とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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第21話〜本庁の刑事恋物語・後編〜

コナン、伊達が加代殺害方法を考えている時、白鳥と共にやって来たらしい刑事2人が、部屋に入って来た。

 

「白鳥警部。被害者の寝室等を調べましたが、財布や宝石類が剥き出しにおいてあり、物取りの線は薄くなったかと……」

 

「うわぁ、指示が早〜い」

 

2人の刑事の言葉に、瑠璃が感心したように白鳥を見ながら言う。それに大したことはしていないと言うように、肩を竦めてみせた白鳥の中では、強盗犯の殺人の線を濃くなった。

 

「やはりそうか。よしっ、君達は、この2、3日、この家のことを聞いたり、探ったりしていた不審人物がこの周辺にいなかったかどうか聞き込みを開始しろ」

 

「「はい!」」

 

その指示通り、2人の刑事は聞き込みへと向かっていった。それを見届けたあと、伊達は白鳥に話しかける。

 

「おい、白鳥。お前さんのその推理……」

 

「お、おかしくないですか?」

 

しかし、その時、伊達の言葉を遮るようにして高木が白鳥に反論する。そこで伊達に顔を向けていた白鳥、そして伊達が高木を見た。

 

「犯人は、警察に電話をしていたから殺害したんですよね?なら、どうして本棚の棚を戻す必要があるんですか?グズグズしていたら、あの悲鳴を聞いて、我々警察が来るのは分かりきっているのに……」

 

「あ、確かにそれは変だね……」

 

「そ、それはだね……」

 

「それに、横の本棚はキッチリ詰まってて、人は隠れられないし……」

 

最後の佐藤の言葉に白鳥が詰まったその時、別の刑事が報告にやって来た。被害者の部屋に妙なアルバムがあったと言う。刑事がそのアルバムを開けば、どうやら旅行時の写真が多かった。しかし、その写真の所々に、妙な丸が付けられていた。

 

「?この丸って一体……」

 

瑠璃がその写真を見て首を傾げていた時、桂造が慌てて刑事に近づき、そのアルバムを奪い取った。

 

「あ、ああ!しゃ、写真が汚れるから止めろって言ったんですけど……」

 

それを見て、ニヤリと笑うコナンと、視線を鋭くする伊達。2人は桂造がどうして加代を殺したのか、その動機が分かったのだ。しかし、未だ崩さないアリバイに2人して頭を悩ませていれば、桂造がポケットにハンカチを入れた途端、「痛っ」と小さく呟き、人差し指を口に含む仕草をした。

 

「白鳥くん、特捜部への連絡は待ったほうがいいわ。この事件は、不可解な事が多過ぎるもの」

 

「じゃあ、逆に君達に質問するよ?犯人は何処の誰で、どういう方法で殺害したのか!犯人がここに侵入して、被害者を殺害したのは明白な事実だ。この状況から見て、どこかに隠れて待ち伏せして殺害したとしか考えられないだろ。まさか、ナイフが勝手に飛んで来た訳じゃあるまいし?」

 

その言葉を聞いたその瞬間、2人の頭の中で一筋の光が駈け去った。

 

「……おい瑠璃」

 

「?なんです?」

 

「お前さんの親戚の子、本当に凄い才能の持ち主かもしれないぞ」

 

伊達のその褒め言葉に、瑠璃は嬉しい気持ちを持つと共に首を傾げた。何故いきなり褒められたのか、分からなかったからだ。しかし、少し頭の中でこれまでの情報を整理した時、瑠璃の中でも一つの考えが浮かんだ。

 

「……待って下さい。これが正しいなら、ちょっと確かめないと!」

 

そこで瑠璃と伊達が確認するために動こうとした時、コナンが本棚の棚に足を掛けて登っていた。

 

「ちょっ!?こ、コナンくん!!?」

 

瑠璃が慌てて駆け寄るがコナンは止まらずに登る。佐藤、高木も来たが、その時には登りきった後。コナンは本棚の一番上を見たが、何もなかった。

 

(あれ、ないぞ?変だな、本棚やカーテンには僅かに血痕が付着してるのに、何でアレがないんだ!……ん?)

