リオンは邪魔されたことに不満があったのか、些か怒りの眼差しを彼女へと向ける。
「なんだぁ?テメェ。ここはガキが来るようなところじゃねぇぞ!殺されてぇならコイツより先にテメェを殺してやるよ!」
そんな怒りの眼差しを気にすることもなく彼女は受け流す。
「あらまぁ♪私はただ美味しそうな血の香りに惹き付けられて来ただけ、ですわよ♪」
すると、ニヤッと笑い鋭利な尖った歯が二本見えた。
「なるほどなぁ。お前は吸血鬼種(ヴァンピーア)か。俺の血でも吸いに来たのか?」
「いえ、違いますわよ♪私はそこの死にかけの人の血が飲みたいんですの♪凄く美味しそうな匂いが漂って我慢なりませんわ♪」
(えっ...。俺の血を狙ってる!?美少女かと思ったら全然違かった...。むしろ悪魔じゃん...。)
「ほぅ、強い者の血を好むと思っておったが、そういう訳ではないようだな。それで?俺と殺り合うのか?」
リオンは殺る気満々らしく身構えている。
「まぁ、血を飲むと戦闘本能が出てしまいますので貴方は私の食事の生贄となってもらいましょう♪これ、ですわよね♪彼の血は♪」
彼女はおもむろに地面に垂れている裕兎の飛び散った血をすくい舐めた。
「キヒ♪キヒヒヒ♪あぁ♪美味しいですわぁ♪こんなに美味しい血は初めて、ですわぁ♪直接、新鮮な状態で飲むとどれほど美味しいのか気になりますわねぇ♪」
頬を染め、狂気じみた目の色へと変わる。
身体を左右にフラフラと大きく揺れたかと思ったらすぐさまリオンの元へ大鎌を持って走ってきた。
「キヒヒヒ♪力が!力が湧きますわぁ!♪」
「正面から突っ込んで来るとは馬鹿だな。」
リオンは嘲笑うと金棒を振り下ろした。
だが、彼女は金棒に手を掛けクルッと回ると金棒の上へと乗り、大鎌を振るう。
だが、やはりリオンの身体は硬く、軽く傷をつけるのが精一杯だった。
(予想外の実力だけど、やはり勝てる気がしない。俺が援護しないと。そのために今は怪我を治すことに集中だ。)
裕兎は焦る気持ちを落ち着かせ、特性を発動出来るまで体力の回復に務めた。
大鎌を振り回す彼女にもの凄い勢いで傷を付けられていくリオンは金棒を上に振り上げ、彼女を空中へ飛ばす。
「キヒヒヒ♪凄いパワーですねぇ♪」
落下すると共に身体を捻り回転させ、その勢いのまま鎌でリオンの背中に傷を負わせた。
「ぐっ!」
勢いがそれなりにあったおかげか今回は深い傷を与えることが出来た。
「ちょこまかとウザってぇ!」
金棒を大きく振りかぶって後ろにいる彼女にぶつけようとし振り返ったが目の前にはもう居ない。
「どこへ行った!?」
すると、リオンの懐の方から声が聞こえた。
「ここですわよぉ♪」
次の瞬間、腹部と胸部に一切り入れ、続けて鎌を下から上へと上げリオンの右目を切る。
「いってぇな!」
リオンは左目でなんとか彼女の姿を捉えながらも金棒を振り回す。
地面は砕け散る中、彼女には華麗に避け一発も当たらない。
逆にリオンは傷が増えていく。
「全く当たらねぇ!うぉぉぉぉ!」
リオンは体力を気にすることを止め、力任せに振り回し速度を上げる。
「キヒヒヒ♪その程度じゃ当たりませんわよぉ♪もっとぉ楽しませて下さいなぁ♪」
彼女は相変わらず余裕な笑みを零していたが、リオンが速度上昇をしたおかげか顔をかすり、頬が軽く切れた。
「あらぁ♪当たってしまいましたわぁ♪ですけどぉもう少しでぇ貴方を殺せますわぁ♪」
「ふん!強がりか。勝つのは俺だ!」
相手に傷を与えることが嬉しかったのかリオンは更に速度を上げる。
互いの血と火花が飛び散り合い、なかなかに決着が着かない。
(...俺がこんなにも簡単に負けたのに、あんな化物と互角...!吸血鬼種(ヴァンピーア)って皆あんなに強いのか…!?)
