とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

81 / 83
大変お待たせしました!!

実はこの話、先月には投稿しようと思っていたのですが、思った以上にリアルが忙しく、時間が取れませんでした……。

そうしてようやく時間が取れたので、なんとか!!深夜ではありますが!!!完成させました!!!

黒の組織がメインとなる、今回の映画『天国へのカウントダウン』編……スタートです!!

※亮吾さんの一人称と話し方、職種紹介部分を少しだけ変えています。それ以外はさほど変えてはいません(順々に時間があるときに、修斗くんの一人称を今回のものに変えていきます)

※常盤さんへのブローチの指摘部分を少し変えています。推理には関係ない範囲です。


天国へのカウントダウン編
第38話〜天国へのカウンドダウン・1〜


 少年探偵団たちを乗せた博士のビートルは、高速道路に乗って目的地のキャンプ場へと向かっていく。その先に見えた大きな富士山は、空と同じ色を子供たちに見せ、その目を輝かせる。

 

「うわぁ!富士山だ!!」

 

「綺麗ですね!!」

 

「やっぱ日本一の山だぜ!!」

 

 そこでふっと横を見た歩美は、真横を通り過ぎていく大きなタワービルが2つ繋がった建物を見つけた。そのビルがなにかと呟けば、博士もそのタワーを確認し、機嫌よく説明する。

 

「ああ!アレは西多摩市に新しく出来たツインタワービルじゃ。高さ319mと294mの、日本一ノッポな双子じゃよ!」

 

 それを聞いた子供たちは大喜びで、キャンプ帰りにでも寄って行こうと言い始める。それに少し苦笑を溢しながらも、回り道になるが寄ることを了承する博士。それで更に大はしゃぎを始める子供たちの横では、哀は外の景色を見つめ、咲とコナンはそのタワーを見つめていた。

 

(西多摩市か……前の市長の犯罪を俺が暴いたことで、森谷帝二が俺に挑戦してきたんだっけ)

 

 色々あって既にずいぶん昔のことのように感じるほどの、しかし大事件となってしまった挑戦状のことを、どこか懐かしく思うが、しかしそのコナンの目の前にいる子供たちのはしゃぎ声に、コナンは空笑いを浮かべる。そんなコナンの横で、咲は修斗の事を思い出していた。

 

(……修斗のやつ、日にち的には明日、あそこに用事があるって言っていた気がするが……まあ、いいか)

 

 咲は呑気にもそう考える。修斗の苦労に関しては、彼女は心から応援するしか出来ないためだ。

 

(明日会う事になったら、付き合ってもらう事にしよう)

 

 そう考えた直後、資料を纏めていた修斗が背筋を震わせたのは、言うまでもない事である。

 

 

 

 アートキャンプ場に辿り着き、ご飯の準備などを済ませて夕ご飯を全員で囲み、楽しく食事が進む。そこで1番に食べ終わった光彦が終わりの掛け声と共にお皿を置けば、右隣に座っていた元太がそれを見つめ、苦言を呈す。

 

「なんだよ、ご飯粒残ってるじゃねぇか!!米粒1つでも残すと罰が当たるって、母ちゃんが言ってたぞ!!」

 

「その通りじゃ!!」

 

 元太の言葉に続き、博士も諭すように声を掛ける。

 

「米は農家の人が88回、手間を掛けて作るんじゃからな!!」

 

「88回?」

 

「……『米』という漢字を分解すると、漢数字の88になるだろ?」

 

 咲が博士の右横から口を挟めば、元太は理解できていないようで首を傾げるが、その横の歩美と光彦は理解できたような頷く。

 

「それで88歳の祝いを『米寿』と呼ぶんじゃ!ついでに教えると、77歳を『喜寿』で、99歳を『白寿』じゃ!……『喜寿』はなぜ77歳か分かるかな?」

 

 博士は左横に座るコナンに目を向けて尋ねれば、当然のようにコナンは答えを返す。

 

