とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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謎めいた乗客編、始まりましたっ!!

しかし、私は夏がとても苦手なうえ、実は少々体調が崩れ始めております。ちなみにコロナではございません。寝不足と仕事の忙しさとストレスと天気と、色々理由があるだけなのです。

さて、なぜかとても難産となってしまったこの話、特に難産だったジョディ先生の英語で捲し立てるシーン。訳はあくまで私が調べたうえでこんな感じと変えただけなので、少々違うとは思いますが、ご容赦ください。ちなみに英語の聞き取りは頑張ったのですが半分ぐらい間違えましたので、調べた結果です。英文が間違ってましたらすいません。

それでは、どうぞっ!!


第37話~謎めいた乗客・前編~

 あるお休みの日、コナンたち少年探偵団はスキーをするために、保護者である博士と共に、スキー場へと向かうバスへと乗っていた。ただ1つの心配は、博士が風邪を引いてしまっていることだった。

 

 博士が何枚目かのティッシュを使ったところで、バスのアナウンスが掛かる。

 

『次は~、米花町3丁目。コダマ物産本社ビル前~』

 

 そこで乗客の誰かが降りのボタンを押したらしく、バスが止まり、何人もの乗客が降りていく。人の足が途絶えた所で扉が閉まり、バスはコナンたちを乗せたまま、発進した。

 

「よぉ、博士……そんなんでスキー行っても大丈夫なのかよ?」

 

 左の窓側座席に座っていたコナンが、右の通路側座席に座る博士を心配し、声を掛けるが、彼はその間もティッシュを使い続けており、コナンの隣に座っていた哀が呆れたように博士を見やる。

 

「ま、自業自得ね。風邪ひくからよしなさいって言ったのに、夜遅くまでスキーのハウツービデオでイメージトレーニングなんかしてたんだから」

 

「それは、博士が悪いな」

 

 哀たちの話を聞いていた、茶色のジャケットを着た咲も、何もフォローが浮かばず苦笑いに留めて博士を見つめる。対して、博士自身はと言えば、仕方がないと鼻を赤くさせったまま話す。

 

「ワシは子供たちの引率者。大人のワシが手本を見せてやらないかんじゃろ」

 

「でもっ!向こうについたら、大人しくロッジで寝てるんだよ?」

 

 博士の隣に座っていた歩美が、心配そうに眉を下げて博士を見上げてくる。その言葉に続き、博士の前座席に座っていた光彦が振り返り、博士に指を立てて注意する。

 

「風邪は、引き始めが肝心っていいますし!!」

 

「調子に乗って外に出るんじゃねーぞ?」

 

 同じ座席に座っていた光彦と同じように、元太も振り返って釘を刺す。そんな子供たちのしっかりとした様子に、博士は口をあんぐりと開けて呆然となり、コナンはどちらが子供なのかと呆れ顔。

 

 そこで次のバス停に到着する。『米花公園前』。どこには既に何人も並んでおり、先頭に立っていた男性から次々に乗ってくる。そのことに気付いた博士が子供たちに注意する横で、コナンが大きなため息を吐き出した。それに気付いた哀と咲。咲は一番後ろの席のためコナンに何も言えないが、哀は楽し気に声を掛ける。

 

「あら、退屈すぎて死にそうね……暫く彼女に会えなくて寂しいって顔、してるわよ?」

 

 哀の言葉にコナンがムッとした表情を向ける。しかし、続く哀の言葉に顔つきが変わる。

 

「それとも──組織(彼ら)に会えなくて、寂しいのかしら?」

 

「……バーロ、無関係の乗客や、子供たちが乗ってるこんな狭いバスの中で、奴らに会いたいわけがねぇ──」

 

 そこでコナンは、黒い服を着たメガネの60代ぐらいの男性に、思わず体を強張らせる。その反応で彼が何を思ったのか理解した哀がその考えを否定する。その否定は、予測ではなく断言され、思わずコナンが哀を見つめる。

 

「……分かるのよ──匂いで」

 

 それは、組織にいた者にのみ発する嫌な『匂い』らしく、そう説明していた哀の腕を取り、思わず匂いを真剣に嗅ぐコナンと、それを横目で引いた様子で見る哀。

 

「……別に変な匂いなんて、しねぇけどな」

 

「……ふざけないでくれる?」

 

「でもよ、そんな第6感で分かるなら、ピスコの時も……」

 

