とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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本当は映画館の上映の事件を書こうかと思ったのですが、上手く書けなかったのでこの話を書くことにしました。なので、次回から世紀末の魔術師編です!

あ、そういえば皆さん。少し時間が過ぎてしまったのですが、エイプリールフールは楽しめましたか?私は結局、嘘をつくことなく普通に過ごす事となりました。ここ毎年、これが普通になってます……上手い嘘が思いつかないんですよね〜。

ま、そんなことは気にせず、どうぞ!


第18話〜SOS!歩美からのメッセージ〜

ある日の日曜日、阿笠邸にて少年探偵団が遊びに来て、コナン、光彦、元太はババ抜きをしていた。そんな場から離れたところでは、哀と咲が雑誌を読んでくつろいでいる。

 

ババ抜きをしている3人の声をBGMに、哀は咲に話し掛けた。

 

「……ねえ、咲」

 

「ん?なんだ?」

 

「この前の学校の創立記念日の時、貴方、映画館で映画を見るのは初めてだってはしゃいでたわよね?それ、貴方を保護してくた人と見に行ったことはないってことなの?」

 

その哀の疑問に咲は苦笑を浮かべる。

 

「いや、そんな事はない。ただ、映画を見るだけならあの屋敷で事足りてるだけなんだ。昔の映画なら尚更な」

 

「なら、ゴメラを見たがってたのはなんでかしら?」

 

その哀の質問に目をパチクリとさせた咲。この質問は彼女にとっては思いがけないものであり、どうして聞いてきたのかを理解出来ていない。しかし、答えないのも失礼だと頭の中で結論を出し、答える。

 

「……子供達が見たがっていたからだよ。私は特に、これといって見たいものはなかったしな」

 

「……そう」

 

それに対して哀の返答はそれだけだった。その哀の反応にまた首を傾げた時、後ろの方でババ抜き組の方で変化があった。声からして、どうやらコナンが一番に抜けたらしい。それに光彦と元太が文句を言っている。そして光彦と元太の一騎打ちをしている様子を見ることにした咲。

 

元太は二枚、光彦は一枚。ババさえ抜かなければ終わる様で、光彦は元太の顔を見ながらカードを選ぶ。ババは元太から見て左にあり、光彦がババの方に指を向ければ嬉しそうな表情を浮かべ、残ったハートの2の方に指を向ければ嫌そうな顔をする。これではどちらがババか分かりきってしまう。

 

(まあ、子供のうちからポーカーフェイスを覚えろというのが難しいか……)

 

コナンの近くにやってきた時、コナンが光彦とともに元太の表情を楽しんでいる様子から一変して、顔を先に向けてきた。

 

「咲、どうしたんだ?」

 

「いや、なにやら楽しそうだったから見にきたんだが……これは、また……お前も趣味が悪いというか、大人気ないというか」

 

「うっせ」

 

そんな2人の会話の間に光彦はハートの2を引いており、元太が負けていた。その元太は自分ばかりなぜ負けるのかと叫んだ。それに咲は肩を竦めて答える。

 

「それは元太、100%お前が悪いぞ。顔がとても分かりやすい。ババ以外を取ろうとすれば顔が歪むんだからな」

 

「ダメですよ咲さん、ばらしちゃ〜」

 

「そうだったのか!よーしもう一回だ!今度はずっとこの顔でやるぞ!」

 

そう言って下手な笑顔を浮かばせる元太。それに光彦は残念そうな様子を見せ、哀もババ抜きに誘う。しかしそれを本を読む方がいいと言って断る哀。それに咲はいつも通りかとなにも反応をせず、視線を歩美の方に向ける。歩美は元太の隣に座っていたのだが、どこかずっとグッタリしている様子で、咲はそちらに近付いた。

 

「歩美、大丈夫か?」

 

「うん……」

 

「本当に?」

 