裕兎は微かに残る意識の中、土地が壊れ荒れ果てていく凄まじい戦いを見て冷や汗をかく。
「おらおらぁ!どうした!少し動きが鈍くなってきたんじゃねぇのかぁ!?」
「それはこちらのセリフでしてよぉ♪貴方だってぇ傷の痛みを感じ始めたのかぁ動きが鈍いですわよぉ♪」
さっきまでの勢いが少し弱まり互いに疲弊しきった表情が見られる。
彼女がリオンの肩や太ももを切ると、金棒が肩や腹部などをかすり、傷が増える。
「そろそろ、かしらぁ♪」
次の瞬間、彼女は今まで狙ってたかのように急に力を込め鎌を振るった。
すると、今までかすり傷が限界だったのに左腕を切り落とせたのだ。
「うがぁぁ!お...俺の腕を切り落とすだと!?」
予測していなかった事なのかリオンは驚き顔に焦りが見えた。
「キヒヒヒ♪流石に同じところを何度も切ると効きますわよねぇ♪」
顔に軽くかかった返り血を拭い不敵な笑みをニヤっと浮かべた。
どうやら、彼女はあらゆるところを切りながらも1箇所に狙いを決め悟られないように地道にそこへ傷をつけ切り落とす準備をしていたようだ。
「だが、切り落としたからなんだと言うのだ。フハハハ。」
リオンは高らかに笑うと左腕に力を込め容易に腕を生やした。
「それが狙いなのであれば自然回復の方にも体力を回せばいいだけの話だろう。」
すると、さっきまであった傷が次々と塞いでいく。
「キヒヒヒ♪...これは流石に私も危ない、ですわねぇ...。」
それは本心らしく彼女から余裕の顔色が消えた。
(確かにヤベェが。俺ももう少しで特性が使えそうだ。2人でなら何とかなる...と思うが、どうだろ...かな。)
リオンのあまりの実力に裕兎も勝てる気が失せ始める。だが、一つの勝機を見つけた。
「よし。これなら...。」
リオンと彼女が戦いに夢中になっているのを確認すると特性を使用する裕兎。
「"豹紋蛸"(プワゾンプルプ)。」
そう呟くと、粉砕した肋の骨や腕が修復し終える。
「次は"変色"(クラールハイト)。」
スーっとどんどん裕兎は透明化していき、すぐに見えなくなった。
槍を掴むと槍は見えることに気づく。
(あっやべ!そこまで考えて無かった...。さて、どうするか...。あっ思えば服は消えてるよな?なら、もし触れているものなら特性を関与出来るとするなら...。よし!試すか!)
裕兎は気持ちを落ちつかせ槍に力を流し込むようなイメージをした次の瞬間、うっすらと消えていき、遂には見えなくなった。
よし!と頷くと足音を消してリオンにじわじわと近づいていく。
そして、リオンの後ろへ着くと槍をしっかり握り更にタコ足を絡ませ全身全霊を込めて、上へ切り上げた。
「グガ!なんだ!?」
リオンは突然のことに驚き、頭を後ろに向けたところで彼女の鎌も食らう。
裕兎は金棒で飛ばされる前に素早くタコ足で傷口を開き突っ込みテトロドトキシンを流し込んだ。
だが、すぐに金棒が横から飛んできた。
槍で防いだものの元々ボロボロで立つことでさえ危うかった裕兎が耐えきれる筈もなく何の抵抗もできず飛ばされた。
「ぐわぁぁぁ!」
強く頭を地面に打ったがなんとか意識を保つことができた。
「クソがぁ、いつの間に俺の背後に!」
リオンが裕兎を向いた隙を狙い彼女は鎌を振るったが金棒で打ち返されぶん殴られる。あの協力なパンチを食らったら危ないと焦った裕兎であったが、彼女はギリギリのところで鎌で防ぐ。
しかし、飛ばされた先にあった岩に強く打ち付けられる。
「痛い...ですわねぇ…。うっ.....。」
強く打って肋が折れたのか手を当て痛がった。
(こ...これはヤバイ...!絶対絶命だ!俺も彼女も動けない状態になってしまった!)
