とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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本当はあの月と星と太陽の話を書こうと思ったのですが、一気に飛ばしてこちらにしました。因みに、題名に咲さんの名前も入ってますが、内容はアニメ通りにするつもりです。


第24話〜黒の組織との再会・灰原&咲編〜

雪がしんしんと降る冬の日の帰り道。少年探偵団一行はそんな寒さにも負けず、元気な様子を見せていた。

 

「早く帰ってサッカーやろうぜ!」

 

「あ!そうしましょうそうしましょう!」

 

「俺キャプテンな!」

 

「え〜?またですか?」

 

そこで元太が昨日のサッカーの話をし始め、それにコナンが乗る。その子供達が通る裏路地に、黒猫が一匹、哀を見つめる。

 

 

 

 

 

「戯言は、終わりだ」

 

 

 

 

 

コナン達が通る路肩に一台の黒い車が停まっている。そんな事気にせず、子供達はサッカー選手であるヒデを褒める。そんな話に対して、ずっと聞き役に徹している哀と咲。

 

 

 

 

 

「さあ、夢から醒めてーー再会を祝おうじゃないか。お前の好きな薔薇の様に」

 

 

 

 

 

車の中から哀を見つめる視線。それに哀は気付かない。男はニヤリと嬉しそうな笑みを浮かべ、タバコを咥えたまま車から寒い外へと出る。

 

 

 

 

 

「ーー真っ赤な血の色で……なあ?シェリー」

 

 

 

 

 

吹雪が勢いよく吹く。そこで哀が後ろを振り向き、漸く男ーージンに気付き、目を見開きーー飛び起きる。

 

哀は荒い息を整える様に何度も呼吸を繰り返し、隣でイビキをかきながら眠りに着く博士を確認する。そこでその全てが夢だと悟り、安堵の笑みを零し、前髪を搔き上げる。

 

(ふっ……ヤな夢)

 

その日の朝、哀はオレンジのランドセルを机に置いた時、光彦が声を掛けてきた。光彦の方へと哀が顔を向ければ、彼はMOを渡してきた。このMOは以前、博士から哀が預かったもので、それを光彦に渡した博士制作のゲームが入ったものだ。それを体験した光彦からは期待以上だったと感想を聞き、MOを受け取り、伝えることを約束する。そんな時、雪が降り始め、それを咲は見上げる。

 

(……雪か。雪が降るほどに寒いという事か)

 

咲が雪を見て嬉しそうに微笑み、元太達もまた、窓に近付く。哀もまた雪を見る。その瞬間、頭に浮かんだのはあの夢。ジンが嬉しそうな笑みを浮かべ、哀を見たあの夢。それを思い出せば、哀の顔色は自然と青褪めていく。そんな時、腕が引かれ、そちらへと顔を向ければ、歩美が哀の腕を引いていた。その後ろには咲が首を傾げて哀を見ている。

 

「ほらっ!灰原さんも雪、見よう!」

 

「私に触らないでっ」

 

「え?」

 

「灰原さん?」

 

「どうかしたのか?」

 

「……哀?」

 

咲が心配そうに哀を見つめ、コナンは訝しげに哀の方へと振り返る。そんな2人を気にせず、哀は呟く。

 

「もう、ウンザリだわ、こんな所。今すぐ消えてしまいたいくらい。……まあ、直ぐにそうなるでしょうけど」

 

そんな哀の呟きは勿論、耳の良い咲と、近くにいた歩美には全て聞こえており、咲は目を見開き、歩美は哀に詰め寄る。

 

「えーっ!?灰原さん、転校しちゃうの?」

 

勿論、その歩美の言葉に黙っていないのが少年探偵団。今度は光彦が詰め寄る。

 

「もしかして、誰かに虐められてるんですか!?」

 

「そんな奴、俺がやっつけてやるからよ!!」

 

「だからっ!どっか行っちゃうなんて言わないでッ!!」

 

歩美が涙を目に浮かべてそう頼み込む。そんな歩美の態度を見て、数度、瞬きをし、フッと笑う。

 