それに歩美はゆっくりと頷くが、咲からしたらどこが大丈夫なのかと少々問い詰めたくなった。そんな時、光彦とコナンが昨日、杯戸町でおこった強盗殺人事件の話を始めてしまった。

 

「『ル・エスカルゴ』っていうフランス料理店の女性オーナーが殺害された事件だろ?」

 

「なんだその店。変な名前だな」

 

「別に変じゃないさ。エスカルゴっていうのは、フランス料理に使う食用のカタツムリの事だからな」

 

「え!?カタツムリって食えんのか!?もしかしてカタツムリ丼とか……」

 

そう言いながら自分が言った言葉を頭の中で想像し、嫌そうな顔で「うげっ」と言う元太に咲は苦笑し、コナンは呆れ顔。

 

「それで?何か詳しい話、聞いてますか?」

 

「ああ。夕べ、毛利のおっちゃんが目暮警部と話しているのを聞いたんだけど、被害者は昼近くまで眠ってて、鍵をこじ開けて入って来た強盗と鉢合わせした様なんだ」

 

「それじゃあ、強盗も留守だと思って忍び込んだって事?」

 

そこで話が気になって近付いて来た哀がそうコナンに聞けば、それに肯定を返すコナン。そして、被害者が手足を縛られた上、ナイフで刺されていることも伝える。この時点で普通は子供に伝えるべき話ではないと思うべきなのだが、そんな違和感を持つ子供はここには誰もいない。

 

「おそらく、犯人は金のありかを聞きだし、金を全て奪って、出て行く直前に被害者を殺害したんだ」

 

「殺害した理由は、顔を見られたからってとこかしら?」

 

「多分な」

 

それに咲は反対しない。彼女はよく犯人視点から事件を推理する事が多いのだが、もし同じ様な状況になれば咲自身もそうするだろうと考えたのだ。

 

しかし咲がそんな事を考えてるとは全く知らない元太は、コナンと哀の推理に怖がった様子を見せる。それで殺されるのかと思い、彼はおっかないとも言った。確かに、とても物騒な話だ。

 

「そんな凶悪犯じゃ、少年探偵団の出番はなさそうですね」

 

「当たり前じゃ!!」

 

そこで博士が怒った顔で光彦達の所までやって来た。どうやら彼もずっと聞いていたらしいが、遂に我慢の限界が来たらしい。コナン達に向けて説教が始まった。

 

「大体、子供が殺人事件の話をするもんじゃない!!もっと子供らしい夢のある話を……」

 

しかしそこで歩美のとても弱々しい声が掛かる。

 

「ねえ博士。のど飴ない?」

 

「ん?喉が痛いのか?」

 

「そうみたいだ。大体、さっきから歩美の声もおかしい。少々枯れている様な……」

 

「君のその耳の良さは健在なのはいいが、それは気付いた時に言ってくれんかのう」

 

博士からのお叱りの言葉に、咲は眉を下げる。確かに、気付いた時に言っておけばよかったと反省しているのだ。問い詰めようと考える前に言っておくべきだった、と。

 

「どれ、口を開けてごらん?」

 

その言葉通り、歩美は博士の言う通りに口をあーん、と言って開ける。そして喉の方を観察する博士。

 

「ふむ、扁桃腺が大分腫れとるな……熱もある様じゃ」

 

「風邪かしら」

 

「風邪ならうな重食えばケロッと治るぜ」

 

「それは元太、お前だけだ」

 

「そうですよ。元太君とは違いますよ」

 

咲と光彦のジト目を受け、居心地悪そうな顔をする元太。コナンはそんな事を気にせず、歩美に今日は帰るように言う。勿論、コナン達も帰る事を伝え、光彦もそれに賛成し、家でゆっくり休むように伝える。それに歩美は頷き、歩美は博士が車で送ることに決まった。咲もそれが決まると、北星家へと電話を始めた。今日は仕事が休みの雪男が迎えに来ることになっていたため、彼は快くそれを承諾し、その日はそこで解散となった。

