とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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第25話〜呪いの仮面は冷たく笑う〜

とある日の深夜。屋敷にて眠りに就こうとしていた彰と邪魔をするように、携帯に連絡が入った。眠いからと無視する事も可能な筈だが、残念ながら相手は上司の目暮の為、それを諦めて通話を取り、要件を聞く。

 

「殺人事件、ですか?」

 

『ああ。それで、瑠璃くんも起こして現場に来て欲しい。場所はーーー』

 

目暮の話を聞き終え、通話を切ると、早速、瑠璃の部屋へと突撃し、彼女を眠りの淵から目覚めさせ、瑠璃の車を借りて現場へと向かい始めた。

 

「ふぁぁ……もう、誰?こんな時間に事件なんて起こす馬鹿は……」

 

「知るか。そもそも、殺人に時間も何も関係ないだろ。寧ろ、この時間は願ったりかなったらじゃないか?人気も少なくなる時間だからな」

 

「傍迷惑です〜……ああ……お布団が恋しい……」

 

「……現場に着いたら起こしてやるから、暫く寝てていいぞ」

 

彰からの言葉に、瑠璃は一つ礼を伝え、眠りについた。その後、1時間と少し経ち、現場へとやって来てみれば、既に鑑識や他の刑事が到着しており、二人して頭を下げて、現場の中へと入っていく。その現場には、目暮の他に、伊達と松田がいた。

 

「よ、遅かったな」

 

「まあ、寝てたしな」

 

「だろうな。瑠璃の奴、半分寝てないか?」

 

松田が彰の後ろにいる瑠璃を見て言う。そこで後ろを振り返れば、確かに立ったままウトウト状態の瑠璃がいた。

 

「……伊達、申し訳ないんだが、瑠璃を手洗い場まで連れて行ってくれないか?それか、二人一緒に使用人の人に案内してもらってくれ。顔、洗わせる必要があるみたいだから」

 

「おう、分かった」

 

そこで使用人の一人である『下笠 穂奈美』に案内してもらいつつ、伊達は彼女が変な事をしないよう見張りと、瑠璃が途中で寝ないための監視役として付いて行ってもらうこととなった。松田と彰は、目暮とともに話を聞くこととなった。

 

「呪いの仮面〜?どうしてこれが届いた時に、直ぐに警察に届け出なかったのかね」

 

「それが、被害者の『蘇芳 紅子』さんが『この手の嫌がらせは良くあること』だと言って……」

 

それに納得はしないものの、話も進まないため、一度それは置いておくことにした3人。次に現場の密室だったらしい部屋へと視線を向けた。

 

「ーーで?これが呪いの仮面か?」

 

そこにあるのは、奇妙な仮面達。白い顔に怪しげな笑顔を浮かべており、それが何十枚とあるため、不気味さが倍増されている。

 

「はい。我々は呻き声の後に、ガシャーンという大きな音を聞いています。恐らく、犯人が仮面をばら撒いた音だと思われます」

 

「このドアには、内側から鍵が掛かっていたというが……」

 

「はい。そこで、ドアの上のガラスを割り、コナンを中に入れて、蘇芳さんの死を確認しました」

 

そこでコナンがドアの鍵は間違いなく掛かっていた事を伝える。それも、二つともと言えば、彰が首を傾げた。

 

「?二つとも?鍵が二つもあったのか?」

 

「はい。蘇芳さんはいつもドアに二つの鍵を掛けていました」

 

そこで小五郎が一つ目のドアの鍵のこと、そして二つ目の南京錠の説明をする。そこで目暮がなぜ被害者は二つも鍵を掛けていたのかと問えば、被害者の秘書である『稲葉 和代』からの話で、霊媒師に仮面を封じてもらった際、いくつかの仕来りを守るように言われたのだという。そのうちの一つが、寝室の鍵は二つ付けること、だったのだと言う。それに嘘臭いという顔をする目暮達。

