とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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まあ、季節外れではありますが、順番的にこちらにしました……。本当は映画の方と迷いましたがね


第5話〜6月の花嫁殺人事件〜

季節は6月へと移り行き、紫陽花が綺麗に咲く季節となりだした時期、瑠璃が朝早くから庭に出て、庭師の人に頼みごとをしていた。

 

「あの〜。すみません!」

 

「はい?……おや、瑠璃お嬢様ではありませんか」

 

庭師のお爺さんは瑠璃の姿を見ると、少しだけ顔を緩めて近寄ってくる。

 

「おはようございます。こんな朝早くに起きられるとは珍しい……」

 

「もう!いつもギリギリまで寝てるわけじゃないもん!」

 

「はいはい。言い訳は結構ですよ」

 

庭師のお爺さん、『雨音 勝太郎』は瑠璃の言葉に楽しそうに笑えば「それで?」と瑠璃の要件を聞く態度へと戻した。

 

「儂に何の御用でしょう?いつもならそれこそお休みの日とかぐらいにしか見に来んでしょうに……」

 

「ああ、実はね?ちょっと譲ってほしい花があるの。あ!ちゃんとここの管理をしてる『あの人』にはちゃんと話してるから安心して?」

 

瑠璃の言葉に勝太郎が少しホッとした様子を見せると、瑠璃に顔を向ける。

 

「それで?どの花にいたしましょう?」

 

それに瑠璃は笑顔で答えた。

 

「『アルストロメリア』をお願いしたいな。だって、今日は上司の娘さんの結婚式だからね!」

 

***

 

数時間後。彰と瑠璃は黒い服と少し洒落た服を着て目暮について行く。他にも呼ばれていた人がいたのだが、時間にかかりきりだったり、呼ばれていってしまったため、他数人の刑事で捜査一課の警視である『松本 清長』の後に続いて控え室へと歩く。そして、松本が扉を開けた時、誰かの足音と共に聞き覚えのある一人の少女の声が聞こえて来た。

 

「い、いきなり何なんですか貴方は!!」

 

(ん?この声……)

 

それに瑠璃と彰が互いに顔を見合わせた時、

 

「蘭!やっつけちゃってよこんなゴリラ!」

 

と、そんな暴言が聞こえ、二人して背筋が凍る思いをした。

 

(ちょっ!?管理官になんて言葉を!?)

 

(あの顔なのに勇気あるな。暴言吐いた子……)

 

目暮がそんなこと気にせずに入って行き、彰と瑠璃も思っていたことを表情に出さないように努めて無表情知らぬふりを決め込みながら入れば、蘭が驚いた表情を浮かべている。

 

「あれ?蘭くんじゃないか!」

 

「め、目暮警部、どうしてここに?」

 

「上司のお嬢さんの結婚式に出席せん部下が何処におる」

 

「まあ、来ない奴らは大抵、時間に奔走してますしね」

 

「あ、彰警部……」

 

「うん、すごく違和感あるから普通に呼んでくれ頼むから……」

 

蘭のその呼び方に彰は顔を歪め、その後ろで瑠璃が声を上げて笑わないように必死で抑えていれば、それが彰にバレて軽く小突かれた。

 

「それにしても、上司……?」

 

蘭が目暮の言葉に疑問を浮かべていると、その後ろにいた花嫁姿の女性、『松本 小百合』は苦笑いで、管理官が警視庁の刑事で、彼女の父であると伝えられた。それに呆然とする蘭と、同じ学生服を着ているカチューシャの少女『鈴木 園子』は呆然とした様子で松本を見れば、松本の方はそれを気にせず後ろを振り向く。

 

「おい、お前ら下がっていいぞ」

 

その一言に瑠璃は待ったをかけた。

 

「あの、それならコレを先に渡しても大丈夫でしょうか?」

 

それは朝、勝太郎に頼んだアルストロメリアの花束だった。

 

「まあ!綺麗……ありがとう!お嬢さん」

 

「いいえ!貴方のお父様にはいつもお世話になってますから!それに、折角の結婚式です。その花言葉通り、幸せになってほしいんです!」

 

瑠璃のその言葉に、女性陣三人が首を傾げていると、下にいたコナンが説明をしだす。

 

