とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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第6話〜時計仕掛けの摩天楼・3〜

彰が目暮と新しくやってきた『白鳥 任三郎』と共に総合警察病院のとある病室の前で、その主であるコナンが起きるのを待っていた。彰としてはコナンとは数回しか会ってはいないが、それでも一般市民。気が気ではない想いである。本当は瑠璃も行くと言っていたのだが、彼女は別件である連続放火事件の方で、黒川邸の方へ松田と共に調査をしている。

 

「……コナンくん、大丈夫でしょうか」

 

「なーに、大丈夫だろう。あの子は強い。……そう信じるんだ」

 

目暮の言葉に彰は頷き、また静かに待ち始めた。そして少しして、コナンの同級生で少年探偵団の仲間であるそばかすの少年『円谷 光彦』が部屋から出てきて、何事かと首を傾げていると、その少しあと、今度は医者と看護婦を連れて戻ってきた。それで三人はコナンの意識が戻ったのだと理解し、医師が部屋から出たのを見計らって部屋へと乗り込む。

 

「早速だがコナンくん、事件のことを話してくれないかね?」

 

三人の代表で目暮がそう問えば、コナンは眼鏡をかけたあと、力強く頷いた。

 

それからコナンの話を聞き、コナンが他の人を巻き込まないために自転車を走らせた事を知り、正直、彰は感心と共に無茶な事をするなと叱りたい気持ちになった。しかしコナンがいなければ被害はもっと大きくなっていたのも事実。それを考えれば、彰からは何も言えなかった。

 

「あ、警部さん。犯人からの連絡は新一兄ちゃんの携帯電話から掛かってくるんだ。病院では携帯電話は使えないんじゃ……」

 

その質問に彰は首を横に振る。

 

「いや、問題ない。此処は向こうの病棟とは独立していて、治療用の電子機器は置かれていない。だから、携帯電話は使っても問題ない」

 

「阿笠博士から事情を聞いていたので、こっちに引っ越したんだよ」

 

「よかった……」

 

それに彰は顔をしかめる。

 

「良くはない。お前がああしないと被害はもっと大きかった。それは事実だ。けど、もう無茶だけはするな。しかも子供のお前だ。……頼むから、もう心配だけはさせないでくれ」

 

彰のその心配と怒りが混ざった顔に、コナンは申し訳なさそうに顔を伏せ、そこで自転車のことを思い出したのかコナンはその弁償を小五郎に頼む。しかし小五郎からもコナンの無茶を怒られ、『死ぬとこだった』とも言われれば謝る他なかった。

 

「まあ自転車の件は俺が弁償しておこう。どこの誰かも調べはついてるしな」

 

「え、本当?凄いね!」

 

「……まあ、大変だったがな。探し出すの」

 

その『探し出す』苦労を思い出したのか、彰は深い溜息を吐く。

 

「それにしても新一はどうしたんだ?その男は新一に電話してきたんだろ」

 

それに阿笠が新一は別の用があり、それでコナンに頼んだのだと誤魔化せば、小五郎は手をグーの形にし、ただじゃおかないと言った。その言葉にコナンが苦笑いをしているのを彰は気付かなかった。

 

そこでコナンが爆弾の種類を聞けば、公園でのラジコンも、ケージの中のも、同じプラスチック爆弾だと伝えられた。プラスチック爆弾は爆発時、青みを帯びたオレンジ色の閃光を発するという特徴がある。それに使われた爆薬は、東洋火薬倉庫から盗まれた火薬だろうと伝えられる。それから、ラジコンの爆弾は雷管につけて衝撃爆弾に、ケージの爆弾はタイマーを接続して時限爆弾にしてあったとも伝えられるが、一つの疑問が残る。

 

「タイマーの方は一度、 13時の16秒前に止まったが、それには可能性が二つ出てくる。一つはタイマーが故障した時。もう一つは犯人がなにかの理由で遠隔操作で止めた場合の二つある。そして、犯人が高校生探偵で有名な工藤新一に電話してきたところから考えると……」

 

「恐らく、工藤くんの評判を知って挑戦してきたか、あるいは個人的に恨みのある人物だ」

 

彰と目暮の言葉に、白鳥が工藤が関わって解決した事件の容疑者を既に調べていたらしく、話し出す。

 

「高校生探偵工藤新一くんが関わった事件の犯人は現在、全員服役してるんです」

 

「となると、犯人の家族や恋人が……」

 

「兎に角、警察では彼らに書いてもらった似顔絵を元に捜査しているところだ」

 

