歩美ちゃんのSOSの話の後に書く予定です。
とある休日に、少年探偵団は博士の車に乗り、東都山渓キャンプ場にやって来た。目的はやはり、キャンプである。
キャンプ場に辿り着けば、一番に車から降りたのは元太だ。その後に光彦、歩美、コナン、哀、咲と降りる。流石に子供6人全員が後ろになれるわけはなかった為、咲が助手席に座っていた。博士も車から降りれば、その景色の良さに感嘆の声をあげる。
「おー!良い景色じゃのう」
その反対に、青いボーダーにニット帽を被ったコナンは不満そうな表情を浮かべている。
「……なんでこんな寒い日にキャンプなんだ?」
「良いわね、子供は元気で」
そんなコナンと哀の感想を他所に、咲は既にボーッと周りの景色を見つめていた。子供達はその間に川に寄り、魚を見つけてはしゃいでいた。その様子に準備のことを忘れていると悟ると、博士にテントを出すように言う。博士もそれに頷きテントを探す。
「テント、テント、テント……ああっ!!」
「どうしたんだよ?博士。まさかテント忘れたなんて間抜けな事はねえよな?」
コナンが意地の悪い笑顔でそう問いかければ、博士は焦り、笑って誤魔化した。それを見れば一目瞭然。テントを本当に忘れた事を理解したコナンは思わずカクッと肩を落とす。それを子供3人と咲にも伝えられ、車に乗り、戻ることとなってしまった。勿論それに子供達の不満は爆発する。
「だっせえな〜、もう。キャンプに来て肝心のテントを忘れちまうなんてよお」
「折角のバケーションが台無しですね〜」
「道にも迷ってるみたいだし……」
それに博士は居た堪れなくなり声をあげる。
「ええい!君らが横からゴチャゴチャ言うからじゃ!」
「どうやら今夜はこの車の中で野宿になりそうだな」
それに歩美は嫌だと全面的に出した声をあげる。光彦もそれは嫌なようで、希望的観測ながらも宿泊施設がきっとあると言う。それに歩美も賛同した。
「そうそう!湖の見えるお城とか!」
「んな無茶な……」
「あら?無茶でもないみたいよ?」
哀の言葉にどう言うことだと顔を向ければ、哀がクイッと首を前に動かし、前を見るように指示する。それに従い前を見れば、確かにそこには白い壁に青い屋根の城が前方に建っていた。その城の門前に車を止めれば、全員が車から降り、その城を見上げた。
「わ〜!すっご〜い!!」
「まるで西洋のお城ですね!」
「じゃが、なんで森の中にこんな建物が……」
「きっと、何処かの金持ちが外国の城を買って、バラして運んだのをこっちで組み立てたんだよ」
それを聞き、元太が城の中へと入ろうと門に足を掛け、登っていく。それを博士は止めるが元太は止まらない。そこで遂に中に入ってしまい、そして一人で屋敷探検に行こうとしたその時、その服の裾を掴まれた。その掴んだ見た目は庭師の男は険しい顔で元太に怒鳴る。
「コラッ!!どこの小僧だ!!勝手に入りやがって!!!」
元太は逃げようともがくが力強く掴まれて逃げられない。博士がすぐに怪しい者ではないと声を掛ければ、男は博士に気付き、顔を向ける。
「なんだお前ら?」
「ちょうどこの近くを通り掛かったらこの立派な城が見えましてな。良かったら中を見学させてもらおうと……」
しかし男は訝しげな顔のまま。どうやら納得していないらしく、帰れと言う。そこに男の更に後ろから声がかかる。スーツを着こなした顎が割れた男だ。
「誰ですか?その方々は」
「だ、旦那様……」
「今日ここを訪れる客はいないと思ってたんだが……」
「あのアホヅラのジジイが中に入れろって……」
その言葉に流石の温厚な博士も怒りを露わにする。
「アホヅラってあんた!儂はちゃんとした科学者じゃぞ!!」
その『科学者』という言葉に反応した旦那様。
