とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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映画を見てまいりました!

赤井さん、流石の腕前!

世良さんの活躍も多くて嬉しい!!

羽柴さんはその頭脳を生かせてましたし、由美さんとの恋愛模様にスタンディングオベーション!!!

そして、何よりメアリーさんの鋭さと女性なのにあのカッコよさ、強さ…もうあのシーンだけを繰り返し見たい!!!!

赤井ファミリーは全員イケメン、知ってた!!!!

勿論、コナン君もカッコよかったですよ!!



ちなみに来年の映画は3,4回は既に見る予定を立ててます!!!映画館では叫ばないけど、小説で叫びまくりますよーーーーーーーー!!!!!


第28話~容疑者・毛利小五郎・後編~

ボーイが現場を後にした後、山村刑事と英理、コナンの3人は、ボーイが見たというメモの意味を考える。

 

「『すみません お金はちゃんと払いますとお伝えください』って、変ですね。まさか、弁護士同士でお金のやり取りでも…?」

 

「殺害された碓氷さんと林さんは、面識ないのは確かよ。第一、彼女にまだ林さんのことは伝えてなかったのに、お金の流れなんてあるわけないわ」

 

その英理の冷たいとも言われるような態度に、山村刑事は頬を引き攣らせる。

 

「で、裁判の協力をすることになっていた林さんは、一刻も早く碓氷さんと連絡を取りたがっていた」

 

そこで塩沢から居場所を聞いた林弁護士は、連絡を掛けてきた。それは、捨てられていたメモからも読み取れることで、その電話の時に翌日の2時に会うことが決まっていた。けれど、それではメモとボーイが見たというメモの内容は全くもって一致せず、不明。コナンがそう呟けば、そこで漸くコナンに気づいたらしい山村刑事。コナンと会うのは、実はこれで2回目なのだ。

 

「君は確か、前の事件の時に由紀子さんと一緒にいた…」

 

(ゲッ!?)

 

それは、コナンが再度、コナンと新一の関係性を疑った際、ちょうど優作に対してご立腹だった由紀子が帰国、そこでコナンとは親戚だと語り、何とか蘭を納得させた。その後、なぜか由紀子の胸の中で目覚めたが割愛。由紀子に連れられてやってきたのが群馬県。そこでいつものごとく事件に遭遇しーー群馬県警の山村刑事と初対面した。その事件解決の際、小五郎がいなかった為に山村刑事を眠らせて事件解決に導いた。

 

そのことをコナンも思い出した。

 

(こ、こいつ…どっかで見たと思ったら、群馬県警のへっぽこ刑事!!)

 

なんとかそこでごまかそうと焦るコナンは、子供らしく振舞った。

 

「あ、あれ~?どうしたの、刑事さん?軽井沢って長野県でしょ?」

 

「あぁ、でもここは群馬との県境。管轄はうちなんだよ」

 

「あら、由紀子とこの子に会われたんですの?」

 

「えぇ、あとでご主人も来られたみたいですけど…」

 

引っ搔き回されて大変だったという山村刑事。しかも口を滑らせて息子だと、コナンを指さして言おうとするものだから、ムのところで「むす~~っとしたおじいさんが犯人だった」と話をすり替え、そのコナンの反応に動揺する山村刑事。そこで警官が現場へと入ってくる。山村刑事に近づき、耳打ちすれば、彼は動揺する。

 

「ちょっ、それ本当ですか!?」

 

それに警官が頷くのを見て、山村刑事は肩を落として悲しみに暮れる。そのまま英理に近づき、告げた。

 

「奥さん…残念ですが、犯人はやはりご主人のようです…」

 

それに全員が驚きを露わにする。どうやら凶器の電話コードに小五郎の指紋が出てきたらしい。事件当時、小五郎はベロベロに酔っており、しかも碓氷に言い寄っていたという目撃証言も出てきた。

 

「もう十中八九、ご主人に間違いない!!!」

 

山村刑事の説明に英理は反論する。彼女も話した通り、小五郎の掌に電話コードの痕はなかった。

 

しかし、山村刑事は名探偵とは、裏を返せば『殺しのプロ』だという。その知識を使い、痕を残さないような工夫したのだと自信満々に話す。

 

