とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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この恋物語シリーズの話は、出来るだけやっていく所存です。もしかしたら途中、やらない可能性もありますが、まあ少年探偵団が主だった筈なので、やるとは思います。

*アニメでは白鳥警部は『警部補』と一度呼ばれますが、此処では最初から『警部』呼びでいかせて頂きます。


第21話〜本庁の刑事恋物語・前編〜

これは、あの青い古城の事件が終わった後の話。コナン達は警視庁にやって来た。普通なら、そうそう来ることはないこの建物に、少年探偵団と博士はやって来た。

 

「は〜!これが警視庁か〜!デケーな〜!」

 

「ここでいっぱい事件の捜査してるんでしょ!」

 

「なんて言ったって、日本警察の親玉みたいな所ですからね!」

 

「なんかワクワクしちゃうね!」

 

元太、歩美、光彦のはしゃいでいるその姿に、博士は苦笑いを浮かべて注意する。

 

「これこれ、儂達はこの前の青い古城の事件の参考人として呼ばれたんじゃぞ?」

 

「俺達はピクニックに来たんじゃねーの」

 

「なによー!コナン君だって、未解決の事件の話、聞けるかもってはしゃいでたじゃない!」

 

「そうそう!一番楽しそうにしてたのコナン君ですよ!」

 

コナンが博士に続いて言った言葉に、歩美と光彦が反論する。コナンも同じ穴の狢だと言えば、コナンは視線を逸らして誤魔化した。

 

「……私、帰るわ」

 

そこで今度は哀が帰ろうと背を向ける。その哀の隣にいたコナンが止める間も無く、哀はどんどんと離れていく。

 

「あとは、貴方達が適当に答えておいて」

 

「お、おい哀くん……!」

 

博士が哀の名を呼んだそのタイミングで、警視庁から見覚えのある刑事が出て来た。高木刑事だ。

 

「阿笠さんですね!お待ちしてました、捜査一課の高木です。さあ、どうぞ!皆んなも中へ」

 

高木刑事が出て来てしまい、博士もそれに笑顔で了承してしまっては、未だ警視庁の近くから離れれていない哀が断れる訳もなく、哀は仕方なさそうな様子を見せて付いていく……が、そこで後ろを振り向いた。まだ1人、立ち止まった子供がいたからだ。

 

「……咲、行くわよ」

 

哀が咲を見れば、左右に視線を向けて何かに警戒した様子を見せる咲。しかし声を掛けられた事によって咲の意識が哀に向く。

 

「……今から中に?」

 

「ええ……貴方、どうしたの?なにを警戒してるの?」

 

哀が咲にそう聞けば、彼女は悲しげな微笑を浮かべて、答える。

 

「……いや、なんでもない。ただ、一応は知り合いの働く隣だから、警戒していただけさ」

 

その言葉に哀が首を傾げたのを気にせぬまま、咲は中に入って行く。そのまま哀と共に全員に追い付き、中を歩く。警視庁に入るに当たって一般人の証明の札を胸につけて。

 

「いや〜、態々すみません」

 

「……思ったより綺麗な所ね」

 

「確かに。私も初めて入ったから、こんなに綺麗な所だとは思わなかった」

 

「変ですね……もっと薄汚れてて、タバコの吸い殻がいっぱい落ちてるイメージでした」

 

光彦の感想の通り、警視庁の廊下にはゴミ一つ落ちていなかった。汚れさえもない。全て清潔な状態だ。その光彦の感想に、元太は外面だけだと言う。歩美もまた、それは廊下だけで、刑事達がいる部屋はきっと汚れているのだと期待する様子で言った。そして、期待を持って捜査一課の扉を潜れば、中には人が数人しかおらず、汚れさえもない部屋を目にする事となった。それに驚く3人。

 

「あ、あんまり、人がいませんね……」

 

「皆んな、出払っちゃってるからね。そんなに意外かい?」

 

「だってよ!刑事の部屋ってタバコの煙でいっぱいでよ〜!」

 

「中に入ったら、怖い顔したおじさん達が、こっちを睨むって思ってたもの!」

 

その子供達のイメージは全て刑事ドラマからきたもの。それを話を聞いて理解した高木がドラマの見過ぎだと言う。高木が自身に指差して自分も刑事なのだからと言えば、子供達3人がヒソヒソ話を始める。

 

「なんか迫力ないよね?」

 

「アレで犯人捕まえられるんですかね?」

 

「女にモテねーぞきっと」

 

