とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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謎めいた乗客編の後編です!!

因みに、この後が映画編なのですが、映画編は書くのにお時間がかかりますので、不定期になってしまうことをご了承ください。せめて1ヶ月に1話は書きたいとは思ってます。

また、日常(事件)編がいつもより長かったので本当は設定を出そうかと思ったのですが、映画編にて更にオリキャラが出てくることが決まってしまったので、最短で映画後に出します。

それでは、どうぞ!!


第37話~謎めいた乗客・後編~

 バスジャック犯の男たちが置いたスキー袋を確認しようとして、それがバレてしまったコナン。ピンクのニット帽を被った男に撃たれそうになったが、その間に新出と咲が割り込み、修斗も口をはさみ、水色のニット帽の仲間に宥められ、そのトカレフが火を噴くことなく終えた。しかし、現状が良くなったわけでもなく、コナンが哀に知恵を貸してもらおうとしたが、当の哀は組織の気配に怯え、顔を俯かせて震えていた。

 

「おい、灰原……?」

 

 コナンが哀に声を掛けるが、その声は哀自身の鼓動にかき消され、彼女の耳には入らない。息も荒く、目の瞳孔は開かれ、その瞳は焦点すら合わない。そんな彼女に顔を向けて見つめているコナン。

 

「──無茶はダメネ、Cool kid.」

 

 その声に反応して、哀の肩が跳ねる。コナンは声のかかった方向──前座席から笑顔を見せるジョディを見上げる。

 

「Good chanceスグにキマース」

 

 そこで、コナンの隣で顔を俯かせる赤い上着を着て、フードを深くかぶった哀に気付き、ジョディは声を掛ける。

 

「Oh!怖がらなくてもダイジョウブ!赤ずきんチャン、お名前は?」

 

「あ、この子は──」

 

 コナンの言葉は、哀が彼の左手と手を繋いだことで止まった。

 

 その手から伝わる震えと、緊張からか冷たいその手に思わず彼女の顔を見るが──赤いフードに遮られ、彼女の表情は見えなかった。

 

What are name?(名前、教えてよ。) Little red riding hood ?(赤ずきんちゃん?)

 

 ジョディが人好きのする笑顔を浮かべるが、その顔を見ないまま、彼女は口を閉ざし続ける。その尋常でない様子を見て、コナンは代わりに口を開いた。

 

「たまたま乗り合わせた、知らない子だよ!……すごく怖がってるから、そっとしておいてあげて?」

 

「Oh!ごめんなさい!」

 

 そこで水色の男から初めて怒声が飛んできた。どうやら堂々とよからぬことをしているのではと疑っているらしい。それに気付いた新出がジョディに、あまりバスジャック犯を刺激しないようにと注意する。それに笑顔で頷き、哀に目を向けて声を掛ける。

 

Let's talk about this later.(またね)

 

 ジョディの言葉に、呆然とした様子のコナン。それを視界に収めつつ、座って軽く後ろを振り返り、哀の様子を確認するジョディ。それとは別に、強く握りしめ、俯くその哀の尋常でない様子に、コナンの頬にも汗が1つ流れる。

 

(おい……まさか、まさかいるのかっ!?──このバスの中に、奴らの仲間がッ!!)

 

 しかし、現状としてそれを気にしていられる状況ではない。なにせここは走る密室。逃げ場は今のところ1つもない。バスの窓を開けての脱出となれば、バスジャック犯たちによる射殺か、上手く脱出できたとしても、大けがからの車に轢かれての死。また、犯人たちにはもう1人、仲間がいることは確定してる──それが、コナンの後ろの最後列にいることも。

 

(そいつを見つけて早く手立てを考えねぇと、黒ずくめどころじゃなくなっちまう!!)

