Guilty Gear Xtension―ギルティギア エクステンション―   作:秋月紘

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現在連載中の艦これ二次外伝の合間にスローペースでの投稿予定です。
あらすじに審判とか書きましたがジャッジメントの出番はないと思いますご注意下さい。


Episode 01 -Golden Eyes-
Chapter 1 "Encounter" Part A


 『第一の男』と呼ばれる賢者やその弟子たちにより、人類が魔法、法力と呼ばれる超常の力を授かってから長い時を経た。彼等がもたらした知識によって人は無限のエネルギーを得、再起の日*1をきっかけに失った機械文明の代替を手に入れ、かつての生活を取り戻す。

 やがて人はその知識や力を欲望の為に求め、使うようになり、その結果『ギア』と呼ばれる生体兵器を生み出すに至った。

 

 その内の一つ、初の指揮固体型ギア『ジャスティス』による暴走と反乱、それに端を発する生体兵器ギアと人類の全面戦争『聖戦』

百年にも渡るその戦いは多くの命を奪い、数多の地に今もなお残り続ける深い爪痕を刻んでいった。

 そして、消えゆく命の一つであったはずの少女は、幸か不幸か絶えかけた鼓動を『ある者』を模したギア細胞によって繋いだ。

 

 

 

 化物に殺された少女は生きたいと願い、そして自分を殺したそれ等と同じ化物になった。

 

 

 

Guilty GEAR Xtension Episode1-Golden Eyes-

 

【挿絵表示】

 

Chapter 01

Encounter

A

 

 

 

 時は移ろい、2181年。人間に危害を加えないギアがいる、その噂を聞きつけ、高額の手配書を手に悪魔の棲む地へと向かった賞金稼ぎが出会ったのは、自分よりも遥かに強い、破壊神ジャスティスと同等の力を持つ少女ディズィーであった。

 近くの村で拾われた彼女は、急激に成長してゆく自身の姿やその背に負う翼、腰の辺りから垂れ下がる尻尾などの『人ではない』証拠に恐れをなした村人達との軋轢を避けるため、育ての親である老夫婦の密かな計らいによって逃され、人の手の届かないこの森に隠れ住んでいるのだと言う。

 

 彼女の言葉と村の状況を見て分かったのは『ディズィーが自分の意志で率先して人を襲ったことは無い事』と『彼女の内にあるジャスティスと同等の力は未だ制御が及ばない事』。

以上の点を理解したにも関わらず、格上の相手に勝負を挑むほど賞金稼ぎは愚かではなく、また話が通じると知っていても、彼女が今以上に問題を起こさない場所を融通できるほど、賞金稼ぎは伝手も、力も持ちあわせてはいない。

 それ故ディズィーに対して出来ることはなく、幾つかの経験談と、生まれが特殊であっても意外とどうにかなるものだという気休めとを会話の中で吐き出し、見なかった事にしてその場を去る以外の選択肢を、あの時の賞金稼ぎは持たなかった。

 

 その後しばらくして、彼女がジェリーフィッシュという快賊に身を寄せている事を、風の便りに聞いた事は幸いであった。たとえ自身が無力であったとしても、特別彼女と親しかった訳ではなくとも、どうせ聞くのであれば凶報より近況報告や吉報にしたいものなのだから。

 

 

 

 そして、それから幾らかの月日が流れる。

 

「あら、おはようございます。珍しいですね、こんな時間に来られるなんて」

「久し振りに近くに寄ったしついでにね。ちょっと面倒な賞金首と当たってさ、三日くらい何も食べてないんだ」

 

 ある街の一角、噴水のある広場を望む位置に存在する喫茶店。扉に取り付けられたベルを鳴らし、一人の少女がその店内に足を踏み入れる。店員とは顔見知りらしく、二、三の挨拶と会話を交わし、彼女は窓際の席へと荷物を置いて腰を下ろした。巾着型のバッグはまだしも、背丈ほどはありそうな大きな鉄塊が壁に立てかけられている様は異様であったが、それを気にする者は今はいない。

 

「眠気覚ましにコーヒー貰っていい? あとトーストとサラダお願い。どうせこの時間は暇でしょ」

「暇は暇ですけど。うちのオススメは紅茶ですよ」

「そっちは元団長に好きなだけ振る舞ってよ。私コーヒー派だもん」

 