その言葉全て、近くにいた高木には聞こえており、彼は乾いた笑いを漏らす。最後のは特に、彼にとっては余計なお世話だっただろう。

 

「所で、目暮警部は?儂達はあの人に呼ばれてきたんじゃが……」

 

博士が部屋の中を見渡すが、其処に肝心の目暮の姿はない。だからこその疑問を高木にぶつければ、彼からは銀行強盗の捜査本部に行っていると返される。

 

「銀行強盗って……3日前、杯戸町の銀行から2億円が強奪された、あの?」

 

「ええ。あの時、警部の奥さんの『みどり』さんも銀行に行っていて、犯人に突き飛ばされて怪我をしたそうで、だから警部、気合入っちゃってるんですよ」

 

「それで、高木刑事が代わりに僕達の事情聴取をするって訳ね?」

 

コナンの言葉に高木は肯定する。早速始めようと別室に移動しようとしたする。彼は其処で腕時計に視線を向けた。彼が言うには、5時には別の人と約束があるのだと言う。そこで歩美が声をあげる。歩美が気付いたのは、高木が着ているシャツの右袖のボタン。既に取れかけの状態で、それを伝えればそこで高木もようやく気づいた様子で袖のボタンを見る。そこで今度は哀が目敏く襟首の汚れに気付き、光彦がシャツがシワだらけであることに気付き、声を上げる。

 

「もしかして、刑事さん……彼女、いないの?」

 

その歩美からの鋭い言葉に、高木は固まる。図星だったからだ。

 

「なんなら、儂の従兄弟のお孫さんを紹介しようか?」

 

その博士の優しさに、咲は目頭を抑えるような仕草をする。彼女からしたら、その優しさは泣けるものだったらしい。高木もその優しさを有難く受け取るだろうと勝手に予想した彼女だが、予想とは反して彼は首を横に振る。

 

「よ、よしてくださいよ!僕にだっていますよ、好きな人ぐらい!」

 

「あら高木くん」

 

そこで彼は内心、ドキッとする。直ぐに扉の方へと顔を向ければ、そこには佐藤がいた。

 

「なんなの?この子達。迷子なら、生活安全部でしょ?」

 

彼女が高木に近付いてそう言う。彼女からすれば、まさか子供が事件の聴取のために着ているなど、考えすらしないことなのだろう。高木がそれを違うと否定し、説明しようとした所で、元太が不審そうな目を佐藤に向けた。

 

「なんだよ、この姉ちゃん?」

 

「あ、彼女はね?」

 

「なに赤くなってんの?」

 

「そうか、分かりました!高木刑事の恋人ですね!」

 

そこで高木が慌てだすが、子供達は止まらない。

 

「いいのかなー?こんな所に自分の女連れ込んでも〜?」

 

そこでようやく佐藤が割り込む。

 

「違うわよ。私は『佐藤 美和子』。女は女でも、捜査一課強行犯三係の女刑事よ!」

 

その佐藤の紹介に3人が感心した様子を見せる。どうやら、女性の刑事が珍しいらしい。

 

「……瑠璃の他にいたんだな、女刑事」

 

「あら、瑠璃さんを知ってるの?」

 

咲の言葉に佐藤が反応する。どうやら、彼女は瑠璃とも面識がある様子だが、彼女から咲の存在は聞いていないようだ。

 

「ああ。私は瑠璃とその兄妹達の家で住まわせてもらってる親戚筋の子供だ」

 

「あら、そうだったの!……で、なんなの?この子達」

 

そこで佐藤が漸く何故子供達がいるのかを高木に説明を求め、高木が古城の事件の証人だと説明する。それに佐藤が驚く。

 

「え!?じゃあ、その時活躍したっていう子供達なの?」

 

「ええ。あの被疑者が全面自供したので、一応、事件の裏付けを取るために来てもらったんですよ」

 

「……あ!思い出した!」

 

そこで歩美が声をあげる。どうやら歩美は佐藤に見覚えがあったらしく、ずっと考え込んでいたらしい。そして、思い出したのだ。何処で見たのかを。

 

「お姉さん、競技場の事件の時にいた刑事さんでしょ!」

 

「……ああ、あの犯人を捕まえた」

 

「あの超かっこいいお姉さんだ〜!」

 

歩美が尊敬の眼差しを佐藤に向け、佐藤もその言葉で漸く子供達を思い出す。

 

「そっか〜!あの時、ちょろちょろしていたおチビちゃん達ね!」

 

その佐藤の呼び方に、不満顔の光彦、元太、歩美。

 

