とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

78 / 83
第36話~バトルゲームの罠・後編~

 敏嗣を連れて戻って来た高木と伊達。それを目暮たちは向かい入れると共に、敏嗣に簡単な事情を説明し、被害者の横から現れた理由を聞けば、敏嗣はほんの少し、笑みを浮かべる。

 

「──100円玉を拾っていたんですよ。奥の自販機でコーヒーを買おうと思ったら、小銭を床にバラ撒いちまいましてね」

 

 更に敏嗣は、被害者の賢吾は嫌な男であったと同時に、ゲーマーとして一目置いていたのだと話す。しかし、右隣に立っていた高保が鼻で笑った。

 

「よく言うぜ、レースゲームでへまったところを奴に見られて、赤っ恥をかかされていたじゃないか」

 

 それを聞いた目暮が高保に本当か訊けば、賢吾は大声で死にたくなければ敏嗣の車に乗るなと言ってのけたらしい。それに瑠璃が顔を引き攣らせていると、反対に敏嗣は高保の方が大きな動機があると言い出す。

 

 敏嗣が言う高保の動機──それは、彼の妹と賢吾が交際していること。しかし、賢吾はヒモ男。高保の妹に集っていた様子だ。

 

「まぁ、兄貴は兄貴でゲーマーなんだから、文句を言えた義理じゃないけどな!」

 

 そこで敏嗣は左にいた均に目を向けた。

 

「それに、アンタもだろ?奴にいなくなってもらいたかったのはよ!!」

 

 敏嗣曰、均は半年前までは『米花のパトラ』と名の通ったゲーマーだったらしい。しかし、賢吾に言い訳のしようもないほど敗北し、その後は行方知れずだったのだと言う。

 

「──まさか髪型変えてゲーセンのバイトやってるなんて、思ってもみなかったがね!」

 

 それぞれが互いに疑う中、松田はジッとある人物を見つめていた。

 

「……松田さん、どうされました?」

 

 瑠璃が小さな声を掛ければ、彼は深い息を吐き出した。

 

「……目星はついてるんだが、凶器が見つかんねぇのがな」

 

「あぁ、なるほど……あ、ならトリックは分かったんですか?」

 

 瑠璃の問いに松田が頷いたところで、出入り口がノックされると共に警官が入って来た。どうやら、被害者の血液から毒物が検出したらしい。

 

「毒物はテトロドトキシン。侵入部位は右上腕内側で、動脈まで到達している模様です」

 

「テトロドトキシンって、ふぐ毒ですね……どこから入手したんですか犯人……」

 

「釣りしてふぐでも吊り上げたんだろ」

 

「そこまでやるって、犯人の殺意高いな」

 

「そもそも、どこの部位かは調べればわかるとは思うが、見て分かる犯人がすごいな……」

 

 いつもの刑事4人がそれぞれ言い合っている横で、ジョディが口を開いた。

 

「テトロドトキシン……通称『TTX』。致死量は0.5~1㎎、青酸カリの500分の1で死んでしまうcrazyな毒。ふぐに多く含まれていて、口から入れれば中毒症状の進行が遅く、助かる場合が多いけれど──直接、血液に注入されると短時間で神経が麻痺しThe END」

 

 いきなり滑らかに話し出すジョディに蘭、園子、そして瑠璃が目を丸くし見つめれば、彼女は友人の医者が言っていたのだと、またたどたどしい日本語で、笑顔を浮かべて話す。

 

 その明らかにおかしい様子に、彰、松田、伊達の目が鋭くなる。

 

「……瑠璃、アイツ何者だ?」

 

「いや、私も帝丹高校の教師をしてるってことぐらいしか……あ、あとゲーム好きのゲーマー仲間!」

 

「ンなことは知ってんだよ」

 

「な~んで『普通』の教師が毒物を詳しく知ってて、今の様にたどたどしいどころか滑らかに日本語話せんのに、わざとらしく下手な日本語話してんのかって聞いてるんだ、俺らは」

 

 伊達が瑠璃と目を合わせて訊けば、瑠璃も困惑している様子。彼女も今の今まで、日本語をあれだけ上手に話せることなど知らなかったのだ。そして、瑠璃の表情でそのことを理解した3人は、ジョディになにかしら裏があることを理解した。

 

「……兎に角、今は事件解決が先だ。松田、彰……気になるのは分かるが、脱線するんじゃねぇぞ」

 

 伊達が2人に注意を促せば、2人は渋々と言った様子で頷き、目暮の言葉の元、現場検証をすることになった。そこで移動し始めた際──松田達の耳に、何か金属音が擦れるような音が入った。

 

 それが何かを考えようとしたところで、瑠璃から少し離れた位置にいたコナンが、出て行こうとしていた均に声を掛けた。

 

「ねぇお兄さん!左足の靴紐、解けかけてるよっ!」

 

「っああ!!悪いね、坊や……」

 

「ううん──そのままで転んだら危ないもんね!!」

 

 そこでコナンと松田達はあるものを目にし──ニヤリと笑った。

 

(──これで、漸く見つかった)

 

(『あの人』だ……『あの人』が尾藤さんを毒殺したんだ!!──このゲームセンターという、異質な空間を利用してっ!!)