「アルストロメリアは6月、つまり今の時期に咲く花で、花言葉には『未来への憧れ』『幸福な日々』『持続』っていうのがあるんだ!」

 

「へ〜。コナンくん、物知りね!」

 

蘭が褒めれば、コナンは嬉しそうに笑顔を浮かべる。それを見た後、瑠璃は松本に頭を下げ、出て行く。

 

「いやしかし……あの暴言にはビックリしたな……」

 

彰が掘り返すようにまたそう言えば、瑠璃がそれに不意を突かれたのか肩が揺れる。

 

「ちょ、お、思い出させないで……耐えるの、厳しいのに……」

 

「……おいおい。上司を笑うなよー?」

 

彰の言葉に瑠璃は唇をキュッと結んだまま、コクコクと頷く。しかし、その体は密かに揺れていた。

 

***

 

彰達がそんなことをしている時、修斗もまた正装の姿で、しかし別件で来ていた。

 

(なーんで俺がこの結婚式に顔見せだけとは言え参加しないといけないんだ……あの糞親父!)

 

修斗は新郎の方の客として来ていた。しかし、それも形だけであり、顔さえ見せればあとは会社へと戻っていいことになっている。

 

(はぁ……まあ、俺があの会社を継げば今後、何の問題もなくなる……我慢だ。今はあの糞親父の駒となってでも言うことを聞いておくんだ。じゃないと、兄貴達にもっと負担が……)

 

そこで修斗が漸く関係者控え室にやって来て、そこから扉の中を除けば……。

 

「……ヒュ〜。やるねぇ……」

 

修斗がそう囃し立てるその視線の先では、花嫁が花婿とキスをしている所だった。

 

「!?だ、誰!?」

 

しかし、そんなこと関係なく、修斗が扉に背を預けていれば、蘭と園子がその声に反応して振り向く。が、そこで蘭と園子とコナンは相手が誰なのかを理解した。

 

「「しゅ、修斗さん!?」」

 

「ほ、北星家の修斗様!?」

 

蘭とコナン、そして園子の反応は予想通りだったのか、大した反応は示さなかった。

 

「……って、園子。『北星家』って?」

 

蘭がその名前にピンとこなかったのか園子に質問をすれば、それに園子は信じられないと言った顔をする。

 

「ちょっと蘭!?『北星家』って言うのはね……?」

 

「ブライダルから不動産まで。結構幅広く色々やってる会社だ。まあ、家の歴史は結構古くからあって、家訓と社訓が『努力するものには成長の兆しがあるが、我々はそれよりもう一歩先に行ける努力をする』ってあって、それを字の通りに動いた糞親父が此処まで幅広く手を出し、その分、成功もしているからウチは結構有名な一家だな」

 

「へ〜……って、修斗さんはそのお家の人なんですか!?」

 

蘭はその説明で理解をしたが、それと共に衝撃の事実を知った様に反応する。

 

「ちなみに、この結婚式も準備とか話し合いとか、諸々ウチだな」

 

「ええええええっ!?」

 

蘭がそれに叫び、コナンは呆れた様に笑い、逆に園子は修斗に目を輝かせて寄ってきた。

 

「修斗様!お会いできて光栄です!!」

 

「……俺も鈴木財閥の方とお会い出来るとは思いませんでした。貴方のようなお綺麗な方とお会い出来て光栄だ。……とても将来が楽しみになりますね。どんな素敵な女性になるのか……俺はもう28なので、貴方を口説くと正直犯罪になりかねませんね……残念です。少しぐらい、貴方のような方とお付き合いしてみたかったのですが……」

 

修斗は本当に申し訳なさそうな顔をしたあと、最後には少し照れたように顔を赤らめれば、園子は嬉しそうに叫びだす。

 

「ほら蘭!こういう男性がモテるのよ!」

 

「あ、あはは……」

 

蘭が困ったように笑う。それを修斗は冷静な目で見ていると、隣にコナンがやってきたことに気付いた。

 

「なんだ?何か文句があったか?」

 

「いーや?さっきの言葉、本当にお前の本心なのかと思ってよ……」

 

コナンの言葉に、修斗は蘭達を見たまま少し悲しそうに眉尻を下げ、呟く。

 

