とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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毎度恒例になりますが……お久しぶりでございます!!

さあ、コナンくんの映画の時期となりましたね!!
因みに私はまだ見れておりませんが、皆さんはもう見られましたでしょうか?

何やら哀ちゃんに不穏な影が迫るご様子…私は不安で堪りません!!哀ちゃんは無事ですか!?いや無事ではありますでしょうが無事ですか!!?(混乱の境地)

不安で胸がドキドキしております!!

そんな中での今回のお話!!そしてほんのちょっとのオリキャラ登場!!別に事件に関係はしませんが、ちょっとチラ見せでございます!!(でも忘れてる方も多そう…投稿がかなり遅れた私が悪いですが)

そんな久しぶりな投稿ですが、良ければお楽しみに下さい!!


第38話〜天国へのカウントダウン・3〜

 原の遺体を見つけてから数十分後、警察がようやく到着し、現場確認が始まった。その場には当然、今回の捜査の一員だった目暮、白鳥、松田の他に新たに高木と伊達も加わった。

 

「……」

 

「おい松田。そんなに眉間に皺寄せてっと老けるぞ」

 

「うっせぇ」

 

 そんな松田達を他所に目暮が検視官に死亡時刻を聞いてみれば、今の所の死亡時刻は前日の午後から夕方ごろとのこと。机のチョコレートケーキから推測出来るのは、そのケーキを食べようとした際に犯人がやって来て、ケーキ用のナイフで対抗しようとした、ということ。

 

「そして、お猪口があると言う事は……」

 

「ああ。これは、間違いなく連続殺人だ」

 

 松田が他に何かヒントはないかと顔だけで部屋の中を確認する。しかし、コレといったヒントはなく、あるのは異様に多い2種類の鳥グッズばかり。

 

 1羽は尾が二股に分かれた黒い鳥。もう1羽は頭部が大きく、顔がほぼ円形で寸胴の体の鳥。

 

「黒い小さな鳥……この特徴的な尾羽の形からして、此奴は燕か?」

 

「梟の時計もあるぞ?」

 

「ですね……でも、鳥の種類はそれだけみたいですし、関係はなさそうですね」

 

 松田と伊達の会話に高木も入り、2種類の鳥グッズは被害者の趣味であることを理解しただけに終わる。違和感を感じる2人だが、今その謎を解き明かす事は出来ず、真実は原が死んだことで彼と共に失くなってしまった。

 

 そんな現場から離れた廊下で第一発見者としてコナン達が待っていれば、割れたお猪口を持って玄関へと向かおうとしていたトメが気付き、声を掛けてきた。

 

「よぉ、坊主」

 

「トメさん!もう済んだの?」

 

「ああ。所で、君たちが第一発見者なんだって?」

 

 それにコナンが頷き、問題のお猪口を問い掛ければ、トメがお猪口を見せてくる。そのお猪口を近くで見たコナンは違和感を感じた。

 

(……あれ?血の付いた破片がない)

 

 お猪口が置かれていたのは遺体となった原の直ぐ横。そんな所にあれば血が付着していてもおかしくない。だと言うのに、付着した破片が1つもないのだ。

 

「ねぇトメさん。お猪口の破片はそれで全部?」

 

「勿論さ!鑑識のトメに見落としは無いよ!!」

 

 トメはそう胸を張って言い、去って行く。それをコナンが見送れば、隣にいた哀はコナンに聞こえる程度の声で言う。

 

「……これで彼等じゃないって分かったでしょう?彼等はあんなもの、残さないわ」

 

「寧ろアレを残しているからこそ、より彼奴等ではない事の証明になったな」

 

 哀に続き咲が追撃をすれば、コナンも納得はしないもの、その場では何も言わずに終えた。

 

 それから時間が経ち、関係者でもある小五郎達に説明をする為に目暮と伊達が事務所へとやって来て、小五郎達と向かい合わせに座り、話し始める。

 

「解剖の結果、大凡の死亡時刻が分かった。昨日の夕方5時から6時の間だ」

 

「それから、原氏のパソコンからデータが全て消されていた」

 