「でっでも、酔って言い寄ったぐらいで…」

 

「本当の動機は、事件でしょう。毎日のように凄惨な遺体を見続けていた彼はーー遂、自分でもやってみたくなっちゃったんですよ!」

 

怖いと大袈裟に震える山村刑事に蘭も英理も信じていない。勿論、コナンも2人と同意見。なんなら山村刑事には任せられないとすら思っている。コナンから山村刑事への信用度が分かる。

 

そこでコナンが山村刑事を導くことにした。

 

「ねぇ刑事さん!僕、ドアのところで変なもの見つけたよ!」

 

コナンがその『変なもの』を示すが、そこにはすでに何もなく、英理によって警察によって渡されていた。それは、英理曰く、糸だったという。

 

「い、糸?」

 

「落ちていましたよ?結び目の付いた3㎝ぐらいの細い糸が、そばに落ちていたひしゃげて飛んだチェーンロックの鎖と一緒にね」

 

「じゃあ、その鎖の欠片、よく見てみた?」

 

コナンの問いに、英理はその欠片に、奇妙な痕がついていた、と。つまり既に英理には密室トリックが解けているのだ。そんな彼女すらも頭を悩ませているのは、犯人を示す証拠がないこと。

 

電話コードを使った理由も、小五郎の携帯をドア口に置いた理由も、ドアのノブに札を掛けた意図も、犯人の目星すら、2人にはついていた。しかし肝心の証拠が見当たらない。

 

「ーーねぇ」

 

英理は蘭に声を掛ける。先日、英理が蘭へのプレゼントとして買ったMDを貸してほしい、と。

 

「音楽聞いてないと考えが纏まらなくって」

 

その2人のやり取りを見た後、コナンは最後の謎ーー札に貼っていたおかしなメモ用紙。

 

「…あらっ?」

 

英理の声にコナンは顔を上げる。どうやら、音楽が流れないらしい。しかしプールではなにも問題なく、小五郎が使っていた。そこで蘭が気づく。

 

「ちょっと!?それ、録音ボタンよ!?」

 

「あらっ!…ごめんなさいね、うちのMD、仕事の録音用に使っているから間違えちゃって…」

 

英理のその謝罪に不服そうながらも受け入れる蘭。そんなやり取りにコナンは引っ掛かりを覚えた。

 

(『間違えた』?…ま、待てよ?確か、あの机の上に、確か…)

 

コナンが椅子に立ち、そこにあったメニュー表を読みーー理解する。

 

(…なるほどな。だから『あの人』、あんなメモを…)

 

資料を見ることに夢中になっていたコナンは、背後に蘭がいることに気づかず、簡単に抱き上げられてしまった。

 

「こらっ!ダメでしょ、土足で椅子に上っちゃっ!!」

 

「でも僕、お腹すいちゃって…」

 

「もうっ、大人ぶってると思ったら、まるで子供なんだから…」

 

「だって~、ペコペコなんだもん」

 

「しょうがないわね。あとでルームサービス頼んであげるから」

 

蘭のその一言によって、英理も真実に気づき、イヤホンを外した。

 

 

 

***

 

 

 

佐久がホテルへと戻ってくればロビーには英理、塩沢、三笠たち弁護士仲間と共に、蘭、そして修斗たち3人も集まっていた。

 

「あ、佐久君。どうだった?警察でのあの人の様子は」

 

「それが、毛利さんかなり酔っていて、なぜ彼女の部屋にいたのかすら覚えていないそうで…」

 

「吞みすぎ注意の典型的で悪い見本」

 

「勇気」

 

修斗が窘めるが、顔を背けてあくびを1つ。

 

「警察も、あの毛利探偵が殺人の容疑者だなんて信じられないらしく、戸惑っていたようなんですが…」

 

それに英理は肩を落とす。そこに塩沢が声を掛ける。

 

「しかし、妃さんには悪いが、犯人は毛利さんしかいないよ。碓氷さんの遺体があった部屋は、チェーンロックが掛かって密室。その部屋で毛利さんが寝ていたんだから…」

 

