とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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大変お待たせしました!!

実はこの話、1月に少し書き、2月の後半で半分を書き、今日、全部書き終わりました!!

さて、色々お話しすることはあるのですが、取り敢えず今更ながらに今年の映画のことについて、お話ししてよろしいでしょうか?よろしくない方は飛ばして下さい。



今年の犯人さん、安室さんの首に爆弾を着けれるなんて……チンパンジーか何かですか!?(オイコラ)

あのゴr、安室さんに爆弾を付けれるなんて……なんて、恐ろしい人!!

まあ、PVを見た感じでは、風見さんを掬い上げようとして身動きを取れないところを……と、言う感じなのかもしれないですね。それでも、片腕で風見さんを掴んだままでいられて、何だったらティータイムの話の中では、腕一本で風見さんを投げ飛ばせる程の自信がある彼に爆弾を付けれるなんて、本当にすごいです。

高木さんと佐藤さんの結婚の話でもあるそうですが、この話の中でその映画を書くときには、さてさてどうなりますでしょうね……松田さんも、萩原さんも、この話の中では生きてるんですよねぇ……。

それでは、どうぞ!!


第38話〜天国へのカウントダウン・2〜

 ツインタワービルでの出来事から数日後、咲を含めた少年探偵団と博士、園子、毛利一家は、目暮からの呼び出しに答え、警視庁にやって来ていた。全員が集まり、高木と伊達、佐藤、彰を除いた捜査一課も集まり、会議室を貸し切り、話が始まる。

 

「君たちに来てもらったのは他でもない。実は、ツインタワービルのスイートルームで、刺殺体が発見された」

 

 目暮の開口一番の言葉と共に千葉がホワイトボードに貼り付けた写真の男は、間違いなく西多摩市の市議会議員、大木だった。

 

 先日、初対面した相手とはいえ、その相手がいきなり死んだと言われ、その場の全員が目を丸くした。目暮がコナンたちを呼んだのも、岩松が美緒に頼んだその場所に彼らがいたことを聞いたからだ。

 

「ちょっと待て。それじゃあ、なぜ修斗がこの場にいないんだ?」

 

 咲の言葉に、コナンの目が細まる。

 

「もしかしてそれって……彰警部がここにいない理由も、関係してるんじゃない?」

 

「大正解だ、坊主」

 

 松田が目暮と共に視線を千葉に向ければ、千葉はその手に持つ捜査資料を開き、説明を始める。

 

「大木氏の死亡推定時刻は、午後10時から午前0時の間です。凶器はナイフと思われますが、現場には残っていません。……ただ、大木氏の手には、2つに割られたお猪口が握られてました」

 

「お猪口?」

 

「コレです」

 

 小五郎の問いに反応し、白鳥が保存された黒の斜め線が入った白のお猪口を彼の目の前に晒した。

 

「このお猪口は割と高価な品でな、酒好きの大木氏が日本酒と共に持ち込んだ可能性が高く、犯人を示すダイイングメッセージではないかと、我々は考えている」

 

「つまり警察は、容疑者が、あの7人の中にいると考えているわけっスね」

 

 千葉は如月、美緒、風間、原、沢口、亮吾、そして修斗の写真を順々に貼り付けていく。

 

「犯罪捜査規範第14条。警察は、被疑者、被害者その他事件の関係者と親族その他特別な関係にあるため、その捜査に疑問を抱かれる恐れのある時は、上司の許可を経て、その捜査を回避しなければならない──修斗が被疑者候補として上がった以上、アイツはこの捜査から外れる許可を上からもらったってわけだ」

 

「言っておくが、修斗がいなかったとしても、もう1人その中に兄弟がいるから、結局は外れていたと思うぞ」

 

 松田の言葉の最後を訂正するために咲が口を出せば、松田は深い溜息を吐き出した。

 

「彰の兄妹共、巻き込まれすぎだろ」

 