「『喜寿』の喜って総書体が『()』に見えるから、だろ?」

 

「『白寿』は『百』から『一』を取ると『白』になるから」

 

「紹介はされてないが長寿祝いは他に、中国の唐時代の詩人である杜甫の詩の一節の『人生七十古来稀なり』から70歳の『古稀』。80歳の『傘寿』と90歳の『卒寿』は分解した時の漢数字からだな」

 

「へ〜!いつもの事ながら御3人はよく知ってますね……」

 

「オメェら、本当は歳誤魔化してんじゃねぇか?」

 

(ハハッ、当たってやがる……)

 

 冗談混じりだっただろう元太の言葉に、コナンは愛想笑いを浮かべ、哀は誤魔化すように水を、咲は残っていたご飯を飲み込んだ。そこで話を逸らすかのように、博士がいつものクイズが出される。

 

「44歳はなんというか、分かるかな!?」

 

 博士からのそのクイズ、頭脳は大人なコナンたち3人も目を丸くして博士を見た。答えが浮かばない彼ら3人。彼らが分からなければ子供たちが知る由もない。鸚鵡返しで光彦が呟くと、博士は手で右手を1本と左の3本を立ててヒントを告げる。

 

「ヒントは漢字1文字にカタカナ3文字じゃ!!10はつけんでいいぞ!!」

 

 そのヒントを聞いて悩む子供たちと違い、コナンは博士の言葉を聞いて考え、呆れ顔。

 

「……博士。分かったけどこれ、すっげぇくだらねぇぞ??」

 

「そうかの?……で、哀くんと咲くんは分かったかな?」

 

 博士からの問いに哀は首を横に振り、咲も少し考えて同じく首を振る。子供たちも分からないから答えを、と声を上げれば、博士は上機嫌に答えを告げる。

 

「44は88の半分じゃろ?『八十八』は『米』、『米』は英語でライス、その半分じゃから『半ライス』じゃ!!」

 

 その答えを聞いたコナンはやはりと肩を落とし、哀は額を抑え、咲も頭を抱える。子供たちも不満そうな顔を下に向けるが、博士はそれを気にせず上機嫌にご飯を3杯、自分のお椀によそうのだった。

 

 その夜、全員が寝静まる頃、人が身動きする気配を感じて咲が目を覚ませば、元太が起き上がっているところだった。それを見てトイレだと直ぐに判断し、寝る際に着けている耳栓を取らずに再度、寝に入る。しかし少しして動く気配を感じて目を開ければ──隣で寝ていた哀が寝袋から起き上がっているところだった。

 

「……哀?どうした?」

 

「咲……なんでもないわ。起こしてごめんなさい」

 

「いや、大丈夫だが……」

 

「本当に気にしないで……ちょっと、お手洗いに行くだけだから」

 

 そう言って去っていく哀を見つめる咲。後を追う事も考えたが、組織が近くにいるとも考えづらい。そう頭の中で結論を出すも、結局彼女は起き上がる事にした。

 

(……このまま寝ても、戻る際の気配で結局起きる事になるだろうし、起きて待っていた方がまだいいか……)

 

 そこで耳栓を取る代わりに、近くに置いていたヘッドフォンを着けて外に出る。夜という事もあって気温は下がり、鳥肌を立たせつつも外で帰りを待てば、また少しして元太が帰ってくる。

 

「うぉ、なんでオメェ、起きてんだ?」

 

「目が冴えてしまってな。このままだと寝れないから、哀を待っておこうかと……」

 

 咲の返答にそこまで深く考えずに納得した元太は、そのままテントに入っていく。その間、哀が何処かに電話しているとは露も知らず、彼女は寒空の中、哀を待ち続け、戻ってきた哀から多少小言を言われると、そのまま2人は寝袋に入り、今度こそ眠りへと落ちた。

 

 

 

 ──黒いロングジャケットと長髪を風に靡かせ、優はビルの屋上から屋上へと走っていく。目的地に近くなれば、パイプなどを使って降りてゆき、目的地の港倉庫に辿り着く。

 