「ってか...何で毒大量に入れた筈なのに喰らわねぇんだよ...。少しは弱れよ。」
「ん?あぁ、毒を入れられたのか。道理で傷が塞がらねぇのか。」
そう言うとリオンは背中と腹部の閉じない傷を見た。
「致死量以上の毒は入れたぞ...!それで...お前に与えた影響が...傷が塞がらなくなる...だけ!?」
あまりの化物っぷりに裕兎はもう駄目だと諦めた。
その時!
森の方から声が響いた。
「"創傷悪化"(フェリータトアメント)!」
森から現れた声の主は、金髪の長い髪をゴムで結び上げ右手に持っている剣に薄暗い霧を纏わせた女性。ユグリス・ミカだった。
「また増援かぁ!フハハハ!俺に勝てる奴なんか居ないわぁ!」
リオンは金棒を振り上げ全力で振り下ろした。
普通なら潰されるだろう。
だが、ミカは違った。
火花を飛び散らしながら金棒を切り落とし、そのままリオンの腕を切った。
腕は血を撒き散らしながら空高く舞い上がり、血の雨を降らせる。
ドスンッドスンッと腕と金棒が落ちる音が響き渡る。
「ぐっ!あぁぁぁ!何でだ!?俺が...!この俺がこんなに意図も容易く切られてたまるかぁ!!」
右腕を抑えながら予想外なことに驚き叫んだ。
「あなた程の実力なんてこの世にはゴロゴロといるわ。そして、私はあなたより強かった。ただそれだけ。」
ミカは冷たくそう言い放った。そして、剣を振り付いた血を払った。
「俺は負けない!お前なんざに負けてたまるかぁ!」
リオンはミカに向かって殴りまくった。地面がボコボコに凹んだが、全て躱され左腕さえも切り落とされる。
「ヴアァァァ!何なんだ!何なんだよ!てめぇは!」
両腕を失い何も出来なくなったリオンは顔色を青ざめ後ずさりした。
「あなたが再生出来なくて助かったわ。再生出来ていたのなら私も危なかったと思うわ。」
だが、ミカは距離を空けるのを許さず歩調を早め更に距離を縮めていく。
「こんなところで!死んでたまるかぁ!」
リオンはミカに背を向け逃亡しようとした。
だが、ミカは逃げる隙を与えない。
素早く近づくと両足を切断した。
「なっ...?...うわぁ!お...俺の!俺の足が!!」
「逃がす訳無いでしょう。」
「嫌だ!俺はまだ死にたくない!亜人種(デミヒューマン)の最強になるんだ!死にたくな.....。」
ミカはリオンが言ってる途中で真っ二つに切った。
「うるさいわね。」
容赦なく振り下ろした剣を再び振り、血を払うと鞘に収める。
少し離れた所では大きな炎が覆った。
* * *
しばらくすると、裕兎達の元へ3人の人影が近づいてきた。
赤茶色の髪に大きな盾と片手用長剣を持った男性と50~60代程の白髪のゴリマッチョの爺さんと裕兎と同じくらいの歳に犬耳と尻尾が生えた銀髪の可愛い系の女の子だ。
ミカは赤茶色の髪の男性に近づくと声をかける。
「あちらの亜人どもは片付いたのかしら?レン。」
レンはにこやかに応え、ミカの頭を撫でた。
「うん。終わったよ。ミカもお疲れ様。」
裕兎は高年齢の男性と女の子に心配そうに尋ねる。
「カエサル、シャネル。お前ら大丈夫だったか。」
「大丈夫じゃよ。」
「大丈夫ばい!」