 

 その候補は、同じく最後列に座っている右端の修斗、その隣に座る咲を除いて3人。

 

 黒いニット帽を被り、マスクを着けて咳き込む、咲の隣に座る長身の男──赤井秀一。その男の隣に座る、補聴器を付けたメガネのお年寄り──町田安彦。最後が、派手な服を着てガムを噛み続ける茶髪の女性──富野美晴。

 

(その中で1番疑わしいのは、直接、音で伝えることが可能な、さっきからゴホゴホ言ってる──あの男)

 

 しかし、それは同じく風邪を引いて咳き込む博士もおり、咳も近い2人のその音の違いなど、そこまでない。

 

(音と言えば、ガムを噛んでるあの女も出してるけど……)

 

 しかし、その噛む音よりも咳の方が遥かに大きく、犯人たちは運転席側にいて、咲でもない限りガムの噛む音を聞き取れるとも思えない。

 

(残るは、補聴器を付けているあのおじさん……)

 

 その補聴器がワイヤレスマイクであれば、こっそりと声で伝えることも可能だが、犯人側が耳に何もつけていない為、可能性として低く、声を出せば両脇の2人と咲が不審がる──しかし、そんな素振りは見当たらない。

 

(犯人が絶えず見てるのはバックミラーぐらいだし……)

 

「──おいジジイっ!!」

 

 そこで隣から犯人の声が聞こえ、そちらへと顔を向けてみれば、薬を飲もうとしている博士に拳銃を突きつけるピンクの男がいた。

 

「何してるんだ?こそこそ」

 

「あぁ、いや、咳止めの薬を……」

 

(いや、手元を見りゃ分かんだろっ!)

 

 修斗が脳内でツッコミを入れているなど知らないピンクの男は、舌打ちをして去っていく。それにより、また後ろにいる仲間が犯人たちに教えたことを理解したコナンは、再度後ろの乗客たちを観察する。

 

(くっそ、一体どうやって!!──どうやって教えてるって言うんだっ!!)

 

 ──そこで、バス内に着信音が鳴り響く。

 

 コナンが思わず前を見れば、仲間の1人に矢島から連絡が来たらしい。

 

「どうです?そっちの様子は」

 

『ああ、問題ない。サツは撒いたよ』

 

「じゃあ3日後、いつもの場所で落ち合いましょうや」

 

 そこで連絡を切り、水色の男はトカレフを運転手に向ける。

 

「よし、運転手。一号に乗って中央道に入れ!」

 

 そのバスのスピードにより──外で信号を待っていた女の子は、ピンクの風船から手を離してしまった。

 

「小仏トンネルに差し掛かったら、スピードを落とすんだ」

 

 その風船に気付いたコナンは、窓に張り付いてついてくる風船に思わず目を見開き、見つめ続け──風船は離れて行った。

 

「へへ、心配すんなよっ!約束通り、乗客はちゃんと解放してやるからよ!!」

 

 その風船を見つめたままのコナンの頭に──1つの光が走った。

 

 

 

 バスとRX-7は中央道に入り、料金所に入ろうと言うところで、ピンクの男が口を開いた。

 

「おいっ!そこのメガネの青二才と、その奥の風邪を引いた男──2人とも、前に来い」

 

 その名指しに、咲の目が見開かれ、思わず赤井を見上げてしまった。

 

「おら、どうした。早く来な!!」

 

「言う通りにした方が、身のためだぜ?」

 

 その忠告に、名指しされた2人は立ち上がる。その姿を、ほんの少し心配そうに見つめる咲。

 

(大丈夫……ライの実力は知ってるから、大丈夫だともわかる。なんとか出来るほどの実力があるから……でも、もし──もしもがあったらっ)

 

 人間である以上、もしもの展開がないわけではないと、咲は理解している。そして、その『もしも』がここで来てしまい、守れなかった場合──咲は、テネシーとの約束を守れない。

 

(いやだ──それだけは、いやだっ!!)

 

 しかし、彼女の手元にも、ポケットにも、武器になるようなものは1つもない。また、走行しているうちに、2人は男たちの要望通りに向かって歩いている。

 

 咲が頭の中で思考を走らせているその前では──コナンが不敵に笑っていた。

 

(……なるほど、そういうことか。読めたぜ!オメェらのもう1人の仲間も──このバスからの逃走手段もな!!)