「冗談よ。心配しないで」

 

「え?」

 

「ちょっと風邪気味だから、イライラしてただけ。移したくないしね」

 

「……ちょっと待て。お前もか?」

 

そこで咲が哀の肩を掴む。そこで咲を見れば、何とも申し訳なさそうな顔をしている。

 

「あら、ということは、貴方も?」

 

「ああ、まあ。少し前から、な……」

 

「なら、私の風邪の原因は貴方?」

 

「……その、すまなかった。移すつもりは……」

 

「なんだ、風邪かよ」

 

「人間、病気になると弱気になるといいますしね」

 

「さあさあ!風邪引きさんは保健室保健室!」

 

歩美がそこで哀と咲の背中を押し、保健室へと連れていく。その背中を、鋭い視線で見るコナン。彼は全く、納得していなかった。そして保健室に辿り着き、保健室の先生に預けられた哀と咲は、熱をはかり、問題はないと判断され、教室へと戻る事となった。歩美は既に教室に戻っており、現在は2人で歩いている。

 

「……で?あの発言の意図はなんだ?」

 

そこで咲が唐突に話を振る。彼女はあそこで哀の話に乗ったが、何も納得した訳ではなかった。そんな咲に、哀は視線を向ける。

 

「……あの発言って?」

 

「惚けるな。先程の『消えてなくなりたい』という発言は、どうして出た?学校に来る前、何があった」

 

「……」

 

そこで哀が黙り込む。それを見て、咲の眉が顰められる。

 

「……お前、まさかーー」

 

そこで教室の前まで辿り着いてしまった咲。そこで彼女は溜息をつき、教室のドアを開き、哀と共に入っていく。その後、歩美達に一度心配されたものの、問題ないと告げ、その日の学校は終了。その帰り道、子供達は雪合戦をしながら帰る中、コナン達三人は、そんな子供達の後ろで、静かに帰り道を歩いていた。その帰り道、コナンは右隣の哀をちらりと見れば、彼女は顔をうつむかせていた。その姿を見て少し考えたのち、彼は手に持っていたサッカーボールを唐突に上に蹴り上げる。それに驚いた哀が顔を上げたのを見て、コナンは落ちてきたボールをリフティングしながら口にする。

 

「『ここは自分のいるべき場所じゃない』」

 

「……え」

 

「『あの子達を巻き添えにしない為にも、早くここから消えなければ』……なーんてくだらない事、考えてんだろ?」

 

「……」

 

「大丈夫。薬で体が縮んだなんて夢物語、普通、誰も信じねーし、思いつきもしねーよ」

 

「まあ、奴らが使い続けて、縮んだ所を見なければ、な」

 

「だからこそ、暴露ないようにこのまま子供を演じ続けなきゃいけねーんだ。……その時が来るまでな」

 

そう言うコナンに、哀は黙ったままコナンを見つめる。彼はサッカーボールを手に持ったまま心配するなと続ける。彼は、ヤバくなったら自分が何とかすると言い、歩いていく。その背中を哀は少しの間、静かに見つめ、歩いていく。その帰り道の途中の横断歩道にて、歩美達と別れるコナン、哀、咲。咲は今回、一度だけ博士宅に預けられる事となっているのだ。その為、哀とコナンに続いて歩いていく。着替えは先に修斗が持って行っている。そんな哀達を見下ろす、一羽の鴉。その鴉に気付かないまま、彼らは帰り道を歩く。コナンがボールをリフティングしながら歩く横で、哀がコナンに視線を向ける。

 

(……工藤くん、貴方、何も分かってないのね。貴方1人で何とかなる相手じゃないのよ。隙を見せたら最後、組織は私達を逃さないわ。そう、もしかしたら、あの夢のように……今もこの町のどこかで……)

 

哀達の歩く道に、着々と集まる鴉達。その光景は、まるで何かを示唆するようで、気付いていた咲の心に、不安が募る。

 

(……まさか、だよな?)

