Guilty Gear Xtension―ギルティギア エクステンション― 作:秋月紘
Encounter
B
石畳の道を雨粒が叩く。返り血の着いたベストや、重ね着していたスカートの内一着をバッグに仕舞い、濃紺のインナースーツのみとなった上半身を雨に晒して宿へと向かうノーティスから視線を逸らしながら、シスター姿の少女はその後ろを付き添うように歩いていた。
「あの、流石にその格好は……」
「元々これとベストだけだったんだからあんまり変わんないでしょ、そんなに言われるようなカッコじゃないと思うんだけど」
「ええと、それはそうなんですけど」
同性だというのに変なリアクションをするなあ、などととりとめのない事を考えながら歩く内に、目的の宿屋へと到着する。気を失っている少女に気付き訝しむ店主に『歩き疲れて眠ってしまった』と誤魔化し、三人はそのまま充てがわれた二階の客室へと足を踏み入れる。
途中、シスター姿の少女が同室をやんわりと断ろうとしていたのを止め、同室で良いと伝えた辺りで『彼女』の表情が若干曇っていた理由に気付いたのは、しばらくの時を彼女と過ごしてからのことであった。
「シャワー先使ったから、次どうぞ」
「は、はい……あの」
「自己紹介はそのびしょ濡れの身体をどうにかしてからね。一応着替えも貸し出してるみたいだし」
タオルを手に髪を拭くノーティスに小さく会釈を返し、金髪の少女はシャワールームへと直ぐに引っ込む。扉越しに聞こえてくる衣擦れの音と遅れて鳴る水音、それらをかき消すように窓を叩く雨音を聞きながら、彼女は未だに目を覚まさない少女の方を見やる。
見る限りでは特別な何かを持ち合わせている訳でもなく、彼女自身が、異種と呼ばれる人間でもギアでもない何かである、という風にも見えない。先程殺した賞金首の言い回しからみてただの人攫いか、と考えかけて、ふとテーブルの上に置かれたファイルに目が向く。
「……そういえば、あの子の持ち物なのかな、アレ」
表紙には通し番号と思わしき数字が書かれているのみで、誰のものか、どういった内容のものか等は一切書かれていない。好奇心に負けて手に取ろうとし、慌ててその手を引く。厄介事の種だったらどうするんだ、と。
「……まあ、後で本人に聞けばいいか」
「……ん」
小さな声を漏らし、眠っていた少女が寝返りを打つ。やがてゆっくりと目を開いた彼女の視線が、寝返りに気付きそちらに振り返ったノーティスの視線とぶつかった。
「あ」
「目が覚めた?」
「はい。あの、あなたは……」
上体をゆっくりと起こし、黒髪の少女はこちらに向き直る。その表情には気付いたら見知らぬ場所に居たという戸惑いと、つい先程まで暴漢から逃げていた、という事実からくる恐怖が浮かんでいた。濡れた身体が原因である体温の低下と精神的な負担の両方から、肩を抱いて少し距離を取ろうとする彼女を宥めるように、ノーティスは努めて落ち着いた声で話しかける。
「私は通りすがりの賞金稼ぎ、一応味方。貴方を連れて逃げてた子なら今シャワー浴びてるから、もう少ししたら戻ってくるよ」
「……? あ、ありがとうございます」
「私の顔に何かついてる?」
「いえ、その……なんでもないです」
遅くなってすみません、と言ってシャワールームの扉を開け、金髪の少女が部屋へと戻ってくる。そのままノーティスは黒髪の少女を促しシャワーを浴びさせ、再び彼女らは対面して話す形となった。
「それじゃ、あの子の事聞かせてもらっていい?」
「ええ。詳細を彼女に聞かせたい話ではないですし、手短に伝えさせていただきます」
そう言って金髪の少女は、先程ノーティスが覗き見ようとしていたファイルをテーブルから取って手渡してくる。嫌な予感がしたものの、見ないという選択肢は与えられず、そのままページを開いた少女の瞳は大きく見開かれ、その表情は強張ったまま動かなくなる。
そこに書かれていたのは、複数の少女の名前や身長体重、血液型などの情報と顔写真、その名前の幾つかに付けられた×印。そして、ページ最下部に書かれた『
「……アンタ、これ何処から手に入れたの」
「……あの男達が持っていたものを、警察機構に伝えるときに役立つかもしれないと思って。奪って逃げてきました」
「で、ロクに戦えない女の子連れて逃げてたわけ? 私がたまたま居なかったら二人揃ってコレの仲間入りじゃない、馬鹿じゃないの」
