とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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コナンくんの名言回であり、伏線回ですよっ!!

コナンくんの言葉、皆さん、覚えておいてくださいねっ!!絶対ですよっ!!!

それでは、どうぞっ!!


第35話~そして人魚はいなくなった・推理編~

 寿美に続き、奈緒子が亡くなった。その事は通夜ということもあり瞬く間に広まり、恐怖と好奇からガラス戸に集まって来た島民たちの間を縫い、外へと下りたコナンたち探偵組と彰と雪男。今回の現場撮影は小五郎が率先してやり始めたため、彰は先に聞き込みを始めることにした。

 

「……雪男さん、死亡推定時刻は?」

 

「肌がまだ暖かく、硬直も始まってない。死斑は確認してみないと分からないけれど、死後1時間経ってないですね。死因は首を絞められての窒息死──寿美さんと明確に違うのは、現場の状況と奈緒子さんの眼球」

 

 奈緒子の遺体は、網に絡まれ、膝を突いた状態で亡くなっていた。これはどう見ても他殺であり、雪男が瞼を確認してみれば、眼球に溢血点が見られた。犯人は絞殺後、奈緒子を絡めとる網に掛けたことが分かる。

 

 その話を聞いた平次が懐中電灯を使い、砂浜に残された足跡を確認する。

 

「砂に残った足跡はサンダルと……長靴。奈緒子さんはサンダルを履いていたみたいやから、長靴は犯人のもんやな」

 

 確認後に彼女の足元を照らせば、すぐ近くにサンダルが投げ出されていたため、犯人のゲソ痕特定は早く済んだ。そこで同じく時計の点灯機能を使っていたコナンが、足跡の中、砂に残る『あるもの』の痕を見つけ、近づいた。

 

「それにしても、ひでーことを……」

 

「──ねぇ!これ見て」

 

 コナンの声を聞き、3人がコナンへと視線を向けてみれば、明かりに照らされた場所に『儒艮の矢』らしき矢の痕。鏃がサンダル痕の上にあることから、奈緒子が犯人ともみ合っているうちに踏んでしまったであろうことが伺えた。『儒艮の矢』がその場にないことから、犯人が持ち去ったことも推測できる。

 

 そこで小五郎の提案から長靴の痕の先を辿ることとなった平次だが──行きと帰りの痕はまっすぐ海に続いていた。

 

 それに眉根を顰めた平次は、懐中電灯の光に反射し、存在を主張する多数の小さな粒を見つけた。それを迷わず指で掴んで確認してみれば──それは魚の鱗。

 

「魚の鱗なら、奈緒子さんの服にも2、3枚付着してるね」

 

 雪男がコナンの協力で明かりを照らしてもらった際に見つけたその鱗を、持っていたピンセットで掴み、小さな袋に入れた。

 

「県警の方が来た時にでも渡そう」

 

「こらーっ!!」

 

 そこで野太い声が聞こえ、4人が声の方へと顔を向けてみれば、数人の警官を連れた刑事がいた。

 

「そこで何をやっとるか、お前らっ!!?」

 

「いや、何って──」

 

「──俺が頼んで、馴染みの探偵たちに現場保存の協力と、医者の弟に検視をしてもらってたんです」

 

 小五郎が説明をしようとしたとき、聞き込みを終えた彰が戻って来て小五郎たちの前に立った。

 

「なんだとっ!?」

 

「県警の方ですよね?──俺にも捜査協力させてください」

 

 彰がそう言って見せた警察手帳により、刑事は目を見開きつつも頷いた。

 

「そ、そうでしたか……分かりました。しかし、我々が来たからには捜査は我々がしますので、そちらの方々の協力はいりませんぞ。検視の報告を聞いてもよろしいですかな?」

 

 彰がそれに頷いたのを確認し、警官たちが現場で捜査を開始し、彰からはこれまでの経緯を、雪男からは検視結果を聞き始める。また、県警から必要ないと言われた探偵組は現場を離れ、娘達が待つガラス戸へと戻る。すると蘭と和葉が気になったようで状況を聞いてきたため、平次が話始めた。

