とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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第17話〜青の古城探索事件・後編〜

博士を探した哀と咲だが、博士は何処にも見つからず、哀が電話をかけることにした。咲はその隣で待機している。

 

「もしもし、警察の方ですか?工藤新一の代理の者ですが、警視庁捜査一課の目暮警部に繋いでいただけますか?」

 

「おや?お友達に電話かい?……お嬢ちゃん」

 

哀と咲は声を掛けられた背後へと振り向けば、笑顔を浮かべた満がいた。そこで目暮へと変わった様子で、電話の向こうで目暮の声が聞こえてきた。彼はなんどか『もしもし』と声を掛けてくれているが、哀達にそんな余裕はない。

 

「ええ、そんなところよ」

 

哀はそう言って電話を切る。そこで咲と哀はチラッとアイコンタクトを取ったその時、歩美達が哀達も歩いてきた方向からやってきて声を掛けてきた。

 

「あ!灰原さん!咲ちゃん!」

 

「ここに居たんですか〜」

 

「たく〜、どこに居たんだよ〜!俺達のベッドの用意出来たってよ!」

 

そこで歩美が博士がいないことに気付き、問いかけてくる。光彦も一緒ではなかったのかと声をかければ、哀は誤魔化すことにした。

 

「さあ?この城の宝でも、探してるんじゃないかしら」

 

そう言ってチラッと後ろにいる満に目を向けた後、歩美達と共に部屋へと戻っていく。そんな哀と咲の後ろ姿を静かに見送る満。

 

子供達3人が寝静まった頃、哀と咲は目を開き、起き上がる。そして博士のベッドへと目を向けるがそこには寝てる本人の姿はない。

 

(博士のベットは空のまま。やっぱり何かあったのね)

 

哀は博士を探すために部屋から出ようと扉を静かに開ける。咲もそれに続く為にベットから出るが、少し考えて荷物を漁り、何かを取り出すとそれをロングパーカーの右ポケットに忍ばせた。哀はその間、開けた先で聞こえた『お祖母様』という声とその向こうのやり取りを、廊下に誰もいなくなるまで見ることにした。

 

「どうしたんです?こんな時間に……」

 

「娘がなかなか来んから迎えに来たんじゃ……」

 

「お母様のことは我々に任せて、部屋でお休みになってください」

 

貴人がそう言ってマス代を部屋へと連れていくために車椅子を押して去っていく。それを見送り、哀と咲は行動を始めた。隠密の行動のため、足音を立てないように慎重に行動し、角の時には姿を隠すようにする。

 

(とにかく、調べて見る必要がありそうね……)

 

その時、何かの物音が哀達の後ろから聞こえた。勿論、それは哀にも聞こえ、そちらへと少しの間視線を向けた後、その場を歩いて立ち去る。しかし直ぐに走ってその物音がした一つ向こうの角を見れば、そこには少年探偵団の3人がいた。

 

「やっばり……」

 

『あ、あははは……』

 

「はぁ、何やってるんだ……お前達」

 

咲が呆れた様子で問えば、歩美がコナンが心配だと言い、元太は博士も戻って来ないからと言い、光彦が捜索の手伝いをすると言う。それに咲は眉をしかめる。しかし少年探偵団の3人は二人より5人の方がお得だと言う。そんな3人の様子を見て、哀は息を一つ吐き出す。

 

「……まあ、いいけど」

 

「おい哀」

 

咲の哀を責める声に哀は耳を貸さずに続ける。

 

「……殺されたって知らないわよ」

 

そのまま歩いて去っていく哀の後を咲も追い、元太達はその意味がどう言う意味なのかを問いながら後を追っていく。そのまた後ろに、人間がいたことを知らぬまま。

 

***

 

最初にやって来たのは元太達が来た場所。哀はそのまま扉を閉めた後、元太に椅子を壁時計の下に持って来てほしいと頼み、哀は本棚から本を取り出して椅子の上に置き、足場として利用する。そのまま壁時計の針を回し始め、2時あたりになった時、扉が回転した。それを止めるために元太が椅子を支えるようにした後、哀が壁に手を突き、閉まるのを止めた。歩美と咲がその先を見れば、暗闇の空間が見えた。

 

「うわぁ、何これ……」

 

「隠し通路ですね」

 

