とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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世紀末の魔術師編
第19話〜世紀末の魔術師・1〜


夏休みに入り、現在、少年探偵団達はプールに入り終え、その帰りの際、校門前でとある話題に盛り上がっていた。

 

「え!?怪盗キッドを見た!?」

 

「それ本当かよ!?」

 

元太と光彦が驚きの声を上げれば、その話を振った歩美は笑顔で肯定する。

 

「うん!とってもカッコ良かった!」

 

「まさに!平成のアルセーヌ・ルパンですよね!!」

 

その通称が気に食わなかったのか、コナンは鼻を鳴らす。それに気付いた哀と咲はコナンの方へと振り向き、愉快そうな顔で哀が尋ねる。

 

「で?平成のホームズさんはどうするき?」

 

「バーロー!いつか捕まえてやるに……決まってんだろ!!」

 

そう言ってコナンは、足元にあった自分のサッカーボールを勢いよく蹴っ飛ばした。

 

***

 

8月19日、某時。警視庁にて、怪盗キッド特別捜査会議が行われていた。この会議では怪盗キッドの情報を共有する目的もあり、かのルパンの情報は全て出されていた。

 

「怪盗1412号、通称、怪盗キッドの犯行は、現在までで134件です」

 

「うち15件が海外で、アメリカ、フランス、ドイツなど、12ヶ国に渡ります」

 

「盗まれた宝石類は、述べ152点。被害総額は387億2500万円です」

 

そこまでの情報を聞き終えた、捜査二課の『茶木 神太郎』警視はある重大な情報を述べる事にした。

 

「その怪盗キッドから昨日、新たな犯行予告状が届いた」

 

その報告に、会議室内は驚きの声で溢れかえる。しかしそれを気にせず、茶木は続ける。

 

「『黄昏の獅子から暁の乙女へ。秒針のない時計が12番目の文字を刻む時、光る天の楼閣から『メモリーズ・エッグ』をいただきに参上する。 世紀末の魔術師 怪盗キッド』。予告の中のメモリーズ・エッグとは、先月、鈴木財閥の蔵から発見されたロマノフ王朝の秘宝、『インペリアル・イースター・エッグ』のことだ」

 

そこで茶木から別の刑事にバトンが移り、その刑事はインペリアル・イースター・エッグの説明がされる。

 

「インペリアル・イースター・エッグとは、ロシアの皇帝が皇后への復活祭の贈り物として、宝石細工師『ファベルジェ』に作らせた卵の事で、1885年から1916年までの間に50個作られています」

 

この説明の間にも、その説明されていたイースター・エッグの映像が流れていた。その細工は映像で見てもとても素晴らしいと思えるもので、もしこれが本物であるならば、その素晴らしさを更に感じることが出来ただろうと思えるものであった。

 

「従って、今回発見されたエッグは51個目となります」

 

「鈴木財閥では、51個目のエッグを8月23日から大阪城公園内にオープンする鈴木近代美術館で展示する事になった。そこで暗号の内容だが……中森君」

 

此処で今まで終始無言で会議の内容を聞いていた、怪盗キッド専門の刑事である中森が重い腰を上げる。そうしてモニター前に歩いて行き、説明を始める。

 

「まず『黄昏の獅子から暁の乙女へ』。これは、獅子座の最後の日の8月22日の夕方から、乙女座の最初の日の夜明けまでという意味で、犯行の日にちを示すものだ。次に、『秒針のない時計が12番目の文字を刻む時』。これは、犯行の時刻を示すものと思われるが、まだ解読出来ていない。最後の『光る天の楼閣から』。これは天守閣……即ち、大阪城のことで、キッドが現れる場所を示す。つまり!この予告状は、8月22日の夕方から23日の夜明けまでの間に、大阪城の天守閣から『インペリアル・イースター・エッグ』を盗みに現れる、という意味だ!!」

 

そこまでの中森の説明に他の刑事達が納得した様子を見せ、拍手喝采が巻き起こる。その後、茶木が大阪府警との合同捜査となることが説明され、鈴木財閥たっての希望から、名探偵である小五郎にも橋梁を願ったと説明し、茶木がそこまで退屈そうに会議の内容を聞いていた小五郎を指差す。それに小五郎も気付いたが、その瞬間、会議室にいた刑事達から一斉にその鋭い視線を向けられ、小五郎は少々焦りながらも刑事達に挨拶を交わす。

