とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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出来れば、今日のうちに世紀末の魔術師編を終わらせたいですね……この話、好きですけど。

2話連続投稿出来るように、頑張ります!


第19話〜世紀末の魔術師・4〜

沢辺の案内でまず入った部屋は、騎士甲冑ばかりが置かれた部屋『騎士の間』だった。しかし調べても特にはなにもなく、階段を登って二階に上がり、絵画ばかりが飾られた上品な部屋『貴婦人の間』にやって来た。

 

「大奥様はよくここで一日中過ごしておられました。この部屋が一番気が休まるとおっしゃられて……」

 

「確かに静かに過ごせる部屋だな」

 

「そうだな。今はこれだけ人がいるが、いなかったら雑音1つしないだろうしな」

 

修斗と咲が同意を示す姿を見ていたコナンは乾いた笑いを漏らす。その時、将一が隠れてニヤリと笑っていたことに、誰も気付かなかった。

 

「此処は『皇帝の間』でございます」

 

その紹介の元、やって来たのは『貴婦人の間』の右側にある石像ばかりの部屋。その部屋の中央の壁には、かのナポレオンの様に馬に乗った人間の石像もあったが、ナポレオンを模していなくともその出来栄えの良さは、伝わってきた。なぜなら、1つ1つに丁寧に掘られており、誰も気にしない様な馬の鬣の毛の形まで、キチンと掘られているのだから。

 

「なあ、ちょっとトイレ行きたいんだが……」

 

そこで将一が沢辺にそう尋ね、沢辺も丁寧にトイレの場所を教える。それに礼を言った後、将一は出て行った。それを見ていた修斗は、呆れた様な溜息を吐いていた。

 

「……人って、とても欲深い生き物だけど、あそこまで忠実に欲に従える人間はどうやって育ってきたんだろうな?」

 

「?なんの話だ?」

 

「そのうち分かる話さ」

 

修斗が咲の質問に明確には答えずそう流せば、咲は分かりやすく訝しげな顔で修斗を見上げた。そこから暫くして、咲の耳にガシャンと、何かが閉まる様な音が入ってきた。

 

「……?今、何か音が……」

 

「はあ?音だぁ?……んな音、聞こえなかったが……」

 

咲の言葉を拾った小五郎がそう行った瞬間、将一の叫び声が聞こえ、全員が慌てて『貴婦人の間』に戻れば、そこには短剣などがぶら下がったその下に、右手首が捕まったままの状態で体を伏せようとしたらしい将一の姿があった。顔中は冷や汗だらけで、息遣いも荒い。相当焦った様子だ。

 

「80年前、貴市様が作られた防犯装置です。この城にはまだいくつか仕掛けがありますから、ご注意下さい」

 

沢辺が説明しながら将一の手首を捕まえていた手錠を鍵で解放してやる。その間に白鳥が将一の持ち物を探り、鋸やドリルといった類の道具を手に取った。

 

「つまり、抜け駆けは禁止ってことですよ……乾さん」

 

白鳥がそこで将一に投げ渡したのは、赤い懐中電灯のみ。それに喜びの顔を出すが、白鳥からそれだけあれば十分だと言われ、不貞腐れてしまった。そんな将一の前を通るコナン。しかしすぐに止まり、カラクリで出された短剣達を見上げる。

 

(本当にカラクリが好きなんだな、貴市さん。となると……)

 

そこでコナンが沢辺にこの城に地下はないかと聞くが、ないと答えられた。

 

「なら、一階に曾お祖父さんの部屋は?」

 

「?それなら執務室がございます」

 

そこで全員がまた一階に移動し、貴市の執務室までやって来た。先頭で入った沢辺が部屋の灯りを点け、沢辺の許可が下り、中に入る。沢辺の説明では、執務室内には貴市の写真と当時の日常的な情景を撮影されたモノが展示してあるとのこと。それは確かに説明通りのものしかなかったが、修斗は部屋の写真を見歩いていた。そんな時、部屋の中を見ていたコナンが、夏美の曾お祖母さんの写真がないことに気づき、夏美に尋ねる。

