とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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今までさんざん、松田さんと瑠璃さんの関係をそれっぽい気配だけさせて放置みたいにさせてきたのですが、実は未だにそういう関係にさせるか、このままで終わらせるかを決めておりません……。作者が決めないといけないというのに迷ったままと言う……。

もしそういう関係に進ませることに決まったら、タグの方は一つ追加させていただきますのでご容赦ください。書く前にはなかった設定なんです……。

ちなみに、前にも話したかもしれませんが(話してなかったらすみません)、私は高木さんと佐藤さんのカップリング派です!別に松田さんと佐藤さんのカップリングを否定してるわけではないですが、好みの問題として受け入れていただきたいです!!ちなみに松田さんと佐藤さんのカップリング話でも私は拒否りませんよ大いに語りましょう!!

それでは、どうぞ!



*作者の恋愛経験はほぼありませんので、ファッションセンスは目を瞑っていただけると嬉しいです……。


第32話~レトロルームの謎事件~

 某日、松田、伊達、萩原、彰、そして瑠璃がお昼休みを利用して喫茶『ポアロ』へとやって来た。各々が食べたいものを食べ終わったところで、瑠璃が松田の名前を呼び、懐から取り出したチケットを渡した。それを他3人が好奇心から横から覗き込み、目を丸くする。

 

「『ドルフィンランド』……って、水族館みたいなところだよな?」

 

「え、瑠璃、それを松田に渡したってことは……デートの誘いか?俺、そんな関係になったって話聞いてないんだが???」

 

「え……ああ、違う違う!!」

 

 萩原が目を丸くしたまま呟き、彰が声を震わせながら確認すれば、瑠璃は一瞬何を言われたのかできなかったようで顔を呆けさせ、すぐにおかしそうに笑いながら否定を入れた。

 

「勇気がこの前、珍しく屋敷に来た時に渡してきたものだよ。どうも職場の人から行かないからって押し付けられたらしくってね……」

 

 瑠璃は苦笑いしながら先日、屋敷での会話を話していく。

 

 

 

 ***

 

 

 

「あ、瑠璃姉さん、良いところに」

 

 仕事が休みであったその日の朝。屋敷の廊下を歩いている際、後ろから声を掛けられ思わずと後ろを振り返れば、どこか眠そうな表情を浮かべる勇気がいた。それに思わず呆ける瑠璃。なにせ彼が自主的に、何の誘いも招待状もなく訪れるのは珍しいのだ。

 

「びっくりした……久しぶりだね!今日はどうしたの?」

 

「瑠璃姉さんのその朝からの元気が羨ましいぐらいだよ……修斗兄さんからの呼び出しが入ったんだよ。自室のパソコンの調子がおかしいから見てほしいって。ちょうどいいかなって思ってこれ持って来たんだけど……」

 

 そう話しながらポケットから取り出したのは件のチケット。それに目を輝かせたのを見逃さなかった勇気がチケットを手渡した。

 

「え……これ、修斗に渡すよていだったものじゃ……」

 

「別にいいよ、誰に渡したって同じだし。僕は興味ないし、兄さんに渡せば誰かしらに譲るでしょ?姉さんが行きたいなた、相手作っていったらいいよ」

 

「……ちょっと待って。『相手』?」

 

 その言葉に思わず口元を引き攣らせて問えば、勇気は首を傾げて口を開く。

 

「だってこれ──ペアチケットだよ?」

 

 

 

 ***

 

 

 

 そこまで話して瑠璃は悲しそうに顔を両手で覆って俯き、話を聞かされていた伊達以外の男3人衆も精神的にダメージを負った。

 

「さ、流石は同じ血が入った弟……なんの悪気もなく傷を負わせてくるな」

 

「やめろ……少なくとも俺はそんな悪気なくぶち込まないぞ」

 

「嘘を吐くんじゃないぞ彰。小中高と、女性からいくつもチョコもらったくせして『友チョコ』とか言ってただろうが……」

 

 伊達がコーヒーを飲みつつ伝えてきた話に彰は首を傾げ、それに頭を抱える他の面々。事実、ここにいる面々は美男美女、人が寄ってくる理由はあるのだ。

 

「そ、それで?瑠璃ちゃんが陣平ちゃんにそのチケットを渡した理由って、なに?」

 

 萩原が頬を引き攣らせたまま瑠璃に問えば、瑠璃も咳ばらいをして理由を話す──それが再度、男性陣に頭を抱えさせることになるとは思わずに。

 

「──だって、松田さんって佐藤さんのこと好きですよね?」

 

 それを聞いて、松田は勢いよく頭をテーブルにぶつけた。

 

「ま、松田さんっ!!?」

 

「瑠璃、お前……」

 

「松田、ご愁傷様だな……」

 

「陣平ちゃん、しっかり……!」

 

 他のメンバーから励ましをもらい、松田は顔を上げて訂正する。

 

「アイツのことは同僚としてはいいがそういう風には見てねぇよ!!」

 

「えっ!?そ、それはすみません……!!」

 