安堵のあまり倒れそうになったところをギリギリ耐え抜いた。
カエサルもシャネルもフラフラだったが大丈夫そうだった。
「それより、お主の方が大丈夫じゃなさそうじゃぞ。」
カエサルにそう言われ、裕兎は確かに今回は危なかったな、と呟き笑う。
そして、裕兎はあっと何かを思い出したかと思えば足を引きずりながらある方向へと向かう。
向かった先にはリオンと戦っていた吸血鬼の彼女がいた。
「お前は大丈夫か?」
「ウフフ♪これが大丈夫に思えますぅ♪」
彼女は痛みに顔を歪ませながらも苦笑する。
「でもぉ♪もし宜しければ血を飲ませて下さいな♪血が貰えれば再生能力も向上されますのでぇ♪」
裕兎はまぁ、いいだろうと思ったがふと疑問を持った。
「吸血鬼種(ヴァンピーア)に血を吸われたら吸われた本人は何か影響が出たりするのか?」
「いえ♪何も影響ありませんわよ♪」
だが、裕兎はやはり心配になりとりあえず、カエサルに聞くことにした。
「カエサル!吸血鬼に血を吸われたら影響とかあったりするか?」
「うーん、わしには分からんのぅ。レンはどう知っておりますかな?」
カエサルはしばらく考えていたが知らないらしくレンに聞く。
「ん?影響は無いよ。」
「そうか。なら、ほれ吸っていいぞ。」
裕兎は腕を彼女に差し出した。
「ウフフ♪ご馳走になりますわ♪」
パクッと前腕筋に噛み付くとちゅーちゅー血を吸い始める。
「あぁ〜♪満たされますわぁ♪」
次第に彼女の顔色も良くなり立てるようになるくらいには回復した。
「そういえば、お前名前何て言うんだ?」
「私は吸血鬼種(ヴァンピーア)のクロエという者ですわ♪......それより、貴方の血は美味しいですわねぇ♪毎日飲みたいくらいですわぁ♪」
本当にそう思っているのだろう、クロエの目が妖しく光った。
「クロエね。なら、提案があるんだがクロエ俺の仲間にならないか?そうすれば好きなときに血飲めるぞ?まぁ、代償として戦争に駆り出されるんだがな...。」
「いいですわよ♪」
「えっ!?」
戦争なんて命をかけないといけない危険な条件付きのため断られるのを分かった上で誘った裕兎だったが簡単に受け入れられ驚きを隠せずにいた。
「だってぇ♪こんなに美味しい血を飲める+戦争に行けば血の雨も出来ますわぁ♪断る理由がありませんもの♪」
これからの将来が楽しみだと言わんばかりに目を輝かせている。
(......え?何この子。怖いんだけど...。)
すると、急に隣からも声がとんできた。
「うちも裕兎ん仲間になりたい!」
「えっ?俺は構わんけど、集落のことはいいのか?」
「大丈夫じゃなか?」
(えっ?この子はこの子で何?ちょー適当...。)
裕兎は苦笑いしながら考えを張り巡らせ一つの案を見つける。
「なら、今日はもう暗いしここでシャネルの家族達と野宿になるだろうから、その時に話して許可を得てからでいいか?」
「よかよ!」
シャネルは元気に頷く。
こうして、裕兎達は新しい仲間と仲間になる予定の2人を連れ獣人種(ビースト)の元へと向かった。
第11話.........終
次回からは日常編に入ります。( * ˊᵕˋ )
後々にプール編もする予定です(♡´艸`)