<やめて!!殺さないでぇ!!>

 

              <死ね!!人殺し!!>

 

      <た、たのむ、見逃してくれぇ!!>

 

(………)

 

 耳の奥から聞こえる残響に、彼女は顔を伏せた。しかし、彼女はそれでも、その震える手を押さえて鉄の塊を握り、目の前の大きく開いた入り口へと歩き出す──彼女は今から、生き残るために、『裏切り者』を殺すのだ。

 

(……ごめんなさい。でも私は、死にたくとも、死ねない──約束は、守りたい)

 

「だから──ごめんなさい、名も知らない人。私は、私のために、貴方を……殺す」

 

 彼女がそうして拳銃を向けた先にいたのは、どこか見慣れた女性(・・・・・・・・・)

 

 ──濡羽色のその髪に、所々白髪が混じった髪を下に一つ結びで纏めた女性は、ゆっくりと振り向き──白髪青目の見慣れた男性へと、変わってしまった。

 

「っ!!?」

 

 その人物を見て彼女は目を見張り、銃口を下に向けた。優はそのまま近づきたくとも、近づけない。なぜなら白髪青目の見慣れた男性(テネシー先生)見覚えはあるのに思い出せない(顔が見えない)女性が、憎悪の目を向けている──女性の顔は見えないのになぜそう思ったのか、優には分からない──からだ。

 

「ぁっ……」

 

 身体を震わし、いつもまにやら銃も手から無くなった。足から力も抜けて赤い海にへたり込み、そんな彼女の前に2人は立つ。海の水位が上がる中、周りから彼女への無数の怨嗟の声が聞こえてくる。耳を塞ごうとも、耳が良い彼女には聞こえてしまう──否、塞いだところで、血で汚れる真っ赤な手をすり抜けて、声が耳に響いてくる。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんない、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 

 彼女が謝罪の言葉を述べると共に、水位が下がり、怨嗟の声は聞こえなくなっていく。暫くすると声もなくなり、気配もなくなった。

 

 涙が浮かんだ目を開いてみれば、目の前には人の足はない。ゆっくりと、血だるまの顔を前に向けて──彼女の目の前に、心臓を撃ち抜かれた青白い男女が、彼女を見つめて口を開く。

 

 

 

 ──お前のせいだ、と。

 

 ***

 

 東都の高速道路を走る1台のポルシェ。その車内には、どこかと通話を取るウォッカと愛車を運転するジンがいる。通話を始めてから暫くしてウォッカは携帯を切り、笑みを浮かべてジンに報告を始める。

 

「分かりましたぜ、兄貴。西多摩市のツインタワービル──」

 

 ポルシェの隣を走るトラックの音が響く中、報告を聞いたジンの口角が上がる。

 

「──あそこは確か、天国に1番近いって」

 

「フッ、そいつは良い。あの世にもっとも近い──処刑台にしてやろうじゃねぇか」

 

 そのまま黒いポルシェは、夜の闇へと走り消えて行った──彼らの目的を、果たすために。

 

 ***

 

 キャンプからの帰り道、元太からの要望のもとに席替えをする事になり、元太が後座席、哀が前座席に移動した。これにより後ろの座席はかなり狭くなり、座れなくなった咲は元太の上に座る事となった。しかし元太はそれでも狭いようで、右隣の光彦にもう少し寄るように言えば、それが聞こえていたコナンが右隣の歩美に一声をかけて身体を密着させた。それに頬を赤くさせる歩美にコナンは気付かなかった。

 

 目的地のツインタワービルまで暫く道成を走る事となる。その時間に退屈さを感じた元太が光彦にゲームをしようと誘えば、それに乗った光彦は『30秒当てゲーム』を提案する。そのルールはとても単純で、心の中で30秒を数え、ストップウォッチを止める。それが30秒ピッタリであれば勝ちというゲーム。元太が博士と哀も誘うが、博士は運転中、哀は興味がないからと不参加を表明した。咲もこの手のゲームに興味はなく同じく不参加。そこで彼らは4人でゲームを始める事にした。