 

翌日の月曜日。朝の元気な挨拶の後、小林先生から歩美のお母さんから歩美が風邪を引き、今日はお休みする事になったと伝えられる。それに子供達は心配そうな様子で隣の子供と話し始める。それは少年探偵団5人も同じで、とても心配していた。

 

「やっぱり……」

 

「歩美のやつ、うな重食わなかったのか?」

 

「昨日は大分具合が悪そうだったからな……」

 

「あら、心配?」

 

コナンの言葉に哀が揶揄い混じりの言葉を投げかける。それにコナンは当たり前だと言えば、哀は結構優しいのね、と言う。その言葉にコナンはジト目を向ける。そしてそんな2人の後ろに座っていた咲は少々自分を責めていた。勿論、全てが全て悪いのではないと理解はしているのだが、早めに博士に伝えておけばよかったと、其処だけはずっと反省し、自分を責めていた。

 

(……今後は気をつけよう)

 

そうして時間は過ぎてゆき、次が音楽のため、鍵盤ハーモニカの準備をもって移動しようとした時、元太と光彦がやって来た。やって来た理由というのは、今日の授業が終わった後、歩美の見舞いに行こうという話をしに来たらしい。それに賛成の声をあげる光彦。しかしそれに反対気味の哀。それに何故なのかという視線をコナン達が向ければ、哀が答える。

 

「女の子って、具合が悪い姿を人には見られたくないものなのよ。特に、好きな男の子にはね」

 

それに呆れ顔のコナンを見て、哀はクスリと笑う。

 

「なーんてね。小学生には関係ないか」

 

そう言って鍵盤ハーモニカと音楽の教科書を持って移動し始める哀に光彦と元太はジト目を向ける。

 

「なんなんですか?一体」

 

「自分も小学生の癖してよ」

 

(はは……実は18歳だとは、言えないからな)

 

咲がそう考えた時、バタンッという音と何かの曲が流れるのが耳に入り、全員がその音の出所であるコナンを見る。哀も後に気づいた様で再度此方に近付いてきた。そして全員がコナンの持つ探偵団バッチを見れば、やはりそこから音が流れていた。

 

「これは……鍵盤ハーモニカ?」

 

「!きっとそれです!歩美ちゃんが鍵盤ハーモニカを引いてるんです!」

 

「歩美ちゃんか?」

 

コナンのその問いに、歩美は答えない。喉が腫れている為、当たり前ではある。しかし、そこで声ではなく、別の音が返ってきた。

 

『今日は5日、午前10時30分だ!』

 

それにコナンは目を見開く。歩美の考えが分からないからだ。分からないながらも時計で時間を確認すれば、時刻は午前10時35分。時間が5分間違っている。ただ、時間が間違っているだけなら早く進んでしまったのだろうと納得もするが、今日の日付は5日ではない。それに首を傾げる咲と違和感を持つコナン。そうしてまた同じ言葉が繰り返された時、元太が嬉しそうな声をあげる。

 

「ヤイバー時計だ!」

 

「そうです!仮面ヤイバー時計ですよ!前に、阿笠博士に皆んなで買ってもらったんです!」

 

「頭のボタンを押すと、日にちと時間をいうんだぜ!」

 

「だけど、なんだ歩美ちゃん、自分で答えないんでしょうね」

 

「……彼女、声が出ないんじゃないかしら」

 

その哀の言葉に納得する光彦と元太。コナンと咲も同様で、コナンはそこで歩美に「もしかして声が出ないのか?」と問いかける。勿論、それに答えることが出来ない歩美だが、すぐにコナンから『YESなら1回、NOなら2回バッチを叩いてくれ』と言われ、少し間を空けてから1回叩かれる。それで5人全員、やはり声が出ないのかと理解する。

 

「やっぱり声が出ないのか」

 

「きっと、退屈なんで僕達の声が聴きたくなったんですよ!」

 