 

 それを防ぐため、コナンは腕を下に伸ばし、取り出した探偵団のマークがついた手帳を──前の座席に座るジョディの足に投げた。

 

 そのジョディはと言えば、その足の感触に気付き、足元に目を向ける。そこにはコナンが投げた手帳があり、新出の進行を邪魔しないように組んでいた足を解き、手帳を確認する。──そんなジョディの行動を、新出と通りすがりに赤井が見つめる。その手帳の中に書かれていた文字に、ほんの少しだけ不思議そうにするジョディ。

 

『口紅、持ってる?』

 

 その手帳を滑らかな動きでポケットに入れ、それと共に口紅を取り出した。それを握ったまま、犯人たちの様子を、前に立つ男2人の間から確認し──足の間から素早く投げ、コナンはその口紅をキャッチした。

 

(あとは、この探偵団バッチであいつ等に……)

 

 

 

 暫くバスは走り続け、小仏トンネルに入っていく。その後を追うようにして赤いRXが入っていく。

 

 

 

 小仏トンネルに入ったところで、バスジャック犯たちはスキーウェアを脱ぎだし、それとゴーグル、帽子を赤井と新出に着るように指示を出す──それを、トンネル内の雑音の中、微かに聞こえたその言葉で、犯人たちが何をしようとしているのかを咲は理解した。

 

(アイツら──2人を身代わりに、仲間と逃げようとッ!!)

 

 咲が右手を握りしめ、怒り堪えている間にも2人は男たちの指示通りにスキーウェアを着用し、通路に座り込む。犯人たちはやはり身代わりになってもらい、時間を稼いでもらうと意気揚々と説明し始める。それに逆に溜め息を吐きだしたくなる修斗。

 

(なんであいつら余裕なんだ。いやまあ、気づいてないんだろうけど──このバスを狙った時点で、最初から詰みなんだよなぁ……)

 

 徐々に黄昏始める修斗を他所に、犯人は、自身と人質1人を下ろした後は、警察の目をバスに向けるために走らせるようにと、運転手に指示を出す。一緒に降ろすという人質は、運転手を指示に従わせるための人質らしい。そう話したあと、犯人は人質候補を探すように通路を歩き──1番後ろの座席に座っていた富野を指名した。

 

 富野は恐怖を表に出し、恐る恐ると言うように前に歩いていく。その姿と共に、女性がしている時計を目にしたコナン。富野は犯人の男に拘束され、その首にトカレフを突きつけられる。そんな事された彼女は息を呑み、それを視界の端に収めた運転手は指示に従うしかなくなった。

 

(いや違う。彼女は人質じゃない──奴らの仲間だっ!!)

 

 コナンの推理通り、仲間3人でバスを降りた後、スキー袋に入れた爆弾を爆発させ、乗客全員の口を封じる手立てらしい。彼らがバスを降りた後は、『犯人から解放された人質』の振りをし、警察に保護されたあとは、自分たちとは全く別の、口裏を合わせて生み出した出鱈目な犯人像を伝え、逃げ切ろうとしているのだ。

 

(おそらく警察は、犯人は2人組だと思っているだろうし、解放される前に犯人と乗客がもめていたとでも言えば──何かのアクシデントで爆弾が爆発し、犯人は木乗客と共に爆死したと思わせられる)

 

 その後、その爆破跡地にて発見される『スキーウェアを着た2人の男』が、新出と赤井であると錯覚させる。上手くいけば、すぐには実行犯だとバレない作戦。トンネル内でスキーウェアを着せたのも、外の目にバレないようにするためだが──この暗闇は、コナンにとっても好都合だった。

 

 仲間の富野がいなくなり、コナンは暗闇の中で堂々とバッチの無線機能を入れる。その音はバスの中に微かに伝わったが、反射する音のせいで犯人たちに聞こえなず──その近くにい博士と修斗、バッチの持ち主である子供達のみが気づけた。

 

 驚いた子供たちがコナンを見る中、コナンはバッチを耳に当てるようにジェスチャーを出す。それに従い、元太、光彦、歩美、博士、更に全員の動きを見て何をしているのかを理解した咲、更にそれに倣って修斗がバッチを耳に当てた。

 

『いいか?今から俺の言う通りにするんだ……大丈夫。車内は暗いし、奴らは計画の成功を確信して油断している。バスがトンネルから出た瞬間が──勝負だぜっ!!!』

 

 コナンの指示を全て聞き終え、全員が準備を終えた頃にはトンネルから出る少し前。そこで犯人は運転手にスピードを上げるように指示を出した。

 

「下手な真似するなよ?俺たちの言う通りにやってりゃ助かるんだ──」

 

「──よく言うよっ!!どーせ、殺しちゃうくせに!!」

 

 そこで子供特有の高い声がバス内に響き、男たちが驚きから振り向けば──度々不審な行動をしていた子供が、立ち上がって声を上げていた。

 