「手動で時計の針を回転させると、扉が開く仕掛けになってたようね」

 

「……さて、行くか」

 

そう言って哀と咲が腕時計を弄り、ライトを付ける。それに歩み達3人が反応した。

 

「ねえ、灰原さん。それって……」

 

「ええ、阿笠博士に貰った腕時計型ライトよ」

 

「へえ!君も貰ったんですね!」

 

「君もって?」

 

哀がそう問えば、3人は腕時計を弄り、ライトを点ける。それに頼もしいと哀が返し、行くと伝えて歩き出す。その先は長い階段が続き、どこまで深くなるのかと全員が思ったその時、哀は地面にとある痕跡を見つけ、それをライトで照らしたまま座る。咲もそれを見て頭の中でとある答えが浮かんだ。そして哀が手に唾をつけ、床のそれを取った時、確信した。

 

「なんですか?それ」

 

「……血だわ」

 

それに歩美と光彦が驚きの声を小声ながらもあげる。

 

「この色と乾きぐらいからすると、あまり時間が経っていないわね……」

 

「すごい!灰原さん、コナン君みたい!」

 

「何呑気なこと言ってんのよ。その彼の血かもしれないのよ、これ」

 

歩美は持って来ていたらしいパンの袋の入り口をギュッと握った。その時、光彦があたりをライトで照らしていた時、ある文字を階段に見つけた。それを哀に伝え、哀と咲がそちらへと移動する。その文字が彫られていたのは一段下の階段だったが、そこには『アイツハ私ニナリスマシテ城ノ宝ヲ横耳』と書かれていた。しかし、この文章からして最後は『耳』ではなく『取』だと推測できる。それを歩美はこの文字を彫ったのはコナン君かと言うが、それを哀が否定する。

 

「いいえ。文章からしてそれはないわ。堀口もかなり古いし……」

 

「一体、誰が書いたんでしょう」

 

「さあ?誰だか知らないけど、『横取』の『取』の字から見ると、その人物は続きを書くことが出来なくなったんでしょうね」

 

「……書けなくなった?」

 

「ま、まさか……」

 

「そう。此処で息絶えたのかもしれないってこと」

 

それに光彦と歩美が驚愕するが、そんなこと関係なしに哀は続ける。

 

「その死体を江戸川君が見つけ、気を取られている隙に背後から誰かに殴られたか、刺されたとしたら、血の説明もつくわね」

 

「いや、刺された線は薄いな」

 

哀のその一言にずっとあたりをライト機能で見ていた咲が言う。それに哀が視線だけで先を促せば、彼女は答える。

 

「もしコナンが刺されたとしたら、その血はもっと辺りに付着する。それを拭ったとしても、細かいところまで拭う時間があるわけではない。しかし血の跡がそれだけなら、殴った線の方が有効だ。それなら血はそう飛ばないし、殴った本人も少量の血だけ浴びる。大量の血は頭から流れてずっとその場に溜まり、広がり続けるだけ。拭う事を考えるならこちらの方が手間はそう掛からない。掛かった血だって、服が黒ければ時間が経てば黒くなるんだ。そう暴露ることもない……まあ、警察に捜索されたら終わりだがな」

 

その説明に歩美と光彦はよく分かっていない顔をするが、哀はその考えを否定せず、それが有力候補として残した。こう言うことにおいては、その手のプロの意見は強いものなのだ。

 

そんな時、元太が何かを発見する。そちらへと移動すれば、元太が見つけたのは眼鏡、それも皹が入っている。それを見て光彦は気付いた。ーーーそれが、博士のものである事を。

 

「いっ!?なんで博士の眼鏡がこんな所に落ちたんだ!?」

 

「眼鏡の淵に血が付いてる……」

 

「博士に何かあったんでしょうか……」

 

光彦が口に手を当てて考えてる哀に問えば、哀は少しだけ壁を触る。それに咲や光彦、歩美が何だと近寄った時、哀がその壁を押した。それだけでいとも容易く壁は反転し、咲、哀、光彦、歩美は屋敷の廊下へと脱出出来た。その時の衝撃に歩美と光彦が痛がっている間に哀と咲は立ち上がり廊下の先を確認した。すぐそこの角の先にあったのはあの電話の場所だ。

 

(ここは、さっき博士を見失った場所……)

 