 

 しかし、全員の中で引っかかるのは犯人が、松田達の前で放った一言──そこで、蘭に声を掛けられたコナンは、思考の海から現実に戻って来た。蘭が早く行こうと声を掛け、コナンはオフィスルームから出ていく。松田達も、この場にいても意味がないと後を追うようにして出て行った。

 

 そこで瑠璃だけが振り返り──残り1人に、声を掛けた。

 

 

 

 

 

「早く行こう?──ジョディ」

 

 

 

 彼女は腕組をしていた姿を解き、笑顔を浮かべて頷き、瑠璃と共に現場へと向かい始めた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 現場に集まってすぐ、高木が店内捜索から戻って来たが、凶器となるようなものは何処にも見当たらなかったと目暮に報告する。監視カメラで見ても、瑠璃とコナンの指示と判断によって、容疑者は誰も外には出れずにいた──つまり、凶器はまだ店内にあるのだ。

 

「凶器はまだ、犯人が所持してる可能性が高いですね」

 

 高木が目暮の耳元で告げる。見つからない以上、その可能性が高くなるのは当然で、容疑者の全員に対し、別室で身体検査をすることを告げれば、高保が鼻で笑った。

 

「検査でもなんでも受けますがね、俺を調べるのは筋違い──」

 

「──キャラクターを交換していた可能性があるので、検査の参加をお願いしますね」

 

 高保の言いたいことを察した瑠璃が笑顔で告げれば、高保の顔が引き攣った。

 

「キャラクターの……交換?」

 

 目暮がよく分からないと言った様子でオウム返しをすれば、瑠璃は頷く。

 

「まあ、普通はあまりやらないんですが、こういうゲームだと、どちらのプレイヤーがどのキャラを使っているのかは、プレイヤー同士でしか分からないので」

 

 高保の言葉はそれにより無効とされてしまった。しかし、他3人はそれを聞き、自分たちはもっと無理だと話しだす。

 

 ──均が賢吾に近づいたのは、監視カメラにも映っていたように集金時のみ。試合中もカメラで画面を録画していた。

 

 ──敏嗣が近付いたのは試合中のみ。しかし、彼が出てきた側は右ではなく左。毒を注入した側とは反対だった。

 

 ──ジョディはレーシングゲーム中で、被害者の隣の席には座っていたが、その間は腕を伸ばしても届かないほど距離があると、園子が件のレーシングゲームの椅子に座りながら代弁した。

 

 それを聞き、目暮たちの目が高保に集中したところで──高木の後ろからゴトッと音がした。

 

 全員の目がその音の原因を見れば──椅子に座っていた園子が、ハンドルを枕に眠ってしまっていた。

 

「……そ、園子ちゃん??」

 

「どうしたの、園子?」

 

 瑠璃と蘭が彼女の名前を呼べば、彼女は目を開けることなく話し出す。

 

「ホント、力抜けちゃうわよ──もう目暮警部、ガッカリって感じ」

 

 思わぬ目暮への言葉に、松田が噴き出しそうなところを彰が口を押えて防いだ。そんな後ろのやり取りに気付かないまま、園子──の影にて声を出すコナンは続けた。

 

「犯人がニヤついているのに、それに気付かないんだもの」

 

「何っ!?」

 

「なんだ、お嬢ちゃん。探偵ごっこでもしようってのか?」

 

 伊達が険しい表情で言えば、コナンは答える。

 

「そうね。犯人が分かっちゃったもの──私が説明するわ」

 

 その言葉に目暮と被疑者たちが目を丸くする。ただの高校生が、急に眠った途端に真相に辿り着いたと言われれば、当然の反応とも言える。それでもコナンは話をやめない。

 

「毒の侵入部は右上腕内側で、本人の言う通り、被害者の左側にしか近づいていない江守さんは、犯行不可能。対戦が始まる前に被害者と接触した出島さんも、その後で被害者が清水さんと会話しているから対象外」

 