 その子供──コナンは更に続ける。

 

「だって皆に顔を見せたってことはそう言うことでしょ?何とかしないと皆殺されちゃうよ?この──爆弾で!!」

 

 トンネルから出た所で、赤い文字で横に大きく『STOP』と書かれたスキー袋をコナンと博士が掲げて見せる。

 

「この餓鬼っ!!黙らせてやる!!」

 

 犯人のうちの1人が激昂し、トカレフを向けるが、そんな事すれば全員仲良くお陀仏だ。勿論、それを理解している冷静な仲間が怒る男に声を掛ける。そこで漸く、スキー袋に書かれた文字に気付いた男たち。しかしそれは鏡文字となっており、男たちは眉を顰めた。

 

「なんだ、その赤い文字の落書きは……!」

 

「──早くッ!!!」

 

 コナンの大声に漸くバックミラーを確認した運転手。ちらちらと何度かに分けて確認し、その文字が止まれの指示だと理解し──運転手はブレーキを強く踏み込んんだ。

 

 その急停止で全員の身体が前に持っていかれ、身体が傾いた町田には歩美と咲が声を掛け、博士とコナンは掲げていた爆弾を落とさないように必死に抱え、修斗もそのサポートに入る。元太と光彦は、もう1つの爆弾を掴み、子供ながらに必死で爆弾を固定する。そのままバスは運転不能となり、スリップした──運よく、横転はしなかった。

 

 その唐突な停止に早めに気づき、佐藤も車を停止させ、バックしてバスから距離を取って様子を窺う。

 

 バスの中では、急停止からのスリップで、通路の真ん中で立っていたり座っていたりしていた人は全員倒れ伏していた。いち早く様子を確認し、咲とコナンが犯人たちの様子を見てみれば、冷静に行動していた男の方が痛みに耐えつつ起き上がろうとした。それに気付いたコナンが走って男に近づいた。

 

 ここまでのことをしてのけて、犯人たちの作戦を台無しにしたコナンに怒りを向けてトカレフを向ける。そんな男に気付き、後ろで倒れていたはずの赤井は体を立てて肘を曲げた所で、コナンが犯人の男の額に麻酔針を撃ち込んだ。

 

 博士が開発した、象すら暫く寝ると言う睡眠針を撃ち込まれれば、常人の男では抗う術もなくそのまま眠りのそこへと落ちていき──そのいきなりすぎる昏倒に、後で手刀を構えていた赤井は目を見開いた。

 

「新出先生っ!その女の人の両腕を捕まえて!!」

 

 コナンの唐突な指示に、新出が呆けるも、コナンから女性がつけている時計が爆弾の起爆装置だと聞き、驚いて後ろの女性に体を向けた。

 

「餓鬼っ!!舐めた真似をッ!!」

 

 短気な男が、持っていたトカレフをコナンに向けるが──それは横にいたジョディが、その綺麗な脚で見事な左膝蹴りをいれた。

 

 コナンがジョディの動きに呆けても、ジョディは止まらず、犯人の首筋に向けて、右肘でエルボードロップを入れた。

 

 その強烈なコンボを受けた男は倒れ込み、起き上がろうとする男にジョディは言う。

 

「Oh!ゴメンナサーイ!!急ブレーキでbalanceが──」

 

 そこで男は持っていたトカレフを向ける。怒りに我を忘れ、その怒りで震える指で引き金を引く──しかし、弾は出てこない。

 

「あれ、引き金が……」

 

 男は何度も引き金を引くが、いくらやっても止まる。そんな男が持つトカレフを、ジョディは恐れることなく本体を掴み──妖艶に笑って男に顔を寄せる。

 

「……馬鹿ね。トカレフは、ハンマーを軽く起こして中間て止めると安全装置(セーフティ)が掛かるのよ?──これくらい、銃を使う前に勉強して、おきなさい?」

 

 先ほどまでとは違う、流暢に話される日本語と、自身を横に倒した見事な動き、その一般人とは思えない様子に、ジャック犯の男が顔を青ざめさせる。

 

「なんなんだ……何者なんだ、アンタっ!!?」

 

 男の言葉に、ジョディは微笑みを浮かべて人差し指を立てる。

 

