とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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本庁の刑事恋物語編、はっじまっるよー!

…と、書きながらもコナン君のパラパラダンスに笑ってしまいました…いや、あの時代にはきっと流行ってたんでしょうけれど、コナン君が真顔で踊ってるの、なぜか面白(ゲフンゲフン)

ちなみに、基本は作者のやる気と休みがあればこのように間を空けたとしても書こうと思えるのですが、小説データが飛ぶと、次の映画が始まるか緋色組もしくは某トリプルフェイスさんの映画が金ローで流れない限り書けなくなってしまいますので、もしまた長期で書かなくなってしまいましたら、データが飛んでしまったんだな、と察していただければ幸いです。

それでは、どうぞ!


第29話~本庁の刑事恋物語3・前編~

この日の警視庁は、とても大忙しであったーーこの連日、放火が相次ぎ起こり、昨夜はついに5件目。そんな5件目が起こった翌日。少年探偵団は歩美の付き添い、及び放火犯のことを聞こうと警視庁にやって来ていた。

 

そう、歩美は昨夜、路地から出てきた放火犯らしき男を見たのだ。

 

「…なるほど。で、その男の目はどんなだった?」

 

「んーッとね、狐さんみたいに、こーんなに!吊ってたよ!!」

 

歩美はそう言って自分の目じりを伸ばして表現する。そんな子供らしい一面に、話を聞いていた瑠璃はほんの少し、心が穏やかになった。

 

「いや~、子供ってかわいいですね、松田さん、伊達さん」

 

「確かに、かわいいなぁ」

 

「そうだな。生意気なガキも多いが、まあ今回は納得してやる」

 

「でしょ?それで伊達さん、お子さん元気?」

 

「おっとそこで流れ弾は俺か。おお、元気に幼稚園に行ってるぜ。今朝も俺に抱き着いてくれてなぁ…」

 

「あ、しまった話長そうな気配」

 

「責任もって聞いてやれよ」

 

松田は瑠璃を見捨てて佐藤が描いた似顔絵を見る。しかし、それはかなり独特な絵で、彼は頭を抱えてしまった。

 

「全然違うよ!」

 

「あら、そう?」

 

「オメェ、絵が下手だな」

 

「それじゃあ子供の落書きですよ」

 

子供から『子供の落書き』発言を受けた佐藤はショックから目を点にして固まった。

 

「他にいないの?上手い人」

 

「似顔絵担当がいるはずだろう?」

 

哀と咲からの一言に、恥ずかしさから顔を赤くして、似顔絵担当の友川は風邪で休んでいていないことを話す。

 

(瑠璃の奴は写生は上手いが似顔絵とはちげぇし、俺も分解は好きだが絵はなぁ…)

 

頭を抱えながらも状況を打破しようと考えていると、佐藤の後ろから高木がやってきた。そして彼女に一言かけてから、彼女が持っているスケッチブックを手に取り、所謂『子供の落書き』を見て楽し気に笑う。

 

「ハハッ、しかしですねぇ、佐藤さん」

 

「なぁに?」

 

「いくらなんでも、この絵を捜査官に配布する訳には…」

 

そう言って、ちょうど話が聞こえたらしい白鳥にも絵を見せてみれば、彼も愉快そうに笑みを浮かべる。

 

「確かに、シュールで興味深い画風だとは思いますが…」

 

「あら、なぁに?」

 

そこで佐藤が目を細めて2人を見やる。

 

「代わりに描いてくださるの?お2人さん?」

 

佐藤からの仕返しに2人は固まり、それぞれ自信はないこと告げ、白鳥は白鳥でそこから去っていく。

 

「…そういえば、彰はどうしたんだ?あいつは絵、上手いはずだが?」

 

咲がそこで気になったことを聞く。こんなに事件のことを聞いていても姿を現さないとなると、答えはわかるが聞いてみれば、案の定。

 

「アイツならそれこそ放火犯の捜査に出てってるぜ…あいつに捕まえられるとして、その際に暴れなきゃいいがな…」

 

松田はそういうと遠くを見るように視線を逸らす。思い出すのは警察学校時代の彰対伊達の逮捕術訓練。

 

(あの時、だーれも彰に勝てなかったからな…いや伊達と零はいい線いけてたけども)

 

その点、射撃はいまいちだったが今は関係ないと思考を振り払う。

 

「…ぁ、それにほら!この子が見た男が本当に放火犯だとは、まだ決まってないし…」

 