「……一歩進めば崖に落ちるような場所じゃなかったなら、どんなに良かったか……」

 

その言葉にコナンは修斗の顔を見上げれば、修斗はいつも通りの澄まし顔をしており、そのまま新郎に歩いて行く。

 

「こんにちは、初めまして。『高杉 俊彦』さん。北星家の当主の代表で来ました、修斗です。今後、貴方方が幸福な日々であらんことを願っています」

 

そう言って右手を差し出せば、相手もそれに習い右手を出す。と、その時、修斗が軽く引っ張り、新郎に一言周りに知られない程度の声の小ささで呟く。その呟きを聞いた高杉は途端に瞳孔を開き、信じられないと言った目で修斗を見る。しかし、修斗はニッコリと営業スマイルを浮かべ、今度は小百合とも握手をする。そしてまた同じように何かを呟けば、小百合もまた信じられないと言った目で修斗を見たあと、しかし小さく首を縦に振る。それを修斗はジッと見たあと、同じように営業スマイルを張り付け、頭を下げて出て行った。が、コナンの横で一度立ち止まると、コナンに向けて一言、

 

「お前は本当に厄介ごとのところに行くな……」

 

その言葉にコナンは意図を聞こうと修斗に顔を向けるが、修斗は振り向くことなく出て行ってしまった。

 

それとほぼ同時にスタッフがやって来て、時間を知らせると、高杉が返事を返す。小百合はその間に彼からレモンティーを取ると、幸せそうにそれを抱き締める。彼女にとってのレモンティーは、初恋の相手からの贈り物。だからこそ幸せそうな笑みを浮かべながら、彼女は高杉に先に行っていても良いと言うと、高杉は少し驚いたような顔をする。

 

「心配しないで。すぐに行くから」

 

「あ、いや……あ、ああ……」

 

その後、蘭達も新婦と共に部屋を出た。が、部屋を出てすぐ、コナンは微かに聞こえた、缶の落ちる音を聞き、そのすぐ後に誰かの倒れる音を今度は蘭と園子も入れた三人が聞いた。

 

「なんだ!?今の音!?」

 

「先生の部屋からよ……」

 

すぐに控え室の部屋の扉を叩くが、反応が返ってこず、扉が開く様子もない。様子がおかしいことにすぐに気がつき、扉を開けてみれば、レモンティーが溢れており、その隣には血を吐き出して白いウェディングドレスも少しだが赤色が沁みたその姿で倒れている小百合がいた。

 

***

 

小百合は直ぐに救急車に運ばれ、刑事関係者もいたために捜査は早くに行われた。

 

「……」

 

「……瑠璃。怒るのは分かるが冷静になれよ」

 

「……分かってるよ」

 

そんな会話をし終えた後、鑑識の人から、レモンティーに混入されていたのが『苛性ソーダ』という毒物であることが告げられた。

 

「じゃあ、彼女はそれを飲んで……」

 

と、そこでコナンがレモンティーが溢れた跡に何か白い物が浮いているのを見つけた。それは白い部分だけではあったがカプセルであることが分かった。それに目暮は驚いたように声を上げると、鑑識の人に近づき、ピンセットで挟まれた白い物体を見つめる。

 

「ふむ、そうか……犯人はこのカプセルの中に苛性ソーダを入れ、レモンティーに放り込んだ。そうすれば毒が溶け出すまでに時間が掛かり、犯行時刻が特定出来なくなる。つまり、花嫁の部屋に出入りした君達六人なら、誰であろうと毒を入れることができたことに……」

 

「いや、七人だ」

 

と、そこで扉の外から声が掛かり、全員がそちらに目を向ければ彰と瑠璃が目を見開く。なぜなら修斗が呆れたように髪をガシガシと掻きながら入って来たからだ。

 

「し、修斗!?」

 

「お前、どうして……」

 

「あの糞親父から代わりに挨拶に行ってこいって言われたんだよ……だから、挨拶に来たんだが……ああ、やっぱりこうなったか……」

 

最後の言葉に関しては誰にも拾われる事はなく、溜息を一つ吐いて容疑者の中へと混ざった。

 

「と、兎も角、君たち七人の中に犯人がいるということになる」

 

「そ、そんな!僕も容疑者なんですか?」

 