 

「霊媒師ね〜。となると、被害者自身が鍵を開けて、犯人を寝室に入れたという事か」

 

「……その可能性は、ないようだぜ」

 

そこで遺体の近くに移動していた松田が言う。其方へと全員が顔を向ければ、彼は難しい顔をしていた。

 

「遺体には、何処にも対抗したような跡はない。起きて迎え入れたんなら、抵抗しても良いはずだ。なのに、それがない」

 

「ええ。蘇芳さんは最近、不眠症で、睡眠薬を使用していたそうです」

 

「つまり、被害者はいつも通りに鍵を二つ掛け、寝る前に睡眠薬を飲み、寝たとするなら、起きて誰かを招き入れるのは不可能です。睡眠薬の耐性が付いたと考えるにも、飲み始めたのが最近だと言うなら、付くのは早すぎます」

 

「なら、犯人はどうやって侵入したんだ?……ん?」

 

そこで目暮の視線が向けられたのは、部屋の横にも付けられた扉。その上には隙間が出来ている。その扉の向こうは、小五郎曰く、もう一つの寝室らしい。しかし、そのドアは何年も前に封鎖されたのだという。確かに、ドアには釘が打ち付けられており、開けられた様子も、そこが取り替えられたような新しさもなかった。

 

「ドアの上の欄間ですけど、あの格子が外れるなんてことは……」

 

高木が鑑識のトメさんにそう聞けば、調べたがそんな仕掛けは無かったという。格子の隙間は5、6cmのため、腕一本通らないことが分かる。そこで今度は目暮が、ベッド側の窓は外れるのかと問えば、窓ははめ殺しの為、何処にも異常は無いという。そこまで言われて、頭を悩ませる彰と松田。これだけ密室な状況で、犯人はどうやって被害者を殺したのか。そこまで考えたとき、松田と彰の頭の中で、一つの疑問が浮かぶ。それは、此処まで密室にして起きながら、犯人は何故、自殺に見せかけなかったのか、ということ。ここまで密室にしたのだから、自殺に偽装すれば、簡単に犯罪は成立したはずなのだ。

 

(……いや、もしかしたら、したくても出来なかったとしたら……)

 

「蘇芳さん、本当に自分で睡眠薬を飲んだのかな?」

 

彰がそう考えている横で、コナンがそう考えを投げかける。それに訝しげに目を向けた小五郎。しかし彼はすぐに何かを思いついた様子で、自信満々な様子を見せる。

 

「分かりましたよ警部!」

 

「なに、本当か!?」

 

「犯人は、夜中に蘇芳さんと会い、睡眠薬入りの飲み物でも飲ませて眠らせた。そして、蘇芳さんをベッドへと運び、殺害した」

 

「……おい、待て。それならその犯人は、部屋を出たはずだよな?ならどうやって、部屋の鍵を二つとも掛けたんだ?」

 

松田が目を細めて問いかければ、答えに詰まる小五郎。少しして、彼はまだ分からないと言い、呆れたような溜息を一つ吐く松田と、肩を落とした彰。しかし、そんなことしても捜査は進展などしない事は理解している為、直ぐに気持ちを切り替え、話し合う。

 

「……彰、お前、この事件どう思う?」

 

「犯人はまず、出入りが不可能。入るだけならともかく、出る為には鍵を開けなければならず、閉めるのはまず不可能。……なあ、捜査の点を変更しないか?」

 

その彰の提案に、松田はその意味を直ぐに理解し、受け入れた。変更したのは、『どうやって犯人が鍵を二つ掛けたのか』ではなく、『どうやって仮面を部屋に撒き散らしたのか』ということ。

 

「犯人が入った事が前提なら、犯人が撒き散らしたと考えるのが自然だが、他に巻き散らせる方法がないわけじゃない」

 

「ああ。『あそこ』からなら、方法はある。しかし、それだと、どうやって撒き散らしたかも考えるべきだが……」

 