 

 最初はお手本として光彦が始める。彼は数を数え始め、30と言った瞬間にストップウォッチを止める。しかしタイムは約40秒。次にコナンが測ってみるが27秒。3人目の元太が止めてみれば、彼は59秒。

 

「壊れてんじゃねぇか?コレ」

 

「それは元太くんの方ですよ」

 

 笑顔の光彦からの言葉に、元太の上に乗っていた咲は頬を引き攣らせた。

 

 ツインタワーが目前に迫る頃、歩美がチャレンジを始めた。

 

「──…29…30!!」

 

 それと共に止められた時間は、30秒ジャスト。その事にコナンたちは笑顔を浮かべて褒め称え、歩美はどこか照れた様子で謙遜する。そこで元太が何か思い出したように立ち上がろうとする気配を感じ、咲は少し席を移動した。その事に笑顔でお礼を告げると、元太は昨夜から気になっていた事を問いかけた。

 

「そういえば灰原、昨日の夜中にどこ電話してたんだ?」

 

 その言葉に咲が訝しげな顔をする。彼女がそんな表情をしているとは知らず、哀は何処にも電話はしていないと否定。寝ぼけて見間違えたのではと誤魔化した。

 

 

 

 ツインタワービルに辿り着いた7人は、その真下からビルを見上げた。首を直角に曲げなければ見えないほどに高いビルに感嘆の声をあげる子供たち。

 

「雲の上まで伸びてるみたい……」

 

「ああ……」

 

 そんなコナンたちの目の前に、1台のタクシーが止まった。そのタクシーから降りる人の気配が気になり、咲が其方へと顔を向ければ、見知った人物の登場に目を丸くする。それは相手も同じのようで、タクシーから降りた2人の女性が後ろを振り向き──コナンを見つけた蘭が目を丸くした。

 

「コナンくんじゃない!!?」

 

「あれ、蘭ねえちゃん?どうしてここに!?」

 

 コナンたちが横断歩道を慌てて渡れば、最後に降りてきた小五郎が眉を顰めた。

 

「コラッ!!なんでお前たちがここにいる!!」

 

「キャンプの帰りにこのビルを見に寄ったんだよ!おじさんたちは?」

 

 コナンからの問いかけに、小五郎は咳払いを1つし、胸を張る。

 

「このツインタワービルのオーナーの『常盤(ときわ) 美緒(みお)』は俺の大学のゼミの後輩でな!!来週のオープンを前に特別に!招待してくれたんだ!!」

 

 その事はコナンも知らず、娘の蘭でさえ知らなかった事で、違和感を感じた蘭が問い詰めて、ようやくその事を白状したらしい。それを聞いたコナンはにっこり笑う。

 

「そっか〜!おじさんの行動を監視するために、蘭姉ちゃんたちが……」

 

「それに、常盤美緒さんって言ったら、常盤財閥の令嬢でまだ独身だからね!!両親が別居中な蘭は心配なわけよ……」

 

「そこだけ聞くとかなり重いよな、話として……」

 

 咲が思わずジト目で小五郎を見れば、小五郎はその視線に耐えきれずにそっぽを向き、咳払いを一つ溢す。そこに、まるでタイミングを図ったかのように小五郎に声が掛かった。声をかけた女性『沢口(さわぐち) ちなみ』は自身を社長秘書と紹介し、社長である美緒が接客中で来られないと理由を話し、小五郎たちをビルの説明をしつつショールームへと向かっていく。

 

「こちらのA棟は全館オフィス棟で、31階から上は全て常盤が占めております。ショールームは2階と3階にございます」

 

 そこまで聞いた歩美は、光彦に声を掛けた。

 

「ねぇ、常盤ってなんの会社なの?」

 