 

「ねえ夏美さん。曾お祖母さんの写真は?」

 

「それがね、一枚もないの。だから私、曽祖母の顔を知らないんだ」

 

夏美がそう明るく言えば、コナンは納得した様子を見せる。しかしそれは見せかけだけであり、頭の中では違和感を考えていた。

 

(妙だな。貴市さんの写真は沢山残ってるのに……)

 

そんな時、将一がある写真を見て、驚きの声をあげる。

 

「おい!この男、『ラスプーチン』じゃないか!?」

 

その名前に驚き、修斗も将一の元まで近付けば、将一の近くにいたらしいセルゲイもその写真を見ていた。

 

「ええ、彼で間違いありません。『Г.Распутин(ゲー・ラスプーチン)』と書いてありますからね」

 

(Г.Распутин……?)

 

「ねえお父さん。『ラスプーチン』って?」

 

蘭のその質問の言葉に、咲と青蘭が振り向けば小五郎が困った様子を見せていた。

 

「いや〜、俺も世紀の大悪党だったということくらいしか……」

 

そんな二人に、将一が説明する。

 

「奴はな、『怪僧・ラスプーチン』と呼ばれ、皇帝一家に取り入って、ロマノフ王朝を滅亡の原因を作った男だ。一時、権勢を欲しいままにしたが、最後は皇帝の親戚筋に当たるユスポフ公爵に殺害されたんだ。川から発見された遺体は、頭蓋骨が陥没し、片方の目が、潰れていたそうだぜ」

 

その言葉に蘭は怯えた表情を浮かべているが、咲はそれを無表情で聞いていた。それは将一の目に入り、意外そうな目で見られた。

 

「お嬢ちゃん、怖くないのかい?……ほら、あのお姉さんみたいによ」

 

その問いに、不思議な想いを抱いた咲。

 

「?何がだ?」

 

「だから、無残な姿を想像してみろよ。……怖いだろ?」

 

「昔の、しかもロマノフ王朝といえば1613年から1917年まで続いた王朝だ。普通に戦争だってある時代だ。今更、それを聞いてもな……あまり怖がる要素がないな。時代背景的には普通なことだ」

 

その答えに、将一は少々悔しそうな顔で咲を見る。どうやら怖がって欲しかったらしい。そしてそれを聞いていたコナンは、片方の目の話で反応を示した。今回の事件も、同じように片方の目が撃たれているのだから、反応するのは当たり前だ。

 

「乾さん、今はラスプーチンの事よりもう1つのエッグです」

 

白鳥がそう言う隣では、小五郎が煙草を吸い始めてしまった。

 

「そうは言ってもな、こんな広い家の中からどうやって探しゃいいんだ……」

 

その時、小五郎の持っている煙草の煙が、大きくユラユラと揺れていることに気付いたコナン、修斗、咲。風のない室内である筈のこの執務室では、ただ上に立ち昇るだけのはずなのに、それが大きく揺れているとなれば、何処からか風が入ってきていることになる。それも、小五郎の近くから。

 

それを理解した瞬間、コナンは小五郎の煙草を持つ手に飛び掛る。

 

「オジさん、ちょっと貸して!」

 

「お、おい!」

 

小五郎が注意するが、コナンは既に小五郎から煙草を奪っていた。煙草で火傷した様子は何処にもない。

 

「こらコナン!」

 

「下から風が来てる。この下に秘密の地下室があるんだよ!」

 

その言葉に周りが驚きで騒めく。コナンが煙草を床から離したタイミングで蘭が灰皿を持って来て、コナンがその灰皿に煙草を押しつけ、火を消した。

 

「とすると、カラクリ好きの貴市さんの事だから、きっと、何処かにスイッチがあるはず……」

 

そんなコナンの様子を見ていた修斗と咲は、同時に頭を抱えた。コナンの行動と言動と態度は、既に子供の範疇から超えていた。

 

