とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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最近、就職先がかなり忙しく、天気も悪くて体調を崩しがちですが、本日は元気に後編を書きますよ!!

実は今回、拳銃が出てくるのですが、種類を書こうと思い、お世話になっているサイト(教えていただいたサイトで、拳銃の種類が乗っています)で確認しました。しかし、それらしいことが乗っておらず、一応、作者が見比べながら推測で書かせていただいております……すみません。

気になる方はよろしければ、動画で戸確認くださいっ!

それでは!どうぞ!!

*タイトル改定させていただいております


第34話~集められた名探偵!・後編~

 大上の死によって幕を上げた惨劇の夜。それにより、容疑者となってしまったコナンを除く5人の探偵たちは、小五郎を除いて動揺する様子はない。

 

「この中に犯人がいるだと!?」

 

 小五郎の言葉に、コナンは子供らしい声音で事実を突きつけていく。

 

「だって、そのテープの声も、この中の誰かが前もって仕掛けておいて、食事をしながらみんなと一緒に聞いてるふりしてたかもしれないでしょ?」

 

 テープは録音されたものが流れていたいうことは、コナンの言う通り、事前に誰かが声を仕込み、流していたことになる。本人はその間、声を流し続ける必要はないのだから、客の1人として一緒に食べていればいい。

 

 コナンの説明に小五郎が納得する。その横で白馬が膝を折り、大上の遺体を観察しつつ、説明を引き継ぐ。

 

「そして、この大上さんと同じ食卓に着いていた僕たちに気付かれずに、犯人は彼に青酸カリを飲ませ──毒殺したんです」

 

「あぁ。俺たち5人の探偵の、目の前でな」

 

 茂木がニヒルな笑みを浮かべて言う。犯人の大胆な犯行に、怒りを隠しきれていない。

 

「しかも、そのテープの声の内容からすると、その人が死ぬ時間も、犯人には分かっていたようだね」

 

「問題は、彼が倒れる直前まで口にしていたこの紅茶から──青酸化合物の反応が、なかったこと」

 

 千間の言葉に続き、槍田がこの事件の問題点を告げる。紅茶の検査は簡易的でも千間が10円玉を使って検査し、異常は出ていなかった。となれば、青酸カリは一体、どこから摂取されたのか。それが最大の謎として、立ちはだかっている。

 

 彼女は手袋を着けてカップを持ち上げ、観察し始める。

 

「じゃあ、毒は紅茶の中じゃなくて、ティーカップの飲み口にっ」

 

「それはないわね。彼、2、3度この紅茶を運んでたから」

 

「でもっ!皆さんが言ってる犯人って、怪盗キッドのことなんでしょう?彼って、人殺しなんてしないって聞きましたけど……」

 

「──だそうだが?探」

 

 小五郎の問いに槍田が答えると、蘭が自身の中の疑問を口に出す。それを聞いた修斗が、キッドの事をコナン同様、強い想いをもって追いかける探偵──白馬に促せば、彼はゆっくりと、立ち上がる。

 

「──えぇ。僕が知る限りじゃあ、初めてのケースです」

 

(……とか言いながら、あいつ、犯人はキッドじゃないって気づいてるな)

 

 彼の心境を読んだ修斗が、冷静な表情ながらも熱い想いで事件解決に動く探偵を見つめた。

 

 出会いはロンドン。修斗は認識していなかったその出会いに、彼は幾度も感謝してきた。

 

(本当……あいつは頼りになるやつだよ)

 

 そこで茂木の提案で、本当に彼らの車が爆破されたのか、確認に行くこととなった。槍田もそれを聞き、カップをソーサーに置きなおす。爆発を逃れた車か、そもそも車の爆発自体がハッタリの可能性に賭けて外へと出てみる。

 

 そこには──メラメラと燃え盛る車の数々。

 

 その姿を見た小五郎が慌てて飛び出し、情けなくも階段で足を滑らせ、転げ落ちる。その後ろからは茂木もやって来た。槍田たちはそんな2人よりも高い位置から、その火葬を見つめている。

 

「おれの、レンタカーっ!」

 

「私のフェラーリも、ミディアムね」

 

「俺のアルファも、大上のおっさんのポルシェもパーだ……」

 

 槍田の後ろから、白馬と修斗もゆっくりと下りてくる。

 

「うわぁ……俺が言うのもなんだが、高級車の数々が焦げていく」

 

「ですね。貴方のアウディで来なくてよかったですね」

 

「あら、あのベンツは貴方のではないのね?……ということは、君の?」

 

 槍田が白馬を見て聞けば、白馬は否定する。彼らをここまで送ってくれた白馬家の車は、ばあやと共に引き返したのだから。

 

 千間の車は、この館に来る前に止まってしまってそもそもここにはない。彼女も、小五郎たちの車に乗せてもらってきた口だ。となれば、持ち主不明の車となる。

 

「誰のだい?あのベンツ」

 

 千間が後ろに立って冷静に火葬を見つめる石原に問いかければ、彼女はこの館の主人のものだろうと言う。彼女が朝早くに館に来た時には既に停められていたらしい。

 

「だったら、やっぱりこの館には私たちの他に誰かいるんじゃっ!」

 

「──この分じゃ、私の車も向こうで燃えちゃってるかな……」

 

 石原が爪を噛みながら悲観に暮れれば、コナンが反応する。どうやら、彼女の車は別に、裏門の方に停められているらしい。

 