その間、光彦が壁を押して開けようとしているが、壁の扉は開かない。元太はまだその壁の向こうにいるのだが、これでは出ることも助けることもできない。それを理解し、哀が最初に入った入り口に戻り、元太と合流することが決まる。しかし、その入り口となった扉は開かない。なんだドアノブを回しても開かないことから鍵が閉められていることが分かる。

 

「なんで?さっきは開いてたのに……」

 

「誰かが、私達の後をつけていたのよ。鍵をかけたのは、私達が通路を引き返した後、外に出るのを防ぐため。私達は偶然、さっきの扉から出られたけどね」

 

「そ、それじゃあ、元太君は……」

 

「つけていた誰かさんの手によって落ちたと見て、まず間違いないでしょうね」

 

それに光彦と歩美が動揺を表す。しかしあの通路の別入り口を見つけようと哀が言う。それに咲は賛成した。あくまでも犯人は森に迷い、餓死したと思わせたいだろうと考えるなら、今はまだ生きているだろうと考えたのだ。そして次に来たのは貴人のアトリエ。部屋の隅々まで探し、歩美も移動しようとした時、近くの新聞がなだれ落ちてしまった。それは歩美よりも下の高さまでしか積み上げられていなかったために被害はそうなかったが、その新聞の量に歩美が驚く。その新聞の使い道は絵を包んだら、拭いたりするのに使うのだと光彦が説明し、それに歩美は納得する。そんな二人をよそに哀はその新聞を手に取り、日付を確認した。

 

「それにしては随分古い新聞ね……っ!これは!」

 

その新聞にあったのは、あの塔の火事のこと。そんな時、入り口付近にいた光彦は、カチャッと微かな音を聞き、その正体が何かと廊下の先へとライトを向ければ、そこには眼鏡が落ちていた。そちらに近寄れば、罅の入っていない眼鏡だった。先に博士の眼鏡を見つけていたことから、それが必然的にコナンの物であると悟ったその時、塔の向こうの扉が開く音がした。それに光彦は唾を一つ、呑み込んだ。

 

哀はその新聞の内容を読んでいた。

 

(火事で死んだのは15人、骨が灰になるほどの業火で、遺体の判別は身につけていた遺品から推定されたが、うち一人だけは未だ行方不明……この家事を利用して、誰かと誰かがすり替わったってわけね)

 

「ねえ!光彦君がいないよ!!」

 

その歩美の言葉に哀と咲が振り向き、部屋から廊下を見渡す。しかしそこには誰もいない。歩美はそこで塔の方へと顔を向けた。その塔の入り口の扉は、何故か開いていた。

 

「もしかして、あの塔の中に入って行っちゃったんじゃ……」

 

「妙ね。あそこは火事のあった塔の入り口……封鎖されてるはずなのに……」

 

その扉の前までやって来て、歩美は扉の向こうへと声をかける。

 

「光彦く」

 

「待って」

 

哀の待ったに歩美は疑問を持つ。しかし哀が罠かもしれないと言い、哀が中に入って様子を見てくると言う。そしてその間、歩美はその辺の草むらに隠れているように言う。そして今度は咲に顔を向ければ、咲は頷いた。

 

「……歩美のことは任せろ。私は彼女と残っておく」

 

「お願いするわ」

 

そしてそのまま入っていこうとする哀に歩美が恐怖からか声を掛ける。しかし哀は300数を数えても哀が塔の中にから出て来なければ直ぐに逃げろと言う。

 

「森の斜道を下って逃げれば、運良く助かるかもしれないわ」

 

「は、灰原さん!」

 

「しっかりしなさい。そのパン、江戸川君に届けるんでしょ?」

 

それを言われ、歩美は一つ頷いた。それを見た後、哀は扉の向こうへと行ってしまった。そこで直ぐに草むらへと移動し、歩美はパンを抱き込むようにして座り込み、数を数え始めた。咲はといえば辺りを警戒し続けながらも哀の帰りを待っていた。そうしてしばらく待つも哀は戻ってこない。歩美の数が155になっても戻ってこず、遂に300になっても戻ってこなかった。そこで歩美は草むらから体を出し、扉へと近づく。そしてその先に向かって300数え終えたと声を震わせ、涙を目に浮かべながらも報告するが、返事は返ってこない。そこで歩美が扉に手をかけた時、咲が制止する。

 