 

「──えっ!?犯人の足跡が海に向かって消えてたッ!?」

 

「ああ。ご丁寧に魚の鱗付きでな」

 

「ッ魚の、鱗!?」

 

「まさか、犯人は人魚ッ!?」

 

「それはないでしょ……」

 

 肩を寄せ合って怖がる蘭と和葉の隣で、梨華が苦笑気味に否定する。

 

「あくまで人魚は御伽噺でしょう?それに、仮に本当にいたとしても、どうして人間の足跡なの?」

 

「た、たしかに……」

 

「でも、人になった可能性やってッ」

 

「そうやったとしても、人魚が長靴履くわけないやないか……」

 

 平次は、犯人は波打ち際を歩き、奈緒子を呼び出した網のところへと向かい、帰りはまた波打ち際を通って帰ったのだと推理する。それを聞いた和葉と蘭が安心したように息を吐き出したところで、雪男が小五郎たちのところまで戻って来た。

 

「雪男、彰は?」

 

「兄さんはこのまま捜査協力だって……小五郎さん、兄さんから伝言で、皆さんに奈緒子さんのことを聞いたときには誰も見てないって言ってたと……」

 

 それを聞いた小五郎が島民たちへと顔を向ければ、代表して君恵が頷く。

 

「刑事さんにもお話ししましたが、私が来た時には部屋にはいませんでした……」

 

 それを聞いた禄郎が、隣に立つ顔が赤い弁蔵へと不機嫌な顔を向けた。

 

「弁蔵さんも見てねぇってよ」

 

「あぁ、部屋に入ったら誰もいなかったぜ」

 

 弁蔵が記帳する前に書いたのは奈緒子だった。それを踏まえて考えれば、奈緒子がこの葬儀場に最初にやって来て、記帳後に現場へと向かったことになる。それを聞いた禄郎が大股で縁側のギリギリまで近づいてきた。

 

「おい、まさか寿美を殺害した奴と同一人物なのか?」

 

「いや、まだそこまでは分からんが……犯人が奈緒子さんの『儒艮の矢』を持ち去ったのは確かだ」

 

 それに驚く女子高生と君恵。依頼主である沙織も、『儒艮の矢』を失くしたことを考えれば、彼女は既に亡くなっている可能性があると、平次は告げる。それを聞いていた、君恵の後ろにいた女性が瞠目する。

 

「──あら、沙織ちゃんなら、昨日の祭りの日の朝、人魚の滝の当たりで見かけたわよ?」

 

 それに探偵組の目が見開かれる。それを見たのは女性だけではなく、その女性の隣に立っていた40代ぐらいの男性も、滝の奥にある森で遠くからだが同じく見かけたらしい。

 

「それ、ホンマに沙織さんやったんか?」

 

「間違いないよ。茶髪にメガネの娘は、あの子しかいないし」

 

「いつも青っぽい服着てるから」

 

 2人の言葉により、沙織の生存が高くなってきた。

 

 もし、沙織が生きていたとしたら、彼女が今も姿を現さないのは、彼女が『なにか』から逃げているため。平次はそう考える。その平次の言葉を聞いた小五郎が弁蔵に心当たりがないか聞くが、心配そうなそぶりもなく、彼女は弁蔵に何も話さないのだと笑顔で告げてくる。

 

「ふん──あいつも、死んだ娘さんみたいに、人魚になってなきゃいいがな」

 

 その言葉と笑顔で告げてくる言葉に、梨華も雪男も眉を顰めた。

 

「あら。ご自分の娘なのに、心配そうな素振りもないなんて──沙織さんが可哀そうだわ」

 

「……アァ?」

 

 梨華の蔑むような視線と言葉に、弁蔵はその赤い顔のまま、眉を顰めて拳を握り──振りかぶったところで、目の前でその拳を、彰に強く握り掴まれた。

 

「──暴力沙汰に走るなら、現行犯逮捕ですが……どうしますか?」

 

「彰……」

 

 梨華が思わず目を見張る。それは周りも同じだった。なにせ彼は先ほどまで──少し離れた現場にいたはずなのだから。

 

(えっ……この人、いつのまにここにっ!?)

