Guilty Gear Xtension―ギルティギア エクステンション―   作:秋月紘

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Chapter 2 "Fugitive" Part A

Chapter 02

Fugitive

A

 

 

 

「何処で、って中央の噴水広場、丁度人攫いの真っ最中に遭遇して討伐したって言ってるでしょ?」

「確かに、人相に関してはおおよそ一致しましたが、やはりこちらの賞金首の討伐は一月前に確認されており、その際生体法紋も合致しましたので……」

 

 カウンターを挟み問答を続ける二人。眉間に皺を寄せ、高圧的な態度を取るノーティスに怯むこともなく、受付嬢は言外に語る。貴方は勘違いで民間人を殺害したのではないか、と。

その意図が明確に伝わったのか、傍に居たブリジットが愕然とした表情を浮かべ、クリスがその視線を困惑に彷徨わせる。

 そして、そのやり取りが周囲に漏れるのにそれほど時間を必要とはしなかった。

 

「どういうこった?」

「あの小娘、誤討伐やらかしたのか」

「大方、手柄を焦って突っ走ったんだろ。迂闊な真似しないでくれねえかな、マジで」

 

 一人、また一人と呟く言葉は波紋のように広がり、ざわざわと周囲が色めき立つ。怒気を孕む瞳で周囲を、この状況を生む原因となった受付嬢を睨むノーティス。

彼女の怒りは分かる。ギア研究の実験体としてクリスを攫い、あわよくば自分達を慰み物にしようとしていた男が賞金首ではなかったと言われて納得など出来るものか。ブリジット自身、そう口にしてしまいたかった。

 しかし、今はそれをしても良い時ではない。一度自分達がギア研究を追い掛けていると知れれば、賞金首を使い実験体を集める黒幕は姿をくらましてしまいかねないのだから。

喉奥にまで出かかった感情を押し殺し、場の空気に呑まれ始めているクリスをブリジットはその背中に庇う。

 

「……ウチの後ろに」

「……はい」

「一月前に死んだなら私が討伐したコイツは何? たまたま人相が一致した、賞金首でも何でもないただの人攫いだとでも言うつもり? それこそあり得ないでしょ」

「不本意ながら、そう言わざるを得ません。それに、貴方の言う人攫いが事実であったかも……」

 

 言い掛けた受付嬢の瞳が、その直後鋭い音と同時に恐怖に揺れる。音に反応してブリジット等が向けた視線の先には、受付カウンターに叩き付けられた平手と、そこから放射状に出来上がった天板のヒビが映っていた。

 

「アンタ、私が勘違いで普通の人間殺したとでも言うつもり?! 馬鹿にしないでよ!!」

「で、ですが」

「被害者ならここに連れて来てるし話だって聞かせてあげるわ、そこまで言うんだったらコレの生体法紋の照合だってすりゃあ良いでしょ!」

 

 そう言ってクリス達二人を指差すノーティス。だが、それが失敗だった。

 

「……アレ、捜索願出てた女の子じゃないか」

「二人組に攫われた、って目撃証言があったあれか?」

 

 ポツリと遠くで誰かが呟いた言葉や、それを聞いてクリスの顔を確認する者たちの息を飲む音が聞こえ、ギア化に際して向上した身体能力がもたらした情報に思わず舌打ちが零れた。続けようとしていた言葉を飲み込み、ノーティスはそのままカウンターを少し離れ、背筋に走る悪寒を堪えて、待機している二人の方へとその身を寄せた。

 突然冷静さを取り戻した少女を不審に思ったか、困惑するように眉根を寄せるブリジットに向けて彼女はそっと耳打ちをする。『クリスを助けた時、その場に居た男達は何人だった』と。もっとも答えは聞くまでもなく、ブリジットの言葉はノーティスを襲った悪寒を更に補強するための情報でしか無かったのだが。

 

「二人ですけど……クリスさんを助けた場所の近くに彼等の一部が野営していたみたいで、ノーティスさんが助けてくれた時に居たのはそこから来た増援なんです」

「ありがと。……それとゴメン、ちょっとややこしい事になったみたい」

 

 賞金首が討伐済みだった以上に何が、と言いかけた辺りで、一際大きなベルの音が鳴り響き、それに合わせるように複数の人影がこちらに近付く。そして、続くノーティスの言葉でブリジットは状況を理解した。

 

「人数もピッタリとはね……」

「……ウチ達がその人攫いだと疑われちゃってます?」

「正解。どうする?」

「どうもこうも、今犯罪者として捕まっちゃうとそれこそクリスさんが……」

「だよね」

 