 

そこでコナンが見つけたのは、ちょうど目の前に付着していた血痕。しかし、それは途中で途切れてしまっていた。それを見た瞬間、コナンは理解した。

 

(……なるほど、そういう事か)

 

「おいおい、坊主、あぶねーぞ?」

 

そこで伊達がコナンの脇に手を入れ、本棚から下ろした。コナンが桂造に視線を向けてニヤリと笑ってみせれば、桂造は少々コナンに向ける視線に困惑が混ざった。

 

「……で?坊主、お前さんは何を見つけたんだ?」

 

そんなコナンに伊達が聞いてきた。それに目を丸くして思わずと言ったように勢いよく振り返るコナン。伊達はといえば、それに気にした様子もなく、ニヤリと笑う。

 

「お前さん、もう全部解けちまったんだろ?なんなら俺が聞いてやるが?」

 

その伊達の言葉に、コナンは目を丸くしていたが、すぐにニヤリと笑って頷き、コナンが見つけたものを全て伝えた。それを聞いた伊達はといえば、さらに確信を得る事ができ、笑みが深まる。

 

「よし、なら事件を解決しようじゃねえか」

 

伊達の言葉にコナンも頷き、それを見た伊達は、近くの警官に紙を一枚、コナンに渡すように頼むと、瑠璃と共に白鳥達に近付いた。

 

「おい、特捜に連絡するのは待つんだ」

 

その伊達の言葉に、白鳥がすぐさま噛み付く。

 

「伊達刑事!これは、どう考えても強盗の仲間の1人が起こした殺人です!!ならば特捜に連絡するべき案件だ!!」

 

「だーかーら、これは強盗犯が殺したんじゃねえよ。まあ、その仲間であることは間違いないがな」

 

伊達がチラリと桂造に視線を向けて言えば、その視線に気付いた桂造は、その視線から逃れるように顔を背けた。

 

「伊達刑事……そこまで言うなら、貴方の推理を話していただけますよね?」

 

白鳥が伊達に対して、苛立ちを隠さずに言えば、伊達は少々肩を竦めて答える。

 

「ああ、良いぜ。だが、その手伝いとして今回は、あの坊主に協力してもらうがな」

 

そう言って伊達が背後に指を向ける。その指の先には、床に座り込み、紙を使って何かを折っているコナンがいた。

 

「こ、コナンくん!?」

 

「あら、何をしてるの?」

 

高木が驚き、佐藤が近づいて聞けば、コナンは子供らしい笑顔を浮かべる。

 

「折り紙だよ!」

 

「お、折り紙?……伊達刑事、貴方、あんな子供に本当に手伝いをさせるんですか?僕には到底無理だと思いますがね」

 

白鳥が怪訝そうに伊達を見る。誰から見てもコナンの姿は子供で、折り紙をするその姿、笑顔は正に子供そのもの。手伝いなど到底無理だと言うのも仕方ない。しかし伊達は首を横に振る。

 

「いや、無理じゃないぜ?まあ聞け、白鳥。お前の推理だと、強盗犯は本棚の中に隠れてたんだろ?その後、そこから現れて、被害者を刺した。合ってるよな?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「じゃあまず質問を、坊主からしてもらうか」

 

そこで伊達がコナンに振り、コナンはそれに頷き、白鳥達の前に出てくる。

 

「あのね!誰かを刺す時には、両手で持って上から振り下ろして刺すか、腰あたりに構えてまっすぐに刺すかだよね?」

 

「ええ、そうね」

 

コナンの言葉に佐藤が頷いたのを見て、コナンは続ける。

 