 そう言って小さく笑い合い、彼女は差し出されたグラスの水を一気に流しこむ。直前の数日を飲まず喰わずで越えたことも手伝い、喉を潤す冷たさが心地よい。雲の切れ間から見え隠れする陽の光に目を細め、早すぎる朝食を待つ。賞金稼ぎの少女、ノーティス=アーシュヴァインのおおよそいつも通りの朝であった。

 

 同時刻。路地裏を抜け、建物の間を縫うように息を弾ませ走る二つの人影。片方は黒のショートカットを揺らし、顎が上がり始めた状態で寝巻着姿のまま必死に脚を動かしている。そしてもう一人は、修道服を思わせる形状の青いベールにワンピースに金色の髪。どちらも十代前半から半ば頃の少女と思しき容姿をしていた。

 

「……大丈夫ですか?」

「なん、とか」

「もう少しで広場に出ます。そこなら人の行き来もあるはずですし、注目を集めて警察の方を呼んで貰いましょう」

 

 そう言ってこちらに視線を向ける少女に頷き返し、棒になりそうな脚に一層の力を込める。そして十四、五分程度走っていると、不意に視界が開けた。

 

「……くっ」

 

 しかしそこには、期待していた賑わいとは程遠い静寂が広がっており、規則的に水を噴き出し続ける噴水と、営業中の札を掛けているものの、客の気配が殆ど無い喫茶店とが見えるのみであった。

そして、数分としない内に朝靄の中から自分達を追ってきた男達の姿が現れ、その幾人かが懐から刃物を持ち出し二人に切っ先を向ける。

 

「ウチから絶対に離れないで下さい」

 

 こくり、と頷く黒髪の少女に微笑み、直ぐに男達に意識を向ける。繋いでいた手を離し、そのまま腰に下げた得物へとゆっくり下ろす。冷たい金属の感触を確かめ、そのまま曲面を指でなぞり小さなため息を吐く。

 

「……勝ったところで、お捻りは貰えそうもありませんね」

 

 二個のヨーヨーを手に、少女は口角を上げて笑みを作る。こちらを心配するような表情を向ける少女と、彼女に持たせている一冊のファイル。十人を越える数を相手にその両方を守りぬけとは、なかなかに骨が折れる要求だな、と数刻前に首を突っ込んだ自らを呪う。

 しかし、今更方針を変えるなど出来るはずもなければ、そもそも彼女を守りつつ警察機構へ事の次第を伝える、という目標を変更する予定も毛頭なかった。

 

「さあ、始めましょうか」

 

 そう呟き、上体ごと大きく両手の得物を振りかぶる。二人を抑え込もうとしていた三つの人影を目掛け、そのままバネのように身体を捻った。そのまま手を離れた赤黒の円盤が風を切って唸りを上げると、鈍い音が耳孔を叩き、確かな手応えがストリングを通じて伝わった。

受け身を取れず地に伏す影を視界の端に確認し、入りが浅かったのか片膝を着くもう一人へと向かって駆け出し、その勢いを乗せて蹴りを放つ。

 

「がっ?!」

「まず三人……っ!?」

「調子に乗るんじゃねえぞガキが!」

 

 着地を狙い、逆手に取ったナイフを振りかぶり迫る人影。先程投げ放ったヨーヨーの一つは中空に留まっており、その両手には何も握られてはいない。

そして彼女が姿勢を立て直す前に到達しそうな凶刃、もはや手遅れかと思われた。

 

「四人、でしたね」

 

 しかし、その切っ先は少女を貫く事無く取り落とされる。めき、という鈍い痛みを伴う音によって。

 

「か、はっ」

「な、なんだありゃあ……!」

「ロジャー!」

 

 背後からの打ち下ろしをまともに受け、男は石畳に顔面を強かに打ち付けそのまま動かなくなった。そして少女を庇うように男達の前に立ちふさがるのは、『ロジャー』と呼ばれた熊のぬいぐるみ。ひと目見れば何の冗談だと思うだろう、しかし『それ』は、確かに何もないように見えた空間に突然現れ、そして仲間の一人の意識をその豪腕によって刈り取ったのだ。

 困惑と警戒心で足踏みをする男達と、ロジャーと並び立つように構えを維持する少女。自身の扱う武具の特殊性のお陰で、彼女は相手の戦力を再確認する猶予を得られた。

 