「中心はパソコンソフトですが、コンピューター関係の仕事ならなんでもやってるそうです!」

 

「じゃあテレビゲームもあるんだな!!楽しみだぜ!!!」

 

 案内されたショールームには様々な機械やゲームが展示されており、その数々には天才発明家の博士ですらも感嘆の声を上げる。そんなコナンたちに笑顔で声を掛けてきたのは、常盤グループの専務であり、プログラマーの『(はら) 佳明(よしあき)』。燕が着いたペンを胸ポケットから見せる彼の紹介を聞いているのかいないのか、子供たちは椅子型の機械に興味を示していた。

 

「……ゲーム機ですかね?」

 

「やってみるかい?」

 

 原曰く、子供たちが興味を示した機械は、10年後の顔を予想するというものらしい。博士ですらそれを称賛する声を漏らせば、子供たちもさらに興味を示し、歩美がやってみたいと声を上げる。博士と歩美が椅子に座ってみれば、上から鉄兜のようなものが降りてきて、博士と歩美の顔写真を撮る。その後、直ぐに真ん中にある操作機から写真が滑り出てきた。原はそれぞれの写真を2人に渡した。

 

 博士の顔は今と全く変わっていなかったが、歩美の写真は今の可愛らしい少女の顔から更に大人っぽく成長しており、その写真を見た光彦と元太は顔を紅く染めた。

 

「「かわいい〜!!」」

 

 元太は園子よりもイケてると言えば、それを聞いた園子は少し口を尖らせる。

 

「子供には大人の魅力が分かんないのよ」

 

 その言葉にコナンが呆れ顔を浮かべた。しかし光彦と元太はそれは気にせず、2人も自分たちの姿を見るために、機械に座り、撮影する。そうして出てきた2人の予想図の姿はイケメンというような風貌ではなかったために、2人からは不満の声が上がった。

 

「いるいる!こんな高校生!!」

 

「2人とも、素敵に写ってると思うわ!」

 

 園子は楽しそうに笑い、蘭が2人を褒めれば、光彦と元太は嬉しくなり、表情筋が緩みきった。それを見た園子も蘭を誘って写真を撮ってみれば、園子は素敵なマダム姿が出てきた。

 

「いるいる!こんなオバさん!!」

 

 先程の意趣返しとばかりに元太がからかえば、園子は不機嫌そうな表情を向ける。その反対に蘭はといえば、小五郎からは若い時の英理にそっくりと太鼓判を押され、博士からは新一には勿体無いと言われるほどの美人に成長するらしい。

 

「これが彼奴のいいようにされると思うと、頭にくるわね」

 

「何言ってるのよ!!」

 

 園子も蘭の写真を覗き見てそう言えば、蘭はその揶揄いに頬を紅くして反応する。

 

「いや〜、そんな……」

 

「なんでお前が照れてんだよ?」

 

 コナンが思わず口に出せば、隣にいた小五郎に聞かれてしまい、慌てて誤魔化そうとするが、蘭と同じくその頬は紅く火照ったまま。そんな2人の顔をそれぞれ見つめる光彦と歩美。そんな2人の表情を少し離れたところから見つめていた咲が首を傾げて見つめる。

 

「よーし、次は──コナンと灰原……」

 

 そこで2人は拒否をしますが、コナンは小五郎に首根っこを掴まれ、哀は元太と光彦に背中を押されて無理やり座らされてしまった。咲が止めようにも時すでに遅し。2人は拘束されてしまった。

 

「コナンくん、どんな顔になるんだろ?」

 

(まずいっ!!!)