「待て。彼奴が帰ってこなかったら逃げろと言われただろ」

 

「けど、灰原さんが心配だし……コナン君たちも……」

 

歩美がもう既に泣きそうになりながらもそう咲に言う。咲はその姿をジッと見て……溜息を吐く。

 

「……分かった。でもせめて私から離れるな。絶対にだ……出来るな?」

 

「……うん」

 

その返事を聞き届けると、今度は咲が何の躊躇もなく扉を開く。

 

「……灰原さーん?灰原さん、どこー?」

 

歩美が声を掛けるが哀からの返事は返ってこない。そこで一度入り口へと視線を向け、先程の哀の言葉を頭の中でリピートさせる。

 

(そんな……そんなのダメだよ。逃げちゃダメ)

 

そこで歩美がパンの袋に目を向ける。その入り口をまたギュッと強く握った。

 

(このパン、コナン君に届けるんだから)

 

「……怖くなんか、ないもん」

 

その一言に咲はフッと笑い、時計のライトを点け、哀の捜索を開始する。塔の階段を上がり、扉を閉める。しかしその瞬間、歩美は鍵を無意識に閉めてしまったようで、その音にびっくりしたように後ろへと振り向き、それを確認して安堵した。

 

「ここは……トイレ?」

 

「の、ようだな……」

 

その時、トイレの扉のノブが回される。それに歩美が嬉しそうに扉を開けようとした瞬間、ドンッと扉に衝撃が走り、そこでそれが哀ではないと理解した。それに歩美は恐怖し、咲は歩美の前に出て身構える。トイレの鍵は鉄ではなく木。時間も経っていていた折れても仕方ないと判断すると、咲はとロングパーカーの右ポケットに手を入れる。そして何度も何度も叩かれ、遂に扉が開かれた。黒い人影はトイレの中にいるはずの子供を探すが姿が見えず、入り口の左右を見ても子供の姿がないことを理解すると、トイレの上にある燭台を上から下に向けた。すると扉が開き、犯人がその隠し通路を確認する。その姿を、犯人の死角である反対の壁にいた哀と歩美、咲が確認した時、哀はポケットの中に入れていたものを取り出し、それを今度はトイレの入り口側に放り投げる。それは微かな音を立て、犯人はそれに敏感に反応する。そして隠し通路の扉を閉めると出て行ってしまった。

 

それを確認し、ようやく歩美は安堵すると行ったことを哀に小声で報告する。

 

「……行っちゃったみたい」

 

「貴方達、何聞いてたの?逃げなさいって行ったはずよ!私が偶然、この隠し扉の中にいたから助かったけど、そうじゃなきゃ、今頃貴方達、殺されてるわよ?」

 

「私がそうやすやすと殺されると?」

 

「貴方はそうでも、彼女は違うでしょ!」

 

「問題ないな。彼女には傷一つ付かない」

 

「どうしてそう言い切れるのかしら?」

 

「私が守るからだ」

 

咲が満面の笑顔でそう言い切る。それに哀は心配事が当たってしまったことを確信した。彼女は歩美を何が何でも守る気だったのだと理解したのだ。

 

ーーーそれが例え、自分の命を犠牲にしてでも。

 

「……」

 

「?なんだ?何故私をジッと見てる?」

 

「……貴方は後で説教よ」

 

「……私、何かしたか?いや、お前の指示には背いたが……」

 

その意味がわからないと言った顔に哀は遂に溜息を吐く。次に哀は歩美に視線を向ければ、歩美は涙目ながらに言う。

 

「だ、だって……皆んなが危ない目に遭ってるかもしれないのに、私だけ逃げるなんて、出来ないよ!」

 

「たくっ、呆れた子ね……ほら涙拭いて。皆んなを探しに行くわよ」

 

それに歩美は頷き、哀の後を追って行く。その先にあったのは下へと続く梯子で、そらを使って降りている時に光彦の行方を聞いたが、知らないと言う。もし塔の中に光彦が入っていたなら、先程の人物に捕まったことになる。

 

「そんな……」

 

その梯子を降り切った後、その場を光で照らすがコナン達は見つからない。そんな時、哀から探偵団バッチはどうしたのかと問い掛けられ、歩美は電池が切れたため、博士に預けたのだと言う。それに哀は納得し、歩き出す。それに続くようにしてライトを照らして捜索していた時、歩美がライトを右に負けた時に座り込む人影を見つけた。