「ああ、業務員用の駐車場な……」

 

 それを聞いた全員が反応し、コナンが裏門への近道を石原へと訊く。彼のその子供らしからぬ気迫に石原が引き気味に答える。

 

「な、中庭を抜けて……」

 

(この人、有能だな……事件解決したら雇いてぇ)

 

 修斗が石原のことを評価している間、探偵たちが目の前を走り去っていく。

 

 小五郎と茂木が先導して中庭を抜けるが、彼らは館内の作りを把握できておらず、周りを見渡す。そんな彼らの後ろを追いかける形となった先着組の1人である白馬が声を上げて誘導する。声を聞き、その案内で目的地の扉を開けば──生きた黄色の車。

 

「おう!無事じゃねぇかっ!!」

 

「……なんか怪しくない?この車」

 

「怪しさ満点だな」

 

「どうせ奴が爆弾を仕掛け忘れたんすよ!」

 

 槍田と修斗が疑惑を向けるが、小五郎は呑気にもそう返す。そんな小五郎の横を抜けて、千間が車の運転席を開く。

 

「じゃあ本当に橋が落とされているか、見てこようかね」

 

 そこで茂木、白馬、小五郎がついていく行くと言うが、千間から断られる。

 

「これこれ、船員が多いと船が沈むよ」

 

「確かに。『phantom(ファントム) thief(シーフ)』ならぬ『phantom ship』になりかねませんね」

 

「じゃあ、どの探偵さんが行くかコインで決めれば?ぼく小銭ちょうど5枚持ってるか!」

 

 コナンがそう提案し、ポケットから財布を取り出し、それを車のボンネットに落とせば、大きな音が鳴る。

 

(もうお亡くなりになること前提の行動かよ……否定しねぇけど)

 

 修斗が溜息1つ吐き、展開を見やる。千間はコナンの気の利かせ方に礼を述べ、自分から1番遠い10円玉を握る。その後に白馬が5円玉、小五郎が500円玉、茂木が100円玉、最後に槍田が50円玉を掴む。

 

「そんじゃ、コインの表が出たやつが──」

 

「──車で橋を見てくるってことで」

 

 全員がほぼ同時にコインを飛ばし、手の甲に乗った瞬間にもう片手で覆う──修斗はそれをじっと見つめていた。

 

 コインの結果、千間、小五郎、茂木が橋の確認に向かうことに決まる。居残り組がそれを見送った直後、コナンは──道中に停まった軽車を発見した。車の天井には、白いテープらしきものでバツが作られている。

 

(あれって……まさかっ)

 

 そんなコナンを見た後、白馬に視線を移せば──彼は気障な笑みを浮かべていた。

 

 そこまで見た修斗は、何も言わずに屋敷へと戻っていく。

 

 

 

 確認組はと言えば、その橋の惨状に辟易としていた。

 

「うっひゃ~!」

 

「ひでぇな、こりゃ」

 

「橋が完全に落とされちまってる」

 

 そこで茂木が、車に乗ったままの千間にヘッドライトの調整を頼めば、彼女は返事を返す。

 

「──犯人、動くかな」

 

「──あぁ。ここで終わるようなタマじゃねぇよ」

 

 その瞬間──彼らの後ろから爆発音が轟いた。

 

 2人が驚いて振り返れば、燃え盛る車はゆっくりと走り寄ってくる。2人が慌てて体を端に寄れば、千間がそこから出てくることもなく──車は無情にも崖下に落ちて行った。

 

 小五郎が千間の名前を呼び続けるその横で──茂木は笑みを浮かべた。

 

 

 

 屋敷に戻って来た小五郎たちが千間の死を告げれば、槍田の顔が青ざめる。車のライトを弄ると爆発する仕掛けとなっていたことを話せば、蘭も信じられないと嘆く。

 

「待っていてもやられるだけだ……本当に、我々の他に館に誰かいるか、探してみよう!」

 

 槍田が女3人でチームを組み、館内を探すことを述べる。そこで今気づいたかのように茂木が白馬と修斗の居場所を訊いてくる。それに槍田は『ワトソン』にでも給餌しているのだろうと言って去っていく。

 

 ──『ワトソン』は現在、館の屋根上に留まっていた。

 

 

 

 コナンもチームに加えて小五郎たちがやって来たのはピアノ部屋。部屋の中央にグランドピアノが置かれている。

 

「ほー?洒落たもんが置いてあんじゃねぇか」

 

 茂木が感心したように述べる。年代物のそのピアノは、埃をかぶらず、そこに鎮座していた。

 

 そんなピアノを確認していた小五郎が、ふちに引っかき傷を見つける。それを茂木は鷹の爪痕だろうと推測する。ピアノの鍵盤を弾いてみれば、綺麗な音をその場に響かせた。

 

 茂木の横で彼の行動を見ていたコナンが視線をずらしたとき、鍵盤に挟まれた古い紙きれを見つけた。

 

「……あれれ?ピアノの鍵盤の間に何か挟まれてるよ?」

 

 コナンの声を聞き、茂木が件の紙切れを掴み、広げてみる。そんな彼の後ろからそれを覗き込む小五郎。その紙切れの内容は、あの録音内容と同じ──宝の場所を示した暗号が書かれていた。

 

『2人の旅人が 天を仰いだ夜 悪魔が城に降臨し 王は宝を抱えて逃げ惑い 王妃は聖杯に涙を溜めて許しを乞い 兵士は剣を自らの血で染めて果てた』

 