「殺害方法も問題だと思います」

 

三笠も話に参戦する。

 

「酔った勢いで突き飛ばし、打ち所が悪く死んでしまったのなら傷害致死ですが、彼女の死因は電話コードによる絞殺…立派な、犯罪ですから」

 

「まあ、衝動からの行動なら殴るだろうからな…」

 

「状況だけなら、立派な犯罪者だね」

 

三笠のあとに修斗と勇気が続けば、霞の顔色が曇る。

 

「そうね。殺人罪、及び強姦罪なら最低でも懲役10年。重ければ無期懲役が、もしかしたら死刑だって考えられる」

 

「ワーソウナンダー」

 

「ち、ちょっとお母さん!?」

 

勇気が棒読みで反応するが、彼の中では死刑になるほどの事件ではないので心配は一切していない。逆に娘は母の言葉に驚愕する。

 

「さっき言ってたじゃない!?犯人は別にいるって!!」

 

「ああ、あれ?やっぱり思い違いだったみたい」

 

「わぉ、冷たい。流石、『法曹界の女王』様」

 

家に帰ってから英理の事務所のパソコンデータを覗くことを決めた勇気に諦めの溜め息を吐く修斗。

 

「ああ、それより妃さん。なんですか?」

 

佐久が聞いたのは、ホテルへと戻る途中、英理から頼みたいことがある、という連絡がきた。その頼みを聞く佐久に、英理はどうにも分からない問題があるからと、佐久にいう。

 

「佐久君って、刑事事件専門でしょ?だから、ああいうことに詳しいんじゃないかってね」

 

「はぁ…」

 

戸惑う佐久に近づき腕を組んで、英理は強引に連れていく。そんな母に叫ぶ。

 

「ーーお母さんっ!!」

 

しかし、英理が歩みを止めることなく去っていく。

 

ーーそんな姿を、修斗はジッと見つめていた。

 

 

 

***

 

 

 

エレベーターが到着し、佐久と共に下りた英理は世間話のように、碓氷がする筈だった裁判を話題に出す。

 

「それにしても、どうするのかしら、あの裁判」

 

「えっ?」

 

「ほらっ、彼女が担当してた例の公害問題…」

 

「なんなら、僕が代役を引き受けましょうか?」

 

しかし、佐久としても専門外であり、できて双方和解ぐらいだと苦笑い。そんなタイミングで英理の携帯に電話が掛かる。そこで先に碓氷の部屋に向かうように頼めば、佐久は快く受け入れ、歩いていく。

 

「えぇっと、彼女の部屋は…ん?」

 

佐久はある部屋の前に置かれているハヤシライスを見て、足を止めた。

 

そのまま彼は通り過ぎることなくーーそれが置かれた部屋のベルを鳴らす。

 

それに反応して扉が開けられ、入ろうとした佐久の歩みが再度止まるーーコナンの存在に気付いたからだ。

 

「あ!おじさんだ!!」

 

「あれ?坊や、1人かい?」

 

それにコナンは頷き、刑事たちは帰ったことを伝える。

 

「おじさんこそ、どうしたの?」

 

「ああ、妃さんが話があるって言うんでね」

 

「ーーそれってきっと、このドアの近くに落ちてた3㎝ぐらいの糸と鎖の欠片のことだよっ!」

 

「えっ?」

 

コナンは続ける。あの糸があれば、ドアの外からでも密室を作ることが出来るかも、と。それにありえないと一蹴する。

 

「俺はチェーンロックがしっかり掛かっていたから、ぶち破って、中に入ったんでぜ?そんな短い糸でどうやって…」

 

それに眼鏡を光らせるコナン。

 

「ーー最初から鎖が切られていたとしたら?」

 

「ぇっ」

 

「その切れた鎖の両端が、糸で結ばれていたとしたら?そして、その結び目と、あらかじめ外しておいた鎖の欠片を床に置く場所を、ドアを開けたとき、死角になる位置にしておいたとしたら…どう?」

 

コナンの鋭い視線に、少し怖気づいた佐久。

 

「そうーー」

 

そこで佐久の後ろで足音が止まり、コナンの質問に、答える英理。

 