その言葉に、彰は苦笑いを浮かべる。

 

確かに、子供達の描いた絵はとても役に立つ。が、やはり子供らしい少し拙い絵ではあった。また、その犯人の姿がまるで自身を隠すような見た目だった為、彰はこれは変装の可能性もあるなと思っており、そう簡単には見つからないなとも確信した。

 

「警部さん、今まで新一くんが扱った中で一番世間に注目を浴びた事件はなんだったのかのぉ?」

 

その言葉に目暮が顎に手を当て考える。そして出てきたのは、西多摩市で起こった『岡本市長』の事件らしい。その事件は西多摩市に住む25歳のOLが市長の息子が運転する車に跳ねられて死亡した。最初は助手席に市長を乗せて起きたただの交通事故だと思われたらしいが、工藤新一はそれに疑問を抱き、そしてその事件の犯人は息子ではなく、市長本人だった。息子の方は煙草を吸う人間で、その息子が運転したまま車に備え付けられているシガーライターに手を伸ばせば、其処には左手の指紋がつく。が、ついていたのは右手の指紋。つまり此処から考えて、助手席に乗っていたのは息子がの方で、運転していたのは市長本人だったと考えられた。その後、市長も罪を自白した。この身代わりの提案は息子からのもので、息子は父親の地位を思ったがためのものらしい。この事件後、岡本市長は失脚し、その彼が進めていた西多摩市の新しい街作りの計画も一からの見直しとなったと話された。

 

「警部、まさか岡本市長の息子が、その時のことを恨んで……」

 

「うむ、そういえば彼は確か、電子工学科の学生だったな……」

 

それを聞き、白鳥は早速調べに部屋から出て行った。

 

「なあ、三人とも。犯人について他に何か思い出した事はないか?些細なことでもいいんだ」

 

彰が少年探偵団の光彦、ぽっちゃいめの少年『小嶋 元太』、紅一点の少女『吉田 歩美』が考え出す。三人が考え出して少し立つと、歩美が一言、ポツリと漏らす。

 

「におい……」

 

「え……?」

 

「甘い匂いがした。光彦くんがラジコン飛行機渡された時に」

 

歩美のその言葉に光彦と元太は互いに顔を見合わせながらそうだったかと首を傾げる。小五郎は歩美に「化粧品か何かか?」と問えば、分からないながらも香水とは違う気がすると答えられる。

 

「甘い匂いか……単純に考えて甘いと言われたらお菓子とかだが……まさか犯人が、そんなこと起こす前にお菓子作りなんて……するわけないか」

 

彰はそう自分の考えにあり得ないと結論付けた。

 

目暮は少年探偵団三人にお礼を言い、また思い出したら伝えるようにいえば、元気よく返事をしてくれる。少年探偵団三人組はそこで帰ることを決めると、歩美がコナンの手を握り、何かあったら連絡してほしいこと、力になることを伝えた。それを見ていた元太と光彦はジト目でコナンを見据え、小五郎はニヤニヤとコナンを見る。それにコナンは笑って対応するが、内診としては複雑な思いを持っていた。コナンは今は小学生姿だが中身は高校生。小学生から恋を抱かれても本気にはならないし、何よりコナンのその想いは蘭に向けられてるため、歩美の恋は叶わないのだ。

 

そうしてようやく三人が帰り、目暮は工藤は一体何をしているのかと少し心配そうに言う。しかし、阿笠以外の誰も、目の前で寝ているコナンがその工藤新一だとは知らない。

 

そんな時、工藤新一の携帯電話が鳴り出し、コナンが出ようとした。それを小五郎が一度止め、犯人だった場合は自分が変わると言う。それにコナンは頷き、電話を取る。

 

「もしもし」

 

そう対応すれば、相手は変声機を使っているのか少し違和感を持つ声で返ってきた。

 

『よく爆弾に気付いたな、褒めてやる。だが、子供の時間はもう終わりだ。工藤を出せ!』

 

そこで小五郎が携帯を受け取り、スピーカーボタンを押すと、その携帯をベッドシーツに置いた。

 

「そうだな。これからは大人の時間だ」

 

小五郎が受け答えれば、相手は訝しげに答える。

 

『誰だお前は?工藤はどうした』

 

「工藤はいない。俺が相手になってやる!俺は名探偵、毛利小五郎だ」

 

相手はそれを聞き、面白そうに笑った。

 

『いいだろう。一度しか言わないからよく聞け。東都環状線に五つの爆弾を仕掛けた』

 

