とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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この話を書く上で、実は私、交通指導課が由美さんが所属しているところだと勘違いしており、瑠璃さんが所属するつもりだったところとは違うなと思ってましたが、よくよく確認してみれば、執行課だったんですね……確認していてよかったです。

それでは、どうぞ!


第36話~バトルゲームの罠・前編~

 いつもなら忙しく取り締まりをする瑠璃。休日であろうと仕事が入るのが警察なのだが、瑠璃は現在、ゲームセンターにてとある人物と対戦ゲームをしていた。

 

「今日こそは負けないよ──『ジョディ』!!」

 

「ワタシだって負けまセーン──Come on!!」

 

 初めてであったのも、このゲームセンターで瑠璃がシューティングゲームをしていたのが切っ掛けだった。ゲームが終わったところで後ろから声を掛けられ、以後は顔を合わせれば互いにゲームで対戦する仲となった。瑠璃がモデルガンを構えるその隣で、対戦相手の金髪眼鏡美女は、シューティング用の銃を持たず、構えていた。

 

 最初のころは、彼女のその独特なゲームの遊び方に引け目を感じていた瑠璃だったが、すぐに闘争心に火が付き、今はそれが普通となってしまっているので何も言わず、準備が出来たかだけ目で確認してから対戦モードでゲームを始める。今回のはよくあるゾンビを撃つものではなく、怪物を撃つゲーム。出てくる怪物も緑の爪が大きなもので、戦隊もので見るような外見のキャラクターだった。

 

 瑠璃も警察官。警学時代の苦い思い出が頭をよぎる彼女の腕前は、最終的には真ん中の成績ではあったが、一般人相手であれば瑠璃は問題なく勝つことが出来る──一般人であれば。

 

 瑠璃は知っている──彼女の腕前を。

 

 スタートの合図と共に美女は銃を抜き取り構えると、両者ともに撃ち始めた。瑠璃が漏れなく撃つその横で、同じく美女が的を外すことなく、瑠璃を圧倒するスピードで怪物を打ち倒していく。その両者の──特に美女の腕前に周りが感嘆の声を上げる中、最後の敵が出てくる直前、銃を上に投げると共にくるりと時計回りに一回転し、落ちてきた銃を綺麗にキャッチすると共に最後の敵を撃ち倒した。

 

 その華麗な腕前に、観客たちが感嘆の声を上げる。ゲームの方では最後の敵を美女に取られてしまったが、瑠璃は彼女に対し、悔しいと言った感情はいつも不思議と湧き上がらない。

 

(すごいっ……『ジョディ』はやっぱり凄い!!!)

 

 結果として、やはり美女の方が圧倒的なスコアを叩き出しており、それを見た瑠璃が目を輝かせて美女を見つめる。

 

「あ~ん!!また負けたぁ……でもやっぱり、『ジョディ』は凄いっ!!」

 

「それほどでもアリマセーン!!アナタも、とてもgoodな腕前でした!!」

 

「──『ジョディ』先生!?」

 

 そこで美女に声が掛けられる。その聞き覚えてしまった声に、瑠璃も思わず顔を向けた。

 

「……oh!毛利サンと鈴木サン!!」

 

「ら、蘭ちゃん!?」

 

「瑠璃刑事までっ!?」

 

「どうしたんですか?こんなところで……」

 

 そこで『先生』と『刑事』という名詞に、周りの人々がざわつき始めた。

 

 特に白い目を向けられているのはジョディ先生で、蘭たちの制服から帝丹高校の先生ではないかと口々に噂をされ、ジョディは手を横に振り、人違いだと否定し、コナンも含めて5人は休憩ルームに移動し、話が始まった。

 

「──えぇっ!?放課後、毎日このゲーセンに通ってたぁ!?」

 

 園子が知っている『ジョディ先生』は、露出度の高い服を着て男子生徒を虜にする魔性の女性。真面目過ぎて面白味がなく、普段も無口で澄ました様子で、放課後にお茶に誘っても来てくれない。所謂『名家の箱入り娘』といった女性。ジョークの1つもないその姿に、いつも不満があったのだ──今日、『ジョディ・サンテミリオン』が、瑠璃とゲームをしている姿を見るまでは。