「科学者?」
「如何にも!儂は阿笠博士という少しは名の通った発明家じゃよ!」
それを聞き、ニヤリと笑って顎に手を当てる旦那様はいう。
「ならばその頭脳、我々凡人よりも数段キレるわけですな?」
それを理解すれば旦那様は中に入れる許可を与えた。さらに一晩滞在する許可まで与えてくれるという、コナン達からしたら嬉しい提案までしてくれ、それに博士は有難がる。しかし庭師の男は反論する。
「しかし旦那様!大奥様に断りもなく、そんな我儘……」
「私の友人とでも言っておきなさい。お母様のあの状態ならそれで十分だよ」
そこで旦那様である『間宮 満』は去って行き、庭師の男は不満そうな態度を出す。そんな男に元太は声をかけ、いい加減降ろしてくれた頼む。男はそれを聞き入れ、博士達も中に入れてくれた。その後、男の案内で庭の探索を始めた一行。その庭には黒と白の馬の首が特大サイズで置かれていた。これだけ聞けばとても怖いものなのだが、それは本物ではなく造形であり、形からして駒。その白いナイトの駒は石畳側に背を向けていた。そこでコナン、哀、咲はそれがなんなのかを一目で理解した。子供組はなぜ首だけなのかと不思議がり、それが何かを哀は教えることにした。
「それは『ナイト』。チェスの駒の一つよ」
「チェスの駒?」
「駒だけじゃねえよ。下の芝生を見てみな」
コナンの言葉で子供組が下を見ればチェック模様となっている。
「芝生を刈り込んでチェスボードにしてるんだよ」
それを聞き、博士がチェス好きの人がいるのかと庭師の男『田畑 勝男』に聞けば、知らないと答えられた。彼は前当主『貞昭』の言いつけ通りに毎日手入れをし、この状態を保っているだけだと言う。
「なんでも、15年前に亡くなられた大旦那様の遺言を、貞昭様が受け継がれたそうだ」
「前の旦那って、それじゃああの人は……」
「ああ、奥さんの二番目の亭主の『満』様さ。貞昭様は6年前に病死されたから……その奥様も、4年前の大火事で亡くなられてしまったがね……」
「大火事?」
その疑問に勝男は城から離れた少し黒くなっている塔を指差す。その黒いのは焼け焦げた跡らしく、その塔に奥様の寝室があったと言う。それも、大奥様の誕生日を祝う為に戻ったその直後のことだったと言う。真夜中に到着し、夜が明ける前に火の手が上がったのだと話される。
「奥様だけじゃねえ。奥様が連れてこられたご友人達や、長い間、大奥様に仕えていた使用人や執事達十数人も、炎に飲まれてしまったんだよ。難を逃れたのは俺の様に雇われて日が浅かった使用人と、風邪を引かれて別館に寝ておられた大奥様、奥様より一足早くここにおいでになっていた満様と……」
そこで勝男は左のほうに視線を向けた。その先にいたのは糸目の男で、チェスの駒を見て何やら考え込んでいた。その男は『間宮 貴人』、奥様と貞昭のたった一人の子息だ。火事が起こる2、3日前にフラッと戻って来たのだという。
「幼少の頃から海外に留学されていた様で、お会いするのはあの時が初めてだったな。満様と最初にお会いしたのも、あの時。奥様は外国で再婚されてから、満様とずっと向こうで暮らしておられたからね。……でもなぜか、貴人様もあの火事以来、この城に留まり続けておられる。何かに取り憑かれてしまわれたかの様にね」
それを聞き、二人ともこの城に入るときに苦労したのではないかと問えば、再婚した時の写真をこの城に大量に送っていたから満の方は問題なく、貴人の方は亡くなった大旦那様と顔が瓜二つだと、扉を開けたその先に掛けられた大きな肖像画を指差し、説明された。その顔は確かに貴人ととても瓜二つ。10人見て10人全員が肉親だと答えてしまうほどによく似ていた。博士は次に両脇にもある肖像画を見て、誰なのかと問う。それに勝男は貞昭とその奥様だと答える。
