生徒会の一存 -アイドルは生徒会長(補佐)!?- 作:あこ姫
杉崎鍵の二股疑惑騒動は終息し、保健室のナース幽霊騒動も終息し、
束の間の平和が訪れるかと思ったその矢先、また新聞部の壁新聞で一波乱が起きます。
その新聞の内容とは麻里菜の触れられたくない彼女のトラウマを的確に抉るものでした。
その新聞を見た彼女は過去のトラウマが蘇り、そのまま立ち去ってしまいます。
「変わろうと思えば、人はいつでも変われるものなの! たとえ、大きな失敗があったってそれを糧にしてこそ、前に進めるのよ!」
会長が小さな胸を張ってを張って何かの本の受け売りを偉そうに語っていたが、いつもの様な元気さは無かった。
「そうですね」
会長に同意する俺もまた、何時もみたいなハイテンションにはなれなかった。
知弦さん、深夏、真冬ちゃんも右に同じで何時もみたいなテンションにはなれないようだ。
どうも、生徒会副会長の杉崎鍵だ。
今日は代筆という形でこの議事録の担当をしているが、今日で代筆も14日目となった。
「ねぇ、杉崎、今日も麻里菜来てないの?」
会長が俺に麻里菜の事を聞いてきた。
「ええ。あの新聞部の記事が出回ってから一度も……」
「そう……」
会長は残念そうに返した。
「ねぇ、キー君、貴方は確かあーちゃんとは中学から一緒だったわよね? 何か知っていたりすることはあるかしら?」
知弦さんが俺に尋ねる。
「すいません。確かに麻里菜とは中学からの付き合いで、それなりの面識はありましたが、過去のことは一切話してくれたことがないんです」
「そう、やっぱり……」
「はい。あの新聞記事に書いてあることは真実と断定して間違いはないです」
「……どうにか、麻里菜を吹っ切らせれるしかねーよな」
「『どうにか』ってお姉ちゃん、何かいい方法でもあるの?」
「いや、全然。これぽっちも」
深夏が漠然とだが、現状の打開策を提案した直後、あっという間に下校時刻となり、俺達は解散した。
俺は帰宅後、自室で今日の会議での議題について考えていた。
確かに、今の深夏の案が一番理に適っている。
寧ろ、最善策だと言っても過言ではない。
しかし、それには『どうしてそうなった』という、過去の詳細を詳しく知る必要がある。
そんな人物がいただろうか…………。
俺以上に
あまり思い出したくはない中学生時代の記憶を辿り考えていると、
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スマホに誰かから電話が掛かってきた。 着メロの音楽からしてクラスメイトだろう。
画面を見ると相手の名前は「笹倉 怜音」と表示されている。
「彼女なら、何か知っているかも知れない……」
そんな希望を抱いて俺は通話に応じた。
「もしもし?」
「あ、もしもし、鍵くん? 突然電話しちゃってごめんね?」
「別に。構わないよ。美少女からの電話を断る理由はないからね」
「そう……。今の亜梨沙が聞いてたらかなり怒るんじゃないの?」
「かもね……wwww」
「それは置いといて本題に入ってもいい?」
「本題……?」
「そうよ。麻里菜の……“ルーク”のことについてね」
「“ルーク”??」
誰だろうか。初めて聞く名前なのに以前どこかで聞いたことがある。
「彼女のミドルネームよ。彼女は父親が日本人、母親がアメリカ人のハーフ。そして、本名は“湊・ルーク・桃花”っていうの。ねぇ、どこかで聞いたことがある名前と思わない?」
「…………。なぁ、ひとつ聞いていいか?」
「いいよ。何?」
「彼女は、金髪で、紅い瞳をしているのか……?」
「そうよ。その通りよ。昔から私でも嫉妬するくらいの美人さだったね。あれは」
「ああ、そうだったのか…………」
「なにか思い当たる節でも?」
「まぁね……。じゃ尚更かな」
「そう言うと思った……。だって根の性格とかって全然変わってないもん。鍵くんは」
「それは光栄な事だな」
「もぉ、私を褒めたって何も出ないからね……」
「はいはい」
それから数時間、俺は麻里菜……
「ありがとな……。
「お礼はいいって。それより頑張ってね。
「ああ」
そう、挨拶して怜音との通話は終了した。
さてと、これから俺は電話をかける相手ができた。
「…………もしもし」(←不機嫌そう)
「ちょ、なんで毎回毎回不機嫌そうに出るんスか!」