「へえ、召喚系かな」

「珍しいですね。……助けには?」

「面倒臭いから嫌。警察機構に連絡入れてるんでしょ、アレなら到着までの2,30分位は……」

 

 問題なく凌げる、トーストを片手に言い掛けた言葉は声として外に出ること無く途切れてしまう。あまり見ない武器を扱う少女が気になったせいで、少女は男達が狙っているのが彼女一人ではないことを失念していたのだ。

小さな悲鳴を上げ腕を取られる少女と、それを見て足を止めた金髪の彼女とを横目に、店員へと金貨を手渡し荷物を背負い扉に手を掛けた。

 

「げっ、そっち非戦闘員なの」

「あら、行くんですか?」

「予定変更、仕方ないでしょ。お金先に渡しとくね、お釣りはとっといて」

 

 窓越しに見えるのは、人質を盾にされ、為す術もなく抑えこまれる少女と、それを囲む様に立つ男達。二人の少女から少し距離をとって立つ、頭一つ背の高い男の下卑た笑い顔を見て、ノーティスは小さくため息を吐いた。

見覚えのある横顔、そして周囲の人物の身体的特徴。右肩に背負ったバッグから取り出した紙束をパラパラと捲り、男達と見比べた後それを仕舞って扉を開ける。

 

「人の朝ご飯を邪魔したツケは高いから」

 

 

 

 油断していた。最初にヨーヨーを食らわせた内の一人が、意識を取り戻していたのだ。

他の男達との戦闘に気を取られていたため反応が遅れ、位置関係の悪さから伸ばされる手を止めることが出来ず、戦うことの出来ない少女はいとも簡単に人質として相手の手に落ちてしまった。

 

「おっと、そこまでだ」

「くっ!」

「動くなよ、その変なヌイグルミもなしだ。この状況が理解できない程馬鹿じゃないよな?」

「どうしてその子を」

「分かんねえのか?」

 

 少女にナイフを突き付けていた男とは別の声が割って入る。ニヤニヤと趣味の悪い笑みを浮かべてこちらと人質とを見比べる姿に背筋が凍る。身体中を駆け巡る悪寒に眉をひそめ、ポツリと吐き捨てるように呟いた。

 

「……最低です」

「そりゃどうも。ただ、自分の立場はちゃーんと覚えとけよ?」

 

 何を言っている、そう問いかけようとした直後、後頭部を鈍い痛みが襲い、足元がぐらり、と揺れる。背後から殴られたと理解が及んだのは、頬に石畳の冷たい感触が押し付けられてからだった。

 

「テメエはその最低な奴に命綱を握られてるって事をな」

「……」

「お生憎様、命綱って偽物だったみたいよ?」

 

 凛とした少女の声が広場に響く。頭を押さえつけられたまま、視線のみを声のした方へと向ければ、緑地に黒の靴がゆっくりとこちらに向けて歩みを進めるのが視界の端に見える。遅れて意識に入ったのは、かつ、かつと石畳を叩く金属の音。

それが何の音なのかを理解する前に、少女の姿はそこから消えていた。

 

「一つ」

「がっ……?!」

 

 次の瞬間、黒髪の少女を捕らえていた男の顔に膝が吸い込まれるように打ち込まれる。仰け反る男の腕から力が抜けたのを確認し、少女はもう片方の脚を一気に振りぬく。

遅れて吹き飛ぶ男を見ること無く黒髪の娘の手を取り、背負っていた荷物を上方へと放り投げた。

 

「何だてめえはっ!?」

「クソ、コイツもヤっちまうぞ!」

「……遅いッ!」

 

 自由になった右手で少女の脚を、左手で背中を抱き、お姫様抱っこのような姿勢のまま、彼女はそのままもう一人の救出対象の元へと駆け出す。初めにこちらへ到達した男の右腕を躱し、その勢いのまま回し蹴りで延髄を刈り、崩折れるそれを足場に一気に跳躍する。

そして、それに反応して残る一人から手を離し立ち上がった男へ向けて、重力に従いその踵を振り下ろす。ゴッ、という鈍い音を立てて、鮮やかにノーティスの脚は彼の頭頂部へと吸い込まれていった。

 

「動ける?」

「はい、なんとか……」

 

 殴られた衝撃でベールが脱げ落ち、その短く整えられた金髪が露となる。揺れる頭を抑えながら、ショートカットの少女はロジャーが居た場所に落ちていたヨーヨーを手に取り再び構えを取る。