 伊達のその一言にコナンが目を見開き、視線を下に向けて考え始める。第一の事件との違いであるパソコンのデータの消失──その意味する所を。

 

 そんなコナンに視線を向けて、17時から18時まで少年探偵団達と相対していた如月や、仕事場の人間が姿を確認している修斗は白、風間と亮吾も互いに仕事をしている姿を確認しているらしく、共犯でなければ白であると目暮が伝える。それを聞き、小五郎が美緒のアリバイを聞けば、秘書の沢口も含めてハッキリしたアリバイがないと伊達は言う。

 

「毛利君には悪いが、犯人は常盤美緒さん、そして沢口ちなみさんのどちらかだと思う。しかも、今後も犯行が続く可能性は十分に考えられる」

 

「そこで目暮警部が、土曜日のパーティーを延期するように伝えたんだがなぁ……」

 

 そこで伊達が頭痛がするかのように頭を抑えて顔を俯かせ、目暮も難しい顔で目を瞑った。その様子から、延期される事はなかったらしい。そればかりか、小五郎に預かり物があったらしく、目暮が懐から手紙を出して渡してきた。

 

 受け取った小五郎が開き、中を見てみれば、それはパーティの招待状だった──毛利一家だけでなく、園子や博士、子供達も含まれている。そう言う蘭に、コナンも驚きを露わにし、目暮は天井を見上げた。

 

「全く、何を考えているんだか……」

 

 

 

 事件現場となった原の部屋では、松田が部屋の中を探り、その後ろでは呆れた様子の白鳥が立っていた。

 

「……松田刑事。遺留品は全て回収されてますよ?」

 

「…………」

 

「……何がそんなに気になるんですか?」

 

 その問いに、振り返らないまま口を開く。

 

「……あのお猪口、妙だと思わねぇか?」

 

「どこがですか?」

 

「犯人があのお猪口を置くのは、犯人なりのメッセージだ、それは分かる。だから、ガイシャを殺した後に置いて帰ってる」

 

 そこに間違いはなく、白鳥も頷きをもって返す。

 

「それが何です?」

 

「だからこそ妙だろ。ガイシャの近くに置いあったんだから、アレに血が付着するのが普通だ──だが、今回のお猪口は何処にも付着してねぇ」

 

 その松田の言葉に白鳥もお猪口の保存状態を思い出し、首を捻った。

 

「……確かに、妙ですね。被害者を殺した後に置いたのであれば血液は固まっていない筈です。しかし、今回のお猪口には何処にも着いていない──血液の上にあったにも関わらず」

 

「そうなってくると今回の殺しに関しちゃ、1件目とは違う可能性が出てくる」

 

 部屋の中を探し続ける松田のその言葉に、白鳥は目を見張る。

 

「──まさか、別に犯人がいるという事ですか!?」

 

「その可能性が高い……んだがなぁ」

 

 そこで箪笥から何から探し終えた松田が、そのパーマが掛かった頭を掻き毟る。それを見て、白鳥は目を細めた。

 

「──その証拠となるものが、出なかったんですね?」

 

 その言葉に松田が黙ったままそっぽを向けば、深いため息を吐き出した白鳥。

 

「はぁぁ……松田刑事。せめてこの僕を相手にするのであれば、証拠を見つけてくれませんかね?佐藤さんの様に甘くはないんですよ?」

 

「少なくとも1件目はあのジジイだろ」

 

「ですが、原さん殺害のこの件では、峰水氏には明確なアリバイがあります」

 

 そのアリバイの壁を、松田は壊せないでいる。

 

 なにかトリックがあるのか、そのトリックは何か。それを考えるが一向に出てこない。それに思わず松田は舌を打ったのだった。

 

 ***

 

 その日の夜遅く。一棟のアパートの前に車が停まった──それは、ポルシェ356Aだった。

 

 車から降り立った車の主、ジンはそのままアパートの中へと入り、部屋へと入れば、中では一足先に物色しているウォッカがいた。

 

 扉を開けた事でウォッカも気付き、振り返る。

 

「兄貴」

 

「……この部屋か」

 

「管理人に写真を見せて、確認しやした」

 

「ふん、奴が組織の目を盗んで、こんなヤサを根城にしていたとはな」

 