 

 コナンが驚愕するその目の前で、弁蔵が腕を振りほどこうとするが、それは1ミリも動かない。

 

「梨華、気持ちは分からないでもないが煽るな。あと、懐に隠した鞭も出すなよ」

 

 これ以上の面倒事はごめんだと、そう視線だけで梨華に告げれば、彼女は溜息を吐いて了承した。

 

「分かったわよ……鞭でシバき倒したいけど、我慢するわよ」

 

 それが聞こえてしまった蘭の目は点になり、コナンは呆れ顔になった。

 

(ハハッ……おっかねぇ)

 

 彰は改めて弁蔵の顔を見る。そこで漸く彼が頷いたため、彰は拳を開放した。

 

「フンっ……」

 

「それで、ちょっと聞こえましたけど……もしかして、八百比丘尼の伝説に例えてますか?」

 

 彰の言葉に、ニヤリと笑う弁蔵と首を傾げる小五郎。

 

「八百比丘尼の伝説……?」

 

「知らねぇのか?伝説の八百比丘尼は、網にかかった人魚の肉を食べたんだぜ?」

 

 その言葉に、和葉は青ざめる──昨晩、弥琴に言われた言葉を思い出したからだ。

 

 隣の和葉の様子にいち早く気付いた蘭が心配そうに名前を呼んだところで、翌日の朝早くから沙織探しをすることが、小五郎の言葉で決定し、解散の空気が流れ始める。

 

 平次も屋敷の敷居を跨ぎ──和葉の横で、彼女に声を掛けた。

 

「和葉──俺の傍から離れんなよ」

 

 その後、警察による任意の持ち物検査で、奈緒子の『儒艮の矢』探しが始まったが、祭りで矢が当たった弁蔵と和葉しか持っていなかった。その検査を近くで見ていた平次は、隣で蜜柑の皮を剥くコナンに声を掛けた。

 

「おい工藤、何かわかったか?」

 

「いいや、全然。ただ言えるのは、寿美さん、奈緒子さん、行方不明の沙織さんの3人が、人魚の肉を食べたというあの命様の力を信じ、『儒艮の矢』に執着していたってことだけだ」

 

「あぁ……異様なくらいにな」

 

 平次がそこで頭を抱える。なにせ誰が何番の札を持っていたのか、分からないからだ。

 

 そのことを口に出したとき、コナンの横に座っていた君恵が笑顔で反応する。

 

「あら、分かるわよ?──ちゃんと名簿に名前を書いてもらってるから」

 

 その名簿を今から見に行くかと平次たちを誘い、すぐに2人は頷いた──そのやり取りを、目の前で見ていた弁蔵のことには気づかずに。

 

 

 

 ***

 

 

 

 彰を待つと言う兄妹たちを葬儀場に残し、へべろけ状態の小五郎を平次が担いで神社へと向かう。葬儀場を出る前に禄郎が君恵に声を掛けていたが、それはコナン達には聞こえなかった。

 

 神社に向かう道中、君恵たち幼馴染5人が大学まで同じであったと言う話を、蘭と和葉が聞いていた。

 

 5人とも映画好きが高じ、映画研究会に入り、『比丘尼物語』という映画も作ったことがあるらしく、更にコンクールで金賞を取るほどの人気が出たのだと言う。

 

 ハリウッドに繰り出すと言う話も出たらしいが、全員が島のことを忘れられず、戻って来たらしい。

 

「──まさか、寿美と奈緒子があんなことになるなんて……」

 

 

 