その言葉に松田以外の全員がジト目で見やり、松田はため息を吐いた。

 

「なんですか?歩美ちゃんが嘘を言っているとでもいうんですか??」

 

「子供がだからってバカにすんなよな!」

 

「ハハハ、でもね、実際にその男が火をつけた所を見たわけじゃないんだろ?」

 

「ーー間違いないよ」

 

高木の言葉に対し、断言するような口調のコナン。そんなコナンに対して松田はニヤリと笑う。

 

「ほー?坊主、えらく強気で断言するじゃねぇか…何が決め手だ?」

 

その笑みを浮かべた表情を離れた所から見ていた伊達と瑠璃がコナンに対して合掌する。

 

「あのコナンって坊主、災難だな。まさかあの松田に目を付けられるとは…」

 

「いや、前から目をつけてましたから今更ですよ、南無」

 

「テメェら後で覚えとけ」

 

そんな3人のやり取りを、瑠璃たちの近くで見聞きしていた白鳥と、聞こえていたコナンが苦笑い。それでも話を促す松田を見て、断言する理由を話す。

 

「歩美ちゃんが話してくれたんだ…この暑いのに、長いコートを着込み、皮の手袋をはめて、ズボンにこぼした灯油の臭いをプンプンさせながら、出火場所近くの裏路地からニヤついた顔で現れた男を、放火犯じゃないって説明するほうが難しいと思うけど?」

 

最後の辺りでは松田ではなく高木に目を向けて話せば、高木も納得する他ない。

 

コナンも再度、歩美に問えば間違いないと頷いて答えてくれる。そんな歩美に対して、またほっこりと温かな気持ちを抱く瑠璃。

 

そこで佐藤がその裏路地に行き、現場検証をしようと言えば、子供たちが嬉しそうな声を上げる。その声に、ヘッドフォンをつけているのに思わず耳を塞いでしまった咲とそれを見てクスリと笑う哀。

 

「あら、彼らの声はそんなに大きかったかしら?咲」

 

「うるさいな…耳のそばで聞こえてきた高い声に対して思わず耳を塞ぐのは癖なんだから仕方がないだろう?」

 

咲の拗ねたような反応に益々楽しくなったらしい哀は笑みを浮かべたままだ。

 

そんな子供たちの反応をスルーして高木が佐藤と共に捜査することを伝えれば、聞き耳を立てていた白鳥が近付き、自分の車で移動することを提案。そんな2人をにやにやしながら見据える松田達。

 

「いいけど私、ちょっと寄り道するわよ。ちょうど通り道だし」

 

「「え?」」

 

佐藤の『寄り道』という単語に反応した高木に対して、佐藤はこの日は特別な日なのだと話す。

 

「と、特別な日って…」

 

「佐藤さんの、誕生日(birthday)とか?」

 

「違うわよ…その逆」

 

その哀愁漂う笑みと言葉に首を傾げる2人。そのまま伊達たちもついていくこととなったが、車を見て何かを思い出したのか一瞬遠い目をした伊達とじっと見つめる松田に首を傾げる瑠璃。

 

「あれ、お2人って佐藤さんの車を見るのは初めてでしたっけ?」

 

「んなわけねぇだろ」

 

「まあ、色々あったんだよ」

 

「?」

 

苦虫を噛みつぶしたかのような態度の松田と苦笑いの伊達に首を傾げながらも、自身のRXー7(FD3S後期型)に松田、伊達、そして人数により乗れなかった咲が乗り込む。

 

「それにしても、佐藤さんの寄り道先ってどこですかね?」

 

「誕生日とは逆っつってたからな…」

 

「……まさか」

 

そこで何かに気付いたらしい松田がポツリとこぼす。それにちらっと横に視線を向ける3人。

 

「松田、何か知ってんのか?」

 

「…いや」

 

(…松田さん?)