「この人って、エアロビバイクを漕ぎながら電話をしてた時に後ろから襲われたんだよね?」

 

「ええ。被害者は汗を掻いているし、倒れている位置や、受話器が落ちている位置もそうだし、それに被害者は裸足。汗も足跡も、体がずれたような汗の跡も周りには全くないから、刺されてそのままここに倒れたのは、間違い無いでしょうね」

 

「だったらおかしくなーい?遺体に刺さっているナイフ、遺体に向かって横向きに刺さってるよ?」

 

そのコナンの指摘に佐藤、白鳥、高木が驚く。彼らはナイフの向きなど、全く見ていなかったのだ。

 

「背後から襲われたのなら、ナイフは縦向きになるはずです。しかし、見ての通り、ナイフは横向き」

 

「これが横から襲われたなら話は別だが、その場合、犯人は姿をさらした状態で被害者を襲ったことになる。姿を見て、ナイフさえ持ってるんだから、襲われるなんて誰だって考えることは可能だ。被害者も逃げるはずだぞ」

 

その伊達の指摘に、白鳥は余裕な笑みを浮かべる。

 

「そんな答えは簡単ですよ。恐らく犯人は、まず被害者を後ろから襲って、床に押し倒し、被害者の首と腰の辺りに自分の両膝を乗せ、押さえつけながら殺害したんだ」

 

「さっすが警部さん!あったま良いね!」

 

コナンが白鳥を褒めれば、これは自信満々な笑みを浮かべて賞賛を受け入れる。しかしコナンはすぐに目を細め、口元の口角を上げて、下から見上げるようにして白鳥の目を見つめる。

 

「でもその推理、間違ってると思うよ?」

 

「えっ?」

 

白鳥はコナンの言葉に思わず声を出してしまった。そんな白鳥の様子を見て、伊達の背後に隠れて吹き出す瑠璃。それに伊達も気づき、軽くチョップを入れる。

 

「だって、床に押さえつけられたら、普通、逃れようとしてジタバタするはずでしょ?でも、さっき佐藤刑事も言ってたじゃない?そんな汗の跡は床に残ってないって!それに、外れたままで床に落ちてる受話器も変だと思うけど?」

 

「そうね。あの悲鳴の後、高木君が呼び掛けていたから、犯人には確実に聞こえていた筈よ。電話の相手が我々警察だと知っていたなら、どうして受話器のスイッチを切らなかったのかしら」

 

「そうだ。受話器が繋がったままなら、下手をすりゃ、手掛かりとなる音を俺達警察に拾われる。しかもあの時、犯人にとっては運の悪い事に、耳の良い瑠璃の親戚の嬢ちゃんもいた。どれだけ耳が良いか、証明されれば犯人にとっては都合が悪いだろうしな」

 

「そ、そんな事、犯人が慌てて逃げたからに決まってるさ!」

 

「高木、この部屋、来た時から開いてたのか?」

 

そこで伊達が高木に問えば、高木は首を横に振る。

 

「いえ。この家に最初に入った時、リビングのドアは閉じられていました」

 

その言葉に白鳥の目が見開かれる。その逆に、伊達はその言葉にニヤリと笑う。

 

「白鳥、犯人が慌ててたとして、そんな状態なら扉なんて閉めずに開けっ放しにして放ったらかしにするもんじゃねーか?」

 

「それに、犯人が出入りしたと思われるガラスが切られたあの窓も、ちゃんと鍵が掛けてあったし」

 

「おお、だいぶ余裕のある犯人だな?そんな余裕があるんなら、受話器ぐらい切るんじゃねーか?」

 

「ほーら!刑事さんも段々、チグハグな感じがして来たでしょ?」

 

そこでコナンと伊達が、2人の後ろにいる桂造を見てニヤリと笑えば、それに気付いた桂造が、恐怖からか一歩後ずさる。

 

「まるで最初から此処には、被害者以外誰もいなかったような……妙な感じがね」

 

