とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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第22話〜本庁の刑事恋物語2・後編〜

東田の部屋を捜索していれば、時間は過ぎて行き、空は既に黒から青へと変わり始め、見事な朝焼けを見せてくれていた。そんな時刻に、管理人は欠伸をしながらやって来た。結局、高木が鍵を返しに来なかった為、様子を見に来たのだ。そうして来てみれば、子供達5人が東田の部屋の前で座り込んでいた。歩美、光彦、元太は熟睡し、哀は欠伸、咲も壁に背をもたらさせ、眼を瞑ってはいたが、管理人の声が聞こえれば眼を開けて視線だけ管理人に向けた。

 

「おいおい、こんな所で寝てたら風邪引くぞ」

 

管理人が子供達の事を思って言ってくれたそのタイミングで東田の部屋の扉が開き、高木が出て来た。

 

「ああ、管理人さん」

 

「ああ、驚いたね。徹夜で捜査してたのかい?」

 

「ええ。ですが、お陰様で謎は解けました。……何もかも」

 

高木が不敵な笑みを浮かべ、管理人に礼を言うその後ろには、考え込むコナンがいた。

 

(あとは犯人を、どう追い詰めるかだ)

 

そして現在、犯人と思われる人物の近所にて、姿を隠す高木達。隠して行動しなければ、ちょうど現在も目の前を通っていくパトカーに捕まり、始末書を書かされ、被疑者はそのまま送検されてしまう。そんな緊張感を抱く高木の後ろには、欠伸をしてしまった歩美、光彦、元太、そして哀、コナン、咲がいる。欠伸をした3人に、眠いのなら家に帰ってもいいと提案すれば、子供達は帰らないと主張する。そんな子供達に困り顔の高木に、光彦は自分達にも協力させて欲しいと頼み、元太は高木1人カッコつけて犯人逮捕するつもりかとジト目を向ける。それが高木の仕事だとも言うが、子供達は納得しない。そんな時、哀が持っていた腕時計で時間を確認する。

 

「……時間、もうそんなに残ってないわよ」

 

それを言われて焦る高木に、コナンが漬け込む。

 

「さあ、早く乗り込もうぜ!……真犯人の家に!」

 

そこでパトカーが通らないうちに、とある住宅に入り、チャイムを鳴らし、住人ーーー北川に出て来てもらった。出て来た北川は高木の顔を見て、怪訝そうに眉を顰める。

 

「なーんだ、昨夜の刑事さんか」

 

「ああ、昨夜はどうも……」

 

「言ったろ?もう警察に話す事はないって」

 

「ああ、はい。ですが、遺体発見当時の事をもう少し詳しく伺おうと思いまして」

 

そこで欠伸をしていた北川の顔に苛つきが見えた。

 

「だからー!東田と村西さんが中々、出社しないし、電話にも出ないから、部屋に様子見に行って、様子見に行っても返事がないから、管理人に頼んで、まず村西さんの部屋の鍵を開けてもらったんだよ。そしたら、チェーンロックが掛かっていて、何故か彼女のベッドに東田が寝ていたから、玄関口から大声で東田を起こし、チェーンロックを外させて、管理人と部屋に入り、バスルームで亡くなっていた村西さんを見つけたって訳だ。以上、話は終わり」

 

其処で北川が玄関扉を閉じようとし、急いで高木が其処に手を入れ、力を込めてこじ開ける。それで高木が帰りそうにない事を察した北川は、言うことは全て言ったと宣言し、高木に帰れと言う。それに高木はもう少し話を聞かせて欲しいと頼めば、北川の眉が更に寄る。

 

「なんだー?あんた、まさか私を疑ってるんじゃないだろうな?」

 

「あ、いや……そう言う訳じゃ……」

 

「疑ってんだよ!」

 

そこで元太が割り込み、言ってしまう。更に焦り顔の高木だが、元太も光彦も歩美も気付かない。

 

「オメーなんだろ?犯人は!」

 

「誤魔化しても無駄です!」

 

「悪い事しても、すぐに暴露ちゃうんだから!」

 

「あ、こ、こら!」

 

高木がそこで3人に、物事には順序があると注意したその時、遂に怒りが頂点に達したのか、北川が怒鳴る。

 