 また、ジョディもその間中、レーシングゲームに瑠璃と共に夢中で遊んでいたため対象外。それと共に被害者の反対側にいた蘭、園子、ジョディの右隣に座っていた瑠璃も不可能。つまり、犯行が可能となったのは──高保ただ1人。

 

 園子のその言葉に、高保は笑いだす。

 

「何言ってんだ、お嬢ちゃん。アンタも見ただろ?──対戦で俺が奴に凹にされているのを」

 

「それは、瑠璃刑事が言った通り──キャラクターを交換したのよ」

 

 そこで実験とばかりに蘭と高木の名前を呼び、2人に件の格闘ゲームをしてもらうことになった。その際、2人にそれぞれコナンが話しかけ、それが終わった後、互いの対戦が始まった。

 

 互いのキャラはそれぞれ女性キャラクターの『パトラ』と男性キャラクターの『シーサー』。するとまず『シーサー』が『パトラ』に右パンチを入れ、そこからラッシュが決まり、右足で『パトラ』の顎を蹴り上げた。その瞬間は観客全員が思わず目を瞑ってしまい、高木に対して酷いと言う声すら上がる始末。そんな周りの声を聞き、目暮も思わず高木に手加減をするように言うが、彼はずっとガチャガチャ操作するばかり。その合間に『シーサー』が『パトラ』を倒し、一方的な試合が終わった。

 

 コナンが全員の視線がそれている隙に園子を背もたれに預ければ、その横で目暮が苦言を漏らすと同時に高木がつけていたヘッドギアを外し──高木がネクタイで目隠しした状態だったことに気付いた。

 

「園子姉ちゃんに言われて、僕が高木刑事に伝えたんだよ──使うのは女キャラで、ネクタイで目隠しして、対戦中は力を抜いて何もしないでってね!」

 

 その言葉は、逆に言えば、あの『シーサー』を使っていたのが蘭だと言うことになる。彼女もまた、コナン経由で園子から頼まれたとおりにしたらしい。

 

「なるほど、瑠璃の言う通り、キャラクターを交換してたって訳か」

 

 松田がコナンを見ながら言えば、彼は頬を引き攣らせ、園子の後ろに隠れた。

 

「そう。あの時も、今みたいに先入観があった。尾藤さんは『米花のシーサー』、清水さんは『杯戸のルータス』。周りのお客は当然、その持ちキャラを使うと思っていたわ。おまけにこのゲーム、HPゲージがなくて、モニターではどっちがどっちのキャラを使っているのか分からない──お互いのキャラを入れ替えても、気づかれないってわけ」

 

 その推理では、賢吾は対戦する前から、毒殺されていたということ。もしくは意識が朦朧としていた可能性もあるが、どちらにしろ、ゲームで反撃できるような状態ではなかったことだろう。また、テトロドトキシンは全身に運動麻痺を引き起こす毒物──生きていても、座っているのすら困難な状態出ることが推察できる。

 

 目暮はその推理に、観戦客も様子がおかしいと気付くのではと言うが、それを高木が否定する。彼は、攻撃が当たるたびに手足がずらされるため、注意深く見ていないと、周りから見てみればゲームをしているように見えると言う。

 

 ゲームをしていた本人自らの言葉は信憑性を増し、ゲームの特徴である拘束状態であれば、体もずり落ちない為、更に都合がよくなる。

 

「つまり、清水さんがとった行動はこうよ。対戦直前に尾藤さんの所に行き、右脇の下に毒針を刺し、尾藤さんが藻掻いている隙に、彼がやっていたゲームを終わらせ、新しいキャラで再びゲームを始める──自分の持ちキャラ『ルータス』でね」

 

 その後、もう一台の対戦台に座り、賢吾の持ちキャラ『シーサー』でゲームに乱入すればいい。その後に動けない相手を『シーサー』で一方的に殴れば、周りからしてみれば、高保が賢吾に負けているように見せることが出来る。

 

「でも、なんで対戦のラストに止めを刺さなかったの?」

 

「それは多分──結果表示を見せたくなかったから」

 

 瑠璃が答えを言えば、コナンも同意した。

 

「えぇ、瑠璃刑事の言う通りよ。あのまま負かしていたら、誰かが尾藤さんに駆け寄った時、勝ったはずの彼の画面に『YOU LOSE』の文字が出ちゃうでしょ?引き分けにすれば画面に出るのは『DROW』。『DROW』ならすぐゲームオーバーで、尾藤さんが使っていたキャラが何なのか分からないまま」

 