全員がその数に驚くが、なおも続く。

 

『その爆弾は午後4時を過ぎてから時速60キロ未満で走行した場合、爆発する。また、日没までに取り除かなかった場合も爆発する仕掛けになっている。一つだけヒントをやろう。……爆弾を仕掛けたのは東都環状線の××の×だ。×の所には漢字が一字ずつ入る。それじゃあ、頑張ってな。毛利名探偵』

 

それを伝えた後、相手は電話を切る。小五郎はそれを『ただの脅し』だというが、目暮は『本気だ』と言う。

 

「そして恐らく、午後4時で起爆装置がスタンバイの状態になって、その後で速度が60キロを下回ると爆発する仕掛けになっているんだ」

 

それに小五郎は目を見開くが、目暮が本庁に連絡を始めたのを見て、彰も気を引き締め直したのだった。

 

その後、目暮から今の所、爆発した電車はないことを聞き、ホッと安堵の息を吐き出した彰。そんな時、小五郎が分かったと声をあげる。彰と目暮、阿笠は小五郎に目を向ければ、犯人が言った『××の×』は座席の下か網棚の上のことだと言う。其処に爆弾が置いてあると言うが、目暮は車体の下ということもあると言う。それに小五郎の声がしぼんで言ったのを見て、彰はため息を小さくつくと、自身でも考え始める。

 

(一体、どこにあるんだ?×の部分には漢字が一字ずつと言っていた。つまり、毛利さんが言ったような場所にも、目暮警部が言ったような場所にもある可能性はある。くっそ!環状線を走る電車が多過ぎる!)

 

と、そんな時、阿笠が歩美達の様子が気になったのか、米花町に戻るために緑台駅から環状線に乗っているんじゃないかと言った。それに彰とコナンは反応を示す。

 

(……まさか、あの子達。巻き込まれてるんじゃ……)

 

彰はサッと顔を青ざめる。こう言う時に修斗の力を借りれば、勿論直ぐに場所の特定は出来るだろう。そんな信頼も信用も出来る。それだけの力を見てきたのだから。だが、彰は警察官だ。力があるとは言え一般市民に力を直ぐに借りるわけにはいかない。それがたとえ家族だろうとだ。

 

(もし俺と同じ立場で此処にいたのが瑠璃だったなら、直ぐに頼ってるんだろうが……)

 

と、そこで考えが逸れている事に気付いた彰は、首を思いっきり振って考えを吹き飛ばす。コナンの方が直ぐに歩美に連絡を取り、今の場所を聞き出し、そしてまた爆弾関係かと心配そうな声に安心させる為に絶対に見つけて見せるといえば、逆に歩美達もやる気を出し、車内にあるかもしれない爆弾を見つけようと言い出して探偵団バッチを切ってしまう。そこで丁度、目暮も連絡を終え、本庁こ中に合同対策本部が出来たこと、目暮は東都司令室に今から行くことを伝え、小五郎と彰についてくるかと問えば、二人ともついて行くことを伝えた。

 

***

 

書類を大分捌き終えた時、テレビから東都環状線の走る電車が30分以上もノンストップで走り続けているとの報道を聞き、修斗は飲んでいたコーヒーをソーサーに置いた。

 

「……本当によくやるよな、あの人も」

 

修斗が呆れたように息を吐き出し、自身の携帯に視線を移す。

 

「……兄貴や瑠璃からの連絡がないと言うことは、俺は一般市民だから極力手伝わせないようにという気遣いからだろうな。……まあ、ありがたいけども」

 

修斗はそこでまたテレビを見る。

 

「……あの時、もしパーティーに行かなかったら、俺はあの人が犯人だなんて思わなかったかもしれない……わけ、ないか」

 

修斗は自身に問いかけた疑問だったが、しかしそれは自身によって否定された。

 

「今壊されかけてる物と、壊された物を考えたら、自ずと出てきてしまう。そこから調べていけばやっぱり特定してしまってただろうな……ああ、嫌だな。こんな頭」

 

そこで修斗が右手で前髪をクシャッと握り、息をふっと吐き出すと、

 

修斗は自身の力をよく理解している。理解しているからこそ、それを自身の大切なものの時にしか使わないと決めている。これで彰がもし今の修斗の位置に指名されていたなら、もしかしたら警察の方へと走っていたかもしれないが、そんなタラレバの事は今の修斗には関係ない。

 