 松田の一言に咲は困った様に眉を寄せる。別に兄妹全員、巻き込まれたくて巻き込まれているわけではないのだと。

 

「現場は、まだオープンされていないビルということもありましてね……」

 

 そこで小五郎は手を叩き、閃いた推理を語る。曰く、お猪口の『ちょこ』は『チョコレート』のこと。つまり、犯人はチョコレートが好きな原であると。しかしこの推理に猛反発するのは少年探偵団3人組。ただし、その反対理由が自分達にチョコレートを渡してくれた良い人だからというだけ。白の根拠にはならないが、警部からも白の理由を指摘される。

 

 警察はこの会議を開く前、7人共にアリバイ聴取をした所、原と修斗のみにアリバイがあったのだ。

 

「ああ、北星家は夜の間は監視カメラが作動してるから確認したんだな?」

 

「そういうことだ。お陰で修斗が屋敷から出てないことが確認出来たわけだ」

 

 それを聞き、咲は胸を撫で下ろした。修斗のアリバイがないままでは、心配過ぎて寝られない日が続いたことだろう。

 

「動機については、どうなんじゃ?」

 

「ただいま調査中ですが、大木氏は西多摩市の市議と言っても、実質的には市長より力を持っていたようです」

 

「今度のツインタワービル建設の際も、本来は高層建築が建てられない市の条例を、強引に改正させたそうです」

 

 目暮と白鳥の言葉を聞いた蘭は納得した様に話す。美緒が困った様子を見せながらも断りきれなかったのは、それが理由だったのかと。それと共にコナンが口を開く──美緒が付けていたブローチが、割れたお猪口に似ていると。

 

「ちょっと待て!?あの美緒くんに限ってっ」

 

「──いや、犯行のしやすさという点では、彼女が1番の容疑者だ」

 

 白鳥が次に口を開き、目暮の説明を引き継ぐ。

 

「なにしろ、大木さんが泊まったB棟67階の1階上、68階は彼女の住まいになっていますから」

 

 そこで今度は園子が声を上げる──お猪口が、日本画を描く時の小皿に似ている、と。

 

「私のパパ、趣味で日本画を描いてるけど、胡粉を乳棒で磨り潰す時に使う乳鉢みたい!」

 

 これにより、お猪口と如月の線も繋がった。しかし反対に、お猪口との線が繋がらない風間、亮吾、沢口の3名。そこでコナンは隣に座る白鳥に問いかける。

 

「白鳥さん。風間さんが森谷帝二の弟子って本当?」

 

「本当だよ。ただし彼は、芸術家タイプの森谷と違って技術家タイプで、拘りは殆ど無いみたいだね」

 

「沢口ちなみさんについては、父親が新聞記者で、彼女が大学4年の時に過労死している」

 

「過労死……」

 

 咲が思わず修斗の未来もそちらに傾きそうで憂いを浮かべた。それでも彼女の優秀な耳は、目暮から溢れる『沢口と大木の関連性はない』という言葉を聞き逃さなかった。

 

 そんな彼女の姿を反対側にいたからこそ気づいた哀は呆れ顔を浮かべた。さらにその彼女の横にいたコナンは、哀と咲の表情に気付かないまま、捜査資料から飛び出た現場写真をこっそりと確認する。

 

 大木の遺体はクローゼットに背を預けて座り込んだ状態で亡くなっており、腹部からの出血からそこを刺されたことが原因での失血死である事が窺えた。しかし、コナンが気になったのはその隣──大木の血痕が派手に飛んでいるのだが、その飛沫はクローゼットの下側にしか飛んでおらず、その形も、まるでYを横にして、上と横を90°測ったかの様に真四角の形をしている。

 

「──おかしいと思うだろ?」

 

 そこでハッとコナンが気づき後ろを仰ぎ見れば、松田がニヤッと笑ってコナンを見下ろしていた。

 

「松田刑事……全く。コナンくん、これは、子供が見るものじゃないよ」

 

 白鳥は呆れた様に名前を呼び、コナンから現場写真を取り上げてしまう。

 

(……それにしても、どうしてジンとウォッカはツインタワービルに……待てよ!?)