「……これは、暴露ても仕方ないぞ。彼奴、隠す気あるのか?」

 

「それはお前も言えねーぞ。さっきのラスプーチンの話の時のお前の態度と返しの言葉は既に子供が言う言葉じゃねーよ」

 

その話の間にコナンが既に地下への入り口を開くためのスイッチを見つけていた。しかし、ただボタンを押せば開くものではなく、ロシア語のアルファベットが設置されていた。どうやらパスワードが必要らしい。そこでロシア人のセルゲイにスイッチを押してもらうことになった。

 

「思い出!Воспоминанияに違いない!」

 

その言葉を受け、セルゲイがその通りに入れてみるが、扉が開く様子はない。

 

「なら『貴市 香坂』だ!」

 

「КИИЧИ КОСАКА……」

 

「……何も起きねーぞ」

 

そこでセルゲイがなつみに何か伝え聞いてる事はないかと問い掛ける。しかし夏美は思いつくものがないらしく、首を横に振る。その時、コナンがポツリと呟く。あの時、部屋で夏美から聞いた言葉を。き

 

「バルシェ、肉買ったべか……」

 

「え?」

 

「夏美さんが聞いたあの言葉、ロシア語かもしれないよ?」

 

「夏美さん、バルシェ……なんですか?」

 

「バルシェ、肉買ったべか」

 

そこでセルゲイが考え込む。しかし、修斗は理解したらしい。

 

「切るところが違うんだよ。『バルシェ、肉買ったべか』じゃなくて、『バルシェ肉、買った、べか』……ロシア語でちゃんと言えば……」

 

「『ВАЛШЕБНИК КOНЦА ВЕКА(ヴァルシェーブニク カンツァ ヴェカ)

 

修斗の言葉を引き継ぐ様にして青蘭がそう言えば、コナンが驚きで青蘭の方に勢いよく振り向き、セルゲイが反応した。

 

「そうだ!ВАЛШЕБНИК КOНЦА ВЕКАだ!」

 

「それってどう言う意味?」

 

「英語だとThe Last Wizard of the Century。日本語では……」

 

「世紀末の魔術師」

 

青蘭があったその言葉は、あのキッドの予告状にも書かれていた言葉。それを小五郎は『偶然』と片付けたが、コナンは納得しない。

 

「兎に角、押してみましょう」

 

セルゲイはそこでロシア語で押せば、何かの作動音が響き渡り、咲が思わず耳を塞ぐ。その音が止むと共に、セルゲイとコナンがいた床が動き出す。その床はゆっくりと壁側に隠れて行き、下から埃が舞い上がり、それが晴れると共に、地下への入り口が、開かれた。

 

「こ、こんなものが……!?」

 

「まあ、ない方がおかしいよな」

 

「でかしたぞ、坊主!」

 

将一がコナンを褒めれば、気障な笑みを浮かべた。そのまま白鳥を先頭に下へと降りていく面々。灯りは白鳥の懐中電灯、小五郎のライター、コナンと咲の時計型懐中電灯で床を照らしている。しかしそれでも地下へ行けばどんどんと暗くなり、セルゲイと将一も懐中電灯を点けた。

 

「それにしても夏美さん」

 

「はい?」

 

「どうしてパスワードが『世紀末の魔術師』だったのでしょう」

 

「多分、曽祖父がそう呼ばれていたんだと思います。曽祖父は、1900年のパリ万博に、16歳でカラクリ人形を出展し、そのままロシアに渡ったと聞いてます」

 

それに小五郎も修斗も納得した。1900年は、19世紀最後の年であるため、確かに『世紀末』だ。

 

会話が途切れながらも歩いていると、レンガブロックの様な道から、洞窟の様な広い空間に出た。しかし道はまだまだ続く様子を見せ、今どのくらい深い位置にいるのか、把握するのが難しくなってきた。そんな時、何か石が崩れる様な音がコナンと咲の耳に入り、その音が響いた方へと顔を向ける。

 

「どうしたの?」

 

「今、微かに物音が……」

 