 瑠璃が慌てて頭を下げ、その謝罪を受け入れるも、今度は瑠璃が頭を抱える。

 

「うーん、となると、このチケットは誰に渡そうかな……」

 

「そういや、その佐藤には聞いたのか?」

 

 伊達が聞けば、瑠璃は頷く。もうすでに話をしていたのだ。

 

「けれど、相手もいないからって言われまして……」

 

「それで佐藤のやつを誘って行けって言ったのか……」

 

 松田が瑠璃の行動理由を理解すると、そのチケットを奪った。

 

「あっ!?」

 

「──このチケット、もらってやってもいい」

 

 松田のその一言に瑠璃が彼の顔を見れば、彼はニヤリとあくどい笑みを浮かべていた。

 

(あ、いやな予感……)

 

 瑠璃がその予感を抱くとともに、彼は言う。

 

「ただし条件があってな?その条件は──ー」

 

 

 

 ***

 

 

 

 それから数日後、瑠璃は東都モノレールの駅内にて松田を待っていた。それも、白のハイネックのニットにチェック柄の長いフレアスカートを着て、茶色のポーチを肩から掛けていた。時刻は10時40分。約束の時刻は10時50分。この日は11時のモノレールに乗るために、少し中途半端な時刻設定となっている。その約束の時刻より早く着いた瑠璃はキョロキョロと周りを確認していた。

 

(……松田さん、どこだろう?)

 

 瑠璃が松田のことを待っているのは、彼からの条件で松田から誘いを受けたからだ。

 

(って、自分が渡したチケットでなんで行くことになってるんだろう??いやまあ、受け取ってもらった時点でどう使うかは松田さんに決定権があるけどもっ!!)

 

 なぜこうなってるのかと頭を抱えてうなっていると、声を掛けられる。それが聞こえて顔を上げてみれば、茶色のジャケットを着て黒のニットと下に白のシャツ、カーゴデニムのパンツの松田がいた。

 

「……」

 

「……おい、瑠璃?」

 

「松田さん、とてもカッコ良いと思うのですが……アイデンティティになってたサングラスはどちらに、アイタタタタッ!!」

 

 瑠璃がふざけて聞けば、その瞬間にアイアンクローを容赦なく決めてくる松田。

 

「テメェはいつも一言多いよな、アァ?」

 

「口調がヤンキーのそれですよ!?」

 

 そこで漸く手を離され、痛みから頭を摩る瑠璃と溜め息を溢す松田。

 

「はぁ、第一声がそれってお前、女としてどうなんだそれ……」

 

「しょっぱなからアイアンクロー決めるのもどうかと思うんですよ私……」

 

「お前と修斗には容赦しなくていいって彰から許可が出てるからな」

 

 松田からの言葉にガックシと肩を落とす瑠璃だが、すぐに腕時計を確認して「あっ!」と声を出し、彼の腕をつかんだ。

 

「っ!?おい、瑠璃!!急に掴むなっ!!」

 

「だって、11時のモノレールのが来ちゃいますから、急がないとっ!!……あ、切符は既に買ってますから大丈夫ですよ!!」

 

 そう言ってウインクして笑みを浮かべる瑠璃に、やれやれと言いたげに溜め息を溢す松田。そうしてドルフィン駅前に着くころには11時30分。2人は元より予定していたお昼ご飯を食べるために、先に近くのカフェに入る。

 

「松田さんは何食べますか?」

 

「お前が先に決めていいぜ」

 

「ん~、じゃあ私はフレンチトーストとカフェオレで!」

 

「んじゃ、俺はカレー……しっかし、甘いものと甘いものってお前……」

 

「コーヒーはミルクと砂糖を入れないと飲めないんですよ……松田さんはカレーなんですね。ハンバーグかと思いました」

 

「なんでンなこと思ったんだよ」

 

 松田が訝し気に訊けば、瑠璃が楽し気に笑みを浮かべる。

 

「彰から聞いてますもん!警学時代、『降谷』さんのおかず奪ってたって!」

 

「彰の野郎、余計なことを……ッ!」

 

「ちなみに、警学時代の面白おかしい話は他の4人にも広まってますよ?例えば……当時、私と雪男と雪菜が遭遇したあのコンビニの事件の全貌とか!!」

 

 瑠璃たちがコンビニに行ったのは、飲み物とおやつ目的(瑠璃が保護者として同行した)だったが、目撃したのは多数の人が取り押さえられている姿。当時の瑠璃はそれに目を丸くして呆然とした。

 

「いやぁ、あの時は彰もサングラス掛けて、いつもならしないような服装してましたから一瞬信じられなくて、警察呼びましたからね~」

 

「電話で呼んでくれたのはありがたかったが、お前が俺たちの服装を言い始めたのは焦ったからな!?」

 

「混乱してましたからね……彰が瞬時にサングラス取ってくれてよかったですね!」

 

 事実、当時は松田達側が犯人側の人間だと思い、警察に連絡してしまったのは瑠璃だった。しかし目の前で彰がサングラスを取って近づいたために、警察側に間違えたことを謝罪してから伝えなおしている。しかもコンビニの件は先に連絡が入っていたという落ちがあったりしたのは、既に瑠璃の中では笑い話だ。