 ウォッカが管理人から聞いたのは、この部屋の家賃は一年分前払いされていることと、留守電がそのままなこと。更に隣人からは時折、電話が掛かってきてメッセージを入れられているとのこと。しかし、その留守電を確かめてみたところ、妙な所があったらしい。

 

 その妙な所というのは──。

 

「──メッセージが録音されていなかった」

 

「え?えぇ。一体、誰がどういうつもりで……」

 

 そのウォッカの疑問に、個室に移動して棚に入っていた医学書を読んでいたジンが笑う。

 

「……所詮、女は女か」

 

 そこで読んでいた本を投げ捨て、ウォッカに車からパソコンを持ってくるように命じて、ジンは懐から1つのディスクを取り出した。

 

「──組織が開発した逆探知プログラム。コイツを使えば、20秒で逆探知出来る」

 

 その言葉に、ウォッカもニヤリと笑う。

 

 

 

 ──そんな事が起きていると知らない哀が密かに起き上がり、布団から抜け出して地下の研究室へと降りて行く。

 

 

 

 暫く座って電話を待っていれば、漸く待ち望んだ電話が掛かってきた。それは2コールした後、直ぐに留守電に切り替えられる。

 

 ──亡くなった筈の、明美の声だ。

 

 彼女の声に促され、逆探知されているとも知らない電話の主は話しだす。

 

『お姉ちゃん?──私』

 

 その声にウォッカは驚き、ジンは喜色の笑みを浮かべる。

 

『明後日、ツインタワービルのオープンパーティに行ってくるわ──』

 

 ──そこまで話して、電話が切れてしまった。

 

 逆探知不可の文字に、ウォッカが息を呑む。

 

 

 

 同時刻。唐突に切られた電話に、話していた哀も驚きに目を見開き、直ぐに後ろを振りけば──そこには、電話線を持ったコナンが、そこにいた。

 

「……工藤くん」

 

「やっぱり、お姉さんに電話してたんだな。お前のお姉さん──宮野明美さんが生前、密かに借りていた部屋の電話に」

 

 そこで博士も理解する。哀は姉の明美と話をしたかったのだ。

 

 それに哀は無言を貫き、顔を背ける。しかし、コナンは止まらないまま──地雷を踏む。

 

「──気持ちは分からなくもねぇけど、いくら何でも」

 

 

 

「──私の気持ちなんて、誰にも分かんないわ!!!」

 

 

 

 哀は悲痛な声を上げて走り出す。2人の間を掻き分けて駆け上がり、コナンはそんな哀の後を追おうとするが、それは博士が止めた。

 

「……今は、そっとしといてやろう」

 

 

 

 階段を駆け上がった先で、扉を閉めた哀は、そのまま力なく背を預けて──静かに、涙を流した。

 

 ***

 

 明美の部屋で逆探知が出来なくなり、ウォッカは悔しげにテーブルを叩く。

 

「クソ、あと数秒で逆探知出来たってのに……」

 

 そう興奮するウォッカの隣で、ジンは冷静に煙草に火を着けた。

 

 ──そこで再度鳴り響く電話。

 

 ウォッカは嬉しそうにジンに報告するが、相手は話す事なくメッセージを消してしまう。その行動に、2人の行動が察知されたのではと心配するが、ジンはそれを否定する。

 

「……メッセージを消したってことは、後でそれを聞かれたくないため。まさか俺たちが電話の側で聞き耳を立てていたとは、夢にも思っちゃいねぇよ──俺たちの近くに、耳の良い猫でもいない限り、な」

 

 その言葉にウォッカがまさか、と小さく呟くが、ジンはそれも否定する。

 

「それもありえねぇがな。もしあの猫が本当にいるなら、あの女が掛けてくることすら無かっただろうよ」

 

 彼女が掛けてきた事が、何よりの証拠。そしてメッセージを消した事により、今後彼女がこの部屋に電話を掛けることもしないだろうとジンは確信していた。

 

 ──しかし、情報は手に入った。彼は信仰もしていないだろう神に感謝する。

 

 彼女は確かに言ったのだ──ツインタワービルのオープンパーティに参加する、と。

 