「ちょろちょろなんてしてませんよ。ちゃんと捜査に協力してたんですから!」

 

「邪魔なんかしてないもん!」

 

「そうだそうだ!俺達探偵団は正義の為にやってんだぞ!悪いか?」

 

その子供達に博士が注意するが、佐藤は気にした様子を見せず、しかし笑顔を浮かべる。

 

「そうね。競技場の事件も、青い古城の事件も、貴方達のお陰かもしれないわね」

 

そこまで佐藤は肯定するが、今度は元太に近付き、言う。

 

「でもね、坊や。これだけは覚えておいて?……『正義』って言葉はね、矢鱈と振りかざすものじゃないの。自分の心の中に、大切に秘めておくものなのよ?」

 

その佐藤の言葉に咲は苦虫を噛み潰したような表情を、博士の後ろでしていた。もし、彼女が普通に生きて、普通の生活をしていたならば、こんな表情も、今すぐにでもここから消え去りたいと思うような感情も、抱く事はなかっただろう。そんな彼女の様子に気付いたのは哀のみ。その話をした佐藤は、子供達3人に理解したかを確認し、それに子供達3人が頷いたのを確認していた。

 

「……ちょっと臭かったかな?」

 

佐藤がそこで高木に視線を向け、高木は曖昧な返事を返すのみ。

 

「でも、どうしたんですか佐藤さん。貴方も、目暮警部と共に2億円強奪事件の捜査本部に応援に行ってるはずじゃないですか?」

 

「その事件絡みよ。襲われた銀行の支店長から、思い出したことがあるので話をしに来たいって言う電話を昨夜貰って、此処で会うことになってるのよ。夫婦揃って2時にね」

 

其処でコナンは頭の中で引っかかりを覚え、その部分の質問をする事にした。

 

「なんで夫婦で来るの?」

 

それに佐藤は、事件があった時、支店長の奥さんも銀行に来ており、犯人に銃を突きつけられたのだと言った。

 

「その時の事を、何か思い出したんじゃないかしら?」

 

「……でも、おかしいな?その奥さんから僕も昨夜、似たような電話をもらいましたよ。犯人の事で話したいことがあるから、5時に1人でそっちに行くって」

 

「……ん?『1人』で?夫婦揃ってじゃなく?」

 

咲の質問に高木は肯定した。その咲と高木の疑問は、佐藤の言葉で解消される事となる。

 

「ああ、その事なら支店長が電話で言ってたわ。万が一、妻が犯人に狙われると怖いから、明るいうちに2人で行くってね」

 

「ああ、なんだ。そうだったんですか」

 

しかし、咲は納得してもコナンと哀の目が細まる。どうやら2人は納得していないらしい。

 

「それより、交通課の『由美』、何か言ってなかった?」

 

「え?」

 

「私、昨日の夜、飲み屋で潰れて彼女に管巻いてたらしいんだけど、覚えてなくて……」

 

その言葉を聞いた高木は、少々焦ったような様子を見せながらも何も聞いていないと否定する。しかし、その頭の中では思い返されていた。博士達を迎えに行く前、由美から伝えられた言葉を。

 

『ねえ!聞いて聞いて高木くん!美和子を酔わせて聞いたんだけど、彼奴、やっぱりいるみたいよ?捜査一課に好きな人!ひょっとしてひょっとするかもよ〜?』

 

その言葉は、高木には期待を抱かせるには十分な言葉で思い返していた彼の言葉は自然と赤くなる。彼が、佐藤を見つめていたその時、扉が開かれた。

 

「佐藤刑事!東都銀行の支店長をお連れしました!」

 

「あ、ご苦労様!此方にどうぞ」

 

佐藤が支店長を招き入れれば、支店長『増尾 桂造』が入って来て、腕時計で時刻を確認し、ホッとした様子を見せていた。

 

「いや〜、間に合ったようだ……」

 

しかし、入って来たのは桂造のみ。それに疑問を抱かない者などいるわけもなく、高木が問い掛ける。

 

「あれ?奥さんもご一緒じゃ……」

 

「あ、ちょっと銀行の方に用がありまして、妻とは此処で落ち合う事になっていたのですが……まだ、来てませんか?」

 

桂造が奥さんを捜すそぶりを見せ、高木は頷く。

 

「変だな……まだ寝てるのかな?」

 

桂造が其処でまた時刻を見る。そこで一度、連絡を取るために高木に電話を借りる許可を取り、机に置いてあった固定電話から番号を打ち込み、電話を掛ける。その際、また時計を見た。