「しかし、なんで藁半紙にガリ版刷りなんだ……」

 

「多分、まだコピー機がなかった時代に、誰かがこの文章を大量に刷って、何かの目的で大勢の人間に渡したんだろう──つまり、奴が言ってた、40年前にこの館で起きた惨劇って話も、それになぞらえて作った、宝の隠し場所の暗号ってやつも……みんな、眉唾物だってこった」

 

 その時、コナンの耳に水音が入る。

 

 音はピアノの下であることを理解したコナンが、ピアノ下に目を向けてみれば──槍田が持っていた、ルミノール液入りのスプレーが置かれていた。

 

「あれれ~?このピアノ、濡れてるね!」

 

 コナンの声を聞き、茂木がピアノの下を覗き込み、同じものを発見する。槍田もこの部屋に来たことを理解した途端、茂木が小五郎に部屋の明かりを消すように指示する。小五郎は不満そうな表情を隠さず、渋々と明かりを消せば──蛍光色で光る、ピアノの側面。

 

「──やっぱり、何かあったんだ!40年前に、何かが……っ!!」

 

 そこには、血で書かれた文章が、こう記されていた。

 

 

 

『私は烏丸に……暗号解読の……切り札をやっとつかんだというのに……』

 

 

 

 トイレを終えた蘭が個室トイレから出てくれば、そこには槍田しかおらず、メイドの石原の姿が見えない。蘭が石原の居場所を訊いてみれば、先に廊下に出て待っているのだと槍田から返される。蘭に本当に石原がいるか見てきてほしいと頼み、それを聞いた蘭が廊下へと出て確認してみれば──廊下に座り込み意識がない石原の姿。

 

 蘭の身体が思わず硬直した瞬間──槍田が蘭に薬品を嗅がせ、眠らせた。

 

 女性2人をトイレに運び込み、そのままトイレから出た所で──彼女は後ろから声を掛けられる。

 

「──ふふっ、やはり、貴方でしたか」

 

 白馬は気障に笑って話す──曰く、犯人自身が、爆弾を仕掛けた車に乗るはずがない。つまり、館に残ったメンバーである、槍田、白馬、修斗……そして、蘭とメイド。

 

 そこで白馬は、懐から取り出した拳銃──ウェブリー・リボルバーMK6を槍田に向ける。

 

「あら坊や。物騒なもの持ってるじゃない?」

 

「僕の部屋のベッドの枕の下に置いてあったんです……どうせ後で僕を犯人に仕立て上げるつもりだったんでしょうけど?」

 

 槍田が両手を上げながら、視線だけ白馬へと向けて口を開く。

 

「あら、奇遇ね──私も、同じことを考えていたわ。君と全く同じ推理をね」

 

 彼女の左手の中には──FNポケットM1906。

 

 

 

「探~?どこだ~?」

 

 修斗が屋敷の中を1人、白馬を探して歩いていた。館を手分けして探していたのだが、いつまでたっても集合場所に彼が戻ってこない。それに業を煮やした彼が、白馬が向かった方向を改めて進んでいる。

 

「……あいつ、一体どこにっ」

 

 曲がり角を曲がった瞬間──銃声と同時に倒れる、己の探し人が見えた。

 

「っ探!!」

 

 修斗が慌てて近寄った瞬間──彼の目の前には、拳銃を向ける槍田がいた。

 

 

 

 ピアノ部屋を調べ終え、小五郎が部屋の電気をつけた途端──屋敷内に銃声が響いた。

 

 その場の全員が一瞬、体を硬直させるも、すぐに飛び出すように部屋を出ていく茂木と小五郎──しかし、その瞬間に2度目の銃声が屋敷に響く。

 

「2発目!?」

 

「中央の塔の方だっ!!」

 

 茂木を先頭に全速力で音の現場へと辿り着けば──道の途中で倒れる修斗。その先には、白馬が倒れていた。

 

 小五郎が修斗を、茂木が白馬を確認するが、2人とも見事に心臓を撃ち抜かれ、その血を床に垂れ流しているだけ。ピクリとも動かない。

 

「ダメだ、心臓を撃ち抜かれてやがる」

 

「くっそ、こっちもだっ!!」

 

 そこで小五郎の頭に過ったのは──上へと昇る階段。

 

「誰かッ、階段を……っ!」

 

 彼はそこで来た道を引き返す──ニヤリと笑う茂木に、気づかぬまま。

 

 小五郎は螺旋階段を駆け上がる。その先にある一つの扉を開けば──パソコンが1台、鎮座していた。

 

(パソコンっ!?……そういや、宝の在処が分かったら、ここへ来いってやつか)

 

 そこで視線をずらせば──地面に目を見開いて横たわる槍田を見つけた。

 

「そ、槍田さんっ!!?」

 

「──見ろよ」

 

 呆然としていた小五郎の後ろから声が掛かり、彼が振り向いてみれば、茂木がドアのノブを弄っていた。彼が内側のノブを回すと──針が出てくる仕掛けが施されているのを確認できた。どうやら彼女は、宝の在処をパソコンに入力し、部屋を出ようとしたところを、その毒針によって死へと導かれたらしい。

 

「しかし、犯人は一体──」

 

 ──そこで、部屋にリロード音が響く。小五郎が思わず呆けた瞬間、彼の胸にコルトガバメントが突きつけられた。

 