「婿養子に来た貞昭様は歴史学者でもあった大旦那様をとても尊敬されていて、それをやっかんだ奥様が、貞昭様によく漏らされていたそうだ」
「お父様はただの理屈っぽいインテリに過ぎないわ」
そこで第三者の声が掛かり、其方に顔を向ければ、長い白髪の髪に車椅子に乗った老婆がいた。年齢から考えて、彼女が大奥様だと咲は理解する。そしてそれは当たりだった様で、勝男は慌てて大奥様と呼ぶ。
「その事はあの人の耳にもちゃーんと入っておったわ。あの人は怒るどころか、喜んでおった様だがな」
そう話す大奥様『間宮 マス代』に勝男は嫌なことを思い出させてしまったと頭を下げるが、それにマス代は心配しなくてもいいと言う。曰く、大旦那様がいない生活にも慣れた、と。
「紙幣の図柄とパスポートの大きさが変わったのと同じじゃよ。最初は慣れなんだが、時が経てば違和感は薄らいでしまう……時とは、恐ろしいものよの。喜びも悲しみも一緒くたに消し去ってしまうのじゃ」
その言葉に咲は体を硬ばらせる。過去の自分も、最初こそ抵抗があった仕事も、気持ちに見て見ぬ振りをし、蓋を閉め、時間が経った頃には慣れてしまい、それが日常となり、違和感さえもなかったのだ。そこから脱したキッカケは彼女にとっては最悪なものだが、見て見ぬ振りをしていたものに目を向ける事となり、今の現状となったのだから、彼女はよくなくとも家族の方は嬉しい限りだろう。
「大奥様……」
「ところで、その者たちは?」
それに勝男は慌てて博士を満の友人の科学者だと紹介すれば、マス代は驚いた様子を浮かべ、笑う。
「おお!それは楽しみじゃ。是非明かしてもらいたいものじゃのう。あの人がこの城に込めた『謎』を」
それにコナンは敏感に反応する。博士も『謎』の部分に反応し、勝男に目を向ける。勝男は大旦那様が死ぬ前に言い残したものだと言う。曰く、『この城の謎を解き明かした者に、私の一番の宝をやる』と。
「そういえば、娘はまだかえ?」
「え?」
「今日戻ってくるはずじゃろ?私の誕生日を祝う為に」
マス代はそう言って乗っていた車椅子を動かしていく。勝男はそんなマス代を止めようとするが、マス代は来たら自身の部屋へとだけ言い残し、楽しみだと言いながら去っていく。
「……火事の後、ずっとあの調子だ」
「相当、ショックじゃったのだろう」
「ねえおじさん。庭にあるチェスの駒を見渡せる部屋ってある?」
コナンからのその問いに勝男はキョトン顔を浮かべるが、キチンとその要望通りの部屋へと案内してくれた。そして窓から庭を見れば、駒が綺麗に並んで見えた。駒の配置としては白い駒が点々とバラバラに並べられたように見え、黒い駒は左矢印に見えた。歩美はその光景にはしゃぎ、その隣にいたコナンはその図を手帳に書き留めていた。歩美達の後ろには元太が自分も見ようとするが、それは歩美達を押すような行動となっており、歩美から押さないでと注意を受けた。光彦はその部屋の隣部屋の窓を開け、そちらからも見えるといえば、元太は走ってそちらへと移動する。それを見て咲はため息をついて後をついて行く。
「あら?貴方も見たかったの?」
哀のそんな揶揄いに咲はムッと顔を歪める。
「違う。流石にあの子供二人だけでは危険だろう。私ならある程度、自衛も攻撃する方法も心得ているから、ある意味護衛だよ」
「そう。やり過ぎて過剰防衛にならないようにね」
「……攻撃してくる相手次第だな」
咲のその言葉に哀は溜息を吐く。そもそもそんな人間はこの場には今はいないのだから当たり前だ。警戒心がこの場の誰よりある哀と咲だが、違いがあるとすれば心得があるかないかだけだ。