 

少しして、とある交差点で、前を走っていた佐藤の車が徐行し始め、それに伴ってスピードを落として駐車。全員が路上に添えられた1本の手向けの花に合掌をしている佐藤を待つ。

 

(…『先生』は、あのあと、私以外に見送ってくれた人がいたのだろうか)

 

咲が1人、佐藤のそんな姿を見てそう思う。勿論、『先生』ーーテネシーの最期を見たのも、迎えさせたのも…迎えさせてしまったのも、自分だけだと、咲はそう思っている。

 

(…もし…もし、奴らから身を隠さなくてもよくなったとして、その時に私が生きていたら……)

 

未来を思って考えるが、そんな未来が来ることはないのだと、咲は軽く頭を振って思考を飛ばす。

 

ーーそんな咲を哀はジッと見て、そのまま佐藤へと視線を戻した。

 

「……そうか、思い出した」

 

そこで白鳥が声を上げる。どうやらこの日は、佐藤の父『佐藤 正義』警視正の命日(殉職した日)である、と。

 

「…え?」

 

「そうなんですか!?」

 

瑠璃と高木が驚いたように声を上げる。声を上げはしなかったが、伊達も目を見開き黙祷する。松田はどうも察していたようで、線香の代わりの様に煙草に火をつける。

 

「…ちょうど18年前の今日、強盗殺人犯を追跡中、この交差点で」

 

「この交差点…」

 

「そうーーこの交差点で、トラックに撥ねられてね。運悪く、その日は豪雨で救急車の到着が遅れ…救急車に同乗していた、佐藤さんら家族が見守る中で、息を引き取られたと、目暮警部から聞いたよ」

 

その事件の名は…。

 

「ーー『愁思郎』」

 

コナンが呟いた言葉に白鳥が思い出したように反応を示す。それを見向きもせずにコナンは続ける。

 

「トラックに撥ねられた刑事が、逃走する犯人に向かって、繰り返し呟いていたその謎めいた名前から『愁思郎事件』と名付けられ、当時では、異例とも思われる大捜査網が敷かれたが、事件の核心を掴んでいたと思われるその刑事が、亡くなってしまったため、捜査が滞ってしまったまま、3年前に時効が成立…」

 

その異様なまでの当時の事件の状況説明に対してほぼ全員が驚愕の表情と視線をコナンに向けいると、コナンは焦ったように笑みを浮かべて言う。

 

「…って、小五郎のおじさんが言ってたよ!」

 

「へー、あのオッサンが、ねぇ?」

 

コナンの返答にニヤリとまるで悪役のような笑いを浮かべ、一切隠そうともしない疑惑の視線を向ける松田と、笑みは浮かべていないものの、疑いの目を向ける瑠璃と伊達。しかし高木がテレビでその事件を見て知ったと話たために1度、その視線から逃れれたコナン。

 

「ーーあとで覚悟しとけよ?坊主」

 

しかし、松田の追求からは逃れられないことをその一言が聞こえたことにより理解したコナンは背中に冷や汗をかく。

 

(ハハッ、こっえぇ…)

 

コナンがそんな風に思う中、高木の話は進む。

 

「綿密に練られた計画犯罪で、手がかりは、襲われた銀行の防犯カメラに映った数秒足らずの映像のみ…殉職した刑事がどういう経路で被疑者を特定したのかすら謎のまま迷宮入りした難事件」

 

しかし、高木は知らなかった。その刑事が佐藤の父親であることを。

 

それは瑠璃も同様で、、テレビを見てそのことを知っていたが、佐藤の身内とは思っていなかったのだ。

 

(同名の別人だと思ってたけど、家族だったなんて…)

 

瑠璃は目を伏せる。その目に悲しみの色が乗っているのに気が付いた松田が、頭に手を乗せてわしゃわしゃと乱雑に撫でる。

 

「ちょっ!?ま、松田さん、髪いたいいたい!!」

 

「おぉ、そうか…気持ちが切り替わったようで何よりだ」

 

そう言って頭から手をのける松田を恨めしそうに見やる瑠璃。そんな2人の声を聴きながらも、佐藤は気にせず「仕方ない」という。

 

「事件の名称や主犯の名前は記憶に残っても、その事件で殉職した警察官の名前なんて、警察関係者や…瑠璃みたいな人でないと、覚えてないもの」

 

そこで佐藤は振り返り、瑠璃を見る。その、哀愁漂う瞳を。

 

「…すみません、佐藤さん。私、同名の別人だと思って…ご家族の方だと思ってなくて…すみません」

 

瑠璃も悲しそうな、それでいて申し訳なさそうな顔で頭を下げれば、気にしないでと佐藤は言う。

 

「それに、私たちは記憶に残るために働いている訳じゃないからね。…だから、本当に気にしないで、瑠璃」

 

そう言って佐藤が瑠璃と目を合わせながら言えば、コクンッとしおらしく肯く瑠璃。

 

(…私は、絶対に『忘れない』。だから、例え誰かが忘れても、私がその人を覚えていよう。…私がこの目で見える範囲で、その人の生き方を…その人の、大切な人を)