「──とぼけんな」

 

「えぇっ!?」

 

「このネェちゃんが、自分で仕掛けた罠にかかるわけねぇし……アンタの娘とメイドは、トイレでおねんねしてたんだぜ?」

 

 2人が聞いた銃声が、フェイクであった場合──殺しが出来るのは、小五郎か茂木の2人のみ。

 

 茂木は、自分がやってないことを自分で理解している。

 

「俺じゃねぇってことは──」

 

 茂木は迷いなく撃鉄を引き──小五郎の心臓に、鉛玉を撃ち込んだ。

 

「──アンタしかいねぇだろ」

 

 茂木は、壁に背を預ける小五郎の姿を見ながら煙草を咥え、紫煙をくゆらせる。

 

「フッ……疑わしきは罰せよ──悪く思うなよ、眠りの小五郎さんよ」

 

 その言葉を最後に、小五郎は壁からずり落ちる。最後に残った茂木は煙草に火を点け──苦しみ始めた。

 

 持っていた煙草は、手の力が体の痛み、苦しみで持つこともままならずに地面へと落ちる。徐々に呼吸もできなくなり──それは、まるで大上が亡くなった、あの姿と同じよう。

 

 茂木は苦しみから首を抑え、パソコン前の椅子に手を置こうとする。しかし、掴む力すら失い、手は椅子から滑り落ち──息絶えた。

 

 

 

 ──その一部始終を鑑賞していた存在は、頭を押さえて項垂れる。

 

 その人物は、この館の謎を、どうしても解きたかった。しかし、自分ではそれを解くことが出来ず、優れた英知を持つ探偵たちを呼び出し、解いてもらおうとした。けれど、まるでかの烏丸連耶が、彼ら探偵たちに乗り移ったかのように、互いに疑心暗鬼になり、敵となり──惨劇の再演が始まった。

 

 謎が2度も闇へと葬られ、肩を落としたその人物の目の前で──モニター画面が真っ黒へと変わる。

 

 驚いた存在がそのモニター画面へと視線を向ける。

 

(き、消えたッ!?監視カメラの映像が──)

 

 そこで電子音が耳に入り、自身の後ろに置かれたパソコンへと振り向けば──文字が徐々に入力されていた。

 

(パソコンに入力ッ!?一体、誰がッ)

 

 そして、最後に入力された文字を見て──目を見開いた。

 

 

 

『宝の暗号は解けた。直接口で伝えたい。食堂に参られたし。

 

 ──我は7人目の探偵』

 

 

 

 謎の人物は驚きで立ち上がり、部屋の隠し通路を走って行く。二階の天井蓋をずらし、見事に床へと降り立てば、後は目的地である食堂へと走って行く。

 

(馬鹿なっ!?招いた探偵は皆死に絶えたはずっ!!7人目なんぞいるはずがないッ!!!)

 

 食堂へと辿り着くころには、体力が底を尽きかけ、息が荒い。

 

(助手としてきたあの男も死んだっ……じゃあ誰だっ!?一体、何者がッ)

 

 その人物が、警戒からほんの少し扉を開く。その音を聞き、7人目の探偵──コナンは気障な笑みを浮かべて語りだす。

 

「……通常、車に爆弾を仕掛けた人物が、自殺以外の目的でその車に乗るのは考えにくいが──例外はある」

 

 雇用主が目を見開き、食堂内から通路の角へと視線を移動すれば──小さな探偵が、姿を現した。

 

「その爆発で、自分が爆死したかのようにカムフラージュするケースだ」

 

 コナンはその笑みを浮かべたまま──黒幕を見据える。

 

 

 

「そうだよな?──千間探偵?」

 

 

 

 黒幕──爆死したと思われた探偵、千間がうろたえる。なにせそこに現れた探偵を名乗る存在があまりに小さく、子供だったのだから。

 

「そぅ……貴方は爆発の直前に、車から抜け出した。茂みに隠れ、車が落ちるのを確認し、こっそりこの館に戻って来た貴方は、館内の至る所に取り付けた隠しカメラで、俺たちをどこかの部屋で監視していたんだ」

 

 コナンの推理に、千間はコナンとまっすぐ対峙し否定する。

 

「馬鹿ね。私は間一髪のところで爆弾に気付き、爆発から逃れて、たった今この館に辿り着いたんだよ?」

 

 そもそも、コナンが話す推理の問題点は、コナンが提案したコイントス。半分の確率で裏が出るコイントスでは、コナンの推理では無理がある。千間は遠回しにそう告げれば、投げる前から彼女が車に乗ることは決まっていたとコナンは言う。なにせ彼女は──投げる前からコインを表の状態で左手の甲に乗せていたのだから。

 

「そのコインの上から別のコインを持った右手を乗せて隠し、弾いたコインをキャッチしたフリをして地面に落とし、最初に甲に乗せたコインを見せれば──何回やっても表だ」

 

 勿論、この10円玉は既に千間が回収済みだろう。そして、2枚目の10円玉も、大上の紅茶を調べる際に、彼女が出していたのをコナンは見ている。

 

「アンタならこのぐらい出来るよな?──『神が見捨てし仔の幻影』さん?」

 

「ほう……大上さんを殺した晩餐会の主催者が、私だと言うのかい?だったら教えておくれよ──私がこの食堂で、どうやって大上さんだけに青酸カリを飲ませ、そしてどうしてその時間さえも予測することが出来たかを」