咲が元太の後について行き出て行った後、コナンは窓から離れ、書き留めた図を見て考え始める。
(ふむ……駒の並び方に意味があるのか、それとも……)
「良かったわね」
その哀の声にコナンは手帳から顔を上げた。しかしすぐに哀の方が手帳に顔を近づけて来た。それにコナンは少しだけ驚きの顔を浮かべる。
「貴方の大好きな暗号でしょ?」
コナンは顔が近い哀の顔を見つめており、哀はコナンが何も言わない為に違うのかと問う。それにそうだと思うとコナンは少々言葉を詰まらせながら言ったとき、
「3人とも!!何やってるのよ!?落ちちゃうよ!?」
歩美のそんな悲鳴に近い声を聞き、コナンがすぐに窓に顔を戻し、隣部屋を見れば、元太が窓から落ちそうになっており、それを咲と光彦が戻そうと必死になっていた。すぐにコナンは隣部屋へと駆け込んだ時には元太もなんとか生還出来ており、3人して安堵の息を吐く。
「何してんだオメー等!!」
「お、落ちちゃうとこだったぜ……」
しかし元太はそのまま部屋の床に落ちてしまい、光彦もそれを「あ、落ちた」とだけ言って見ていた。コナンはそれに安堵した様子を浮かべたが、咲は元太をキッと睨む。
「……体を前に出しすぎるなと、私は注意したよな?」
「ご、ごめんなさい……」
コナンはその時、壁に手をつけていたのだが、其処で違和感を持つ。そして窓の方を見てまた違和感を強くした。
(窓が壁際にある……さっきの部屋も窓は壁際にあったよな……)
そう、確かに咲とコナンがいる部屋は右の壁に寄っており、今は哀だけがいる部屋も左壁に窓が寄っていた。そうなると一つの疑問が生まれる。
(じゃあなんなんだ?間にあるこの空間は?)
勿論、普通ならそんなものはないで終わる話ではあるのだが、空間はあるのかないのか、コナンは確かめる為に壁をコンコンと軽く叩きながら歩く。すると、とある壁で叩いた時の音が変わった。軽くコンコンとなっていたものが、何か広い空間に響くような低い音に。コナンは其処で上を見上げる。其処には壁時計が掛けられていた。コナンはそれを見てニヤリと笑い、椅子と本を用意し、踏み台として利用する。そしてそのまま壁時計のカバーを開いた。
(だいたい昔からこういうのって……)
そう思いながら針を回し始める。
(針を何処かに合わせると……)
そして時間が12:03頃に合わせた時、壁が勢いよく回り、コナンはその勢いに負け壁の向こう側へと投げ出され、踏み台にしていた椅子や本は倒れた。ずっとその音を気にしていた咲、流石に倒れた音に気付いた光彦と元太がそちらを見れば、椅子と本が倒れ、落ちているだけでコナンは其処にはいなかった。
「……コナン?」
咲はすぐにそちらに寄る。壁を叩く音が聞こえた為、確認しようかとも咲は思ったが、今は元太達がいる以上、そんなことすれば好奇心に負けた元太達が確認しようとするだろうと理解し、素早くあたりをキョロキョロとだけすると、出口の方へと移動し、同じようにあたりをキョロキョロとだけ見た。
「あれ、コナンくんは?さっきまでいましたよね?」
「あ、ああ……」
「……廊下の方にも出た様子はなさそうだ。流石に短時間で姿をくらますのは無理だからな」
其処で咲は丁度椅子がある辺りの壁に手を当て、はぁ、と溜息を吐く。そしてその瞬間、確信した。
(こういう時だけ耳が良くて良かったと思うよ……この向こう、部屋があるな)
本当に微かな、奥の方へと響く音。それに咲は顔を下に俯かせて呆れたそぶりを見せるようにしながらジッと壁の向こうを睨みつけた。
その頃のコナンはといえば、壁の向こうの部屋で座り込み、呆れた様子を浮かべていた。
「なるほど?ただの城じゃねえってわけか」
空間の中は光の届かないほどに真っ暗であり、前後どちらに道があるかは分からないほどだ。コナンはそんな状態でも面白そうに笑う。