 

「見て!誰かいるよ!」

 

そう歩美が喜びの声を上げ、その人影に近づく。しかし近づけばそれが何かを理解し、歩美は声を上げて叫んでしまった。

 

「が、骸骨!?」

 

その瞬間、その骸骨は歩美の方に倒れ込み、歩美はそれにさえ恐怖から叫んでしまった。直ぐにその骸骨に哀と咲が近づき、調べ始める。

 

「これは……」

 

「白骨化して大分年月が経ってるわ……それに、埃の具合からすると、ここに置かれてまだ間もないみたい……どうやら階段にあった例の文字を刻んだのは、この人のようね」

 

そこまで哀は考えれば、これがここにある理由を理解するのは容易かった。

 

「きっと、江戸川君に発見されたから、此処に移動させたのよ」

 

しかし、まだ最大の謎は残っていた。この骸骨が『誰』なのか。これを運んだのが『誰』なのか。

 

哀はそれを知るためにもライトを向けた調べ続けた時、足の骨を見て違和感を持つ。

 

(他の骨に比べて足の骨だけはかなり細くなってる。それに、歯がだいぶすり減ってる……この髪の長さは女?……っ!まさか、この人になりすましてる犯人って……)

 

哀はそこまで理解した時、咲の耳には聞き覚えのない足音が入ってきた。その音の方へと体を移動させ、哀達を庇うようにして体を出し、身構えた。それに哀と歩美が気付いた時、3人に声がかけられた。

 

「どうしたんだい?お嬢ちゃん達。声がするから様子を見にきたんじゃが……おや?もう一人のお友達はどこかえ?」

 

「……はっ、そう言うことか」

 

咲がその瞬間、理解し、小声で犯人を嘲笑う。これはカッツにとっては好都合な出会い。しかしチラッと後ろに視線を向けた時、歩美が咲より体を前に出し、姿を現した老婆ーーーマス代に声を助けを求めた。

 

「それが大変なの!歩美の友達、皆んな悪い人に捕まって……」

 

その瞬間、歩美の左手と咲の右手を掴み、哀が走り出す。

 

「は、灰原さん!?」

 

その姿をマス代は静かに見送る。それも不気味な程に静かに。

 

「ちょ、ちょっと!お婆ちゃんも連れて行かないとさっきの人に襲われちゃう!」

 

歩美の言葉に哀は叫ぶ。

 

「何言ってんの!?あの人がさっき貴方を襲った犯人なのよ!?」

 

「え!!?」

 

「あの遺体の骨は長い間歩いていない人間の骨!髪の長さ、性別、年齢を含めても、アレは大奥様の遺体で間違いないわ!!」

 

「じゃあ、さっきの人は……!」

 

「大奥様を殺してすり替わっていたのよ!!顔をそっくりに整形し、多少の事は記憶が混乱したフリをしていたんだわ!実行したのは例の大火事の日!流石に実の娘を欺き通せないと踏んで、焼き殺したのよ!!この地下通路の存在を知っていれば、誰にも気付かれずに放火する事も!コッソリ抜け出して顔を整形して戻ってくることも可能ってわけよ!」

 

そこで漸く走った先に梯子を見つけ、急いで登る。そして床扉を開いた先にはあの玄関入り口のホール。直ぐに登り、歩美はその場に座り込み息を整え、咲は哀を引き上げにかかる。

 

「犯人の目的は恐らく、この屋敷の財宝ーーーきゃっ!」

 

「哀!!」

 

引っ張っていた咲も一瞬力に負け態勢が崩れる。そして哀の足を引っ張った犯人であるマス代は狂気の笑顔を浮かべてその先を続けて話し出した。

 

「そうさ、財宝目当てでこの屋敷に来たことが婆さんに暴露てクビにされそうになったからすり替わったのさ。声は元々、似ていたからね」

 

そのまま歩美とともに哀を引き上げ、直ぐに二人の前に体を滑り込ませ、ポケットの中のものを手に取った。まだそれを外には出していないが、マス代に向けている視線は、猫が獲物を狙うような鋭さを持っていた。

 

(咲……?)