二人がそう考えている途中で、トメが凶器となったナイフを見せてきた為、思考をまた其方に切り替えた。その凶器というのは、仮面達が置かれていた『仮面の間』に、同じく置かれていたナイフだと、小五郎が証言する。そのナイフは、柄の部分が黄金色で、装飾もされた豪華なものだ。その価値は、ナイフ全体に血がべっとりと付着していなければ、高かっただろうと推測出来た。

 

「ベッドのヘッドボードに突き刺さってたんですが、ちょっと妙なんですよ……」

 

「妙って?」

 

「この通り、柄の部分までべっとりと血が着いてるんです」

 

「……確かに。人がもし、それを持って犯行に及んだなら、柄には付着してない部分が出来るはずなのに……」

 

「血といえば、室内に散乱していた仮面にも、返り血を浴びたと思われる物が、何枚かありました」

 

そうトメが説明したとき、彼の部下の一人が、パックに入れた、口の周りに大量に血が付着した仮面を持ってきて、それを渡してきた。それを受け取り、トメはそれがベッドの上に落ちていた事、返り血を大量に浴びた事を説明した。それを聞いた小五郎は、それが犯行時に、犯人が被っていた仮面ではないかと推理した。それを聞いた目暮は、犯人の何らかの痕跡が残っているかもしれないと考え、他に返り血を浴びた仮面がないかと問えば、それに肯定が返ってきた。それと共に、トメからはそれも不思議なのだと仮面を見ながら言う。

 

「他のは皆、口の周囲にのみ、血が付着しているんですよ」

 

そこで小五郎は、問題の仮面である『ショブルーの仮面』は、所有者の生き血を啜るという逸話がある事を話した。それに目暮が呆れたような目を向けた。

 

「犯人が現場に仮面をばら撒いたのは、そういう怪談めいた話で捜査を撹乱するためではないでしょうか?」

 

「ま、そんな所だろうな」

 

「……なあ、毛利探偵」

 

そこで松田が小五郎を呼ぶ。それに訝しげな様子を見せる小五郎だが、顔を向ける。

 

「なんでしょう?松田刑事」

 

「その『ショブルーの仮面』は、全部で何枚だ?」

 

その松田の質問に、一瞬目を丸くした小五郎だが、直ぐに意識を戻し、200枚だと答える。それを聞いた松田は礼を言い、考え込む。

 

「……松田。もしかして、これ」

 

「……ああ。考えは同じだろうぜ。けど、それをしたっていう証拠は、今の所、このばら撒かれた仮面と、凶器のナイフのみ。犯人に至っては皆目見当も付いてない状況だ。……もう少し、様子見だな」

 

そんな会話をした時、外の捜査をしていた小林が戻ってきた。その彼からは、降り積もった雪の中で、誰かが外にいたような痕跡はなかったと報告された。それにより、犯人は屋敷内にいた人物達に絞り込まれた。そこで、小五郎達を退けた人物で、屋敷にいた人物が挙げられる。

 

「屋敷にいた人物は、写真家の『片桐 正紀』さん、プロ野球選手の『松平 守』さん、人気占い師『長良 ハルカ』さん、ロックシンガーの『藍川 冬矢』さん、被害者の秘書の稲葉和代さん、メイドの『下笠 美奈穂』さんと穂奈美さん。以上、七名です」

 

「容疑者はもう少し、絞ることができます」

 

そこで小五郎からのその言葉に、目暮達が目を見開く。目暮がどういう事かと問い返せば、小五郎曰く、三階の蘇芳の部屋に行くには、西側の階段を登らなければいけないのだという。そして事件当時、仮面の間の東西の扉は鍵をかけられていた事を、小五郎達は確認しているという。それは、屋敷の西と東の行き来が出来ないことを証明することとなる。そこまで言われれば、自然と西側にいる人間が犯人ということとなる。

 

「部屋割りはどうなっとるのかね」

 