 

「今回の我々の目的は、あくまでもエッグの死守。例え、奴を取り逃がしたとしても、エッグだけは……」

 

そこで中森が茶木からマイクを奪い取り、刑事達に向けて宣言する。

 

「なんて甘っちょろいことは言ってられん!!エッグは二の次だ!!いいか者共!!我々、警察の誇りと威信にかけて、あの気障なコソ泥を冷たい監獄の中に絶対に……絶対にぶち込んでやるんだ!!!」

 

その中森の言葉に座っていた刑事達が一斉に立ち上がり、雄叫びを上げる。そんな中、1人置いてけぼりの小五郎は引いた笑みを浮かべるのだった。

 

その後、毛利一家は予告ば当日に大阪駅にやって来て、園子と合流後、リムジンに乗り込み、鈴木近代美術館へと向かっていた。

 

その一方、コナンを除いた少年探偵団一行はと言えば、阿笠邸に集まり、文句を垂れていた。文句の内容はもちろん、コナンのことだ。

 

「ずるいんだぜ、博士。コナンの奴、1人で大阪に行きやがってよ!」

 

「私、もう一度キッドに会いたかったのに……」

 

「抜け駆けは彼の得意技ですからね」

 

そんな文句を垂れてる元太、光彦、歩美の3人を、スイカを用意してくれた博士は笑顔で諌める。

 

「まあまあ、そう言うでない。スイカでも食べて怒りを鎮めたらどうじゃ」

 

「わぁ!いただきまーす!」

 

歩美が代表で言い、3人がスイカを口には組もうとしたその瞬間、「ちょっと待った」と博士がストップを掛ける。勿論、子供達がキョトン顔で博士を見つめれば、博士はニヤリと笑って条件を言う。

 

「食べるのはクイズを解いてからじゃ」

 

それに雑誌を読んでいた哀と、携帯を弄っていた咲が顔を上げ、博士を見やる。そんな2人とは反対に子供達は不満の声をあげる。

 

「えー、そりゃねえだろ、博士……」

 

「何を言っとる。子供のうちから楽に物を手に入れる癖をつけてどうする」

 

それには流石に同意せざる終えないと咲は思い、うんうんと頷いていた。それに味方を得たと博士は喜び、楽しそうにクイズを出してきた。

 

「ワシには多くの孫がいる。何才か?」

 

「うぇ!?博士に孫がいんのか!?」

 

元太のこの発言に博士は思わずズッコケ、咲は苦笑い。

 

「元太、これはあくまでクイズだ。現実には博士には孫はいない。親戚筋に哀がいるくらいじゃないか?」

 

咲はそう言って哀を見やれば、哀も軽く頷きを返した。それを聞き、子供達3人は考え始める。その間、哀と咲はアイコンタクトを交わした。内容は、どちらが答えるかと言うもの。結局、視線での会話で哀となった。

 

「……やっぱり、コナンくんがいないと無理よね」

 

「じゃあ、このスイカはどうなんだよ」

 

「0歳よ」

 

哀のその答えに子供達が驚きの表情を浮かべて哀を見る。注目されている哀はと言えば、雑誌に目を通していた。興味はないらしい。

 

「まだ卵なのよ。『ワシ』は鳥の『鷲』。『多くの孫』は『多孫()』。『卵』はまだ0歳よ」

 

「大正解じゃ!流石は哀くん!解けると思ったったぞ。咲くんも、解けとったんじゃろ?」

 

哀の説明に博士は褒め、咲の事も理解していた。勿論、咲はそれにくすりと笑っただけ。子供達はと言えば、哀と咲の頭の良さに感心していた。

 

「うわぁ……」

 

「灰原さんと咲さんって……」

 

「すごーい」

 

そこで元太は少々、悪い笑みで光彦に、哀と咲は少年探偵団の仲間かどうかを一応確認し、光彦はそれで納得した様子を見せ、3人は嬉しそうにスイカを食べ始めた。仲間である哀が答え、咲も解けていたことから、その連帯の褒美として考えたのだ。そんな三人の様子に哀はフッと笑みを浮かべ、大阪の方へと想いを馳せる。

 

(さて、あっちの卵はどうなるか。お手並み拝見させて貰うわよ、工藤くん)

 