 

 それに松田は重い溜め息を吐いた後、すぐににやりと笑った。

 

「ああ、そういやお前の警学時代の話も彰から多少だが聞いてるぜ?」

 

「エッ」

 

「勉強面では記憶してそつなく熟してたが、逮捕術の授業の際に上手くいかなくて泣きながら彰に教えてほしいって頼み込んだらしいなぁ?特に拳銃の技能で外しまくって──」

 

「彰のバカ、なんで言っちゃうのー!!?」

 

 そこで今度は瑠璃が頭を抱え込み、今度は松田が楽し気にニヤニヤと笑っている。

 

 注文品が届くまでの間、2人は話をし続け、ときには外を眺めたりと時間を潰し、食べ物が届いたときにもたまに会話をし、互いが食べ終わるとカフェから出てすぐにドルフィンランドへと向かった。時刻は13時頃。

 

 松田と瑠璃がイルカショーを楽しみ、瑠璃が土産物店を物色し始め、松田はその様子を見つめている。

 

「……あの、松田さん?」

 

「なんだ?」

 

「私の買い物、遅くなるでしょうから先に外に出て待っていてくださっていいんですよ?……煙草、かなり我慢してますよね?」

 

 松田は生粋のヘビースモーカー。それは瑠璃も知っていることで、しかしこの日はまだ吸っている姿を見ていない。我慢しているのではと瑠璃が申し訳なさそうに見れば、彼はその頭に手を載せ、乱雑に撫で始める。

 

「ま、松田さん!?髪がボサボサになるからっ!!」

 

「多少平気だろ……あと、一丁前に気遣ってんじゃねぇよ。外に出たら喫煙所探すからな」

 

「あ、そこは吸わないとは言わないんですね、って、更にボサボサになるんで乱暴に頭を撫でないでくださいー!!」

 

 そんなやり取りをしつつ買い物を終え、煙草を吸っている松田と次はどこに行こうかと話していると、2人の携帯に連絡が入る。

 

「──松田ですが」

 

『おお、松田くん。休みのところすまないとは思うが、殺人事件が発生した──それも、君たちの近くで、だ』

 

「……はぁ?」

 

 松田が思わず首を傾げ、横にいる瑠璃に視線を向ければ、瑠璃も訝し気な表情で松田を見ていた。その間にも電話の向こうにいる人物──目暮と彰が現場を伝え、現場保存と事情聴取を先にしていてほしいと伝えると連絡を切った。

 

 2人は互いに視線を合わせ頷くと、現場である隣の建物──『ドルフィンホテル』へと向かっていった。すると、ホテルに入ってすぐに、既に見慣れてしまう回数で顔合わせしてきた蘭が立っていた。

 

「え、蘭さんっ!?」

 

「瑠璃刑事!それに、松田刑事も……」

 

「毛利の嬢さんがいるってことは……」

 

 そこで松田が歩き始めてしまい、瑠璃と蘭が慌てて後を追う。

 

 現場である『レトロルーム』への階にエレベーターが到着すると、蘭の案内で部屋へと向かう。その部屋の前では、見慣れた2人と見慣れぬ女性3人が立っていた。それを見て、松田は迷わず見慣れた1人──コナンへと向かっていく。

 

「よぉ、坊主──久しぶりだなぁ?」

 

 ニヤリと笑い、鋭い視線を向けてくる松田に、コナンは思わず頬を引き攣らせることとなった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 目暮警部たちも合流し、規制線が張られた現場では、遂に事情聴取が始まろうとしていた。

 

「──で、第一発見者は貴女方3人と……いつもながら偶然、居合わせた毛利くん、君かね?」

 

 目暮が呆れたような目を小五郎に向ければ、小五郎も苦笑気味に肯定し、その後ろにいた蘭も、どこか恥ずかしそうに頬を染めて下を向いていた。

 

「小五郎さん、1度、お祓いに行った方がいいのでは?紹介しましょうか??」

 

「その際には坊主も連れて行った方がいいぜ。こいつの方がなんか持ってそうだぞ?そういうの」

 

 瑠璃と松田の言葉に、コナンがハハッと呆れたように笑う。そのやり取りを見た後、目暮は女性3人に顔を戻した。

 

「貴女方3人にも、事情聴取をせねばなりません。暫く、お待ちいただけますか?」

 

「あーっ!それなら私がボディガードをっ」

 

「毛利さん、その必要はないんでいいです」

 

 小五郎の提案に彰がバッサリ切り捨てると千葉刑事を呼ぶ。やって来た千葉刑事に女性3人を任せると、彰は小五郎と目暮警部と共に現場へと入った。

 

「どうだ、高木くん、伊達くん」

 

「あ、警部……被害者は『藤村 直美』さん。27歳。海外で子供服のデザイナーをしていたそうです」

 

 高木がそこまで説明すると、後ろにいた鑑識のトメさんから声がかけられた。

 

「目暮警部、被害者のスカートのポケットにこんなものが……」

 