 ──そんな一行を追い越すように走る影に誰も気づかないまま、君恵の家に辿り着いた。

 

 

 

「──あら、変ね……確かにここに纏めて仕舞ったはずなんだけど」

 

 君恵が名簿を保管していたという箪笥の中を漁るが、前年度までの物は出てきたのに、今年の物が見当たらないと言う。

 

「あの婆さんが持って行ったんとちゃうか?」

 

「そんなはずはないわ」

 

「そこに置いてたの他に知ってる人は?」

 

「島の人なら、ほとんど知ってるわ」

 

 そこで念のためにと他の部屋を探すと言う君恵に、蘭が手伝うと声を掛けた。それに礼を述べて、君恵は蘭と和葉を連れて部屋を後にした。

 

 残された男性陣だが、小五郎はイビキをかいて寝てしまっており、コナンと平次が名簿の確認を始めた。

 

「おーおー、おるでおるでっ!元外務大臣に、官房長官に日銀総裁……ハハッ、皆長生きしたいんやな!」

 

 そんな折、コナンは名簿を捲る手を止めた──知っている名前が載っていたのだ。

 

(『宮野志保』?……確か、アイツ(灰原)の本名もそんな名前だったような……)

 

 コナンは哀の顔を思い浮かべ──失笑を溢した。

 

(ハッ、人違いだな。永遠の若さや美貌を欲しがるタマじゃねぇし……)

 

 

 

 ──そこで、蘭と和葉の悲鳴が響いた。

 

 

 

 2人が慌てて部屋を飛び出し、縁側へとやって来てみれば、2人が青い顔で外を見ていた。

 

 平次がどうしたのかと訊いてみれば、蘭が震え声で、外を指でさしながら答える。

 

「あ、あそこにっ、茶髪で眼鏡かけた女の人がっ!!」

 

「アタシらをジーっと見ててんっ!!」

 

 蘭が話す特徴の持ち主は、この島では1人しかいない──行方不明の沙織だ。

 

 そこで、すぐ傍のガラス戸が割られていることに、平次が気づいた。

 

「君恵さんは!?」

 

「立て直した蔵の方を探してみるって……」

 

「その蔵ってどこやっ!」

 

「確か、あの神社の方──」

 

 蘭がそう言って指示した方には──夜の暗闇とは反対の、真っ赤な空。

 

 

 

 その後、すぐに消防署に連絡を入れ、消火活動が始まったが、しかし蔵の炎は消えることなく燃え続け──3年前と同じく、1体の焼死体と共に、全焼した。

 

 

 

「──焼死体やてっ!?」

 

 消防士の禄郎から話を聞いた平次の目が丸くなる。禄郎の話では、遺体は黒焦げではあったが、眼鏡で青い服を着ていたことが辛うじて分かったらしい。

 

「──多分、行方不明だった沙織だろう」

 

 その言葉に、蘭と和葉の顔から血の気が引いた。

 

「じゃ、じゃあっ、私たちが夕べみたのっ!!?」

 

「ゆ、幽霊ッ!!?」

 

 そこで、特徴的な杖の音と共に、後ろの廊下から弥琴が現れた。どうやら、君恵を探しているようで、彼女の名前を、そのか細く嗄れ声で呼んでいる。

 

「どこじゃ、君恵っ!君恵ーっ!!」

 

 君恵の姿はいまだ誰も、見ていない。君恵を探す弥琴の姿に心が痛み、蘭と和葉が彼女の傍にいるために、弥琴の元へと駆けていく。その姿を見送る平次と、思考に入り、蘭の姿を見ないコナン。

 

「……おい服部。君恵さん、ついこの間、歯医者に行ったって」

 

「お、おうッ……ま、まさか、何考えてんのや、お前っ」

 

「恍けんなっ!今お前の頭にもよぎっただろ──俺と同じ、嫌な予感が」

 

 ──半日後、焼死体の歯形の鑑定が終わり、その連絡を聞いた小五郎から、君恵のものと一致したことが告げられる。

 