「よーし!励ましてやろうぜ!」

 

「ちょっと待った!」

 

そこでコナンから静止の声が掛けられ、話すのを止める2人。コナンはどうやら引っかかることがある様子。その引っかかっている部分をコナンは説明し始める。

 

「返事の代わりに時計を使ったのは分かるけど、さっきの時計、5分遅れてた。第一、今日は5日じゃないぞ?」

 

「そ、それは……」

 

「歩美ちゃん、何か俺たちに伝えたいことがあるんじゃないかな……」

 

そこで咲は考える。時刻が5分遅れている理由、日付が違う理由を。そんな時、咲の耳に音が拾われる。しかしそれは物を探る様な音ではなく、何かの扉が開く様な音。

 

(親が入ってきたのか?)

 

「歩美ちゃん、何か困ったことでも起きたのか?」

 

しかし返答が返ってこない。それに首を傾げる咲。光彦は歩美に先程の指示をそのまま伝える。すると今度は二回叩かれる。

 

「NOです!やっぱり退屈して連絡してきただけですよ!」

 

「……コナン。それを貸してくれないか」

 

「え?」

 

コナンは咲の方へと顔を向ければ、少々眉間に皺が寄った咲がそこにいた。一瞬の逡巡後、咲にバッチを渡せば、咲は礼を言ってコナンと同じ質問をすることにした。

 

「歩美。もう一度質問をさせてもらう。本当に退屈して連絡してきただけか?」

 

それに今度は1回、叩かれる。その返しに更に眉間に皺が寄る咲。しかし、次の授業がそろそろ始まってしまう時間であり、ここでそれ追求は出来ないと、教室を見れば分かることだった。

 

「……そうか」

 

咲はそこでコナンにバッチを渡し、思考に耽る。元太が返されたバッチにまた連絡すると言ったその時、チャイムが鳴った。

 

「やっべ!次は音楽室だっけ?」

 

「急がないと、小林先生、怒ると怖いですからね!」

 

「ダッシュだ!」

 

そこでコナンもバッチのスイッチを切り、音楽室へと向かう。その道中で、コナンは咲に先程の事を質問することにした。

 

「なあ咲。さっきのあの質問の意図はなんなんだ?」

 

それに咲は間を空けて答える。

 

「……少々説明がしにくいんだが……あのバッチを叩く音、最初の質問の時と2回目の質問の時、聞こえてきた音の強さが違ったんだ。そうだな……例えで言えば、人が肩を軽く叩く様な感じが1回目で、2回目が肩を強く叩く様な音といえば分かるか?」

 

「ああ、まあ……」

 

「いや、それがどうとは言わないがな。もしかしたら、無意識的に強く叩いただけなのかもしれないし、ペンを強く掴んでいるせいで強く叩いてしまったという可能性もあるんだが……それを確認するために3回目のあの質問をしたんだ。結果は2回目と同じ様な強さだったわけだが」

 

「そうか……他に何か気づいたこととかあるか?」

 

「そうだな……そういえば、お前が2回目の質問をする少し前に、扉が開く音が聞こえたな」

 

「扉が開く音か……なら、歩美の親が帰ったのかも知れないな」

 

「……いや、なら尚更おかしい」

 

その咲の言葉にコナンがその言葉の先を促す様に目を向ければ、彼女は続ける。

 

「大抵は子供が体調不良で倒れているんだ。なら、親は声をかけるものじゃないか?それに、あの歩美の親だ。ちゃんと挨拶をするんじゃないか?」

 

それに対してコナンは反対をしなかった。確かにと思ったからだ。しかし、すでに音楽室の前まで来ていたために、2人は席に座ることにした。コナンは哀の隣に座り、咲はそんな2人の後ろに座った。そして授業の初めに挨拶を終え、小林先生の話が始まった。

 