 そこまで聞いていた高保が凶器はどうしたのかと訊く。コナンの言う通りであればどこかにあるはずだが、店内からはそれが見つからなかった。身体検査もいくらでもしていいと言う高保の言葉に、コナンは言う──出てくるはずがないと。

 

「凶器はもうあなたの手元から離れているんだもの。でも貴方、知ってた?──問題の『それ』は、貴方の傍を行ったり来たりしてるのよ!!」

 

「──なんだとっ!?」

 

 そこで松田達が動く。彼らは均の元に向かった。

 

「出島さん。悪いんだが、靴底を見せてほしいんだが」

 

「えっ……わ、分かりました」

 

 彼はそう言って左足を見せようとしたが、それを彰が右足を見せてほしいと再度頼み、その右靴の底から──何かが張り付いてるのが見えた。

 

「そう。清水さんは毒針を煙草の中に入れて、ガムにくっつけ、それをガム紙の上に乗せて──それを床に放置したのよ」

 

 対戦中にモニター前に集まった誰かしらがそれを踏み、持ち去ってくれるようにしたかったようだ。

 

「放置したタイミングは、監視カメラに映ってた、あのライターを拾ったっていう場面」

 

「煙草を平たく潰しとけば、踏んでも気付かれにくい」

 

「仮に気付かれても、煙草の吸いさしだと思って捨てるだろうしなぁ?」

 

「ただ、危険な毒がついてるか拭ったかは分からないんで、目暮警部、気を付けてくださいね」

 

 瑠璃、伊達、松田が話し、最後に彰が目暮に注意を促せば、彼は頷き、すぐに鑑識が持ってきたパックにそれを入れた。

 

「煙草にその細工をしたのは犯行前……多分、このゲームセンターのトイレの中でしょうね」

 

 凶器の煙草を紙で丸めて煙草の箱に入れておけば、いつ取り出そうと不自然にみられることはない。それを聞いた目暮が紙や煙草から高保の指紋が取れればと考えれば、高保が笑う。

 

「よく出来たお話だと褒めてやりたいが、残念ながらこいつは罠だぜ……お嬢ちゃん」

 

 高保が言うには、煙草もガムも、本人が取り出した銘柄や物とは違うと言う。彼は対戦中に験を担いでガムを噛むのだが、それは雑誌にも載るほどの有名な話。なんなら調べても構わないと掌を目暮に見せる。それを聞いたコナンが気障な笑みを浮かべた。

 

「──そう言うことだったのね!ずぅっと気になっていたのよ。凶器の隠滅にガムを使ったあなたが、どうして警察の前で、ガムを口にしたんだろうってね」

 

 コナンが言うには、彼が使ったと思われるガムも煙草も、ゲームセンターに置かれている灰皿に残った他人のもの。例え毒針が見つかっても、その言い訳のためにガムを噛んだのだと。

 

「──わざわざ自分に疑いの目を向けさせる犯人なんていないという心理を逆手にとって」

 

 被害者に刺す際にも、指ではなく、指と指の間に挟んで押し込みさえすれば、指紋も掌紋もつけずに犯行は可能となる。煙草であれば、箱の底を押し上げて指に挟めば、指先で取ることなく済む。

 

「でも──コインならどうかしら?」

 

 そこでコナンが均に、問題のゲーム機のコインボックスを開けてほしいと頼めば、彼はすぐにゲーム機に近づく。本来であれば100円玉は2枚で、その前のお金は既に均が回収しているためそれ以上はないはず。しかし、コナンは言う──3枚あるはずだと。

 

 均がそれを聞きボックスを開けてみれば──見事に3枚あった。

 

「あっ、本当だっ!!?」

 

「3枚のうち1枚は、最初にゲームを始めた尾藤さんのもの、もう1つはさっきゲームを終えた高木刑事のもの。そして残るもう1枚は、犯人がトリックのために再びゲームを始めたときに入れたコイン──そう、清水さんっ!!貴方の指紋がべったり着いた、100円玉なんですよ!!!」

 

 コインが集金されたのは高保がゲームセンター内に来る前。高保の指紋がついた100円玉が大量のコインから見つかろうと問題ないと考えた高保。コインに指紋を付けない方法は、手袋などで指を隠すしかないが、それを着けた状態で自然に投入できるかは怪しいところ。

 

 そこまで言われて──高保は諦めたように肩を落とした。

 

「……着いてるよ、俺の指紋。あの100円玉はしっかり握って入れたんだ──俺のラストゲームにするつもりだったんだからな」

 

「ラストゲーム?」

 

「ああ。これでゲームとも、あの男ともおさらばするつもりだったんですよ──失明寸前で入院する妹のためにね」

 