高杉は困ったような表情で言うが、目暮はそれに容赦なく肯定する。

 

「お湯なら数分で溶けてしまうカプセルもありますからな……。おおし、カプセルを鑑識に回せ」

 

そこでコナンが目暮に声をかけ、松本は数に入らないのかと問えば、目暮は困ったような声を出しながらあり得ないと反応を示す。

 

「……おいおい、警視が自分の娘を……」

 

「いや、可能性としては0じゃないんだ。なら、自分の上司だからって数に入れないのはおかしいんじゃないか?」

 

修斗が少し呆れたように目暮を見ながら言えば、瑠璃がその修斗に軽く蹴りを入れる。

 

「ッ!何しやがる瑠璃!?」

 

「うっさい!!こっちだって言われなくったって分かってんのよ!」

 

「おい、お前ら……」

 

そこで始まる兄妹喧嘩に、全員が呆然と見ていると、彰がそれに耐えきれなくなり、2人に拳骨を落とす。

 

「いい加減にしろ!!」

 

「「っ〜〜〜〜〜!!」」

 

「瑠璃!お前は刑事だろ!本分を忘れるな!!修斗!お前は容疑者だろ!俺や瑠璃がいるからって安心しきってないでちゃんと緊張感を持て!!」

 

「「は、はい……」」

 

そんな三人の様子に、蘭は少しだけ安心したのか、クスリとだが笑った。それを見ていたコナンが安心したように笑顔を浮かべる。と、そこで蘭が思い出したかのようにビデオのことを話せば、目暮がそのビデオカメラに近づく。そのビデオカメラは、蘭達が椅子に置きっ放しのまま出て行ったままだったようで、それはつまり、可能性としては犯行の時の様子が映っている可能性を示唆していた。

 

そうして見始めたビデオ鑑賞。修斗は壁に寄りかかり見ていたが、それには殆ど全員が缶を触っていたことを示しており、そして誰でも毒を入れることが出来たことも示唆されていた。

 

「あ、でも、修斗さんは一度も触ってませんよね?」

 

蘭がそう言えば、全員が修斗に視線を向ける。しかし、修斗はそれに首を横に振る。

 

「残念だが、俺にも可能だ。確かに缶には触ってないが、高杉さんとその新婦さんに近寄りはしたからな」

 

そうして時間が黙々と過ぎる。彰は目暮の後ろで同じようにビデオを見ていたが、瑠璃は一回見ればもう問題がないため、早々に離れて修斗の横に立って会話を始めた。

 

「……修斗さ。この事件の犯人、もう分かってるんじゃない?」

 

「……ああ。まあな」

 

「ならさ、それを言っちゃえば?すぐに解放されるよ?」

 

それに修斗は首を横に振る。

 

「そんな面倒なこと、したくないね。……それに、そういうのは別の奴の仕事だ」

 

それに瑠璃は首を傾げるが、そんな時、近くでコナンと高杉が会話をしていた。その内容は、高杉の初恋の相手が、自分があげたレモンティーをいつも嬉しそうに飲む相手を、小百合がレモンティーを飲むときに何故か思い出すという話だった。

 

「……」

 

その話を聞き、修斗はコナンと、その後ろにいた女性の顔を見た。コナンについては元から見る予定だったのだが、女性の感情の機敏にも気づいてしまったのだ。

 

「……はぁ」

 

「?どったの?修斗」

 

「いーや。なんでもねーよ」

 

そんな時、鑑識の結果が届けられ、その内容は、まずカプセルを被害者が飲んでいたレモンティーに入れたと仮定すると、解けて中身が出るまでに15、6分掛かると伝えられた。それを逆算し、考えると、一時半となる。しかしその時間は園子からの証言で松本が出て行かれた時間と言われ、それと同時に花婿である高杉と、園子達の一つ上の先輩である眼鏡の男、『梅宮 敦司』はそれで容疑が晴れたという。何せ、彼ら2人が小百合とあったのはもっとあとであり、修斗より以前ということになる。

 

「なら、修斗も犯人じゃないことになるね!」

 

瑠璃が嬉しそうに報告すれば、修斗は何故かそれに溜息をつく。

 

そんな時、別の鑑識の人が気になることがあると言い出した。それは毒が入っていた缶の事で、その缶には触ったはずの警視の指紋がないと伝えられた。

 