「──やっと拝めそうだぜ、シェリー……蒼く凍りついた、お前の死に顔が」

 

 

 

 ──翌日の朝。

 

 遅刻することなく元気に登校しているコナンの後ろから、少し早足で哀が近付いてきた。

 

 彼女は少し俯いたまま、コナンに謝罪する。

 

「……昨夜はごめんなさい。私も危険は承知していたわ。いつかはやめなくちゃいけないって思ってた……それでも、1人になって寂しくなった日、怖くてたまらなくなった時に、ついつい受話器を取ってしまうの……僅か10秒足らずの姉の声を聞きたくてね」

 

 そんな彼女に、コナンは呆れた様子を見せる。

 

「……バーロォ。オメェは1人なんかじゃねぇよ」

 

 その言葉に思わずコナンを見遣り、哀も決心したのか、目を瞑る。どこか、寂しそうな気配を漂わせて。

 

「──私もそろそろ潮時だと思ってたし、やめるわ」

 

 コナンには、あの時のメッセージは消しておいたと伝えて、自分の席に、ランドセルを置いた。

 

「……でも、此の頃私は、誰なんだろうって思うの」

 

 

 

「──私は誰で、私の居場所は、何処にあるんだろうって……私には、席がないの」

 

 

 

「──えぇ!?灰原さん、席がないって!!?」

 

 コナンとは違う聞き慣れた第三者の声に思わず哀が顔を上げれば、其処には探偵団の3人と、少し後ろに咲がいた。

 

「何言ってんだよ灰原!」

 

「灰原さんの席は、ちゃんとそこにあるじゃないですか!!」

 

 そんな哀の前の席に歩美が笑顔で座った。

 

「私はここ!!」

 

 続いて、哀の右側の席に光彦が座る。

 

「僕は此処です!!」

 

 最後に、元太が哀の後ろに座った。

 

「此処は俺だ!!」

 

 そんな子供達の無邪気な様子に、戸惑う様に彼等を見渡して呆然とする哀。

 

「──な?1人じゃねぇって言ったろ?」

 

「──なんだ、私達のことを忘れていたのか?寂しい事を言ってくれるじゃないか、哀」

 

 因みに私は此処な、と言って、咲は元太の隣の席に座った。

 

 そんな2人に顔を向けて──少しして彼女は、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 ──その日の夜、ツインタワービルに複数の侵入者があったのだが、警備員は全員眠らされて、誰も気付くことが出来なかった。

 

 

 

 ほぼ同時刻、最後の書類確認をしていた修斗の所に、一本の電話が掛かる。

 

 その相手の名前を確認して、手を止めて電話を取る。

 

「はい、修斗です……ああはい、名前見て分かってましたけどね。で、御用件は?」

 

 そこで伝えられる相手からの要望に、修斗は目を細めた。

 

 ***

 

 ──翌日の夕方。小五郎が借りたレンタカーでツインタワーへと向かおうとする一行だが、園子がいまだに姿を表さないでいた。その事に少し苛立ち、花束を持って園子を待つ蘭に声を掛ける。

 

「おい、財閥のお嬢様はまだ来ねえのかよ!?」

 

「もう家は出たって!!」

 

 そんな車の後部座席では、元太、光彦、歩美が乗っており、いつもよりオシャレな服を着て、パーティを楽しみにしている様子を見せていた。

 

 鰻重を期待するいつもの元太に、呆れた様子を見せる光彦。そんな子供たちの様子に、アイボリー色のスウィートチュールを着た咲も嬉しそうに笑みを浮かべる。そんな彼女の横で、ずっと考え事をしていたコナンが小声で2人に話しかける。

 

「……なぁ。専務の原さん、実は黒尽くめの男達の仲間だった、なんてことはねぇかな?」

 

 その言葉に咲も振り返る。そんな彼女を見遣り、哀は視線をコナンに戻して彼が問いかける可能性に肯定を返した。

 

「その可能性はあるわね。彼らは以前から、政財界や医学会、科学会などで将来有望な若手を引き入れているわ」

 

「市議の茂木さんは?」

 