「Shhhh……It's a big secret.(秘密よ秘密。) I'm sorry, I can't tell you…….(残念だけど、教えられないわ……)|A secret makes a woman woman…….《女は秘密を着飾って美しくなるんだから……。》

 

 男が呆けてるうちにジョディは切り替え、笑顔を浮かべる。

 

「Oh!降参デスね!!」

 

 コナンがジョディの様子に顔を呆けさせ、修斗が頭を抱えていると、新出が拘束していた富野が腕時計を見て悲鳴を上げた。どうやら、先ほどの急ブレーキで時計に仕込まれた起爆装置が起動してしまったらしい。また、爆発までには1分もないらしく、その声を聞いた全員が慌てだし、運転手がすぐに出入り口の扉を開ければ、全員が走って降りようとする。

 

 咲も向かおうとしたが、ずっと沈黙したままの人物が気になって止まり、戻ろうとしたところを修斗に腕を掴まれた。

 

「しゅ、修斗ッ!!?」

 

「馬鹿ッ!!逃げるぞッ!!!」

 

「いや、まだそこに──っ!!」

 

 修斗がコナンたちと共にバスから降りれば、バスの出入り口の横に立って構えていた佐藤が声を掛けてくる。

 

「コナンくんッ!?どうしたの!!?」

 

「犯人が持ち込んだ爆弾が、あと20秒足らずで爆発するんだ!!」

 

 それを聞いたその場の全員が驚き、佐藤はまずトンネル側の車を止めに走り、千葉には反対車線、他の刑事たちには乗客たちを遠ざけるように指示を出す。そこで走りを止めないままの修斗に手を引かれたままだった咲は、コナンたちの後ろから声を上げる。

 

「修斗、止まってくれ!!──あの中には、まだ哀がっ!!!」

 

(何っ!?)

 

 咲の声が聞こえたコナンは立ち止まり──すぐにバスへと駆け戻って行った。

 

 

 

 バスに1人残った哀は、顔を俯かせたまま自嘲の笑みを浮かべる。

 

(そう……これが、最善策。この場は助かっても、事情聴取の時に否が応でも『あの人』と鉢合わせになる)

 

 このまま哀が消えた場合、哀と博士たちとの接点は消える。咲との接点は残ったままになるが、そこは彼女が上手くやるだろうと、哀は願い──フッと笑う。

 

(……分かっていたのにね。組織を抜けたときから、私の居場所なんて、どこにもないことは──分かってたのに)

 

 

 

(……バカだよね、私。バカだよね──お姉ちゃん)

 

 

 

 哀が死を覚悟し、最愛の姉を思い浮かべたその時──その横を、勢いよく風が通ったかと思えば、後ろからガラスが割れる音が響いた。

 

 それに驚き、顔を上げたのとほぼ同時に彼女の腕が取られ──コナンに抱きかかえられた状態で、後ろの割れたガラスから、飛び出し、2人が着地する寸前で、バスは爆発した。

 

 その爆発に飛ばされて、コナンが哀を守るように抱きしめたまま、熱い風と爆風に耐え凌ぎ、痛みを堪えて、コナンは身体を起こす。そんなコナンの後ろから、丁度いいタイミングで高木が車に乗ってやって来た。

 

「こ、コナンくんッ!!」

 

 そこで離れた所から見ていた少年探偵団、修斗とその彼に捕まって近づけなかった咲が走って近づいてきた。咲はすぐに哀に近づき、それを止めずにそのままにさせたコナンは、高木に声を掛けた。

 

「この子、怪我してんだ!!博士や皆と一緒に、病院に連れて行って!!」

 

「えっ?」

 

「コナンの言う通りにしてやって下さい──事情聴取は、俺とコナンだけでいいはずです」

 

 修斗とコナンの言葉に、うろたえながらも高木は了承し、彼の車に全員を乗せていく。その最初に乗せられた哀に──コナンは、声を掛けた。

 

「……逃げるなよ、灰原──自分の運命から、逃げるんじゃねぇぞ」

 

 そんなコナンの近くに立っていた高木は、その意味を理解することなく全員を乗せた車を発進させた。その車を見送るコナンから修斗は離れ、代わりにジョディがコナンに近づいた。

 

「Oh!Cool kid!ガラスを割って、女の子を助けだすなんて、まるでJames Bondデス!!」

 

 その誉め言葉に、コナンは笑みを浮かべて言葉を返す。

 