ノーティスの言葉に少女はぴくりと眉の端を跳ね上げ、憮然とした表情を浮かべ身を乗り出す。
「貴方はどうしてそういう言い方ばかりするんですか! 確かに先程は危なかったと自分でも思います、でも、だからといって見捨てろなんて言われても出来ませんよ!」
「ミイラ取りがミイラになってちゃ世話ないよね。被害者増やすくらいならやらない方がマシだと思うよ、私は」
「……冷たいんですね、貴方」
「うん、よく言われる」
大きなため息を吐き、乗り出していた身体をベッドに戻して、少女は壁に背中を預ける。片膝を抱え、思い悩むように顎を膝に乗せた彼女を横目に、ノーティスは仰向けに倒れこんだ。二人分のため息が、静かな室内に吐き出されて消える。
「……取捨選択だよ。優先順位は決めないとさ」
「……簡単に言いますね」
「手の届くもの全部を拾って救って回れるのは、ごくごく一部の天才サマだけなの、困ったことにね」
それまでとは打って変わって哀しげな色を付けて吐き出される声に、思わず顔を上げる。呟いた彼女の表情こそ変わりないものの、その声の変化が気になり、彼女はつい、迂闊だと知りながらも少女に問いかけた。拾えなかった何かが、救えなかった何かが、彼女にはあるのではないか、と。
「何か、あったんですか?」
「昔話は聞かない方が良いよ、ツキが落ちるから」
「なんですか、それ」
「……ちょっとしたジンクス*1みたいな物かな、知り合いにそういう風に言われてた人が居てね」
変わった人も居るものですねえ、と金髪の少女は小さく笑い、本人に聞かせたら殺されそうだけど、とノーティスも合わせて苦笑いを浮かべる。それから何を話すでもなく時間は過ぎ、やがて聞こえたシャワールームの扉の音に反応した少女は、軽く振り上げた脚で勢いをつけ、そのまま上半身を起こした。
「ごめんなさい、時間、掛かっちゃいました」
「良いよ、別に急いでこの宿を離れようってわけじゃないから」
「貴方を家に送り返すにしろ、警察機構に保護してもらうにしろ、この雨じゃ外を出歩けませんしね」
小さく頭を下げる黒髪の少女をベッドの縁に座らせ、三人共が話を出来る体勢になったと見た金髪の少女は、残る二人に確認をとった後小さな咳払いを一つし、改めて口を開いた。
「それじゃあ、一端落ち着いた所で自己紹介といきましょう。ウチはブリジット、旅の賞金稼ぎです」
「ノーティス=アーシュヴァイン。同じく賞金稼ぎ、アンタの名前は?」
「クリス……クリス=メタリカです」
短い付き合いになるだろうけど、と前置きノーティスは笑みを浮かべる。その表情に壁を感じたか、戸惑いながらもクリスと名乗った少女は微笑み返した。
実際の所、彼女達の置かれている状況そのものはさして悪いものでもなかったのだ。直接クリスの身柄を狙っていた者達はブリジットやノーティスの手によってひとまず倒され、彼等にファイルを渡した人物などは三人の潜伏先を知らない。そして、実行犯のうち気を失っている者は恐らく既に警察機構によって逮捕されている筈。
以上の点から、ノーティスとブリジットの両名は、部屋でクリスが目を覚ますまでゆっくりと待つことが出来たし、腰を落ち着けて話をする事も出来た。
「それでクリスって言ったっけ、住んでる所と家族構成だけ教えてもらっていい? 帰す前に連絡入れておきたいんだよね」
「ええと、それなんですが、他にも仲間がいるみたいなので……家に帰って貰うのは少し遅らせた方がいいかもしれません」
「そうなの? うーん、じゃあ警察の動きを待った方が安全か。流石にずっとボディーガードをしてる訳にもいかないし」
そう言って少女は備え付けのケトルを手に取る。人数分のマグカップとティーバッグを準備し、そこにケトルを傾ければ、茶葉の香りが湯気に乗って鼻腔をくすぐる。雨に濡れた身体をシャワーと紅茶で内外から暖めなおし、三者三様に息をついた。
「となると、あんまりやる事も無さそうだね。二人共その様子だと着替えも無さそうだし」
「恥ずかしながら、逃げてる途中で荷物を落としてしまって……ウチは一応こっちのポーチに貴重品やお金は入れてるんで大丈夫なんですが」
人差し指で頬を掻くブリジットの視線が、両手でマグカップを抱える黒髪の少女の方へと向く。
「クリスさんは特に、元々攫われそうになった所を助けたのもあってそういった準備なんかは全然出来ていないんですよね」