 そう言ってトメさんから見せられたのは『痴漢撃退用催涙スプレー』。それに目暮と小五郎が驚き、瑠璃は理解を示すように頷くが、ふっとあることに気付き首を傾げた。

 

「ん?どうしたんだね、瑠璃くん……彰くんたちまで妙な顔してどうしたんだ?」

 

 目暮が彰たちを見やれば、瑠璃が言葉にする。

 

「いえ、包丁で一突きですよね?──なら、なんで『それ』がポケットに入ったままなんですか?」

 

 瑠璃の言葉にハッと2人は顔を見合わせる。ポケットに入ったままということは、少なくとも本人はそれを使ってない可能性──つまり、知人の犯行の線が浮上したのだ。

 

「しかし、ここはなんでこんなに古めかしいんだ?」

 

「この部屋は『レトロルーム』っていって、老舗旅館を模して造られてるんだってよ」

 

 彰が現場の部屋を見ながらそう溢せば、松田が隣に立って説明する。それを聞いた伊達が納得したようにコイン式のテレビを見る。

 

「どうやら、100円いれりゃぁ1時間みれるタイプのようだぞ」

 

「いや本当によく見つけてこれましたねホテルの人……」

 

 伊達の説明を隣で聞き、感心したように瑠璃が呟く。その話が聞こえた目暮警部が思い出したように小五郎に話しかける。

 

「そういえば、君たちがこの部屋に入ってすぐ、テレビが消えたんだったな……」

 

「えぇ、午後2時頃に」

 

 それを聞き、伊達がテレビの上の説明書きを見れば、100円玉は1度に1枚のみしか使用できないと書いてあった。

 

「つまり、テレビをつけたのは1時ごろですね……」

 

 伊達の声に高木がメモを残しつつ言う。その高木に目暮が死亡推定時刻を訊けば、正午から午後1時頃だと返ってくる。テレビの時刻と合致する。それを聞き、小五郎が顎に手を付けた。

 

「テレビをつけたころ、知人の誰かに襲われたわけか……」

 

 そんな小五郎の足元から子ども特有の高い声が上がる。

 

「ねぇ!このお菓子珍しいね~!!」

 

 その声に全員がそちらに視線を向ければ、そこにはコナンが四つん這いになって畳に散乱しているおやつを見ていた。それを見て小五郎は顔を顰めた。

 

「まったお前はっ!!!」

 

 しかしその隣にいる目暮は懐かしそうに笑みを浮かべた。

 

「わっははー!ラムネ菓子に紐付き飴……うまいかくんソースせんべい!いや懐かしいもんばかりだっ!!」

 

「へ~、確かにラムネ菓子以外見たことないですね……」

 

 瑠璃は感心したようにそれらを見つめる。それに彰がジト目で後ろから見つめる。

 

「瑠璃、この前、ダイエットがどうとか言ってなかったか??」

 

 それに肩を分かりやすく跳ねさせた瑠璃は、駄菓子から視線をずらした。

 

「が、がんばってまーす……」

 

「お前、今日フレンチトースト食べてたじゃねぇか」

 

「松田さん。相手が私じゃなかったら殴られてますよ、それ」

 

 瑠璃からの非難の視線に顔を背けてどこ吹く風といった様子の松田。それに楽しそうに笑みを浮かべる伊達が、瑠璃の肩を叩いた。

 

「よしっ、瑠璃。今度、一緒に走るか!」

 

 その提案に目を輝かせる瑠璃だが、後ろの彰と松田は頬を引き攣らせる。

 

「伊達は結構その辺、厳しい奴だが……」

 

「……あいつ、後日死ぬんじゃね?今のうちに手を合わせておくか」

 

「むしろお前と知り合いのジム紹介してやれよ……」

 

「あそこはボクシングジムだから無理だな……瑠璃の奴が人殴れるとは思えねぇし」

 

 その間にもこの話はまた後で決めようということになり、松田と彰は合掌した。そんな2人に首を傾げる伊達と瑠璃、そして聞いてたコナンは苦笑いを浮かべる。

 

「そういえば、なんでこの部屋にンな駄菓子があんだよ……」

 

「これは、お茶菓子としてこの部屋に用意されていたものだそうです」

 

「犯人と被害者が争っていた時に散らばったんでしょうな」

 

 それに同期3人が眉を顰める。

 

「……散らばったにしては、妙だな」

 

「ああ。なんでこの菓子類に──」

 

「──あれ?」

 

 彰と松田が話していたところを、コナンが声を上げて全員の視線を集めた。

 

「これ、アイスが混ざってるよ?……溶けちゃってるけど」

 

「アイス?」

 

「きっと、アイスを食べながらテレビを見ようとしたところを、襲われたんでしょう」

 

 コナンの言葉に目暮が不思議そうな表情を浮かべる。その隣にいた小五郎はそんな目暮に己の推理を話すと、目暮が冷蔵庫の確認をしてほしいと声を上げた。それを聞き、トメさんが冷蔵庫を開けば、中にはいくつかの懐かしいアイスがあった。それを手に取り、トメさんは目暮たちに持ってきた。