その頃のコナンはと言えば、鈴木近代美術館に辿り付いていた。そこには既に警官が配備されており、厳重に配備されていた。その上空では、警察のヘリさえ稼働している。中にはネズミでさえ入ることは叶わないだろうとさえ思えるほどだった。

 

「すごい警戒ね」

 

「まさに蟻の入る出る隙間ねえって感じだ」

 

「当たり前よ!相手はあの怪盗キッド様!何たって彼は……」

 

「神出鬼没で変幻自在の怪盗紳士」

 

そこで別の声が割って入り、そちらへと顔を向ければ、バイクに乗り、ヘルメットを被ったままの知人が2人、そこにはいた。

 

「堅い警備もごっつい金庫もその奇術紛いの早業でぶち破り、オマケに顔どころか声から性格まで完璧に模写してしまう変装の名人ときとる。はっ、ホンマに……」

 

そう言ってヘルメットを取った知人の2人である平次と、その幼馴染の『遠山 和葉』が顔を向ける。

 

「メンドくさい奴を敵に回してもうたの……工藤?」

 

平次のその呼び名に反応する蘭。

 

「もう!何で服部くん、いつもコナンくんのことを『工藤』って呼ぶの?」

 

それに笑って誤魔化すことにした平次。

 

「ははっ、すまんすまん。いや、こいつの目の付け所が工藤によう似とるんでな。つい、そない呼んでしまうんや」

 

「ほーんま、アホみたい。今日も朝早うから工藤が来る、工藤が来る言うて……一片、病院で診てもらった方がええんちゃうの?」

 

そこで平次達とは今回が初対面の園子が蘭に話しかけ、良い男だと褒めれば、蘭が駄目だと止める。曰く、平次には幼馴染の和葉がいるからだと言う。

 

「あんな風に喧嘩してるけど、本当はすっごく仲が良いんだよ?」

 

「見りゃ分かるわよ。新一くんと蘭にそっくりだもの」

 

その園子の言葉に蘭は頬を赤らめる。そうして平次と和葉の喧嘩を見つめる。

 

「ああ、私にも幼馴染の男の子がいたらな……」

 

「……おいおい、何の騒ぎだ?」

 

そこへもう1人乱入して来る。その声に今度は全員が反応すれば、コナンが目を見開く。

 

「なっ!?」

 

「修斗様!お会い出来て光栄です〜!」

 

そこには、車から丁度降りて来たらしい修斗が左前の扉の横にいた。そんな修斗に嬉しそうに近寄る園子。

 

「今日は私の我儘を聞いて下さってありがとうございます!」

 

「いえ、構いませんよ。むしろ呼んでいただけて光栄です。……正直、うちは貴方のお爺様から、良くは思われていませんから、少々、諦めていたのですが……」

 

「そんな事ないですよ〜!私は修斗様とお会い出来て嬉しいですもん!」

 

「それはとても光栄な事です……あ、出来れば、様は付けなくてああですよ?堅苦しいのはあまり好いていなくて」

 

「わかりました、修斗さん!」

 

園子が快く呼び名を変えてくれた事に嬉しかったのか、修斗が園子の頭を撫でる。それに少々頬を赤らめる園子だが、それに気づいた修斗が手を退ける。

 

「すみません、つい……迷惑でしたか?」

 

「い、いえ!全然!」

 

「それは良かった……うちは妹もいるので、癖ですかね?元気な様子を見ると、つい撫でてしまうんです」

 

これは実際、本当の事である。今もまだ、瑠璃にも、梨華にも、雪菜にも、元気そうな様子を見ると修斗は頭を撫でるくせがあるのだ。しかし、そんな癖がついた理由は他にもある。しかし、それを修斗からは言うつもりなど、全くもってなかった。

 

「そ、それじゃあ!揃った事だし、行きましょう!!」

 

そうして全員がエレベーターに乗り込み、目的の階に辿り着く。そのまま会長室へと向かい、中に入れば、会長である史郎がいた。

 

「おお!これは毛利さん!それから北星さんも、遠い所からよく御出でになりました」

 

「いや〜、どうも」

 

「こちらこそ、今回は呼んでいただき、ありがとうございます。今回は社長代理という立場ではありますが、お招き頂けて感謝しております」

 

修斗が小五郎に続いて史郎と握手をすれば、史郎は続いて蘭とコナンにも挨拶をする。その後、その後ろにいた平次と和葉の事を尋ね、園子はそれに素直に答える。もちろん、平次が『西の高校生探偵』である事もキチンと伝える。それを聞き、史郎は頼りにしていると告げれば、平次も気を良くした。

