないとなぁ。」
どんどん離れていくレン達裕兎達も急いでレン達に続き王宮へと入った。
王宮内はシャンデリアや赤い絨毯などあらゆるところが豪華できらびやかな感じだった。
「中も結構綺麗だな。」
「王宮には専属のメイドが居るからね。」
裕兎の感想に対してレンはにこやかに理由を話した。
後ろではカエサルやシャネル、クロエが話していてミカは3人に王宮について説明しているみたいだった。
裕兎は初めての王宮で周りをキョロキョロ見渡しているとあること気づく。
それに対し、ん?と少し不思議に思った。
そこの様子を見るかのように一時の間見ていると、視界に1人の美しい女性が映る。
その女性は明るめの金色の髪と瞳で歳は主人公と同じくらいだ。
髪の長さは長く、歩く度にふわりと髪が揺れていた。横髪は編み結びされ、結ばれた両方の髪を後ろで結んでいる。
美しい高貴に身を包まれた姿に少しの間見惚れているとさっき不思議に思ったところでまた動きがあったのを裕兎は見逃さなかった。
(なんだ...?さっきからちょっと違和感のある行動をしている奴がいるな...。......あっもしかして!)
しばらくの間考えてた裕兎はもしかしてと思い、槍をその場に置きその女性に向かって走る。
すると、裕兎が警戒していたとある男性が女性へと少しずつ近づいていく。
手にキラリと光るナイフを忍ばせて。
そのことに気づいてない女性は何食わぬ顔で男性の隣を通り過ぎようとしていた。
手を伸ばせば刺せる距離に近づいた時に男性のナイフが動く。
女性に刺そうとしているのだ。
腕を伸ばしナイフを刺そうとしたところで、裕兎はその男性の伸ばした腕を掴み背負い投げをする。
「うわっ!?」
驚きの声と共に男性は背中を思いっきり床に叩きつけられた。
男性が怯んだところを狙い手を殴りナイフを飛ばす裕兎。
そのまま男性の顔を床に伏せ、腕を背中に回し関節技を決めた。
「いたたたっ。」
関節技を決められ男性は痛がる。
「おい...。お前は何でそんなことをした?」
ギロリ、と睨むと裕兎は男性そう聞く。するとカエサル達が裕兎が急に走り出したことに不思議に思いながらも走って向かって来ていた。
「どうしたのじゃ?」
「こいつがそこの女性にナイフを向けようとしたから押さえ付けたんだ。」
今までそれぞれの話で夢中になっていた貴族達は裕兎の声と騒ぎで、そこに自然と視線が集まる。
そこで、周りの人は女性を見た瞬間にわなわなと声を上げた。それに連鎖するかのように周りもそれに便乗する。
「あっあなたは、ソフィア王女!護衛も付けずここで何をしているんですか!?」
「お怪我はありませんか?」
彼女がソフィア王女と気づいたレンとミカは慌てて心配した。
「その...お父様が仕事で忙しそうでしたので、軽く散歩に出掛けようとしていただけよ。」
ソフィアは自分が殺されかけると思っていなかったようで少し驚いていたようだった。
(王様の娘!?あーまぁ、確かに気品溢れる服装だな。あっ今はそれどころじゃねぇわ。)
「それで、お前は何でこんなことをした?」
裕兎は押さえ付けている男性に再び聞く。
「...そこにいる奴に頼まれたんだよ!」
すると、男性はその騒ぎを見ていたギャラリーの中の1人の男性に顎をくいっとし示した。
「はっいや!?俺はそいつとは今初めてあったぞ!?」
男性に命令されたと容疑をかけたれた男性は慌てて否定する。
「...そうか。カエサル、俺の武器をくれ。」
「ほれ。」
カエサルはこちらに向かって走って来る時についでに持ってきた裕兎の槍を投げて渡した。
それを受け取った裕兎は槍を回して掴むと男性の顔の近くに刺した。
「ひっ...!」
「おい...。嘘は付くなよ。残念ながら、俺は嘘かどうか見分けるのが得意だからな。どうせお前は、いきなり関係ない奴を指名すればそいつは焦る。その慌てた反応を俺らに見せあたかもそいつが企てたように見せる、とでも思ってたんだろ?」
「なっ...!?」
裕兎にとって、その男性の反応を見て図星と分からせるには充分過ぎる反応だった。
「残念だったな。お前の狙いが外れて罰が軽くならなくて。さて、レンこいつの罰はどうする?やっぱ王女を殺しにかかろうとしたんだ。死罪か?」