 

「上等。良い根性してるよ」

 

 そう言い終わった所で、轟音が背中を強く叩いた。突然の物音に肩を竦めた金髪の少女が恐る恐る振り向いてみれば、そこには隣の少女が持っていたバッグと、古い布が乱雑に巻きつけられた大きな塊。まるで板のようなそれが何なのか、という疑問は、そこから伸びていた布の一端を引いた少女の手によって明らかとなった。

 

「さて、残るはアンタ達五人だけ。目的は別に興味ないし、まだ結構時間あるから警察来るまで引き延ばすの面倒なんだよね」

「んだと……!」

「……そーゆー訳だからさ」

 

 少女が手首を返し、解かれてゆく布の下から現れたのは、緑色の装甲板が拵えられた大きな剣。長さこそ両手剣、ツーハンデッドソードと呼ばれる物より短かいものの、その厚み、剣の幅からくる重量は並の人間が武器として扱えるようなものではなかった。

 

「手っ取り早くノされててくれない?」

 

 返事は、一つの乾いた音によって行われた。左の肩口を刺す焼けるような痛み、突然のことに訳も分からず恐怖に声も出ない黒髪の少女と、呆然とノーティスと相手の男に視線を往復させる金髪の少女。

この痛みに、痛みの原因に、少女は心当たりがあった。残った男の内のリーダー格と思わしき人物がこちらに向けている、白煙を引く黒い塊。旧世紀には火器、と呼ばれた忌むべき兵器。

 

「……ブラック、テック」

「よく知ってるじゃねえか、糞ガキ。だが残念だったなぁ、テメエは此処で殺した後ゆっくり遊んでやるよ」

「きゃっ!?」

 

 二つ、三つと銃声が響き、少女の太腿、腹部へと赤黒い穴が開けられる。同様の武器をこちらに向けられ動くことも出来ないまま、二人は為す術もなく傷を増やす少女を見ているしか出来なかった。

 

「随分静かになったなオイ。大人しくしてりゃ生きてる内に楽しめたのによ、残念」

「同、感」

「……あ?」

「DoAの賞金首とは言え、生きてた方が後々楽だろう、って思ったから……捕まえるだけで済ませようと思ってたのに」

 

 手配書に書かれていた罪状、当人の振る舞い。

 

「アンタは、やっちゃいけない事をした」

 

 そして、旧世紀の負の遺産。

 

「気が変わった」

「何をブツブツ言ってやがる、そんなにすぐ死にてえか」

 

 少女の身体から、銃創が消えた。

 

「……死ぬのはアンタ達だよ」

「ナメたこと言ってんじゃねェ!」

 

 怒声と共に放たれた銃弾が、少女の額へと吸い込まれてゆく。肉が抉れ、骨を叩く音が響いても、その首を衝撃に揺らすこと無く彼女は歩く。やがてその歩調が早まり、二つ大きなステップを踏んだ直後、その姿は男の至近距離にまで迫っていた。ぐん、と身体を捻り、小さく風を切る音が聞こえる。男の喉から絞り出される怯んだような悲鳴は、次の句を次ぐことのないまま掠れて消え去った。

 

「そんな玩具で死ぬと思った?」

 

 片手で振り抜かれた大剣が、男の上半身と下半身を二つに分け、それは重力に従い崩れ落ちる。石畳を鮮血が染め、むせ返るような匂いが風に舞って鼻腔を刺激する。目の前で起こっている事実を理解できず困惑の色を見せるシスター姿の少女は、いつの間にか自分に身体を預け、気を失っている少女を羨ましいと思ってしまった。

その後眼前で繰り広げられたのは、戦闘ですらない、単なる一方的な蹂躙に過ぎなかったのだから。

 ブラックテック*2と呼ばれる武器が通用しないことを知って、残された者達は対照的な行動を選んだ。ある者は、気を失っている者達も全て見捨てて逃げだし。そしてある者は、理性を失いただ怒りと恐怖に任せて目の前の少女を殺そうと己の武器を大きく振りかぶる。

しかし、後者はその腕を、剣へと変化した少女の手によって切り落とされ、首筋を貫かれ物言わぬ死体へと変わり、逃げた者達は、死体を残すことすら許されず。

 

「……インペリアルレイ*3

 