「さてと、皆んな知ってると思うけど、来月、校内で音楽会があります。B組では、鍵盤ハーモニカの合奏をやろうと思うんだけど、今日はまず、演奏する曲を決めようと思います。皆んな、何かいい曲はないかしら?」

 

その言葉で子供達が全員手を挙げる。しかしそんな中、咲は早々に耳を塞ぎたくなった。勿論、塞ぐという行為は失礼な為に我慢しているが、これで鍵盤ハーモニカを引くことになれば、頭痛が今日一日は続くかもしれないと予想し始める咲。彼女にとって、音楽の授業は天敵のようだ。そしてその咲の前の2人はといえば、先程の歩美のことで会話をしていた。

 

「歩美ちゃんのことが気になるのね」

 

「え?」

 

「私もなの。最初に引いてきたあのメロディ……どっかで聞いたことがあるのよね。何か心当たりない?」

 

「あはは……音楽はちょっと」

 

「咲は?」

 

「すまんが、聞き覚えはないな」

 

「そう……あれ確か、ミ・ミ・レ・ド・レ……」

 

そこでコナンは思考に耽る。

 

(どうして日付と時間が間違ってたんだ?それに、咲が聞いたという、扉が開くような音と、音の違い。……5日、午前10時30分……)

 

そこで小林がピアノの蓋を開いたのを見て、更にげっそりとなる咲。隠れて溜息を吐く。

 

(頼むから、この時間は早く過ぎ去ってくれ……)

 

「それじゃあ、曲も決まったので、まず一回、皆んなで歌ってみましょう!」

 

『はーい!』

 

そこで流れ出すイントロを聞き、これは覚悟を決めなければと咲は腹を括った。そして暫くすると子供達が歌いだす。

 

『でーんでんむーしむし、かーたつむりー』

 

その歌詞を聴いた時、徐々に哀の目が見開いていく。なぜなら、それは『かたつむり(ミミレドレ)』と音を響かせていたからだ。

 

「『かたつむり』よ!彼女、『かたつむり』って伝えたかったんだわ!!」

 

それで全てを理解したコナンと咲。2人は直ぐに立ち上がり、小林に伝える。

 

「先生、警察に連絡して!!歩美ちゃんの命が危ないんだ!!」

 

そこでコナンと咲が走って出ていく。そんな2人の名前を呼ぶ小林だが、2人は止まらない。そして、走って向かうコナンは頭の中で悔しがる。

 

(くそっ!なんでもっと早く気がつかなかったんだ!!あのメロディーから『かたつむり』、つまり、『ル・エスカルゴ』。日にちと時間から『ご・とう・はん』つまり、強盗犯と俺に伝えようとしたんだ!!きっとあの時だ!咲が聞いた扉が開く音の時だ!!……無事でいてくれ、歩美ちゃん!!)

 

そうして走っていく2人。しかしすぐに辿り着けるわけもなく、歩美の家に向かう道中、横断歩道の信号に捕まってしまった。そこで息を整える2人。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……お前、なんで着いてきたんだ!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……その問いは、今更か?……もっと早く気付くべきだったと、後悔しているのはある。しかし、何より私は、彼らが危ない目に遭っているというなら……助けたいんだ。それが今、私にできることだから」

 

「咲……」

 

しかしそんな会話をしていても時間は過ぎていく。焦るコナンに、咲は息を整えながら、一つの提案をする。

 

「……お前、昨日、強盗犯が女性オーナーを殺害したのは金を取った上で出ていく直前に殺したと言っていたよな?」

 

「ああ、それが……!そうか!」

 

そこでコナンはすぐに行動に出る。イヤリング型携帯電話を使って歩美の家に電話を掛け、変声機を弄って博士の声を出す。そして、歩美の家の留守電になった時、行動を始めた。

 

「やあ、儂じゃ。今、すぐ近くまで来とるんじゃが……ほれ、この前借りた500万円、返そうと思って、銀行から下ろしてきたところなんじゃ。例の発明の特許料が入ったんでな。どうせ近くのスーパーに買い物にでも言っとるんじゃろう。今からすぐ行くから」

