とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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先に言っておきます。

この小説内では、少々、杯戸中央病院の設定を捏造しております。

どんな診療科があるのかは描かれていなかったはずなので、一応です。


瞳の中の暗殺者編
第26話〜瞳の中の暗殺者・1〜


とある休日。その日は朝から雨が降っており、本来、遊びに行くには全く適さない天気ではあるのだが、それでも咲は気にせず、支度をし終え、屋敷内の廊下を1人、歩いていた。歩美達との遊びの約束を守る為に。そんな時、目の前から1人の少女が歩いて来る。雪菜だ。

 

「あれ?咲?どこ行くの?」

 

「友人と遊びの約束をしているから、外に」

 

「え、こんな雨の中なのに?凄いね!」

 

「まあ、雨の中で遊ぶわけじゃないから凄くはない。多分、博士の家だろう」

 

「博士っていうと、確か、色々変な発明をしてる人……だったっけ?」

 

「ああ」

 

咲の言葉を聞き、雪菜は頭の中で、白髪のモジャモジャ頭で緑の液体を入れたフラスコをユラユラ揺らす人物を想像し、ニコリと笑う。

 

「そっか!今度、どんな発明したか、教えて!気になる!」

 

「ああ、分かった。……そういうお前も、これから何処かに出るのか?」

 

咲がそう聞き返したのは、雪菜の服装が外用だった為だ。大抵、彼女が部屋に残る時、部屋着を着て、部屋に篭って眠っていたり、ゲームをしたりで時間を潰している。それが今は、白い袖のないパーカーの上着を着て、下に水色の半袖Tシャツを着ている。何処かへと出かける服装だ。

 

「うん、そうなんだ〜。雪男に今日は定期的な診察日だから来てって言われてね?だから、今から行くの〜」

 

「それは、大変だな。この雨の中、杯戸町まで行かないといけないとは」

 

雪男が研修医として勤めているのは、杯戸中央病院。そこで様々な診療科を見て回り、体験し、研修の時代を終えた時には、彼は精神科に行きたいと言っていた。だからこそ、彼は休憩時間の合間に精神科に顔を出しては教えを請うていると言っていた。それらはすべて、彼の妹である彼女の為に。

 

「あ!ねえ!途中まで一緒に行こうよ!」

 

「……いや、いい。お前、どうせ興味を惹かれる所があれば、フラフラとそこに近寄って、時間を浪費するじゃないか」

 

「え〜?猫さんを見つけたり、綺麗な花が咲いてるな〜って思ってるだけだよ?」

 

その言葉を聞いた咲は、分かりやすく溜息を吐き、それを見た雪菜は首を傾げた。その後、雪菜とは結局、途中まで一緒に歩き、途中で別れ、阿笠邸へと向かった。そこで暫く、子供達と共にババ抜きで遊ぶ。それを暫く続けた時、歩美が哀に声を掛けた。

 

「ねえ、灰原さん!」

 

「なーに?吉田さん」

 

「コナン君のこと、今はどう思ってるの?」

 

その問いに、哀は少し考えるような素振りを見せ、フッと笑って言う。

 

「……彼はーーー」

 

その答えを聞いた3人は、目をパチクリとさせ、咲は苦笑い。しかし、直ぐに3人は何か思いついたような顔を浮かべ、立ち上がった。

 

「灰原さん!博士!今日はありがとうございました!」

 

「俺達、ちょっと用が出来たから、コナンの家に行ってくるな!」

 

「咲ちゃん、行こっ!」

 

そこで咲の腕を歩美が引っ張る。咲はそれをされても振り払う様子はない。前までは触れられれば即座に払う事が多かったが、最近は、服の上からならば、少々、体に緊張が走るくらいで振り払う事はなくなった。そんな成長を目にした際、修斗がホッとした様子を見せたのだが、そんな事は今は関係なく、雨の中、傘を差して毛利探偵事務所を目指す4人。

 

「ねえ、コナン君いるかな?」°

 

「さあ、どうでしょう!」

 

「いてくんなきゃ困るぜ!」

 

「いや、もしかしたら、家族で旅行の可能性もあるぞ?」

 

「ええ!それは困るよ!」

 

そんな会話をしながら歩いていれば、咲の耳に、後ろから聞こえる足音が耳に入る。それは、コナンの足音だった。

 

「これなら、コナン君も絶対に分かりませんよ!」

 

「あいつの参ったって顔、早く見てーなー!」

 

「コナン君の参った顔か〜!」

 

そこで3人が思い浮かべたのは、地面に両手足を付け、3人に頭を下げながら、降参だと告げるコナンの姿。そんなコナンの目の前では、3人がわき腹に両手を当て、胸を出してドヤ顔を浮かべている。そんな3人の笑顔を隣で見ていた咲は苦笑い。既に、そんな考えはコナンに暴露ているのだから、彼女としては3人の計画が潰れた事に、苦笑いしか浮かべれなかった。