「石の崩れる様な、蹴られたような、そんな音だった」

 

「なに!?スコーピオンか!?」

 

コナンがそこで見てくるといい、その後にすぐさま咲もついていく。蘭がコナンの後について行こうとしたが、そこは白鳥に止められ、白鳥が付いていくと言った。他の人達のことを小五郎に任せ、コナンに付いていく。そして白鳥が見えなくなった時、将一が人影が一人離れていくことに気づき、その後を追っていく。その事に気づいた修斗は、止まる事なく見送った。今ここで声を出せば、彼だけでなくもう一人、殺される事になる。最悪、今ここで全員まとめて心中する可能性を考えれば、彼の中で自ずと出た答えは『見捨てる』事だった。

 

(……すまんが、俺も死にたくないんでな)

 

その後、コナンと咲、白鳥が戻ってきたが、どうしてか少年探偵団まで引き連れて帰ってきた。そんな子供達を見て、小五郎はげっそり顔、修斗は深々と溜息を吐いた。しかし少年探偵団はそんなこと気にせず、静かに歩いていた一行に、歌を高らかに歌いながら歩く少年探偵団3人が加えられ、賑やかな道中に様変わりした。

 

「どういうつもりなんだ、こいつら……」

 

「まあいいじゃないですか、毛利さん。大勢の方が楽しくて」

 

夏美の言葉に小五郎は納得しない。しかしその道の先にあたった行き止まりに、その会話は止まってしまった。

 

「行き止まり……」

 

「通路を何処か間違えたのかしら?」

 

夏美の言葉に白鳥が通路は一本道だったと答える。そこで白鳥が灯りを壁に当てて何かないかと下がり始めた時、顔が二つある鷲の絵が照らされた。その鷲の頭の上にあるのは一つの王冠、その王冠の背後には太陽まである。

 

「双頭の鷲……皇帝の紋章ね」

 

「ああ……王冠の後ろにあるのは太陽か……」

 

「……ああ、なるほど」

 

そこで修斗が理解したらしい声が響き、コナンが修斗を見やれば、面倒くさそうにしながらも白鳥に近づく修斗。

 

「白鳥さん、双頭の鷲の王冠に、その懐中電灯の光を当ててくれ。あ、光は細くしてな」

 

「は、はい……」

 

その指示に従い、王冠に細くしたライトを当てれば、王冠がキラリと光る。その瞬間、洞窟が揺れ始め、白鳥の一歩前にいたコナンの場所が下の下り始める。白鳥が他の子供達に下がるように指示している間にも下がり、徐々に入り口が開かれ始めた。

 

「入り口?なるほど、この王冠には光度計が仕組まれてるってわけか……」

 

その時、修斗とは白鳥が立っている場所も揺れ始め、慌てて二人がさがれば、その床が左右に分かれ、コナンのいる下へと続く階段が現れる。その壮大なる仕組みに全員が驚愕した。こんな仕組み、普段ならまず目にしないのだから当たり前だ。

 

そのまま階段を降り、入り口へと入っていけば、またとても広い空間に出た。しかし今度は洞窟のような場所ではなく、まるで教会の様な神聖さを感じる場所。教会との違いを言えば、そこにステンドガラスはなく、目の前に何か四角い箱の様なものがある事。四角い部屋ではなく丸い空間である事、椅子がなく、空間の真ん中に何かを置く様な大人の腰ぐらいの高さの円柱の台がある事だけだ。

 

「まるで卵の中みたい……」

 

「ああ、確かに、言われれば……」

 

その歩美の言葉は一番的を得ており、その表現に修斗が小さく同意を示す言葉を呟いた。その間に小五郎が近くに置かれていた少々溶けている蝋燭に火を点け、その反対側にも置いてある、同じ様な蝋燭に火を点け、空間内を照らした。灯りを照らせば、箱が棺である事がよく分かり、白鳥がその棺に近づく。

 

「棺の様ですね……」

 

「作りは西洋風だが、桐で作られている。それにしてもデカイ錠だな……」

 