 苦笑いの後、ノーティスは不意に拳を床へと叩きつける。轟音と共に地面を大きく引き裂く亀裂に周囲はどよめき、三人に近づきあわよくば取り押さえてしまおうと考えていたらしい者たちが恐怖に後ずさった。

 

「……悪いけど、今捕まる訳には行かないの。取り押さえようってなら骨の三、四本は覚悟してね?」

「腕に自信はあるようだが。さすがに誤討伐はいただけねえな、嬢ちゃんよ」

 

 身体をゆっくりと起こすノーティスの正面に、一人の男が拳を鳴らし歩み寄る。衣服の袖から覗く傷跡、腰に提げた剣と腕を覆う紅蓮の炎。

ギルドに来た直後、カウンターに向かう彼女に話しかけてきた男が、今度はその法力と武力を手にノーティスの行く道を塞ぐように立ちはだかる。クリスを庇いつつその様子を窺うブリジットの目には、男を見つめるノーティスの瞳が一瞬だけ紅い光を放ったように見えた。

 

「誤討伐じゃないって言ってんでしょ。怪我したくなかったら通してくれる? その自慢の傷が二桁位増えるよ」

「……言ってくれる。悪いがそっちの嬢ちゃんは返してもらうぜ」

「……人攫いでもないっての!」

 

 一気に意識を奪うためにノーティスが踏み込んだその直後、男はその両腕を大きく振り上げ、纏わり付く炎を地面に向けて振り下ろした。小さな爆発を起こしたそれは、波打ちながら正面からくる少女へ向けて高速で走りだす。ノーティスは、既に地を蹴り地面を離れていたその足を、正面方向の床へと向けてもう一度蹴り下ろす。

 地面に突き立てられた左足はブレーキの役割を果たし、その威力は彼女の正面のタイルを打ち上げ、炎を防ぐ様に土や石片を巻き上げた。

 

「ちっ、速攻で終わらせるつもりだったのに」

「そう簡単にやらせるかよ!」

 

 土埃の中心を撃ち抜くように、炎を纏った拳が飛び出す。頭を下げることでそれを回避し、そのまま両手を着いて地面に刺さっていた足を勢い良く振りぬく。側面から弧を描き顎へと向かい来る踵をすんでのところで躱し、互いに距離を取るよう飛び退く。

 

「剣、使わないんだ?」

「……殺していいとは言われてねえからな」

「そ」

 

 刹那、男の腕を這っていた炎がその勢いを失い、消えてしまう。そして、それを疑問に思う間もなく、彼は一発のボディーブローによって地に伏すこととなった。

 

「……ナメられてるんだったらもうちょっととか考えたけど、アンタを殺すのは違うしさ」

「がっ、は……お前、手ェ抜いてやがったな」

「ま、本気でやるとここ解体する事になっちゃうしね。早く行こ、二人共」

 

 苦痛に悶える男を尻目に、ノーティスは表情一つ変えること無くブリジット等を呼ぶ。そのままギルドを逃げ出そうとしたその時、射抜くような声が少女の足をその場に釘付けにした。

 

「国際警察機構だ。そこまでにしておくんだな」

 

 その制服を、少女はよく覚えていた。身寄りを失い、ギアとなり、行き場を失い、ただ自分に降りかかる火の粉を払っているだけだった自分を拾い上げ『戦い方』を『生き方』を教えてくれた人物。そんな彼の後継者として、聖騎士団団長の勤めを果たし、人類の希望となった男。

 いまだ変わらない白と蒼の制服姿に、少女はぎり、と歯を軋ませた。

 

「カイ=キスク……!」

「……ノーティス=アーシュヴァインに、ブリジットの二名で間違いはないな。お前たちに聞きたいことがある」

「嫌だ、って言ったら?」

 

 にやり、と不敵な笑みを浮かべて問い掛ける少女に対して、カイと呼ばれた男は小さくため息を吐き、手にした神器『封雷剣』を鳴らして答えた。

 

「実力行使だ」

 

 その声が聞こえるのと、ノーティスの眼前に向けて剣が振り下ろされるのは、ほぼ同時であった。反射的に上げた腕の、グローブに備え付けられた手甲が切っ先を弾いて金属音を響かせる。そのまま刀身を打ち払い放たれた拳はカイの顔を捉えること無く空振り、二人の顔が瞬く間に近付く。

そして、伸びきった腕を掴んだままこちらを見据えるカイの顔に浮かんでいたのは、呆れにも近い表情であった。

 

「緊急要請を受けて来てみれば……一体何があった」

「……色々です」

 