 

 千間が食堂を開き、コナンに問いかける。それを耳にしつつ、コナンは『あるもの』へとまっすぐに足を向けた。

 

「彼の紅茶には毒は入ってなかったし、私の席と彼の席の間には毛利さんがいた。それにあの席はじゃんけんをして適当に決めた席じゃなかったかい?」

 

 その言葉に、コナンは鼻で笑い──紅茶のカップをハンカチ越しに掴んだ。

 

「席順なんて関係ないよ──貴方は前もって、全員のティーカップに青酸カリを塗っていたんだからな」

 

 青酸カリが塗られていたのはカップの取っ手──その繫ぎ目の上。そこは、大上がティーカップを持つ際、右手の親指の先が触れる位置であり、彼が考え事の際、噛んでしまう爪の付近でもある。

 

「彼が爪を噛んだのは、貴方が声を変えて録音したテープが、宝の隠し場所の暗号を発表した直後。メイドに指示して、紅茶を出す時間をその少し前にしておけば、暗号を聞いて考え込み、爪を噛む大上さんだけを、時間通りに毒殺できるって訳さ」

 

 ──しかし、この推理の問題点は1つ。

 

「でもあの時、みんな用心のために1度、食器を拭いてから使ったはず」

 

 白馬の提案から始まったこととは言え、事実、全員が食器を拭いたはず。そしてそれは、大上も変わらない──ある1つの線さえ、見て見ぬふりをすれば。

 

「──彼が、この晩餐会を企画した貴方の相棒だったとしたら、自分が狙われるわけがないと高を括って、それを怠ったのも無理はない」

 

 コナンの言葉に、千間は目を見開き、固まる。もう言葉すら出てこないらしい。その千間に気付きながらもコナンは続ける。

 

「メイドさんが、朝早くに館に来た時、既にベンツが停まっていたと聞いたときから、疑ってたよ。こんな山奥の館にベンツを放置するには、ベンツに乗ってくる人間と、別の車でその人を迎えに来る──共犯者が必要だからね」

 

 彼女がこの館に小五郎たちと来る前、彼女の愛車のフィアットが止まってしまったと話して小五郎の車に乗せてもらったのだが、そもそもそこから彼女の計画の内だった。

 

 彼女がわざわざ待ち伏せし、小五郎の車に乗ったのは、煙草嫌いであることを印象付けし、食堂で死ぬのを大上さんのみにしたかったため。

 

「──指先に青酸カリが着いた状態で煙草を掴み、口に咥えれば……あの世行きだ」

 

 石原が採用された理由も、爪を噛む癖があることを面接部屋の隠しカメラで知り、同じやり方でいつでも彼女を殺せると考えたため。

 

 千間は、共犯者の大上を殺害し、自分の死を偽装して隠れ、招いた探偵たちを心理的に追い詰め──暗号を解読させ、隠された宝を見つけたら、皆殺しにする予定だったのだ。

 

「40年前。あの大富豪──烏丸連耶がやったようになっ!」

 

 コナンが小五郎たちとあのピアノ部屋で見た血文字。そこには名前も綴られていた──『千間(せんま) 恭介(きょうすけ)』と。

 

「アレは多分……」

 

「──私の父の名前だよ」

 

 考古学者であった千間の父、恭介は40年前、この黄昏の館に呼ばれた──100歳を超える大富豪が、母親から受け継いだ館に財宝が隠されている手掛かりを見つけ、自身の命尽きる前にその宝を探してほしいという依頼が来た。それはとても割りのいい仕事で、毎日のように手紙と共に大金が送られ、残された千間家族も喜んでいたのだと言う。しかし半年後、手紙もお金もパッタリ途絶え、行き先を家族に伝えずに向かった恭介は行方不明となってしまった。

 

「──その真相が分かったのは、父から最後に送られてきた手紙を、明かりに照らしたときだったよ……手紙に針で穴をあけた、父の字を見つけたのはね」

 

 その内容には、宝の隠し場所を示した暗号のこと、恭介以外にも学者が大勢呼ばれていたこと──そして、死期が迫り、業を煮やした烏丸が見せしめに学者たちを館内で殺害し始めたことが書かれていたという。

 

「……たとえ宝を見つけても、自分は命がない、とね」

 

 千間は目を伏せ、悲し気に告げる。そんな彼女に、コナンは警察に話さなかったのかと言うが、彼女が針の字に気付いたのは20年後のこと。事件が起こっていたとしても時効が迎えられてしまっている。その上、狂人の烏丸は既に亡くなり、館も人手に渡っていたため、千間は手出しもできなかった。

 

「──その話を、2年前につい大上さんにしてしまったのが、ことの始まりだよ」

 

 大上は千間から話を聞き、すぐに館を見つけ出し、目の色を変えて宝探しを始めたが、しかし暗号は解けず、宝も見つからなかったという。この館の購入のために多額の借金までした大上は引っ込みがつかなくなってしまったらしい。そうして狂った大上はある日、千間に言ったのだ──名探偵を集め、暗号を解かせよう、と。

 

『探偵たちを釣る餌は、怪盗キッド。奴を招待主にして、命がけのゲームを仕掛けるんだよ……ワシとアンタが途中で殺された様に見せかけてなっ!……そうだっ!実際にメイドでも殺害しようか!!本当に命がかかっているとなると、本気にならざるおえんからなっ!!なーに、罪は全てキッドが被ってくれるよ!!』