「そのあと、ドアを体当たりで強引に破れば、糸は切れ、鎖が2つに分かれてそばにいた私達には、まるでチェーンロックが内側からしっかり掛けられていたかのように映るーーそうじゃなくて?佐久君」

 

英理からの厳しい視線に、ほんの少し驚きの表情を見せる佐久。

 

「チェーンに細工をしたのね、佐久君?」

 

「な、なに言ってるんですか。もし部屋の中で寝ていた毛利さんにチェーンロックを外されでもしたら、鎖を繋いでいた糸は切られる前にバラバラに…」

 

「だから電話コードを凶器に使って電話を鳴らなくし、主人の携帯電話をベッドから離してドア口に置き、ドアの外側のノブに『起こさないでください』の札を掛けて、呼び鈴を押させなくしたのでしょ?」

 

小五郎が起きるだろう要因をすべて排除すれば寝続けてくれる。携帯をドア口に置けば、携帯へと連絡した際、音が外へと聞こえやすくなる。そうして小五郎の存在を示すことでマスターキーで開ける口実を作ることもできた。

 

「あの時、私が電話を掛けなければ、貴方がそうするつもりだったんでしょ?」

 

その英理の説明に笑みを浮かべて推理を褒める。しかし彼からしてみれば、小五郎の弁護に英理が立とうとしているように見えたらしく、弁護に立たないほうがいいと助言を与えてくる。

 

「僕がやったという証拠はないし、貴方の不敗神話に傷をつけたくありませんしね」

 

「馬鹿ね、私が無敗なのはフロックが続いてるだけのこと。そろそろ負けて楽になりたいぐらいだわ…でも、残念ながら神話は続きそうよ」

 

彼女は自信をもって言うーーそもそも彼が、自白をしている、と。部屋に入ったばかりに、自らが犯人だと。

 

それに佐久は驚く。当然、どうして入っただけでそうなるのか、彼には理解できていない。そんな佐久を見ながら英理は問う。

 

よく、碓氷の部屋がここだと分かったわね、と。

 

「そ、そりゃ分かりますよ。だって、部屋の前にハヤシライスが…っ!!?」

 

そこまで言って漸く理解し、言葉を止めた。しかし、それは一足遅い。

 

「ーーハヤシライスが、どうかしたの?」

 

「そ、それは…っ」

 

「そう。おそらく碓氷さんを殺害後、まだ貴方がチェーンロックのトリックを仕掛けている最中に、呼び鈴がなったのよ」

 

佐久が扉の覗き穴から除けば、そこにはボーイが立っており、机の上のメモ用紙には『ハヤシ 2』と書かれていた。

 

「だから貴方は怒って捨てたんでしょ?『こんな時にハヤシライスなんか頼むなんてっ』と」

 

その後、再びボーイがやって来て呼び鈴を鳴らされないように『代金は後で払う』と書いて下げてほしいという意味を込めたメモを札に貼り、ドアノブにかけた。それ以外の理由では、彼から『ハヤシライス』という単語は出てこない。そう、英理は確信を持って伝える。しかし、佐久は偶然見かけたのだと言うーー彼女の部屋の前で、ハヤシライスを持って困っているボーイを。

 

「だから、この部屋が彼女の部屋だと…」

 

佐久の証言に、英理は謝罪し、『ハヤシ 2』の本当の意味を伝える。

 

「あの『ハヤシ』ってメモ。本当は林さんと2時に待ち合わせって意味だったの」

 

「ぇっ」

 

「それを、メモと一緒に机の上に載っていたルームサービスのメニューページを見て、貴方が勝手に、『ハヤシライス』と勘違いしたってわけ」

 

英理からの言葉に、佐久は悔しそうに歯を食いしばる。しかし、彼もすぐに認める訳にはいかない。なんとか言い逃れようとする。

 

「あ、あれ?『ハヤシライス』なんて言いました?僕はルームナンバーを見て、この部屋に…」

 

しかし、それは只々墓穴を掘っていくだけ。英理は佐久が気づいていないことを承知で、自分がいる扉のチェーンを見せればーーどこも切れている様子は、ない。

 