 

「3回目」

 

「え?何が?」

 

「あの人が時計を見た回数だよ」

 

その電話のコール音は3回鳴った後取られた。

 

『はい、増尾ですけど』

 

そこで咲の耳には奥さんの声が聞こえた。桂造が妻と会話し、妻が警察にいるのかと逆に桂造に問い掛ける言葉も聞こえた。そこで桂造が一度変わると伝え、高木と電話を変わる。

 

「もしもし、お電話代わりました」

 

『ああ、昨夜の刑事さん?高木さん、でしたっけ?』

 

「はい。まだ、ご自宅にいらっしゃるようですが、どうかされたんですか?」

 

『え?どうかって、お約束は5時でしょう?』

 

そこで咲の眉が寄せられる。それにコナンが気づいたが、話は終わらない。

 

「あの〜、今日、ご主人と2人で2時に此処に来るようにしたと、ご主人は言っておられますが……」

 

『そんなこと聞いてないわ』

 

「え?聞いてない?」

 

その言葉が出された瞬間、桂造が焦ったように高木から受話器を奪い取った。その奪い取られた力が強く、高木がふらついてしまい、スピーカーのボタンを押してしまった。それに高木も気付き、あっと声を出した。

 

「何言ってるんだよ!?」

 

桂造が慌てて奥さんにそう言ったその瞬間、

 

『キャーーーーーー!』

 

その叫び声が電話から漏れた。周囲がその声に驚く中、1人スピーカーになっていた事には気付いていなかった咲が思わずといった様子で耳を塞ぐ。しかし目眩は起こさなかった。まだ耐えられる音量らしい。高木が慌てて桂造から受話器を取り、奥さんを呼ぶ。しかし、相手から返事はない。何度も呼びかけるが、やはり反応はない。そこで佐藤が機捜を用意しておくように言い、彼女は車を回しに行った。しかし機捜が分からない元太が光彦に聞けば、それに光彦は『機動捜査隊』の事だという。そこでコナンに同意を貰うためにコナンの名を呼ぶが、そこにコナンの姿はもうなかった。

 

「……え、何事?何があったの?」

 

そんな時、出て行った佐藤達とはすれ違いで瑠璃が入って来る。彼女は先程の叫び声を聞いていなかったらしい。そしてその後ろには伊達がいた。

 

「……って、あれ?咲じゃん。どうしたの?確か、古城の事件のことで高木さんと話すことになってたはずだよね?」

 

そこで彼女が咲に気付き、声を掛けてきた。どうやら彼女は目暮から高木に変わった事を知っていたらしい。それに咲はジト目。

 

「お前こそ何してるんだ?さっきの叫び声、聞こえていなかったのか?」

 

「?叫び声?うーん、さっきまでお昼食べに行ってて、今帰って来たばかりだから……それで、叫び声ってことは事件?」

 

瑠璃が真剣な顔で先に聞けば、咲がそれに頷く。そこで瑠璃が伊達に視線を向ける。伊達はそれに頷いたのを見て、彼女は直ぐに向かおうとした。その行動を理解した咲は、瑠璃に待ったをかけた。

 

「待ってくれ。一つ伝えたいことがある」

 

「?何、どうしたの?」

 

「実は、電話がスピーカーに切り替わった後、女の叫び声が聞こえたんだが、殆ど同時に何か、大きな物が倒れる様な音が聞こえて……」

 

「大きな物?……うん、分かった!ありがとう!!佐藤さん達に伝えておくよ!」

 

そう言って、彼女は伊達と共に出て行った。その後、瑠璃の運転で事件現場に向かう途中に、伊達が疑問を投げかける。

 

「おい瑠璃。あの嬢ちゃんが聞いたっていう音のこと、本気で信じてんのか?勘違いとか、そう聞こえたって可能性もあるだろ?」

 

伊達は咲の『能力』を知らないからこそ、その発言をした。勿論、瑠璃もそれは承知の上であり、聞かれるだろうと思っていたことだ。そこで咲の能力を説明することにした。

 

「咲は、一般の人よりも聴力が鋭いんです。人の足音を聞いただけで、人を区別出来るぐらいには」

 

「へ〜?そりゃ凄い。まるで猫だな」

 

「そうですね。……実は、私の兄妹にも、同じ力を持ってた子がいて……」

 

「お、そうなのかい?そりゃ偶然だな!」

 

伊達のその言葉に、瑠璃は釈然としない思いを抱く。

 

「……そう、ですよね……偶然ですよね。……きっと」

 