「……どうせこのノンストップ事件も爆弾関係なんだろう。爆発の条件は速度と時刻が妥当だろう。見た限り、時速60キロ以上で走ってるから、多分60キロ未満で走れば爆発だろうな。そして、いまこの状況から考えて、爆発は日没かその前後だろう。それ以上時間を与えれば解かれてしまう可能性が伸ばした時間だけ上がってしまう。あの人としては他は兎も角、アレだけは確実に壊したい代物だろうし……。問題は場所だ。あの人が壊したいのは、あの人の『作品』だ。なら、仕掛けるなら電車内じゃない。流石にあの人もそこまでは出来ない。けど、あの人が手掛けた作品の中にある橋の上ならあの人も仕掛けやすい。そして走ってる速度を知る為に仕掛けるべきは線路だ。それも、まず電車の鉄車輪で潰されないところと考えたら……線路の間か」

 

そこまで修斗は辿り着き、息を吐き出す。

 

「……さて、この事実に、あのシャーロックホームズはいつ辿り着くかな……もう俺には頼ってこないだろうしな」

 

そうしてコーヒーをまた一口飲むと、残り数枚の書類を捌き始めた。

 

***

 

その頃、コナンは病院内の待合室にて同じ内容のテレビを見ていた。

 

(警察が事件のことを隠し通せるのも30分が限界だな……)

 

そう考えていると、そこにドラム缶テレビを持って急いでいる姿の阿笠がきた。そのテレビは看護婦さんと話し合い、貸してもらったものであり、それを使って病室で見ることにした二人。そこでコナンは爆発する条件について考える。

 

(時速60キロ未満で走ると爆発するというのは理解出来る。けど、どうして日が暮れた後に爆発するように設定したんだ?……電車のライトにでも関係するんだろうか)

 

その後、病室へと戻り、そのこの事態をテレビ越しで見ながら考え続けるのだった。

 

***

 

彰が目暮と小五郎とともに東都鉄道総合司令室へと赴き、現在、爆弾の捜索がどこまで進んでるかを聞けば、車内からは不審物は発見されなかったと運行部長の『坂口』から報告がされた。

 

「現在走行中の21編成、全車窓が隈なく探しましたが、荷物は全て持ち主がいました。……そちらの方は?」

 

それには彰が悔しそうな表情を浮かべたまま答える。

 

「衛星から撮影されたビデオでも車体の下から爆弾らしきものは見つかりませんでした」

 

「そうですか……」

 

「となると、爆弾は一体どこに……」

 

そんな時、司令長の『楠』が焦った様子でやってきた。

 

「大変です部長!乗客達が騒ぎ出しています!」

 

その言葉に全員がまずいといった顔をする。

 

「……流石にこれ以上、乗客達を電車内に拘束するのは不可能そうですね……」

 

努めて冷静そうな表情を保っている彰だが、彼は内心で焦っていた。その後、楠がもう少し頑張ってくれ、持ち堪えてくれと伝えるが、状況は改善しない。

 

「毛利くん!爆弾を見つけ出す方法はないのか!」

 

(考えろ……何か方法はないのか……!)

 

彰も必死で頭を捻る。そこでふと、コナンと同じ所に至った。

 

(そういえば、なんで犯人は日没なんて設定をしたんだ?ほかの時間でもいいはずだ……解決されたくなかったから?)

 

そこまで考えていた時、目暮の携帯が鳴り出し、思考を止めてそちらを見る。その携帯に目暮が出れば、その口から工藤新一の名前が出てきた。その名前に彰と小五郎は敏感に反応を示す。

 

『阿笠博士から話は聞きました。爆弾が仕掛けられてる場所は、環状線の座席の下でも網棚の上でも、車体の下でもありません。……線路の間です』

 

「線路の間……!」

 

『爆弾は、ほんの何秒間か陽の光が当たらないと、爆発する仕掛けになっているんです。環状線が爆弾の上を通過する時、全車両が通過するまで何秒間か光が遮られます。一車両の長さが20mとして、十両で200m。時速60キロだと秒速約16.7m。つまり、200m走るのに12秒ほど掛かります。そのギリギリ爆発しない時間が時速60キロで走った時の時間なんです。ですから直ぐに、他の線に移してください。環状線の線路から離れさえすれば、止めても危険はありません』

 

工藤新一のその断言した言葉に、目暮は肯定の返事を返した後に通話を切り、坂口にそうするように伝える。そして坂口もそれに頷き、全員に指示を出す。

 

「3分後に11号車を芝浜駅貨物線へ引き入れだ!準備にかかれ!」

 