ふむ、と考えているレンはふと思いついたようにその男性に一つの質問をする。
「そういえば、お前は何で王女を狙ったの?」
「ソフィア王女に多少傷を付けてもいいから連れてこいと頼まれたんだよ...。」
レンの質問に男性は諦めたように白状した。
「それを頼んだのは誰だ?」
「それは知らない!ほんとだ!相手は二人組だったが、二人とも深く帽子を被っていて顔までは見えなかったんだ。」
抑える力を強めた裕兎に男は恐怖で声を張り上げる。ほんとに何も知らないらしい、男性に裕兎はため息を吐くとレンに向き直り、視線だけでどうするかと問う。
「そうか...。...とりあえず、王女が狙われたという問題は俺たちだけで勝手に処分したら駄目だろうから王の元へ連れて行こうか。そして、ソフィア王女の護衛の警戒意識改善とでもして貰おうか。」
「そうか。分かった。ほら立て。」
レンの意見を聞いた裕兎は男性を立たせ歩かせる。
「シャネル、クロエ。あと、念のためカエサルも。ソフィア王女の散歩中の護衛を頼んだぞ。」
「分かった!」
「了解しましたわ♪」
「うむ。」
シャネルは手を上げて元気良く返事し、クロエは微笑み返事しカエサルは頷く。
そこから王室までは何の問題無く向かえた。
コンコンッと扉を叩く。
「入ってよいぞ。」
扉の向こうから声が聞こえた。
『失礼します。』
裕兎とレン、ミカはそう言って扉を開け入る。
「今回の任務はどうじゃった?成功したのか?」
「はい。亜人種(デミヒューマン)の殲滅は出来ました。ただ、住民は着いたときにはもう殺されており助けれませんでした。すみません、ディラン国王。」
黒い髪にあごひげ、鼻のしたのひげを生やしたその男性はディランという名前のようだ。
多少厳つい顔をし玉座に座っているその姿は見た目が怖かった。なにより迫力がパない。
(おっかねぇ〜。あれが王様か...。任務とかミスったら怒鳴り上げてすぐ死刑とか言いそうだなぁ...。)
そう思っていたが、ディラン国王は意外にも見た目とは裏腹に穏やかだった。
「いやいや。構わん。亜人種を討伐してくれただけでも十分だ。助かった。」
ディラン国王はそう言い笑う。
「ところで、その者は?」
裕兎に拘束され、連れてこられていた男性を見て不思議に思ったのか聞いてきた。
それに対してミカが答える。
「この者は、とある者から依頼を受けてソフィア王女を拉致しようとした者ですわ。」
それを聞きディラン国王は驚く。
「そ...そんなことがあったのか!?ソフィアは...ソフィアは無事なのか!?そこの兵!こやつを牢獄へ連れて行くのだ!」
「はい。無事です。うちの部下が何とか防ぎました。今は他の部下に護衛させております。」
レンは裕兎を紹介した。
拘束されていた男性は扉近くに居た二人の兵に連れて行かれた。
「お主が。名前は何と申すのだ。」
「はい。嵐鬼 裕兎と言います。」
「嵐鬼 裕兎、だな。...本当にありがとう。」
ディラン国王は不意に玉座から立ち上がると裕兎の元へと歩み寄る。
そして、手を握ると礼を言った。
「いえいえ。たまたまですよ。...あっディラン国王。一つ二つほど提案宜しいですか?」
「良かろう。」
「今回の件、護衛兵が居れば防げた事態。しかし、普通の兵じゃソフィア王女に1人で行きたいと言われれば、従わざるをえない立場。故にソフィア王女は1人で散歩をしていたと思われますが、そうでございますか?」
「...うむ。確かに一般兵だ。」
やはりか、裕兎はそう思い一つ提案をする。
「でしたら、これからはソフィア王女の護衛は一般兵ではなく国王の信頼出来る家臣にしては如何だろうか。それなりに腕が立つ者も居ますでしょうし。」
「そう...だな。うむ、分かった。」
そして、ディラン国王は強く頷いた。
「それと、ですね。護衛が付いているのであれば、多少の外出も許すのも本人の自由にした方がいいかと。色々規制されるのは案外ストレス溜まりますし。まぁ、規制しているんでしたら、の話ですけどね。」
「確かにそこら辺も厳しい過ぎるかもしれんな。お主の助言有り難く受け取ろう。」
案外、簡単に聞き入れてくれて内心驚く裕兎。