その意味を理解した佐久に、ホテルの人に頼んで急遽、借りた部屋なのだと話す英理。本当の碓氷の部屋は、3人がいる部屋の2つ先。

 

「つまりーー貴方がこの部屋に足を踏み入れる理由は、皆無。貴方が犯人である以外わね」

 

その瞬間、佐久は自身の敗北を悟り、がっくりと肩を落とす。その顔には、汗が噴き出している。

 

そんな佐久に、罠を仕掛けるような真似をしたことを英理が謝る。相手が佐久だったからこそ、一筋縄ではいかない相手だったからこそ、こうする他になかった、と。

 

「…初めて分かった気がしますよ。貴方を敵に回した、検察の方の気持ちが」

 

しかし、佐久は続けて問う。

 

「どうやって検察を納得させるつもりだったんですか?この部屋に入ったのを見たのは貴方だけ…毛利さんの身内である貴方の証言は、」

 

「あらっ、見たのは私だけじゃなくってよ」

 

その言葉に、コナンのことかと聞くが、コナン自身から自分だけでもないと否定される。

 

「ーーそうよね、刑事さん?」

 

そう言って振り向く英理に驚く佐久だが、3人の視線の先にある客室の扉が開き、山村刑事が笑顔で現れる。

 

「はーい、見させてもらいました!」

 

そう、彼はずっと、2人のやりとりを、覗き穴から見ていたのだ。それどころか、山村刑事が呼べば、他の客室も同時に開き、警官が7人出てきて反応する。そのうちの1人はビデオカメラでずっと撮影して録画していた。

 

まさに用意周到。佐久はまさに袋の鼠。逃げの一手すっら打たせてもらえない状況。

 

これを見て諦めの境地に至った佐久。彼の知恵をもってしてもどうしようもない。四面楚歌なこの状況に持っていくアイデアは全て、コナンが出したものだった。

 

「…それで?動機はもしかして、彼女が担当していた例の裁判かしら?」

 

「えぇ。あの公害の被害を受けていた村が、僕の田舎でね。どうしても勝たせてやりたくて…」

 

彼本来の計画としては、碓氷をドア口で薬で眠らせた後、部屋を密室にして自殺に見せかけようとしたらしい。しかし、部屋では小五郎が寝ていて、自殺しようとする人間が部屋に男を連れ込んで、仲良くハヤシライスなんか頼むわけがない。そこで絞殺に切り替え、小五郎に罪をかぶってもらったという。

 

「裁判に勝つために、村の人間が弁護士を殺害したとなると、裁判官の心証が悪くなりますから…」

 

その裁判後、和解に持ち込んでから彼は自首するつもりだったという。

 

「でも、自首しても貴方が犯人だという証拠がないと…」

 

「あぁ、それは、」

 

「ーー鎖についてた、ちょっと歪なペンチの痕でしょ?」

 

コナンが佐久の代わりに話す。その痕にあうペンチはこの世にたった1つだけ。

 

「それを持って行って、警察に証明するつもりだったんだよね?」

 

コナンの推理は見事に当たり、佐久は少々戸惑い表す。

 

「…でも碓氷さんだって、仕事で弁護を引き受けたわけだし、何も殺すことは…」

 

「…彼女が、仕事や生活のために弁護に立ったなら、あんなことはしませんでしたが、名声を得て、貴方に勝つためだけに村の人たちを苦しめていると知り、どうしても許せなかったんです」

 

「私に勝つために?」

 

英理の問いに肯定を返す。あのバーでの飲み会のあと、小五郎を部屋に連れて帰ったのも、その為だろうとも話す。

 

「そんな、まさか…」

 

「ーー依頼人を信じて弁護をするのが我々の仕事ですが、貴方は、信じすぎだ。人には、目に見えない裏表があるんです。…かくいう僕も、貴方のことを本気で狙っていた男の1人でね」

 

「あら、ありがとう。でも、そんなんじゃ、貴方の弁護は引き受けなくってよ」

 

英理の言葉に、佐久は笑みを浮かべて謝るのだった。

 

 

 

***

 

 

 