 

「YES!ニッポンのゲームはどれもトッテモbeautifulでexciting!!勿論、アメリカに入ってくるニッポンのゲームもダイニンキ!!いつもいつも並んでイテ、順番が回ってきまセーン……だからワタシ、英語教師になったんデス!!毎日、ホンバのゲームをenjoy出来るからネ!!」」

 

 そう楽しそうに笑顔で言うジョディに園子と蘭は互いに顔を見合わせ、コナンは呆れ顔。流石に瑠璃も苦笑いだ。

 

(げ、ゲーマーだったのか……)

 

「私も、休日とかにゲームしに来たりはするけど、そのたびにジョディと合うし声を掛けられるから疑問には思ってたけど……」

 

「じゃ、じゃあまさか……あの真面目な授業はっ」

 

「YES!モンダイおこしてクビになったらThe END……外国人のニッポンでの就職は、どれもとてもムズカシイデス!!」

 

 ジョディはこのゲームセンターで遊んでいることは秘密にしてほしいと、蘭と園子、瑠璃にも頼む。それに瑠璃が頷く横で、蘭と園子は笑顔を浮かべて先ほどのことで自身が思ったことを告げる。

 

「でも、とってもカッコよかったですよ!!」

 

「そうそうっ!!ビリー・ザ・キッドみたいで!!」

 

 園子の誉め言葉に、ジョディはもっと楽しいゲームをやってみないかと誘う。ゲームセンターの中では流行りの格闘ゲーム──『Great Fighter SPirit』。

 

 ジョディと瑠璃の案内の元、そのゲーム機の前にやって来たコナンたち。ゲームセンターに来たらプリクラを撮ることが多い女子高生組にとっては、聞き覚えも見覚えもなかった。

 

 不思議そうに画面を見つめる2人の元へジョディはヘッドギアを持ち、近づく。それを蘭に被せて席へと誘導し、彼女が座ったのを確認し、コインを投入する。画面には8人のキャラクターが現れ、ジョディが初心者の蘭のことを考えて、初心者用キャラクターの『パトラ』という女性キャラクター。

 

 キャラクターが選ばれると、移動できないよう体の前にロックが掛かる。それを不思議そうに見ていた蘭だが、それは手足まで動かせないように拘束されてしまったことにより、驚きに代わる。

 

 目を丸くして現状を見ていると、手首の部分が自動で伸ばされ、それに引っ張られるように腕も伸びる。手に握ったままになっているハンドルを軽く握れば、画面上に髭面のキャラクターと共に『START』の文字が点滅している。それを確認したジョディが蘭の右手に軽く手を添えた。

 

「右パンチを軽く入れたらSTART……OK?」

 

「お、OK……」

 

 少し戸惑い気味の蘭の後ろに瑠璃。そして横に園子も立つ。彼女も、ジョディが紹介したゲームと蘭の様子が気になるのだ。

 

「Ready……」

 

「──GO!」

 

 ジョディと重ねて瑠璃が合図を声に出せば、敵キャラクターが右ストレートを構え、それに思わず体が固まってしまった蘭は対処できず、そのままキャラクターからパンチを受け、その衝撃を現すように体が少し痺れ、席も後ろに少しだけ倒れる。

 

「痺れたっ」

 

「蘭っ!!」

 

「ソウ!コレは殴られたダメージがplayerに伝わる、virtual fighting game!!……女の子には、ムリだったデスか?」

 

 ジョディが心配そうに声を掛け、横で下から蘭の顔を見るコナンも心配そうな表情で彼女を見つめる。

 

「う~ん……ジョディ、今更だけど、ちょっと早かったんじゃない?」

 

「ソウですか?」

 

 瑠璃が、何度も荒い息を吐き出す蘭の様子を見て、自分たちは選択をミスしたのではと心配そうにする。そんな2人を置いて、蘭の横で画面を見ていた園子は気づいた──敵キャラクターが再度、右ストレートをくらわせようとしている姿を。

 

「ちょちょちょっと、蘭っ!!まえっ!!!」

 

 園子の声が聞こえたのか、蘭が息を深く吸い込むその姿は、下から見ていたコナンにしか見えず、コナンは──彼女が本気になったことに気付いた。

 