「まず、一階東側に藍川さん、穂奈美さん。西側に稲葉さん、美奈穂さん。二階東側は我々3人、西側に片桐さん、松平さん、そしてハルカさんです」

 

「となると、容疑者は5人になるわけか……」

 

そこで被疑者が集まる食堂に来てみれば、瑠璃と伊達が既にそこにおり、聞き込みをしていた。そこで彰が声を掛ければ、2人が振り向く。

 

「あ、目暮警部!お疲れ様です!」

 

「目暮警部、そっちはどうなりました?」

 

「順調のようでそうでもない。今、壁にぶつかっておってな……所で、聞き込みの方はどうなっとる?」

 

「事件が起こった時間での全員の行動を聞いてました」

 

「なら瑠璃くん、説明してくれ」

 

そこで目暮から指名された瑠璃は一つ頷き、手帳を閉じ、説明する。

 

「まず、穂奈美さんから。彼女は、蘭さんが呼びに来るまでの間、部屋で寝ていたそうです。それもグッスリと。その後は説明せずともお分かりになるでしょうが、鍵を持って二階に上がったようです。因みに、鍵はこの食堂の隣にある厨房の壁に掛けられてたそうです」

 

「ほう?つまり、誰でも持ち出し可能だった訳ですな」

 

「ですが、あの時は確かに鍵がありました」

 

穂奈美が恐怖から美奈穂と身を寄せたまま目暮にそう言えば、確認のために、後ろにいた蘭に目を向ければ、彼女から間違いないと太鼓判が押される。そこで今度はスペアキーの事を問えば、古い鍵のため、スペアを作ることは出来ないと美奈穂の方から説明される。

 

「鍵を開けて、仮面の間に入った我々は、ショブルーの仮面が紛失しているの発見しました」

 

「その時だよね?三階から大きな音と呻き声が聞こえたのって」

 

コナンのその説明に、小五郎は肯定する。その後、内線電話で美奈穂を起こしているところに、藍川がやって来た事を言う。そこで瑠璃に目が向けられ、彼女は説明する。

 

「彼もまた、一階の自室で寝ていたそうです」

 

「あの子らが、穂奈美を起こしに来たのは気付いていたが、別に大した事じゃないと思ってたんだ」

 

「え、それ聞いてませんよ!?」

 

「こんな情報、必要ないと思ったからな。それで、なんか騒がしくなってきたんで、気になって二階に様子を見に行ったんだ」

 

「……そうですか。それで、美奈穂さんは、穂奈美さんからの内線で起こされ、鍵を持って二階へ。片桐さん、松平さん、長良さんは部屋で寝ていたそうですが、騒ぎに気付き、様子を見に部屋から出たそうです。片桐さんは、美奈穂さんが二階にたどり着いたちょうどその時を見たそうです。稲葉さんは昨夜、ワインを飲みすぎた為にぐっすり眠りこみ、騒ぎに気づかなかったとの事です」

 

「そういえば、片桐さん。あんた以前に蘇芳さんと面識は?」

 

「いえ、昨日が初対面ですよ。それが、なにか?」

 

「蘇芳さんが私に、20年前の貴方の奥さんが亡くなった事故の調査を依頼したんですよ」

 

それに驚いた片桐。なぜなのかと不思議がる。それに心当たりはないかと小五郎は問うが、目を逸らしてないと言う。それに疑問を抱くコナン、彰、伊達、松田。それが何故なのかと考えたその時、コナンが気付き、藍川に問いかける。

 

「ねえ、藍川さんのお母さんが事故を起こしちゃったのも、20年前だったよね?」

 

「え、ああ、そうだが……っ!?まさか……片桐さん!?」

 

「貴方の奥さんが亡くなった事故というのは……」

 

小五郎がそう問いかければ、片桐は観念した様子で話し出す。

 

「……黙っていても、何れ分かる事ですね。そうです、私の妻は、藍川さんのお母さんが起こした事故の、被害者です」

 