 

「なーに笑ってんだよ、オメー等」

 

そこで3人が振り向けば、緑の傘を差してジト目を向けるコナンがいた。そんな彼を見つけた瞬間、歩美に笑顔が生まれ、黄色い傘を差して駆け寄っていく。その後に続き、光彦、元太も近付く。

 

「コナン君!」

 

「丁度良かった!今から君の家に行こうとしてたんです!」

 

「4人で考えた、とーっておきのクイズがあるんだぜ!」

 

「クイズ?」

 

「いい?灰原さんに、コナン君って、どんな人だと思う?って聞いたら、月を見ながら、『夏じゃない』って答えたの!」

 

「灰原さんは、1・コナン君を褒めた。2・コナン君を貶した。さあ!何方でしょう!」

 

「夏じゃない……月……」

 

そこまでコナンが考えた時、彼は笑みを浮かべて答える。

 

「分かった。答えは2だ!」

 

その答えを聞けば、子供達3人は驚いた様子を浮かべ、光彦が代表としてなぜなのかと聞く。てっきり、3人とも、1番を選ぶと思っていたのに、その予測が外れたのだから仕方がない。それに対し、コナンはその理由を話す。

 

「夏の月は、6月・7月・8月だ。んで、『6月・7月・8月(ロク・ナ・ヤツ)じゃない』」

 

それを聞けば、歩美が凄いと彼を褒め、元太は面白くないと言う。望んだ言葉が出てこなかったのだから、当然といえば当然である。

 

「それより、なに笑ってたか教えろよ」

 

コナンがジト目でまた問い返せば、それに光彦は参ったと言ってくれるかと言う。それに意味がわからないといった表情を浮かべた時、青信号だった横断歩道の信号が点滅する。それに気付いた元太が渡ろうと走り出そうとする。そんな元太の行動に叱る声が掛かった。

 

「こらっ、渡っちゃいかん」

 

その声で足を止め、全員が元太の後ろを見れば、スーツ姿の男性が立っていた。その男は続けて注意する。

 

「青の点滅は黄色と同じなんだよ。次の青信号になるまで待ちなさい」

 

その男性の注意を受けた子供達は、はーいと受け入れる返事を返す。それを聞いた男性が離れていくのを咲は見送りつつ、光彦達の会話を耳に入れた。

 

「怒られちゃいましたね」

 

「しょうがないよ。あのオジさんの言う通りだから」

 

そこで男性が公衆電話の扉を開けて入ったのを見て、視界を外す。興味がなくなったからだ。しかしそれとは逆にコナンが公衆電話の中に入った男性を見て、その男性がメモ帳を横にしたのを見て、歩美達に声を掛ける。

 

「今度は俺からの問題だ。あのオジさんの職業は、なんだと思う?」

 

そのクイズを聞いた4人が男性を見た。彼はメモ帳を縦に開いて、電話で誰かと話しながら何かを書いていた。その行動を見た時、咲は彼の職業を理解した。

 

(ああ、なるほど)

 

「んー、学校の先生かな?」

 

「営業マン……にしちゃ、鞄がありませんね」

 

「鰻屋じゃねえか?」

 

「それは元太の願望だろう?……答えは刑事、だろ?」

 

咲がそう答えれば、コナンは正解だと言う。それに驚いた3人に、咲が説明する。

 

「彼は電話をしながら、手帳を縦に開いて何かを横書きで書いている。あれは、刑事が何かをメモする時にする行動だ」

 

「へ〜!流石、咲さんですね!」

 

「コナン君も凄いね!」

 

「いや、私の場合、家に2人も刑事がいるから、自然と知っただけだ。あと、瑠璃からの豆知識を聞いただけだ」

 

咲がそう答えている間にも、電話をしている刑事『奈良沢 治』は会話を続けている。そんな時、待ち望んでいた横断歩道の信号が青に変わり、5人は渡り始める。その渡り合えた先で、コナンが刑事の方へと顔を向けたのに気付き、咲が足を止めてコナンを見る。

 

「どうした?」

 

「いや、あの刑事さんが気になってな」

 

「……自ら事件に首を突っ込むなよ?」

 

その忠告を受け、コナンが咲に向けて乾いた笑いを向けたその瞬間、咲とコナンの視界に入っていた、コートを着た黒い傘を差した男性が公衆電話の扉前に立ち、奈良沢が公衆電話から出てきたその時、3発の銃声が雨の中、静かに響く。それに驚いたのは咲とコナン。元太達はその音に気付きはしたものの、その音が何かは特定出来なかった。しかし、そんなもの2人には関係ない。2人の視界の向こうでは、撃たれたらしい奈良沢が倒れ、撃った犯人が走って立ち去っていく姿が目に映っていた。

 

「オジさんが撃たれた!!」

 

「ええ!?」

 

「犯人はあいつだ!!野郎、逃すか!!」

 