 ごく僅かに震える声に気付いたか、カイの瞳がすっと細くなる。

 

「色々、か。……分かった、話は後で聞かせてもらう」

「ノーティスさん!」

 

 カイの言葉を聞き終えた直後、少女の腹部に鈍い痛みが走り、身体がくの字に折れる。こみ上げる吐き気にたたらを踏んだのも束の間、そのまま延髄に手刀の一撃を受け、そのままノーティスは荒れた地面へを倒れ伏した。動かなくなった彼女を抱え上げ、カイは残された二人の方へと向き直る。

 

「お二人も、ご同行いただけますか」

「……はい」

「……」

 

 最大戦力であったノーティスをいとも簡単に下されたブリジット達には、彼の言葉に頷く以外の選択肢が無かった。

 

 

 

「もう少し手加減とかってできなかったんですか、団長」

 

 人の目を盗み、カイはノーティスを抱えて、ブリジットの先導に従い宿の一室へと足を踏み入れる。三人の見守る中、やがて意識を取り戻した少女の放った第一声は、文字通りの嫌味であった。

 

「仕方ないだろう、人が集まり始めていた以上、あの場で詳しい話もできなければ、お前を叩き伏せるのが演技だと気付かれるわけにもいかなかった。それと、団長はやめなさい。もう聖騎士団の人間ではないんだ、あの頃の立場をそのまま引きずるつもりはない」

「はいはい。ていうか遠回しに演技が下手って言ってます?」

「揚げ足を取るな。まったく……それで、ギルドでは何があったんだ?」

「それは、ウチから説明します」

 

 不機嫌そうな表情を浮かべて俯くノーティスを制し、ブリジットはテーブルに置かれたままとなっていたファイルを、特定のページを開いてカイに示す。大事になってしまった以上、クリスに気を使って仔細をごまかす訳にはいかない、と考えたらしくその表情は硬いものとなっていた。

 

「……なるほど、それで賞金首のリスト更新を、と」

「はい。ですが、ノーティスさんが提示した首級が誤討伐ではないか、と言われて……」

「そうでしたか。こちらの通達が遅れてしまったようで、申し訳ない事をしてしまった」

「どういう事ですか?」

 

 不意に、ノーティスが顔を上げて問い掛ける。それを受けて答えたカイの言葉、彼女が噴水広場で倒した、若しくは殺した賞金首のほぼ全てが討伐済みとなっていたというその衝撃的な内容に、彼女は身を乗り出し眉間に皺を寄せたまま男に問う。

 

「それ、ギルドへの通達は?」

「いや、まだ行っていない。情報が確定してからのつもりだったからな」

「……しばらく周知しないようにしてくれます?」

 

 少し考えこんだ後、そのような提案をするノーティスに、傍に座っていた二人の少女が疑念の眼差しを向ける。あんな疑いを掛けられたにも関わらず、何故そんなことを? と。

その疑問に答えたのはノーティス本人ではなく、向かいに腰掛けていたカイであった。

 

「相手の逃走をなるべく防ぎたい以上、こちらは情報制限に異論は無いが、その間は二人の嫌疑を晴らすことが難しくなる。迂闊に動けなくなるが、それでも良いのか?」

「……大丈夫ですよ、危機的状況には慣れてます」

 

 そう言って肩をすくめるノーティスを見て、カイは小さくため息をつく。そして、やがて諦めたようにその首を左右に振った。

 

「分かった。だが、さっきも言った通り二人の立場は『クリスさんを攫い、身元不明の人物を殺害した容疑者』となる。こちらからもフォローはするが、少なくとも大手を振って行動できなくなる事は覚えておいて欲しい」

「……それじゃあ、情報収集は」

「ここからの捜査は警察機構が引き受けます。貴方がたはこのまま重要参考人としてここで聴取、監視を受けている、という振りをしていて下さい」

「でも」

 

 反射的に異議を唱えようとしたノーティスを制し、カイは険しい表情を浮かべる。その口から出た言葉は、ギア研究という脅威度の高い内容に触れるせいかいささか棘のある口調になっていた。

 

「良いかノーティス、ただでさえ動きづらい状況になっている上、この事態を脱するために黒幕を探るという行動は当然ながら相手も考えていると思っていい。無策ではみすみす狙われに行くようなものだ」

「警戒されるのは警察も一緒じゃないんですか」

「そうかもしれない。だが三人が独自に動くより、警察機構が捜査を引き継ぐ方が安全性は高いだろう」

 