その言葉にコナンがハッと思い出し、夏美に鍵の事を伝える。夏美もすぐに気付き、鍵を鞄から取り出し、棺に近付く。そのまま鍵を錠に差し込み、回せば、簡単に解錠出来た。

 

「この鍵だったのね……」

 

(てことは、この棺の中に……)

 

小五郎が夏美に開けて良いか確認をとれば、夏美も頷く。小五郎がそれを受け、腕に力を入れて棺を持ち上げ、開く。その中には誰かの遺骨が丁寧に横にされていた。その両手が腹部の部分に乗せられているのが大切にされていた証拠となる。また、その体の上には赤色のエッグが乗せられていた。

 

「夏美さん、この遺骨は曾お祖父さんの?」

 

「いいえ。多分、曽祖母のものだと思います。横須賀に曽祖父の墓だけあって、ずっと不思議に思っていたんです。もしかすると、ロシア人だった為に、先祖代々の墓には葬らなかったのかもしれません」

 

其処にセルゲイと青蘭が夏美に近付き、セルゲイが申し訳なさそうな顔で夏美に声をかける。

 

「夏美さん、こんな時にとは思いますが、エッグを見せていただけないでしょうか?」

 

その言葉を受け、夏美がエッグを棺から取り出し、セルゲイに明け渡す。それを受け取ったセルゲイはと言えば、エッグを観察し始めた。

 

「……底には小さな穴が開いてますね。……え?」

 

セルゲイがエッグを開けてみれば、その中には何もなかった。

 

「空っぽ……」

 

「そんな馬鹿な!?」

 

「どういう事かしら?」

 

小五郎、セルゲイ、青蘭が驚いた様子を見せた時、言葉を聞いていた歩美が思い出した様に言う。

 

「それ、マトリョーシカなの?」

 

その歩美の言葉にセルゲイと青蘭が驚き、振り向く。

 

「え?」

 

「マトリョーシカ?」

 

「あたしん家に、そのお人形あるよ?お父さんのお友達が、ロシアからお土産に買って来てくれたの!」

 

「なんだ?そのマトリョーシカって……」

 

その小五郎の言葉に修斗は溜息を一つ零し、説明する。

 

「マトリョーシカは、人形の中に小さな人形が次々入ってるロシアの民芸品の人形ですよ。ルーツは夏美さんの曾お祖父さんが出展した1900年のパリ万博で銅メダルを受賞したのが機会だと言われてるな。まあ、他にもルーツはあるらしいがな」

 

「確かにマトリョーシカかもしれません。見てください」

 

セルゲイの言葉を受け、青蘭、夏美、小五郎がエッグの中を見れば、中に溝が作られていた。どうやらその溝はエッグを動かない様に固定する為のものと説明される。それを聞き、小五郎が鈴木家から見つかったエッグがあれば確かめられると悔しそうに零せば、白鳥がニヤリと笑う。

 

「エッグならありますよ」

 

その言葉に驚き、4人が白鳥を見れば、彼の肩から掛けている鞄の中から緑のエッグが取り出された。

 

「こんな事もあろうかと、鈴木会長から借りて来たんです」

 

(どんな時だよ……)

 

修斗が苦笑を浮かべて白鳥を見て入れば、小五郎が彼に近づき、怖い顔を向ける。

 

「お前、黙って借りて来たんじゃねーだろうな?」

 

「や、やだな、そんな筈ないじゃないですか」

 

そこでセルゲイが試してみる事になり、白鳥からエッグを受け取り、赤いエッグの中に入れた。するとカチッと音がなり、嵌め込まれた事が伝わった。

 

「つまり貴市さんは、2個のエッグを別々に作ったのではなく、2個で1個のエッグを作ったんですね……」

 

その言葉で解決したエッグ問題。しかし、コナンは不満顔を浮かべる。勿論、修斗も納得しない。そんなコナンの顔に気付いた哀がコナンを見る。

 

「……不満そうね」

 