それに彰と瑠璃は驚きの表情を浮かべるが、修斗は全くの無反応。むしろ今更かとでも言いたげな胡乱げな目を向けていた。

 

「馬鹿もん!何を言っとるか!儂はこの通り、問題の缶を握っとるわ!」

 

そこで瑠璃がついに耐えきれなくなり、修斗に詰め寄り、睨みつけながら大声で言う。

 

「修斗!いい加減に吐け!どうせ全部わかってんでしょうが!!」

 

それにコナンと彰以外の全員が目を見開き、驚いた様子を浮かべた。それを目にして、修斗は遂に頭を抱えた。

 

「〜〜っ!お前、俺に吐かせるためにワザと……」

 

「ふんっ!私の勝ちだね!」

 

瑠璃が修斗に勝利のVサインを向ければ、修斗はもう呆れ果て、なんの反応も示さない。

 

「修斗くん。それは本当ですかな?」

 

目暮がそう問いかければ、修斗は溜息を吐きながら頷く。

 

「……ええ。けど、正直、俺の立ち位置は未だに容疑者ですから、発言の信憑性は低いのではないかと……」

 

「えー?僕、お兄さんの推理、聞きたいなー?」

 

修斗があからさまに逃げようとした時、コナンがその逃げ道を塞いだ。それに修斗も気付き、恨めしそうにコナンを見れば、コナンはそれをどこ吹く風で子供らしい笑顔を向ける。

 

「出来れば、聞かせて欲しいのですがね?貴方の推理を。それが捜査の役に立つかもしれません」

 

「……分かりましたよ……とりあえず、話しますから。先にある物を探していただきたい」

 

「ある物?」

 

「乾燥剤入りの容器です」

 

それを言葉にしたちょうどその時、警官が廊下のゴミ箱から乾燥剤入りの容器を持ってきた。

 

「これは苛性ソーダを入れていた容器……そう考えていいんですね?修斗さん」

 

「ええ……じゃあ、取り敢えず話しますか。まず、聞いておきますが、犯人は15分前に被害者の方が飲むレモンティーに入れたと言う話でしたが……それは、あくまでもカプセルを『入れていた』場合に限ります」

 

「なっ!?つまり君は、カプセルと中身は別々だと、そう言いたいのかね?」

 

それに修斗は頷く。

 

「ええ。だって、事実として知っているのは、あのカプセルが、レモンティーの中身に浮いていた事だけ。その前のことなんて、ただの予想でしかないわけです」

 

「た、確かに……なら、犯人は……」

 

「ええ、犯人は毒と溶けかけのカプセルを別々に入れたんですよ。ーーー毒を入れた時間を、被害者が倒れた15分以前にする為に……ね?だから俺は容疑者から外れたわけではないんですよ」

 

そこで止めようとするが、全員からの視線が外れないと知ると、また一つ溜息をつく。

 

「待ってください。貴方が言ってるのはただの推理。証拠なんて何処にも……」

 

「いや?証拠なら既に全員が見てるじゃないか」

 

その一言で、全員があのビデオの事だと理解したのを見て、修斗はリモコンを取り、ビデオを再生する。そして、とある部分、被害者の小百合が缶から化粧を崩さない為にも用意されたストローを取り、そこから敦司に付けられたリボンを取っている所で修斗はビデオを一時停止にする。

 

「全員、この時の缶の向きを覚えて欲しい」

 

その言葉に習い、瑠璃を除く全員がその缶の向きを見た。そして、ある程度間を空けてからスタートし、園子が「嘘ー!?」と言い、そこでカメラを置いたらしく、向きが変わり、園子も去っていく姿が見えた時、また止めた。そこで瑠璃がようやく気付いた。

 

「あ!缶の向きが違う!!」

 

「何!?」

 

そこで全員が缶の向きを思い出せば、確かに向きが変わっていた。

 

「正直、俺としては最初からいたわけじゃないんでただの予想でしかなかったんですが、鑑識さんの言葉でよく分かりました。これ、今見えているレモンティーは園子さんの分だ」

 

それに今度は園子に全員の視線が向けられ、園子は辺りを見渡してから自分に指をさして確認を取る。

 

「わ、私の……?」

 