「……すみません」
「そもそも賞金稼ぎでも何でもないフツーの子だろうし当然か」
申し訳なさげに頭を下げる少女に対して首を振り、どうしたものか、と考えを巡らせる。どちらにしろ、警察機構に対してこの情報を知らせる必要はあるだろう。だが、『家出中のようなもの』というブリジットもそうだが、何より派手に賞金首を殺した身で警察の人間とあまり顔を付き合わせていたくない、という気持ちもある。
それに、このファイル一つでは持ち主を特定出来る情報に欠けるためすぐに知らせて進展があるのか、という疑問が拭えない。
「警察機構に知らせる前にもう少し情報を集めたい所なんだけどね」
「情報ですか?」
「そ。被験者集めに足が付きにくい個人の賞金首を使ってる辺り結構頭は回ると思うし」
虱潰しになる可能性が捨てきれない以上、少なくともこの街区の手配書の入手と更新とはしておきたい、そうノーティスは呟く。厄介事に関わりたくないとは思うが、それが禁忌であるギア研究に関係するものであり、更には被験者を誘拐してまで行われているとなれば、流石に見て見ぬ振りをする気にもなれなかった。
「……ブラッカード社*2って確かヴィタエ*3で摘発されてなかったかな」
ファイルの背表紙からラベルを抜き取り、何かを隠すように貼られていたラベルと同色のステッカーを剥がす。粘着剤に負けて破れた部分と、ラベルに残された図柄とを見比べ、少女は呟いた。
雨の降りしきる噴水広場、雨水と混ざり斑になった血だまりを、白いブーツが踏み、飛沫を跳ね上げる。レインコートのフードから青緑の瞳を覗かせるその男は、同様の雨具を身に着けている部下たちと共に、数刻前この場所で起こった惨劇についての捜査を続けていた。
男の名はカイ=キスク。かつて聖騎士団団長でもあったその男は、今は国際警察機構に身を置いている。
「カイ様。残存法力の解析、出ました」
「ご苦労様です。結果は?」
「生体法紋*4の該当者は二名、いずれも賞金稼ぎです。目撃証言にあった特徴とも合致しますね。もう一人、現在行方不明の少女も、被害者達から賞金稼ぎの手に渡ったと思われます」
部下である男性とガーデンハットの下へ行き、懐から取り出した用箋挟を見ながら話を続ける。
「賞金稼ぎのうち一名はブリジット、ここ最近、数件ほど討伐者として名前が登録されておりますがそのどれもが拘束……」
「これほどの惨状を生み出せるとは思えない、ですね」
「はい。もう一名はノーティス=アーシュヴァイン。こちらも記録されている討伐リストは少数、先に上げたブリジットと同等か、それより僅かに上回る程度です」
あまり収穫は得られそうにありませんが、探して話だけでも聞いてみますか。言外にそう問いかけた瞳が、カイの表情を見て、戸惑うように揺らいだ。
「……どうされましたか」
「……いえ、何でもありません。その賞金稼ぎの捜索、並びに接触は私が行います、引き続き被害者の身元確認を急いで下さい」
「了解しました。ですが、賞金首や登録されている民間人等と生体法紋が合致しないというのは何とも妙な話ですね、これではまるで難民や死人です」
不用意な発言に思わず眉をひそめた事に気付かれたか、部下の男が慌てて頭を下げる。だが、その発言を咎めようとしたその時、カイの脳裏に一つの可能性が浮かんだ。
「し、失礼しました」
「……思慮に欠ける発言は慎むことです。だが、貴方のお陰で彼等の身元が判明するのが少し早まるかもしれない」
「というと」
「遺体の顔の内一つ、そして一つだけあった首なし死体に抱いていた違和感の原因が分かりました。この数ヶ月の内に討伐された賞金首から照合を行って下さい、対象は死亡の認定が出た者のみです」
カイの言わんとする所が見えず、部下の表情が困惑に彩られる。しかし、幾ばくかの間の内に目的に思い当たったのか、慌てたように男は敬礼をして走り去った。
いまだに止む気配を見せない雨を見ながら、カイの口から零れたのはため息。
「あまり気は進まないが、話を聞かないわけにはいかないだろうな……」
かつて自分が聖騎士団団長として対ギア戦闘の渦中に居た頃。自分の少し後に聖騎士団に参加し、僅かな在籍期間の後に神器*5『封炎剣』を持ち逃げした男*6とは別に、ある問題児が居た。身の丈に合わぬ大きな剣を操り、その戦果から年若い内に物理攻撃小隊長を任されるまでになった一人の少女。