「ああ。あのエッグにはまだ何か、もっと仕掛けがある様な気がしてならねー。それこそ、『世紀末の魔術師』の名に相応しい仕掛けが……」

 

そこで小五郎が赤いエッグに付けられた装飾を見て、見事なダイヤだと褒めた。しかし夏美はダイヤではなくただのガラスじゃないかと言う。それにコナンが反応し、思い返す。あの緑のエッグにもガラスが取り付けられていたのだ。そこで今までの仕掛けの数々と、この空間の中心にただただ佇む台を見る。そこでエッグのガラスが、レンズの役割をするものだと理解したコナンは、すぐに行動に出る。まずセルゲイの元に行き、エッグを貸して欲しいと頼む。そのコナンの行動に小五郎が怒りを露わにしたが、それを白鳥が止めに入り、何か手伝う事はないかと尋ねてきた。それにライトの用意を頼み、白鳥と共に台の元までやって来た。

 

「ライトの光を細くして、台の中に」

 

「分かった」

 

「セルゲイさん!青蘭さん!蝋燭の火を消して!」

 

そのコナンの指示通り、白鳥はライトの光を細くし、青蘭が息でフッと火を消し、セルゲイが指で挟んで鎮火する。あたりは白鳥が設置した細い光のみしかなくなり、全員がそこに集まりだした。

 

「一体、何をやろうってんだ」

 

「まあ見てて」

 

コナンがそこでエッグを灯りの上に置いた。するとエッグの外側に光が走り、エッグ自身が赤く光りだし、中が避けてきた。それに全員が驚きで目を見開くが、まだ仕掛けは終わらない。緑のエッグの中にあった皇帝一家の模型がせり上がる。前は螺子を巻かなければそれがせり上がる事はなかったが、今は螺子を巻いていない状態だ。セルゲイがそこに驚いていたが、白鳥が冷静に、エッグの周りに光度計が組み込まれている事を説明した。その間にせり上がれる所まで来た模型は、皇帝が本を捲ったのを合図に下から光りが登り、ガラスと本を乱反射し、赤いエッグの天井のガラスからその光が漏れだした。それはやはり乱反射し、全員がそれに驚き、天井を見やった。そこにあったのはーーー。

 

「ーーーニコライ皇帝一家の写真です!」

 

「そうか。エッグの中の人形が見ていたのは、ただの本じゃなく……」

 

「アルバム……」

 

「だから『メモリーズエッグ』って訳か……あんたの言った通りだな、修斗さん」

 

「ああ……」

 

コナンの言葉に、それだけしか返答しない修斗。彼は、それしか返答が出来なかった。

 

彼も、予想はしていた。頭で考えていた。しかし、現実で実現したその光景は、彼の予想を遥かに上回り、感動するものだった。

 

「ニコライ皇帝一家が殺害されず、これを見ていたら、これほど素晴らしいプレゼントはなかったでしょう」

 

「まさに、世紀末の魔術師だったんですな、貴方の曾お祖父さんは」

 

「それを聞いて、曽祖父も喜んでいる事だと思います」

 

「ねえ夏美さん」

 

小五郎と夏美が会話しているとき、コナンが名前を呼んで割って入る。2人がコナンに視線を移したのを見て、コナンがある一枚の写真を指差し、示した。

 

「あの写真、夏美さんの曾お祖父さんじゃない?」

 

「え?」

 

その言葉を受け、その指先の向こうへと目を向ければ、椅子に一組の男女が座っていた。

 

「あの2人で椅子に腰掛けて座ってる写真」

 

「本当だわ。じゃあ、一緒に写っているのは、曽祖母ね!」

 

その彼女は曾お祖父さんと共に微笑んで写っていた。

 

「これが、曾お祖母様。やっとお顔が見られた……」

 

「この写真だけ、日本で撮られたんですね。後から貴市さまが加えられたのでしょう」

 

(あれ、この人……)

 

コナンがそこで別の写真に写っていた、写真に目を向けた。其処には、曾お祖母様そっくりな顔の女性が、他の3人の女性と共に写っている写真だった。

 

