とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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第19話〜世紀末の魔術師・3〜

警察ヘリに乗って鈴木財閥の船へと降り立った目暮達は、迎えてくれた小五郎と史郎を視界の中に収まると頭を下げて近づく。

 

「警部殿!お待ちしておりました!」

 

「たくっ!どうして君の行くところに事件が起こるんだ」

 

「いや〜、神の思し召しというか……」

 

目暮と小五郎の会話を聞いていた彰は呆れ顔。彼もまた、小五郎の行く先々で起こる事件発生率には既に諦めの境地に達し始めているのだ。そしてそんな彰の前にいた白鳥も、小五郎に話しかける。

 

「毛利さん自身が神なんじゃないですか?……死神という名の」

 

その言葉に彰は吹き出しそうになり、小五郎は嫌そうな顔を浮かべる。そして2人はそのまま目暮の後を追って行く。

 

「白鳥警部、キツー」

 

「……ん?なんだ?その絆創膏」

 

「え?あっ!昨日、ちょっと犯人とやりあっちゃって……」

 

彰達が去った後、高木と小五郎がそんな会話をしていたなど、誰も知らないまま、現場検証が始まった。

 

「被害者は寒川竜さん、32歳、フリーの映像作家か……」

 

「警部殿!これは強盗殺人で、犯人が奪ったのは指輪です!」

 

「は?指輪?」

 

彰が不思議そうな顔で問えば、小五郎は頷く。

 

「ああ!ニコライ二世の三女、マリアの指輪で、寒川さんはペンダントにして、首から下げてました!」

 

「いや、けどそれなら……」

 

「指輪を取るだけなら、首から外すせばいいだけでしょ?」

 

そこで第三者の声に全員がその声がした方へと顔を向ければ、そこにはコナンがいた。彰はいつの間に入ってきたのかと目を見開き驚くが、コナンはそんなこと関係なしに続ける。

 

「でも、部屋を荒らした上、枕まで切り裂いてるのはおかしいよ」

 

「こいつ!またチョロチョロと!」

 

小五郎がズカズカとコナンに近づき、部屋から出そうとした時、鑑識の一人が目暮に近付き、一本のボールペンを見せてきた。

 

「ボールペンですね」

 

「ああ、そのようだな……ん?」

 

目暮がボールペンを観察していた時、側面に『M・NISHINO』と名前が書かれていた。その名前を目暮が読み上げた時、コナンが直ぐに西野を思い出し、それを目暮達に伝えた。それで直ぐに西野の元へと移動し、話を聞く事となった。

 

「このボールペンは西野さん、貴方の物に間違いありませんね?」

 

目暮がボールペンを見せれば、彼は間違いないという。しかし何故寒川の部屋にあるのかは本人もわからないような反応を見せる。そんな西野に小五郎が挑発的な笑みを浮かべて確認する。

 

「遺体を発見したのは、貴方でしたな」

 

「そうです。食事の支度が出来たので、呼びに行ったんです」

 

「その時、中に入りましたか?」

 

それに首を横に振って否定する西野。その返しに彰の眉間に皺が寄る。

 

「入ってないのに、どうしてあんたのボールペンが寒川さんの部屋に落ちてたんだ?」

 

「分かりません」

 

「では、7時半頃、何をしていましたか?」

 

「えっと、7時10分頃、部屋でシャワーを浴びて、その後、一休みしていました」

 

これでは西野のアリバイはないも同然であり、それを察知した園子がまさかと心配し、それを史郎に零せば、それはないだろうと史郎が言う。彼は西野が犯人ではないと信じているのだ。そしてコナンはといえば、先ほどの話を聞き、ソファの上で胡座を掻き、考え込んでいた。

 

(もし西野さんが犯人なら、キッドを撃ったのも西野さんの可能性が高くなる)

 

そんなコナンをジッと観察する蘭に、コナンは気付かない。修斗以外の誰も、そんな蘭の様子に気付くことはなく、気付いた本人の修斗は、隠れて溜息を吐いた。

 

そんな中、一人その場から外れていた高木が戻って来た。

 

「目暮警部!被害者の部屋を調べた所、ビデオテープが全部無くなっていました」

 

「なに!?」

 

「そうか!それで部屋を荒らしたんだな!」

 

そこでコナンが唐突にソファから飛び降り、室内から出て行く。それと同時に蘭も椅子から立ち上がり、小五郎がコナンの名を呼び、修斗が蘭の様子を見てまた面倒くさそうに溜息を吐いた。