 

 そこでコナンは気づく。お猪口から連想できるもの──そのうちの1つに、酒もあることを。

 

「──おい灰原。まさか奴らがっ」

 

 松田が移動したことを確認し、コナンが小声で隣の哀に問い掛ければ、哀は首を振った。

 

「……確かに、彼らのコードネームはお酒よ。でも、こんなストレートなメッセージを残させる様なヘマ、彼らはしないわ」

 

 その言葉は一理あり、コナンも納得して引き下がる。そこで反対側からの声に気付き見てみれば、子供たち3人と咲が話し合いをしている様子が見られた。

 

 

 

 後日、光彦が隠れながら急ぎ米花駅の出入り口へと向かえば、先に待ち合わせ場所に着いていた歩美と元太、咲がそこにはいた。

 

「早いですね、お三人共!」

 

「ワクワクしちゃって!!」

 

「コナンを出し抜けると思ったら、嬉しくてよ!!」

 

 そこまで聞き、咲は苦笑を浮かべて口を開く。

 

「あ〜、それなんだがな……残念なお知らせが1つ──後ろ、見てみろ」

 

 咲からの言葉に、3人が顔を硬直させてゆっくりと振り向けば──コナンが呆れ顔で4人を見ていた。

 

「こ、コナンくん!?」

 

「ど、どうして分かったんです!!?」

 

「こうなるだろうとは思ったが……1%ぐらいは、もしかしたら出し抜けるんじゃないかと楽しみにしていたのに……」

 

「おい咲、まさかその為にコイツらに協力したのか?」

 

 コナンからのジトっとした目にも負けず笑顔で頷き返せば、もう彼は何も言えなかった。

 

「たくっ、どうせコイツら、今度の事件を自分らだけで捜査するって言えば、俺に反対されると思ったんだろ?」

 

 コナンの推理通り、彼らは確かにそう考えて、コナンを抜きに捜査しようとしたのだった。

 

 結局、彼らの行動力に免じて、コナンは捜査を承諾すると共に勝手に動くなと苦言を呈せば、子供たち3人は満面の笑顔でそれを了承する。しかし咲とコナンにはその場凌ぎの返事にしか聞こえなかったため、2人して思わず呆れ顔を浮かべた。

 

「で?今日は誰んとこ行くんだ?」

 

 コナンが問い掛ければ、反対側に座っていた歩美、咲、光彦が順に答える。

 

「風間さんと如月さん、朝凪さん。明日は原さんのところ!!風間さんの自宅は世田谷にあるんだけど、西多摩駅一つ手前のあさひ野に仕事部屋のマンションを持ってて、ビルのオープンまでそっちにいるみたい!!」

 

「彼と仕事仲間でもある朝凪さんも、夕方までは風間さんの仕事部屋にいるということだったから、今日まとめて話を聞くことになった」

 

「如月さんは独身で、3年前、あさひ野にアトリエを兼ねた家を建てたそうです」

 

 彼らの情報収集力にコナンが関心を示す。そんなコナンの様子を見て咲が自慢するようにニヤリと笑う。その隣で、歩美は光彦に顔を向けた。

 

「こうなるんだったら、灰原さんも来ればよかったのにね!」

 

 その意外な名前にコナンが驚き、聞き返す。それに光彦と歩美が頷き、彼女が部屋の掃除のためにパスしたことを伝えられ、コナンはそれに違和感を抱くも、何も言わない。

 

 彼らが乗る電車は、富士山をその身に移しつつ、目的地へと向かい続けた。

 

 

 

 警視庁にて、松田は1人、証拠品の1つである割れたお猪口と向き合っていた。

 

 彼がなぜそれらと向き合っているのか──それは、彼の中に違和感が残っているからだ。

 

(……やっぱコレ、どう考えたって不自然だろ)