 

そこでコナンは電話を切り、イヤホンを外す。そしてそのまま歩美の家であるマンションまで向かい、自動扉を超え、素早く歩美の家の番号を押し、博士の声を使って開けて欲しいことを頼む。相手はどうやら疑うことなく扉を開けてくれたようで、それに2人してニヤリと笑って扉をくぐる。そのままエレベーターに乗った時、コナンは咲に問いかけた。

 

「……お前、絶対に手を出すなよ」

 

「?何故だ?」

 

「ああ、もう忘れたのかよ。あの古城での出来事を」

 

コナンのその言葉で咲は理解すると、フッと笑みを浮かべる。

 

「覚えているさ。……安心しろ。あの時ほど、怒りに我を忘れてはいない。相手が歩美やお前を殺し掛けなければ、な」

 

その言葉は、まるで母親が子供を見るような優しい笑顔を浮かべて告げられた言葉で、コナンはそれに対して顔を顰める。

 

「……やっぱり絶対に手を出すな。そんな顔で易々とそんなこと言える奴に、安心出来る要素はねえよ」

 

「ふむ、そうか?まあ、暴走するつもりは本当にないから安心しろ」

 

そこで目的の階に辿り着き、コナンはサッカーボールを手に目的の部屋のチャイムを鳴らす。しかしやはり出てくる様子はなく、別の鍵を見つけた為、それを使って部屋に入った。すると、部屋の中には白いヘルメットを被り、サングラスを掛けた男が、土足で上がっていた。

 

「だ、誰だお前ら!!ジジイはどうした!?」

 

「最初から僕とこの子だけだよ?おじさんって強盗だよね?おじさん、知ってるかな?サッカーボールって、当たると結構痛いんだよね!」

 

そう言いながらサッカーボールを地面に置き、キック力増強シューズを弄る。そうして一段階あげれば準備は完了。

 

「特にこの……キック力増強シューズで……蹴った球はな!!」

 

そうしてコナンは容赦なくサッカーボールを強盗犯の顔に向けて蹴り上げ、強盗犯はそのまま勢いよく後ろに飛び、目を開けたまま意識を飛ばす。それとともにヘルメットとサングラスも飛んでいってしまった。しかしコナンと咲はそんなこと気にせず、歩美の方へと駆け寄り、彼女の口に貼られていたガムテープをコナンが剥がす。

 

「待ってろ。今解いてやる」

 

そんなコナンの対応に嬉しそうにしている歩美に、咲も柔らかな笑みを浮かべた。が、しかし彼女の耳に強盗犯の呻き声が聞こえ、後ろを振り向けば、立ち上がる強盗犯が目に入った。それを知れば彼女はまず、近くのソファの方へと身を隠した。そんな彼女とは別に、歩美とコナンも強盗犯の様子に気付き、コナンがすぐに強盗犯の方へと向きなおる。

 

「このガキ、良くもやってくれたな。タダじゃ済まさねえ!!」

 

強盗犯が警棒を片手に持ち、近寄る。そしてソファの近くに来た時、咲は素早く現れた。それに一瞬驚いた強盗犯だったが、咲はそんな様子を気にせずに、強盗犯の左向う脛を容赦なく、勢いの良い蹴りを入れた。

 

「いっ!?」

 

思わずといった形で左脚をあげ、痛がる様子を見せる強盗犯を見て、咲は声をあげる。

 

「今だ!やれ!!」

 

その言葉の意味をコナンも歩美も理解出来ていなかったが、しかしその後ろにいた優秀な科学者は理解出来たようで、

 

「小嶋くん、円谷くん、今よ!」

 

その声を合図に、今度は2人分の声が上がる。

 

「「たぁぁぁ!!」」

 