「そういや、そのお前さんの兄妹は?」

 

「……昔、小さな頃にドイツ旅行に行って誘拐されて……以後会ってません」

 

その言葉に伊達の目が見開き、申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「すまねえ。聞いちゃいけないことだったな」

 

「いえ、謝らないで下さい。今は修斗が見つけてくれて、今の成長した姿を見れたわけじゃないですが、手紙でのやり取りは出来てるので」

 

その言葉で少々心が軽くなったらしい伊達が、瑠璃の頭を撫でる。それは、この話をして若干声が沈み気味の瑠璃を慰めるためのもの。彼女もそれを理解しているため、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

事件現場へと辿り着き、部屋の中に入れば、佐藤と高木が視線を向けて、少し目を見開いた。どうやら来ると思っていなかったらしい。

 

「る、瑠璃さん!それに伊達刑事も!どうしてここに!?」

 

「いや〜、高木が慌てて出て行くのを見て、何事かと思ってね?残ってた子供達に事情を聞いたら、事件が発生したって聞いたから、慌てて来たの」

 

「そういうこった。つまり俺らは加勢だ。おら、機捜が来るまでに出来ることはちゃちゃっと済ますぞ!」

 

その伊達の言葉に佐藤達は返事をし、佐藤が周辺住民の聞き込み、瑠璃がまだ少々パニックになっている桂造を落ち着かせて詳しい話を聞き、高木と伊達が現場保存と現場の捜索を始めた。

 

「この遺体、エアロバイクの近くで倒れてやがる。見て分かる通りに背中に深々と刺さったナイフでの刺殺だが……」

 

「電話の時、後ろから刺されて即死だったんでしょう。奥さんを殺したのは、恐らく、強盗犯の1人かと」

 

「ああ、そういや、電話の最中に襲われたって聞いたが……叫び声をあげたんだろ?仏さんは」

 

「はい。それは僕も、佐藤刑事も聞きましたから、まず間違いありません」

 

そこで検死官達がやって来た。機動捜査隊や鑑識の方々が現場の証拠などを集めている間に、佐藤が奥さんの説明を始める。

 

「殺されたのは『増尾 加代』さん、42歳。凶器は背部に突き立てられたナイフ」

 

「もがいた様子もないし、これは即死だろうね……南無」

 

「犯行時刻は恐らく、被害者が悲鳴をあげた時ね」

 

「佐藤、周辺の近隣の人達から、怪しげな人物などを見かけた奴は?」

 

「いえ、それがいませんでした」

 

伊達の質問に、佐藤がそう答える。それを聞いた伊達が考え込むように顎に手を当てた。

 

「ふむ、高木がスピーカーにしてしまった時、絶叫が響いたんだよな?」

 

「はい。僕が誤って押してしまって……」

 

「その時ですよ。妻の絶叫が聞こえたのは」

 

そこで桂造言う。それを瑠璃が記憶の中に収めつつ手帳に書きこむ。瑠璃の場合、記憶で事足りることなのだが、刑事なりたての頃、手帳に書かずに犯人を暴いた時、犯人が言い逃れようとし、それを瑠璃が矛盾を指摘したことがあるのだが、そんなこと言ったかと言い逃れられかけたことがあったのだ。その時は兄の彰が心配だからとついて来てくれていたため、彼が書いてた手帳で何とか場は解決したものの、そのあと、コッテリと彰から絞られたのだ。以後、彼女は自分の記憶だけに頼らず、手帳にも書き込むよう心掛けている。

 

「つまり、通話中に何者かに背後から襲われたことになるって訳ですね」

 

「そうだな。だが、ただ電話してただけじゃなく……」

 

「きっとこの人、エアロビバイクを漕ぎながら電話してたんだよ」

 

そこで伊達の言葉をコナンが遮り、彼は遺体の近くにあるエアロビバイクを指差した。遺体の位置はエアロビバイクのすぐ横。刺されて死に、そのままずれ落ちたのだと考えつく。

 

「それに、ほら見てよ。この人、汗かいてるし、シャツも湿ってるよ」

 

「え?……あ、本当」

 

コナンの言葉に瑠璃が目を見開き、シャツを見てみれば、確かに脇や首元辺りが湿っていた。

 

「人間は死んだら新陳代謝機能が停止するから、室温は上がっても汗はかかないし、かいていた汗は引かずに長時間残ったまま。つまりこの人、殺害される直前まで、汗をかく何かをやってたってことだよね?それに、さっき見たら下駄箱の中にはジョギング用のシューズなんか無かったし、この家の中でこんなに汗を掛けるものと言ったら、このエアロビバイクぐらいだよ」