 

瑠璃はそう決意する。彼女は絶対に、彼女が死ぬその時まで、彼女の『力』があり続けるまで、覚えーー共に、生きていこう、と。

 

そんな瑠璃の決意にいち早く気づいた松田は、瑠璃をジッと見るも何も言わない。

 

そこで元太がふと気づいたように言う。トラックの運転手が犯人の顔を見ているのではないか、と。しかしそれは咲が否定する。

 

「元太。さっき白鳥警部が説明したように、当時は豪雨。なら犯人は雨ガッパを着ていた可能性が高い。雨という視界の悪さに加えて合羽なんて着られていたら、犯人の体型どころか、性別すら分かるわけがない。しかも強盗だろ?なら、顔や身元特定できそうな姿や体型は隠すぐらいしているだろ…そうだろ?」

 

咲が佐藤になんの間違いもないと自信をもって尋ねる姿は異様で、それでも佐藤は苦笑で済ませて答えてくれる。

 

「え、えぇ、そうよ。防犯カメラに写っていたのは、帽子にサングラス、マスクにコート…」

 

「でも、犯人の名前は分かってたんでしょ?『愁思郎』って」

 

佐藤が説明している所で、光彦がそう尋ねる。そう、普通は調べる。そして勿論、警察は調べていた。

 

「その呼び名を持つ人で、犯行が可能だった人は、1人もいなかったのよ」

 

「ま、迷宮入りするのも無理はありませんね。手がかりが防犯カメラの映像と、雨ガッパ姿の『愁思郎』の3つだけじゃ…」

 

「ーー4つよ」

 

佐藤は、白鳥の言葉を訂正する。それに刑事組とコナンが反応する。

 

「4つ目の手がかりは、父の警察手帳にカタカナで書き記された奇妙な3文字。『カンオ』」

 

「『カンオ』?」

 

「それは初耳ですね」

 

「警察側が、外に漏らさないようにしてたみたい」

 

佐藤が言うには、前後の記録から事件に深くかかわりがある言葉として警察側も認識していたらしく、佐藤とその母が当時の担当刑事から「父から『カンオ』について何か聞いてないか?』と何度も聞かれたという。それに対し、佐藤自身も1度も聞いたことがなく、意味も理解できなかったという。

 

「子供のころ、その3文字と睨めっこしながらよく思ったわよ。この謎を解いて、『愁思郎』を捕まえてくれる人が現れたら、なんでも願いを聞いちゃうのになぁ、って」

 

その言葉に、高木と白鳥が分かりやすく反応し、松田、伊達、瑠璃は面白そうに二ヤけている。

 

「な、なんでも…」

 

「願いを…?」

 

そこで2人が思い描くのは、佐藤のウェディング姿。そしてそれを容易く読み取れた瑠璃が代わりに尋ねる。

 

「ほうほう、姉さん。その言葉は今でも有効で?」

 

「有効だけど、いったい何なの?そのしゃべり方」

 

佐藤が苦笑しながら肯定し、これは全力で高木のサポートをせねばと燃える伊達。しかし、その願いの権利を狙うのは、なにも大人だけではない。

 

「分かったら、うな重千杯食わしてくれるか!?」

 

「えぇ!勿論!!」

 

「私、トロピカルランドのお城に住みたーい!」

 

「っそれなら僕は、国際宇宙ステーションの搭乗券を!」

 

「おい、うな重以外、無理難題になってないか??」

 

咲が呆れたその時、その後ろから参戦する人物が2名。

 

「…だったら、私はブランド物のバックがいいかな」

 

「ぼっ僕、今度のワールドカップのチケットでもいい?」

 

「お前たちもか…!!」

 

咲が肩をがっくりと落とす。佐藤もさすがに笑顔が引き攣る。なにせコナンと哀の願いがかなり現実的なのだ。

 

「あっ!咲ちゃんは!?」

 

そこで歩美が、咲が1つも願いを言っていないことに気付く。それに佐藤も便乗して咲に聞く。

 

「貴方は、何か叶えたいことは、ないかしら?」

 

 

 

ーーお前の願いはなんだ?…俺が出来るだけ、叶えてやるから

 

 

 

…なぜかその瞬間、白くて綺麗な、青の目を持つその人を思い出しーー哀の方へと移動する。

 

「?咲ちゃん…?」

 

「咲…?」

 