「少々、力不足だけど、若い頃ならね……何れにしても、1度組織に入った以上、抜け出そうとしたり、裏切ろうとした者には、容赦なく、死の制裁が待っているわ──私や咲を殺そうとしている様にね」

 

 そして、同じく組織を裏切ったテネシーもそうだった。それを思い出し、震える身体を抑える様に、右手で左腕を掴んだ。

 

「すると、もし犯人があの5人の中の誰かじゃとしたら……」

 

「ああ。そいつも組織に関係している可能性が高いって事だ」

 

「──ハーイ!お待ち遠さまぁ!!」

 

 そこで漸く園子の声が響き渡り、全員がそちらに視線を向ければ、その全員の目が見開かれた。

 

「そ、園子!?どうしたの、その髪!!」

 

 ──そう、園子の髪はいつものストレートヘアではなく、ウェーブが掛けられたもの。それはまるで──。

 

「イメチェンよイメチェン!!……彼女に習って、ウェーブを掛けたのよ!!」

 

 そう言って園子が笑顔で見た先には、哀。

 

 自信に満ち溢れた笑顔で見せつける園子を見るコナンだが、その姿はどう見ても──大人の姿の哀そっくりで。

 

 つい言葉を失ったコナンに詰め寄る園子だが、コナンは少し照れた様子を見せる。それに目敏く気付いた光彦はコナンを揶揄い、更に元太まで追撃をする始末。コナンは否定をするが、何処か力のない否定で……そんなコナンに恋する歩美は、面白く無さそうに窓から視線を逸らす。

 

「……私もウェーブ掛けようかなぁ」

 

 ──そんな彼女の呟きは、ヘッドフォンを外していた咲には聞こえていて、面白そうに笑って呟いた。

 

「……罪作りな男だなぁ、名探偵?」

 

「……うっせぇよ、バーロォ」

 

 その呟きはコナンも哀にも聞こえており、楽しげに笑う哀と咲に、コナンはほんの少しの悪態を吐くのだった。

 

 

 

 パーティが始まっている頃、常盤に断られてしまった目暮たちは、外の駐車場にて待機せざる羽目にになっていた。

 

 高木が中に入るべきだと熱くなっているが、断られている以上、待機するほかないと言う目暮。それでも尚、高木は伊達に視線を向けるが、伊達もコレばかりはと首を振るしかなかった。

 

「あの嬢さん、楽天的で結構な事だが……自分が狙われる可能性は微塵も思っちゃいねぇんだろうなぁ……頭空っぽかよ」

 

「松田刑事」

 

 松田の言葉に名前を呼んで苦言を呈する白鳥。視線も向けて諌めれば、松田は煙草を吸ったまま、反省の色を見せないでいる。

 

 それに眉を寄せるも、何を言っても仕方ないと諦めて、白鳥はツインタワーの高いビルを見上げ、何もない事を祈る事にした。

 

 

 

 ──パーティが行われているツインタワービル内では、様々な有名人から企業家が揃っていた。そんな中でも小五郎は気にせず、普段は食べることの出来ないキャビアやフォアグラを取り皿に乗せていく。それを隣で見ていた博士も取ろうとすれば、それに待ったを掛ける哀。彼女は博士の健康を考え、和食にする様に進言し、自身が取ってくると言って去っていく。

 

「……なんか、奥さんみたいな子っすね」

 

「お陰でいつも腹ペコじゃよ」

 

 

 

 コナンと哀を除いた子供達はと言えば、会場内に置かれたマスタングを見つめていた。

 

 子供達と同じく大人も見つめる中、純粋な子供である元太がどうやって会場内に持ち込んだのかと疑問を呟けば、光彦が此処で組み立てたのだろうと予測する。しかし、それは歩美が否定した。彼女の答えはと言えば、荷物用のエレベーターを使ったのだろうと話す。

 

 彼女の住むマンションにも荷物用のエレベーターがあるらしく、それはかなり大きくて、箪笥も簡単に運べるのだと言えば、元太は笑顔で「ゾウでもか?」と問いかける。それに多分運べると歩美は悩むが、ゾウを家で飼う人間は日本にはいない。呆れた様に光彦が告げれば、元太は隣にいる咲に目を向ける。

 

「咲の所にゾウはいねぇのか?」

 