 

「安心おし……あの婆さんのように何時迄も暗い地下に放っては置かないよ。気絶させて2、3日経ったら、友達と一緒に森の中に並べてあげるからさ……頬が痩けて飛びっきりのスマートさんになったらね!」

 

マス代がそう言って棒を張り上げたその時、豪速球で何かがマス代が持つ棒に当たり、その衝撃で手を抑え、鉄棒を取り落としてしまった。咲が何が飛んで来たのかと確認すれば、それはバケツだった。

 

「やめなよ」

 

そんな声が二階から掛けられ、4人が二階の方へと顔を向ければ、バタバタと光を纏わせた靴を履き、二階の手すりに座っているコナンがいた。

 

「子供に無理なダイエット悪趣味だぜ」

 

そんなコナンの後ろから、光彦、元太も現れる。

 

「そうですよ。その3人なら今のままで十分です」

 

「そうだそうだ!腹一杯食った方が健康的だぞ!」

 

「皆んな!」

 

「貴様ら、どうして……」

 

マス代が訳が分かっていない様子を理解すると、コナンが説明する。

 

「光彦のお陰さ。俺の眼鏡の追跡機能を使って博士が持ってた探偵団バッチの発信電波を頼りに俺達を発見してくれたんだ」

 

それに悔しがるマス代。そんな彼女の後ろから博士は現れ、マス代に声をかける。

 

「おおっと、逃げても無駄じゃよ。行方不明で元ハウスキーパーの『西川 睦美』さん」

 

それにマス代に成り代わっていた睦美が驚きで振り向く。なぜ正体が暴露たのか、理解できていないのだから仕方がないだろう。それに関して、博士は語り始める。彼は知り合いの整形外科医にある質問をしたらしい。その内容は、『態々、老婆に整形した奇妙な客の話を聞いたことはないか』と。そう聞けば直ぐに教えてくれたとも言う。

 

「ふんっ。お前らもあの屍を見たと言うことか」

 

「遺体を見なくても、あんたが偽物だって分かってたぜ?」

 

そのコナンの答えに睦美は驚きで顔を向ける。

 

「10年間この城に篭りっぱなしで旅行もしなかったはずの大奥様が、6年前にサイズが変わったパスポートに不便さを感じる訳ねーからな。でもまさか、その顔を保つ為に外国に何度も足を運んでいたとは思わなかったけどな」

 

そこで睦美は走りだし、ランプがつけられた柱に近付き、ランプをつかんだ。

 

「よく見破ったと褒めてやりたいが、この地下通路を熟知している私を捕まえることは出来まい」

 

そう言ってランプを左に傾けた時、睦美の背後に隠し扉が現れる。そんな睦美にコナンは挑発的な笑顔で問いかける。

 

「あれれ〜?逃げちゃうの?俺はあんたが知りたがってた取って置きの通路を知ってるんだけど?」

 

そこまで言えば、それが何かを理解出来る。睦美もそれに食いつきを見せれば、コナンはニヤリと笑い、説明を始める。

 

「チェスの駒は通称アルファベットのA〜Hと数字の1〜8で表記される。ナイトの向きから庭のチェスボードは石畳の方から見るのが正しい。その方向から見て、白い駒だけを数字の順に読んでいくと、E・G・G・H・E・A・D……『EGG HEAD』。つまり『理屈をこねるインテリ』って意味だ。そう、この暗号を考えた大旦那様のことだよ」

 

それに睦美は感嘆の声をあげ、直ぐに大旦那様の肖像画に近付く。しかしコナンの説明はまだ終わらない。残った説明は黒の駒の意味だけ。

 

「あとは黒い駒の示す通りに左に回せば……秘密の通路の入り口がポッカリ開くって訳だ」

 

それに嬉しがり、睦美は嬉しそうに梯子を上っていく。彼女の念願が叶ったのだからおかしくはない反応だろう。

 

(この城に仕えて20年!探し求めた財宝が遂に!……渡すものか!誰にも……!)

 

梯子を登り切った時、背後の方で光が微かに見えているところが見えた。それに更に喜ぶ睦美。

 

(おお!あの光輝く扉の向こうに、私の宝が……!)