「007はジョディ先生の方だよ!──犯人の足を引っかけて、謝るふりしてトカレフの安全装置入れたんでしょ?」

 

 コナンはあの時の行動を言えば、それを指摘されたジョディが興奮した様子を見せた。

 

「Oh!Yes!!映画みたいに上手く出来マシタ!!」

 

 その反応に、コナンの身体は脱力し、空笑いを浮かべた。その反応に気付かないまま、ジョディは続ける。

 

「デモ、良く分かりましタネ?彼女が犯人タチの仲間だと」

 

「──風船だよ」

 

 ジョディの疑問に、コナンはそう答える。それはあの時、風船を見たことで辿り着けた答え。

 

「彼女は、風船ガムを膨らませて、バックミラーを見てた犯人たちに、不審な行動を取る乗客たちを教えてたんだ!!」

 

 彼女がガムを膨らませ、割れたガムを取る手の左右と、その指の数で座席の位置を知らせていたのだと、コナンは言う。

 

「じゃあドウシテ、彼女の時計が起爆装置だと、分かったんデスか?」

 

 ジョディの疑問に、彼女の時計が1時で止まったままの時計をしていたことに気付き、なんとなくそうではないかと思ったのだとコナンが話せば、ジョディは納得するとともに悔しがる。なぜなら、彼らは確かに捕まったが、そのボスは未だに逃走中。それに対してはコナンは力強く大丈夫だと断言した。

 

「策もなしに、牢屋に入れていた悪い人を、警察があんな簡単に逃がすわけ……」

 

 そこまで言って、ジョディのことを思い出し、子供らしい笑顔を浮かべてジョディを見上げた。そこで佐藤から事情聴取のために車に乗り込むよう、声が掛かる。コナンが車に乗ろうとするのを、ジョディは止めた。

 

「傷だらけデスけど、ダイジョウブですか?」

 

「うん!平気平気!!」

 

 コナンが笑顔を浮かべて返したところで──後ろから腕を掴まれた。その場所は見事に傷口で、コナンは思わず痛みから顔を顰めた。

 

「やっぱり、こんな大けがしてるじゃないか!!」

 

 そのコナンの腕を掴んで怪我の確認をした新出が、心配そうな様子を見せ、事情聴取は傷を治してからだと忠告した。

 

 ──そんなコナン達から離れた位置で、修斗は左ポケットに入れっぱなしだった携帯を耳に当てていた。

 

「え~、この度、アンタたちに協力してあのバスに乗った訳ですが、バスジャックに巻き込まれました~。まあ、ずっっと通話中にしてたから聞いて理解はしてるとは思うけど──ご感想は??」

 

『申し訳なかった!!!』

 

「俺の仕事用携帯がお釈迦になったんですよね~」

 

『本当に悪かった!!!』

 

 バスジャックが始まる前、修斗はメールをした後、数秒後に番号を入力してメール相手に連絡を入れていた。携帯を出せと言われた際、左に入れた携帯を出さず、右ポケットから仕事用の携帯を渡し、携帯はそれ以上はないように錯覚させ、ポケットの中でモールス信号で情報を渡していた。その相手は、メールの内容でことが起こることを察し、ずっと黙ってバスの中の出来事を聞いていたのだが、そのことを今、修斗に嫌味として言われている訳である。

 

「まあ、まさかこんなことが起こるなんて普通は予想できないし、俺だって、犯人たちを見て察しただけだから別にこれ以上の文句はないけど」

 

『毎度思うけど、よく分かるよな~』

 

「誉め言葉と思っておきますね……まあ、そんなわけで今から事情聴取でこれ以上は無理なんですけど、どうします?俺は『協力者』の立場なんで、指示には出来るだけ従いますよ

 

 

 

 

 

 ──『緑川』さん?」

 

 名前を呼ばれた相手──『緑川』は車の中で苦笑いを浮かべる。

 

「いや、流石にこれ以上は俺も難しいと思うから、これで終了で大丈夫だ」

 

『そうですか……あ、最後に1つだけ』

 

「ん?」

 

 そこで紡がれた修斗の言葉に、『緑川』は頬を引き攣らせた。

 

「……それ、本当か?」

 