「──えぇ、薄々そうじゃないかと思ってたわよ」

 

 ではなぜ、あの時に哀が言わなかったのかと訊かれたが、彼女は自信を持てなかったという──もう1人、組織の者がいる気がして。

 

「そう、ピスコよりずっと強烈で、鳥肌が立つような魔性のオーラを纏った──」

 

 そこで、哀と咲は気づいた──組織の者特有の、その気配に。

 

 咲はその気配の持ち主に、恐怖を抱くようなことはない。勿論、バレたら殺されることに違いはないが、咲の恐怖の対象はあくまで『組織』ではなく『ジン』と『ウォッカ』。勿論、バレてしまえば、彼女の大切な存在達は幹並奪われてしまう。しかし、それでも今の彼女の現状で出来ることと言えば少ない。警戒からヘッドフォンを取り、ジャケットのフードを被る。そして同じく哀も、その赤い上着のフードを震える手で掴みながら、コナンに懇願する。

 

「く、工藤くん……席を変わって──私を、隠してっ」

 

 その哀の異様な姿に、コナンが目を細めた所で、歩美が新出の名を呼び、コナンが通路に顔を向けてみれば、確かに彼が笑顔を浮かべて近付いてきた。その後ろから、金髪の女性も見える。

 

「あれ、皆も来ていたのかい?」

 

「先日は、内科検診お疲れ様でした!!」

 

 その隙に席を交代したコナンが、内科検診の日に哀と咲が休んでいたことを思い出す。そこで元太が後ろの金髪女性に気付き、デートかとからかうが、その金髪の女性──ジョディは、彼が校医をしている帝丹高校の同僚だ。そこで彼女が挨拶をするとともに、彼女がコナンに声を掛ければ、コナンは二度目の再会に思わず固まる。コナンが博士のジョディのことを紹介しようとすれば、彼女自身がそこに割って入る。ジョディと新出はこの日、上野美術館にデートに向かうためにバスに乗ったらしい。しかし、新出はバス停で偶然会ったという。

 

「OH!Ladyにハジを掻かせちゃ、イケマセーン!」

 

「でも、高校で変な噂が立ったら、お互い困るでしょ?」

 

「──そういう話は、座ってしてほしいのですが、よろしいですか?」

 

 そこでジョディの後ろから、コナンと咲には聞き覚えのある声が掛かり、コナンが思わず顔を向ければ──そこには呆れた様子で立つ、黒いコートを着た修斗が立っていた。

 

 

 

「──修斗っ!?」

 

 

 

「……はっ??」

 

 

 

 咲が思わず後ろ座席から顔を見せれば、彼は珍しくポーカーフェイスを崩し、少しして頭を抱え始めてしまう。

 

「は、いや、コナンやクラスメイト、保護者に博士を連れてスキーに行くとは聞いてたが……これに乗るのかよ……」

 

「修斗さんは──」

 

「俺はそこの人たちと同じく、美術館で鑑賞だ」

 

 その言葉と共に恨めし気な視線を、年齢詐称をしているコナンにのみ向け、それに対してコナンは笑うしかなかった。

 

「修斗くん、良ければ一緒に座らんかね?」

 

 風邪気味でマスクをする博士から声を掛けられ、修斗が顔を博士に向ける。彼は咲の隣が空いていることを伝えれば、哀の様子を一瞬見てから、頷いた。

 

「そうですね……分かりました」

 

 修斗は1番後ろに行き、同列に座っていた60代の男性と、ガムを噛んでいる茶髪の女性に会釈してから、右端に座る咲の横に座ろうとした──しかし、そこで咲の様子がおかしいことに気付く。

 

 彼女は目を丸くして、なにか驚いた顔のまま、通路の方向を見ているのだ。

 

(……後ろか?)