コナンの言葉に、佐藤が同意を示す。もっと詳しく部屋を調べてみる必要があると言えば、白鳥は被害者しかいないこの部屋で、勝手にナイフが飛んで来て、被害者の背中に刺さったのかと聞いてくる。勿論、そんなトリックがあったとしたら、佐藤達が見逃すはずがない。白鳥がそう言っている間にコナンはエアロビバイクの後ろ側に行き、目的の部分を見つけると其処に座り込み、演技に入る。

 

「あれれ〜?なんだ?この糸」

 

「糸?」

 

白鳥がコナンの言葉を聞き、すぐにコナンの側へと行き、コナンと同じように座り込む。

 

「何のことだね?」

 

「ほら、見てよ!」

 

コナンがそう言って指で示したのは、エアロビバイクの回転部分。そこには確かに、何重にも巻かれた糸が残されていた。

 

「中でタコ糸みたいなのが絡まってるよ?」

 

「あ、ああ、確かにあるが?」

 

「エアロビバイクのその部分に、タコ糸なんざ普通はねーよ。つまり、誰かが意図的にそこに巻いたか、あるいは……」

 

「いやいや、荷造り用の紐かなんかが絡まっただけでしょう」

 

白鳥がそう言えば、今度はコナンが行動する。その糸の先を手に取る。その先には、小さな輪が付いていた。それを佐藤に見せれば、佐藤も荷造り用の糸にしてはおかしいと同意する。その言葉を聞いた途端、桂造が割り込む。

 

「そ、そう言えば思い出しましたよ!半年ぐらい前に、友人の子供達が泊まりに来たんです。その時、エアロビバイクの周りで遊んでいたみたいですので、ひょっとしたら子供達のイタズラかも……」

 

「それにしたって……」

 

「ふ、考えるだけ無駄さ」

 

その言葉に瑠璃が疑問を口に出そうとした途端、伊達がその口を両手でふさいだ。それに驚き、瑠璃が視線だけで伊達に不審そうな目を向ければ、伊達は視線を別の方向に向けて指し示す。瑠璃もそれに気付き、同じ先へと目を向ければ、其処には考え込んでいる様子の高木がいた。

 

(……あ、もしかして?)

 

そこで伊達の意図を汲み取った瑠璃。伊達は、高木に答えを出させたいのだ。つまり、彼はこれ以上のヒントを彼からは出すつもりもなく、答えを言うつもりもないのだ。それに気付き、両手が離された後も高木を見ていれば、彼は顔を一瞬だけ本棚に向けた途端、何かに気付いた様子を浮かべる。

 

「ちょっと待って下さい!」

 

そこで伊達が嬉しそうに笑ったのを、瑠璃は見ていた。それを見て、瑠璃も笑みを浮かべる。

 

「もしかして……もしかしてですよ?後ろの本棚の一番上に、ガムテープか何かでナイフを固定し、そのタコ糸を、カーテンレールの端に引っ掛けておけば、被害者がエアロビバイクを漕ぐだけで糸が巻き取られ、本棚が倒れ、自動的にナイフは被害者の背中に刺さるんじゃないでしょうか!?」

 

その高木の推理に佐藤、白鳥、そして桂造が驚愕する。

 

「た、確かに面白い案だな。そんなに上手く刺さるのかい?引っ張るのは本棚の端だろ」

 

「いいえ、刺さる可能性の方が高いわ。あの本棚の横には、本が詰まった別の本棚があるから、倒れる方向はズレないし、標的である被害者は、当然エアロビバイクの上。オマケに本棚は、被害者の死角から倒れてくる」

 

「でも急にペダルが重くなれば、幾ら何でも被害者だって変に思うはずだろ?」

 

「あれ、白鳥警部、知らないんですか?エアロビバイクって、漕げば漕ぐほど徐々に負荷が掛かる設定になってるんですよ。被害者の方がいつもそうしていたなら、違和感も持たないと思いますよ?」