 

「こらコナン!勝手に動くんじゃ……」

 

「ああ、良いの!私が……」

 

そのまま蘭が出て行き、コナンを探す。暫くして公衆電話の部屋の近くまで来た時、彼女の肩を唐突に掴まれ、彼女は思わずその手を振り払い、構える。しかし直ぐに掴んだのが白鳥だと理解すると、構えるのをやめた。

 

「蘭さん。銃を持ってる犯人がウロついてるかもしれません。皆さんの元へ戻って下さい」

 

「あ、でもコナンくんが……」

 

蘭の心配そうな顔に気付いている様子の白鳥は、しかしそのまま帰らせる為に、コナンは白鳥が探すと伝え、それでも探したそうな蘭に「任せて下さい」ともう一度言えば、蘭はそのまま戻って行く。そんなやり取りを知らないコナンは、公衆電話を使って博士に電話を掛けていた。

 

「あ、博士?俺だけど、大至急調べて欲しいことがあるんだ」

 

コナンはそこで博士に『右目を撃つスナイパー』の事を調べて欲しいと頼めば、彼は10分後にまた連絡すると言い、切ってしまう。コナンもそこで公衆電話の子機を置き、腕時計で時間を確認する。

 

(10分か……)

 

その瞬間、コナンは誰かの視線を強く感じ、急いでその正体を確認しようと公衆電話の部屋から出たが、その場には誰もいなかった。

 

(気の所為か?)

 

その10分後、博士にもう一度電話を掛ければ、宣言通りに調べがついていたようで、右目を狙うスナイパーの事を教えてくれた。

 

『ICPOの犯罪情報にアクセスした所、年齢不詳、性別不明の強盗が浮かんだ!その名は……『スコーピオン』!』

 

「『スコーピオン』?」

 

その頃、西野の部屋では警察が探りを入れており、高木がそこでベッドの下を覗き込んだ時、、寒川の指輪のペンダントを発見した。

 

「警部!ありました!西野さんのベッドの下に!」

 

それに一番驚いたのは西野であり、彼の糸目の目が見開かれる。

 

「そんな馬鹿な!?」

 

「……決定的な証拠が出た様ですな」

 

しかし西野は目暮の首襟を掴み、彼をゆすり始める。「私ではない」と容疑を否認するが、しかし何故彼の部屋に指輪があったのか。これを説明できない限り、西野が犯人の線は黒く、太く、濃いままだ。しかし西野には覚えはない。説明など、誰も出来ない。そんな中、誰にも気づかれないまま西野の部屋に入って来たコナンは考える。

 

(犯人は十中八九、スコーピオンだ。だとしたら、西野さんがスコーピオンということに……)

 

その時、コナンは枕に違和感を感じ、枕を触る。触れば羽毛の筈なのだから柔らかいものなのだが、しかし羽毛と比べて硬い感触を掌が伝えてきた。

 

(そば殻の枕……)

 

そこで途中からコナンの存在に気付いたらしい小五郎がコナンの名前を叫びながら頭を殴ろうとしたが、それを頭を下げて回避したコナン。小五郎はその勢いのままベッドに顔から突っ込み、しかしそんな小五郎の心配一つしないコナンは、決定的な事を問いかける。

 

「ねえ!西野さんって羽毛アレルギーなんじゃない?」

 

その問いに西野は不思議そうにしながらも肯定すれば、彰が目を見開く。

 

「え、それ本当ですか?本当の本当に?」

 

「ええ、本当です」

 

「なら、西野さんは犯人じゃないよ!」

 

「なに?」

 

小五郎が目を見開いて驚いたのとほぼ同時に、白鳥の視線が鋭くなる。その視線に直ぐに気付いたコナンが白鳥の方に顔を向けるが、白鳥はフッと笑う。

 

「良いから続けて」

 

「あ、うん……」

 

コナンは納得はしないものの、そのまま続ける事を優先することにしたらしく、先ほどの言葉の続きを話し始めた。

 

「だってほら!寒川さんの部屋、羽毛だらけだったじゃない?犯人は羽毛枕まで切り裂いてたし、羽毛アレルギーの人があんなことする筈ないよ!」

 

「アレルギーは最悪、その本人を死に至らしめるほどに酷いですからね」

 