 

そこで得意げに語っていたコナンに高木が近付き、目線を合わせる。

 

「こら、ダメじゃないか、現場に入って来ちゃ……」

 

「へ〜!なかなかやるじゃない!」

 

注意する高木とは逆に佐藤は手放しで褒める。彼女はコナンと視線を合わせた。

 

「坊や、まだ名前聞いてなかったわね」

 

佐藤のその認めた様子に、コナンは嬉しそうに笑って名前を告げる。

 

「江戸川コナン、探偵さ」

 

「た、探偵?」

 

佐藤がコナンの言葉に驚いた様子を見せる。見た目小学一年生が『探偵』を名乗ったのだ。驚かないわけがない。そこでフォローを入れる高木。

 

「ほら、毛利さんが預かってる少年ですよ」

 

それに佐藤が納得する。コナンの偏った妙な知識に関しても、そこから得たのだろうと考えた。しかし、小五郎と一度事件現場で会ったことがある伊達はといえば、訝しげに見ていた。

 

「……どうしました?伊達さん」

 

「いや、俺の目から見た毛利探偵は、どうにも子供にそんな知識を披露するように見えなかったんだが……」

 

「ああ。むしろ、子供が事件に関わってくるのは否定的ですね。直ぐに帰らせようとしてるところを何度か見たことあります」

 

「ああ。だからこそ、子供にそんな知識を披露するのに違和感がある」

 

「なら、コナンくんの知識とか?ほら、あの子、知識欲高そうですし」

 

その瑠璃の言葉に、やはり釈然とした様子はないものの、一応は納得した素振りを見せる伊達。今の集まった情報だけでは、そこに結論が行くしかなかったのだろう。例え、彼の中の勘が否定していたとしてもだ。

 

「ねえ坊や?大きくなったら刑事になりなさい。ウチに配属されたら、私達が優しく面倒見てあげるから」

 

佐藤のその言葉をコナンに言った後、高木に声を掛ける。高木はといえば、佐藤に声をかけられたのが嬉しかったのか顔を赤くする。

 

「さて、それじゃあ部屋の中を隈なく探しましょう。一応、金目当ての可能性もあるから」

 

「いや、これはただの物取りの犯行じゃない」

 

そこでこの場の誰とも違う声が聞こえ、部屋の入り口へと全員が視線を向ければ、そこには白鳥が立っていた。

 

「犯人のターゲットは、最初からこの奥さんに絞られていたと、僕ならこう見るがね」

 

「し、白鳥警部……」

 

「お?ってことは……」

 

「ええ。従ってここの事件の指揮は僕と伊達警部で取ることになります」

 

「伊達さんも警部ですからそうなりますよね〜」

 

瑠璃の言葉に白鳥が頷く。その反対に、佐藤の目は細まり、白鳥を見る。

 

「あーら良いわね〜、キャリア組は。出世が早くて……良かったら、私もあなたのお嫁さん候補の中に入れといてくれる?」

 

「ええ、喜んで」

 

その2人のやりとりに高木は焦り顔。それを後ろから見ていた伊達はと豪快に笑い、肩を組む。

 

「お〜、これはモタモタしてらんね〜な?高木〜!」

 

しかし伊達の言葉が聞こえていなかった高木は、由美から聞いた佐藤の好きな人が、白鳥かと考える。しかし、現在職務中ということで被りを振ってその考えを追い出す。そして逆に伊達はと言えば、その佐藤の好きな相手というのが、白鳥ではなく松田であることを理解していた。

 

(これは、三角関係ならぬ四角関係か?いや〜、面白くなりそうだな!)

 

此処に瑠璃を入れないのは、残念ながら瑠璃が松田達をそんな対象で見ていないからだ。つまり、一巡することはないが全て一方通行状態なのだ。

 

「で、物取りじゃないという根拠は?」

 

「君達が電話で聞いたという被害者の悲鳴だよ」

 

白鳥の意見を聞くと、普通、物取りは電話中の相手を態々襲わないのだという。また、姿を見られて叫び声をあげられたとしたなら、尚更逃げるだろうと。

 

「それに被害者は今日、警視庁に何か、証言をしに来るはずだったんだろ?」

 

その質問を投げかけられた高木は肯定する。

 

「ええ。例の銀行強盗の件で思い出したことがあるから、ご主人と2人で来られることになっていました。でも、約束の時間に来られないので、ご主人が心配されて、此処に電話したんです」