 

「しかしね、佐藤くんや高木くんが遺体を発見した時、本棚は倒れていなかったんだろ?」

 

白鳥が佐藤達に顔を向けて聞けば、2人とも肯定する。それに少々、気を持ち直した白鳥が続ける。

 

「第一、そんな仕掛けを施すぐらいなら、この部屋で待ち伏せて殺害した方が、確実だよ?」

 

「……1人だけいますよ」

 

その高木の言葉に、全員が高木の方に顔を向けた。高木は、とても神妙そうな顔をしている。

 

「本棚を元通りに戻すことが出来、このトリックを必要としている人物が」

 

その言葉を聞いていたコナンは、部屋の隅でキザに笑って高木を見ていた。

 

「それは、誰よりもこの部屋のレイアウトと被害者の習慣を把握し、誰よりも先にこの部屋に入った被害者の夫……増尾桂造さん!貴方しかいません!!」

 

高木がそこで桂造を指差せば、彼は驚愕と焦りを見せる。

 

「な、なにを!?」

 

「そっか。だから警察から電話したのね?毎日、昼の2時に奥さんがエアロビバイクを漕ぐのを知っていれば、ナイフが刺さる時間も大体の予想がつく。私達の目の前にいる時、しかも電話中に殺害されたとなれば、これ以上のアリバイはないわ。電話の途中で高木くんに変わったのは、本当に電話の相手が自分の妻かどうか確認させるため」

 

「それに貴方は、ここへ来た時、我々に2階を探すように言っている」

 

「なるほど。私達が2階に行っている隙に、倒れている本棚を元に戻したって訳ね」

 

佐藤、高木の言葉に、桂造が更に焦り始めた。すでに2人から犯人扱いされているのだから、焦るのも仕方ない。

 

「ちょ、ちょっと冗談はやめて下さいよ!あの時、もっと大勢で来られていたら、刑事さんの誰かが私より先にこの部屋に踏み込んでいるはずですよ?それに、本棚にナイフを固定していたなら、ナイフは本棚の方に残っているはずではありまさんか」

 

「きっとこうしたんでしょ?オジさん」

 

そこでコナンの声が聞こえ、全員が問題の本棚の方へと顔を向ける。そこには、本棚の一番高い所まで登ったコナンが、一番上に本を詰めた状態で、棚とその間にナイフの形をした紙を差し込み終えているのが見えた。

 

「ほら!一番上の棚にだけ、キッチリ本を詰めて、ナイフをその隙間に差し込めば、テープで貼り付けなくても済むんじゃない?上の方が重ければ倒れやすいしね!」

 

そのコナンの言葉を聞いていた桂造が悔しそうにする表情に変わったのを見たのは、コナンだけ。

 

「そうか!それなら、ナイフが被害者に刺さった後、本はずり落ちて、ナイフは背中に刺さったまま、床に落ちる!」

 

「後は本棚を起こして、散らばった本を戻せば、仕掛けは分からなくなるって訳ね!」

 

「で、でもね、坊や?そんなナイフが本棚から出ていれば、幾ら何でも妻が気付くはずだよ?」

 

「それならね〜……」

 

桂造の言葉を受けて、コナンが問題の棚の下から別の本を2冊ほど取り出し、それを紙のナイフが刺さった丁度上の棚に置く。それを見た桂造の顔がさらに強張った。

 

「なっ!?」

 

「なるほど!!それならナイフは目立たないし、背中にナイフが横向きに刺さっている理由も分かる!」

 

「やるわね!坊や!」

 

「それに、この方法なら、現場に本棚が倒れて散らばっているのも、先に踏み込まれて刑事に見られても、犯人と被害者が争った跡ととられやすく、この仕掛けは気付かれ難いって訳だ!」

 