その指示を受け、すぐさま11号車にその指示を伝え、他の芝浜駅の所へも伝えていく。そして、11号車が芝浜駅を通過した時、線路のポイントを切り替えた。

 

そして、11号車から減速するとの言葉が伝えられ、数字も伝えられる。そして、60キロを下回った時、異常がないかを確認すれば、異常はないと返答が返ってきた。そしてそのまま次の貨物駅で止まるように指示を出した。そこから他の20編成の方も、ポイントを切り替えていき、最後の1編成である10号車も異常がないと伝えられ、司令室の全員が喜びに震えた。

 

その後、爆弾に関してはプロの松田も入れた警察官、警察犬を総動員し、午後4時以降、ビルや塀で日陰になっていない場所。探すときは太陽の位置を常に確認し、自分の陰で爆弾を覆わないように注意を受け、捜索が開始された。そうして全員が探し始めた時、次々と見つけられて行き、松田もその一つの解除を手伝った。

 

「いや〜……今日、大変な1日過ぎません?」

 

その後、松田と合流した瑠璃が息を長く吐き出しながらそういえば、松田も煙草を咥え、笑みを浮かべて瑠璃を見る。

 

「おいおい、確かに今日は日頃よりも動き回った方だが、警察っていうのはそんなもんだ。このぐらいでへばってちゃいけないぜ?」

 

それに瑠璃は「はーい」とだけ言うと、腕を伸ばし始めた。

 

「ん〜っ!でも、本当によく歩いた気がしますよ……東洋火薬での盗難事件に加えて黒川邸の放火事件、からのプラスチック爆弾連続事件のこれですよ?ある意味運動ですねこれ」

 

そう言いながら歩き、自身の愛車である黄色のRX-7のドアを開けた。そして瑠璃が運転席にのり、松田は助手席に乗り込んだ。

 

「はぁ……でもまだこれ、犯人特定してないから終わらないんですよね……早く特定しないと」

 

「……無理はすんじゃねえぞ」

 

松田のその言葉に、瑠璃は少し目を見開くと、心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

***

 

コナンの病室では、無事に全ての爆弾が回収されたことが報告されており、その場の全員が嬉しそうな反応を示す。そしてそれは、すべて工藤新一の推理通りだったらしい。しかも回収しきれたのは日没まであと15分前。ギリギリだった。

 

「……だが、喜ぶにはまだ早い。まだ犯人は捕まってないんだ」

 

「しかも、仕掛けられていた爆弾は、盗まれた火薬の量から考えて、僅か4分の1しかないそうだ」

 

つまり、残り4分の3はまだ犯人の手元にあるのだ。そこから考えてもまだ事件は続くと考えるべきである。

 

その時、タイミングよく白鳥が戻ってきて、報告が始まった。

 

「例の岡本市長の浩平ですが、今朝早くから伊豆の方へと出かけていることが分かりました」

 

「じゃあ、彼には無理か……」

 

「はい……あの、爆弾事件の方は」

 

「解決した」

 

「工藤くんのおかげでな。……問題は残りの爆弾とホシの正体だ」

 

それに関しては彰もずっと考え続けていることでもある。しかし、いくら考えても思い当たる人物がおらず、溜息をつく結果となっている。

 

「今分かっていることと言えば、犯人は環状線沿いの5箇所の近くの住宅には住んでいないと言うことぐらいっすかね……」

 

それに彰と目暮が首を傾げれば、小五郎は力説し始める。

 

「だってそうでしょう!住んでいたとしたら、電車ごと吹っ飛んでくるかもしれないんですよ?自分の家の側にわざわざ……」

 

そこで何かに気付いたかの様子の小五郎。その内容は、ケージの中に入れていた爆弾を止めたのも、同じ理由だったからではないかと言ったのだ。

 

(確かに、一理ある)

 

彰がそれに納得すると同時に目暮も感心した様子を小五郎に向けた。そうしてマンションに直行してみたが、空振りであった。しかもマンションだけではなく、付近の家も調べたが、どこも白。犯人ではなかった。そんなことをして入れば時間は既に夜となっており、彰はもうこの時点で帰れないだろうと予測し、修斗にその旨をメールで報告し終えていた。

 

そんな時、コナンが環状線の爆弾がどんな所に仕掛けられていたのかを質問してきたため、目暮が答える。

 

「どう言うところって、普通の住宅街だよ。ああ、そうだ。一つだけ、橋の上だったな隅田運河の」

 

「ああ……松田と瑠璃が見つけて処理したやつですね……ん?」

 

そこで彰はふっと違和感を覚えた。

 