『俺が見た限り、ですけどね。変装してる人がアンタたちの標的だとして、その近くにどう考えても一般人じゃない動きと知識と演技してたら……しかも、それが日本人じゃなくて外国人なら──FBIだって思ったって仕方ないですよね?』

 

「いや普通は分からないからな!?」

 

『ちなみに、外見を簡単に伝えるなら、黒髪で隈がひどい男と、金髪の女性でーす』

 

「伝えなくてもよかったけど大事な情報ありがとう!!」

 

『それじゃあ、流石にこれ以上は引き延ばせないんで……現場からは以上でーす。貴方方は早めに離れることをお勧めしまーす』

 

 最後にそう伝えられて、通話が切れた。繋がらなくなった携帯を切り、深々と溜息を吐き出すと、その茶髪の頭をまっすぐ運転席に向けた。

 

「聞こえてたかもしれないですが、作戦は中止ということでいいですか?『風見』さん」

 

「ああ、構わない。お前がいる以上はここにはいられない。」

 

 そこで高速道路を降りるために動き出す中、更に『緑川』はある人物に連絡を入れる。

 

(組織の仕事はないって言ってたから『警察庁』だとは思うが……出るか?)

 

 コール音が数回なったところで──その向こうから声が聞こえた。

 

『なんだ?『ヒロ』。今は修斗に協力してもらって、『魔女』を追ってたはずだろ?』

 

「あ~、そうだったが話が変わってな……あいつが乗ってたバスがジャックされて追跡は中止だ」

 

『……あいつ、そんなに不運なやつだったか?』

 

「まあ、それは戻ったら報告書を渡すけど……先に伝えておきたいことがあってさ」

 

『伝えておきたいこと?』

 

『緑川』はこの後の反応を察しつつ、電話相手に伝えることにした。

 

 

 

「──FBIが、日本にいるんだってさ」

 

 

 

 その言葉を聞いた相手が無言になり、その隙に『緑川』は耳を塞いで携帯から耳を遠ざけた。それから暫くして──車内に声が響いた。

 

 

 

『──僕の国でなにをしてるんだFBIぃぃぃぃぃい!!!!』

 

 

 

 ***

 

 

 

 高木の車に乗って移動する中、脚が血だらけな哀を、周りに座っていた子供たち、博士、咲が心配そうに声を掛ける。

 

「痛くないですか?灰原さん……」

 

「足からいっぱい血が出てるよ?」

 

「止血したいが、道具が……」

 

 光彦、歩美、咲がそれぞれを声を掛けるが、それに哀は自嘲の笑みを浮かべる。

 

「大丈夫よ──これ、私の血じゃないもの」

 

「えっ?」

 

 哀の脚に大量に付着した血──それは、コナンがあの場所から遠ざけるために着けたもの。コナンの血だ。

 

(……どうやら貸し、返されちゃったわね。工藤くん)

 

 その儚い笑みと脱出劇を見ていた咲は察し、コナンに向けて溜息を吐いた。

 

(……あのカッコつけめ……まあ、あの『魔女』は組織の中でも一線は超えない人だから、コナンの正体自体がバレない限りは大丈夫だろうから、心配しなくていいか)

 

 そう思いながら、歩美の隣に座っていた咲は車の外で流れる景色を流し見るのだった。




車種だけで乗っていたコナンキャラが分かった人はいたのでしょうか?予想されてたかたはいるかとは思うのですが、当たっていましたでしょうか??

因みに、咲さんがバスの中に残らせなかったのには2つ理由があります。

1つ目は、咲がバスに残ろうとしても、バスの座席的に修斗が見逃さないのと、例え逆でも彼が咲を見過ごして先に逃げる気が設定的に全く思い浮かばなかったこと。

2つ目は、上手く修斗を交わしてバスに残ったとしても、コナンくん1人に2人の救出は難しい気がしたことです。修斗を救助隊に混ぜてもよかったのですが、その場合は警察を振りほどいて向かわないといけないので時間的に間に合わない。コナンくんの場合は、多分その体の小ささを利用して警察の目を搔い潜って救助に向かったと思うんですよ。だから、爆発に間に合ったのでは?と。

そう言うことで、これは咲さんは残せないなと思い、咲さんは修斗さんに強引に救助されて哀ちゃんを不本意ながらバスに残して来てしまったという形となりました。



さて、いつになるかは分かりませんが導入自体は多少、決まっているので、頑張りたいなと思います!!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!

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