佐藤と瑠璃が心配そうに見つめる中、咲は答える。

 

「ーー約束」

 

「…?」

 

「……私自身の、願いはない、から。だから、一番、活躍した人のお願いを…出来るだけでいい。それだけでいいから…絶対に、叶えれる範囲で、叶えてあげてーー約束を、破らないでっ」

 

そう、咲は震えながら答える。

 

ーー彼女は、もう、願いは持てない。彼女が持てる願いは、叶えたいことは、2つだけ。

 

(でもーーどちらも、この人じゃ叶えられない)

 

 

 

彼女の願いは、最愛の姉と家族との再会ーーそして、自身の、死だ。

 

 

 

***

 

 

 

あの後、咲の調子を哀が落ち着かせていると、歩美が道路を渡る、花束を持った人の集まりを見て指を指した。その4人とも佐藤の知り合いであったため、彼女は近づき声を掛け、そこで全員に向けて自己紹介が始まった。

 

その4人ーー佐藤の父と高校時代、野球部で出会った人物たちだ。

 

「父とバッテリーを組んでいた『猿渡(さるわたり) 秀朗(ひでろう)』さん!」

 

そう佐藤が紹介を始めた人物…眼鏡をかけて頭がほんの少しだけ寂しい、長身の男性はにこやかに「初めまして」と挨拶をしてくれる。それに高木が少し呆然としながらも頷けば次に移る。

 

「彼が強肩瞬足でならした『鹿野(かの) 修二(しゅうじ)』さん!」

 

そう紹介された、他の人物よりも身長が低く、鼻が長い白髪の男性は「どうも」と、先ほどの猿渡とは真逆に笑みもなく少し冷たい印象を与えてしまう挨拶を返す。

 

「チームの頼れる主峰『猪俣(いのまた) 満雄(みつお)』さん!」

 

佐藤が後ろから肩を掴み、嬉しそうに紹介するのは、赤い服を着た茶髪の、猿渡と鹿野の真ん中ぐらいの身長の少しふくよかな男性。彼は紹介されて嬉しそうに高笑いを上げる。

 

「そして、美人マネージャーの『神鳥(かんどり) 蝶子(ちょうこ)』さん!」

 

「よしてよ!もう50のおばあちゃんよ!」

 

佐藤の紹介に嬉しそうにしながらもそう返す、暗いピンク色のカーディガンを着た、猪俣と同じぐらいの女性。

 

そこで佐藤が皆でどうしたのかと尋ねれば、久しぶりに皆で呑み会をしようとしていたと猿渡が答える。その呑み会の前に、どうやら野球部でキャプテンをしていたらしい正義に、全員で挨拶に来たという。猪俣も、誘わなければ正義がすぐにむくれると笑っていた。

 

そんな折にーー白鳥の携帯に連絡が入る。

 

「はい、白鳥」

 

4人がいつもの居酒屋で呑むのだと佐藤に嬉しそうに話している後ろ。そこで名前を伝えれば、連絡をしたのは目暮だったらしく、白鳥の顔がほんの少し硬くなる。すると、どうやら居場所を聞かれているらしく、彼は答える。

 

「今、我々がいるのは、杯戸町4丁目の…」

 

その瞬間、白鳥の口調が驚きで強くなる。

 

「ーーえっ!?放火犯らしき、不審人物を目撃!!?」

 

その一言に全員の表情が険しくなる。

 

『そうだ!場所は、品川6丁目。パトロール中の警察官の職務質問中にその男は逃走。現在、追跡中だ』

 

そこで男の特徴が伝えられていく。長髪、帽子、グレーのコートーー歩美の証言と一致している。

 

『今、君らのいる場所に近い!子供たちは佐藤くんと瑠璃くんに任せて、君は高木君たちを連れて現場に応援に向かってくれ!!』

 

そこで電話が切られる。その電話中、白鳥が高木たちに指令内容を告げていたため、電話を切って高木たちと現場へ急行しようとする。しかし、そこで問題発生。すでに松田達が乗り込んだ白鳥の車で、その白鳥が高木を急かすと、手帳、拳銃と確認していた高木は顔を青ざめさせて言う。

 

「…手錠、手錠を一課の机の上に」

 

「おいおい」

 

「高木ぃ!!お前、警察舐めてんのか!!!?」

 

白鳥が呆れると共に伊達の怒声が飛ぶ。それはかなりの激怒具合で、松田は思わず耳を塞いだ。

 