 

 証拠品を色々点検し、ジッとお猪口の割れ目を検分する。破片は確かに幾つもあるが、彼の違和感は、お猪口の綺麗(・・)な割れ目にあった。

 

「ガイシャのダイイングメッセージって考えは納得できるが……死ぬ間際っつうのに、こんな綺麗に割る余裕、あるか普通」

 

 松田は鑑識に礼を返し、鑑識部から退室する。そのまま事件現場へと向かうため、廊下から駐車場へと向かう。その途中、声を掛けられた松田は振り返った。

 

「あれ?松田刑事、どちらに行かれるんですか?」

 

「ん?……なんだ、白鳥か」

 

 松田に声を掛けた白鳥は1人の様で、松田はその姿を確認すると、また歩き出してしまう。

 

「現場に行ってくる」

 

「お一人でですか!?ちょ、まっ!?」

 

 白鳥の静止を気にする事なく歩いて行ってしまう松田に、白鳥は慌てて彼の後を追い、現場へと向かうこととなった。

 

 

 

 15時25分頃、コナンたちはあさひ野駅に到着した。

 

 駅を出てすぐ、事前に場所を聞いていた光彦が住所のメモを確認し、富士山とツインタワービルの真反対に山に、如月の家があるのだと指を差した。しかしその山の距離を考えれば、駅近くに仕事場があるという風間の方が近く、先に風間と亮吾を優先することにした一行。

 

 風間が住むマンションに辿り着き、亮吾が扉を開けて迎え入れ、リビングへと足を踏み入れた。

 

 リビング自体、設計図や模型、パソコンなど色々と置かれており、コナンはそのパソコンに移るデータから、それがCADシステムであることを理解し、声音が自然と上がった。

 

「わぁ!コレってCADシステムでしょ?設計は全部コンピューターでやるんだよね?」

 

「ほぉ?よく知ってるじゃないか。今はもう、製図版を使う人はいないだろうね」

 

 風間とコナンの話についていけない子供たち3人。代表して光彦が『製図版」とは何かと聞けば、風間と亮吾から思わずという様に笑いが起こる。

 

「そうか!逆に君たちは知らないのか!!」

 

「昔はね、大きな板に同じぐらいの紙を貼り付けて、鉛筆と定規で建物の設計をしてたんだよ?」

 

 そう言って、亮吾は大きさがわかる様に指を使って大きく四角を作れば、感心した様な声を出す光彦と、よく分かっていない元太。そんな2人を見て、風間は子供たちに来訪の理由を尋ねれば、元太から指名された光彦が戸惑いつつもペンとメモを取り出した。

 

「実はですね、風間さん、朝凪さん。僕たち…………中々、良いお部屋じゃないですか!!」

 

 しかし緊張のせいか思った様に言葉が出てこず、光彦は本題から全く関係のない話を振ってしまい、コナンと元太は思わず体から力が抜け、咲は頭を抱えた。その反対に、歩美は風間達に真っ直ぐに目を向け、言い放つ。

 

「私たち、少年探偵団なんです!!」

 

「ん?」

 

「少年探偵団……??」

 

 大人2人が鳩が豆鉄砲を食ったような様子を見せる。それでも歩美は気にせず、本題に入った。

 

「大木さんが殺害された事件を調べてるんです!!」

 

「君たちが?」

 

 思わず訝しげにする亮吾に、風間は肩を軽く叩いた。

 

「まあまあ、亮吾くん。聞いてあげようじゃないか……さ、なんでも聞いてくれたまえ!小さな探偵くんたち?」

 

 風間は頬杖を突き、微笑を浮かべて歩美に目線を合わせた。亮吾も風間が言うならと、ため息を一つ吐いて付き合うことを決めた様に歩美を見る。

 

「それでは……亡くなった大木さんのことを、どう思っていましたか?」

 

 光彦が改めて問い掛ければ、風間は居住まいを正し、光彦と視線を合わせる。

 