「そ、そんな!?」

 

藍川が驚いたようにそう叫ぶ。それに、小五郎が知らなかったのかと問えば、知らなかったという。彼はその当時、まだ6歳だったそうだ。

 

「となると、藍川さんの現在の年齢は25〜27歳?」

 

「事件と関係ない点で頭を悩ませんなよ?瑠璃」

 

瑠璃が首をかしげるその横で、呆れたような笑みを浮かべる伊達。

 

「その事で、今回の事件と何か関係があるんですか?」

 

片桐がそう疑問を投げかけ、瑠璃が答えようとすれば、ずっとタロットカードを捲って見続けていた長良が答えた。

 

「警察は、私達の中に犯人がいると、考えているのではないですか?」

 

それに長良以外の全員が驚愕し、本当かと松平が問いかけてくる。そんな全員を宥める目暮だが、更に冷静に長良が追撃してくる。

 

「私の記憶では、雪は12時過ぎには止みました。……積もった雪に、犯人の痕跡がなかったのでは?」

 

「……隠しても仕方がないみたいだからハッキリ言うが、痕跡なんて、外にはなかった」

 

松田がハッキリとそう言えば、長良以外の全員が更に驚愕する。そこで小五郎が、仮面の間に鍵が掛かっていた事から考え、西側の人物に限られることを告げる。

 

「つまり片桐さん、ハルカさん、稲葉さん、松平さん、美奈穂さん」

 

その時、コナンの中で引っかかりが浮かぶ。それは、ある人物の証言。それが、彼の中では『変な事』として記憶された。

 

(どうして、あんなこと……)

 

「しかし、1人に絞ることは出来んな……」

 

「……方法はあると思いますよ」

 

目暮が困った様子を見せれば、長良がそう告げる。それに稲葉が嘲笑う様に占いで見つけるのかと問えば、それに怒る様子さえ見せず、魔術師のカードを見せながら説明する。

 

「現場の状況から、犯人はかなりの返り血を浴びたと考えられます。顔は仮面を被って防いだとしても、髪や体に着いた血は、簡単に拭うことは出来ません」

 

「そうか!犯人は、返り血を拭う時間があった人物!!」

 

そこで全員の視線が稲葉に向けられる。それに稲葉は動揺するが、現状、拭う時間があった人物というのは、稲葉しかいない。それを小五郎から指摘された途端、怒りだす。

 

「冗談じゃないわ!!どうして私が先生を!?」

 

その彼女の怒りの矛先は、彼女が疑われる様な発言をし、彼女が叫んだその瞬間でも、冷静にカードを捲っている長良に向けられる。彼女は長良に近付き、その肩を強く掴み、強く揺する。

 

「ちょっとあんた!!いい加減な事を言わないでよ!!!」

 

「ちょっ、ちょっと落ち着いて下さい!!」

 

「このインチキ占い師!!」

 

彼女がそう怒鳴ったその瞬間、掴んでいた真珠のネックレスが外れ、地面へと落ちていく。それを目にした途端、コナン、松田、彰の中で殺害方法が形となって浮かぶ。そしてそれを理解したコナンはと言えば、犯人が用意した罠に引っかかった事に気付き、笑みを浮かべる。その罠となったまやかしは、全て彼の中から消えたのだから。

 

(ーー仮面の呪いは、解けた!!)