「取りに戻ってる暇なんて…」

 

その不測の出来事に佐藤が心配そうに声を掛ければ、高木は大丈夫だという。その根拠を聞き、さらに伊達は怒り狂った。

 

「平気ですよ!いざとなったら、白鳥さんたちのがありますし…それに、雑誌の占い見たら、今日、僕めちゃめちゃラッキーらしいっすから!手錠がなくても、放火犯くらい…」

 

「お前はもう一度、警学からやり直してこい!!!!!」

 

しかし、そのやり取りなど、今の佐藤には聞こえない。

 

高木の言葉と状況により、過去がフラッシュバックしたのだ。

 

 

 

『貴方、気を付けてくださいよ?』

 

『心配するな!占いによると、今日の俺はツキまくっているそうだ!』

 

 

 

『…あれ?お父さん、手錠忘れてるよ?』

 

 

『ーーえッ!?主人が、主人が車にっ、それでっ今どこに!?』

 

 

 

『…おかしいよ。どうしてだよ…お父さんっ、正義の味方なのにさっ、正義のために頑張ってんのにさっ、どうしてっ…』

 

 

 

『ーー馬鹿野郎、正義って言葉は…正義って言葉は……』

 

 

 

「ーー佐藤さん、佐藤さんっ!」

 

「っぇ」

 

高木の声掛けに漸く反応した佐藤。それに大丈夫かと声を掛けた高木が佐藤の様子に安堵し、急いで白鳥の車に乗り込む。

 

「…なんかあったのか?」

 

松田が高木に問うが、もう大丈夫と安心したように返すだけ。しかし、シートベルトを着ける彼に佐藤が声を掛けーー彼女は、錆びついてしまっている手錠を、彼に渡した。

 

「…随分、錆ついていますね、この手錠」

 

「…手錠がないなら、持っていきなさい」

 

その佐藤のどこか暗い笑顔に高木は戸惑いつつも受け取る。

 

「…父の形見なのよ。東田さんの事件で手錠、壊しちゃったから、暫く私、これを使ってたってわけ。お守り代わりに丁度いいわ」

 

その最後の一言に顔を引き攣らせる高木。

 

「お、お守りって、お父さん、殉職されたんじゃ…」

 

「いいからいいから!」

 

そういって離れる佐藤を引き留めようとする高木ーーしかし、それを止める声と視線。

 

「高木君ッ!」

 

高木がそこで白鳥へとまず視線をやり、ものすごい圧が掛かる視線へとバックミラー越しに見れば、伊達の厳しい視線と合う。そのお隣の松田は呆れたような態度を見せつつニヤニヤするだけで助けてくれそうにない。

 

そうして漸く発進し、サイレンを鳴らしながら現場へと急行していく。

 

 

 

ーーそんなやりとりに疑問を持つ3人。

 

「…どういうこと?たかが放火犯相手に、拳銃を携帯しているなんて」

 

「…それに、彼らは強行犯。本来、放火なら火捜の筈だが?」

 

「…佐藤刑事、瑠璃刑事。係が違うんじゃ」

 

哀と咲が疑問を零し、コナンが尋ねれば、彼女は新たな情報を教えてくれた。

 

「刺殺体が発見されたのよ…放火4件目の近くで。確証はないけど、恐らく放火を目撃したか、止めに入った為に刺されたんじゃないかって訳で…」

 

「それで私達も動いてるの」

 

「だから君たちっ!私たちの傍から離れないでよっ!」

 

その話に恐怖を感じたのか、少年探偵団3人はしおらしく肯いた。

 

 

 

***

 

 

品川駅へと到着した白鳥が目暮へと連絡するーー逃走中の不審人物を確保したからだ。

 

「ああ、警部。たった今、品川駅構内で、逃走中の不審人物を確保しました」

 

しかし、男自身は放火犯とは全くの別で、空き巣だと語っていることも伝える。

 

そんな一幕に貢献できたらしい高木が、もっとも貢献した伊達を置いてベンチへと座り込む。

 

「おい伊達」

 

「ん?」

 

「お前的にアレはいいのかよ」

 

松田がそう言って高木を顎で示せば、二ッと笑う伊達。

 

「いいんだよっ!例え、空き巣だったとしても、本人は確かに犯人逮捕に動いたからな。それに、今はかなり暑い…気持ちは分かるだろ?」

 