その後、確認のために関係者が集まっていた部屋に戻り、史郎に確認する。アレルギーの事は史郎が保証し、さらに彼は少しでも羽毛があるとクシャミが止まらなくなると言った。

 

「だから、西野さんの枕は羽毛じゃないんだね」

 

「そっか!西野さんが蘭の部屋から逃げる様に出て行ったのは、鳩がいたからなんだ!」

 

「となると、犯人は一体……」

 

目暮が考え込み始めた時、コナンが目暮に問いかける。

 

「警部さん、スコーピオンって知ってる?」

 

「『スコーピオン』?」

 

「色んな国でロマノフ王朝の財宝を専門に盗み、いつも相手の右目を撃つ国際指名手配犯」

 

そこで別の声がそう説明し、全員がその説明をした人ーーー修斗に目を向ける。修斗は椅子に座たままで、彰が目を細めて修斗に問い掛ける

 

「おい。どうしてお前がそんな事、知ってるんだ?」

 

「危険人物の特定はしとくべきだろ。無差別なら兎も角、特定の物を欲する犯人なら、その特定の物を俺が持ってなきゃ良いだけなんだから、危険回避に繋がるだろ?だから、前にちょっと調べたんだ」

 

「変な所に人事を尽くすな」

 

「変なとこじゃないだろ。お陰で殺人者とか強盗とか、入った事ないじゃないか。あの父親も力を貸してくれてる事だぞ?あの人が最も嫌う奴らだしな」

 

その言葉に彰は溜息を吐く。確かに、彼らの父親はどうしようもない酷い人間だが、犯罪関係には一切手を出すことも手を貸すこともしない人物なのだ。問題なのは、それが『正義感』からではないことだけ。自らに関係しない限り、予防をするだけで終わるのだ。

 

「そういえば指名手配されておったな……ええ!?なら今回の犯人も……」

 

「その『スコーピオン』だと思うよ。多分、キッドを撃ったのも」

 

そのコナンの言葉に目暮、小五郎、高木が驚きの様子を示す中、白鳥は一人静かに立ち、コナンの様子を見ているだけ。彰はこの話が出た時点で大体察していた為、警戒心を引き上げるだけとなった。そして、それは他の人達も同じである。関係者一同、驚愕の顔でコナンの話に耳を傾けていた。

 

「キッドのモノクルに皹が入ってたでしょ?スコーピオンはキッドを撃って、キッドが手に入れたエッグを横取りしようとしたんだ」

 

そこに小五郎がなぜコナンが『スコーピオン』を知っているのかと聞けば、コナンは良い言い訳を思いつかずに焦る。それに修斗が呆れた溜息を吐くが助け舟を出す様子はない。コナンはそんな修斗を軽く睨んだ時、思わぬ所から助け舟が出される。

 

「阿笠博士から聞いた」

 

その言葉にコナンが驚愕の顔で背後にいた白鳥に顔を向ければ、白鳥が何処か謎めいた笑みを浮かべてコナンを見下ろしていた。

 

「……そうですよね?コナンくん?」

 

コナンはそんな白鳥の言葉に乗っかる様にして肯定し、博士と電話していた時の視線が白鳥のものだと理解した。それとほぼ同時にあのおみくじの結果が思い出され、白鳥のことなのかと考える。

 

だからこそ気付かない。そんなコナンをずっと観察し続けるーーー蘭の視線に。

 

「しかし、スコーピオンが犯人だったとして、どうして寒川さんから奪った指輪を西野さんの部屋に隠したんだ?」

 

「それがさっぱり……」

 

目暮に聞かれた小五郎が考え込み、彰は絶対に分かっているだろうと確信を持って修斗を見れば、修斗はほぼ同時に視線を真逆に逸らした。これは彼なりの絶対に言わない宣言である。コナンもまた、白鳥の視線を感じ、迂闊に動けない状態となっていた。そこでコナンは誘導することに決め、答えを西野から聞くことにした。

 

「ねえ!西野さんと寒川さんって知り合いなんじゃない?」

 

「え?」

 

「昨日、美術館で寒川さん、西野さんを見て吃驚してたよ?」

 

「本当かい?」

 

西野は寒川の反応に気付いていなかった様で、コナンに逆に問い返す。それに一つ頷き、話を続ける。

 

「西野さんって、ずっと海外を旅して回ってたんでしょ?きっとその時、何処かで会ってるんだよ!」

 