そうして強盗犯の背後から突進が食らわされ、強盗犯はそのまま顔から床に激突。それで気絶するはずもない強盗犯が再度、起き上がろうとするが、そこに咲が近づき、歩美を縛っていた縄を使って、今度は強盗犯の腕を縛る。

 

「歩美、ガムテープはないか?」

 

「が、ガムテープ?」

 

「ああ。こいつの足を縛って拘束する。光彦と元太はそのまま乗っててくれ。あ、哀は何か別の重しになるようなもの持って来てくれないか?歩美に確認を取りながらでいいから」

 

その咲の言葉にそれぞれ頷き、歩美からガムテープの場所を聞いて、足を拘束した咲。最後にコナンが麻酔針を撃ち、強盗犯を逮捕することが出来た。

 

その数日後、歩美の風邪が治り、博士を引き連れて皆んなで公園にやって来ていた。

 

「風邪が治ってよかったな、歩美くん」

 

「うん。声も元に戻ったんだ」

 

「それにしてもあの犯人、例の強盗殺人犯とは別人だったのは驚きましたね」

 

「殺人犯の方は横浜で捕まったんだよな!」

 

「目暮警部の話じゃ、歩美ちゃん家に入った犯人は、別に歩美ちゃんに危害を加える気はなかったらしい」

 

「ん?そうなのか?」

 

咲のその問いにコナンは頷く。曰く、顔を見られたといっても、子供だから証言能力はないと思っていたのだと。

 

「でも、結局はコナン君たちを襲おうとしていたんですから、捕まえて正解でしたよ!」

 

「バカモン!!!」

 

そこで博士の怒りの声が響く。それに咲は一瞬、耳がキーンとなったが、博士は気付かない。

 

「何が『捕まえて正解でしたよ』じゃ!?たまたま今回は上手くいっただけじゃろ!次からはきちんと警察を待って行動するんじゃ」

 

その言葉を聞き、元太は座っていたベンチから降り、敬礼する。

 

「はい!今度からはそうします!」

 

そんな行動に毒気を抜かれたのか博士は少々狼狽えながらも、分かればいいと言って許した。すると元太は先ほどまでの態度から一転して元気になり、光彦と歩美を誘ってブランコに乗りに向かっていった。

 

「あーあ、本当に分かってんのか」

 

そんなコナンにも博士は眉間に皺を寄せ、叱りの言葉を投げかける。

 

「新一、咲君、君達もじゃぞ」

 

「わーってるよ。なるべく彼奴らを巻き込まないように……」

 

「違うわい。頭脳は兎も角、体は小学生なんじゃからな。だいたい新一、お前は……」

 

そこで歩美が博士を呼び、そちらに顔を向ければ、歩美が笑顔で手を振っていた。

 

「博士ー!ありがとね!!博士の電話がなかったら、犯人に逃げられちゃったかもね!!」

 

その言葉の意味をうまく理解出来ていない博士は、しかし一応は頷きを返した。そんな博士の様子をコナンはニヤリと笑って見遣る。それに気づいた博士は一つ咳払いをした。

 

「儂の声を使うのは良いが、お爺さんの役はないじゃろ」

 

「わりぃわりぃ」

 

「しかしまあ、ああいう孫たちがいるのも可愛くて良いじゃろうな」

 

そう言って博士が穏やかな目で見つめるのは、ブランコで遊ぶ子供3人組。3人は楽しそうな声を上げていた。

 

「どーれ!お爺ちゃんが押してやろうかの〜!」

 

そうしてウキウキしながら子供達3人の方へと向かっていく博士の後ろ姿を見て、哀は一言、呟く。

 

「すっかり、なりきってる」

 

「孫より先に嫁さん見つけろよな……」

 

「ふっ、博士の奥さんは果たしていつ見つかるんだろうな」

 

そんな言葉を言いながらも、楽しそうな様子の子供3人と博士を見て、普通の日常とはこういうものなのだと、咲は改めて幸せを甘受するのだった。


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