「なんなんだ!この餓鬼どもは!!」

 

そんな北川に怯まず、子供達は名乗る。

 

「「少年探偵団!」」

 

「俺達に解けない謎はないんだぜ!」

 

「あ、あの、これは……」

 

高木が弁解しようとオロオロしていれば、そんな子供達を見て、子供達の遊びだろうと考えたらしい北川の肩の力多少、抜けた。

 

「たくっ……なんだか知らないけど勘弁してくれよ。あの状況からして、私が犯人な訳ないんだから」

 

「んじゃあ、なんでベッドとカーテンの色を変えたの?」

 

そこで問い掛けるコナン。そのいきなりの問いに、北川もすぐには答えることができず、コナンを見れば、気障な笑みを湛えた眼鏡の子供が見えた。

 

「えっ?」

 

「オジさんでしょ?村西さんの部屋のベッドとカーテンを、ベージュからグレーに変えたの」

 

そのコナンの言葉でまた沸点になり、高木の胸倉を掴んだ。

 

「おいっ!いい加減にしろよ!!早くこの妙な餓鬼どもを連れて帰らねーと……」

 

「どうするんだ?」

 

そこで咲が割って入り、北川を煽りにかかる。北川はそんな咲に、睨みを効かせる。

 

「餓鬼はすっこんでろ!!この刑事を名誉毀損で訴えんだよ!!」

 

「貴方が訴えた所で、貴方は捕まるだけだ」

 

「なんだと!?」

 

北川が咲に向けて叫んだ所で、高木が告げる。

 

「さっき、この近くのデパートに行って、裏付けを取りました」

 

その高木の言葉に驚く北川に、高木は続けて言う。

 

「貴方がそこで、グレーの布団カバーやシーツやカーテンを購入したという、店員の証言をね」

 

それに北川が少々声に覇気がないまま、家のカーテンや布団などが古くなった為に買ったのだと言う。気に入らなくて捨てたとも言うが、高木は追求の手を止めない。

 

「村西さんの部屋のカレンダーを外し、サボテンをベランダに出したのも、貴方ですね?」

 

「……」

 

「まあ、無理もありません。アンチスピリッツの東田さんの部屋に、スピリッツのカレンダーや買ってもいないサボテンがあったら、いくら東田さんが酔っていたとしても、気付かれてしまうかもしれませんからね」

 

その高木の言葉に、北川の顔色は悪くなっていく。反対に、高木の声に覇気が混じり出した。

 

「そう、貴方は村西さんの部屋から、目に付く余計な物を取り除き、カーテンやベッドの色、そして家具の位置まで東田さんの部屋と同じにし、村西さんを絞殺したあと、居酒屋で泥酔させた東田さんを、彼女の部屋に連れて行き、彼に錯覚させたんです。自分の部屋に帰宅したとね」

 

その高木の言葉に、北川は反論出来なかった。口さえ挟めないほど、恐怖しているのだ。

 

「あとは玄関口で酔った東田さんにまず、チェーンロックを掛けさせ、ドアを開けて、それを確認したあと、鍵を掛けさせればいい。彼はそのままベッドで酔い潰れ、翌日、村西さんの遺体と共に密室となった彼女の部屋で発見される、と言う訳ですよ」

 

それに北川は恐怖し、体を少し震わせたものの、しかし持ち直してとある事を質問する。

 

「び、ビデオコードは?村西さんの首に巻き付いていたビデオコードはどうなんだ?アレには東田の指紋が残っていた筈だ!」

 

「おい灰原!どうだった!」

 

そこでコナンが呼びかけ、そんなコナンに疑問を抱いた北川だが、そんな彼の後ろから、また別の声が聞こえる。

 

「思った通り、この家、ビデオコードが一本足りないわ」

 

そこで漸く家の中に入っていた哀に気付いた北川が悔しがり、そんな北川を見て、哀はクスリと笑う。

 

「AV機器に詳しい東田さんにビデオの配線を頼み、そのコードを凶器に使ったんでしょ?しかも貴方は、事件があった日、会社を休んでいる。その日の昼間、非常階段から村西さんの部屋へ行き、彼女から渡されていた合鍵を使って中へ入り、室内を偽装して会社から帰宅した彼女を待ち伏せ、絞殺したという証拠です!!」