 呟く少女がその手より放ったレーザー、爆炎にその身を灰塵へと変えられてしまう。残されたのは、意識を失い倒れている男達と、まるで先ほどまでの惨劇が無かったかのように、平然と返り血を拭うノーティス、そして物言わぬ肉塊となった幾人かの姿。

喉まで上ってくる吐き気を抑え、一歩、彼女の元へと近づく。

 

「どうして、こんな事を」

「何?」

「ここまでする必要は無かったはずです! 赤の他人なのに、ウチ達を助けてくれたことには感謝しています、でも……」

「面倒臭かったから」

 

 遮ってノーティスの口から出た言葉に、険しい表情を浮かべていた少女の瞳が驚愕に見開かれる。こいつは何を、平気な顔をして言っているんだ、と。

 

「あいつ等が持ってた武器、見たでしょ」

「……ええ」

「あの武器、ただ狙って撃ったらそれだけで人を殺せるの。街中であんな物使われたら巻き添えだって出るしさ」

 

 続けて、少女は口を開く。そんな物を気にしながら戦う位ならさっさと殺してしまった方が早い。単なる取捨選択でしかない、と。

理屈は分かっても、彼女の感情の失せた瞳が見えてしまった以上、その発言に納得など出来なかった。戦闘力を奪う程度なら出来たはずだと、思わず食って掛かってしまう。

 

「気絶させるなり方法はあった筈です」

「わざわざ加減が必要な方法を選ぶ理由は無い、って言ってるの。前に居たハムメーカー*4とかよりマシってだけで、ロクでもない事には変わりないでしょ」

「……それでも、彼等は法の裁きを受けるべきでした」

 

 少女の言葉に、ノーティスは態とらしく大きなため息を吐く。二人の感情を表すかのように空模様は大きく変化を見せ、灰色の雲がやがて大粒の雨を降らせ始める。

もう話すことはないと言いたげに荷物を回収し、大剣を提げた少女は二人に背を向ける。歩き去っていこうとするそれを、シスター姿の少女は引き止めた。

 

「何処に、行くつもりですか」

「さあ。警察相手に説明するのもあんまりやりたくないし、とりあえずここから離れようかな、って」

「なら、ウチ達も行きます」

「……いや、なんで?」

 

 心底不思議そうにこちらを見るノーティスに対して、少女は小さく考えこむ素振りを見せる。やがて顔を上げ、その小さな口を開いた。

 

「ああは言いましたが、間違いなくウチより貴方の方が腕は立ちますし、一緒にいれば一人でこの人を守るよりは安全です。それに、貴方のような危なっかしい人を放っておけませんもん」

「……で?」

「後は、そうですね。雨の中彼女と警察の方が来るまで待つのも身体によくありませんから。その服じゃ一人で宿に入れないかもしれませんよ?」

 

 そう言っていたずらっぽく少女は笑う。今度はノーティスが微妙な表情を浮かべて考えこみ、やがて諦めたように首を左右に振る。

 

「……わかった。その感じだとアンタも訳ありというか、警察で長話はしたくないんでしょ」

「……ええ、まあ。色々と事情はありますが、状況的には家出中のようなものなので」

「仕方ない、か。乗りかかった船だし、逃げてた理由にその女の子の事、色々聞かせて貰うからね」

 

 そして。金色の瞳の少女は、困ったように眉尻を下げて笑みを浮かべた。

*1
1999年に全世界の電子機器を襲った怪現象。後の調査によって未知の生命体が機械を媒体に実体を得ようとしていたことが判明し、電子機器を始めとした機械文明が封印される原因となった。

*2
魔法、法力が生まれるより以前の技術や、それによって作られた物達の総称。銃火器は元より、広義には燃料発電や科学技術の産物すべてが含まれる。再起の日を境に封印ないし破棄された筈であったが、ごく一部では今なお秘密裏に研究が行われている。

*3
→↘↓↙←→+S、テンションゲージ50%使用。掌からレーザーを放ち、着弾した地面から火柱を上げる覚醒必殺技。基本的な性能はディズィーのそれに準ずる。

*4
『小説版ギルティギアゼクス 白銀の迅雷』に登場した賞金首団体。生きた人間を吊し上げ、刃物でその身を切り刻むという残忍な手口からそう呼ばれる。登場した数ページの内に首魁は首を落とされ、残る賞金首たちは消し炭となった。討伐者はソル=バッドガイ。


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