「いるわけないだろ……そもそもいたとして、誰が世話をするんだ、誰が」

 

 呆れた様に元太に返せば、面白く無さそうな様子を見せた元太であった。

 

 

 

 蘭と園子の2人は、大きな窓から夕焼けに染まる富士山を眺めていた──そんな2人の横には、静かにそんな富士山を眺める如月。

 

 彼は少しして静かに去っていき、その事に気付かないまま、2人は外を眺め続ける。

 

「……綺麗ねぇ」

 

「『あぁ!こんな美しい景色を新一と見られたら、私もう、どうなったって!!』……でしょ?」

 

 園子の揶揄う視線と言葉に、蘭は頬を赤く染めて、視線を逸らした。

 

 

 

 反対側の窓では、風間と亮吾、修斗、コナンがいた。

 

 風間は他の来賓客に、反対のビルからも本当は富士山が見える様にしたかったと語っていた。それが何故叶わなかったかといえば、それは地盤の関係があるらしい。

 

(そうか……B棟からは富士山が見えないのか)

 

 ──そんなコナンの横で、紺色のスーツを着た修斗と、緑色のスーツを着た亮吾が会話をしているのに気付き、コナンはそちらにも聞き耳を立てた。

 

「──他の兄妹たちは?」

 

「オレ以外だと『姫子(ひめこ)』が来てる」

 

「え、姫子が?……なんで彼奴が??」

 

「オレが常盤さんにブローチを紹介した関係でちょっと、な」

 

「……ふーん?ところで、お父様は?」

 

「その辺にいるだろ。忙しいって言ってたから、もしかしたら帰ってるかもしれないがな」

 

「早く言え!!」

 

 そう言って早足で去って行く亮吾を、何処か哀しそうに見つめる修斗にコナンは近付いた。

 

「……なんだよ」

 

「俺も親父さん見てみてぇなー、なんて」

 

「……ハァァァ」

 

 珍しくあからさまな嫌悪を見せる彼に、コナンは冗談だった事にしようかと考えていれば、隣の修斗が1歩踏み出した。

 

「……こっちだ」

 

「この中で分かんのか?」

 

「あの人、アレで人気者だからな……人の多い所に行けばいんだろ」

 

 そう言って案内する修斗の後ろを付いて歩けば、少しして人が多く集まっている場所を発見する。会食中らしく笑顔で話すその顔は、確かに彰と修斗にそっくりだった。

 

 グレーの皺1つないスーツを着て、柔らかな笑顔で気さくに話すその姿は、何処にも警戒する要素はなく、嫌う理由も見当たらない。不自然さも感じないその笑顔に、アレが愛人を複数名抱えた父親だとは誰も思わないだろうと、思わず修斗ですら思った。

 

(いや……この場合、気付いていた場合でも、不利益を齎す相手でもないから黙ってるってところかもな……)

 

 そうして父親の近くにいた秘書の女性──左薬指に指輪がある──が何かを呟けば、父親は申し訳なさそうに眉根を寄せて謝罪をしている。そんな父親に激励でも送っているのか、笑顔で見送る来賓客たち。そうして離れる父親の後を、少し後ろで見ていたらしい見慣れないピンクのフレアラインワンピースを着て金髪を結んだ女性と亮吾が追って行った。

 

「……で、満足か?」

 

「ああ……オメェ、親父さんに似たんだな」

 

 コナンの言葉に自嘲の笑みを浮かべる。

 

「ああ、そうだな……嫌なとこまで似てるよ、本当」

 

 それにコナンが首を傾げた所で、壇上に美緒が立ち、会場内に彼女の声が響き渡る。ほんの少し修斗が会場の出口へと視線を向ければ、悔しそうな様子を見せる亮吾と妹──川下姫子の姿があった。

 

(……予想通り、か)

 

 そこで視線を壇上に戻せば、彼女曰くちょっとした余興をするらしい。

 

「私の亡き父、常盤金成の名にちなんで、そして、常盤グループ30周年にあやかって時間……それも、30秒を当てるゲームです!」

 

 それに思わず反応したのは子供達3人。それは光彦があの車の中で考えたゲームで、この偶然には咲も思わず目を見開いた。

 