 

そんな高木の言葉に、北川は悪い笑みを浮かべる。

 

「ふんっ!何が証拠だ、馬鹿馬鹿しい!じゃあ出してみろよ!!私がやったというちゃんとした証拠を!!」

 

しかし、高木は答えれない。そんな高木を見て、彼は余裕を持ち直す。

 

「ある訳ないよなー!あの日、私は会社を休んで、彼女にも会ってはいないんだから!!」

 

「……なあ、その親指の怪我、どうしたんだ?」

 

そこで咲が北川に斬りこめば、彼は驚愕し、手を震わせる。そこでコナンが追撃する。

 

「ねえねえ、その親指、絆創膏してるってことは、なんか怪我したんでしょ?」

 

「っ!怪我してるからってなんだってんだ!!此奴等連れて、さっさと帰ってくれ!!」

 

其処で家に入ろうとする北川の腕を高木が取り、文句を言う北川を無視して絆創膏を取れば、いくつかの刺し傷が残っていた。

 

「やっぱり!!どうしたんです?この刺し傷?」

 

「そ、それは……」

 

北川は素早く振り払い、誤魔化そうとする様子を見せる。そんな北川に、トドメを刺しに行く高木。

 

「警察でその刺し傷と折れたサボテンの棘を調べれば、すぐに分かりますよ?あの日、村西さんが持って帰ったサボテンを、犯行後、貴方が慌ててベランダに出したってことがね。……さあ、答えてもらいましょうか?事件の日の夕方、村西さんが居酒屋の女将さんに貰ったサボテンの棘に、彼女に会ってもいないと仰る貴方がの血が、何故、付着しているかという事を!!」

 

その高木の追求に、北川は肩を落とし、負けを認めた。それを聞き、北川の両手に手錠を掛けた後、高木が佐藤に電話を掛けるが、それが取られることはない。

 

「あれ?佐藤さん、どうしちゃったんだろ?」

 

「もう10時過ぎだぜ?」

 

「きっと、美術館の人に発見されちゃったんですよ!!」

 

「ああ、とにかく急ごう」

 

そこで北川を連れ、美術館へと行こうとした一行の側に、サイレンを鳴らしながら猛スピードを出していた車が止まった。そこから目暮が降りてきて、高木を叱りつけた。

 

「高木ー!何をしとるんだお前は!!」

 

「なっ!?目暮警部!!真犯人を捕まえました!!」

 

「そんなことより……っえ!?真犯人!?」

 

目暮が高木の言葉に驚く。そんな目暮に、高木は北川が村西にしつこく結婚を迫られて殺害した事も、その罪を仕事上のライバルだった東田に着せようとしたことも、その全てを自供した事を伝えた。そこまで説明し、すぐに杯戸署の警察に、東田の送致前釈放の手続きを取るように連絡して欲しいと頼む。それに戸惑いながらも目暮が了承し、連絡を入れ始める。そんな目暮とともに来ていた白鳥が、高木に詰め寄る。

 

「それで、佐藤さんは?」

 

「ああ。彼女は今、東田さんと一緒に、杯戸美術館に……」

 

それを聞いた白鳥は、笑った。

 

「はは、冗談はよしてくれ。だってあそこは今頃……」

 

そこで聞いたのは、美術館が爆発すること。どうやら杯戸美術館は爆弾を使っての取り壊しを決行することになっていたらしい。それを聞いた高木達はすぐに行動し、美術館に向かう。目暮は目暮で、そのスタッフをしていた警備員に連絡を入れ、爆発を中断して欲しい旨を伝えたが、途中でその会話が途切れてしまう。そして、遂に爆破12秒前。瑠璃達も合流し、急ぐが間に合いそうもない。そんな時、コナンが車から身を乗り出し、車の上に乗り上げ、キック力を上げ、持っていたヘルメットを蹴り飛ばす。狙いは、カウントダウンをしていた博士の頭。それは見事命中し、『1』とカウントした博士の頭に当たり、彼は気絶する。それに安堵する警察官一同。その後、手錠を斬られ、自由の身となった佐藤が、高木の元に駆け寄り、感動の再会……となるはずが、その高木の胸倉を掴み、懇願する。

 