(そういえば、なんで一つだけ橋の上なんだ?ほかは住宅街付近だったのに……。適当につけられたと言われたらそれでおしまいだが、そうじゃない気がする……何か理由が……)

 

そこまで考えた時、ちょうどタイミングよくその橋がテレビに映されていた。それで阿笠に此処じゃないかと問われ、彰はそれに返事をする。

 

「ああ、はい。暗くてよくは見えないですが、確かにその橋ですよ」

 

彰が答えると、コナンが身を起こし、声を出す。

 

「ねえ、この橋。森谷さんが建築したんじゃない?」

 

「そう、だったかな?」

 

「その通りです」

 

小五郎が記憶をほり出そうとした時、そう肯定したのは白鳥警部だった。全員が白鳥に顔を向ければ、どこかドヤ顔で説明を始めた。

 

「そのとおり、森谷帝二の設計です。その橋は1983年に完成したもので、鉄橋ではなく、英国風の石造りの橋にしたことが当時、かなりの話題になり、この橋の設計により森谷帝二は日本建築業界の新人賞をとったんです」

 

「随分とまあ詳しいんだな……」

 

目暮が感心したようにそう言えば、白鳥は建築に興味があるからだと答える。それを疑わしそうに見る小五郎。

 

そんな時、爆破事件から今度は連続放火事件の話となり、コナンが音量を上げて聞こうとしたが、それは小五郎がテレビの電源を消したことで見れなくなってしまった。それに良い子の返事を返したコナンだが、ふと、燃やされた黒川邸も森谷が設計したものだったと思い出す。

 

「ねえ、連続放火事件で被害にあった家って、誰が設計したんだろうね?」

 

そのコナンの言葉は大人からしたら純粋な質問で、全員がコナンの方に視線を向けた。その全員に向けてコナンは調べてみたら面白いことが分かるかもしれないと言うと、白鳥が少し不満気な様子を見せる。そんな白鳥に不敵な笑みを見せたコナンを見たからか、白鳥は言うことを聞いて調べて見た。そうして分かった事実は、連続放火事件で燃やされてしまった被害宅である黒川邸、水嶋邸、安田邸、阿久津邸。この四軒の放火された屋敷はすべて森谷が三十代前半の頃に設計したものだった。

 

「こりゃ、偶然とは思えませんな……」

 

そこでコナンが、環状線の爆弾騒ぎの本当の狙いが実はあの橋ではないかと言えば、小五郎は怪訝そうな顔をするが、彰も入れた三人の刑事はその線はあり得ると考えた。

 

「あり得るな……ホシは連続放火事件のホシと同一で、森谷帝二の設計したものを狙って……」

 

そこで小五郎が何かを閃き、自信満々に言葉にする。

 

「分かりましたよ警部!犯人は森谷帝二に恨みを持つ者の犯行か、その才能を妬んでいる者の仕業です!新一への挑戦は、カモフラージュだったんです!」

 

「確かに、その可能性はありますね」

 

彰が何処か感心した様子で言った。そして白鳥もまた、小五郎の言葉に同意を示した。なにより、一連の事件は全て手製の発火装置を使っていたことから、その可能性も高いと言う。

 

「今思えば、爆弾犯と共通するものがあります!」

 

それに彰がその線で考え始めた後ろで、コナンは今までの作品全てが、森谷帝二が三十代の頃の作品であることに疑問を持っていた。しかし、その疑問解決にもってこいの機会が設けられた。目暮の提案で今から森谷帝二の邸宅へと行くこととなったのだ。その案内役に小五郎を指名するが、小五郎は思い出せないのか頭を捻る。そこへコナンが自分が覚えているからと案内役を買って出れば、小五郎はまだ治ってないと心配そうに声を掛ける。しかしコナンはもう治ったと豪語し、そのまま大人全員を置いてさっさと出て行ってしまった。

 

「……子供は元気だなぁ」

 

そんな彰の感想など、誰も聞く耳持たない。取り敢えず、白鳥の車で森谷邸まで行くこととなった。その道中、丁度爆弾が一度止まったところを通ると、そこにはガス灯が灯っていた。

 

(……そういえば、森谷帝二はイギリスに留学していたと修斗が言ってたが、まさかあのガス灯も?)

 

そう考えた彰は、流石にそこまではないかと肩を竦め、森谷邸に着くまでの間、外の景色を眺め続けたのだった。




連続放火事件で燃えた邸宅の名前変換が微妙でした。いや、漢字が分からなくて……(目逸らし)

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