「お、ズバリきたね!ん〜……下品なオッサンかな?でも、彼が市の条例を改正してくれたお陰で、仕事をもらえたんだから、その意味では感謝しているよ」

 

「そうですか……朝凪さんは?」

 

「ああ、ボクもか。う〜ん、下品というか、色んな意味を含めてダラシない人だとは思ったよ。ただまあ、お陰で仕事を近くで見れるチャンスも増えたから、プラマイゼロ……は難しいけど、良かったとは思うよ」

 

「設計の段階で、なにか大木さんと揉めたことはありませんか?」

 

「ん〜、大木さんとは何もなかったなぁ……」

 

 風間のその言い方に引っ掛かりを感じ、咲は眉を顰め、コナンがツッコむ。

 

「じゃあ他の人とは揉めたの?」

 

「そ、そういう意味じゃ……」

 

「──貴方は違うかもしれないが、朝凪さんは揉めていたよな?」

 

 咲が風間の横に許可をもらって座っている亮吾に目を向ければ、亮吾は一瞬、息を呑んだ。

 

「……」

 

「朝凪さん、あの時、パーティ会場で修斗さんに声を荒げてたけど、それはなんで?」

 

「……ああ、そうか──キミたち、アイツの知り合いだったね」

 

 コナンからの問いかけに、眼鏡越しに亮吾の目が細まった。

 

「……気に食わないからだよ、アイツの事が。でも別に、アイツだけじゃないよ──本家に住む奴らは、全員気に食わない」

 

「……それは、私のことも気に食わない、と?」

 

 咲がキュッと服の裾を握りながら問い掛ければ、亮吾は首を横に振る。

 

「キミのことは聞いているよ、修斗からね。流石にキミを嫌い判定したら、ボク相当大人気ないよ?」

 

「じゃあ、何故ですか?」

 

 光彦が再度問い掛ければ、亮吾は憮然とした様子を見せる。

 

「……キミたちに話すような事じゃないよ。少なくとも、大木さんの事件と関係ない、家の問題だからね」

 

「亮吾くん……すまない、この質問はここで終わりにして、別の質問に移ってもらって構わないかい?」

 

「あ、はい。えっと……」

 

 そこで歩美は風間と亮吾の間にあるサイドテーブルに置かれた、子供の写真に気付いた。場所は遊園地のようで、その子供は満面の笑みでカメラ越しの誰かに手を振っている。

 

「ああ、僕の一人息子だ。可愛いだろう?夜、亮吾くんも帰った後とか、どうしても声が聴きたくなってね。寝てるのを承知で電話することもあるんだ。親バカだろ?」

 

 そこで風間が初めて破顔し、コナンも咲も、思わず目を丸くした。その表情が、今まで見てきた彼の中でも一際違う──本物の感情に見えたからだ。

 

 

 

 事件現場に辿り着いた松田と白鳥。しかし、現場は既にあらかた捜索がなされており、白鳥からは重要な情報は内容に見受けられる。それを松田に伝えようと振り返れば、松田は既に血痕が拭われたクローゼットを見つめていた。

 

「松田刑事?どうされたんですか?」

 

「……アンタ、コレおかしいと思わねぇか?」

 

 松田は捜査資料として、現場写真を白鳥に見せる。横Y字の血痕の、真っ直ぐな線の部分を示して問い掛ければ、白鳥は顎に手を当てて考えると、首を傾げた。その反応に松田は深くため息を吐き出した。

 

「アンタ、それでも彰たちと同じ警部かよ……」

 

 その言葉は白鳥には馬鹿にするかのように聞こえ、眉間に皺を寄せて松田を見返す。

 

「これでも僕は、貴方の上司にあたるのですが?」

 

「ハイハイ……で、本当にわかんねぇのかよ」

 

 松田が問いかければ、白鳥はジッと血痕を見つめる。

 

「ふむ……やはり至って普通の飛び散り方に見えますが……」

 