「鈴木さん。それから毛利さんにコナンくん。三人のうちのだれでもいい。三人が出て行った時、鈴木さんは缶をどうしていた?」

 

それに蘭が考え込み出したが、それより早く、コナンが答える。

 

「園子姉ちゃんなら、あの急いでテーブルの上に置いてたよ。……そう、丁度、あのテーブルの上にね!」

 

それに満足そうに修斗が頷く。そして蘭も気付いた。今現在、流されているビデオに映っているレモンティーが園子のものであると。

 

「一本に見えていたのは二本の缶が重なっていたからだ。まあ、全員が全員、被害者が持つ缶にしか注目してなかったから置いてあることに気づかなかったんだろう」

 

それに全員が否定出来ない気持ちを持つが、修斗はそんなこと関係なしに続ける。

 

「そしてそこから考えれば、被害者の人は偶然にも手前に置かれた方を手に取った。そしてそれは鈴木さんの分だった。現に、その缶には触ったはずの全員の指紋は付けられていなかった。まあ、鈴木さんの分はついてるだろうが」

 

その修斗の言葉に鑑識の人が肯定をすれば、目暮と松本が驚いた表情を浮かべる。

 

「そ、それじゃあ……」

 

「娘は間違えて缶を取ってから倒れるまでの間に毒と溶けかけのカプセルを別々に入れたってことか……」

 

「そう。ビデオから考えて、側にいたのはそこの坊主と高杉さんだけ。後は鈴木さんと毛利さんだが、この2人は除外してもいいだろう。2人に触る暇なんてなかっただろうしな」

 

その言葉に2人は頷く。曰く、2人がカメラの電池を買ってきた時、丁度高杉が触っており、直ぐにそれは小百合が手に持ったと話された。

 

「それから坊主も除外だ。背的な問題で無理だ」

 

「となると、残りは……」

 

そこで全員が高杉へと視線を向けられる。しかし、それに眉を顰める修斗。

 

「それから最後に1人。被害者本人だ」

 

「ま、まさか自殺……」

 

「まあ、あんまり変わんないだろうな。……だが、被害者が自殺をする為に毒を入れたなら、倒れる直前に入れるだろう。そうなってくると、ないとおかしいものがある」

 

そこで目暮が乾燥剤入りの容器を思い浮かべた。

 

「密閉できる容器と乾燥剤か……」

 

「ああ。苛性ソーダは放置すると数分で液状化する危険な薬品だ……まあ、弟からの受け売りだが」

 

そこで思い浮かべたのは、白衣を着た三男。雪男の姿。

 

「そんな危険な薬品だ。この部屋にずっといた被害者が安全に所持しておくには乾燥剤の容器が必要となってくる。しかし、その容器があったのは廊下のゴミ箱の中だ」

 

「つまり、被害者以外の誰かが持ち込んだという証拠になるな……」

 

「そして、それが出来たのはただ1人……あんただよ高杉さん」

 

そこで修斗が冷たい目で高杉を見るのと同時に、全員が高杉の方へと視線を向ける。その高杉は少し焦った様子を見せるが、松本がそこで高杉の胸倉を掴み詰め寄れば、そこで高杉は笑い、話し始める。

 

二十年前、松本警視が追っていた犯人の車が激突した時、高杉の母親がそれに巻き込まれた。巻き込まれて直ぐの時はまだ生きていた母親。すぐにパトカーに乗せて病院へと運べば助かった命。しかし松本は「邪魔だ。どいてろ!」と怒鳴りつけ、去っていく。そして母親はその15分後に路上で息を引き取った。

 

「ーーーあの日以来、忘れたことはなかったぜ!テメーのその冷酷なツラだけはよ!」

 

そう言って憎いと語る目で、松本に指をさしながら言えば、刑事側からは驚きの顔で本当のことなのかを聞かれた。それに松本は肯定をし、そして女性のことについては車の陰で見えなかったという。

 

「まあ、状況を考えると、見えないのも仕方ないな……」

 

修斗のその言葉に、高杉は修斗を睨むが、しかし修斗は言葉を続ける。

 

「けど、子供の様子を見たらすぐ分かったことでもあるだろ」

 

そんな風に冷めた目を松本にも向ければ、松本は項垂れるしかなかった。

 