 

「じゃあ、あのメイドさんを選んだのって……」

 

「大上さんだよ。自分の癖から、メイドの殺害方法を思いついたと喜んでいたけど……まさか同じ手口で自分が殺害されるとは思ってなかったろうね」

 

 大上があの時、爪を噛んだのは、彼の予定になかったことを録音していたため──実際は、食事の後、石原を殺害する予定だったらしい。

 

「でも、どうして大上さんを?」

 

「……宝の在処が分かったら、彼は私も含め、全員を殺害すると気付いたからだよ──みんなの部屋に仕込んだ拳銃による同士討ちに見せかけて」

 

「予定になかったはずの修斗さんを、先んじてとはいえ受け入れたのは……」

 

「きっと、彼の家からお金を出させたかったんだろうね……彼の命を奪った上で」

 

 まるで烏丸に取りつかれたような大上の凶行を止めるには、こうするしかなかったのだと千間は言う。

 

「──そして、そのことに、彼は初めから気付いていたよ」

 

 千間の言葉に、コナンは足を止める。千間の言葉を待たずとも理解できてしまった──彼女が言う『彼』が、誰のことなのかを。

 

 

 

 ──玄関前のあの時、千間は修斗から言われたのだ。

 

『探偵はおなかいっぱいですよ、安楽椅子探偵……いや──幻の仔山羊さん?』

 

 

 

(……まぁ、彼は死んでしまったがね)

 

 結局、どうして修斗が千間のことに気付けたのか、彼女は訊けなかったし──これから先も、訊くことなど永遠に出来ないのだろうと、千間は目を瞑る。そのことだけは、頭の片隅に追いやることにしたのだ。

 

「……探偵たちに暗号解読を続行させるには、ああするしかなかったけど……結果は40年前と同じ……暗号は解けず、惨劇を繰り返しただけだったね」

 

 

 

「──いや、貴方のお父さんは暗号を解いていたみたいだぜ?」

 

 

 

 その言葉を聞いた千間は、訝し気にコナンを見やる。そのコナンはと言えば、その小さな体で暖炉へと昇り──そこに掛けられた時計を目で示す。

 

「変だと思わないか?こんな大きな館なのに、時計はこの食堂にしかないんだぜ?──そう、暗号の頭の『2人の旅人が天を仰いだ夜』とは、時計の長針と短針が揃って真上を指す午前0時」

 

 その文に従い、コナンが時計の針を回す。

 

「そして続きの暗号を解くカギは、貴方のお父さんが血文字で書き残した『切り札』……『切り札』とは英語でトランプのこと。暗号の中の『王』と『王妃』と『兵士』は、トランプの『K(キング)』と『Q(クイーン)』と『J(ジャック)』のこと。そして、宝は『ダイヤ』、聖杯は『ハート』、剣は『スペード』を意味しているんだ」

 

 つまり、宝と王で『ダイヤのK』、聖杯と王妃で『ハートのQ』、剣と兵士で『スペードのJ』のことを示している。

 

「──この館にあるトランプの、それらの絵札の顔の向きに従って、0時の状態から時計の針を、左に13、左に12、右に11と動かすと……っ!」

 

 その瞬間──コナンが動かしていた壁時計が外れ、勢いよくタイルへと落ちた。

 

 コナンが暖炉から降りて時計を確認してみれば──時計の塗装が一部剥げ、金が現れた。

 

 その上、コナンが持つその時計は、子供体型で子供の血からだからとはいえ、かなりの重さがある。

 

「──そうかっ!この時計、中身は純金なんだっ!!」

 

「やれやれ……たったそれだけの物のために、父が命を落としたとは」

 

 現実とはこんなものかと、千間はどこか心ここにあらずといった様子で溢す。

 

「さぁ約束だぜ、千間さんっ!この館からの脱出方法を教えてくれっ!!」

 

「──そんなもの最初からありゃしないよ。私はここで果てるつもりだったんだから……大上さんは食事の後でこっそり教えるという私の言葉を信じていたようだがね」

 

 

 

「──ふんっ!!だろうと思ったぜっ!!!……千間の婆さんよ」

 

 

 

 そこで、聞こえるはずのない声が後ろから聞こえ、千間が驚きで勢いよく振り向けば──死んだはずの一同が勢ぞろいしていた。

 

「どうしてくれるんだ、俺の一張羅っ!!」

 

「俺のなんてオーダーメイドだったんだがな……」

 

「だから言ったんですよ。こんな子供だまし、無意味だって」

 

「あら、文句なら──あの坊やに言ってくれる?」

 

 小五郎と修斗が自分のスーツの汚れに対して悲観し、白馬は口の端に着いた赤色の汚れをハンカチで拭う。そして、その白馬の言葉に、扉に背を預けていた槍田が顎で示した首謀者は──コナン。

 

「子供相手なら、きっと脱出方法を教えてくれるって言いだしたのーーあの子なんだから」

 

 槍田の言葉に、千間がコナンに顔を向ければ、彼は子供らしく笑顔を浮かべてなんとか逃れようとする。

 

「まさかっ、私からそれを聞きだすために死んだふりをっ!」

 

「あぁ。暗号を解いたやつも、殺そうとしていたからな」

 

「俺たちが生きてるうちゃあ、問い詰めても履いてくれないと思ってな」

 

