超超高校級の78期生 作:天星
DVDプレイヤーを外の世界から調達する。
言葉にすると簡単だが、それを実現する為にはほんの数分だけだが入り口を開かなければならない。
きっと未来機関の連中はその隙を突いて突破しようと試みるだろう。最大限に警戒しなければならない。
……そう、江ノ島盾子は考えていた。
……しかし、実際に実行してみれば何事もなく呆気なく終わった。
まぁ、何かもう明らかに絶望に屈しなさそうな、って言うか絶望に屈しようともそうそう簡単に死ななそうな
……ちなみに、絶望サイドの人間である江ノ島(より正確には彼女に扮している超高校級の軍人)に対しては人外度が足りないと若干心配する声が上がっていた(外の人間は彼女が絶望サイドだと知らないので)
しかし、人外どもが一緒に居るから大丈夫だろうという結論になっていたようだ。
『それじゃあ今度こそ、DVDスタートっ!!』
幸運の少年が何か上手いことやってくれたので皆に無事にプレイヤーを起動する事ができた。
……長かった。たったこれだけが本当に長かった。
江ノ島盾子の目尻にうっすらと涙が浮かぶのも無理は無いだろう。
異常な才能を持つ人外どもであってもやはり心は人間だ。
自分の親しい人間の絶望的な状態を暗示させられるビデオをみて完全に平静で居られる者は僅かだった。
とりわけ影響を受けたのは『超超高校級のアイドル』の少女である。
「苗木君っ! 私はどうすれば良いんですか!!」
「落ち着いて舞園さん。きっと大丈夫、あんな映像は偽物さ!!」
「でもっ、本物だったら? 私はここから出たい、出たいんです!!」
江ノ島はこの光景を見て涙を流していた。
ああ、やっと絶望が見れた……と。
この密室から出るためのルールは明確に示されている。
『他の誰かを殺す。但し誰にもバレないように』
もしDVDを見せても膠着状態が続くようなら人質を使って強引に誰かを殺させようと思っていたのだが、この様子ならその必要は無さそうだ。
最初からケチがつきまくりの作戦だったが、上手いこと行きそうだ。
江ノ島盾子は勝利を確信した。
……なお、彼女の心の動きは一般には『フラグ』と呼ばれている。
……その夜……
「な、苗木くん、助けてください!」
「ど、どうしたんだい!?」
アイドルの少女が幸運の少年の個室に駆け込んできた。
そしてそのまま包丁で少年をグサリ……なんて安直な展開ではないので安心してほしい。
まぁ、原作通りに部屋を入れ替えて幸運の少年の部屋で誰かをグサリと殺そうとしているという意味では安直なのだが。
……だが、その安直な作戦は、ある超超高校級の才能の持ち主によってあっさりと消し飛ぶ。
「君達、何をしているんだ!! 夜中に男女が同じ部屋に居るなど風紀が乱れているぞ!!」
扉をバンと開けて入ってきたのは『超超高校級の風紀委員』である。
彼は風紀を守る事に関して超一流。よって、銀河系の半径くらいの範囲なら風紀の乱れを感知できるのだ。
そして彼の台詞にもあるように、男女が密室に二人きりなどという状況は明らかに風紀違反。彼の感知に引っかかるのも当然である!
……なお、決して非リア充の僻みとかではない。
「君達、さっさと自分の部屋に戻りなさい」
「ちょ、ちょっと待ってください! 話を聞いてください!!」
「そうだよ! 舞園さんは何か相談したい事があるみたいなんだ!!」
「むぅ……仕方ない。但し、風紀が乱れる事は看過できないので僕もここに居よう!」
「う~ん……分かりました」
ここで抵抗しても埒があかないのでアイドルの少女は用意しておいた話をする。
なお、彼女は超超高校級の才能を駆使して演技しているので普通の人外には彼女の話が嘘だとは分からない。
……普通の人外って何だろう?
「何っ、不審者が君の部屋のドアを叩いただと!?」
「それは大変だったね。うーん、どうしようか?」
「それで、あの、良かったら部屋の交換を……」
「よし、舞園君、君は自分の部屋から布団だけでもこの部屋に持ってきてここで寝たまえ!
僕は今日は入り口近くの床で寝よう。
3人も集まっていれば不審者など恐るるに足らずだ!」
「なるほどね。部屋を交換するとかも考えたんだけど……」
「君と舞園君がか? それだと君が危険だろう」
「そうだね。石丸君の案の方が良さそうかな。舞園さんもそれで良い?」
「え、あの、えっと……
あ、そうだ! 男の人が2人も一緒の部屋に居るのはちょっと……」
「むぅ、名案だと思ったのだが……」
「それじゃあさ、大神さんも呼ぼうよ。ほら、格闘家の」
「それは余計ダメなのでは無いのか!?」
「え? ……あ、大神さんって女子だよ。パッと見分からないかもしれないけど」
「何!? そうなのか!? それなら護衛役としてもかなり心強そうだし良いな」
「それじゃあ呼んでくるね」
「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってください?
わ、私の為だけにそこまでしてもらうのは悪いですよ!」
「いやいや、遠慮する事は無いよ」
「そうだそうだ。まあ、彼女が嫌がるようであれば無理強いするつもりは無いから安心してくれ」
「あ~、えっと、そうじゃなくて……」
この後、アイドルの少女の奮戦虚しく格闘家の少女も混ぜた4人で寝る事となった。
当然ながら不審者など来なかった。そもそも居ないし、居たとしても裸足で逃げ出すんじゃないかな。
超超高校級の風紀委員
『秩序の監視者』と謳われた人外級の風紀委員。
風紀の乱れを感知するとたとえ地獄の底からでも駆けつけて風紀を正す。
また、風紀委員ならではの能力を多数保有しており、例を挙げるのであれば距離や障害物の制約を無視して現場に駆け付ける瞬間移動、手をかざすだけであらゆる液体を飲料水に変える能力(飲酒を防ぐ為)、睨むだけで物体の温度を絶対零度まで下げる能力(タバコの火を消す為)等がある。
彼の凄さを一言で表現すると『カムクラ君が裸足で逃げ出すレベル』
え? 瞬間移動使えば脱出できるんじゃないかって?
サアドウデショウネー。