 

「目暮警部、何本かあります……これも懐かしいですね」

 

「いや本当、ホテルの人、かなり苦労して手に入れたんでしょうね……」

 

 瑠璃がこのホテルの関係者に対して尊敬の念を抱く。そんな瑠璃をよそに、目暮が小五郎の推理した通りだろうと同意する。その傍ら、彰たちは何か引っかかるものを抱くが、それが何なのか見当がつかずもどかしい気持ちを抱いていた。

 

「なんだ?この違和感……とくにあの落ちてたアイスだ」

 

「ああ。あれだけこの部屋と違って最近の……今現在も販売されてるものだ。そうだな?瑠璃」

 

「現在どころか、つい最近販売が始まったものですよ、アレ。先日、お昼休みにコンビニ寄ったときに見たんで確実です」

 

 そこで松田が瑠璃に話しかければ、瑠璃はそう話す。そんな時、近くにいたコナンが視界の端に動いたのに気づき、伊達がそちらを見てみれば、テレビと、近くの花瓶が置かれた戸棚を見ていた。

 

「坊主、どうした?」

 

 伊達が話しかければ、コナンは伊達を見ながらテレビのつまみと戸棚に残っている水滴を指さした。

 

「ここんとこ、少し濡れてるよっ!」

 

「おっ本当だな──ーっ!!」

 

 そこで彰たち4人の頭に光が走った。もし、頭の中で浮かんだ内容が正解であれば──少なくともあの3人でも、犯行が可能になる。それを理解し、伊達は振り返って目暮警部を呼ぶ。

 

「目暮警部!!」

 

 伊達の声に、目暮警部が訝し気な表情で近くにやって来た。

 

「どうしたんだね?伊達くん」

 

「これ、見てもらっていいですか?」

 

 伊達がそうして指さしたのはコナンが示した戸棚とテレビのチャンネルのつまみ。

 

「ん?この戸棚、濡れておるな……」

 

「えぇ、そうなんです。しかも、このテレビのつまみも濡れてるんですよ」

 

「それが、どうかしたんすか?」

 

 小五郎が真剣な顔で伊達に訊けば、小五郎に視線を合わせて説明する。

 

「もし、今から説明するやり方だった場合──あの発見者たちも、一気に容疑者入りすることになる」

 

「なっ!?」

 

「なんだとっ!?」

 

「……」

 

 小五郎と目暮警部は驚きで声を上げ、コナンは真剣な表情で伊達を見ている。コナンも、つまみと戸棚の水滴をを見て理解していたのだ。

 

「まず、ここに落ちている『紐付き飴』のこの紐を、テレビの投入口の金具に引っ掛けます」

 

 伊達は説明しながら件の紐を引っ掛け、次に溶けてしまっているアイスバーの袋を持つ。

 

「次に、このアイスバーをこのつまみと戸棚に橋の様に乗せ、その下に紐をこのアイスバーで押さえます。本来、溶けてなければこの押さえる手も必要ないんですが、今はこれで行きます──瑠璃」

 

「はい、どうぞ!」

 

 伊達が名前を呼んで振り返れば、察していたらしい瑠璃がポーチから財布を取り出し、100円玉を渡した。

 

「いやぁ、まさか事件現場でお財布持っててよかったと思う日が来るとは、予想外です……」

 

「本当にな」

 

 私服姿の瑠璃が遠い目で呟けば、それに同意する松田。そんな2人をよそに、伊達が瑠璃から渡された100円玉を投入口に置けば、それは紐が中への侵入を拒んでいた。それを見て小五郎たちが驚愕する。

 

「なっ!?」

 

「ま、まさか、アイスバーが溶けると……」

 

「えぇ──こうなりますっ!」

 

 伊達が抑えを解いた瞬間、アイスの袋は重力に従って畳に落ち、紐付き飴も重力に従って落ちれば、紐という抑えが無くなり100円玉が投入され、テレビが点いた。

 

「なるほど……」

 

「テレビの前に駄菓子が散らばっていたのは、トリックを隠すためだったんですね……」

 

「そのようだな」

 

「この、チャンネルのつまみと戸棚の上が濡れているのが、このトリックが使われた証拠……」

 

「そして、これさえ使えば、本来の殺害時刻とずれを起こせる……つまり、知人であれば、例え第一発見者であるあの女性3人だろうと──犯行が可能」

 

 松田の言葉に目暮たちの目が見開かれる。確かに、これは彼女たちが来るもっと前から仕掛けてしまえば、殺害されたと思われていた時刻にたとえアリバイ──3人が集まっていて犯行不可能──があろうと、それが崩された今、アリバイではなくなってしまった。

 

 その時、警官の1人が目暮警部たちに声を掛けてきた。その警官は現在、ホテルにいた全員のアリバイ調査と話を聞いていたうちの1人。呼ばれて松田と瑠璃、高木を残して通路へと出てみれば、クリーニングを請け負っていたという女性が立っていた。そこで話を聞けば、気になることを話してくれた。

 

「──では、1時少し前にクリーニングしたブラウスを届けに来たんですね?」

 