 蘭が目を瞑り、精神を集中させ──体を構え、鋭くキャラクターを見据える。

 

 その深く吸った息を吐き出すとともに、渾身の右ストレートを蘭が繰りだし、左足で蹴り上げ、連続でパンチを続け、最後に右パンチを繰り出せば、その時点で青い顔をしていた敵キャラクターはそのまま倒れ込み、画面には『You Win!』と出てくる。その蘭の気迫を初めて見た瑠璃は、後ろで目を点にしている。そんな彼女の目の前では、蘭は嬉しそうに笑顔を浮かべ、園子がジョディに空手の都大会で優勝するほどの実力者なのだと自慢していた。

 

「……蘭ちゃん、すごいねっ!」

 

 蘭のその戦績を初めて聞き、感心したように蘭を褒めていると、唐突に画面に別の男キャラクターが現れた。

 

「あれ?誰か入って来た……」

 

 唐突な出来事に、格闘ゲーム初心者な蘭と園子が戸惑っていれば、理由を理解したジョディと瑠璃が目を細める。

 

「乱入、だね」

 

「──他のplayerがアナタにchallengeしてきタァノ」

 

 瑠璃とジョディの言葉に、驚いたようにジョディが見ていた後ろへと2人が顔を向ければ、確かにそこには同じゲーム機に座る男がいた。

 

 その男を見て、ジョディは一瞬で理解した──相手が凄腕のプレイヤーであることを。

 

 蘭に気を付けるようにジョディが言えば、蘭は相手の挑発的な笑みを見て、それに乗る。しかし、開始の合図とともに蘭の右パンチが繰り出されるが、それは華麗にジャンプされて避けられ、相手はその落下中に態勢を立て直し、左膝蹴りをパトラの右頬に当てた。蘭は男に何度もパンチを撃つがそれは一度も当たらず、右足で腹部へと蹴りを入れた。その後、蘭は攻撃の隙も与えられず、パトラは青い顔をして倒れてしまい、負けてしまった。

 

「あ~、負けちゃった……」

 

「悔しい~!!」

 

 女子高生組が悔しがる後ろで、男はヘッドギアを取りつつ、話しかけてくる。

 

「サァテ、負けたならさっさとそこをどきな、お嬢ちゃん──そこのゴールド席は、俺様の指定席だからよっ!」

 

 金髪の男──『尾藤(びとう) 賢吾(けんご)』が嫌な笑みを浮かべて言う。それが癪に障ったらしい園子が蘭にもう一度、今座っている席でリベンジしようと言えば、その席の集金に来た黒髪の男性スタッフ──『出島(でじま) (ひとし)』が無理だと告げる。曰く、パンチやキックだけでなく、両手の握りについている4つのボタンで最強コンボを使えるような実力者。蘭の様に今日が初めてのプレイヤーでは相手にもならないらしい。

 

 それを聞いた蘭が感心したような声を出し、ヘッドギアを外したところで賢吾がやって来て均に近づく。そこで足を上げたのを視界に収めた瑠璃が慌てて彼の肩を掴んだ。

 

「──貴方、今、彼に何をしようとしました?」

 

「──アァ?」

 

 賢吾がそこで不機嫌そうな顔で瑠璃を振り返る。上げていた足はキチンと地面につけた。

 

「いま、私の目の前で、その足を彼に入れるなら──暴行罪の現行犯で捕まえますが……どうしますか?」

 

 瑠璃の言葉で彼女が警察関係者だと気づいたらしく、男は舌打ちを1つ打ち、顔を歪ませたのまま席に座った。

 

「チっ……せっかくの最高の席が台無しだぜ」

 

 そんな彼を園子は腕を組み、何度も腕を指で叩く。

 

「ムカつくッ!!なんなのよアイツ!!」

 

「──『米花のシーサー』と呼ばれて粋がってる、唯のチンピラだよ」

 

 唐突に話に入って来た男の声。思わず蘭と園子が後ろを振り返れば、少し老けた男性──『江守(えもり) 敏嗣(としつぐ)』が煙草を吸いつつゲームをしていた。

 