 そのことに平次の表情が歪み、蘭と和葉の目に涙が浮かび──禄郎は膝から崩れ落ちてしまった。

 

 彼は愛していたのだ──君恵のことを、心の底から、想っていたのだ。

 

 

 

 彼女が葬儀場から出るとき、禄郎が声を掛けたのは──彼女に、自身が伝えた想いの返事をもらう為だった。

 

『君恵……こんな時に悪いが、あの話、考えてくれたか?──俺は、真剣だぞ』

 

 禄郎の言葉に、彼女は哀しい表情を浮かべる。

 

『ダメよ……死んだ寿美に悪いし、それに私には、大御婆ちゃんがいるから、この島から離れられないの──ごめんなさい』

 

 

 

 彼女との会話がそれで最後となってしまったことを理解してしまい──禄郎は悲観の咆哮を上げた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「──そうか……君恵が死んだか」

 

 弥琴が住まう神社で、横になる彼女に君恵のことを平次たちが伝えれば、彼女はそう溢す。

 

「すまんな、婆さん……俺らがちょっと目ェ離した隙に……」

 

 平次の言葉には何も返さず、彼女は天井を見つめ、呟く。

 

「また若い命が消えてゆく──ワシはまだ、生き恥を晒しておるというのに……」

 

 そこでコナンが問いかける。弥琴が頼んで移したという人魚の墓──それは一体、誰に頼んだのか、と。

 

 しかし、弥琴が言うには、その人物もまた亡くなってしまっているらしい。

 

 その後、弥琴に再度、心からの謝罪を述べた平次たち。蘭は弥琴の元に残り、和葉と平次、コナンが燃え尽きた蔵へと向かえば、小五郎が彰と共に現場の捜索に混じっていた。

 

「お~い、おっちゃん!!彰さん!!何か見つかったか~?」

 

「い~や、何も出てきてないぞ~」

 

「しっかし、なんて事件だ。容疑者が絞れなければ、動機も検討がつかねぇ。おまけに、どうして君恵さんが沙織さんのような恰好をしていたのかも分からん」

 

「まあ、死んだのは君恵さんやのうて、沙織さんや思わせるためやろうが……」

 

 そうなると、犯人は行方不明の沙織か、もしくは第三者の犯行となる。そこで波がひどくなってきたのか、その場に打ち寄せる波の音が響き始めた。それに全員が反応したとき、和葉が思い出したように口を開く。

 

「あぁ、この裏、すぐ海になってるゆうて、夕べ……」

 

 和葉がそこで君恵とのことを思い出してしまい、涙ぐむ。

 

「まあ、犯人が誰やったとしてもこれだけは言えるで……そいつはこれ以上、野放しにしとかれへん、人の命をなんとも思わん──殺人鬼やっちゅうことやな」

 

 そこで神社から蘭が走って出てきた。小五郎がどうしたのかと声を掛ければ、掛かって来た電話の内容が変なのだという。

 

「変なこと……?」

 

「……『矢を譲っていただいて、ありがとうございます!100万円出した甲斐あって、息子の手術は成功しましたっ!』って!!」

 

 その言葉に全員が驚愕する。蘭が言うには、美國神社で働いているという男に、特別に売ってもらったと電話口で説明されたらしい。

 

「それって、お祭りの朝にキャンセルしたって言う、老夫婦のこととちゃう?」

 

「そうみたい……」

 

 平次がその男性の名を聞けば、名前は分からないが無精ひげを生やした、大柄で50歳ぐらいの男性だったらしい。

 

 その特徴の人物は、コナン達が会った中で1人のみ──弁蔵だ。

 

 祭りの前に矢が譲られたということは、その矢というのは、消失したといわれていた沙織の分であることが分かる。また、その弁蔵に運よく矢が当たり、その名簿は消失し、奈緒子の矢すら消えたことを考えれば──彼の疑惑が深まった。

 