「!馬鹿、コナン!止まれ!!!」

 

「コナン君!!危ない!!」

 

咲と歩美が叫んだ時点で、車がクラクションを鳴らした為、コナンは直ぐに反応が出来て、後退る。お陰で命は失わずに済んだものの、横断歩道の向こう側の景色は、トラックが通ってしまった為に見えなくなってしまった。それを見て、コナンは直ぐに救急車を呼ぶように指示し、歩道橋へと走っていく。勿論、犯人を追う為だが、向こう側へと辿り着いた頃には、既に犯人の姿は何処にもなかった。それに悔しがるコナンに、咲は近付いた。

 

「コナン!!犯人は!?」

 

「逃げられちまった……そうだ!あのオジさんは!?」

 

「……多分、もう無理だろう。あの距離にいたんだ。どれだけ下手な奴でも、外すなんて事はほぼ不可能だ」

 

咲のその言葉を聞くも、コナンはそれを無視して、走っていく。その後をすぐに追えば、通行人の男性2人が、奈良沢の近くにおり、コナンが男に声を掛けていた。

 

「しっかりして!!オジさん!!誰に撃たれたの!?」

 

そのコナンの問いに、奈良沢は激痛から唸り声をあげながらも体を動かし、右手で心臓の辺りを掴み、生き絶える。その意味を考えようとした時、子供達が歩道を渡って走ってやってきた。そして、刑事の遺体に恐怖の顔を浮かべ、立ち竦んだ。その後、コナン達の連絡の元、やってきた救急車と警察に、彼が死んだことを伝え、コナン達は警視庁へとやって来た。その刑事の事件は既にニュースになっており、コナン達が連れてこられた米花署の前には、報道陣が集まっていた。しかし、それを気にせず、目暮が問いかけてくる。その室内には、高木、佐藤、彰、伊達、松田、瑠璃がいた。

 

「何度もすまないが、我々にも説明してくれるかな?犯人の特徴を」

 

その問いに、光彦がまず、若い男だと答え、元太は若いお姉さんだと答え、歩美は中年のおじさんだと答える。その見事にバラバラな答えを聞き、高木が、その人物が差していた傘を問いかければ、光彦が黒い傘だと答え、元太は緑だと答え、歩美は青だったと思うと答える。またもやバラバラな答えに、瑠璃の頭もこんがらがり始めた。

 

「松田さん、どうしよう。このままだと、記憶を遡った時にどれが本当の事か、分からなくなりそう」

 

「手帳にメモしてろ」

 

そんな松田と瑠璃の会話を無視して、佐藤がコナンにどうかと問いかければ、コナンは、レインコートと傘は灰色ぽかったと言うが、その性別までは分からないと答え、その人物が傘を右手で持っていた事を告げる。

 

「ということは、銃は左で撃ったのね」

 

「咲は?お前も見てないか?」

 

彰からの問いに、咲は見ていないと答える。

 

「犯人は左利きか……」

 

「ところで、警部殿。奈良沢警部補が左胸を掴んで亡くなったということについては……」

 

小五郎のその言葉に、目暮は、奈良沢が左の胸ポケットに入っていた警察手帳を示したものと解釈した事を伝え、メモに書かれた内容を徹底的に調べていることが伝えられた。そんな時、扉が開かれ、中に1人の刑事が入ってくる。その彼は、紙の束を抱え、目暮の横にやって来て、報告を始めた。

 

「目暮警部、現場に落ちていた薬莢から、使用された拳銃は……」

 

「9mm口径のオートマチック。それもサイレンサー付きの拳銃だな」

 

そこで咲が口を挟み、そう言葉にする。それに驚いたのはその場の全員で、その情報を持って来た刑事『 千葉 和伸』が一番、驚いた表情をしていた。

 

「な、なんで……」

 

「違ったか?私は、その薬莢を見ているから、種類は合ってると思ったんだが……」

 

「い、いや、合ってるけど……」

 

「咲、お前、なんで……」

 

彰と瑠璃が酷く動揺した様子を見せるが、咲は、小説の中で拳銃が出て、興味が出て調べたと伝えた。実際の理由は違う。組織時代に、一応はと、彼女の世話役兼先生だったテネシーから教わった情報だ。それを伝える事は出来ないため、そう誤魔化せば、瑠璃は納得した。彰は疑いつつも、答えないだろうと考えたようで、それ以上の追求を止める。

 

「9mm口径か……」

 

「女にも扱える、ありふれた銃ですね……」

 

「でも、皆んなが巻き添えにならなくて良かったわ!コナン君も」

 

蘭のその言葉に、コナンは子供らしく頷くものの、内心では苛立ちを隠せない。

 

(くそっ、信号が赤にさえならなければ、逃がしゃしなかったのに……)

 

その後、その場で解散となったが、その翌日の朝、新聞によって、新たな刑事の犠牲者が出る事を知るのは、コナン達は、まだ知らない。


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