「はい……あ、ですが、ドアに『起こさないでください』と札が掛かっていましたので、部屋には、入りませんでした」

 

「──ねぇ?その時、ドアに鍵は掛かってた?」

 

 そこで、小五郎の後ろに上手く隠れていたらしいコナンが女性に問いかければ、目暮警部が困ったようにコナンを見下ろし、小五郎はこぶしを握って怒鳴った。

 

「またまたお前はぁ!!!」

 

「っまぁまぁ……で、どうでした?」

 

 目暮警部が改めて問いかければ、女性はドアノブには触っていないために分からないと答える。その時、現場から高木が手に何かを持って出てきた。

 

「目暮警部、北星警部、伊達さん!!テーブルの下から被害者の携帯電話が発見されました!!」

 

「おーっ!」

 

 それを聞き、小五郎はあることを思い出した。

 

「あ、そうだ。発信履歴を調べてみてくれないか?」

 

 高木がそれを聞き確認してみれば、午後1時8分に、第一発見者の3人の1人である『山本(やまもと) 公仁子(くにこ)』から連絡が入っていた。

 

「午後1時8分……ふむ」

 

「その電話を山本さんが受けた直後、我々と出会ったんです」

 

「でもそれ、小五郎さんは聞いてないんですよね?」

 

 彰が聞けば、小五郎は神妙に頷く。つまり、被害者が生きていたのか、死んでいたのかは判別が出来ない。そこで山本本人に確認すれば、茶髪の女性──山本からは本人からの声だったという。

 

「──確かに、直美の声で『早く来なさいよっ!』って……時間は、1時8分です」

 

 山本はそう言って、携帯の履歴を見せてくれる。事実、そこには同じ時刻が羅列していた。

 

「そうですな……その時、貴女はどちらに?」

 

「モノレールの、一番町駅です」

 

「私たちは、1時からずっと一緒でした」

 

 山本の後に続いて話したのは眼鏡をかけた女性である『大林(おおばやし) 佳央理(かおり)』。その彼女と山本の間に座って顔を俯かせているのがピンクの服を着た女性『金田(かねだ) 佳奈美(かなみ)』だ。

 

 そんな金田を大林は見つめながら一言付けたす。

 

「──佳奈美は、10分遅れましたけど」

 

 それを聞いた目暮たちが佳奈美に視線を向けた。それに佳奈美がおびえながら問いかける。

 

「あ、あの……なにか?」

 

「いえ。貴方はなぜ、集合時刻に遅れたのですか?」

 

「い、家の事をしていたんです。洗濯物を干したり、お皿を洗ったり……」

 

 それに一応、納得を示した目暮警部が頷けば、山本が先ほどの話を続ける。

 

「私たちは、1時20分のモノレールに乗りました……このホテルに到着したのが、1時50分ごろ。直美の部屋に着いたのは、2時ちょうどでした」

 

 それを聞き、目暮が本当かと隣に座って話を聞いていた小五郎に問いかければ、間違いないと返ってくる。そこで目暮が改めて3人に顔を向ける。

 

「それでは皆さん、申し訳ありませんが、正午から1時までは何をしていたのか、聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 それに3人が驚いた様子を見せる。

 

「し、正午からですか……?」

 

「ええ。先ほど、『ある方法』を使えば、皆さんのおっしゃった時刻より前に犯行を行い、そして皆さん及び我々警察に、犯行時刻を誤認させることが出来ると証明されたのです」

 

 それに3人が目を互いに見合わせ、まず山本と大林が話し始めた。

 

「わ、私は、駅に向かう為に移動を……その前までは家で準備をしていました」

 

「私も、同じです」

 

「私は、家族とご飯を食べていました……」

 

 金田の言葉に後ほど確認すると話しをすると、目暮警部は残りの2人に視線を向ける。

 

「貴女方2人は、どうですかな?」

 

 目暮警部からの問いかけに、2人は顔を俯かせて首を横に振る。誰もそれを証明できないのだ。それに理解したことを伝えると、3人に現場に戻って遺体発見時の状況を説明してほしいと伝えれば、少しして全員が立ち上がった。

 

 それを見ていた伊達、彰、コナンは『ある人』に目を付けていた。しかし、全員その人が犯人であるという決定的な証拠がなかった。そのことに頭を悩ませていた時、コナンの近くを通った『その人』から、何かのビニール音がこすれるような音が聞こえ──コナンは気障な笑みを浮かべた。

 

 

 

 現場の状況説明が終わり、全員が頭を悩まし始めた頃──唐突に小五郎がフラフラと体を大きく揺らし始めた。

 

「はっ?」

 

「おいっ大丈夫か毛利探偵!?」

 

 唐突なそれに、松田は目を見開いて固まり、伊達が壁に座り込んだ小五郎に駆け寄った。

 

「お父さん?」

 

 蘭が驚いたように呼びかければ、小五郎──のフリをして襖に隠れてしゃべりだすコナン。

 

「大丈夫だ、蘭。伊達警部もご安心ください──今、全ての謎が解けたのですよ」

 