 そこで平次がコナンに目を向けた。

 

「ほなっ!通夜やってた網元の家に行ってくるから……くどっ」

 

 そこで平次が慌てて言葉を濁し、空笑いを浮かべて弁蔵家を頼むと走って去っていった。

 

 

 

 網元の家にて弁蔵のことを聞けば、平次は目を見張る。

 

「なんやてっ!?──夕べ、俺らがここを出た後、すぐ弁蔵さんも席を立ったッ!!?」

 

「あぁ。血相変えて出て行ったよ」

 

 平次たちの推理通り、弁蔵は君恵との会話を聞いており、すぐに神社へと向かって名簿を盗んだことが証明された。そのことに気障な笑みを浮かべた。

 

「ほんなら、蔵に火ぃ点けたん、弁蔵さんとちがうん?」

 

 後ろからの声に同意したところで、思わず言葉を止めてしまう──知らぬ間に後ろに和葉がいたのだ。

 

「──なんでお前がここにおんねんっ!!」

 

 平次からのもの言いたげな目に、和葉は頬をほんのり赤く染めて、言い返す。

 

「よう言うわっ!!『傍から離れんな』言うてたの、平次やんっ!!」

 

 それは確かに本人が言ったことであり、記憶が甦った平次は何も言えなかった。そんな平次に胸を張って笑みを浮かべる和葉。

 

「それに、『儒艮の矢』を持っとるアタシは、魔除けの守り神やっ!──平次が危ない目におうても、アタシが守ったげるから心配せんときっ!!」

 

「そら、おうきに」

 

『儒艮の矢』の効力など全く信じていない平次が呆れ顔で返す。それに対しては何も返さず、和葉は愛おしそうな目で平次を見つめた。

 

(……ホンマやで、平次)

 

 君恵が亡くなってしまったため、儒艮祭りが失われてしまうことを悲しむ島民たちの背中を見送れば、外から県警の刑事から声を掛けられる平次。どうやら平次たちの足跡の説明を再度、説明してほしいらしく、それに肯定を返してガラス戸を開けて、置かれていたサンダルを履こうとしたところ、足がずれてしまったようで、サンダルが飛び跳ねてしまった。

 

 そのサンダルの裏面を目にしてみれば──最近、作られたらしい傷跡がついていることに気付いた。

 

 奈緒子が履いていたサンダルは福井県警に持ち帰られたらしく、それを聞いた平次は和葉に『儒艮の矢』を出してほしいと頼む。

 

 彼女が渡した矢でその傷跡を確認してみれば──形が一致した。

 

(砂の上で『儒艮の矢』を踏んだんはこのサンダルやで……ちゅうことは、やっぱり──)

 

 平次の推理が、証明された瞬間だった。

 

 

 

 奈緒子の捜査へと戻る彰と別れ、門脇宅へとやって来た小五郎たち。しかし、何度呼び鈴を鳴らしても、弁蔵が姿を現さない。

 

「くそっ……やっぱり留守かっ」

 

「──おい、アンタら何やってる」

 

 そこで後ろから声を掛けられ、振り向けば──禄郎が立っていた。

 

「あ~いや、弁蔵さんにちょっと用が……どこにいるか知りませんか?」

 

「夕べの通夜から姿を見てないが……」

 

 暗い声で伝えられたその言葉に、小五郎が頭を抱えた。

 

「弱ったな……せめて、行方不明の沙織さんの部屋を見せてくれたら……」

 

「──家の中に入りたいんなら、植木鉢の下を見ろ」

 

 禄郎の言葉を受けて小五郎が2つある植木鉢をそれぞれ確認してみれば、小五郎視点で右の方に確かに隠されていた。

 

 それを拝借して開けようとしたところで蘭が焦りだす。

 

「あ、でもいいの?勝手に入っちゃって……」

 

「ちょっとくらい構やしねぇよ」

 