 

 修斗と、それから哀のただならぬ様子から同じく通路を見ていたコナンが気づく──マスクをして隈がひどいニット帽の男が、歩いてきたのだ。

 

 その顔を見て、咲の顔を見て──修斗は咲に声を掛ける。

 

「咲、悪いが席を変わってほしいんだが……」

 

「ぇ……あ、ああ、問題ないが、どうして……」

 

 修斗の提案になぜかと聞き返せば、彼は笑みを浮かべる。

 

「ここだと、寝にくいだろ?」

 

「──分かった」

 

 咲はその言葉で席替えを了承した。勿論、納得はしていないが、それでも彼の思惑が何であろうと、それを撥ね退ける理由がないのだから、頷く以外に咲にはない。それに礼を述べて、修斗は席に座る。咲もその横に座れば、ニット帽の男はその咲の隣に、無言のまま座った。

 

 ──咲は、この男のことを知っている。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ──5年前。

 

 

 

「──優、俺が今から見せる写真の人物たちのことを、お前の出来る限りで守り、サポートしてほしい」

 

 優の目の前でそう話し、写真を並べていく白髪で青目の男性──優が『先生』と慕う人物である『テネシー』が真剣な表情で咲と相対し、左から順に、黒髪で髭を生やした男、金髪で黒い肌の男──そして、黒髪長髪の男の写真が並べられていく。

 

「写真の人物たちって……この3人?」

 

「ああ……この黒髪で長髪の男が、近々コードネームをもらうことになっている」

 

 そう言って、テネシーが右端に置いた人物の写真を掴む。

 

「というか、組織の者なのに、なんで写真があるんだ?」

 

「──普通に考えたら、なんであると思う?」

 

 テネシーからの問いかけに、優は少し考えて目を見開いた。

 

「……まさか、ノック!?先生、どこの諜報機関のパソコンをハッキングしてっ……というか、組織に話をしなくていいのか!!?──話さないままバレたら、殺されるんだぞ!?」

 

 優がパニックになったように叫ぶ。2人が相対している部屋は外に声が漏れないよう、防音加工などがされているため、大きな声で話したところで優以外には聞こえない。だからこそ、大声で話すこともできていた。

 

「分かっているさ……だが、それでも──この先、俺の願いを叶えるためには、必ず必要になる人材だ」

 

 テネシーの願いが何かは、この時の優には分からなかった。それでも、彼女にはテネシーの言葉に逆らうという選択肢は、恩人で、大切な人である以上──最初からない。

 

「……それで、この人物の説明は?」

 

「お、やってくれるか。もうすでに『アイツ』には話してるから、進めるな──彼は『諸星(もろぼし) (だい)』。本名は『赤井(あかい) 秀一(しゅういち)』。組織からは『RYE(ライ)』のコードネームを受け取る人物で、所属はFBI。凄腕のスナイパーで、『あの方』からは──『銀の弾丸(シルバーブレット)』となるかもしれないと、恐れられている男だ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 咲が最後に会ったときから髪はかなり短くなっているが、それでも顔は変わっておらず、歩き方も変わっていない。

 

(2年前から顔を見たことはなかったが……生きていて、良かった)

 

 そう内心で安堵するその横で、逆に修斗は内心で汗を流していた。

 

(うっそだろ、なんでこいつがここにいるんだよっ!?)

 

 修斗は、咲の隣に座る男のことを見たことがあった。直接話したことはないが、遠目から見たことがあった──今よりもっと若い、彼を。

 

(いや、話したことないし、名前すら知らないし、俺が話したのだってこの人の『妹』さんだけだし……大丈夫大丈夫、バレてない。だから変なことには巻き込まれない──たぶん)

 

 そこで希望的観測が出来ず、彼は心の中で打ちひしがれることとなってしまった。

 

(あぁ……この後、どうせ美術館どころじゃなくなるし、音楽でも聴くことにしよう……あ、メール先にしとこ……)

 

 そこで左ポケットから取り出した携帯を打ち、それを元のポケットの中に戻し、手をポケットに入れたまま、外を眺め始める。

 

 赤井は咳き込み、その鋭い視線を前方に向ける。その異様な気配にコナンが目を細めた所で、元太から声が上がる。コナンが元太が指さす先を見れば、既にスキーウェアを着てゴーグルすらつけている2人の男。スキー場までまだ距離があり、その男たちの姿はかなり異様で、せっかちな人物たちの様に見えた。しかも、男たちは既にバス内でスキー袋のジッパーを下げ始めたのだ。

 

 男たちの格好と行動に呆れた様子を見せるコナンだったが、ヘッドフォンを外していた咲は気づいてしまった──その袋の中でする、聞きなれてしまった金属音に。

 

「っ元太、光彦──静かにするんだっ!!」

 

 男たちの様に自分たちもと話す元太と光彦に声を掛ける。逃げろと、彼女は本当は言いたかったが──もう遅い。

 

 

 

「──動くなっ!!!」

 

 

 

 2人の男たちは、袋から取り出したトカレフを向けた。

 