「最近、ますます態度がデカくなって、こっちはいい迷惑だよ……ああ、それと娘さん」

 

 そこで唐突に名指しされた蘭が目を丸くすれば、どうやら先ほどの蘭の戦いを見ていたらしい。蘭の振りが大きすぎるとダメ出しした。

 

「『格闘』と言ってもアレはゲーム……力は必要ない。」

 

 そこで敏嗣から賢吾を見るように促され、全員が賢吾を振り返る。すると、賢吾の動きはとても小刻みで、現実的に見れば戦っているようには全く見えない。しかしゲームとしてはそれが一番いいのだと言う。そこで男が蘭と賢吾のバトルを見ていたことに蘭が驚くと、その反応を見た敏嗣は、後ろにある大きなモニターを指で示した。普段はデモ画面らしく、乱入プレイが始まると、その両者の戦いが見られるようになってると話す。

 

「まぁ奴を倒せるとしたら、杯戸町で無敵を誇った──」

 

「──『杯戸のルータス』」

 

 敏嗣の後ろからそんな声を掛けられ、敏嗣が振り返ってみれば、若い男が立っており、その男──『志水(しみず) 高保(たかやす)』は自分ぐらいだと自慢の様に告げる。

 

 その高保の声が聞こえたらしく、賢吾は笑みを浮かべて声を掛けた。

 

「おうっ、待ってたぜ『兄貴』──ケリ付けようや」

 

「まあ待て。一本ぐらい吸わせろよ」

 

 そんな2人の姿を見た周りの人たちは、笑顔を浮かべて楽しみにしている様子が見える。このゲームセンターでは2人はとても有名人らしい。しかし、そんな2人の空気に耐えかねた蘭がゲームセンターを出たいと言う。しかし、ジョディは近くにあったレーシングゲームをやろうと笑顔で誘い、瑠璃は笑顔で賛成し、園子は呆れ、蘭は困ったように眉を下げた。

 

 しかし、ジョディと瑠璃が2人でレーシングを始めてしまえば、蘭たちもその2人のゲームを楽しそうに見始めた。ジョディが賢吾側に座り、そのジョディの隣に瑠璃が座る。そんな2人の楽しそうな表情に、コナンは溜息を吐いた。

 

(……ホンマモンのゲーマーだな)

 

 その時、蘭がふと視線を外した。大画面には先ほどの2人のバトルが始めたようで、蘭が園子に声を掛けたが、園子は興味がないらしくジョディたちのレースに視線を向けてしまった。しかし画面の様子に違和感があるらしい蘭は目を離せずにいる。

 

 画面の中では、『シーサー』が『ルータス』にラッシュを始め、蘭は感心したように画面を見つめる。次に『シーサー』は昇竜拳をかまし、『ルータス』は何もできずに倒れ込み、観客たちは思わず感嘆の声を上げた。その声が聞こえた園子も気になったようで、どちらが勝っているのかと蘭に尋ねる。このゲームはHPゲージはなく、キャラクターの顔の青さによって体力を推測する様だ。

 

「リードしてるのは、さっき私に勝った人の方」

 

「ふ~ん……」

 

 蘭の説明に、園子は分かりやすく眉を寄せ、画面を見始めたその瞬間、『シーサー』が見事な回し蹴りを『ルータス』に入れ、その腕前の高さに、先ほどまで興味の欠片もなかったコナンですら、口を閉めるのも忘れて画面を見入っていた。

 

『シーサー』が右パンチを『ルータス』の顔に決め、遂に『ルータス』が起き上がれなくなった。しかし結果が出ないことから、まだ『ルータス』のHPは残っているようで、周りが『シーサー』を使う賢吾の止めの一撃を待つが、しかしそれはいつまでたっても行われず、遂にタイムアップによって試合はDRAWとなった。

 

 周りが不満げな声を上げ、『シーサー』使いの賢吾を見つめるが、賢吾の様子がおかしいと気付き、周りがざわつき始める。

 

 その声に気付いた瑠璃がゲームから途中退席し。賢吾へと近づけば──彼の瞳孔は開き、口を開いたまま身動き一つしない姿が、そこにはあった。

 