「トイレトイレトイレ!トイレどこよトイレ!!昨日からずっと我慢してんの!?ここのトイレ水流れないし!!高木くんちっとも来ないし!!早く教えなさいよ!!!」

 

「か、角のゲーセンにあるんじゃないかと……」

 

高木が苦しそうにそう言えば、そんな高木を離し、素早くゲーセンへと向かっていく佐藤。その際、泣いていた佐藤を見た警官達が、高木に詰め寄る。

 

「高木さん、佐藤さん、泣いてましたね」

 

「高木〜!美和ちゃんに何をしたー!」

 

「い、いや、何をって……やだな〜……」

 

そこで、全警官からの怒りの制裁を受ける羽目となった高木とは他所に、コナン達は事の詳細を目暮達に話していた。

 

「ふーん、婚姻届がマッチ箱にね〜」

 

「マッチ棒の下に隠してあったぞ!」

 

「あの2人は、合鍵を持ち合う仲」

 

「きっと村西さんは、北川さんが部屋に来て、煙草を吸う時に、そのマッチを使わせて、脅かすつもりだったんですよ!」

 

「だよね?コナンくん?」

 

最後に歩美がコナンに問えば、コナンは笑みを浮かべる。

 

「それにしても、あの高木くんが……」

 

「いや〜、高木の奴も成長したって事だな!!」

 

白鳥の言葉に、同じく聞いていた伊達が嬉しそうにそう言う。目暮も、高木が一夜にして時間をひっくり返したことを称賛する声をだす。それに、咲が言う。

 

「仕方ないだろう。事件発見当時は、ベッドに寝ていた東田という、もっとも怪しく、それらしい答えを持っていた奴がいたんだ」

 

「そうだな。諸々の事情で、はなから東田さんが犯人じゃないと決めつけて捜査していた俺達とは、訳が違う……」

 

そこで『子供らしくない』ことに気付いたコナンが、慌ててその言葉は高木が言っていたと誤魔化せば、更に高木への評価が知らぬ所で上がってしまった。

 

その後、東田は問題なく飛行機に間に合った。しかし、佐藤達は反対に、目暮達に絞られることとなった。絞られた理由は、連絡を取らなかったことではなく、そんな事情をなぜ話さなかったのか、信用ならないのか、という事。そのことを楽しそうに話す佐藤に、高木は神妙な顔で、疑問をぶつける。

 

「あの、聞いてもいいですか?……佐藤さんは、目暮警部のこと……す、好きなんですか?」

 

「ーーーあらやだ、どうして分かったの?実はそうなのよ」

 

そんな佐藤の曇りない笑顔に、高木が肩を落とした。何せ、まだ告げていないものの、これで彼は振られたも同然なのだから。

 

「そ、そうですか……」

 

「だって、お父さんみたいでしょ?」

 

しかし、佐藤のその言葉で、高木の気持ちは持ち直る。

 

「……え?お父さん!?」

 

「うん、お父さん。私の父も刑事でね、私が小学校の頃、殉職しちゃったから、どうしても重ねちゃうのよね。あの恰幅の良い目暮警部と」

 

「……へぇ」

 

高木はその言葉を聞き、少しの安堵と、佐藤の少し嬉しそうな顔を見て同じように嬉しい気持ちを笑みを乗せて佐藤を見ていれば、佐藤は笑みを浮かべていた高木に気付き、顔を近づける。

 

「何よ、ファザコンとでも言いたそうな顔ね」

 

「ああ、いえ。じゃあ、僕もお父さんに、じゃなかった!警部に怒られてきまーす!」

 

高木が嬉しそうに走って目暮の元へと向かうその姿を、佐藤は怪訝そうに見つめていた。

 

その後、杯戸美術館の爆破は滞りなく行われ、それは大評判だった。が、その反対に、学芸会の施し物は、仮面ヤイバーから刑事モノに変更された。役柄は、元太が遺体役、歩美が犯人、哀、咲が被疑者、そしてコナンと光彦が刑事。

 

「お父様ー!」

 

「酷い事件だったわ」

 

「そうだな。とても、悲しい事件だった」

 

「こ、これは!親子の悲しいすれ違いが招いた、悲劇です!」

 

「お父様ー!」

 

こうして、学芸会は、幕を下ろしたのだった。


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