事件が解決したことを、勇気に頼んでカメラをハッキングして見ていた修斗も理解し、ベッドに足を組んで座った。

 

「事件解決。これにて本当のお開きだけど、まさか自分の人生棒に振ってでも誰かのために動くなんて…正直、僕には分からない話だね」

 

勇気がハッキングの痕跡を消しながら呟く。

 

誰かのことを幸せにしたいという、愛。大切にしたい、愛。知識としては知っていても、心から理解できている訳でもない彼は首を傾げた。

 

「その点、こういうデータは変わらないし間違わない。間違ったとしたらそれは使い手の問題。感情で動けばミスもするし身動きも取れなくなる…今のところ、僕には理解できないよ。計算不能の『愛』という感情は」

 

そこで痕跡をすべて消し終えた勇気が修斗に振り向けば、彼は携帯を見ていた。

 

「どこかに電話するなら部屋から出てよね」

 

「しねーし、したとしても後でだよ。こんな時間にしたら、ただでさえ忙しいだろう『あの人』の睡眠時間を奪うことになるだろ」

 

「確かに、睡眠食事は大切だね。睡眠を取らなかったら精神的に異常をきたすという実験結果が出てるし、食べなかったら3週間から1ヶ月で、飲まなかったら3日で死亡するって言われてるぐらいだから」

 

そう言いつつ、水を飲む勇気に、修斗は問いかける。

 

「そういえば、カメラの録画映像は?」

 

「MDに別途保存したし、何なら兄さんのプライベート用のパソコンにも送信したよ。感謝して新しい高性能パソコン買ってね」

 

「部品だけでいいか?自作できるだろ、お前」

 

「パソコンそのものも追加でお願い。仕事用のパソコン増やしたい」

 

「プログラミングがんばれよプログラマー」

 

「買ってくれたらね」

 

そこでフッと疑問に思う。

 

今の時代、勇気に敵うほどのハッカーは少ないだろう。なんなら、やろうとさえ思えば警察のパソコンにだってハッキング出来るはず。

 

ーー問題なのは、それをいつ、どこで身に着けたか。

 

「…今更ながらお前、そのハッキング能力どこで身に着けた?」

 

「唐突だし今更だね…独学だよ。まあ途中、凄腕のハッカーと出会ったけどね」

 

「出会おうと思って出会えるものか?」

 

「偶然の出会いだからね。とある企業のデータを盗み見てた時に、唐突に表れてかっさらっていちゃった」

 

その時は彼も呆然としたが、すぐにやり返そうとした。しかしその時には、勇気でも追えないほどのスピードで痕跡が消され、諦めた。

 

その後にも、何度も何度も逃げられ、ようやく手に入れたのは名前だけ。

 

「いや、名前手にいれるってすごいことなんだぞ?」

 

「逆に言えば本当にそれだけだし、それだって当たり前だけどハンドルネームだよ」

 

「で?手に入れた名前って言うのは?」

 

修斗がにやにやと笑いながら問うが、答えを聞いた瞬間ーー彼は、固まった。

 

 

 

「ーーハンドルネームは『OLD NO.7』だよ」

 

 

 

それに、その名前の意味に気付いた修斗は顔をこわばらせて呆然とする。そんな彼を差し置いて、勇気は続ける。

 

「いや~、今思い出しても惚れ惚れする手際だったよ…でも、そういえば、4年前から姿を見かけないから、もしかしたら引退したのかもしれないね」

 

もっと見たかったな、と呟く勇気に、気づかれないように修斗は視線を逸らした。

 

 

 

***

 

 

 

ーー翌日の朝。

 

山村刑事からことの詳細を説明され、呆れ顔の小五郎。山村刑事から出てくる単語は全て英理を称賛するものだが、本人の活躍する話は出てこなかった。

 

「いやーっ、貴方にも見せたかったなぁ!貴方の奥さんの名推理。さっすが『眠りの小五郎』のワイフ!『法曹界の女王』!!痺れちゃいましたよ、ホンッと!!!」

 

「その時、アンタ何してたんですか」

 

「彼女の指示に従って囮用のハヤシライスを置き、向かいの部屋でちゃんと待機してましたよぉ!!」

 