 

その重厚な扉を開け放ち、その先に見えた光景はーーー朝日が輝き、湖がその光で輝きを放つのが見えるほどの高さから見えた絶景だった。

 

「こ、これは……?どこだい!私の宝は!!どこにあるんだい!?」

 

「扉に書いてあるだろ?」

 

そのコナンの声に睦美は扉に掘られた文字を見る。そこには『最初に此処に到達した者に、この城と景色を与えよう』とあった。それに睦美は空笑い。彼女はこの瞬間、絶望したのだ。

 

「馬鹿な……こんな物のために私は何人も殺してきたと言うのか……こんな物の為に、醜い老婆に顔を変えてまで……こんな物の為に……」

 

そんな彼女の姿をコナンは静かに見つめる。と、そこに咲も登ってきて、睦美の姿を目に留めた。そして彼女は静かに睦美の方へと歩く。そんな咲の様子にコナンが嫌な予感を持ち、彼女を止めようとした瞬間、彼女は睦美の横腹に勢いを付けた蹴りを入れる。絶望していた彼女はそのまま抵抗なく横に倒れ、更にカッツは仰向けに倒れさせ、睦美の首に右足を乗せた。

 

「おい!」

 

コナンの制止の声は、カッツには届かない。そのままポケットからキャンプ用にと用意していたフォールディングナイフを取り出し、刃の部分を取り出した。そしてそれを睦美に向けて振り下ろす。

 

「やめろーーー咲!!」

 

しかしコナンの声がそこで漸く届いた様子で、咲の腕がピタリと、睦美の右目に突き刺さる直前で腕を止めた。

 

「………………」

 

「今直ぐそのナイフをその上からポケットの中に直せ」

 

「…………私は」

 

「お前はもう組織の幹部『カッツ』じゃないだろ!!戻りたくないんだろ!?」

 

「……」

 

そこで咲は慎重にナイフを目から離し、首からも足を退け座り込む。咲は、己の心を落ち着かせる為に息を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 

「…………済まない。助かった」

 

「……目の前で犯罪が犯されそうになって、みすみす見逃す訳ねえだろ」

 

この1時間後、警察が到着し、犯人は連行されたーーー魂が抜け落ちた、本当の老婆になってしまったような、哀れな姿で。

 

さらに城の宝に付いては満を残念がらせる結果となったが、犯人逮捕を聞き、貴人の方はホッとした様子を見せていた。どうやら貴人の方は大火事の事件を不審に思い、城に留まって密かに探っていたようだった。また、隠し通路の方は元々城にあったもののようで、歴史学者だった大旦那様が移築する時に正確に復元した物のようだった。

 

「面白かったなこの城!」

 

「まさにスリルとサスペンス!!」

 

「そうそう!」

 

「おいおい。儂とコナン君は殴り倒されたんじゃぞ?」

 

そんな話をしている時、城の方から声が掛けられる。そちらに目を向ければ勝男が走って近づいてきており、貴人が朝ご飯を用意してくれると言ってくれたと伝えにきてくれていた。

 

「食っていきなよ!眼鏡の坊主は昨夜から何も食ってないんだろ?」

 

「遠慮しとくよ。車にキャンプ用の食料も積んであるし……それに」

 

そこでコナンは柔らかい笑みを浮かべて歩美に顔を向け、そのパンを貰い受けた。

 

「俺にはこのパンの方がご馳走みてーだしな」

 

その言葉に皆んなが笑顔を浮かべる。そんな中、哀は城に体を向けた。

 

「じゃあ私、呼ばれてこようかしら」

 

「あ!俺も!!」

 

「お前ら……」

 

話し合いはそこで好意を受けることが決まり、朝ご飯を貰い受けることとなった。屋敷へと皆んなが戻る中、咲は1人、顔を俯かせて考えていた。

 

(……私はあの時、怒りに身を任せてあの睦美とか言う女を殺そうとした……。やはり私は……此処にいてはいけないんじゃないか?)

 

「咲」

 

そこで声をかけられ、咲はハッと顔を上げる。そこには哀がおり、彼女はジッと咲を見据えていた。

 

「……哀」

 

「……早く行きましょう。ご飯、全部小島君に取られちゃうわよ」

 

「……なぁ。私はーーー」

 

「貴方のその思いは、私も同じよ」

 

そこで咲は目を見開く。しかし哀は気にせず、もう一度問いかける。

 

「それで?食べるの、食べないの。どっち?」

 

そんな哀の様子をジッと見た後、咲は苦笑しながら頷き、屋敷の方へと歩いて行ったのだった。


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