 それを聞き、再び溜息を吐き出すと、指を2本立てて白鳥に分かりやすく説明する事に決めた。

 

「おかしな所は次の2点。1つ目、ガイシャの手に握られていたお猪口」

 

「アレは大木氏の持ち物であり、ダイイングメッセージでは?」

 

「じゃあアンタに聞くが、お猪口は手に持っていたとして、犯人に腹を斬られた状態でそのお猪口を割るとしたら、どうやって割るんだ?」

 

 その問いに白鳥は訝しげにしつつも、その手に自身のメモをお猪口の代わりとして持った。

 

「それは、こうやって床に叩き割るだろ?もしくは斬られる前に……」

 

 そこでハッと彼は気付く。松田もそれに気付いたようで、ニヤリと悪どい笑みを浮かべた。

 

「そう、ガイシャがそれをダイイングメッセージとして割ったと考えれば──あのお猪口の割れ目は、逆に綺麗すぎるんだよ」

 

 お猪口自体、破片がなかったわけではない。しかし、真っ二つに割れたその割れ目は、被害者が死にかけながらに残すダイイングメッセージにしては綺麗に割れており、それが逆に松田には違和感に感じるものだった。

 

「2つ目、このY字を横にしたかのような血痕……特に、この直角部分だ」

 

 この時点で、白鳥は松田の話に聞き入る様に、姿勢を正して松田が示す血痕を見つめていた。

 

「ガイシャの傷口からして、血飛沫はもっと派手に飛んだはず。だが実際の現場は見ての通り、直角90°に血の線が垂れている──まるでここに『何か』があって、その下まで飛沫が飛ばなかったかのように、な」

 

 その言葉に白鳥はハッと目を見開き、納得した様に数度頷くと、思考し始める。

 

「この血痕の見た限りの面積から言って、写真とかではないですね……あっ!!」

 

 彼はそこで、何かに気付いた様に広さを確認して──理解する。

 

「絵画ですよ!!この面積であれば、絵画の可能性があります!!」

 

「ああ……そして、この建物のオーナーである常盤の嬢さんは、日本画家の爺さんの絵を買い占めたって話だったな」

 

「ま、まさか……その絵画が、ここに!?」

 

 白鳥の顔面が青白いものへと変わる。日本画家の巨匠でもある峰水の絵が、血塗れの状態で誰かに盗まれた可能性が出てきたのだ。

 

「如月氏の日本画が血だらけということさえ、考えたくもない事なのに、まさか……」

 

「それだけじゃねえかもしれないぜ?」

 

 白鳥の蒼白の顔に向けて、松田は容赦の欠片もなく、告げた。

 

「血だらけの絵画なんて、盗んだ所で誰が買い取るかよ。それでも盗むっつうことは、それが残ってたら困る事があるって言ってる様なもの──つまり、如月の爺ィが犯人の可能性もあるんだぜ?」

 

 

 

 風間の仕事場から外に出て、次の目的地の如月邸に着く頃には、既に空は夕焼け空へと変わっていた。

 

 如月の許可をもらって庭から家へと上がり、彼の案内で仕事場へと入室したコナン達。しかしその如月本人は、カーテンの閉まった仕事部屋で、絵を描き始めてしまう。その空気に子供達もフローリングの床に正座で座って終わるのを待つが、黙々と描き続ける姿に終わる見通しが見えず、元太は光彦を肘で軽く突き、話を促す。突かれた彼は思わず再度確認して、元太が頷いたのを見て腹を括り、如月に声を掛けた。

 

「あの……僕たち、少年探偵団なんです」

 

 その一言に、筆の動きが止まった。

 

「それで、大木さんの事件を──」

 

「子供が警察の真似事なんかするんじゃない!!!」

 

 唐突な如月の雷に、子供達は身体を震わせ、後ろへと思わず仰け反った。咲も、耳にヘッドフォンが掛けられているためダメージは全くないにも関わらず、思わず耳を抑えるほどだった。