「……はぁ!?」

 

 その言葉に伊達が思わずと声を張り上げ、小五郎の言葉に彰たちも驚いた。

 

「そ、それは本当かね!?毛利くん!!」

 

「ええ、間違いなく。そして犯人は間違いなく、今ここにいる3人の女性の中にいるんです!」

 

 それに驚きの声を上げるのは、勿論、女性3人組。

 

「えぇっ!?」

 

「そんなっ!?」

 

「私たちの中に、犯人が!?」

 

 山本、金田、大林の声を聴くと、小五郎は話を始める。

 

 催涙スプレーの話から始まり、今もテーブルに置かれているルームキー、これが強盗が犯人であった場合、遺体発見を贈らせるためにもカギをかけていくはずだと話す。

 

「そして、犯行時刻……こちらは、伊達警部が証明してくださったのを逆算し、恐らくは12時20分頃だったのでしょう。テレビのトリックも、女性の皆さんのためにも、もう1度実践して見せてみましょう──コナンっ!!」

 

 そこで襖の後ろに隠れていたコナンが出てくる。しかも周到に両手に白手袋を付けて。

 

 それに同期組は目を見開き──疑惑の視線をぶつける。

 

(こいつ……なんであそこに?)

 

 特に強い視線を松田がぶつけていれば、コナンが冷や汗をかきながらも、伊達が暴いたトリックを説明し、伊達を振り返る。

 

「──これで間違いなかったよね?伊達警部?」

 

「──ああ、間違いないぞ、坊主」

 

 2人が意味ありげに笑みを浮かべて互いに向ける。しかし直ぐにコナンが蘭に100円玉を要求すると、それを松田が止めて、コナンに自身のを渡した──ニヤリと笑いながら。

 

「坊主──貸し1つだからな?」

 

「は、ハハハッ……」

 

 コナンは背中に感じる冷や汗をごまかし、投入口にセット。その後に先ほどと同様、抑えを解けば、紐付き飴とアイスバーの袋が重力に従って落ち、コインは投入されてテレビが点く──先ほどと同じだった。

 

「いま、コナンくんが見せてくれたこのトリック。これに使用されたアイスバーは最近、発売されたものですので、この部屋に最初から用意されていたものではありません」

 

「直美が買ってきたのかもしれないでしょ!?」

 

 瑠璃がアイスバーを手袋越しに持ち上げて見せれば、山本がどこか焦ったように叫ぶ。しかし、コナンは続ける──この部屋の鍵を閉めなかったのも、このトリックのためなのだと。

 

「ドアにカギをかけたら、友人とここに戻っても部屋に入れず、テレビが消える瞬間を見せられませんからね……」

 

「ドアノブにかかっていた札も、犯人がかけたもの……この時点で、家の方で問題がなければ、金田さん。貴方には犯行が不可能だと立証されます」

 

 彰が金田に笑みを浮かべて伝えれば、彼女は安堵したように吐息を溢す。

 

「ほんの1時間半とはいえ、遺体のある部屋を鍵もかけずに出ていかなければならない……誰かが部屋に入ったら、計画は水の泡ですからね」

 

 そこで山本は声を上げる──自身は1時8分に、藤村から連絡を受けていると。

 

 その言葉に大林も同意する。もし1時前に亡くなっていたのなら、電話など掛けられない。そう反論する大林に、コナンは気障に笑う。

 

「──犯人がかけたんですよ。被害者の携帯を使ってね」

 

 それに大林は必死に募る。

 

「でも、公仁子は直美と話したって──っ!!」

 

 そこで漸く、彰たちとコナン以外の全員が気づいた──その山本が、偽証したのだと。

 

 全員が山本へと顔を向ければ、彼女は顔を青ざめさせていた。山本の近くにいた金田は、信じられない思いを抱きつつ、彼女からゆっくりと離れる。そんな全員の反応を感じつつ、コナンは答える──唯一無二の、真実を。

 

「そう、話せるはずもない……つまり犯人は──山本公仁子さん!貴方だっ!!」

 

 小五郎に遂に名指しされた彼女は小さく体を震わせ、歯を食いしばっている。

 

「く、公仁子……っ!」

 

「嘘っ!?」

 

「──犯行を終えた貴女は、藤村さんの携帯を持ち、モノレールで一番町駅へと引き返し、佳央理さんと合流した。そして1時頃、ポケットに忍ばせた藤村さんの携帯から自分の携帯へ電話を掛け、あたかも話しているようなフリをした」

 

 そして彼女は、遺体発見のどさくさに紛れ、藤本の携帯を机の下へと置いた。小五郎がそう言えば、彼女は固い声で言う──証拠はあるのか、と。

 

 それにコナンは自信に満ち溢れた顔で、小五郎の声であると答える。

 

「証拠なら──貴方が持っているでしょう?」

 

 ポケットのビニール袋のことを指摘すれば、彼女はあからさまにそれが入っているだろうポケットを抑えた。その気配を感じたのか、コナンは続ける。

 

「藤本さんの携帯を、それに入れて持ち出したんでしょう?」

 