「モニターで見たら、ケチャップでも血に見えるしね」

 

「でもまぁ、蘭さん達を眠らせたのは正解でしたね!──この悪趣味な芝居は、若い女性のハートにはむごすぎる」

 

「探くん、俺も眠らせ組に入れてくれてよかったんだよ??」

 

 修斗が白馬に笑みを浮かべて言えば、白馬もにっこり笑って返す。

 

「貴方、いつから『か弱い女性』になったんですか?」

 

「お前なんで俺にだけ当たりキツイの??」

 

 白馬と修斗の会話にコナンは思わず呆れ顔。そんな会話を気にせず、千間が犯人だと気付いたのはいつなのかと千間が問えば、茂木が答える。

 

「その坊主が、俺たちにコインを選ばせた時からさ」

 

 コイントスの際、千間は態々、遠くの10円玉を取った──そう、彼女は他のメンバーに10円玉を取らせたくなかったのだ。

 

「青酸カリが着いた指で10円玉を触られたら、酸化還元反応が起こり──トリックがバレちまうからな」

 

 茂木は持っていた煙草を灰皿で消しながら説明する。

 

「だから私たち、犯人を貴方に絞り、すぐに結束出来たってわけ」

 

「大上さんの右手の親指の爪を見た時点で、トリックは読めてましたしね」

 

 槍田と白馬の言葉を聞き、全てを計画したコナンに疑惑の目を向ける千間。

 

(こやつッ……)

 

「さて、本題はここからどうやって脱出するか……」

 

 そこで修斗が白馬を見る。

 

「──探、あいつは?」

 

「──問題なさそうです」

 

 2人の言葉に疑問を呈する前に──上空から響くプロペラ音。

 

「おぉ、アイツ、無事に届けれたんだな」

 

「アイツ?届けた??」

 

 全員の訝し気な視線を受け、修斗が説明を白馬に託せば、彼は肩をすくめて交代を受け入れる。

 

「警察のヘリですよ。ワトソンが、アンクレットに取り付けた手紙を、崖下に待機させていたばあやに届けてくれたんでしょう……よかったぁ!!他の車と見分けがつくようにバツ印を付けておいて!!」

 

「それならそうと言ってよっ!!」

 

「あんな猿芝居させやがって!!」

 

「鷹は鳩と違って帰巣本能が乏しいんですっ!!」

 

「ちょ、お2人とも落ち着いて……てか俺の話を聞いて──」

 

 白馬が槍田と茂木に責められ、修斗が宥めている傍らで、コナンは険しい表情を崩さない。

 

(いや、ヘリの音だけじゃない!何かが崩れるような音が混ざってる──まさかっ!!)

 

「いい加減、俺の話を聞けー!!!」

 

 

 

 ***

 

 

 その数十分後、全員無事にヘリに乗り込み、ヘリは館から飛び立った。

 

(はぁ……疲れた)

 

 修斗はヘリの助手席に座り、頬杖をついて外を眺める。この後の展開も彼は既に理解しているが、必要なことは白馬に既に伝え終えているため必要ない。

 

(まぁ、今日か、後日になるだろう事情聴取後にでも──探に聞きたいことはできたんだがな)

 

 ヘリの1番後ろの席では、蘭が残念そうな声を出す。

 

「結局、来なかったのね怪盗キッド」

 

「あら?来てほしかったの?」

 

「あ、いえっ!」

 

 槍田のからかい交じりの言葉に慌てて否定を返す蘭に、どこか楽し気な槍田。そんな2人の前に座っている茂木は、隣にいる千間に声を掛ける。

 

「でも婆さんよ……俺たちを心理的に追い詰めるのは、大上の旦那の計画だったんだろ?──なんで奴を殺害した後、死んだフリなんかしたんだよ」

 

 茂木の問いかけに──千間はどこか疲れたような、生気の感じられない声音で答える。

 

「──どうしても解いてほしかったんだよ。父が私に残した、あの暗号を……私が生きているうちに」

 

 彼女が生きているうちに、彼ら名探偵が集結するときなど、もうないと考えたらしい。

 

「どうやら、烏丸連耶に取り憑かれていたのは──私の方だったのかもしれないね」

 

 千間はそう言うと、ヘリの扉を開き──飛び降りた。

 

 全員が驚きで行動が遅くなり、茂木が声を掛けるころには既に腕を伸ばしても届かないほど、彼女は離れていた。

 

 そんな茂木を押しのけ──小五郎が飛び降りた。

 

「──しまった!?」

 

 蘭が小五郎の名を叫び青ざめる。その小五郎は千間を掴む。

 

 

 

 ──瞬間、その純白の羽が、その場に現れた。

 

 

 

 千間はその気障な紳士──怪盗キッドの腕の中で、目を瞑ったままだ。

 

「──おい婆さん?死に急ぐには歳食いすぎてんじゃねぇか?」

 

 キッドは気障な笑みを浮かべて声を掛ければ、彼の首に腕を回した状態の千間は目を開き、呆れた様子で言葉を返す。

 

「馬鹿言ってんじゃないよ、貴方を助けてあげたのさ」

 

「えっ?」

 

「貴方の名を語って晩餐会を開いたお詫びにね。こうでもしなきゃ貴方──逃げられなかったよ?」

 

 千間が視線で示す先には──ヘリから麻酔銃を構えてキッドを狙うコナンと、その後ろでキッドに鋭い視線を向けている白馬。

 