 

 咲は原に近づき、ズボンの裾を引っ張った。

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「今すぐ止めて!!!」

 

「えっ、でも……」

 

 咲の様子にただならぬものを感じた全員が咲へと視線を向けたところで、2人の写真が撮られてしまった──しかし、機械にはエラー表示が映し出された。

 

「え、エラー?おかしいな……」

 

 それにコナンと咲がホッと胸を撫で下ろすが、1人哀は憂いの表情を浮かべる。

 

「──10年後は、咲も含めて3人ともいないって事かもね」

 

 そこで沢口のほうに連絡が届いた。その内容を聞き、通話を切ると小五郎たちに近づいた。どうやら主催の美緒から75階のパーティー会場に案内するよう指示をされたらしい。早速案内しようとするが、隣にいた小五郎にぶつかりそうになってしまう。

 

「あっ、すみません……!」

 

「あ、いや……」

 

「出たね!彼女はイノシシ年で、猪突猛進なんですよ!!」

 

 原の冗談にその場の空気が和む。よくドジをする事がバレた沢口は、頬を染めたまま、改めてパーティー会場に向けて全員を案内し始める。

 

 エレベーターに全員が乗れば、高所恐怖症の小五郎は後ろに下がり、冷や汗をかいたまま目を瞑る。

 

「このエレベーター、75階まで直通なんですか?」

 

「はい。これはVIP専用のエレベーターですから、行きたい階に直通です。エレベーターの外から止める事ができるのは、66階のコンサートホールだけになります」

 

 そんなちなみの説明を聞かず、子供たちはその高さに感動を零した。

 

「すごい景色ですね!!」

 

「どんどん天国に近づいてるみたい!!」

 

 そんな子供たちの横で、同じく外を見ていた咲は向かいのビルに目を向け、じっと見つめ続けた。

 

「……咲?どうしたの?」

 

「いや……未だに抜けきらないものはあるな、と思っただけだ」

 

 それが『なに』を示しているかは、コナンと哀にしか伝わらなかった。

 

 

 

 目的の75階にたどり着けば、大勢の人間がパーティー会場の準備をしているところだった。ちなみに続きパーティー会場の真ん中を歩けば、コナンは目を見開き、咲は頭を抱え──目の前で赤い服を着た女性と年老いた老人、白いスーツを着た男性と紺色のスーツを着た眼鏡の男、そして膨よかな男性と話していたらしい修斗が目を見開いた。

 

「あ、毛利先輩!!」

 

「これは、暫く!」

 

「遠いところを、よくおいでくださいました!!」

 

「いやぁ、1人で来るはずだったんだが……」

 

 そこに蘭が早足で近付き、小五郎を押しのけた。

 

「娘の蘭です!!母がくれぐれも宜しくとのことでした!!」

 

 蘭は小五郎の代わりに1人1人紹介を始め、終わったところで、オーナーの美緒も頭を下げて名前を告げ、後ろに控えるメンバーの紹介を始めた。

 

「私の絵の師匠で、日本画家の『如月(きさらぎ) 峰水(ほうすい)』先生です」

 

 彼は富士山の絵を描くことで有名な人物で、小五郎も名前を聞いて目を丸くした。そんな小五郎に近づくのは、顔を赤くし昼間から酒臭い息を吐く膨よかな男性。

 

「俺もあんたのこと知ってるぞ?居眠り小五郎とか言う探偵だろ?」

 

「眠りの、小五郎です」

 

 その酒臭さに子供たちが顔を顰める。それに気付いているようで、修斗は向かい側からコナンと咲に向けて合掌した。

 

「西多摩市市会議員の『大木(おおき) 岩松(いわまつ)』先生です。このビルを建設する際には、色々と骨折りいただきました。そしてこちらの方々は、このビルの建築をして下さった、建築家の『風間(かざま) 英彦(ひでひこ)』さんと、その彼の元で勉強されている建築家見習いの『朝凪(あさなぎ) 亮吾(りょうご)』さんです」

 

「私たち、毛利さんとは少し縁があるんですよ……実は私、森谷帝二の弟子で、亮吾くんはあの人のファンなのです」

 

 風間のその告白に、その事件の中心にいた小五郎とコナンが驚愕を露わにした。そんな2人の顔を見ながら、風間は笑顔を浮かべる。

 