高木の説明に、コナンは笑顔で何度も頷く。伊達も、高木の成長っぷりに嬉しそうな笑みを浮かべて見ていた。

 

「どうなんですか?増尾さん」

 

白鳥が、右隣にいた増尾に顔を向けて問いかければ、彼は俯いていた。しかし、雰囲気から焦りはあるものの、諦めた様子はない。

 

「……い、糸は……タコ糸はどうするんです?このままじゃ、糸はカーテンレールに引っかかったままで、先に刑事さん達に見られたらバレバレですよ!?第一、それを私が仕掛けたという証拠が何処にあるんです?」

 

その瞬間、増尾の右手を誰かが握った。増尾がその人物を見れば、そこにはいつの間にか本棚から降りていたらしいコナンがいた。彼は増尾の手の平を見ながら問い掛けてくる。

 

「どうしたのオジさん?この指、何かで刺したような傷が付いてるよ?」

 

その問いかけに、桂造は慌てて手を隠すがもう遅い。コナンは笑顔で追い詰めてくる。

 

「あ、そっか!そういえばさっきポケットにハンカチを仕舞った時、痛がってたよね?」

 

コナンの言葉を聞き、白鳥の目が鋭くなる。佐藤もまた、ポケットに何かを入れているのだと理解し、高木が出すように要求する。しかし出す様子はない。

 

「ポケットの中身は恐らく、画鋲か何かが取り付けられたテープ。被害者の血痕付きのね」

 

白鳥の予想を聞き、佐藤がなぜ分かるのかと問いかける。それに白鳥は本棚を見ながら説明する。

 

「本棚に僅かに飛び散ってる途切れた血痕を見れば、何かが貼られていたのは一目瞭然だよ。画鋲の針の向きを調節して、本棚の上に貼り付け、タコ糸の輪を引っ掛けておけば、本棚が倒れた時に外れ易くなり、外れた糸はエアロビバイクの回転の惰性で巻き取られてしまうわけさ」

 

「あ、でも、そんな血や画鋲が刑事に発見されたら、どう言い訳を?」

 

「ふん、どうせ……」

 

高木からの質問に白鳥は応える為、本棚に近付き、その棚の上の奥に手を伸ばし、目的の白板を取る。

 

「画鋲はこれをエアロビバイクの後ろに本棚に引っ掛ける為に奥さんが取り付けたもので、血はそれを取り付ける時、奥さんが誤って指を刺したとでも言うつもりだったんだよ」

 

白鳥が説明中に見せた白板には紐が付けられており、板には『今月の目標 −2kg』と書かれていた。その説明を聞いていた桂造は、隣でニヤリと笑う小さな悪魔に、恐怖の表情と焦りの目を向け、最後には観念した様子で俯いてしまった。

 

「さ、論より証拠。本当に上手くいくかどうか、実験してみましょうか。貴方のポケットの中にあるそれを、本棚に取り付けて」

 

白鳥が微笑を浮かべて言えば、強張った顔をしていた桂造の顔が、緩む。

 

「……上手くいきますよ、試さなくてもね」

 

「……それは、自白ととってよろしいですか?」

 

瑠璃がそう問い掛ければ、桂造は頷き、説明を始めた。

 

「昨夜、何百回も試して、画鋲の角度を完璧にしましたからね。全く、本棚を起こす時、念の為、剥がしたんだが、それが仇になるとは……」

 

桂造はポケットから画鋲付きのテープを取り出し、諦めの笑みを浮かべる。そんな桂造に高木は問う。何故、奥さんを殺したのかと。それに桂造は保険金だと答えた。奥さんには多額の保険金をかけていたのだと言う。

 

「だから、銀行強盗の仕業に見せかけて妻を……」

 

「おいおい、嘘はいけねーぜ?」

 

そこで伊達が頭を掻きながら割り込む。桂造が伊達を見上げれば、伊達は真剣な顔で桂造を見ていた。

 