「はい。」
「今回の任務のことも報告ご苦労。お主達はもう帰っても構わぬぞ。」
「はい。分かりました。では失礼します。」
レンがそう言うとミカと裕兎もお辞儀をし部屋を出る。
「じゃあ、俺はソフィア王女をディラン国王の元に帰してから帰るから。レン達は先に帰っていて構わないけど、どうする?」
「なら、お言葉に甘えて先に帰ろうかな。」
「レンがそうするのなら私もそうするわ。」
裕兎は二人と別れると、カエサル達の元へと向かう。
* * *
カエサル達は小さな池で魚を見ていた。
「よっ。カエサル。襲ってくる輩は居なかったか?」
「うむ。何にも無かったぞ。」
カエサルから何も無かったと聞き安堵しているとクロエとシャネル、ソフィアが裕兎が帰ってきたことに気づき近づいてきた。
「あっその...さっきはありがとう。」
「おう。気にすんな。...じゃなくて、気にしなくてもいいですよ。」
裕兎は咄嗟に言い直し苦笑した。
それを見てソフィアが頬を染めながら微笑む。
「普通に話してくれていいよ。」
「なら、遠慮なく。...あっそうだ。あの男性ソフィアの父親に渡してきたけど、今回護衛も無しに散歩してたの怒ってるようでは無かったぞ。良かったな。」
「そうなの?良かったぁ。」
しばらく話していると鎧に身を包んだ一人の女性が裕兎達のところへ走ってくる。
「ソフィア王女。こちらに居ましたか。今日から私がソフィア王女の護衛を務めさせて貰います、イザベラという者です。」
その女性は紫色の髪と瞳。耳の後ろは縦ロールがかかっており、後ろ髪はロングで前髪は目に軽くかかるくらいの長さだった。
腰には長剣を携えている。
「イザベラ、だね。うん。分かったよ。」
そう言い微笑む。
「はっ!」
「そんな気を張らなくていいよ。イザベラ。」
「ありがとうございます。では、少しだけ...。」
イザベラは膝を付いてたのを辞め立ち上がる。
「お前が裕兎、だな。ソフィア王女を助けてくれたようだな。感謝する。」
「おう。あっそだ。なぁ、お前ら俺前に広大な湖を見つけたんだけど明日辺りに泳ぎに行かね?夏だし最近暑いじゃん。クロエとシャネルの歓迎会みたいな?」
裕兎は陽射しの強い空を見ながら言った。
「歓迎会...かぁ。わしはいいと思うぞ。」
「うちもさんせ〜い!水浴びしたかばい!」
「ウフフ♪なかなかに楽しそうですわね♪」
(あっ思ったけど、この世界って水着とかあるんかな?帰ったらメイドに確認するか。)
そんなことを考えていると隣から声がかかる。
「あ...それ、私も行きたい。楽しそう!」
「えっ!?いや、ソフィア王女があまりそのようなこと危ないですよ!?」
ソフィアの言葉にイザベラは驚き身を案ずる。
そして、それに、と言葉を続ける。
「ディラン国王に許可を貰えるかどうか...。なんなら、許可を頂くのは困難だと思いますよ。」
「あーそこら辺は大丈夫だよ?」
イザベラはその言葉に驚く。
「はっ!?何で分かる?」
「いや、さっき国王に会って来たんだけど、その時に護衛が居るときはソフィア王女の行動を自由にさせたら?って聞いたら納得してくれたから。」
「なっ!?」
「ほんとに!?」
驚いているイザベラの隣でソフィア王女は目を輝かせ喜んでいた。
「なら、私も明日は行く!」
「おう。アルジェのレンの領地集合にしたいんだが、いいか?」
「うん!」
「あっ俺って迎えに行ったがいいの?それとも、護衛の人と一緒に来る?」
そう言うと裕兎はイザベラに顔を向ける。
「はぁ...迎えは必要ない。私が全力でお守りする。」
こめかみを抑えながらも自信を持って答えた。
「そうか。なら安心だな。じゃあ、そろそろ帰るか!」
「うむ。」
「うん!」
「そうですわね♪」
カエサル、シャネル、クロエとそれぞれ返事をするとソフィア王女とイザベラに別れを告げた。
裕兎もそれに続き別れを言う。
「じゃあ、また明日だな。」
軽く手を振ると4人は楽しく賑やかに歩きながらレンの領地へと帰っていく。
「ソフィア王女。私達も戻りましょうか。」
「うん。」
裕兎達を見送ったソフィアとイザベラは王宮へと足を向け帰っていった。
第13話.......終