 

そこで本当かを確認するために、後ろにいた桂造に確認の視線を送れば、上手く考えを読み取ってくれた桂造は頷いて肯定する。それで白鳥は確信したような笑みを浮かべて続ける。

 

「その電話で被害者は、電話の相手が警察だと、匂わすことを話していなかったかい?」

 

「言ってましたよ。僕が電話を変わった時、『昨夜の刑事さん?』って」

 

「じゃあ間違いない。犯人は被害者に、それ以上警察と話させたくなかったから、電話中に殺害したんだ」

 

「ちょっと、それって……」

 

「ああ。恐らく犯人は、例の二人組の強盗犯。被害者はあの事件で銃を突きつけられて、強盗犯の1人にかなり接近している。犯人はその時、顔を見られたと思って口封じの為に被害者を殺害したという訳さ」

 

白鳥はそのあと、被害者が人質に取られた時、激しく抵抗して犯人が付けていた目出し帽を掴んでいたりもしたのだという。確かに、そんな事されれば、見られたと思う可能性もあると考えた瑠璃。高木もまた、その暴れっぷりから、偶々来店していた目暮警部の奥さん、緑に変えたぐらいだと言う。

 

「もっとも、目暮警部の奥さんは自ら進んで人質になったようですけど」

 

その言葉に白鳥が驚いた様子を浮かべる。そこで桂造が思い出した様子で白鳥を見ていう。

 

「そう言えば、妻が昨夜、外国人がどうとか言っていました!」

 

それで白鳥は納得し、奥さんがその強盗犯の特徴を刑事達に伝えたかったのだと言う。そこで白鳥が高木に特捜本部に、強盗犯の1人が外国人だと特定したことを伝えるように言い、高木も伝える為に走り出す。そこでコナンが顎に手を当てて考え込むようにしながら待ったを掛ける。

 

「でも変じゃない?ほら、エアロビバイクの後ろって2mぐらいしかないよ?」

 

「確かに。後ろにはドアなんてない。エアロビバイクに乗っている最中になんで後ろから狙われたんだ?普通、誰か入って来たなら気付くだろ」

 

そこで白鳥が開かれた様子でコナンの襟首を掴み、持ち上げる。小学生の体になってしまったコナンでは抵抗など出来るはずもなく、なすがままに空中にぶら下げられた。佐藤は白鳥がコナンを知ってる事を知り、結構有名であることを理解した。その2人とコナンを見て、何故か2人の間で赤ちゃんが生まれ、その赤ちゃんを愛おしそうに育てる2人の姿を想像した高木は、そこでその考えを消す為に自分の頭を何度も叩く。その様子を見た伊達はニヤニヤと笑っていた。

 

「それに、それなら咲の発言と矛盾してますよ」

 

そこで瑠璃が言った『咲』と言う名前に反応した全員。咲が誰かも、その能力も知らない高木達は首を傾げたが、コナンと伊達は真剣に聞く様子を見せる。

 

「瑠璃刑事、咲はなんて?」

 

「あの悲鳴が聞こえた時、大きな物が倒れる音も聞こえたって……」

 

「瑠璃さん、咲って誰?」

 

「ああ、佐藤さんは知らないっけ。ウチで預かってる親戚筋の子供」

 

「あっ!あの古城の事件の聴取の中に、そんな名前の子供がいたような……」

 

「おいおい。瑠璃さん、子供の言うことなんて信じるのかい?それに、悲鳴は大声量だ聞こえたんだろ?なら、そんな音が聞こえるなんて事、まずあり得ないだろ」

 

白鳥の言葉は最もだ。普通、誰も思いもしないだろう。その子供が、足音だけで人を区別出来るなんて芸当が出来ることを。しかし、これまでそれと似た様な聴力の良さを見てきたコナンと、瑠璃が嘘で言ってないと信じている伊達は、それを全面的に信じた。

 

「でも、あの子が音に関して嘘なんて吐く事はありません!」

 

「だが、この現場を見てごらんよ。倒れてるものなんて一つもない」

 

その白鳥の言葉に、瑠璃は苦虫を噛み潰した様な顔でなお睨む。彼女は咲の力を知っているからこそ信じているのだが、そんな力を知らない白鳥に信じろと言うのが難しい。

 

「そ、それに!伊達さんとコナンくんの疑問だって解決してません!」

 

そこでコナンが追撃する様に佐藤達にも言う。

 

「そうだよ!刑事さん達だっておかしいと思うでしょ?」

 