 

「おう!任せといて、おっちゃん」

 

「お前な!鈴木財閥の会長に向かっておっちゃんとは!」

 

「まあまあ毛利さん。それより、紹介しましょう。こちら、ロシア大使館の一等書記官、『セルゲイ・オフチンニコフ』さんです」

 

その紹介の最中に立ち上がったのは、グレーの髪を上に立ちのぼらせ、青系のスーツをキッチリと着こなした、少々厳つい強面の男性だった。彼はとても流暢に、日本語で「よろしく」と言う。史郎は次にその隣にいた少々白くなり始めた灰色に近い髪と髭を携え、茶色のスーツを着た男性の紹介を始めた。

 

「お隣が、早くも商談にいらした美術商の『乾 将一』さん」

 

彼が軽く会釈だけすると、次にその隣にいた、青色の服を着た女性の紹介に移る。

 

「彼女はロマノフ王朝研究家、『浦思 青蘭(ほし せいらん)』さん」

 

「你好」

 

最後に、その隣にいた少々ガラの悪そうな男性の紹介に移る。

 

「そしてこちらが、エッグの取材撮影を申し込んで来られた、フリーの映像作家、『寒川 竜(さがわ りゅう)』さん」

 

「よろしく」

 

彼は挨拶をしながらカメラを小五郎に向けて記録し始める。それを気にせず、小五郎は将一に話しかける。

 

「しかし商談って、どのぐらいの値を……」

 

「8億だよ」

 

その値を聞き、小五郎は仰天する。しかし小五郎だけではなく、平次もまた、声には出さなかったが、静かに驚きの顔を浮かべていた。

 

「譲ってくれるなら、もっと出してもいい」

 

「会長さん!インペリアル・イースター・エッグは元々、ロシアの物です。こんな得体の知れないブローカーに売るくらいなら、是非、我がロシアの美術館に寄贈してください!」

 

「得体の知れないだと!?」

 

セルゲイと将一が揉め始め、コナン達の後ろで静かに聞いていた修斗はげっそり顔。タダでさえ、今の彼は早くもこの話を聞かなかったこととして帰りたい思いを抱えているのに、さらに彼にとって気分が重くなる思いだった。

 

(そもそも商談に来たからってこの鈴木財閥があるとは限らないし、渡すなら美術館に寄贈するだろうし、どちらにしろ、鈴木財閥の意思が一番反映されないといけないはずなのに、何で皆んなして意思を反映せずに主張してんだよ……)

 

「いいね〜、いいよ〜。こりゃ、エッグ撮るより人間撮る方が面白いかもしれないな」

 

寒川がそう言って立ち上がり、隣にいた青蘭にニヤニヤとした嫌な顔で話し掛ける。

 

「あんた、他人事のような顔してるけど、ロマノフ王朝の研究家なら、エッグは喉から手が出るほど欲しいんじゃないのかい?」

 

それに青蘭は悔しそうな表情で顔を寒川から背ける。

 

「はい。でも私には、8億なんてお金はとても……」

 

「フッ、だよな〜。俺だって掻き集めても2億がやっとだ」

 

(おいおい、キッドだけじゃなく皆んな狙ってんじゃねーか、エッグ)

 

そこで史郎がエッグの話は後日改めてする事を約束し、全員が引き上げに掛かる。そのタイミングで、桐箱を抱えた史郎の秘書、『西野 真人』が会長室に入って来た。当然、西野は部屋から出て行こうとしているセルゲイ達に気付き、桐箱を抱えたまま頭を下げる。その際、最後に出て行こうとした寒川が西野を見て驚き、恐る恐るその横を通って出ていくのをコナンと修斗は目撃した。修斗が軽い溜息を吐いた時、西野が史郎に話し掛ける。

 

「会長、エッグをお持ちしました」

 

「おお、ご苦労さん。テーブルに置いてくれたまえ」

 

「はい」

 

その指示に西野は嫌な顔せずに聞き入れ、史郎はコナン達に座るように言う。蘭はエッグを見せてくれることに嬉しそうな表情をし、園子は見た目は大したものじゃないと言う。曰く、彼女が子供の頃、知らないでオモチャにしていたらしい。それを密かに聞いていた修斗は冷や汗をかいた。