 

コナンは高木と伊達が出て行って少ししてから行動に出る。松田達は、方法は分かっても犯人は分かっていない状態で、コナンよりも早くに動くことは出来ない。その為、コナンの行動に気付いていたとしても、それを見逃す事にした。

 

「刑事の俺らより、子供の方が推理力があるっていうのも、悔しいよな〜」

 

「守る側だからな、俺達は」

 

そこから少しして、コナンは戻ってきて、小五郎を連れて出ていく。その後、呼び出された松田達は、現場の隣の寝室へとやって来る。其処には、狐の面を被り、紐で括られた状態で横にされている布団と、椅子に腰掛けて眠っている小五郎がいた。

 

「ここが、隣の寝室ですか……」

 

「おお、凄い!ちょっと覗いただけだったけど、隣の現場とソックリな部屋だ……」

 

「そう、犯行現場と同じ構造のこの部屋こそ、密室の謎を解き、犯人の正体を暴くのに相応しいでしょう?」

 

それに驚愕した様子の松平が、犯人は稲葉じゃないのかと問えば、そんな彼の隣にいた稲葉から違うと否定される。

 

「密室の謎も解けたんですか!?」

 

「はい、全て解けました。密室の謎は、松田刑事達も解けていたのでは?」

 

そこで今度は松田と彰に目暮達からの視線が向けられる。それに気付き、松田は無反応で返し、彰は苦笑して頷いた。

 

「まあ、そうですね。けれど、俺達はまだ、犯人に辿り着いてませんから、説明をしていただきたいですね、小五郎さん」

 

「そうだな。一体、犯人は誰なんだ!!」

 

「蘇芳紅子さんを密室で殺害した犯人、呪いの仮面の使者は、貴方だ!

 

 

 

 

 

ーー藍川冬矢さん!!」

 

その意外な人物に、全員が驚愕する。何故なら、この館の構造を考えれば、彼には不可能だとされていたのだから。勿論、それは藍川自身も知っており、東側にいた自身には、蘇芳は殺せない事を主張する。それは小五郎の声を出して推理しているコナンも理解している事だ。

 

「それを証明するために、態々、犯行直前に我々の部屋に内線電話を掛けた」

 

「しかし、寝室へ行けないのであれば、犯行は不可能じゃないのかね?」

 

「私は、遺体を発見した時から不審に思っていたのです。犯人が態々、現場を密室にしておきながら、自殺に見せかける偽装を全くしなかった事が」

 

「……俺達の考えだと、あれは『しなかった』んじゃなく、『出来なかった』になるんだが……考えはあってるか?」

 

彰のその言葉に、目暮達が驚愕で目を見開き、目を向けて来る。そして、その問いにコナンが肯定すれば、更に目は見開かれ、その視線が小五郎に向けられた。

 

「お、おいおい、どういう事だね!?『出来なかった』というのは!!」

 

「藍川さんは、部屋に入る事なく、蘇芳さんを殺害したのですよ」

 

「な、なんですって!?」

 

「寝室に入らずに……」

 

「ふん、そんな事、出来るはずが……」

 

藍川がフッと笑って言えば、それにコナンは自信満々に出来ると主張する。それも、呪いの仮面と呼ばれる『ショブルーの仮面』の力を借りれば、と言ってのける。それを聞いた松平が、小五郎が呪いというものを本気で信じているのかと問いかけて来る。勿論、それは否定された。彼は、ショブルーの仮面こそ、密室にする鍵なのだと言い、その方法をここで再現すると言う。それに松田が片眉を上げた時、コナンは高木の名を呼ぶ。その名を呼ばれた高木はと言えば、現場となった蘇芳の部屋から返事を返した。その後、彼は欄間の隙間から凶器のナイフを通した。その柄の尻の輪にはゴム紐が通されている。

 

「次に仮面です。全ての仮面の両の目にゴム紐を通して、数珠繋ぎにしてあります」

 

その説明の通り、ゴム紐が両目に通された、一番返り血が酷い仮面が隙間から落とされた。その口には、ナイフを通したゴム紐が通されている。それが一つ一つ、隙間を通って落とされていく。

 

「藍川さんは、我々が寝静まった頃、厨房に掛かっていた鍵を使って仮面の間に入り、ショブルーの仮面とナイフを盗み出し、再びドアに鍵を掛け、鍵は厨房に戻した。そして、この部屋へ仮面とナイフを運び、ゴム紐の仕掛けを施した後、欄間を通して蘇芳さんの寝室へと落としたんです」