「ッ!警察を……誰か、警察を呼んでくださいっ!!それから皆さん──警察が来るまでの間、誰もここから出ないでくださいっ!!!」

 

 瑠璃が警察手帳を示しつつ、応援を呼ぶために声を張り上げて頼む。その声を聞いた蘭がすぐに警察を呼び、瑠璃の隣で遺体を観察していたコナンも、警察が来るまでの間、監視することになった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 現場のゲームセンターへとやって来た目暮、高木と共にやって来た彰、松田、伊達。そこ瑠璃の姿を見つけてしまい、3人とも思わず目を丸くし、瑠璃も悪いことをしていないにも関わらず、視線を逸らしてしまった。

 

「刑事部から移動したのに、事件に巻き込まれたのかお前……」

 

「瑠璃、お祓いの効果があるって噂の神社を紹介してやろうか?この前、ナタリーと一緒に行ったところなんだ」

 

「伊達さんがここにきてる時点で効果がなさそうな気がするんですが、それは」

 

 瑠璃のもっともな言葉に何も言えない伊達。その横で、松田は瑠璃に近づき、同じく瑠璃から状況を聞こうとやって来た目暮と話を聞き始めた。

 

「──えぇっ!?ゲームの対戦中に死んだぁ!?」

 

「えぇ……と、言っても、私は一部始終を初めから見ていたわけじゃないので、蘭ちゃんから聞いたことをかいつまんで言えば、ですが……」

 

 瑠璃が、後ろにいた蘭に視線を向ければ、目暮たちの視線を向けられた蘭が頷いた。

 

「はい……その対戦、私たちもあのモニターで見てたんですけど、あともう少しで勝ちって時に、急に攻撃をやめて動かなくなっちゃって、見てみたら……」

 

「──そのキャラを操っていた男も動かなくなっていたということか……」

 

「亡くなったのは尾藤賢吾さん、27歳。現在、無職です。普段から素行が悪く、このゲームセンターでは、あまり評判が良くなかったようです」

 

 そんな目暮たちを見ていたジョディが蘭に話しかける。

 

「Ah~、彼、毛利サンと知り合い、デスか?」

 

 ジョディの問いに、蘭は笑みを浮かべて頷いた。

 

「えぇ、私の父の元上司で……」

 

 その見慣れない外国人に思わず目暮が視線を向ければ、蘭からは帝丹高校の英語教師だと説明された。

 

「因みに、私のゲーム友達!」

 

「お前、遂に外国人をもゲーム沼に沈めたのか……」

 

「違うからっ!!元からジョディがゲーム好きで、その繋がりで彼女から声を掛けられてから、友人になっただけだからッ!!」

 

 年齢的にはジョディの方が一つ年上だと言うことは言わない。女性の年齢を言うのはマナー違反である。

 

「ワタシの名前は、ジョディ・サンテミリオン!!ヨロシク、お願いしまーす!!」

 

 ジョディが英語教師で外国人だと知ると、目暮は笑顔を浮かべて、英語で挨拶を始めた。

 

「マイネーム、イズ、ジュウゾウ・メグレ!アイアム、ア、ジャパニーズポリスマン!!」

 

「Police?……『ポリスマン』違いまーす!『Policeman』!」

 

「ぽ、ポリスマン??」

 

「警部……?」

 

 話が進まなくなることを察知した瑠璃が目暮の名前を呼べば、目暮は咳ばらいを1つした。

 

「とにかくっ!問題はなぜゲーム中に死んだかということだ」

 

「瑠璃はゲーム中で見てないらしい……ゲーム中で」

 

 松田が2度言えば、松田の視線に耐えかねた瑠璃が視線を逸らした。それに目暮も呆れたような視線を向けたが、次いで高木に視線を向けた。

 

「周りにいたお客さんの話だと、このゲームセンターの中をうろついていた不審人物は、特にいなかったようです。ゲーム中に尾藤さんが何かを飲んだり食べたりした様子はなかったようですから、自殺の線はないと思いますけど」

 

 そこで目暮が尾藤の格好に追及を入れた。姿はまるでSF。それに瑠璃が説明する前に、スタッフの均が近付いた。

 