 

(おいおい。知らなかったとはいえ、美術品になんて事してんだこのお嬢様は……)

 

全員が座ったのを見届け、史郎が桐箱を縛っていた青い紐を解き、箱を持ち上げる。その中には、緑のエッグが入っていた。それに園子以外の全員がエッグを見つめる。修斗から見ても、細工はとても素晴らしく、美術品としての価値も高いことが窺い知れた。

 

「西野くん、皆さんに冷たいものを」

 

「はい」

 

「なーんか、思ってたよりパッとせーへんな」

 

「うーん、ダチョウの卵みたいやね」

 

「これ開くんでしょ?」

 

そのコナンの言葉に史郎が感心したように褒め、エッグを開ける。中には金で出来たニコライ一家の模型が入っていた。それで平次達の見る目が変わった。

 

「へー、なかなかのもんやな」

 

「このエッグには面白い仕掛けがあってね」

 

史郎はそう言って持っていた小さな鍵をエッグの側面な差し込む。そしてそれを回せば、中の模型が上がり、家族が囲む中、その中心にいた男が持っていた本を捲る動作をした。

 

「へー!おもろいやん、これ」

 

「ファベルジェの資料にこのエッグの中身のデザイン画が残っていてね、これによって本物のエッグと認められたんだよ」

 

「『メモリーズ・エッグ』っていうのは、ロシア語を英語にした題名なんですか?」

 

「ああ、そうだよ。ロシア語で『Воспоминания(ボスポミナーミエ)』。日本語に訳すと『思い出』だそうだ」

 

「ねえ、なんで本を捲ってるのが『思い出なの?」

 

「バーカ、皇帝が子供達を集めて本を読み聞かせるのが『思い出』なんだよ」

 

「いや、それは違うと思いますよ」

 

小五郎の言葉に修斗が否定する。思わず半眼で見る小五郎に修斗は苦笑い。

 

「『皇帝が本を読み聞かせる』じゃなくて、『皇帝がアルバムを捲る』から『思い出』なんだと思いますよ?」

 

「は?あんた、どうしてこれをアルバムだと思ったんだ」

 

その小五郎の疑問は最もで、コナンも同じような顔をしていることに気付き、答えることにした。

 

「読み聞かせをするだけなら、母親は側にいなくてもいいでしょう?そりゃ、赤ん坊を抱いてるからというのもあるかもですが、赤ちゃんの時じゃ、言葉を聞いても分かりません。アルバムもまた赤ん坊じゃ分からないですが、しかし家族で会話するには不自然ではないでしょうし、『思い出』と言われても不自然ではない。……まあ、一番は『思い出』と書いてあって、最初に思い浮かんだのが『アルバム』ってだけだったんですが……」

 

「え、修斗さん、ロシア語読めるんですか!?」

 

蘭の驚きに修斗は苦笑いながらも頷く。

 

「ええまあ。大抵の言語は読めますし、話せますよ」

 

その答えに園子が黄色い声をあげて「流石、修斗さん!」と褒める。それに嬉しそうな表情を浮かべる修斗だが、内心はとても複雑な思いを抱いていた。そもそも、読める理由は父親から読めるようにしておけと言われたからなので、当たり前ではあるが。

 

「……あ、エッグの裏で光ってるのは宝石ですか?」

 

蘭のその質問に史郎はただのガラスだと答える。それにコナンは勿論、修斗も疑問に思う。

 

「皇帝から皇后への贈り物なのに?なんか引っかからない?」

 

「ん〜……ただ、51個目を作る頃にはロシアも財政難に陥っていたようだがね」

 

「引っ掛かる言うたらキッドの予告状……」

 

その平次の言葉に修斗がそちらを見る。この場では修斗ただ1人が、キッドの予告状の中身を知らないのだ。

 

「『光る天の楼閣』……なんで、大阪城が光るんや?」

 

「アホ。大阪城を建てた太閤さんは、大阪の礎築いて発展させはった大阪の光みたいなもんや」

 

「その通り」

 

其処で別の声が割って入り、それに全員が入口の方へと顔を向ければ、茶木と中森が歩いて近付いてきた。

 

「キッドが現れるのは大阪城の天守閣。それは、間違いない」

 

その一言を聞き、修斗が隠れて溜息を吐いたことに気付いたのは、コナンだけだった。

 