(似てる……夏美さんと……)

 

そこでアルバムは消えて行き、光もまた、エッグの下へと消えていった。それを見届けたセルゲイがエッグを抱え、夏美を見る。

 

「このエッグは貴市さんの……いえ、日本の偉大な遺産のようだ。ロシアはこの所有権を中のエッグ共々、放棄します。貴方が持ってこそ、価値があるようです」

 

セルゲイからエッグを受け取り、夏美は礼を言う。しかし中のエッグは今現在、史郎に所有権がある。そう夏美が言えば、小五郎が自分から話しておくと言う。

 

「きっと分かってくれますよ」

 

「俺からも話しておこう。……大丈夫、あの人は理解のある人だ。だから、心配しなくていい」

 

修斗が夏美の頭を優しく撫でれば、夏美も安心したように頷く。そんなやり取りの間、コナンは将一がいないことに気付き、将一の姿を探す。

 

「ラスプーチンの写真……」

 

そんなコナンに、哀がそう声をかける。コナンも声を掛けられ、哀の方を見れば、哀がコナンの方に振り返った。

 

「……出てこなかったわね。皇帝一家と親しかったのに」

 

「ああ。確か貴市さんの部屋にも……っ!?」

 

その瞬間、思い出す。貴市の部屋にあったラスプーチンの写真に書かれた『Г』の文字を。

 

(あの『Г』の文字って、まさか!?)

 

「……おい、コナン!」

 

そこで咲がコナンの服の裾を引っ張り、彼が咲を見れば、咲は小五郎を指差していた。その指先へと視線を向けたとき、コナンの目が更に見開かれるーーー小五郎の体を沿うようにして、赤い照準が、ユックリと、上がっていっているのだから。

 

「何はともあれ、これでめでたしめでたしだ」

 

「あれは!?」

 

「それでは……ん?」

 

小五郎が赤い照準に気付いたのとほぼ同時に、コナンは自身が回収したまま持っていた白鳥の懐中電灯を小五郎になげつけた。それに小五郎が驚き、後ろへ下がったのとほぼ同時に発砲音が鳴り響き渡る。小五郎は自分が狙われた事に気付かなかったのか、はたまた懐中電灯を投げつけられた事の方が衝撃が大きかったのか、コナンに何をするのかと怒鳴りつける。蘭がその間に投げつけられた懐中電灯を拾おうとした。それに気付いたコナンは叫ぶ。

 

「拾うな!らーん!!」

 

「え?」

 

コナンが蘭の方へと走る。既に彼女にも、赤い照準が狙っていたからだ。

 

「らーーーん!!」

 

その叫びをあげて呼ぶ彼の姿は、蘭には、新一に見えた。

 

(新一!?)

 

コナンが蘭の体に体当たりするようにして彼女を押し倒し、銃の狙撃から回避させる。

 

「皆んな伏せろ!!」

 

コナンの注意は、パニックになった全員に届かない。皆んな走って逃げ回る。夏美も走って逃げようとしたが、細い溝に足を躓かせてしまい、転けてしまった。その表紙に彼女が抱えていたエッグは離され、飛んでしまう。エッグは一度床と接触する音を響かせ、普通なら二度目が響き渡りそのままその場所に転がっていくものだが、2回目の落ちる音を一瞬だけ響かせたのと同時に、誰かに持ち去られてしまった。

 

「あっ!!エッグが!!!」

 

その誰かはそのまま逃げ去ってしまう。

 

「くそっ、逃がすかよ!!」

 

「ダメ!」

 

逃げ去った誰かの後を追うようにして走ってっていってしまうコナンに、蘭は駄目だと声をあげ、手を伸ばして止める。しかしその手は彼の腕を掴むことはできず、後を合わせる結果となった。

 

「毛利さん!後は頼みます!!」

 

白鳥もまたコナンの後を追って行く。それを見送る結果となった蘭は、呆然とコナンをーーー新一を想う。

 

(新一……)


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