特徴的な風貌に一見無謀とも取れる単身での突出、強大な法力に任せた荒れ狂う暴風の如きその戦い振りから『
「……捜査を混乱させることにならなければいいが」
男は、口が裂けても愛想が良いとは言えない、どこか危うさを感じる少女を内心苦手としていた。
その後の捜査も手応えは薄く、早朝ということもあったせいか二人の行方に繋がる目撃証言は出ないまま、雨は上がり、日は直上へと登ってしまっていた。疲れたように息を吐きフードに手を掛ければ、捲られた布地の下から艶やかな金髪が顕になる。
一通りの聞き込みも終わり、これからどうしたものか、と無意識の内に愛剣へ手を掛けた所で背後から部下の声が聞こえた。
「照合、完了しました。遺体のほぼ全てが討伐済みの賞金首と合致、その大半が全世界的に名の知れている国際広域手配ではなく、街区、国家単位での手配に留まる者でした」
「……犯罪組織ですら無く、たまたま徒党を組んでいたに過ぎない、と?」
「そのようですね。若しくは特定のクライアントに金で使われていたか、といった所だと思われます」
男の言葉に、思わず握りしめた柄がみし、と悲鳴を上げる。一瞬その鞘を覆った帯電現象に眉をひそめ、彼は持ち歩いていた用箋挟を上司へと手渡す。
「こちらが、死亡者の一覧です。国籍も潜伏されていたとされる地区もバラバラ、共通点といえば誘拐、略奪行為での手配書が公開されている点でしょうか」
「……分かりました。貴方は引き続き賞金首についての調査を。討伐者の情報も可能な限り集めて下さい」
「討伐者、ですか?」
胸に着けた小さなメダルを手に、男は頷く。討伐記録そのものが偽装であったのなら、それらの討伐者が賞金首と繋がっていた可能性が高いと付け加えて。
そして、カイはその手元のメダルの向こうで待機しているであろう人物に向けて呼びかける。
「ベルナルド。至急調べて欲しいことがあります」
「……そちらでの事件に関係することですかな」
「そうかもしれない、という予感に過ぎませんが念のためです」
ベルナルドと呼ばれた初老の男性の声がううむ、と唸り声を上げる。カイの執事であり、元聖騎士団員でもある男は手元の資料から幾つもの束をピックアップし、自身が待機している部屋のテーブルへと広げる。
「先程の会話は聞いていましたね。この近辺、今から二ヶ月前までの期間における失踪、誘拐事件に関しての詳細を調べて下さい。未遂の場合は犯人の目撃情報も合わせてお願いします」
「了解しました。資料がまとまり次第そちらへ送信します」
メダル越しの通信を終え、カイは広場を離れるように踵を返す。賞金首の死亡を偽装し、個々の繋がりのない人物を使っての誘拐。ベルナルドに調べさせている事件の容疑者の中に、遺体の人物が居たとしたならば、それは『増加の傾向を見せる誘拐、失踪事件』から『組織的な略奪行為や人身売買』もしくは『別の何か』へと変貌してしまう。
なるべくなら杞憂であって欲しい、そう願いながら男は消えた二人の賞金稼ぎを再び探し始めた。
「どう?」
「今のところ、警察の方が来ている気配はないです」
大きな市街ともなれば、必ず一箇所は存在すると言っていい施設がある。終戦管理局*7の管理の下、賞金稼ぎたちが討伐、逮捕した賞金首を報告したり、また逆にその地区、国家などが手配している賞金首の情報を受取る
一週間という時間経過もあり、警察機構の手が及んでいることを警戒して先行していたブリジットの報告を受け、ノーティスとクリスの二人はギルドへと足を踏み入れる。
「うわぁ……」
一般的な家庭に生まれ育った少女では、一生涯で一度も訪れるような事はないであろう場所。周囲を見ても、賞金稼ぎを生業とする屈強な者達や、彼等に賞金首の手配書を渡し、捕らえた賞金首や懸賞金のやり取りを行う関係者のみしか見えない辺りで、自分達が明らかに周囲から浮いていることに気付き、慌ててノーティスの影に隠れた。
それらを気にする素振りもなく受付へと向かって歩くノーティスの前に、一人の男が立ちはだかる。
「嬢ちゃん達よ、日銭でも稼ぎに来たんだろうが、悪いことは言わねえから帰った方が身のためだぜ。そんな細腕じゃハイヤー強盗も捕まえらんねえぞ」
「ああ、これでも場数踏んでる方だから平気。討伐報告兼ねて来てるし」
「あん?」