「だが……」

 

「『秒針のない時計が12番目の文字を刻む時』……この意味がどうしても分からんのだ」

 

「それって、『あいうえお』の12番目の文字とちゃうん」

 

それに全員が驚き、園子と蘭が指折りで12番目の文字を考える。しかし、修斗が即座に答える。

 

「『あいうえお』の12番目は『し』だな。もしこれが正解なら4時になる訳だが……」

 

「いや。キッドの暗号にしては単純過ぎる」

 

「いろは歌で考えても『を』だから時間にはならないな……」

 

そこで小五郎がフッと笑う。

 

「分かりましたよ、警視。『あいうえお』ではなく、アルファベットで数えるんです!」

 

「アルファベット?」

 

「アルファベットだと、12番目は『L』だな」

 

「そう!つまり……3時か」

 

その小五郎の推理を聞き、史郎が小五郎を褒める。褒められた小五郎はといえば調子に乗って高笑い。修斗も一応は納得した。この中で一番、暗号も事態を知らない修斗では、キッドの暗号を全て解くことなど不可能なのだ。

 

「間違いない!3時ならまだ夜明け前で、暁の乙女へとも合致する!」

 

其処で新たに出た暗号に修斗が訝しげにするが、誰もそのことに気付かない。

 

「待ってろよ怪盗キッド!今度こそお縄にしてやる!!」

 

その後、その場で解散となり、修斗は用は済んだとばかりに東京へ戻ろうとするが、それをコナンが引き止め、殆ど強引に修斗を連れて、『難破布袋神社』にやって来た。

 

「おいこら。強引に連れてくんじゃねえよ!」

 

「だって、保護者がいた方がいいでしょ?」

 

「なら蘭さん達で良いじゃねえか!!もしくは其処の大阪の探偵!!」

 

「まあええやん!折角、大阪まで来たんや。観光と思って一緒に来てもええんとちゃうか?」

 

その平次の言葉に修斗は溜息を吐く。確かに、このまま帰っても仕事はない。あるとしても急ぎではない書類仕事だけ。ならばとばかりに修斗も観光に付き合うことに決めた。そしてその神社でまずはお参りをし、女性陣はおみくじを引いた。

 

「あ!私、大吉!」

 

「どれどれ?」

 

「待ち人、恋人と再会します」

 

「それって、新一くんのことじゃない?」

 

それに蘭が頬を赤らめる。和葉もまた嬉しそうな表情を浮かべ、今度、自分にも合わせてと言う。それを聞いていた男性陣。コナンは呆れたような表情で蘭達の会話を聞いていた。

 

(はは、ここにいるって)

 

「さてっと、問題は午前3時までどうやって時間を潰すかやな……まあとりあえず、なんか美味いもんでも食べ……」

 

其処で平次と修斗が振り返れば、コナンが1人で考え込む姿があった。それに気づけば平次の行動は早かった。

 

「和葉、お前その2人、案内したれや」

 

「平次は?」

 

「俺は、このちっこいのと兄さんを案内するから」

 

「どうして?一緒に行こうよ!」

 

蘭の最もな疑問に平次はコナンと同じ高さに座り込み、肩を掴む。

 

「男は男同士がええんやて。なあ?こ、ここ、こ、コナンくん?」

 

平次のコナンへの呼び方に修斗は呆れ顔。まだ慣れてなかったのかと思っているのだ。それはコナンも同じだったようで、ジト目で早く慣れろよと小声で言えば、平次は意地の悪い顔でバラしても良いんだぞと脅す。それにコナンが引きつった笑顔のまま『努力して下さい』と言えば、平次は機嫌よく頷く。

 

「せやせや、人にモノ頼む時はな、笑顔を忘れたらあきませんで」

 

それにコナンが不機嫌そうな顔をするのを、修斗がニヤニヤ顔で見やる。2人のやりとりは修斗にとって楽しいものだったらしい。そうして3人が神社から出ていくのを女性陣は見送る。

 

「なんか、妙に仲が良いのよね。あの3人……」

 

「良いじゃない!女は女同士!浪花のイケてる男を見つけて、ご飯を奢らせちゃおうよ!」

 

「ほんなら、ひっかけ橋にでも行ってみる?」

 

そんな会話など聞こえていない3人は、怪盗キッドの暗号の話をしていた。

 