 

「あの欄間の隙間は5〜6cm。あの薄い仮面なら、楽に通り抜けれるな」

 

「しかし、こんな事で、密室の謎が解けるんですか?」

 

片桐のその最もな問いに、コナンは小五郎の声で見ているように告げる。それから数分、静まり返ったその部屋には、仮面が落とされていく音しかしなかった。そうして仮面の山がドアの前に積み上がり、最後の一枚が高木の宣言の下、落とされる。

 

「全ての仮面を寝室内に入れ終えたら、ゴム紐を手繰り寄せます」

 

「伊達〜!どうせそっちにいるんだろ?高木の代わりに引っ張ってやれ!!」

 

「バーカ、高木の手伝いとして俺はこっちにいるんだから、俺が1人で引っ張る訳ねーだろ!」

 

彰の揶揄いに、伊達が可笑しそうに笑いながら言ってのける。その間も少しずつ、ゴム紐が手繰り寄せられていき、仮面が一つ一つが重なっていく。

 

「さて、皆さん。仮面の厚さは約15mmですから、200枚全て重ねれば3mになります。そして、ベッドに寝た被害者の首の位置は、欄間から凡そ3m半」

 

「それがどういう……」

 

目暮がその意味を図りかね、そう尋ねたその時、仮面が蛇のようなうねりを見せ、空中に持ち上げられ、まるで橋の様な形を空中で作り、その先のナイフを、被害者の役にさせた布団の塊へと真っ直ぐに向ける。そのナイフが向けた位置は、丁度、被害者の首辺り。

 

「ナイフの先端から被害者の首まではほんの10cm。後は、物差しか何かで仮面を押し出してやれば……」

 

そこで説明通りに高木が押し出したらしく、ナイフは被害者の首へと、真っ直ぐに、刺さった。それに全員は驚愕の表情を向けたまま、固まっている。

 

「こうして藍川さんは、寝室に一歩も入る事なく、蘇芳さんを殺害したのです。ーー屋敷の東側にいた人間にしか来ることが出来ない、この部屋を使ってね」

 

そこで松平が、仮面の一枚のみ、派手に返り血を浴びていた理由を理解する。それは、その仮面が、仮面集団の先頭になっていたからなのだと。長良も、口の周りに血が付着した仮面が数枚あった理由を理解する。それは、返り血が口から飛び込んだからなのだと。

 

「最後の仕上げに、仮面の目とナイフの輪に通したゴム紐を切断する」

 

その説明通り切った高木が、叫び声をあげたのとほぼ同時に、引っ張る力はなくなり、仮面は空中でバラバラとなり、雨の様に落下する。そしてその全てが落下し終えたのを理解し、全員が顔を防ぐ様にして出していた腕を引っ込め、目を開ける。その目に見えた光景は、蘇芳の遺体を発見した状況と、とても酷似していた。

 

「ーーこれで、密室殺人の完成です」

 

「出鱈目だ!!俺がそのトリックを使ったって証拠が何処にある!?」

 

藍川のその叫びに、コナンは往生際が悪いと言った。そして、それと共に、藍川自身が既に、自身が犯人だと自白してしまっているとも言う。それに藍川の目は見開かれる。

 

「なに!?どう言うことだ!!?」

 

「さっきのアリバイ調べの時、蘭を見ながらこう言いましたよね?『あの子らが穂奈美を起こしに来たのには気付いていた』って」

 

「ああ、言ってましたね。記憶も記録もしてますよ」

 

瑠璃がそう肯定し、藍川自身も再度、肯定する。それにコナンが、蘭と誰のことかと問う。それに藍川が、コナンの名を叫んだ。そこでコナンはジャンプして椅子に捕まった状態で小五郎の背後から現れる。

 

「あれ?変なの!僕、あの時、一言も喋らなかったのに、どうして僕が一緒だって分かったの?」

 