小五郎からの問いに、まるでやってやったと自慢するかの如く自信満々な山村刑事。しかも2人が廊下に差し掛かったところで英理の携帯を鳴らし、佐久が部屋へと入った瞬間、頭の中でファンファーレが鳴ったという。

 

「はぁ~、刑事やっててよかったぁって!!!」

 

そこで山村刑事に英理の居場所を聞けば、真後ろにあるパラソルのテーブル席に座って新聞を読んでいた。

 

それを見て山村刑事を置いて、英理の元へと向かう。そんな小五郎の姿を、ホテルから出てきたコナンと蘭、そして先に座って朝ご飯を食べていた修斗たちが見ていた。

 

コナンは朝ご飯欲しさに蘭と駆け寄ろうとするが、その蘭に首根っこを掴まれて急ブレーキ。修斗と霞も、なんだと見つめる。勇気はそうそうに興味が無くなったのか、黙々と朝ご飯を食べ続けている。

 

コナンが蘭を見上げるが、彼女の視線は別のところを向いており、そちらへと視線を向ければ、小五郎が座っている英理のそばに立った。

 

それに笑顔を浮かべる蘭。

 

(あの雰囲気はもしかして…!)

 

修斗もまた、カメラを向けて撮影している。もし、別居から同居に戻ったら、その時に毛利一家に渡してからかう為に。

 

「ーー悪かったな、英理。…信じてたよ。お前なら、俺の無実を晴らしてくれるって」

 

その言葉を聞いても英理は振り向かない。それでも小五郎は構わず続ける。

 

「そ、そういえば、蘭の料理にも飽きてきてな…お前の、一風変わった味が懐かしいっつうか…」

 

「修斗くん。小五郎さんのあれって、褒めてるんだよね?」

 

「照れて素直になれてないんだよ。女心は複雑って言うが、男も素直になれない馬鹿な生き物なのさ…」

 

霞と修斗は、席が離れているとはいえ小声で話しつつ、注目する。

 

ーーーそう、きっと、この後に出てくる台詞は…。

 

「その……そろそろ、戻ってきてくれねぇか?…限界なんだよ」

 

霞の頭でファンファーレが鳴り響き、スタンティングオベーションをする。頬を赤らめつつも、見逃せないと視線を固定しているそんな義妹にーー。

 

「あぁ、ほら。今日は俺たちの結婚記念日だし、丁度いいかなぁ、なんて…」

 

ーーこの後に待っているだろう展開を理解していた修斗は、何も言えず、ただ楽しみながら録画していた。

 

「…おいっ!聞いてんのか!?」

 

遂に、我慢が出来なくなった小五郎が英理の肩を掴めば、不思議そうな顔で小五郎を見る英理。

 

そこで、ようやく小五郎は気づいたーー耳にイヤホンがされていることを。

 

「……なーに?」

 

英理が不機嫌そうにイヤホンを外して問えば、小五郎は何も言わず、動揺していた。

 

そこでコナンと共に嬉しそうに駆け寄って来て蘭が何を話していたのかと聞いてくれば、もう小五郎は素直になれない。彼にも意地とプライドがあるのだ。

 

「い、いやぁな、弁護士の女王様の割には、最愛の夫の無実を晴らすのにちんたらしてたなぁって…」

 

その言葉に、話を見聞きしていた霞と修斗が頭を抱え、そんな2人を勇気は理解できないと言いたげな目で見ていた。

 

「あら、『最愛』じゃなくて『最悪』の間違いじゃなくって?」

 

「なに~~~!?」

 

その意地と意地のぶつかり合いに、もう見てられないと霞が顔を背けて、さめざめと泣く。

 

「まぁ、これに懲りてお酒は控えるのね…セクハラ髭親父さん?」

 

それに腹が立たない訳もなく、小五郎が言い返そうとするも、それは蘭に止められてしまう。

 

そんな2人を見ながら、英理は蘭にMDディスクを借りると言い、その場を華麗に去っていく。

 

そんな姿に、素直になれない小五郎は、2度と現れるなと捨て台詞を吐いた。

 

ーーそこまでのやり取りを聞いていた修斗たち。

 