 

咲がそんな不安を振り払うように、首を横に振ったその時、鴉達が一斉に飛ぶ。その瞬間、哀が息を飲む音が聞こえ、何事かと前を見た時、咲も息を飲んだ。

 

今、彼女達の目に映ったのはーー1台の黒い、ポルシェ。

 

「……なんだ?あの黒いポルシェがどうかしたのか?」

 

「……」

 

「……おいおい、冗談、だよな?」

 

咲と哀が震える中、コナンはその重大性に気付かないまま、近づく。

 

「ポルシェ356A。50年前のクラシックカーだ。持ち主は出かけてる見てーだな」

 

そこでコナンは、本屋テレビでしか見たことがないと述べながら、車に近寄る。

 

「いるんだな、こんな古い車に乗ってる奴」

 

「……ジン」

 

その呟きは、小さすぎて、コナンも聞き逃しそうになる程の小ささだった。コナンがそこで聞き返せば、哀は答える。

 

「……ジンの愛車が、この車なのよ」

 

そこでコナンの目が見開き、敵を見る目に変わる。そこでコナンは直ぐに電話を掛け始める。哀が声を掛けたが既に遅く、相手である博士にコナンは今から言うものを持って4丁目の交差点に来るように言う。その際、博士がどうやら何事かと理由を聞いてきたようで、コナンは理由は後だと叫び、急ぐように急かしたのち、電話を切る。その後、少ししたのち、クラクションが鳴り、そちらへと顔を向ければ博士がビートルに乗ってやって来た。そこから彼は降りる。そこでコナンが素早く近付く。

 

「例の物、持って来たか!?」

 

「あ?ああ、針金のハンガーとペンチじゃ。何に使うんじゃ?こんなもの」

 

その博士の問いに答えないまま、コナンはハンガーをペンチで少しだけ曲げ、今度は戻って来る。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「おいコナン!お前、何する気だ!?」

 

その哀と咲の問いに答えないまま、コナンは車の窓とドアの間にハンガーの曲げた側を差し込む。

 

「昔の車はこうやって……」

 

そうして抜き出し、扉のノブを持てば、簡単に開く。そしてそのまま乗り込みはじめ、哀がもう一度、咲と同じ問いをすれば、彼は車の中に発信機と盗聴器を仕掛けると言う。

 

「でも、彼の車だってまだ決まったわけじゃ……」

 

哀が同じく車に乗り込み、コナンに告げたその時、哀の腕を震える手が取った。そこで哀が振り向けば、体を震わせ、顔を俯かせる咲がいた。その反応を見て、車の外へと顔を向けた瞬間、哀の目が開かれ、顔から血の気が引く。その2人の反応に気付いたコナンが、手を止める。

 

「どうした?」

 

「……通りの、向こう」

 

「通りの向こう?」

 

そこでコナンが哀の指定した先を見たその時、目を一瞬見開き、またもや宿敵を見る目となる。なぜなら、その視線の先には、黒い衣服を着たサングラスの男とタバコを吸った銀髪の男ーージンとウォッカがいた。

 

(ジン、ウォッカ!!)

 

彼らは通りの向こうからゆっくりと、道路を横断して近づいて来る。そんな事をすれば、車の交通の邪魔となる。車の運転手たちは轢き殺さないよう急停止する。そんな中、トラックの運転手が急停止し、怒鳴りつけた。

 

「馬鹿野郎!!」

 

その瞬間、ジンの人を殺すような視線を向けられ、それに恐怖心を抱かせられた運転手は、恐る恐る車に引っ込んだ。そのまま彼らは車に辿り着く。その時、ジンが気付いたーー車の周りの雪が、荒れている事に。

 

「車の周り、雪がやけに荒れてるな」

 

「通行人が見てたんじゃないですかい?兄貴の車、珍しいから」

 

「ふん、ドイツのアマガエルも、偉くなったもんだ」

 

彼らはそこで乗り込む。その車の後ろには、身を隠すコナン、哀、咲。

 

(大当たり……まさか、こんな所で会えるとはな。嬉しいぜ、ジン!)