 美緒の説明は続き、ピッタリ当てられた人物、もしくは1番近かった人物にはマスタングをプレゼントとの言葉に会場が湧いた。ただし、勝者が2人出た際はと言えば、ジャンケンに負けた方がヘルメット付きのマウンテンバイクで我慢して欲しいと美緒が頼めば、今度は笑い声が会場に響き渡る。

 

 それを聞いた元太と光彦はと言えば既に勝利の喝采を上げていた。何せ彼らには、ピッタリ30秒当てた歩美がいる──しかし、その歩美はといえば、不安そうな表情でコナンを探している。咲も協力してやりたい所だが、人が大勢いる中でヘッドフォンを取れば、忽ち彼女は音の情報量に呑まれて倒れる恐れがある為、今はそれが出来ないでいた。

 

(……緊迫感でもアレば別だが、アレはアレでもう懲り懲りだ)

 

 心の裡で歩美に謝罪する咲。そのゲームへの参加する条件は、時計を預けることのみ。暫くした後、その時計にピッタリの宝石を添えて返すと説明する美緒の話を聞き、咲を除く子供たちは籠を持ってやって来た沢口に時計を渡した。

 

「……あれ?咲ちゃん、参加しないの?」

 

 歩美が当然の疑問を咲に向ければ、咲は肩を竦めながら頷いた。

 

「ああ……私は私で楽しむから、お前達は参加して来るといい。成功する事を、此処から祈ってるから」

 

 それを見て沢口は3本分の旗を其々に渡して、時間だと思った時に上げるようにと説明する。

 

 その子供達の他、小五郎と博士、蘭、園子が参加を示していた。コナンと哀は不参加の意を示し、如月は時計を持っていないと説明する。そして、北星兄弟はといえば──。

 

「──お前らは参加したのか」

 

「当然。だってただの余興でしょ?こういうのは楽しむべきだと思うけど?」

 

「そうよ!!ワタクシだってわかる事を、どうして貴方は分かってないのかしら??」

 

 修斗に対して煽りを返す亮吾と姫子。2人としては、修斗を敵視しているのもあって負かしたい想いがあったものの、当の本人が不参加を示した事により、その不満を現在、ぶつけている訳である。

 

「そうは言っても別に宝石にも車にも……いやまあ、マスタングには興味はあるが、今の車で満足してるし、マウンテンバイクも特に興味ないしな」

 

「あら残念。最終的にその宝石が欲しかったのだけど……」

 

「姫子、それ目的だったの?」

 

「当たり前ですわ!!其々に選ばれる宝石の剪定基準がどういったものなのか、知りたいんですもの」

 

 しかし彼女がその情報を得れるとすれば、兄弟である修斗と亮吾しかいない──父親と、修斗の母親である秘書は既に会場を去ってしまっているのだから。

 

「そもそも、あの人が忙しいのは知ってるだろ」

 

「その何もかも分かってるって言いたげな態度がもの凄く腹が立つ」

 

 舌をその場で打ちそうな程の嫌悪を表す亮吾に、修斗は苦笑いを浮かべる他ない。そこで美緒が参加する子供達の旗が見やすいように前へと促す声が響き渡る。それがそろそろ余興が始まる事を知らせているのだと理解すれば、修斗は辺りを其れとなく見渡して──とある人物を見つけた。

 

 薄茶色のスーツを着た姿で、黒縁の眼鏡をかけた黒髪のその男性。その腕には時計が巻かれたまま──参加はしなかったらしい。

 

「さて、参加しない俺がこれ以上お前らと話してても邪魔する事になるだけだ……そこの柱で木みたいに静かに眺めてるからな」

 

「見なくていいんだけど?」

 

「亮吾、これ以上話してても参加はしないようですし、ワタクシたちも彼方に混ざりませんこと?」

 

 姫子の提案に亮吾は乗り、2人は修斗から離れて人混みの中に混ざっていく。それを見送った修斗は、宣言通りに壁の花となって、余興を眺める事にした。

 

 美緒の言葉通りにステージ前まで咲達が移動すれば、そこにはコナンと哀が隣り合って子供達を見ていた。その2人が旗を持っていない事に気づき、歩美は寂しそうに黄色の旗を見つめる。