「でもご心配なく。私は森谷のように、このビルを爆破したりしませんから」

 

「ば、爆破って……」

 

 小五郎が風間の言葉に腰がひけたその横で、コナンは挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「ビルの高さが違って、左右対称じゃないからでしょ?」

 

「ほお?詳しいね、坊や」

 

「風間さん、大人気ないですよ」

 

 風間の後ろから、亮吾がそう苦言を呈すると、コナンと目を合わせるように腰をかがませた。

 

「ごめんな、坊や。ボクもたしかに森谷さんのファンではあるんだが、爆弾は本当に設置してないから安心してくれ──そこの、気に食わないヤツも確認済みだから、ね」

 

 亮吾がそこで修斗を睨みつければ、修斗は肩を竦める。

 

「オレは父の代わりに挨拶に来たんだよ……なんでそんなに、あの父に傾倒してるんだか」

 

 その言葉に亮吾はさらに目を吊り上げる。

 

「ッお前なんか絶対に認めない!……ボクの方が、ボクの方がっ!!」

 

「──亮吾くん」

 

 そこで風間に肩を軽く叩かれ、ハッと我に返った亮吾は、美緒に頭を下げて一度、パーティー準備をしている業者のもとに向かう──その背中を見つめる修斗の哀しげな瞳に気付いたのは、コナンと咲だけだった。

 

「おい咲、修斗さんの反応からして間違いないだろうけど、もしかして……」

 

「ああ。間違いなく兄妹の1人だろうな……ただ、流石に私も覚えてないから、確信は持てないが」

 

 その言葉を聞き、組織に入った年齢とその理由を思い出し、それ以上の追求を止めるコナン。その重い空気を払拭するように、子供たちは会場の窓へと走って向かう。そこから見えたのは、日本一の山である富士山。ツインタワービルから見れば、富士山も近くから見ているような錯覚に陥るほどで、他メンバーも感動したように目を輝かせる。

 

「ほぉ!こりゃ絶景っすなぁ!!」

 

「ここは、夜でも富士が見えるんですよ」

 

「……夜でも?」

 

 美緒の言葉の意味を探ろうとコナンが思考を巡らせようとしたところで、子供たちが富士山とは逆の右の窓へと向かって走る。その隣のB棟にはドームの様なものが見えた。そのB棟は美緒の説明では商業棟とのことで、下には店舗、上にはホテル、最上階には屋内プールで、ドームの様な屋根は開閉もできるらしい。

 

「なあ、美緒くん。週末、あのホテルに泊めてくれんか?」

 

「あ、でも、オープン前でして……」

 

「嫌だっていうことか?」

 

 大木が機嫌を損ねた様な様子を見て、美緒は67階のスイート部屋を用意することを約束した。それに気を良くしたらしい大木は、その美緒の耳元に顔を寄せて、小声で話す。

 

「──できれば、夕食も共にしたいものだ……」

 

 そこで、大木は美緒の変わった形のブローチに気付き、誰かからの贈り物かと訊けば、自身が求めたものだと話す。

 

「このブローチも、修斗さんが紹介して下さったんです」

 

「この小僧が……?」

 

「私の血縁に関係者がいるので、紹介しただけですよ」

 

 そこまで聞いていた峰水は、急に不機嫌そうな様子を見せて帰ると言い始める。それを聞いた美緒が慌てて峰水を追いかけていくのを、小五郎は見つめていた。

 

「……何やら、ご立腹のようですな」

 

「美緒さん、如月先生の絵を買い占めて、高く売ったんですよ。それでちょっとね……」

 

 不穏な空気の中、子供達の後ろで原がチョコレートの包み紙を開く音に反応した元太が声をあげる。その反応の良さに、原は楽しそうに子供たちにそのチョコレートを配り始めた。それを後ろから見た美緒は、苦笑を漏らす。

 

「……プログラマーとしては天才的なんですが、子供っぽくって……」

 