 

 そんな子供たちから視線を外さず、如月は向けていた背を翻し、改めて真正面から子供たちを見据えて話す。

 

「だがまあ、手ぶらでも帰りづらかろう。お土産に良い物をやろう」

 

 そこで彼は新しい筆を持ち、5人分の色紙にそれぞれの似顔絵を描くと、それを子供たちに渡した。如月邸を出る頃には、既に空は黒に染まってしまっていた。

 

「……絵を描いてもらったのは、嬉しいけど」

 

「事件のこと、聞けなかったな……」

 

「やっぱり、警察じゃなきゃダメなのかな……」

 

「そーいうこと……もう6時だ、帰るぞ……咲の体調が戻り次第、な」

 

 コナンはそうしてニヤニヤと、隣で蹲る咲を見下ろす。その咲はといえば、屈辱を受けたかの様に身体を震わせて、鋭くコナンを睨んでいた。

 

「あの咲さんにも、出来ないことってあるんですね……」

 

「意外だよなぁ……まさか、正座の所為で足が痺れて、歩けないなんてよ」

 

「うるさいぞ元太……ここまで歩けただけマシだ……意地で歩いたんだ。本当にちょっと待ってくれ頼むから……」

 

「咲ちゃん、大丈夫?」

 

「大丈夫……じゃない。なんでお前たちはそんなに平気なんだ……」

 

 彼らは途中で足を崩したりして休憩を取っていたが、それをして良いと知らなかった咲は、休む事ができないほどに足が痺れてしまい、窮地に陥っていたのだった。

 

 

 

 ツインタワービルに来た次いでにと、美緒や沢口に話を再度聴き、白鳥の車で警視庁へと戻る道中の松田。彼は黙ったまま腕を組んで考え込んでおり、白鳥はそんな彼を視界の端でチラリと見た後、話しかける。

 

「……松田刑事は、容疑者の皆さんの中で、誰が最有力候補だとお考えですか?」

 

「……アンタはどうなんだよ」

 

 逆に松田から問い返され、白鳥は少し考えて、答える。

 

「……犯行が1番に可能で、理由もあるのは常盤さんです。ただ、あの空白の場所に、常盤さんの言う通り(・・・・・・・・・)に如月氏の掛け軸があったのなら──1番はやはり、如月氏かと……」

 

 その答えに、松田の口角が上がる。

 

「ああ、オレも全くの同意見だ……ただ、あの爺ィが犯人だと断じる理由と証拠が、今の所それしかねぇ……」

 

「ええ、流石に証拠が不十分です。家宅捜索に入るにしても、令状がなければ……」

 

「その令状も、直ぐには取れねぇだろうがな」

 

 舌を打つ音が聞こえそうなほど、松田の眉間に皺がよる。なんなら舌を打つ音が白鳥の耳にはキチンと入っていた。かなり柄の悪い松田の態度に、白鳥は思わず苦笑を漏らす。

 

「松田刑事、顔が恐ろしい程に凶悪になってますよ」

 

「オレの顔は元からこれだ」

 

「はいはい……」

 

 彼ら2人が乗る車を、ツインタワーに照らされた富士山が、見送るように横切った。

 

 

 

 翌日、朝から待ち合わせ場所に向かうコナンに、博士から連絡が入る。内容は昨夜のこと、博士が自身のいびきに寄って起き上がれば、その隣で寝ていたはずの哀の姿が見えず、彼女の研究室である地下に向かってみれば、その中で彼女が何処かに電話を掛けていたらしい。

 

「ほれ、この前のキャンプの時、元太くんが言ってたろう。アレはやはり、電話を掛けてたんじゃないかのぉ?」

 

「けどよ、今のアイツには電話する相手なんかいないはずだろ?」

 

 彼女の家族は全員亡くなっており、同い年で組織の仲間でもある優も、今は身体が縮み、咲として暮らしている。キャンプの時も、彼女はテントの前で哀の帰りを待っていたのだから、電話の相手でないことは確実だ。