 

「……歩美」

 

「……咲ちゃん?」

 

 そこで咲から名を呼ばれ、俯かせた顔を上げれば、頭を優しく撫でられる。

 

「……楽しんでこい。私は応援してるから」

 

 彼女はそう言って、優しげな笑みをその顔に称える。

 

 そのあまり見る事のない笑みに歩美は少し目を丸くし、嬉しそうに頷いた。

 

「──それでは、始めます。彼女のスタートの合図から数えだして、30秒でお渡しした旗をお上げください」

 

 その美緒の言葉にやる気満々の小五郎。これが成功すれば、念願の自家用車で、しかもマスタングが手に入るのだから力が入るのも当然だった。

 

「よ〜い……スタート!!」

 

 そうして彼女の手の中のストップウォッチ時間を進めていく。参加者の其々が其々の時間を刻む声が響く中──母親らしい女性があやしていた赤ん坊が、楽しそうに笑いながら小五郎の頭をその柔らかい手で叩いた。

 

 それにより秒数を忘れてしまった小五郎。その隣で博士が旗を上げ、周りも次々に旗を上げていくその姿に焦りを見せ、ならば誰かと共に旗を上げようと考えた瞬間──赤ん坊が鳴き声を上げ、それに驚いた小五郎が、その青い旗を上げた。

 

「──はい!」

 

「そこの青の方!おめでとうございます!!──ピタリ賞です!!」

 

 思い掛けない小五郎の勝利に、蘭は喜び、コナンと修斗は目を丸くした。

 

「マジかよ……」

 

「嘘だろオッサン……」

 

 そんな小五郎はといえば、美緒から何か一言をと頼まれて、嬉しそうにしながらレンタカー生活とオサラバだと言い、会場内に一笑いを巻き起こした。そんな会場内で、子供達は旗を上げていなかった。何せ歩美の中ではまだ25秒だったのだ。それを彼女が呟けば、元太はまだ12秒だったと言って、子供達を驚愕させた。

 

 そんな修斗でも予想外な結果に終わった余興から暫くして、沢口に呼ばれて如月、風間が壇上へと向かっていく。

 

「……あら?亮吾は向かわないのですか?」

 

「ボクはまだ見習いだからね、上がる資格はないさ」

 

 そこで会場が闇へと染まり、壇上に登った司会の男にのみスポットライトが照らされる。

 

「皆さん!此処で、本日のメインゲスト。我が国が誇る日本画の巨匠!!如月峰水先生の作品を、ご紹介したいと思います!!」

 

 そう言って、B棟側の窓でスライドショーが始まった。

 

 桜と富士山から始まり、菜の花と富士山、夕焼けに染まる富士山……彼が富士山のことをこよなく愛している事が分かる画像だった。

 

 そうして最後の同じ構図の時間帯が違うらしい2枚を流したところでスライドショーが終わり、このツインタワービルのオープン記念にと、如月が寄贈したと言う富士山の紹介が始まる。

 

「ご紹介します!!──『春節の富士』です!!」

 

 そうしてゆっくりと幕が開かれていき、会場内の誰もが期待する中──修斗の目が、翳りを帯びる。

 

 その壇上のライトが点灯され、照らされたその富士の絵──それは、全ての人に恐怖を与えた。

 

 

 

 白く染まるその富士の絵。それを別つかのようにして──美緒が、宙吊りにされていたのだから。




3件目の事件発生及び北星家現当主にして修斗達兄妹の父親、チラ見せ回。

因みに、修斗と父親は瓜2つの設定ですが、彰くんは特に決めておりません。敢えて決めるなら、目元は柔らかく母親似。修斗くんは吊り目気味、ですかね?
※あくまで作者の趣味に基づいての想像です。どうぞ、皆様の想像を正解として下さいませ。

次回投稿がまたいつになるか分かりませんが(頭の中に流れる映像や画像を文章化していますので、映像が流れないと止まってしまいます)、気長にお待ち下さい。

出来れば私自身が映画を見た後にでも書きたい…でも哀ちゃんへの心配で震える私の心よ……。

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