「……へ〜?坊主、お前、一言も声を出さなかったのか。それなのに、あんたはこの坊主が一緒だってことに気付いたとは……その方法を、是非とも聞きたいもんだな?」

 

コナンの言葉を聞いた松田が、ニヤリと笑って藍川を追い詰めに掛かる。それに藍川は一瞬だけ怯み、彼はドアを開けて少し外を見たのだと言う。それにコナンが本当なのかと問い返し、藍川が肯定する。それを聞いたその瞬間、コナンがニヤリと笑った。彼は、決定打を得たのだから。

 

「だったら余計に変だよ。だって僕ーー蘭姉ちゃんとは一緒に行ってないもん。戸締りを確認したりしてたからね」

 

それに驚愕した藍川。彼は、自白も同然な事を、肯定してしまったのだ。

 

「本当かね?」

 

目暮が蘭にそう確認すれば、蘭は肯定する。彼女はキチンと、穂奈美の部屋へと行ったのは自分1人だと、肯定したのだ。

 

「確かに私は、あの時、蘭とコナンに穂奈美さんを呼んでくる様に言った。貴方はそれを三階で聞いたから、2人揃って穂奈美さんの部屋に行ったと思い込んでしまった。……違いますか?」

 

「……たった、それだけの事で」

 

彼が悔しそうにそう口に出した。それは、肯定したも同然で、それを聞いた稲葉が叫ぶ。

 

「冬矢!先生からあれだけ恩を受けておきながらーー」

 

「黙れ!!!あの女から恩を受けた??冗談じゃない!!あの女は、自分の起こした轢き逃げの罪を母さんに擦りつけ、自殺に見せかけて殺したんだ!!!」

 

それを聞いた片桐が、本当なのかと問いかけてくる。それに冬矢は、本当だと肯定した。彼がその真実に気付いたのは、2ヶ月前だと言う。

 

「母さんの遺品を整理してたら、日記の表紙の裏から、手紙が出てきて、其処に事の真相が全て書いてあったんだ!」

 

「嘘よ!!そんなの、出鱈目に決まってるわ!!」

 

「嘘じゃない!!母さんにはアリバイがあったんだ!!……事故が起きたのは、10月31日の夜だった」

 

それを聞き、美奈穂と穂奈美は反応する。

 

「10月31日……」

 

「冬矢様の誕生日……」

 

「そうさ!あの晩、母さんはずっと俺と一緒だった!!」

 

「そ、それじゃあ、私の妻を轢き逃げしたのは……」

 

「そう……しかもあの女は、片桐さんが被害者の夫だと気付いてもいなかったんだ!」

 

そこでコナンは、晩餐ときに片桐がその話をした事を言い、蘇芳がもしやと考え、小五郎に調査を依頼したのだと確認を取る。それを稲葉は認めない。彼女は、蘇芳が15年もチャリティーを続けてきた立派な方だと言う。それに藍川は反論する。

 

「笑わせるな!!あの女はチャリティーの収益を着服して、私腹を肥やしていたんだ!!」

 

「嘘です!!先生はそんな事ーー」

 

「あんただってそのお零れを頂戴してたんだ!!」

 

藍川が稲葉に指を指して叫べば、稲葉は何も言えなくなり、顔を背ける。それは、肯定と見なされる行為だ。

 

「片桐さんが、蘇芳の穢れたチャリティーに参加することを、何としても阻止したかったんだ……あの、女は……蘇芳紅子は、慈善家の仮面を被った悪魔だ。……そんな女を、恩人として何年も慕ってきたのかと思うと、俺は……俺は……!」

 

そこで彼は膝から崩れ落ち、涙を流す。その姿に、目暮は目元を帽子で隠し、松田は動かず、彰は顔を背け、瑠璃は目を伏せた。暫くの間、彼らは藍川に、涙を流す時間を与える事にしたのだった。


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