「だって、杉崎だし」
「いや、そのりくつはおかしいですよねぇ!?」
「……で、何の用?」
「聞きますけど、会長は“Luca”って言う名前のアイドル知っていますか?」
「“Luca”……? ああ、ちょうど私が中学校に入学した位にデビューした超人気アイドルよね? 私も彼女のデビュー当時からファンだったし、よく知っているわ」
「彼女の事について会長が思っていたことを聞きたいんですけどいいですか?」
「う、うん。いいけど……」
「先ず、聞きたいのが、『Lucaを妬んだりした事はありましたか?』」
「そんなのあるわけないじゃない! あんなにファンのことを考えてくれてるのに!」
「そうですか……。じゃあ、次の質問。『彼女の引退について思ったことは?』」
「そりゃ……『なんで引退しちゃうの!?』って思ったわ。そして、
かな」
「『もしかして』ですか……?」
「うん。なんていうか、たまにね、察しちゃうっていうか、わかっちゃうことがあったのよ。『あ、何か隠しているかも……』って」
「そうですか…………」
「で、いきなりどうしたのよ? 杉崎がこんな電話寄越すなんて」
「いえ、『彼女が抱えているトラウマを少しでも緩和できたら……』と、思いまして」
「……成程ね。じゃあ、一つだけ伝えて貰いたいことがあるんだけど、いいかな?」
「はぁ……いいですけど」
「ありがと。えっとね……」
******
-Side Toka_Luke_Minato-
……あれから、15日くらい経ったかな。
もう、学園中では私の事についての話題で持ちきりだろう。
下手したら、私の居場所なんてないのかもしれない。
それでも、構わない。哀れみ・同情の眼差しにずっと耐え続けていくよりかは遥かにマシだ。
もう、《あの時》みたいな思いをするのはもう二度とゴメンだ。
あぁ、またか……。またこうやってネガティブ思考の渦に堕ちていく。
ここ最近はずっとだ。お蔭様であんまり眠れていない。
私の心の奥底では
「このままじゃダメなの! 前を向いて頑張らなきゃ!」
こういう感情も確かにある。
だけど、過去のトラウマが染み付いた体はそう簡単に動いてはくれない。
過去の出来事、そしてあの時の私。
それが鎖となりて私を縛り付ける。
そんな私は、中々踏み出すべき一歩……いや、《踏み出さなきゃいけない一歩》を踏み出せずにいた。
ぴん、ぽーん……♪
呼鈴が鳴る。
私はインターホンのモニターを見る。
「久しぶりだな……」
玄関先にいたのは杉崎君だった。
「少し話したいことがあるんだ。中に入れてもらってもいいか?」
この時、私は彼を家に上げずにこのままお引き取り願おうかと思っていた。だけど、
『このまま彼を帰してしまったら、絶対後悔する…………』
そう思った。
「……どうぞ」
だから私は訪ねてきた彼を家に上げて応接間に通し、お茶を出す。
ここで間違ってもぶぶ漬け(お茶漬け)を出してはいけない。
「それで、話ってなんなの? 杉崎君」
「なぁ、麻里菜、このままずっと学校を休み続けるのか……?」
「かもね……。私の居場所なんてないから」
「『居場所なんてない』って、お前……」
「だって、あの時だってそうだった! 友達だって思っていたけれど、皆手の内を返したかのように……」
「……確かに、そうだったな。だけど、そうじゃない奴だって居た。伶音や俺だって……」
「……わかってるよ。そうじゃない奴も居たって事ぐらい。でも……でも……」
杉崎君の言葉に反論しようとした。だけど、皆まで言えなかった。
だって、次第になみだがこみ上げてきたんだもの。
「全く、どーして昔からお前はそうなっちゃうかな……」
そう言って杉崎君は泣き出した私を優しく抱きしめてくれた。
「ふぇ……?」
涙でぐしゃぐしゃな顔をあげる私。
「いっつも、そうだ。何でもかんでも一人で抱えてさ……。少しは、周りに頼ったらどうだ? その方がお前も少しは気が楽になるだろ?」
「で、でも……」
「『私に関わってその人にまで迷惑がかかったら……』なんて考えるなって。
少なくとも、俺や、碧陽の皆はそうは思わないからさ……」
「……………………」
私は無言でそれを聞いていた。
「会長からの伝言があるけど、聞いてくれるか?」
「伝言……?」