「あんたが嫁さんを殺したのは、あんたがダチと手を組み、自分の銀行を襲わせたのがバレて、それを警察に言われそうになったから、だろ?」

 

それに白鳥、高木が驚いた様子を浮かべる中、佐藤は笑みを浮かべて頷いていた。

 

「そうね、伊達刑事の言う通り。恐らく、主犯はこの人。あの銀行の支店長なんだから、そりゃ上手く行くわよね」

 

「だが、襲撃した際、偶々来店していたあんたの嫁さんを誤って人質に取ってしまったのが運の尽き。声や雰囲気で嫁さんに強盗犯の正体が、あんたの友人だと気付かれてしまった」

 

「それを警察に暴露されそうになったから、口を封じたのよ」

 

そこまで言われれば理解することができる部分があった。それは、強盗犯が人質を替えた理由。それは、奥さんの抵抗が酷かったのではなく、ボスである桂造の妻だったため。そこまで暴露てしまった事を理解した瞬間、桂造は膝から崩れ落ちた。

 

「しかし、どうしてそんなことまで……」

 

「被害者の持ってた写真の丸を見たからだ。嫁さんはきっと、あの写真を俺達に見せるつもりだったんだろうぜ?『強盗犯はこの人たちだ』ってな」

 

「それにそのアルバム、さっきからあの子が広げて見せてるしね!」

 

そこで伊達と瑠璃が後ろを振り向けば、確かにコナンがあのアルバムを佐藤達に見えるよう、広げて見せていた。コナンの顔には笑顔が浮かべられている。

 

その2時間後、桂造の仲間の強盗犯2人は、自宅のマンションでのんびりと金を数えている所を逮捕され、二つの事件は一気に解決する事となった。桂造の供述によると、贅沢三昧で金遣いの荒い妻の為に、銀行強盗を計画したと言う。

 

「折角計画したのに、その相手を殺す羽目になるなんて、なんとも皮肉な話ですよね〜」

 

「そうだな。まあそれ以前に、殺しも強盗もするもんじゃないって話だがな」

 

夕方の警視庁で、事のあらましを瑠璃から聞いていた松田が煙草を咥えたまま言う。その隣では、伊達もまた同じように煙草を咥えていた。ここは休憩所。瑠璃と伊達は既に白鳥達と松本に報告をした後のため、佐藤達と別れたのだ。

 

「そういや、その佐藤達は?」

 

「ああ、白鳥さんなら、佐藤さんをフランス料理に誘ったもののそのまま撃沈して帰りましたよ」

 

「高木の野郎も、佐藤とラーメン屋に行く筈だった所を目暮警部に取られて、現在は子供達の事情聴取中だ。まあ、直後は撃沈してやがったから、拳骨入れてやったがな」

 

その伊達の笑顔を見て、松田は腹を抱えて笑った。そんな松田を見て、前から疑問を持っていた瑠璃が問いかける。

 

「松田さんって、佐藤さんのこと好きなんですか?」

 

そう問い掛けた瞬間、休憩所の空気が固まった。松田もまた笑う事をやめ、瑠璃を見る。

 

「……なあ、その質問の意図はなんだ?」

 

「え、前から気になってたんで。だってお二人さん、良い雰囲気だったじゃないですか」

 

その瑠璃の言葉を聞いた途端、松田はそれはもう、深い深い溜息を吐いた。

 

「……それは別に、佐藤の事をそう言う目では見てねーよ。そりゃ、良い腕持ってる刑事だとは思ってるがな」

 

「え、そうなんですか?お似合いなのにな〜」

 

瑠璃が言ったその言葉に、さらに深い溜息を吐いた松田だった。




そういえば言ってませんでしたが、私は松田さんを佐藤さんとくっつけるつもりはありません。許せない方はすみませんが、私は高木さんと佐藤さんの2人がくっついて欲しいので、あまりオススメいたしません。

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