「…帰るか」

 

「うん…なんか、どっと疲れた…」

 

そうして、のそのそと帰るために立ち上がった。

 

 

 

***

 

 

 

軽井沢から戻った英理は、MDディスクの中にある音を、コーヒーを飲みながら聞いていた。

 

『その……そろそろ、戻ってきてくれねぇか?…限界なんだよ』

 

『あぁ、ほら。今日は俺たちの結婚記念日だし、丁度いいかなぁ、なんて…』

 

そこで止まり、再度リピートーーあの日の小五郎の言葉を録音していた英理は、嬉しそうにそれを聞き続けている。

 

(まだまだ、こんなんじゃ許してあげないんだから!)

 

 

 

***

 

 

 

軽井沢から戻り、ホテル内の様子と詳細、良悪の点を書き記し、フォルダーへとまとめ、次に修斗が取り掛かるのはーー引き抜き候補リスト。

 

(…まっ、きっと断るだろうし…このフォルダーはさしずめ『断られリスト』だろうけどな)

 

そう思いつつも、修斗はその中に佐久の名前を入れる。

 

ーー修斗から見た佐久は、文句なしに信用できる人間だった。

 

佐久が望むのであれば、迷宮入りにするのだって手を貸しただろう。

 

(ま、それを望む人ではないってわかってたし、だから信用信頼できるんだが…)

 

コーヒーを飲みながら頭の中でも整理をつけた所で、電話が鳴った。

 

「…ようやくか」

 

そこで修斗は気を引き締める。1つでもミスがあれば、この電話の相手は承諾してくれない。

 

相手が承諾してくれればーーあとは、相手と佐久次第なのだから。

 

 

 

「もしもし…お久しぶりで会話に話を咲かせたいところですが、貴方も忙しいですし、話をしましょう。俺から見て、信用信頼できる弁護士と会ったんです。過激で、所謂、正義感から殺人事件を起こしてしまいましたが、良い人ではあるんです。1度、会いにいってみませんか?

 

 

 

 

ーー『降谷』さん?」




Q.『例のあの人』と繋がっていたのに、なぜ明美さんの時に連絡しなかった?

A.明美さんを助けるには時間が足りなかったし、咲のこともあって『あの人』も短時間で監視を振り払い助けにいくのは無理だし最悪、疑惑が深まるだけだと即座に理解し却下した。



彰に頼っても、更に1つ分中継しないとならず、その分の時間=救える可能性が更に減る。

なのであの時、本当に手がありませんでした。


没案の内容は、修斗君も言っていますが、このルートの修斗さんは佐久さんの意思をこれでも尊重してくれていますし、『あの人』に紹介はしていますが、この後に『追っていることとは関係ないから、強引な勧誘はやめてほしい』とも言っています。

しかし、没ルートの修斗君は、佐久さんの意思とは反して、彼をどうしても引き抜きたいが為に、迷宮入りにさせようと考え、行動します。

後者を考えたとき、自分のオリキャラは本当にそれをするかと疑問に思い、結果それはしないししたらマズイと判断し、蹴落としました。


※追記
霞さんと勇気さんの簡単な設定を載せてなかったので載せました。
なお、判明してない情報は身長以外、載せてません。



*柚木 霞(ゆずき かすみ)

年齢:??
身長:158.2cm
職業:??


クリーム色の長髪をウェーブにしている女性。地毛ではなく染めている。
優(現在は咲)の義姉。仲が良かったらしく、優と「自分を殺さない。自分を大事に守ること」といった約束をしているらしく、優が誘拐され、修斗に発見されて以来、修斗に優宛の手紙を渡している。

優とは再会できておらず、とても心配している。



*川下 勇気

年齢:??
身長:151.1cm
職業:プログラマー兼ハッカー


優秀なハッカー。しかし体は弱い方で、よく体調を崩す。
修斗と霞曰く『深夜からが朝の時間』。

旅行だろうとその場所に持っていくほどのパソコン好き。プログラミングもお手の物。監視カメラは彼のハッキング技術の前では意味をなさない。修斗曰く『本気を出せば警察のパソコンもハッキング出来る』。

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