そう言ってニヤッと笑う伊達にまあなと言って返す松田。その時、駅名の看板を見て何かに気付いたような表情をする高木に、首を傾げて見上げてた瞬間ーー2人に衝撃が走る。

 

「おい、アレのカタカナの意味って…」

 

「ああ、そうだろうぜ。そして…高木も、あの意味に気付いた」

 

伊達は、大きな成長に感動したように、嬉しそうに高木を見据える。

 

そんな高木は、佐藤が話していた『カンオ』の意味を理解し、佐藤に連絡をしようとしたが、それを白鳥に止められ、別の場所へ移動していく。

 

「…ま、今回はあいつに譲ってやるか」

 

「そうだな…だが、1人行動は危ないだろうがッ」

 

 

 

***

 

 

 

佐藤たちは、少年探偵団たちを連れて、歩美が見たという不審人物が現れた路地裏へと来ていた。その路地裏の近くには、仮面ヤイバーのガシャポンがあった。

 

「そうそう、これこれ!仮面ヤイバーのガシャポンやってたら、そこから変なおじさんが出てきたの…」

 

そう言って路地裏を指さし説明する歩美と記録する佐藤、そして記憶に残す瑠璃。そして、そんな刑事2人の近くで仕事ぶりを見つめる哀と光彦。元太はガシャポンの仮面ヤイバーに喜び、咲はヘッドフォンを外して周囲を警戒し、コナンは路地裏を見据えている。

 

そんな折、佐藤の携帯に連絡が入る。

 

「はい、佐藤です…あら、高木くん」

 

連絡してきたのは高木で、不審人物の方がどうなったかをまず聞けば、ことの顛末を簡単に話してくれた。しかし、彼の本題はここから。

 

「ーーえっ!?18年前の犯人が分かった!!?」

 

その言葉にコナン、哀、咲、そして子供達も反応する。なんだったら、今の咲には普通に会話が聞こえている。

 

『ええ、僕の推理通りなら、恐らくは…驚かないでくださいよ?いたんですよ、今日、僕たちが会った人の中にっ!』

 

(会った人…?)

 

咲が思い返すのは、あの、佐藤の父の友人だという人物たち。

 

その時、ふと視線を感じてみてみれば、コナンが手帳を出していた。それで意図を察した咲が、会話を出来る限り簡潔に書き記していく。

 

『その人物がーー』

 

と、そこで、電話越しで聞き取りずらいものの、聞き覚えのある複数の足音に、その人物たちーー白鳥、松田、伊達の名前を書いたところで、高木がほんの少し悲鳴を上げ、白鳥達の名前を呼び、すぐに連絡が途切れた。

 

 

 

品川駅周辺の電話ボックスにて連絡を取っていた高木は、佐藤への連絡を切るとすぐに外に出た。

 

「な、なんですか、白鳥さん!!それに、伊達さん達まで!!」

 

「…高木くん、君の行動はなにか、おかしい」

 

その怖くて重い声色で募る白鳥に、高木はごまかすように笑い、また走って行ってしまう。

 

「おいコラっ、単独行動はッ」

 

伊達の静止も聞かず、走って行ってしまう高木に頭を抱えるも後をついて走って行く伊達。それを見送る白鳥と松田。

 

「ッ」

 

しかし、視線を感じて松田が振り向けばーーしかし、そこには誰もいない。

 

 

 

高木はといえば、伊達と共に走って移動し、その最中に佐藤と連絡を取っていた。

 

「…ええ、はい、そうです。全て、分かりました。『愁思郎』の本当の意味も、『カンオ』の謎も…なぜ、佐藤さんのお父さんが、犯人を、特定できたのかも、ばっちり、わかりました」

 

そこで遂に高木が息切れを起こし、足を止め、少し、悲しそうな表情を浮かべる。伊達はと言えば、周りを警戒していた。

 

「…といっても、もう時効になってますけどね」

 

『ーーそれで!?誰なの!?誰なのよ、犯人は!!?』

 

佐藤が電話の向こうから余裕なく聞いてくる。

 

「そう、その犯人とはーーー」

 

 

 

「…そんな」

 

高木からすべてを聞き、佐藤は呆然とする。まさか、あのひとだったなんて、と。

 

「…だが、その話の場合、問題がある」

 

「ああ。時効と、それから証拠だ」

 

咲が会話を簡潔に記した手帳を見ながらコナンは考える。それは高木も分かっていた話の様だが、証拠の方はどうしても分からないとのこと。

 

『すみません、佐藤さん…お力になれず…』

 