「──ポケットの中を、検めさせていただきます」

 

 そこで瑠璃が近付き、彼女のポケットの中を探れば──確かにビニール袋が出てきた。

 

「──毛利さん、ありましたよ」

 

「では、瑠璃刑事。それを、光に透かして見てください」

 

 それを聞き、彼女が光を透かしてビニール袋を見てみれば、いくつも指紋が残っており、中には縦に重なった場所もある。その指紋の位置を見て、瑠璃は目を細めた。

 

「……山本さん、あなたの携帯の番号、見せていただいてもよろしいですか?」

 

 瑠璃からの問いかけに、彼女は渋る様子を見せる。しかし、彼女が断るよりも前に、コナンが声を出す。

 

「瑠璃刑事、彼女の番号なら、私が記憶していますよ。なにせ、彼女の番号は特徴的でしたから……『020ー5825ー2805』です」

 

「──なるほど?確かにそれは面白いな」

 

 松田が瑠璃の横でビニール袋を覗き込み、フッと笑う。なにせ、彼女の番号は、携帯の文字列の真ん中の縦列のキーしか使わないことになる。

 

「この指紋、縦に重複して重なったところがある──つまり、これは、ビニール越しにあんたが番号を押した跡……違うか?」

 

 松田が山本を見やれば、山本は自分が持つビニール袋なのだから、自分の指紋が付着しているのは当たり前だという。それを聞き、松田が顔を上げれば、話を聞いていたらしい千葉が既に被害者の携帯を持ってきていた。それを袋に縦にいれてみれば──付着した指紋と、位置が同じだった。

 

 それを目にした山本は何も言えなくなり──観念したように、話し始める。

 

「──直美が、許せなかったのよ」

 

 山本の言葉に、金田も、大林もなぜだと声を上げる。そんな2人を見据えて、彼女は話す──恨みの理由を。

 

「……大学を卒業するとき、成績優秀者は、海外のブランドに推薦されることになってたわ。その栄誉を得た直美は、子供服のデザイナーとして成功した──けど、その推薦は、私が受けるはずだったのよっ!!」

 

 しかし、藤村はその当時の教授に取り入り、奪取したのだ。

 

 その話を山本は先日のクラスの二次会で、酔った教授が口を滑らせたことにより知ってしまった。

 

 そう話す山本に、彼女自身も独立して自身のオフィスを持つはずだったのではと大林が悲しそうに叫ぶ。しかし、山本はそれは嘘なのだと、声を枯らせて言う──彼女は、リストラされたのだと。

 

「──たった1度の、小さなミスを理由にねっ!!」

 

「リストラ……っ」

 

 ──それは、修斗と、そして北星家の現当主である彰たちの父親が一番避けたいもの。彰と瑠璃は、そう認識している。それを、彼女は受けてしまったというのだ。

 

「──悔しかったっ!どうしてこんな目に合わなきゃいけないのかって……私がこんなに惨めな思いをしてるのは、みんな直美のせいなのよっ!!──直美が私から幸せを奪ったのよっ!!!」

 

 だから、彼女は殺したのだと──膝が崩れ落ち、涙を流しながら告げるのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 気分転換と称して、蘭たちから誘いを受けた瑠璃と松田は2度目のドルフィンランドのイルカショーを見ていた。それもナイトショーであった為、昼とは違い、イルカたちの姿が人工の光で照らされる。周りが暗いのも助けて、昼は逆光もあってしっかり見れなかった部分も見れるようになっていた。

 

 それを横で楽しむ瑠璃を見た後、その彼女の向こうにいるコナンの姿を見て、先ほど、ここに来る前に彼と対峙したことを思い出した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 警察が撤収を始め、蘭が眠ったままの自身の父親に寄り添っていた。そんな場所からコナンを連れ出した松田は、ホテルの外にてコナンと対峙した。

 

「さて、坊主……いい加減、テメェの正体を言えよ」

 

「ま、松田刑事?何を言ってるの?ぼく、唯の小学生──」

 

「ヘェ?タダ(・・)の小学生が、『愁思郎』の事件を知っていて、時効の期限を知り、あまつさえ小学生には出せないような剛速球でポリバケツを蹴り飛ばせるのか……初めて知ったぜ」

 

 まるで悪役の様な笑みを浮かべる松田に、冷や汗が止まらないコナン。そんなコナンに近づき目の前に立つと──コナンに問いかける。

 

「さて、前回はうまく逃げられたが今回は逃しゃしねぇぞ──テメェは一体、何モンだ?」

 

 松田からのその問いかけに、コナンは目を丸くし──気障に笑って松田を見上げる。

 

 

 

「……江戸川コナン──探偵さ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 松田は、この返しに納得したわけではない──しかし、それ以上を答えてくれるような気がしなかったのだ。

 

(……まあ、今回はこれで勘弁してやるよ──名探偵?)

 

 フッと楽し気に笑う松田に、瑠璃は首を傾げつつも、視線をイルカショーに戻したところで──ちょうど小五郎が、4匹のイルカからボールをぶつけられて取り損ねている姿を見たのだった。


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