 カイの言葉に渋々ながらも同意する素振りを見せた少女だったが、やがて何を思いついたか、片眉を小さく跳ね上げ得意げな表情を浮かべてブリジットたち二人に視線を向ける。その口から飛び出した提案は、有用ではあったものの警察機構という治安維持機関に勤める彼にとってはいささか承服しがたいものであった。

 

「……じゃあ、私達がここから逃走して行方を眩ませれば、それを追跡するって名目で本命を追いつめられません?」

「あ、確かに良いかもしれませんね! ウチ達はそのままどこかに身を隠してしまえば良いわけですし、カイさんが捜査を継続するもっともらしい理由もできますよ!」

 

 好意的な反応を示すブリジットとは対照的に、カイやクリスの表情は硬い。それもそのはず、一見なんの問題も無いように思える案だが、実行するためにはいくつかの条件をどうにかして満たす必要があったのだから。

 

「……カイさん?」

「いえ、確かにお二人の言う通りではあるのですが……振りとはいえ貴方がたの追跡を行う必要が生まれる以上、文字通り隠れ家となる場所が必要となるのと、仮に潜伏先を用意できなかった場合クリスさんを連れて逃げ回ることになってしまう可能性がありますので」

「この子を警察で保護してそのまま私達だけ動くのはダメなの?」

「難しいだろうな。両親の健在が確認できている以上、通常通りであれば心理状態や健康状態の検査などが終われば保護者の元へ帰してしまう事になる。だが攫われかけた理由を考えれば家族へ帰した後も警備は必要だろう?」

「ああ、ギア絡みだって気付いてる素振りを見せちゃダメですもんね。保護した後も警備を付けちゃうと相手に怪しまれる訳か」

「そういう事だ。我々が手がかりを得るまでの間、クリスさんの警護を頼めるか」

「……了解しました」

 

 不機嫌さが滲む少女の声に、他の面々も同様の不快感を募らせる。だが、やはり現状に大きな変化を与えられるほどの妙案は浮かぶはずもなく、最初にカイが発言した通り、警察機構に以後の捜査を任せ、二人は戦えない少女を匿う形でこの宿屋への逗留を続けることとなった。

 そしてカイからの収穫も特にないまま日はやがて傾き、窓から見える景色が藍に染まりはじめる。

 

「……動けなくなっちゃいましたね」

「そうだね。そういえばあの人、アンタの名前知ってたみたいだけど知り合いだったの?」

「実は、ある賞金首を追いかけていた時に少しだけお世話になりまして」

「賞金首、ですか?」

 

 ブリジットの言葉にクリス、ノーティスの両名が首を傾げる。警察機構や終戦管理局といった公的機関が賞金を懸ける事も少なからずあるとはいえ、賞金稼ぎが直接警察機構の手を借りることなどそうあるだろうか、と。民間人の少女は単純な興味から、そしてブリジットと同じ賞金稼ぎの少女は、自身の経験から彼女の言葉に同様の疑問を抱いた。

 

「ええと、お恥ずかしい話なんですが、一度偽の手配書を掴まされちゃったことがあるんです。それでカイさんに色々手を貸していただいて」

「あー……」

 

 そして、続くブリジットの言葉に少女はその瞳を伏せる。なぜなら、彼女自身もその手配書を手にしたことがあるのだから。

 

「チップ=ザナフ、御津闇慈、ミリア=レイジ、梅喧、それからディズィー、だったかな。ブリジットも引っかかったんだ」

「も、ということはノーティスさんも?」

「うんまあ、危うく無実の人間に喧嘩売るところだった」

 

 売っちゃいましたねウチ、とノーティスの言葉を受けて苦笑いを浮かべる。それを見てノーティス、クリスの両名が聞き直してみれば、返ってきたのは「勢いでそのまま当該人物らと戦闘に突入した挙句、偽物と勘違いして本物のカイに戦闘を仕掛けた」*1というなんともそそっかしい話であった。

 

「え? アレ読み上げたの?」

「はい」

「本人の前で?」

「はい」

「……私が言うような事でもないけどさ、もうちょっと慎みとか思慮深さとか、そういうのは気にするべきだと思うよ」

 

 真顔でそう言い放つ少女に反論することができず、ブリジットはう、と声を詰まらせる。だが、やがてある可能性に思い至ったのか、先程までのバツが悪そうな表情から一転し薄ら笑みを浮かべて彼女はノーティスへと問い返した。そういう貴方はどうなんだ、と。

 

「危うく、なんて言いますけど実際のところどうなんです? チップっていう人も『後から後から賞金稼ぎが押し寄せてきやがる』って言ってましたし、ノーティスさんも戦ったりしたんじゃないですか?」