 

彼らはコナンたちに気付かないまま、去っていく。

 

「今度こそ、逃しはしないぜ」

 

そこで追跡眼鏡の機能を使うコナン、そんなコナンに視線を向ける哀、そして、未だに恐怖から解放さず、へたり込んだまま体を震わせる咲。

 

(……ジン、彼奴が……彼奴らが、なんでっ!!!?)

 

そんな咲に気付き、哀がその背中を摩る。そのまま博士の車に乗り込み、後を追っていく。

 

「このまま真っ直ぐ。近付き過ぎないように追ってくれ」

 

「無駄よ。彼等の居場所を突き止めた所で、どうする事も出来ないわよ、こういう体じゃ。貴方、分かってるの?今、自分がどんなに危険な行動をしているか」

 

「うるせぇ!!黙ってろ!!」

 

コナンが後部座席に座っていた哀を怒鳴りつける。その時、盗聴器の向こうから、電話の音が聞こえてくる。

 

『よお、どうだ?そっちの様子は。……なに?まだ来ない?ふっ、心配するな。ターゲットは18時丁度に杯戸シティホテルに顔を出す。テメーの別れの会にならとも知らずにな』

 

(ターゲット、別れの会?)

 

『兎に角、奴の手が後ろに回る前に、口を塞げとの命令だ。なんなら、例の薬を使っても構わねーぜ』

 

(例の薬……)

 

『抜かるなよ?ピスコ』

 

(ピスコ?)

 

「!そのコードネームなら、耳にした事があるわ。会ったことは、ないけど……咲、貴方は?」

 

「……いや、私も会ったことはない。そのコードネームも、聞き覚えがあるぐらいだ」

 

(ピスコ……杯戸シティホテルか)

 

その時、何か物音を拾い、ウォッカの不思議そうな声でなにをしているのかとジンに問い掛ける声を拾う。そこで次に何かと問い掛けるウォッカに、またフッと笑うジン。

 

『発信機と盗聴器だ』

 

「やばい、暴露た!!」

 

「な、なんじゃと!?」

 

そこでブチっと潰される音を機に、何も拾わなくなってしまう。発信機もまた壊され、居場所が掴めなくなってしまった。そのお陰で、少し震えが治る咲。それを横目で確認した哀は、コナンに問い掛ける。

 

「どうする気?状況はかなり悪いわよ。発信機も盗聴器も、彼等に潰されて追跡不可能。しかも、それを彼等の車に取り付けるために貴方が使ったチューインガムは、彼等の手の中。もしアレが調べられたら……」

 

「大丈夫だよ。歯型は消したし、唾液から分かるのは精々、血液型ぐらいだ。車内の指紋も全て拭き取ったしな」

 

それを聞いた哀が、直ぐに横道に入り、車から離れるように言う。このままジン達の車が通った道を辿るのは危険だと言う。それに賛成するように小さく頷く咲。それを聞いたコナンは、笑みを浮かべる。

 

「ああ、追跡はやめるさ。ただし、逃げる気はねーよ」

 

「!?お前、まさか!?」

 

「ああ……杯戸シティホテル、そこで奴らは、ピスコって奴に誰かを暗殺させる気だ。兎に角、その殺人を阻止する為にも、そのホテルに行って……」

 

「あら、正義感が強いのね。私はごめんだわ。正義なんて抽象的な事に興味なんてないし、そんな危ない所に態々出向いて、どうにか出来るとも思えないし」

 

「……私も、行くのは……」

 

「ああ、ハナからそのつもりだ。子供の頃の顔を知られてるお前らを、現場に連れて行くのは危険だからな。ま、お前は博士と一緒に車の中で待ってろよ。最悪でも例の薬は取ってきてやるからよ」

 

「例の薬?」

 

「お前……まさか、その薬がAPTX4869だと言いたいのか?」

 