 そこでコナンが禄郎に、行方不明になる前の沙織の様子を聞くと、禄郎がなにも疑問に思わずに答えてくれた。

 

「あぁ、海が荒れたってだけでビビってたよ──『人魚に復讐される』ってな」

 

『復讐』というワードに、コナンは目を丸くした。

 

 

 

 禄郎の案内の元、沙織の部屋が開かれ、最初に部屋の中を確認する。

 

 小五郎と同じく辺りを見渡していたコナンの目に入ったのは──ベッドの上に置かれたボストンバッグ。

 

「な~に?このカバン!!」

 

 コナンが子供らしい声を上げてカバンを両手で移動し、蘭が静止する声よりも早く、ジッパーを開けた。

 

 ボストンバッグの中には頭痛薬、歯ブラシといった日用品が入っていたが、禄郎曰、それは沙織の家出セットらしい。

 

「──まぁ、行先は大体、君恵の家だったから、着替えや予備のメガネは向こうにも置いてあったみたいだが」

 

 そうなれば、蔵で亡くなった君恵が来ていた服は、彼女が自身の意思で来ていた可能性が出てきたというコナンに、何の意味があると否定的な小五郎。そんな小五郎に、コナンは目を細めて告げる。

 

「──犯人を誘き出すため」

 

「あ?」

 

「──な~んてねっ!」

 

 小五郎がありえないと言いたげに笑うも、君恵自身が、犯人が沙織を狙っていると考えた場合──犯人を捕まえるための囮をしたのでは、と蘭が顔を俯かせて考えを述べる。

 

「な~に言ってんだっ!お前ら夕べ火事の時、沙織さんらしき人影を庭で見てるだろうが!」

 

 そこでコナンが禄郎に沙織の写真が部屋にないかと訊けば、禄郎からアルバムのことが告げられ、彼に手伝ってもらい、アルバムを取り出し、確認を始めた。

 

「──庭で見たのは、この人だったか?」

 

 小五郎が蘭に見せた女性は、ベリーショートの茶色い髪に、白いハイネックと青色のセーターを着たメガネの女性で、写真の彼女は笑顔でピースをしている。そんな女性を蘭が確認してみるも、暗がりであった為、分からないと言う。

 

「この辺の写真、もしかして『比丘尼物語』っていう映画を撮ったときの写真?」

 

 コナンの問いかけに禄郎が頷く。写真の中では、まるで本物の人魚の様に、海を背景に鱗を着けた人魚姿の寿美が写っていた。その隣の写真には、荒れた嵐の日を模したのか、大津波のシーンが撮られている。

 

「おおっ!こりゃ凄いなっ!!まるで本物の人魚が海の中を泳いでいるようだ……」

 

「本当!……この嵐のシーンなんかすごい迫力っ!!」

 

「まぁ、その映画は沙織の特撮と、君恵の特殊メイクで金賞を取ったようなもんだから……」

 

 しかしその1年後、本当に大嵐がやって来て、禄郎や君恵の両親──そして沙織の母親が行方知れずとなったという。

 

 アルバムを除く蘭の隣に座っていたコナンは──目の前に並べていた彼女の手荷物を見て、おかしな点に気付いた。

 

(預金通帳に、キャッシュカード、印鑑、免許証にパスポートまであるのに『あれ』がどこにもないっ!!)

 

 そこでコナンは改めてボストンバッグの中を漁りだし──彼の中で、信じたくない真相が浮かびあがった。

 

 

 

 第2の現場の捜査現場を縁側に座って見ていた平次──そこに、通知が鳴り響いた。

 

「ほい、服部──おお、くどっ」

 

 そこで和葉がいたことを思い出し、慌てて小五郎の名前に切り替えた平次。和葉も反応したが、聞こえていなかったのか平次の様子を見つめているだけだ。

 

「丁度良かったっ!いまそっちに電話しようおもうてたとこやっ!!」

 