疑いの目をこちらに向ける男に対して、背負ってきたバッグから一つの小包を投げ渡す。慌ててそれを受け取った男は、ぴくりと眉をひそめ、不快感を露わにした表情のままそれを突き返した。
「……そうかよ、邪魔したな」
「いいよ、慣れてるし」
相変わらずおっかなびっくりといった様子で後ろをついて歩くクリス、そしてブリジットと共に受付に小包を渡し、複数枚の手配書を見せてノーティスは口を開いた。
「これ照合お願い。後は手配書の更新、こっちの分で消えてるのがあったら教えてほしいのと、新しい手配書来てたら一通りちょうだい」
「かしこまりました。討伐者名はいかが致しましょう?」
「
「では、少々お待ち下さい」
淡々とした事務的対応を一通り受け、三人は長椅子に並んで座る。誰からとも無く吐いたため息の後、口を開いたのは、右端に座っていたブリジット。
「でも、本当に良かったんですか? 賞金稼ぎとして名前が売れた方が、他の地域でも手配書を受け取りやすいでしょうし、メリットの方が多いんじゃあ」
「いいの。正直ゴシップとか好きじゃないし、あんまり名前乗りたくないもん。それだったらブリジットの手柄にすれば良かったのに」
「いえ、流石に自分が倒せなかった賞金首の討伐者を名乗るわけには……クリスさんもすみません、無理言って連れて来てしまって」
ぺこりと頭を下げるブリジットに対して右手を振って気にしていない、と少女は応えた。そして、不安感より新鮮さの方が最終的に競り勝ったのか、此処に入ってきた時の怯えた様子もある程度霧散しており、明るい笑顔を浮かべてクリスは話す。
「私の方こそ、助けてくれるだけならまだしも、知り合いでもなかったのにこうして一緒に行動してくれて、本当に嬉しいです」
「まあ、あの状況で一人にしてしまうのもなんですし……」
「それで行き倒れられたりまた攫われたりしたら寝覚め悪いでしょ」
そんなことを話している内に、受付嬢の声がノーティス達を呼ぶ。その声に反応してカウンターへと再び立った彼女らを待っていたのは、予想外の宣告だった。
「先ず、手配書の更新分がこちらになります。お持ち頂いた大半は既に討伐が完了していますので、ひとまず新しい物をご用意させて頂きました。それから……」
「ありがと。……?」
手渡された手配書から立ち上る違和感。こんなに数が減るものなのか、確かに警察機構が現場に到着し、既に捜査を開始しているのだろうが、それにしたってこれは明らかに反映が早すぎないか。
そう考え首を捻る彼女の脳を、数秒と立たない内に次なる衝撃が襲った。
「誠に申し訳ありませんが、こちらの賞金首は一月前に討伐済みであり、その際生体法紋も照合済みです。また、懸賞金の受け渡しも完了しております」
「……は?」
「……失礼ですが、これはどちらで?」
受付嬢の視線が、薄らと恐怖、嫌疑を孕むそれに変わった。
-GG WORLD EXTENSION-
【ブラックテック】
魔法、法力が生まれるより以前の技術や、それによって作られた物達の総称。
GGXrdSに登場した弾道ミサイル『ヴァジュランダ』や『銃』などの武器もこれに相当する。
【ハムメーカー(燻製作り)】
『小説版ギルティギアゼクス 白銀の迅雷』に登場した賞金首団体。
生きた人間を吊し上げ、刃物でその身を切り刻むという残忍な手口からそう呼ばれる。
しかし、ソルに見つかったのが運の尽きで、最後は一人残らず消し炭にされてしまった。
【生体法紋】
法力を使える生物がそれぞれ固有で持つ法力の流れ。指紋などと同様に個人レベルで異なるため、本人認証、個人識別の手段としてよく使われる。
【ブラッカード社】
小説『白銀の迅雷』にて登場した製薬会社。ギアとの戦闘によって出来たクレーターに住む難民たちを利用し、極秘裏に『ヴィタエ』という新薬の開発を行っていた。
後にカイ達国際警察機構の捜査によってヴィタエがギア細胞を利用して作られたものだと判明、社長であるシーバスが逮捕され、ブラッカード社も完全に解体された。
【
賞金稼ぎが賞金首の情報を得たり、捕らえた賞金首の引き渡しを行ったりするための機関。
都市部においては、一つの街区につきおおよそ一箇所の割合で存在し、賞金稼ぎを生業とするものの情報交換の場として、酒場と合わせてよく使われる。
討伐した賞金首や討伐者の名は終戦管理局へと届出され、彼等によって討伐状況などが管理されている。