「バーチャル・リアリティ・ゲームですよ。相手から受けたダメージが、そのまま画面とシンクロして、プレイヤーに伝わるようになっているんです」

 

 ガードの上から攻撃したり、足を払ったりしても、その動きが微妙に伝わり、まるで本当に戦っているかのように感じるゲームなのだと説明され、目暮はそれが死因なのではと推察するが、それは満に1つもないと、均の後ろから高保が現れ、ガムを噛みながら説明する。

 

「ダメージって言ったって、軽くブルブル振動するだけだ」

 

 携帯の振動と同じだと説明するが、その態度の悪さが癇に障ったらしい目暮が誰なのかと詰め寄れば、賢吾が死ぬ直前まで戦っていたのだと説明される。このままでは殺人者に間違われかねないからと説明しに来たらしい。

 

「それに、言いたかないが、凹にされていたのは俺の方だ──俺の攻撃は2,3発しか入ってないよ」

 

 ガムを噛んでまで験を担いだらしいが、一方的な試合ではあった。

 

 それを聞いていた瑠璃は、いつの間にガムを噛んでいたのかと思っていたので納得する。目暮も蘭から一方的な試合だったと言われ、これで死因が余計に分からなくなったらしい。

 

「絞殺の跡もなくて、刺殺でもない……」

 

「なら残りの可能性はこの現状を考えても1つ」

 

「──毒じゃないの?」

 

 いつもの4人が集まって事件のことを話し合っているところで、コナンが可能性を上げた。コナンは、賢吾の席に立ち、賢吾の表情を見ながら説明する。

 

「ほら、この人、息が詰まったように死んだみたいだけど、首を絞められたような跡はないよ?」

 

 そこで高木に持ち上げられたコナンは、小五郎の様に放り投げられることがないことを理解しているからか、毒ではないかと説明を続けた。しかしコナンの言葉を聞いた目暮は、ゲーム中に突然死したのだと説明する。ゲーム中に飲み食いしていたわけでもなく、あらかじめ毒を飲まされていたのなら、顔色が優れなかったりして気付くはずだと。現に、蘭は気づかなかった。彼が死ぬ前も、元気に蘭を倒していたのだ。勿論、針や注射器で毒を注入されても、声を張り上げられてバレるはず。その説明を聞いたコナンは考え込むように腕を組んだ──しかし、ここはゲームセンターだ。

 

「あの、警部……」

 

「ん?なんだね?瑠璃くん」

 

 瑠璃が恐る恐ると声を掛ければ、目暮はコナンから瑠璃に目を向けた。目暮は気づかない様子だが、瑠璃ならわかることもある。なにせ、彼女の趣味はゲームや漫画、アニメ。ここは彼女の庭のようなものだ。

 

「今は事件もあったので、ゲーム機を止まってますが──本来のゲームセンターはもっと音は大きいですよ?」

 

 近くの人の声でさえ、音に遮られて聞こえにくくなってしまうゲームセンター。賢吾が声を張り上げても、周囲には聞こえなかった可能性がある。

 

「それにガイシャは拘束状態で自由に動けない」

 

「因みに、ゲームセンターでは画面が見やすいよう、多少、店内が薄暗くされてますから」

 

「なら、ホシは余計にヤりやすいな」

 

「しかも、他の客はほとんどが2人のバトルに釘付けだったと考えると──」

 

「──毒殺の可能性もありますよ!!」

 

 松田の言葉の後に瑠璃がゲームセンターの説明を入れ、伊達と彰が状況を更に推測すれば、それを聞いていた高木が毒の可能性が出てきたことを指摘する。それに納得した目暮は、遺体を司法解剖に回すように指示を出す。その指示を聞いていたコナンは気障に笑い──蘭たちの後ろでそれを見ていたジョディは、妖艶に笑った。

 

 容疑者の割り出しに関しては難航するかと思われたが、そこはコナンが被害者に近づいた人物を見ていたらしい。賢吾が死ぬまで、確かにその横でジョディと瑠璃がレーシングゲームをしていたのを見ていたのだ。

 

「ほおう?どっかの誰かはゲームに興じてたってのに、坊主、やるじゃねえか」

 