「あらぁ、バレてたのね?」

 

「──煙草だよ」

 

 彼女が小五郎に扮したキッドに車に乗せてもらった際、小五郎は重度のヘビースモーカーであることをその観察力から推理した千間。しかし、そのキッドはといえば、小五郎に扮しているにも関わらず一度も煙草を吸わなかったのだ。

 

「──何者だい?あの子たち」

 

 千間の問いかけに、キッドは楽し気に笑みを浮かべて答える。

 

 

 

「──もっとも出会いたくない……恋人、ってところかな」

 

 

 

 その答えに対して、千間は納得したように、別のことを口にする。

 

「でも残念だったね。あんた、烏丸の財宝を狙って来たんだろ?」

 

 それにキッドは笑みを浮かべたまま──腕を離す。

 

「ああ、そのつもりだったが止めとくぜ!」

 

 支えとなっていたキッドの腕が無くなり、思わず空中で水泳する千間だが──その体が地面に叩きつけられることはなく、ヘリと繋がっている紐で揺らされる。

 

「──あんなもの、泥棒の風呂敷には包みきれねぇからな!」

 

 キッドはそこでハンググライダーで去っていく。

 

 そこで修斗を除いた全員が屋敷の変化に気付く──屋敷全体の壁が崩れ、中から金が現れたのだ。

 

 コナンが代表して解いたあの時計が、この仕掛けを作動させるスイッチの役割を果たしていたらしい。

 

「流石、烏丸の館。千億はくだらないわね」

 

(──なるほど。『黄昏』とは空が黄金色に輝く夕暮れ時のこと……まさに『黄金の館』ってわけか)

 

 その間、外壁が崩壊し、『黄昏の館』から『黄金の館』へと変貌していく館を見ながら、修斗は思う。

 

(そういえば──結局、あの館の元の所有者は誰だったんだ?)

 

 

 

 その後、小五郎は白馬のばあやが回収し、共に警視庁へと向かうことになったらしい。一足先に到着したコナン達はと言えば──松田にヘッドロックを掛けられている修斗を見ていた。

 

「ちょ、なんっ!?」

 

「おう、北星の坊ちゃん──よくも仕事増やしてくれたなぁ??」

 

「ストップおれなんもしてないっ!!」

 

「こちとら夜勤のところに事件発生からのこれだぞ?今から事件の後処理だぞ??──睡眠時間なしの徹夜業務だ」

 

「ギブギブギブギブ!!!」

 

 修斗がタップを始めれば、一応は怒りを鎮めた松田。彼は知っているのだ──今回の事件も、修斗が止めなかったことを。

 

「……さて、アンタたちも徹夜明けだろ。今日はゆっくり自宅で休んで、また後日、事情聴取ってことでいいですか?」

 

 松田が修斗を開放しつつ提案すれば、全員がそれを承諾。毛利一家は小五郎と合流後に帰宅となるため、ばあやを待つ修斗と白馬。そして小五郎を運んできたばあやの車で、今度は修斗と白馬を乗せて、家までの道を走り出す。

 

 その道中──修斗は白馬に向けて口を開いた。

 

 

 

「──お前、怪盗キッドの正体、知ってるんだな」

 

 

 

 疑問形すらつかないその言葉に、白馬は目を細めて修斗を見やる。

 

「……なんのお話でしょうか?ぼくが、キッドを?……珍しく推理が外れましたね」

 

「外れてねえだろ。お前が日本にやって来た時、目的は怪盗キッドだった……目的が達成されるまで絶対に現場から離れないはずのお前が、日本からイギリスに戻ったって聞いたとき、キッドが捕まったのかと思ったもんだが──奴は普通に新聞に載せられていた」

 

 修斗はそれに久しぶりに目を丸くした。なにせそれが意味するのは──白馬が、見逃したということなのだから。

 

「目的も達成してないはずなのに帰国したっていうことは、お前なりのケジメが一応、着いたっていうことだろ。怪盗キッドは捕まってないのに──となれば、お前は怪盗キッドの正体を知ったが、お前の中でそれが正規の方法ではなかったから誰にも言わないんだろ?……DNAでも採取して照合したか?」

 

「……」

 

「DNAが採取できる環境ってのは限られる。最初に現場で拾ったとしても、照合するための毛髪を簡単に採取できたってことは──お前が通っていた高校で、そのクラスメート」

 

 修斗のその話に、白馬は肩を落とした。

 

「……例えば、僕がそれに肯定を返したとして──どうするんですか?」

 

 白馬は理解していた。普通の人であればこの時点で警察に連絡するだろう──しかし彼は『普通』じゃない。

 

 

 

「──別に。通報しねぇよ」

 

 

 

 修斗にとっては唯の『答え合わせ』なのだ。

 

 事件を解決したり、それを防ぐような正義感など、彼にはない。事件を解いたときの爽快感も、特にはない。しかし──答案を書いて、それを採点されない状況は、かなりストレスなのだ。

 

「──だから、キッドには伝えても問題ないぞ。俺にバレたことも……俺が、キッドのすることに基本は邪魔しないことを」

 

 修斗のその言葉に──白馬は何も、返さない。




それにしても、千間さんてかなりお歳をめした女性なんですが、運動能力高くないですか?

コナン世界は、老人でも若者並みに運動能力と骨や筋力の強さがないと生きていけない町なんですか??……こわっ。

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