その咲の言葉に哀が驚き、コナンが肯定する。薬を匂わされれば、哀も行かないわけにも行かなくなり、結局は彼女も行く事になる。咲はそれを聞き、仕方ないとばかりに護衛を買って出る。そして、ホテルに辿り着き、会場入り口に待機する。そこでコナンから、気をつける様に注意された。それはあの発信機を仕掛けた件もあり、その仕掛け人が此処に来るだろう事はジン達にも分かるだろうと言う。そこで哀達が関わっている事が勘付かれ危険も話そうとするが、哀が大丈夫だと言う。その根拠は、コナンが証拠を消していたこともあるからだった。それを考え、悪戯か、組織と敵対する者が仕掛けた者だろうと考えるだろうと哀は言う。

 

「それより、本当にこの会場でいいの?」

 

「ああ。ジンは別れの会って言ってたからな。ピスコって奴も、そいつが狙うターゲットも、此処に来ているはず……」

 

「……もう少しヒントがあればよかったんだが、その誰かが分からないな」

 

「お喋りは此処までだ。乗り込むぜ」

 

そうしてコナンが『映画監督、酒巻 昭氏を偲ぶ会』の扉を開ければ、其処彼処で談笑する声が響く。それに耳を塞ぎかける咲。しかし、ここで塞げば不自然に見えるかもしれないと考え、我慢する事に決めた。それでも、あたりを警戒するように見るのはやめない。コナンも同じ様に周りを見るが、偲ぶ会とだけあって、周りの人間は黒い服を着ており、怪しい人物だらけとなっていた。そこでコナンが歩きだし、気付いた哀と咲がその後を追おうとしたその時、哀が急に立ち止まる。それで顔をぶつけた咲が鼻を抑えるが、哀は気付かない。彼女は目を見開き、顔を青褪めさせ、ゆっくりと後ろを振り向く。今の彼女には、ジンが、拳銃を向けて来る姿が、見えている。

 

「哀……哀?」

 

咲が首を傾げた時、哀の後ろから手が伸び、彼女の肩を優しく掴む。それに過剰に反応し、哀が勢いよく振り向けば、そこには会場のスタッフらしい女性が優しい笑みを浮かべていた。

 

「どうしたの?お嬢ちゃん達。パパやママと離れたの?」

 

「あ、あ……」

 

「うん!今三人で探してるとこっ!」

 

哀が答えれず、後ろに下がったのを見て、コナンがフォローに回る。その間、咲が心配そうに哀を見ていた。

 

「行こっ!はなちゃん、まやちゃん」

 

そうして2人の手を握り、その場を一度離れると、立ち止まり、コナンは哀に半目を向ける。

 

「おい、どうしたんだよ?オメーらしくねーな。一緒に行くって言ったのは咲とお前だろ?」

 

「哀、本当にどうした?」

 

2人の言葉に、彼女は小さく、まるで諦めた様な笑みを浮かべて、答える。

 

「……見たのよ、嫌な夢」

 

「夢?」

 

「下校途中でジンに見つかって、路地裏に追い込まれて……真っ先に撃たれたのは貴方。その次が咲。そして、ピストルの乾いた音と共に次々と……そう、皆んな、私に関わったばっかりに……っ!」

 

「……」

 

「哀……」

 

「……私、あのまま組織に処刑されてた方が、楽だったのかもしれないわね」

 

そこで彼は哀に追跡眼鏡を掛けた。そして、自信満々に言う。

 

「知ってっか?其奴を掛けてっと、正体が絶対に暴露ねーんだ。クラーク・ケントも吃驚の優れモンなんだぜ?」

 

「……あら、なら眼鏡を取った貴方は、スーパーマン?」

 

「空は飛べねーけどな」

 

「なら、空を飛べる某怪盗がそうか?」

 

「いや、彼奴もちげーよ」

 

「まあ、気休め程度にはなるわね……ありがとう」

 

「お前、可愛くねーなー、マジで」

 

「ん?哀は可愛いだろ?」

 

「あら、どっかの誰かさんと違って褒めてくれてありがとう、咲」

 

その言葉を聞いたコナンは、乾いた笑いを零す。

 

「おっと、そういや、お前も隠しとかねーといけねーが……」

 

「ふむ……丁度良かった。私は、このロングパーカーのフードでも被っておこう」

 