「騒ぐと命はないぞっ!!」

 

 ピンクのニット帽を被る男が拳銃を向けてコナンたちを脅し、水色のニット帽の男は運転手を脅す。その手際の良さから、犯罪初心者ではないことが、咲には分かった。

 

 コナンたち以外にも乗っていた、犯人に近い前方に座っていた乗客たちが恐怖から声を震わせ、状況を飲み込めずに混乱していれば、それが現実であることを突きつけるかのように──乗客に銃を向けていた男が、天井に威嚇発砲をする。

 

 それに思わず咲は耳を塞ぎ、女性が金切り声を上げたが、それでも男は容赦なく脅す。

 

「聞こえねーのかっ!!?大人しくしてろ!!」

 

 そこで運転手を脅す男が、前扉を閉めるよう、運転手に言う。それに逆らうすべのない運転手が大人しく言うことを聞き──バスの中を密室にした。

 

「次に、このバスの行先を回送にするんだ!」

 

 運転手が回送にしたのを確認し、男がバスを発進させ、都内を適当に走るよう。指示を出せば、運転手は少し躊躇する。その思考すら見抜いた男が早くするように脅し、運転手は緊張した様子でバスを発進させた。

 

 

 

 ──そのバスを追うようにして、離れた所からスカイラインが走り始めたことには、男たちも気づかなかった。

 

 

 

 水色の男は、信号で止まったら運転手のバス会社に連絡するように指示を出す。そのすべてを聞いていた咲は、修斗の腕を不規則なリズムで叩く。彼女のそれがモールス信号であることを察した修斗は、その不規則なリズムに集中し、読み取り始める。

 

(バスを回送……停車後、バス会社に連絡?)

 

 そこで、ピンクの男が今度は口を開く。

 

「よ~し、良い子だ……それじゃあ、アンタらが持ってる携帯電話を、全てこっちに渡してもらおうか?──隠すと、一生電話を掛けられなくなっちまうぜ?」

 

 男はそう言って、携帯の回収を始める。そのタイミングでバスが信号に捕まり、運転手が無線を繋げる。

 

「こ、こちら、W707、小林……実は、いま──」

 

 そこで水色の男が無線を奪い、話し出す。

 

「──たった今、アンタんところのバスを占拠した!!要求はただ1つ、いま服役中の『矢島(やじま) 邦男(くにお)』の釈放だっ!!できなければ、1時間おきに乗客の命が、1人ずつ亡くなると警察に伝えろ!!……20分後、また連絡する」

 

 そこで無線を切り、バスは再度、走り出す。男が声を張り上げて叫んだその『矢島』という名前に、コナンと修斗、咲には聞き覚えがあった──先月、爆弾を作って宝石店を襲った強盗グループの1人で、元宝石ブローカーの男。この強盗事件の際、逮捕できたのは主犯の矢島のみで、警察はその3人の仲間たちを取り逃してしまっていた。その仲間と言うのが、いまバスを占拠する、目の前の男たちらしいが、あと1人がどこにも見当たらない。

 

(なるほど、どうやら宝石には素人の残った仲間が、奪った宝石を抱えて未だに捌けず、ボスの奪還を試みたか──もしくは、ボスしか知らない宝石の保管場所を、牢から出して聞き出そうってところだな)

 

「──おい、そこのお前っ!!早く出せっ!!」

 

 そこでピンクの男は赤井に怒鳴るが、彼は謝罪するとともに咳き込み、携帯を持っていないと話す。それに舌を打ち、その拳銃の先を修斗たちに向けた。その撃鉄を向けられてしまえば、小さな体で、しかも乗客たちもいる中で満足に動ける訳もない咲と、荒事が苦手な修斗が太刀打ちできるはずもない。咲は渋々と言った様子でジャケットのポケットから携帯を取り出し、修斗も()ポケットから携帯を取り出した。

 

 続いて赤井の隣に座っていた60代ぐらいの男性──『町田(まちだ) 安彦(やすひこ)』にトカレフを向けた。

 

「おい隣のオヤジ、なんだその耳につけてるものは!」

 

「ほ、補聴器です!!若い頃、耳を悪くして、それでっ」

 

 それを聞いた強盗犯は再度舌打ちするが、その町田の隣に座っていた女性のガムを噛む音にイラつき声を荒げる。

 

「おいそこっ!クチャクチャうるせーぞ!!」

 