 

「ワシはあの子を信じとる。だが、黒ずくめの男たちへの恐怖が、彼女を組織に寝返らせた可能性が無いとも言えない……」

 

 その言葉は一理あると、コナンも考える。しかしそんな博士を安心させるために、コナンは続けた。

 

「大丈夫だ、博士。何も心配しなくていいから……じゃあな」

 

 そこで彼はイヤリング型携帯電話の通話を切り、昨日とは違う待ち合わせ場所に辿り着く。そこには既に灰原を含めて全員が揃っており、コナンが1番最後であることが分かる。

 

 子供たちから遅いと言われ、歩美からは今日は哀も参加する旨が伝えられる。

 

「良いでしょ?……私だって興味があるもの。原さんのゲームソフト」

 

「……確かに。ゲームはした事がないから、次いでに試させてくれたりしないだろうか」

 

 哀からの意外な言葉にコナンは目を見開き、咲の言葉に子供たちが悲鳴にも聞こえる叫び声を上げ、原の家に辿り着くまで、永遠と彼女にオススメのゲームを話し、彼女もそれを頭に叩き込んでいた。

 

(今度、修斗に強請ってみるか……いや、瑠璃の方がいいな。この手のことはアイツの方が頷きやすい)

 

 頭の中で瑠璃が満点の笑顔で了承を出し、ゲームソフトとゲーム機を差し出す姿さえ浮かび上がるほど、想像が容易かった。

 

 原が住むマンションに辿り着き、彼の住む407号室を見つけた。

 

「407号室……ここです!」

 

 光彦が代表してチャイムを鳴らすが、原が出てくる様子はない。そこでコナンが扉を見てみれば、微かに扉が開いていた。

 

 その異常事態に──咲の肌が粟立つ。

 

(なぜ……ドアが、開いたままなんだ?)

 

「不用心ですね……」

 

 光彦が扉を開けよう一歩前に出るのを、咲が止める。

 

「?咲さん?」

 

「……おい、どうした?咲」

 

 光彦とコナンが声をかけるが、彼女は口元に人差し指を立てて、静かにする様に返す。そして代表してそっと扉を開け、中を覗き込み──リビングに倒れ込む、男の姿が見えた。

 

 顔は反対を向いていて見えない。しかし、状況から見て彼は──。

 

「……警察と救急車」

 

「はい?」

 

「警察と救急車だ──原さんが、中で倒れているんだ!!」

 

「!!」

 

 その言葉に子供たちは顔を青ざめさせ、コナンは勢いよく扉を開き、中へと突入する。

 

 リビングに倒れ込む、オレンジの服を着た原。顔は左を向いており、その胸からは大量に出血されており、それが死因であることを如実に表していた。

 

(拳銃で胸を!?ほぼ即死だ!!……!?)

 

 そこでコナンは、彼が右手に握る銀のナイフに気づいた。テーブルにはチョコレートケーキが置かれており、そのナイフにもケーキが付着していることから、どうやらこれを食べようとしていた事が窺える。また、彼の視線の先には、彼が持っていたペンが折れた状態で飛ばされており、燕の目が彼を見つめている。どうやら撃たれた際にペンも折れてしまった様だ。

 

 そんな彼の止まった心臓の横には、2つに割れたお猪口。この事件が──大木殺害の犯人と、同じであると告げていた。




オリジナル展開を挟みつつ、ちょっと映画の内容を変えてみました。まあ、映画の内容としてはそこまで重要でないので、推理に響くことはありません……ただし、色々ばら撒いたモノは映画が終わって設定を書いた後に、オマケとして投稿しようと思います。

本当は、後書きにオマケとして載せようかと思ったのですが、思ったより内容量が多そうなので、私の中で変更されております。楽しみに待っていただけると嬉しいです。

それでは、ここまでお読みいただき、ありがとうございます!!

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