そこで彼女は黒のロングパーカーのフードを深く被った。それを見て、行動を再開するコナン。しかし、やはり怪しい人物を絞り込めない状況のままに、変わりはなかった。

 

「流石、巨匠を偲ぶ会だな」

 

「そうそうたる顔ぶれね」

 

「確かに。直本賞受賞の女流作家、『南条 実果』。プロ野球の球団オーナーの『三瓶 康夫』。敏腕音楽プロデューサーの『樽見 直哉』……他に誰かいるか?」

 

「ああ。アメリカの人気女優に、有名大学教授……おっと、経済界の大物まで来てる」

 

「それで?分かったの?ピスコが狙ってるターゲット」

 

「ああ。ジンが電話で言ってた、18時前後にここに来て、尚且つ、明日にも警察に捕まりそうな人物は……」

 

そこでコナンが入り口へと視線を向けたため、其方に同じく顔を向ければ、レポーター達に囲まれた人物がいた。

 

「今あそこでレポーター達に囲まれてる、あの男しかいない」

 

「なるほど、今、収賄疑惑で新聞紙上を賑わせてる、あの『呑口 重彦』って政治家ね」

 

「捕まる前に口を封じるってことは、あの政治家も組織の一員なのか?」

 

「さて、どうだったか……情報屋もやってはいたが、その期間は本当に短かったからな。正直、半年もしてなかったぞ」

 

「おいおい、短ーな」

 

「それよりも腕の立つ奴がいたということさ。その後は殺し屋業務しかしてない。まあ、だからこそ、私は分からないな。哀はどうだ?」

 

「さあ、どうかしら?捕まれば分かるんじゃないの?」

 

その時、扉が開かれ、目暮警部達が姿を表す。その中に彰の姿はなかった為、取り敢えずは咲に安堵を齎した。しかし、逆に哀の目が見開かれる。

 

「え、目暮警部?」

 

「さっき声を変えて電話で呼んだんだ。あの政治家の命を狙ってる奴が、この会場にいるってな」

 

それは、その政治家の命を守るためのものでもあり、反対に炙り出す為のものでもあった。この状況では、犯行は不可能だとコナンは言う。勿論、強引にしようとすれば、コナンが見逃さない。そんな行動をする人物には、容赦無く撃ち込めるよう、コナンは時計型麻酔銃を構えた。そんな時、アナウンサー『麦倉 直道』が、監督かひた隠しにしていたと言う秘蔵フィルムをスライドで紹介すると言う。それはつまり、会場内の電灯が消されると言うことで、コナンが慌てるがもう遅い。会場内の電気は消され、スライドだけが灯りの代わりとなっていた。

 

「ちょっと、あの政治家、いなくなってるわよ」

 

「なに!?」

 

「おいおい、あの政治家は、自身の命が狙われてないとでも思ってるのか?」

 

そこですぐにコナン達は政治家を探し、走り回る。警察もまた同じように探しまわるが、姿を見つけることは出来ないでいた。そして、話が次の映画の話はと映ろうとしたその時、誰かがカメラのフラッシュ機能を使い、写真を撮った。それを麦倉がフラッシュを焚いたら映らないと言い、周りの笑いを取った。そんな時、コナンと咲の耳に音が入る。しかし、それが何かを特定まではいかなかった。しかしその音の向かう先が上であることを理解した途端、ガラスの割れる音が響き渡る。会場の人間全てが動揺し、騒めく中、目暮が電気をつけるような言う。そんな中、コナンは会場内を走っている際、頭に何かが落ちて来た。それが布状のものである事にはすぐに気付き、よく観察してみれば、それがハンカチである事が理解できた。

 

「ハンカチ?」

 

その時、会場の電気が点きーー会場の真ん中で、シャンデリアに潰された状態で絶命した呑口の姿が、全員の目に映ったのだった。




新事実:咲さんは情報屋もしていたが、その期間は半年も満たなかった。

別に、その技術がなかったわけではないのですが、あの方の方が優れていたのと、自ら引いたのもあって半年もされなかっただけです。

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