「あったり前でしょ、ガム噛んでんだから」

 

 そんな気の強い茶髪の女性──富野(とみの) 美晴(みはる)』は、更に犯人を睨みるけて煽りだす始末。

 

「それに、こんなことしても、どうせアンタら捕まっちゃうんだから……早いとこ諦めて逃げた方が身のためなんじゃ──」

 

 そこでトカレフから火花が散るとともに銃声が当たりに響く。その行動を予測していたらしい咲はヘッドフォンで難を逃れたが、富野は違う──彼女の腕のスレスレに、鉛玉で穴が作られてしまっていた。

 

 それを目の前で見ることになってしまった富野は顔を青ざめさせて、先ほどの気の強さも逃げ出し、犯人に反抗せずに大人しくすると告げた。その態度に優越感を得たようで、男は嬉しそうに笑みを浮かべながら去っていく。

 

(……携帯の有無ぐらい訊けよっ!!)

 

 修斗が思わず内心でツッコミを入れるが、それが誰に届くわけもなく無へと消える。ピンクの男は乗客を見渡しながら歩けば、なぜか途中で躓いて転げてしまう──ジョディが組んでいた足を犯人が通る直前に組み換え、それに気付かなかった男が倒れてしまったらしい。

 

 となりでジョディのその行動を見ていた新出は焦る様子を見せたがもう遅い。その間抜けな姿を見せた男はぐつぐつと怒りを煮えたぎらせ、ゴーグル越しにジョディを睨む。しかし彼女は下を向いたままで、新出が思わず彼女の名前を呼べば、それに反応した彼女は乗客たちの様子を確認し、自分が何かしたと理解したようで英語で謝罪した。

 

Oh,sorry(ごめんなさい) ! Oh,my god(なんてこと) ! What have I done(とんだ粗相をしました) ? Are you alright(大丈夫ですか) ? I didn't mean that(そんなつもりはなかった). I always make a blunder and gets clumsy(私、いつも失敗ばかり). Are you──」

 

 そこまでジョディはトカレフの銃口を掴みながら男に捲し立てる。最初はその行動に思わず呆けてしまった男だったが、何を言ってるか理解できずイラつき、もういいと腕を振り払い、席に座るように怒鳴りつける。それを聞いたジョディは大人しく席に座ったが、後ろのコナンに楽し気に振り返る。

 

It's very very exciting(わくわくしちゃうわね) !」

 

 その呑気なジョディの様子に、コナンは思わず力が抜けてしまい、呆れてものも言えなくなる。

 

 その間も、バスは走り続け、男たちは前方に移動し、コナンたちを見ていない。それを確認したコナンが、ジャケットの右ポケットからイヤリング型携帯電話で目暮へと連絡し始めた所で、コナンの視界にスキーウェアが入り込む。それに目を丸くして顔を上げてみれば──ピンクの男が恐ろしい形相でコナンを見下ろしていた。

 

「──何してんだっ!!」

 

 男はコナンの首元を掴み上げ、下へ勢いよく叩きつける。その際、携帯機は手から滑り落ちてしまい、挙句に犯人に取り上げられてしまった。

 

(くっそ、電話取られちまった!!)

 

「コナンくん、大丈夫?」

 

「平気か、コナン」

 

 歩美と咲が慌てて近寄って、彼へと声を掛ける。その声にコナンは答えず、先ほどの出来事の違和感を考えていた。

 

(しかし、変だな……奴はまっすぐ俺の所へ来た。椅子の陰で見えなかった筈なのにっ!)

 

 そこでコナンは気づく──後ろの座席に、最後の1名がいることを。

 

(俺の行動が見える位置にいた──あの座席に)

 

 勿論、修斗と咲が仲間であると、コナンは考えない。お金に困るような生活をしていないことも理由だが、何より2人がそのリスクを負うような人物でないことを知っているからだ。

 

(でも、どうやって奴に伝えたんだ……不審な行動を取る俺の位置を、誰にも気づかれず、一体、どんな方法で……)

 

 その間もバスは走り続け──その後ろを赤いRX-7が走る。

 

 また少しして、無線連絡で矢島が釈放されることを聞き、水色の男は笑みを浮かべた。

 

「そうか、釈放する気になったか。それじゃ、釈放した矢島に1時間後、こっちに連絡するように伝えろ」

 