 

 しかし、ブリジットの追及にも少女は涼しい顔をしたままで、やがて小さく息を吐いてその肩をすくめる。

 

「……一応これでも元聖騎士団の人間だからね。ミリア=レイジの賞金解除って話は聞いてたから、本人に直接確認して終わりだったよ」

「え、あの人ホントに賞金首だったんですか?」

「そのミリアって人はどういう方なんですか」

 

 ノーティスの言葉に興味を示した二人の方へ改めて向き直り、少女は自身の知っている範囲で、細かい点をごまかしつつミリア=レイジという人物について話した。元アサシン組織の人間であることや、その首魁であるザトー=ONEという人物の逮捕に協力したこと等の対価として賞金を解除され、組織に居た頃の罪を帳消しとされたと。

 

「今は一人で普通の暮らしをしてるらしいって話。別に個人的に付き合いがあるわけじゃないし、どうしてるかは正直わかんないや」

「……うーん、あんまり気持ちのいい話じゃないですね」

「そうですねぇ……アサシンのリーダーの人を捕まえるのに協力したとはいえ、暗殺者だったことは事実ですし、ウチ的にはなんとなくもやっとしちゃいます」

「まあ、色々あったんでしょ。それこそザトー逮捕に繋がる決定的な情報を持ってたのかもしれないしね」

「いえ、そういう意味ではないんですがなんというか……」

 

 なにやら歯切れの悪いブリジットの言葉を気にするように片眉を釣り上げたが、やがて興味が失せたのか、少女は自分の飲み物を取りに腰を上げる。

 

「言いたいことは分からなくもないけど。私たちはそれを面と向かって言う立場じゃないからなぁ」

 

 冷蔵庫の前で呟くノーティスの手に握られたグラスが、氷を揺らし澄んだ音を立てた。

 

 

 

「……ざってえ。喚くしか能がねえのか」

 

 紅蓮の炎が闇夜を煌々と照らす。草木や土へと飛散し広がる鮮血よりも紅いジャケットを着た男は、周囲に漂う焼け焦げた肉の匂いに眉をひそめ、手にしていた得物を足元へと突き立てる。直後、その背中で小さな影がびくりとその身を揺らした。

やれやれと言いたげにその影を一瞥し、男は地面に落ちていたファイルを手に取る。

 

「ヴィタエの臨床実験記録と適合者リスト、何でブラッカードの関係者でもねえ奴がこんな物持ってやがる」

 

 筋肉質な腕が、息も絶え絶えとなっている男の襟首を掴み、その足を地面から10cmほど浮かび上がらせる。

 

「お、俺達はただ金で雇われただけだ! リーガルって奴がそのリストに載ってるガキどもをさらって来いって……!」

「あ?」

 

 男の表情が、より不機嫌そうに歪む。それに気づかず、吊り下げられた男はただ自分が助かろうと、血煙や肉塊、炭となった他の者達のようにはなるまいと、ただひたすら口を動かし続ける。

 

「それに、俺はもう賞金首じゃない、こんな事をしてただで済むわけが……」

「……何を勘違いしてんだテメエは」

「え……?」

 

 腹の底を蹴り上げるような低音と、ぱち、と弾ける火花の音が聞こえたその時、男はようやく気付いた。この男を前に、命乞いなど無意味でしかないのだ、と。

ソル=バッドガイ、掠れる声でそう呼ばれた人影は、首筋を掴む指に力を込めて、不愉快だと言わんばかりに男の喉笛を軋ませた。

 

「死亡済みの賞金首は大人しくクタバってろ」

 

 直後、男の体を猛々しい炎が包み、逃げることのできないその身体を焼き払う。喉から絞り出した悲鳴は酸素を失い音を出す前に消え去り、もがき苦しんでいたそれは、やがて周囲の物と同じ匂いを発し、その活動を止めてしまった。

吐き気を堪え立ち尽くす小さな影、その髪に付いた埃を払いソルは目的地を顎で示す。お前の家は向こうだろ、と。

小さく頭を下げ、逃げるように走り去る影を見るでもなく、彼は男たちから奪い取ったファイルをバッグに入れ、そして何事もなかったかのようにその場を離れた。

 

「まだブラッカード社の残りが居るってのか……ヘヴィだぜ」

*1
『GGXX』ストーリーモードPath 1より。ゲームでは村に帰るスチルが存在するが本作ではその後『やはりまだ迷信を覆すには足りない』と改めて賞金稼ぎを継続している。


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