 美緒の言葉に、博士はだからこそ面白いゲームが作れるのだと笑顔を浮かべる。

 

「そうだ!!今、新しいゲームソフトを考えてるんだけど、よければ君たちの意見を聞かせてくれないか?」

 

 原からのお誘いを受け、彼に懐いた子供たちは喜んで了承する。彼の住むマンションは双宝町は、コナンたちが住む米花町からはバスですぐの場所。彼から日曜日にと誘われ、子供たちは彼と時間の話し合いを始める。そこで哀は1人その場所を離れ始める。

 

「どうしたの?哀ちゃん」

 

 蘭が哀に声をかけるが、彼女は素っ気なく返事を返して歩みを止めない。そんな哀に気付いた光彦は、寂しそうな表情を浮かべて蘭に近付き、少し悩んで声を掛けた。

 

「……蘭さん、実は、折りいってご相談がしたい事があるんですが……明日、会って頂けませんか?」

 

 光彦の用件に、蘭は不思議そうにしながらもそれを了承した。それに頭を下げて礼を言い、時間と場所はまた後でと言って去っていく。その後ろから今度は歩美が近付き、光彦と同じく2人で話したいのだと声をかけた。2人の深刻な表情に、蘭は目を丸くした。

 

 ──そんな3人の様子を知らない園子は、先程の10年後の姿に悩み、哀の髪を見て、ウェーブを試してみることを決めていて。

 

 そんな時、会場用のテーブルクロスと花瓶を持って、2人の男性が現れた。その2人はどこか興奮した様に、下に止められていたらしい車の話をしている。

 

「いやぁ、今時あんな車を見るなんてな!!……なんてったっけ?」

 

「──ポルシェ356Aだよ!!」

 

 そのナンバーを聞いたコナンと咲の目は瞳孔が開き、VIP専用のエレベーターに乗ってやってきた為に美緒から怒られる2人に、コナンのみが急いで近付いた。

 

「ねぇ!!その車、どこで見たの!?色は!!?」

 

「え?……ああ、このビルの前で見たんだよ。色は黒だよ」

 

 

 

 それは、間違いなく──ジンの車の特徴と同じであった。

 

 

 

 コナンは慌ててエレベーターに乗り、小五郎達の静止すら聞かずに降りていく。子供たちはコナンの様子に首を傾げ、咲は震えそうになる身体を掻き抱いた。

 

(ジンが……なぜ、あいつがっ)

 

「──大丈夫かい?」

 

 そんな咲の顔色を見て、原が心配そうに顔を覗き込む。それに驚き、咲は警戒した猫の様に、原に警戒心を向ける。

 

「……」

 

「えっと……チョコレート、食べるかい?」

 

「……チョコレート」

 

「うん、チョコレート。とても甘いんだよ?……僕の、大好きな人と尊敬する人も、よく食べていたんだ」

 

 原の悲哀の籠る笑顔を浮かべる。それで、原の言うその人物たちが亡くなっていることを悟った咲は──少し考えて、そのチョコレートを1つ、掴んだ。

 

(……そういえば先生も、チョコレートが好きだったな……)

 

 その甘い塊を、咲はゆっくりと舐め、溶かし始めた。

 

 

 

 コナンがエレベーターから下を覗き込んでみれば、確かに黒い車がビルの入り口に停車していた。

 

(アレだ!!)

 

 しかし、その車はエレベーターが漸く10階辺りにたどり着いたあたりで、無常にも発進してしまい、コナンが下に辿り着く頃には車の影すら見当たらない。思わずコナンは歯を噛み締めるが、フッと疑問に思う。なぜ、ジンたちがこのビルにいたのか、と。しかし、その答えは──この時のコナンには、分からなかった。




因みに、原さんに多少、オリジナル設定が付与されております。どの様な設定かは、良ければお楽しみ下さいということで。

また、新たに兄妹が出ましたが、この兄妹のプロフィールはこの章の最後にでも書きますので、少々お待ちください。

それでは!ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。