 矢島の口から、安全な場所に逃げられたことの報告が来れば、人質を3人解放すると伝え、下手な真似をするなと忠告し、無線を切った。そこで2人は黄色の蛍光色のスキー袋を縦に2つ並べて置く。その中身の正体を、コナンと咲は理解した──爆弾だ。

 

 コナンが席から降り、体を隠すように腹ばい状態で手を伸ばす。後ろでは富野が頬にガムを付けてしまったのかべたべたと触っていたが、コナンは気にせずに行動する──しかし、その手を伸ばした時点で、先ほどコナンを投げた男が再度、トカレフをコナンに向けていた。

 

「──またお前かッ!!」

 

 そのトカレフはコナンの米神に向けられ、殺意が目に見える。殺すつもりでコナンに立つよう指示する男と、矢無負えずにその指示に従うコナン。そんなコナンの姿に、流石の修斗も動こうとしたが──それよりも早く、咲と新出が動いた。

 

 咲と新出はコナンの前に躍り出て、体の全部を使って、コナンを犯人から隠すように囲った。

 

「や、やめてくださいっ!!ただの、子供の悪戯じゃないですかっ!!」

 

「ご、ごめんなさい!!私の、私の友達なのっ……う、撃たないでくださいっ!!」

 

「それに、貴方方の要求は通ったはず──ここで乗客に1人でも被害者が出ると、計画通りにいかないんじゃないですかっ!?」

 

 その言葉に逆に怒りを表す男──そのトカレフの前に、今度は修斗が掴む。

 

「おい。感情に任せて撃っていいのか?──俺たちどころか、アンタたちの命の保証もなくなるぞ」

 

 それに、と修斗は続ける。

 

「人質の効果って言うのは、人数がいればいるだけ、上がるはずだ」

 

 その冷静さが今の男には怒りの種にしかならなかったが、そこで慌ててやって来たもう1人の男にも同じく諭され、渋々と言った様子でトカレフを離す。それで問題ないと判断したのか、水色の男が代わりにコナンたちにすぐ席に戻るように促す。勿論、その男たちと修斗の言葉で、スキー袋の中身が爆弾であることが決定的となった。それと共に、コナンの行動を報告した人物がいることも決定的となった。

 

 本当は修斗に話を聞きたいコナンだが、修斗と咲はその仲間と同じ席にいて話が聞けない。そこでコナンは隣に座る哀にも知恵を貸してもらおうとしたが──哀自身は、フードを被ったまま、狩られる前の獲物の様に震えている。

 

「おいっ」

 

 コナンが思わず哀に声を掛けるが、それは哀には微塵も届かない──今の彼女は、彼女に向けられるプレッシャーに押しつぶされそうになっているのだから。

 

(なにっこのプレッシャー……あの時と同じ、威圧感。いる……あの人が、このバスの中にっ。やっぱり組織の人間!?私と咲を追って来たの!!?

 それとも、偶然?)

 

 哀と咲の正体が、組織を裏切った『シェリー』と『カッツ』だと知られた場合、組織は容赦なく探偵団や博士、北星家の人間──そして、コナンが消されることになる。

 

(お願い……お願いだからっ──見つからないでっ!!)

 

 そしてそれは、咲も同じ。

 

(……まずいことをしたな)

 

 コナンの命が危ないと理解した途端、彼女は考えなしに飛び出してしまったが──これで彼女はバレてしまった可能性が出てきた。そのことを理解し、フッと笑う。

 

(──潮時か)

 

 北星家を出ることを決め、その時こそ──そう考えた所で、咲の左手が包まれた。

 

 彼女が目を見開いて顔を上げれば──修斗と目があい、彼は首を横に振った。

 

(──出ていくことは許さないって、言いたいんだろうが……)

 

 そこで包まれていた手にを、指先を動かし、不規則なリズムで叩かれる。その信号を読み取った咲は、愁いを帯びたその目を丸くさせ──涙を瞼に溜めた。

 

(逃げるな、立ち向かえ。絶対に、守り切る……だから、もうどこにも行くな──一緒に、戦え!!)

 

 そう修斗は伝えた後──左のポケットに隠したままの手をその中で動かし始めた。

 

 ──隣に座る、赤井の視線を密かに受けながら。




さて、実は今回、オリキャラもいるんだからと多少、オリジナル展開も混ざっております。勿論、終わりは変わりませんのでご安心ください。

車の種類で誰が乗ってるか、良ければ調べてみてくださいねっ!!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!

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