「お前、『12番目の文字』が引っかかってんねんやろ?」

 

「ああ……Lがロシア語のアルファベットでっていうなら分かるんだが……」

 

「ロシア語のアルファベットなら『К(カー)』。英語で言う『K』だな」

 

「せやったら、時計の形にはならへんな」

 

「それに、予告状の最後の『世紀末の魔術師』ってのも気になる」

 

「ホンマ、気障なやっちゃで」

 

「今まで奴はそんな風に名乗ったことはない。それに、何よりも今まで宝石しか狙わなかったキッドが、なぜエッグを狙うんだ?……なあ、修斗さん。なんか分かんねえか?」

 

コナンが其処で修斗を見上げれば、修斗は呆れたように溜息を吐く。

 

「……そもそも、俺はそのキッドの暗号の全文を知らないんだが?」

 

「あ、そうだった!」

 

其処でコナンが慌ててキッドの暗号を教えれば、修斗が納得したような顔をする。

 

「ああ、なるほど……これは今夜、警察が慌てふためくな」

 

「今夜?」

 

その修斗の言葉にコナンは引っ掛かりを覚えるが、それを教えることはない修斗。彼としては、自身や家族に害がなければ、手を出すことは無いのだ。

 

「それで、あのキッドの名乗りの理由とか、分からねえか?」

 

「まあ、推測は出来てるが、今の分だと言うにはまだ早いな……」

 

「その推測でいいから!」

 

そのコナンの問いに修斗はめんどくさそうにしながらも答える。

 

「何時ものように宝石を盗むんじゃなくて、それを誰かに返す為……とかじゃないかと考えてる」

 

「なんでそう思うんや」

 

平次のその問いに、修斗は自身の考えを伝えることにした。

 

「キッドは怪盗稼業はしてるものの、根っからのマジシャンだろ?マジシャンは客にマジックを見せて喜ばせることを生業とするもんだ。誰かが悲しむような事をキッドはしてないんじゃないか?現に、宝石だって最終的には返してるんだろ?」

 

「ああ、そうだけど……」

 

「ということは、相当なお人好しの可能性がある。怪盗稼業をしているのにそのまま盗んで自分の懐に入れずに返してるのがその証拠。なら、エッグを誰かに返す為っていうのが俺の中の推測だ」

 

「なるほどな」

 

それに平次とコナンが納得する。それに更に続ける修斗。

 

「となると、キッドが今回名乗ってる『世紀末の魔術師』がヒントだろうな。つまり、返す相手はその関係者だと、俺は睨んでる」

 

「関係者な……本当にあるんか?その世紀末の魔術師の関係者が……てか、誰やその『世紀末の魔術師』って」

 

「それは俺も知らん」

 

そこで3人が黙り込んでしまった。その空気を変えるためか、平次が話を振ってきた。

 

「そういえば、さっき引いたおみくじ、どないやってん?」

 

「んなもん、まだ見てねーよ……修斗さんは?」

 

「俺はそもそも引いてねえよ。引くとしても年初めとかぐらいだ」

 

「なんでや?キッドとの対決を占う大事なおみくじやろ?」

 

「こいつなら兎も角、俺はキッドと対決するつもりねーからな」

 

その修斗の言葉に平次は不満そうな顔を浮かべる。しかし修斗は意見を変えるつもりがないようで、それを察するとしょうがないとばかりにコナンを見る。

 

「それで?早う結果を見よーや」

 

「たくっ……」

 

コナンが悪態をつきながらも上着のポケットからおみくじを取り出し、結果を見る。そこには『小吉』の文字が書かれていた。

 

「へ〜、小吉か。へ、中途半端なもん引きやったのぉ。これやったらキッドとの勝負、勝てるんか負けるんか、分からんやんか」

 

「待ち人は来ます、か……あ?」

 

コナンが其処で気になったのは旅行の部分。其処には、『秘密が明るみにでます。やめましょう』と書かれていた。

 

(おいおい、まさか……)

 

そこで彼は蘭を思い浮かべたが、まさかと信じようとしない。しかし、そんな彼に追い打ちをかける平次。

 

「ここのおみくじ、よう当たるからな」

 

「え、嘘!?」

 

「ホンマ」

 

平次がニヤニヤ顔でそう伝えれば、コナンは嫌そうな顔を浮かべ、そんなコナンの表情を黙って見つつ内心で楽しむ修斗だった。


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