「『私達ファンはどんな時だって失望したりなんかしない。ずっと支え続けたいと思っています。だから、麻理菜は……Lucaはありのままでいてください』だってさ。良かったな。良いファンたちに恵まれて」
「……うん。ねぇ、お願いがあるんだけどいい……かな?」
「お願い?」
「うん。杉崎君のこと、昔みたいに『キーくん』って呼んでもいいかな? できれば、私のことも『モモ』って昔みたいに呼んで欲しいな……。あと、もう少しこのまま居させて欲しいな……。あ、ごめんね? 何か凄くたくさんお願いしちゃって」
「別に構わねぇさ。これくらいお安い御用さ。モモ」
「ありがと……。キーくん」
そして、暫く私とキーくんはそのまま抱き合っていた。
時間は過ぎていった。あっという間に。
「あ、もうこんな時間か……。俺、このあとバイトあるから帰るわ。ゴメン、なんのアポもなく突然押しかけた上に、長居までしちゃって……」
「ううん。キーくんは気にしないで。むしろ私が迷惑をかけちゃったぐらいだし…………」
「もうその件は気にすんなって。じゃ、また明日学校でな、モモ」
「うん。また明日学校で! キーくん!」
ばたん
キーくんが帰宅し、私はふと自分の髪に手をやる。
今の私の黒い髪を手で軽くいじりながら、会長の言葉を思い出す。
『私達ファンはどんな時だって失望したりなんかしない。ずっと支え続けたいと思っています。だから、麻理菜は……Lucaはありのままでいてください』
「『ありのまま』か…………」
意を決した私は洗面所に向かい、戸棚にあった脱染剤を使った。
暫くして、後で付け加えられた色味を抜かれた私の髪はこれまでの黒髪からママ譲りの金髪になっていた。
そして、目につけていたカラコンも外した。
背中まで届く金髪に透き通った紅色の瞳。
これが私、綾瀬麻里奈の……ううん、違う。湊・ルーク・桃花の姿……。
何年ぶりかな……。この姿になるのは。高校入る前だし、二年振りか…………。
まさか、あの時、こうなるなんて思ってもみなかった。
明日からこの姿で登校になるわけだれども、大丈夫かな……。
正直、不安もあるけど、大丈夫だよね……。私には仲間が居るんだもの……。
✽✽✽✽✽✽✽
翌日、何時もと違う姿で登校した私は、早速注目の的になった際、以前みたくなるのかと思って内心ビクビクしていたけど、そんな私の心配は全くもっての杞憂だった。
皆、何時もと変わらない態度で接してくれて
「困った時にはいつでも相談してね! 力になるから!」
という言葉をたくさん貰った。私はこの時、嬉しくてたまらなくなった。
休み時間に担任に呼び出された私は
「無断欠席の件が咎められるんじゃないか……」
と思ったが現実は違った。
担任教諭も実は私のデビュー当初からの熱烈なファンだったらしく、会長と同じ言葉を貰った。
「無断欠席の件は咎めないが、代わりに今日の午後に体育館でライブをして欲しい」
と言われた。
いきなりだったけれど断る理由も無かったので私は快諾し、今日の5・6限目を使って、体育館でライブを行うことが決定した。
✽✽✽
「なんか、イキナリ過ぎて正直思考が追いついてない……」
「何言ってんのよ、ルカ。昔だってこんな事あったでしょ」
「確かにそうだけどさ…………」
「ルカ、もうそろそろ開幕だよ!」
「わかった。今行く」
「ルカ」
「ん? どうしたの、巡?」
「思いっきり楽しんできなさいよね! ルカ!」
「当然! 言われるまでもなく、思いっきりファン諸共楽しんでくるわ!」
ぱちんっ!
そう言って私は巡とハイタッチを交わし、輝きの向こう側へと一歩踏み出した。
人生に大きな失敗は必ずあるだろう。
一人だけの力では挫折もするだろう。
そんな時は、他人の助けも借りる。
かと言って、全て頼り切って自分は何もしないのは良くない。
自分と他人、お互いが支え合って1つずつ解決していけばいい。
解決後は、それを糧にして前に進んでいける。
人は変わろうと思えば変われるものなのだから……。
はい。
いかがだったでしょうか。
内容が薄いかも知れないものですが、最後まで読んでいただけたら幸いです。
あと、もう何話かは原作1巻の内容をやってから、2巻(生徒会の二心)の内容に
入りたいと思います。
企業編は5巻の内容の後に纏めてやるつもりですのでご了承ください。
それではまた次回のお話でお会いしましょう。
ではでは。