「事故に関しては後で知り、急いで彼の家に行ったが、既に引っ越した後だった……」

 

「ふんっ。俺には母親しか身寄りがなかったんでね。子供がいなかった高杉家に養子として引き取られたんだ」

 

そうして七年前、高杉は被害者の友人の一人、『竹中 一美』が小百合を連れて着た時、その小百合が松本の娘だと分かった途端、彼が忘れかけていた復讐の炎が再度燃え始めたと語る。

 

「だったらどうして!どうして儂を殺さなかったんだ!」

 

「……復讐する相手を苦しませる一番の手は、その相手の大切な存在を手にかけること」

 

修斗は壁に背を預け、目を瞑った天を仰ぐような体制で言葉にすれば、それに高杉は同意する。

 

「ああ、そうだ。テメーが死んだら味わえないだろうが。大切な人を喪った……あの悲しい想いはよ……」

 

その言葉で瑠璃も目を伏せる。この時、瑠璃と修斗が思い浮かべたのは、瑠璃にとっては友人、修斗にとっては親友、そして梨華にとっては恋人だった相手、『宮村 和樹』という青年だった。

 

「……しかし彼奴も馬鹿な女だ。俺が復讐の為に近づいたとも知らずに……まあ、どうせ高杉家の財産に目が眩んで」

 

そこまで喋った時、一美が高杉の頬を叩いた。

 

「何も知らないのは俊彦、あんたの方よ!」

 

「一美……」

 

そこで一美が語ったのは、俊彦にとっては驚愕の話であり、修斗にとっては予想済みの話だった。

 

それは小百合が全てを知っていたことを。20年前の事故のこと、そして、高杉の素性のことも。

 

「いや嘘だ!俺の正体を知ってて俺と結婚するわけが……」

 

そこで遂に一美は涙をこらえながら話す。

 

「小百合のレモンティーを見てもまだ分かんないの!?あんたはね、小百合が20年間想い続けた初恋の人なのよ!!」

 

そこで修斗とコナン以外の全員が驚愕の表情を浮かべた。

 

「小百合が似てる似てるっていうから調べたら分かったのよ。小百合、あんたのプロポーズを受けてからもずっと悩んでた。どうしたらあんたが許してくれるかなってね……。それなのにあんたは……あんたって人は!」

 

そこでようやくコナンは思い当たる。小百合が実は、高杉が毒を入れた所見ていたのではないかと。

 

「まさか、毒が入っているのを知ってて……」

 

そこで高杉は膝から崩れた。それを見ていた修斗は腕を組んだまま一つ息を吐く。そんな時、警官から病院からの連絡で、小百合が手術の結果、一命を取り留めたと連絡を受けた。それに全員が喜び、高杉も泣いて喜んだ。そこに修斗が近づき、隣に立つと話し出す。

 

「だからあの時に言っただろ……『後悔するぞ』って」

 

「……お前は、何処から気付いてたんだ?」

 

それに高杉が素直な疑問を口にすると、修斗は肩を竦めながら答える。

 

「殆ど最初からさ。あんたがあの花嫁さんを見る目……その時に浮かぶ感情の中に憎悪と期待を見つけたんでね。これはもう何か起こした後だなとは思ったんだ。あとは状況判断さ。誰も怪我をしていないなら毒を使ったんだろうと考えた。そして毒を使うなら飲み物だ。だからレモンティーに毒を入れたんだろうとそこで考えた。まあ、正直、彼女が持っていた方か、テーブルに置いていた方かは知らなかったがな」

 

修斗がそこまで言って離れようとした時、高杉がもう一つ訪ねてきた。

 

「あんた、小百合にも何か言ってたよな?……何を、言ったんだ?」

 

「……『その男のために死ぬ気か?』って言ったんだ。あの人はあんたが殺そうとしていることに気づいていると直感した。それに、その目の中には結構複雑な感情が渦巻いていたしな。俺でさえ全部は読み取れなかった。……そして、それに小百合さんは頷いた。それが彼女が気付いていたことの証明だ。俺がこれを止めなかったのも、彼女の意思を尊重してのことだ」

 

そこで修斗は去っていく。その背後に、また静かになく復讐に燃えた悲しい花婿を置いて。


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