それを言われ、西野は過去を思い返し、思い出したのか、叫ぶ。

 

「あーーー!!」

 

「知ってるんですか?寒川さんを」

 

「はい。3年前にアジアを旅行していた時のことです。あの男、内戦で家を焼かれた女の子をビデオに撮っていました。注意しても止めないので思わず殴ってしまったんです」

 

「じゃあ寒川さん、西野さんのこと恨んでるね!きっと!」

 

そのコナンの言葉を聞き、小五郎は分かったという。それに嬉しそうにコナンが頷くが、小五郎は西野がスコーピオンだと言い、修斗があからさまな溜息を吐き、コナンも肩を落とす。

 

「毛利くん、それは羽毛の件で違うと分かったじゃないか……」

 

目暮の言葉に小五郎は少々恥ずかそうに視線を逸らす。そこでコナンが修斗に視線を向ければ、眉間に皺を寄せられ、視線を逸らされる。

 

(頼む!言ってくれ!)

 

そんなコナンの願いなど、修斗には関係ない。しかし、ずっと見続けられれば居心地が悪いことこの上ない。流石に溜息を突いて頬杖を突いて言う。

 

「……兄貴、仕方ねえから乗ってやる」

 

「お、やる気出したか?」

 

「どっかの誰かが言えと言うんでな」

 

ジトっとコナンを見れば、コナンも半眼で見返す。それにまた溜息を吐けば、話し始めた。

 

「今の話を聞く限り、指輪はあんたの部屋にあったんだろ?」

 

「え、ええ……」

 

「寒川は3年前の件であんたに恨みを持ってた。そこで指輪を使って冤罪を作ることにし、恨みを晴らそうとしたんだろ……つまり、あんたは寒川がスコーピオンに殺されてなかったら、寒川の『大事な』指輪を奪った指輪泥棒にされかけたってことだ」

 

その言葉で小五郎は漸く、事件の顛末を理解した。

 

「分かりましたよ!この事件は『2つのエッグ』ならぬ、『2つの事件』が重なっていたんです!!」

 

「2つの事件?」

 

(そうそう……)

 

コナンが影でニヤリと笑っている事に小五郎は気付かないまま、話は続けられる。

 

「1つ目の事件は、寒川さんが西野さんを嵌めようとしたものです。彼は、西野さんに指輪泥棒の罪を着せるため、ワザと皆んなの前で指輪を見せ、西野さんがシャワーを浴びている間に部屋に侵入し、自分の指輪をベッドの下に隠したんです。そして、ボールペンを奪った。西野さんに、指輪泥棒の罪を着せる為に」

 

(まあ、その『指輪を見せる』行為が仇となって命を盗られた訳だが……)

 

「ところが、その前に第2の事件が起こったんです。寒川さんは、スコーピオンに射殺された。目的は恐らく、スコーピオンの正体を示す『何か』を撮影してしまったテープと指輪。しかし、首からかけてあった筈の指輪が見つからないので、スコーピオンは部屋中を荒らして探したんです」

 

小五郎のその推理に、コナンは名推理だと褒め称え、小五郎はドヤ顔を浮かべる。そんな小五郎の様子に、コナンは呆れ顔。

 

「と言うことは、スコーピオンはまだこの船の何処かに潜んでいるということか」

 

「その事なんですが、救命艇が一艘、無くなっていました」

 

「なに!?」

 

その言葉に彰、小五郎、コナンが驚愕し、修斗はチラリと、ある人物を見た。その人物はその視線に気づく事はなく、修斗は内心でホッと息を吐く。暴露たら翌日の彼は死体となって発見されただろう。

 

「それじゃあ、スコーピオンはその救命艇で……」

 

「緊急手配はしましたが、発見は難しいと思います」

 

「取り逃がしたか……」

 

「……いや、それは多分、ないんじゃないですか?」

 

彰のその言葉に目暮が視線で続きを促す。

 

「修斗、1つ質問だが……スコーピオンは必ず獲物は逃してないんだな?」

 

その彰の質問に、修斗は頷く。

 

「ああ。狙った獲物は絶対に取り逃がさない。どころか、盗む為に人を殺す事を厭わない程だ」

 

「指輪は寒川が殺された時点で見つかっていない。紛失したからといって、諦めるような人物に思えないんです」

 

「ふむ、確かに……」

 

目暮がその言葉に一理あると考えた。

 