 平次が網元の家のサンダルから、矢を踏んだ痕が見つかったことの報告を、イヤリング型携帯電話で受けるコナン。彼の表情は──悲し気に曇っている。

 

「これは、犯人が通夜の部屋から奈緒子さんが待ってる網ンとこに行って殺害し──また通夜の部屋に戻った証拠やでっ!!」

 

 それが出来たのは、弁蔵と禄郎の2人。しかし、君恵が亡くなったと聞いた禄郎の様子から、禄郎が君恵に危害を加えるとは考えづらい。

 

「となると、犯人は──」

 

『……服部。今から俺の推理を話す──聞いてくれ』

 

 コナンの神妙な声に、不意な出来事ながらに平次は頷く。

 

 そして彼の推理を聞き──激昂した。

 

「──阿呆っ!!そんなわけあるかいっ!!!俺は絶対に信じひんぞっ!!!」

 

『服部……不可能なものを除外していって、残ったものが、例えどんなに信じられなくても──それが真相なんだ』

 

「なんやとっ!?」

 

「──警部っ!!」

 

 そこで現場にやって来た警官から、山中で弁蔵を追跡しているらしい。捜査協力中の彰もまた、そこに加わっていることが伝えられる。それを聞いた刑事たちがその場所へと向かい始めたのを見て、平次も立ち上がった。

 

「とにかくっ!!弁蔵さん捕まえたらそっちにすぐ行くっ!!待っとけやっ!!!」

 

 平次はそこで通話を切り、走り出す。その突然の行為に驚くも、急ぎ靴を履いて後を追う和葉。

 

 

 

 門脇家の台所に座り込み通話していたコナンは、肩を落としたまま、悲嘆に暮れる。

 

「……俺だって、信じたくねぇよ。服部」

 

 

 

(嘘やっ……そんなの嘘やっ!)

 

 弁蔵捜索に加わった平次は、捜索中でありながらも頭の中には、先ほど聞いたコナンの推理が渦巻いていた。

 

(俺は信じひんぞっ!!工藤っ!!!)

 

 そこで、後ろを歩いていた和葉の足が止まる。彼女は線香の臭いがするというが、平次は不機嫌な表情で否定し──しかし、同じくその匂いに気付いた。

 

 その匂いの元は、平次たちの進行方向にあった──お墓である。

 

 平次がその墓に近づく後ろで、和葉は横に倒れていた『この先、崖 危険!!』の看板が目に入った。

 

(墓……例の人魚の墓か……っ!)

 

 その存在が、目の前の墓の存在こそが──コナンの推理通りであることを、漸く受け入れることが出来た平次。

 

 線香が静かに立ち上るそのお墓に優しく手を置き──彼の帽子が、表情を隠した。

 

「………」

 

 真実と受け入れたくない心境に折り合いをつけたとき──手を置いていた墓石が傾き、転がった。

 

 平次が転がる墓石につられて走り出したのを見て、和葉も駆け出しながら悲鳴のような声で止める。

 

「アカンッ!!そっちはッ──」

 

 平次がその崖に気付くころにはもう遅く、墓石は転がり崖下へ。平次も体を急停止させるも勢いは止まらず、そのまま崖下へと落ちそうになる。

 

体の重心の傾きを、後ろに腕を回してバランスを取ろうする平次。しかし重心が傾きすぎたため、落ちる直前だった平次の腕を和葉が掴み、勢いよく引っ張った。

 

 それにより平次は崖から陸へと戻ったが──今度は遠心力によって、和葉が崖へと飛ばされた。

 

 

 

 

 

「──和葉ァァァッ!!!」




名シーンまであと1話っ!!

そして、雪菜さんの霊圧が消えた、だとっ!?

……はい、嘘です。途中から、梨華さんと雪男さんの影も消えてましたが、彼らは君恵さんの通夜まで宿で待機しているだけです。ちなみに、雪男さんは裏で職場に事情を説明済みなので、問題はないとここで捕捉します。

私の説明不足のせいです……精進します。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!!

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