 彼の妹がなぜ失明寸前にまでなってしまったのか──それは、栄養失調によるビタミンA不足によるもの。

 

 現代の様に飢餓に苦しむことが稀な時代にも関わらず栄養失調になったのは、賢吾のギャンブルによって膨れ上がった借金返済をするために、妹は食事もほとんどせずに仕事をし続けたのだと言う。

 

「そんな目にあわされても、妹はあの男と別れたくないって言うし……」

 

「だが、そんな男とよくゲームなんかやれたものだな……」

 

 目暮の問いに、高保は目を伏せた。

 

「……あの男が言ったんですよ──『俺に1度でもあのゲームで勝ったら、妹と切れてやってもいい』って」

 

 賢吾に勝つためにゲームの腕を上げ、『杯戸のルータス』と呼ばれるほどにまで強くなった高保。しかし、それでも賢吾には勝てなかった。だから──殺害を選んでしまった。

 

「……でも、実を言うと後悔してるんですよ──あの男の操る無敵の『シーサー』を倒す機会を、自分で絶ってしまったんですから」

 

 彼は警察に連れられる前に──そう嘆いたのだった。

 

 

 

 

 ゲームセンターから出るころには外は真っ暗で、辺りは街頭や建物のネオンの光ばかり。そんな街を、瑠璃とジョディが保護者となって歩くコナンたち。松田たちは警視庁へと戻ってしまいいない中、女性陣の話題は先ほどのゲームセンターでのことばかり。

 

「Oh! すごいデス、園子!Good job!!」

 

「かっこよかったよ!!」

 

「まるで『Kate(ケイト) Martinelli(マーティネリ)』みたいデシタ!」

 

「ケイト……?」

 

(ああ、アメリカの女刑事物ね……)

 

 コナンがジョディの話した名前で何が言いたいのかを察している後ろで、察することのできなかった瑠璃も園子たちと同じように首を傾げていた。

 

「でも本当、新一顔負けの名推理だったよ!!」

 

「──シンイチ?」

 

 ジョディは一瞬考えると、すぐに思い出した──学園祭の時に、黒騎士から姿を現した青年のことだと。

 

「──He is so cool !(彼はとてもカッコいい!)

 

 ジョディの言葉を聞いた蘭は、まるで自分のことのように頬を赤くする。そのジョディに続き、瑠璃も笑みを浮かべる。

 

「いやいや、新一くんは凄いよ!なにせ『平成のシャーロック・ホームズ』って言われてるんだから、彼女なら謙遜してちゃだめだよ!」

 

「し、新一とはそんな関係じゃないですから!!」

 

 そこで分かれ道となり、瑠璃はそのまま蘭たちの保護者役としてジョディと別れた。そんな4人のうちの1人──コナンに向けて、ジョディは言う。

 

「──Bay Bay, cool gay.」

 

 その言葉が聞こえた4人が思わず振り向けば──ジョディは既に背中を向けて歩き出していた。

 

 

 

 ──とあるマンションにて、ジョディは滑らかな日本語で電話をしていた。

 

「……ええ、そう。ちょっと色々あってね……貴方の言う通り、こっちも退屈しそうにないわ──お目当ての標的の1人は爪にかかったわよ」

 

 彼女がいう『標的』は、容姿を変えて堂々と学校に来ていると、電話の向こうの誰かに話す。そんな彼女は、とても魅惑的な笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ、笑っちゃうでしょ?」

 

 そこで、電話の向こうの人物は言う──標的の名前は、と。

 

 それに対し、彼女はテーブルの上に置かれた林檎を持ち上げ、見つめ──名付けた。

 

「そうね──『Rotten apple』……『腐った林檎』にでもしておきましょうか」

 

 そこで彼女は思い出したように口に出す。

 

「それから、貴方が気にしていた梨の子ととてもよく似た女性とも接触したわ──ええ、そう。名前は北星瑠璃……双子の妹。とても人懐っこい子だけど、警察の人間。何より彼女、ちょっと特別な力を持ってるの……『完全記憶能力』。見たものや聞いたものを忘れない記憶能力。『腐った林檎』が接触するのもリスクが高いから、彼女と接触するとしても、後でしょうね……まあ、しばらくは『友達』でいるわ」

 

 ジョディはそう言って、笑みを浮かべるのだった。




さて、予定は未定としていた殺意の陶芸教室ですが、やはり書くところがなさそうで、書いたとしても文字数が少なくなりそうなので、飛ばします。

つまり、次回……



謎めいた乗客編となります!!

色々、頑張りますので、お楽しみに!!

それでは、ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。