「それに、例え逃げたとしてもですよ?もう1つのエッグを狙って、香坂家を狙う可能性は残ってますよ」

 

その言葉に夏美が目を見開く。彼女はそんな事を考えていなかったようだが、そこに白鳥が続けて言う。

 

「いや、もう既に向かっているかも……目暮警部。明日、東京に着き次第、私も夏美さん達と城に向かいたいと思います」

 

「分かった。そうしてくれ」

 

そこで修斗が彰に視線を向ければ、彼は横に首を振る。どうやら彼は付いて来ないらしい。それは小五郎も同じなようで、今度ばかりはコナンを連れて行くつもりはないと言う。しかしそこに白鳥が割って入る。

 

「いえ、コナン君も連れて行きましょう」

 

白鳥の言葉にコナンと小五郎が驚愕の顔を浮かべるが、白鳥は青スーツのズボンの両ポケットに手を入れた状態で続ける。

 

「彼のユニークな発想が、役に立つかもしれませんから」

 

その言葉に小五郎はコナンに指を指し示す。なにも分かってないわけではないが、彼の中で子供であるコナンを連れて行くのは、絶対に許可したくない事柄なのだ。しかし刑事である白鳥がそれを許可している状況に、複雑な心境を抱いている状態だ。そんな小五郎を知ってか知らずか、コナンにしか分からないようにニヤリと悪どい笑みを浮かべ、コナンは知らずに警戒心を引き上げ、そのやり取りを見ていた修斗は静かに息を吐き出した。そうして時間は過ぎ、翌日の朝となった。この時、自身が生還していることに、相当の安堵を修斗が零したのは言うまでもない。

 

東京湾に船が到着した頃、少年探偵団の3人が不満を零していた。

 

「頭にくるよな〜!コナンの奴!」

 

「本当!大阪に行ったっきり、全然連絡して来ないんだもん!」

 

「少年探偵団の一員という自覚がないんですよ、彼には」

 

そんな3人の声に気付いた咲は、近くにいた哀に言おうとしたが、彼女が口を開いてしまった。

 

「博士?まだ見つからないの?免許証」

 

「確か、この辺に置いたんじゃがのう……」

 

「早くしないと、江戸川君、先に着いちゃうわよ」

 

「あ、おい!」

 

哀が博士の手伝いに行ってしまい、咲は一人、取り残される。そこで溜息を1つ吐き出し、後ろを振り返る。そこには姿を隠して聞いていた3人がいた。

 

「……話を聞いていたんだろ?いいか、絶対に着いてくるなよ?今すぐ帰れ」

 

そこで咲も手伝いに行ってしまった。哀がいれば問題ないだろうとは考えているが、一応の手伝いに行ったのだ。だからこそ気付かなかった。少年探偵団の3人が、ニヤリと笑っていたことに。

 

免許証発見後、咲は子供3人の姿が見えない事に安堵し、後部座席に座った。その時、彼女は微かな息遣いに気付いたが、勘違いだろうと片付けた。そんな彼女の隣にあった布は、博士がもともと何かを乗せていたのだろうと片付け、そのまま車は発進される。

 

「いや〜!哀君は探し物を見つけるのが上手いの〜!」

 

その時、布がモゾモゾと動き出した事に哀と咲は気付き、咲は頭を抱え、哀は疲れたような様子を見せながら博士に伝える。

 

「どうやら、もう1つトラブルが見つかったみたい」

 

「へ?」

 

其処で博士が後部座席に視線をやった時、子供達3人が勢いよく布から飛び出し、博士は驚きで車の運転が乱暴になり、車が左右に揺れた。

 

コナン達はといえば、白鳥の車、タクシー、修斗一人乗った車の順で進行し、将一を除いた全員で香坂家の城に向かっていた。タクシーの中にいた毛利一行とセルゲイは、寒川が持っていた指輪が本物だったのかどうか、話し合っていた。

 

セルゲイの話しでは、マリアは四人姉妹の中でも一番優しい人物で、大きな灰色の瞳をしていたらしい。その言葉にコナンが反応する。

 

(灰色の瞳?夏美さんや青蘭さんと同じだ)

 

「ロシア革命の後で皇帝一家が全員銃殺されたのはご存知と思いますが、マリアと皇太子の遺体だけは確認されてないんです」

 

「そうなんですか……」

 

そのまま目的の横須賀に着き、城に向かう。その城は一番高い山に建設されており、それも見事な西洋城が建設されており、その入り口の前の庭でその城を見上げていた蘭は感動を露わにする。

 

「わあ!本当に素敵なお城!」

 

「ドイツのノイシュヴァンシュタイン城に似ていますね。シンデレラ城のモデルになったと言われる」

 

「ああ、道理で何かに似てると思ったら、あの城か……」

 

(あれ?そう言えば、どうしてドイツ風の城なんだ?)