「ぁ…ううん、ありがとう、高木くん。十分、力を貸してもらったわ。あとは放火犯の方に集中して頂戴」

 

佐藤からの言葉に了解と彼は返し、また白鳥達と合流次第、調査に戻ることを伝えて連絡を切る。

 

「…佐藤さん」

 

「…瑠璃、どうしたの?」

 

瑠璃から名前を呼ばれて務めて明るく笑顔で返すが、瑠璃は難しい顔をしたままだ。

 

「これから、どうするんですか?」

 

「これからって、『愁思郎事件』はもう3年前に時効なんだから、放火犯の方に…」

 

「ーーねぇ、佐藤刑事」

 

2人の会話は、コナンからの声によって遮られる。

 

「えっと、コナン君、なにかしら?」

 

「あの4人、いつもの居酒屋で呑むって言ってたけど、それってどこなの?」

 

コナンの問いに、佐藤は戸惑いながらも答える。

 

「どこって…居酒屋の名前は『長廻』、場所は品川駅前の…」

 

そうして答えるも、ハッと口を噤む。

 

「と、とにかく、私は瑠璃と品川駅に行くから、皆は電車でおうちに帰って?また明日、本庁に…」

 

それにブーイングを上げる子供達。しかし、そこに哀が助けに入るーー子供たち側の。

 

「あら?放火犯はまだ捕まってないんでしょ?なら、放火犯を唯一、目撃している吉田さんを、連れて行かない手はないと思うけど?」

 

「あのねぇ!」

 

瑠璃がそこで窘めようとしたとき、瑠璃のスーツの裾が軽く引っ張られる。そちらへと思わず瑠璃が顔を向ければ、必死な顔の歩美がいた。

 

「おねえさん、私、がんばる!!」

 

「俺もっ!!」

 

「僕も、協力します!!!」

 

「なんなら私がいれば、燃やそうとする準備からマッチを擦る音、それらすべてをこの耳で『聞いて』、場所を特定することもできるが…どうする?」

 

子供たちや咲の言葉に、遂に2人は顔を見合わせ、諦めた。

 

「咲、分かってるとは思うけど…」

 

「説教は全てが終わった翌日にでも聞くから…」

 

そうして全員が佐藤と瑠璃、それぞれの車に乗り込む。そして、サイレンを鳴らしながら急いで品川駅へと向かう佐藤たち。

 

 

 

ーーそんな運転をしている中、佐藤は、信じたくないと、心の中で叫ぶ。

 

(嘘…うそでしょ?あの人が、お父さんを殺害したなんてーーうそよね…お父さん)

 

佐藤は、深く、心の底から、そう願うーーどうか、嘘、もしくは勘違いであれ…と。




まさかの公式のシナリオ変更…まことにもうしわけない…。

警察組を生かすと決めた以上、こうなるのは時間の問題かなとは思っていましたが、まさかの高木さん、被害に遭わずじまい。

だって、あの伊達さんが、1人行動を許すわけないなって思いまして…すっっっっっごく悩みに悩み、なんだったらいっそ伊達さんは瑠璃さん側に回ってもらおうかとも思いましたが、人数が少数奇数人数なら兎も角、6人偶数ならあえて半分にはしないかな、と思いまして。

放火犯を目撃した少女と、次のどこで放火を始めるか(現時点で)分からない放火犯。なら被害を止めるためにとあえて人数をそちらに削く気がしました(現にアニメでも、佐藤刑事1人で子供たちを守ることになっていた)。

また、高木さんが襲われないことでのデメリットも同時に起こってはいますが…そこもなんとか頑張って終結させます。終わり自体は同じですから、後は私が頑張るだけです。



ちなみに、佐藤さんのRXー7に松田さんが反応して、伊達さんが反応しなかったのは、これは私が先日の映画視聴の帰りに買った警察学校編ーーそう、某トリプルフェイスさん主人公の漫画を買って読んだ結果、こうなりました!!ちなみにゼロティーも順調に4冊全てそろっております。

青山先生及び新井先生、まことにありがとうございます!!!!!



ちなみに、緋色の黙示録を軽くですが読みました…推定とはいえ、スコッチさんの享年があの年なら、警察組の誕生日にもよりますが、このまま4年前ということでいきます。公式様とずれてしまうことが一番の恐怖です…あれ、変えた方がいいのか??

と、とりあえず、本日はここまでです!!
ここまで読んでいただき、まことにありがとうございました!!!

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