「でもね?背中を刺されているからと言って、背後から襲ってきたとは限らないわよ?被害者が犯人を見て、逃げようとして、背中を刺されたって場合もあるし……」

 

「だったら遺体は、エアロビバイクからもっと離れた場所に倒れてるはずだよ?」

 

そこでコナンと、コナンにそう説明していた佐藤が遺体へと目を向ければ、その遺体の近くにある電話と足を見る。

 

「遺体の近くには電話もあるし、別の所で倒れたのなら、足の所にも汗が残ってるはずだし、それに犯人が遺体をエアロビバイクの側に移動させる理由なんてないでしょ?」

 

その言葉は確かに納得出来るもので、佐藤も納得する。それを見て、伊達が桂造に聞く。

 

「増尾さん、奥さんはえつもエアロビバイクを漕いでたのか?」

 

「ええ。毎日、昼の2時にこれを漕ぐのが妻の日課になっていました」

 

「失礼ですが、お二人が朝起きられる時間は?」

 

そこで白鳥が質問すれば、桂造はそれに、自分は銀行があるから朝に出ると言い、加代の方はここ最近、深夜まで彼女の友人達と飲み歩いていた為、昼近くまで寝ていると思うと答えた。それを聞き、白鳥はフッと笑う。

 

「ならば答えはたわいもない。僕の推理が正しければ、犯人が潜んでいたのは恐らく……このカーテン付きの棚の中っ!?」

 

そこで彼が向かったのは、エアロビバイクの後ろにあったカーテン。そこでカーテンを開いた。彼の予想としてはそこは棚の筈だったが、そこは棚ではなく本棚だったらしい。冊数はあまり入っていない。

 

「……これじゃあ、隠れれる場所はありませんね」

 

「いや、これは好都合。あまり本は入っていませんね。人が隠れるには持ってこいだ」

 

「え、忍者?忍者の末裔かなんか?」

 

瑠璃が何故か目を輝かせる。彼女から見て、本棚の隙間は狭いが、白鳥は隠れるには十分だと判断したらしい。

 

「それにしても中身が少ないわね。その棚だけ、周りのカーテンと違って濃いベージュだし」

 

「その棚は、部屋の模様替えでそこに置いたばかりなんです。近々、他のカーテンもその色に変えるつもりでした」

 

「でも、瑠璃さんの言うとおり。そんな所に人なんて隠れられる?」

 

その佐藤の疑問に、白鳥は本棚の棚を押し上げる。それは簡単に押し上げられた。

 

「この棚を外せば、楽に大人1人入れますよ」

 

「なーんだ、忍者じゃないのか」

 

「お前は外国人観光客か」

 

瑠璃のふてくされた様子を見て、伊達が軽くチョップを頭に入れる。そんな2人のやり取りを知らぬふりして白鳥が自身の推理を話す。

 

「つまり犯人の行動はこうです。予め、この家の住人の行動パターンを調べていた犯人は、ご主人が外出した後、奥さんが起きる前にここに侵入し、この本棚の中に隠れて殺害の機会を待っていたんです。エアロビバイクに跨り、無防備に背中を見せるその時をね。だが、いざとなると中々思い切れない。そんな時、幸か不幸か警察から電話が入り、焦った犯人は、本棚から飛び出して計画を実行したと言うわけです」

 

その推理の為には侵入口が必要なのだが、その侵入口となる場所は、現場の近くの通路にある、ガラスの一部が丸くくり抜かれた窓。その推理を聞き、佐藤が納得した。彼女は桂造から昨夜、加代から怪しい人物を見たと言われたと伝えられていた。勿論、部屋のレイアウトに関しても、加代の習慣を知っていればおかしくないという。それにムウッと頬を膨らませる瑠璃。白鳥の推理の中には、彼女が咲から聞いた意見など、まるで反映されていないのだ。伊達とコナンといえば、白鳥の推理の大きな穴に気付いていた。そして、だからこそ2人は、犯人が誰かを理解していた。しかし、全時点で警視庁から加代を殺す方法が分からない限り、その夫である桂造が犯人だと言えない状況。だからこそ、伊達とコナンは、必死にその方法を考えるのだった。




別に白鳥警部は嫌いじゃありませんが、多分、能力とかそんなこと知らない人が、見たことも聞いたこともない子供の能力を聞かされたとしても、こんな反応しかしないだろうと思って反映させていただきました。そして、良い子の皆さんは事件現場の時に忍者みたいな行動を言われたとしても、目を輝かせないようにしましょう。とても不謹慎ですので。

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