 

そんなコナンの疑問に答えるものはいない。勿論、コナンもそれに期待していたわけではないため考え続ける。

 

(夏美さんの曾お祖母さんはロシア人だからか?)

 

そこで博士の車も到着し、全員がその車に注目した。コナンもまた振り返った時、少年探偵団3人の存在に気付き、顔が引き攣る。そんなコナンに構わず、少年探偵団達はコナンの名を呼ぶ。そんな中、蘭が当然と言える質問を博士にする。

 

「博士!どうして此処へ?」

 

「いや〜、コナン君から電話を貰ってな。ドライブがてら来てみたんじゃよ」

 

「うちの咲も、すみません」

 

「いやいや!気にしておらんよ」

 

修斗が深々と博士に頭を下げ、博士が気にしていないことを告げる。そして咲はと言えば、不満そうな顔を修斗に向ける。彼女は子供扱いに不満を持っているわけではないのだが、それでも修斗が頭を下げる事には不満を持っている。迷惑を掛けたとしても、それは咲が原因であり、修斗には何の原因もないはずだと、彼女は考えているからだ。勿論、それを理解している修斗は咲に近付き、耳元に顔を寄せて伝える。

 

「俺には保護者としての責任がある。お前が何か迷惑を掛けたとしたら、それは俺にも責任はくるんだ。『なぜ他人に迷惑をかけるような教育をしてしまったのか』ってな」

 

「……以後、気を付けよう」

 

「いや、俺に迷惑を掛けるなと言いたいんじゃない。寧ろ掛けろ。掛けまくれ。……せめて今だけは、小学生を楽しんでくれ」

 

修斗はそこで慈愛の目を向けて咲の頭を撫でる。頭に手を触れさせた瞬間、咲の体が強張り、一瞬、はたき落とそうとしたが、それはもう片方の手で制された。

 

「……やっぱり、許可なく触られるのは駄目か」

 

「……すまない。直そうとはしてるんだがな、これでも」

 

「いや、無理せずゆっくりでいいさ」

 

そんな会話の間、コナンが博士から眼鏡を受け取っていた事に、修斗は気付かなかった。

 

子供達3人は宝がこの城にあることを理解し、元太はうな重何倍食えるかとまで考えていた。そこに小五郎が中には絶対に入るなと注意すれば、聞き分けよくはーいっと返事が返され、コナンがその素直な様子に逆に怪しむ視線を向けた。

 

「あ、咲。お前は俺と一緒に行動だ」

 

「ん?良いのか?」

 

「折角だからな……良いですか?小五郎さん」

 

修斗がそこで小五郎に確認を取れば、嫌そうな顔をしながら、しかし渋々と頷く小五郎が見れた。まだ保護者である修斗がいるだけ、マシだと考えたのだろう。

 

「乾さん、遅いですね」

 

「ええ、何か寄るところがあるとか言ってましたけど……」

 

其処に漸く赤い車が到着し、そこから乾がリュックサックを持って降りて来た。

 

「やぁ、悪い悪い!準備に手間取ってな……」

 

「なんです?その荷物。探検にでも行くつもりですか?」

 

「んー、なに。備えあれば憂いなしってヤツですよ」

 

そんな将一を警戒しながら、哀はコナンに近づき、忠告してくる。

 

「注意しておくことね。……スコーピオンは、意外と身近にいるかもしれないわよ」

 

「ああ、分かってる」

 

そんなコナンを、ずっと観察し続けていた蘭は、悲しそうな表情を浮かべた。それに誰も気付かないまま、沢辺が開けてくれた扉を開き、城の中へと入って行く。最後に沢辺が入り、扉を閉めようとしたところで小五郎がハッと気付き、沢辺に扉を閉めるように言う。それに沢辺が首を傾げたのを見て、小五郎が子供達が入り込まないようにと言い、沢辺もそれを言われて素直に従い、扉は固く、閉められた。


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