「事件が起こるなんて思わないんですから、休日ぐらい満喫したっていいじゃないですかー!!」

 

 松田がコナンの頭を感心したように撫でつつ瑠璃に小言を向ければ、瑠璃は嘆きの声を上げる。事実、本日の彼女は休日の筈だったのだ。

 

「それで?坊主、ガイシャに近づいたっていう人物は、誰なんだ?」

 

 伊達と目暮がコナンに視線を合わせる形で腰を折れば、コナンは均、高保、そしてコナン達含めた全員で7人。コナンが同意を促すようにジョディと瑠璃に声を掛ければ、2人は笑みを浮かべる。

 

「YES!デモ、見てたのはそのboyだけじゃ、アリマセーン!」

 

「後ろ──防犯カメラがありますよ?」

 

 それを聞いた目暮が、均にカメラの映像を見せてほしいと頼み、被疑者全員を連れて、バックヤードへと歩き出す──その際、何か金属が擦れるような音を、コナンは耳にした。

 

 そのコナンの近くでは──敏嗣が缶ジュースを飲んでいる姿があった。

 

 

 

 オフィスルームにて防犯カメラの映像が再生され始める。まず賢吾の近くにいた均の行動に着目されたが、彼は現場で集金作業をしており、後ろから賢吾に何かしら言われている様子が映っていた。

 

 続いては高保。彼は賢吾と何か話し込んでいるようで、目暮が話の内容を訊けば、対戦前に賢吾の戦法を探りに行ったのだと話す。しかし現場から数歩歩いた位置で屈んで何かを拾うような仕草が目に入り、それを指摘すれば、彼はライターを落としたから拾ったのだと言う。

 

 ゲーム開始後、その画面の前では、なぜか均がカメラを持ってその映像を撮っていた。彼曰く、すごい試合だったから撮ってしまったらしい。そこで高保が訝し気に均を見る。

 

「なぁ、アンタどこかで会ったことないか?」

 

「えっ!?いや、人違いでしょう……」

 

 それから『シーサー』のラッシュが始まり、蘭もそこで釣られるようにして画面の前に移動し始めた。

 

「つまり、そこで先生と瑠璃くんが被害者の近くにいたわけか……」

 

「瑠璃も警察の端くれだから疑いたくはないし、何だったら先生の方が被害者側に座っているから、状況的にみりゃあ先生が怪しいわけだが……」

 

「Oh!でもワタシ、ずっとずっとゲームに夢中デ、そんなこと少しも気付きませんデシタ!」

 

「……瑠璃くん?」

 

「視界の端に腕が見えてましたよ」

 

 目暮の言いたいことを察した瑠璃が言えば、蘭たちも同意する。彼女たちが被害者に近づいたとき、ちょうどゴールしてハイスコアを叩き出していたらしい。それを聞いた高保も、ジョディが白であることを保証する。よそ見して手を離してハイスコアが出せるほど、ジョディと瑠璃が遊んでいたレーシングゲームは軟ではないと言う。では誰がと悩み始めた所で──被害者の陰から、敏嗣が現れた。

 

 その人物を見た蘭と園子も思い出す。麻雀ゲームをしていた男で、賢吾の悪口を言っていた、と。

 

 それを聞いた目暮がすぐに高木と伊達に敏嗣を連れてくるように指示を出し、2人は走って店内へと戻っていく。それを見送ったコナンは画面へと顔を向け、思考する。

 

(遺体の様子からして、恐らく死因は毒殺で間違いない。となると、一番怪しいのは『あの人』。証拠も恐らく、あの中にあるはず。あとは、凶器の針か注射器……)

 

 ──しかし、店内にはそれらしいものがないことは確認済みだ。

 

(まさか、まだ犯人が持っているなんてことはあるわけないし……犯人は──犯人は凶器を、どこに隠したんだっ!)

 

 

 

 ──そんなコナンの姿を、ジョディが見ていたことを、コナンは気づかなかった。




現代だったら、尾藤さんも仕事につけてたと思うんですよ。プロゲーマーとか、もしくはyoutuberとか。まあ、前者は本当に実力がものを言う世界で、後者は面白い企画とか、話術や態度とかも必要なので、結局は難しかったかもしれませんが。

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