「面白くなってきやがったぜ……」
そこでコナンは腕時計を少し弄り、ライト機能を付ける。そしてそのまま前に歩けばすぐに階段を見つける。そしてそこを降りていくが、それは結構な深さがあった。降りても降りても会談が続く状態。その深さにコナンは少々呆れた頃、その足に何かがぶつかった。それにコナンも気付き、そちらにライトを向ければ、そこには白髪の骸骨が転がされていた。
「こ、これは!?」
コナンはそれに驚きつつも何故こんなものがあるのかを知る為に骸骨を調べるために片膝を付け骸骨にライトを向ける……その後ろに、レンガ状の石を持った誰かが頭に向けて振りかぶっていることも知らないまま。
***
咲、元太、光彦はコナンがいなくなったことを歩美と哀に伝える。歩美と元太と光彦が話している間、哀と咲は部屋の状況を見ながら小声で会話をする。
「……倒れた椅子と散らばった本」
「蓋が開いたままの時計……しかも壊れたものだ」
「……」
哀はそこで状況を理解し、椅子を起き上がらせ、時計の前に持ってく。咲はその間に本を拾い上げ、置かれた椅子に本を置く。それを見てから哀は本を踏み台にし、時計の針に触れ、時計を少しだけ回した。しかしその時、「コラッ!」という叱る声が耳に入り、その指の動きを止め、哀と咲は扉の方へと顔を向けた。そこには貴人がいた。
「ダメじゃないか悪さしちゃ……」
貴人が近づいてきた為、哀はすぐに降りた。咲は腕を組みながらジッと貴人を観察している。そこで博士が合流した。
「子供達がどうかしましたかな?」
「あ、いえ……ちょっと悪戯を……」
「悪戯?」
そこで歩美が声をあげる。
「違うもん!!コナンくんがいなくなっちゃったから探してたのよ!!」
「いなくなった?」
そこで勝男がトイレにでも行ったのだろうと言う。すぐ下の階にあるため博士達3人は確認のために移動して行った。その後に元太達も文句を言いながら続く。しかし哀と咲は腑に落ちず、部屋の方へと視線を向け、少しして移動する。
「……咲、何か音は聞いてない?」
「……聞いてたよ。彼奴が時計を弄る音、その後、『ギイ』やら『バタン』やらという音……アレはあの壁が動いた音だろうな」
「あら、じゃああの向こうには?」
「ああ……空間があったよ。確認は先にしておいた」
「よく彼らに暴露なかったわね」
「そりゃあ、コナンの行動に呆れたような様子をしながら壁に手を着いたからな。勘のいい大人なら違和感を持つだろうが、子供じゃそこまで違和感は持たんだろう」
「確かに……じゃあ、工藤くんは」
「ああ、考えの通りだろう」
そこで漸くトイレに辿り着いたがコナンは見つからない。子供達はコナンが何処かに隠れて脅かそうとしているのではと会話がされていた。そこでこの屋敷の執事がやってきて夕食が出来たと連絡がきた。
「一応、君達の分も用意させたけど……食べるかい?」
それに元太と光彦は喜んだ。しかし反対に歩美は心配そうに眉を下げる。
「でも、コナンくんを探さないと……」
それに貴人は大丈夫だと言う。曰く、お腹が空けば我慢出来なくてすぐに出てくる、と。そして夕食はとても豪華絢爛なもので、子供達は喜んで食べ、その様子を満と貴人は楽しそうに見ていた。
「はは、良いな、こういうのも」
「ええ。お母様が死んでから、めっきり来客も減りましたからね」
「しかし何故ですか?お二人共、あの火事以来、ここに留まってると聞きましたが……」
「ははっ、僕は元から向こうの大学を出たらこの城に住もうと思ってたんですよ」
「私は最初、一人娘を亡くされたお母様を気遣って留まっていたんだが……日が経つにつれ、妻が生まれ育ったこの城が気に入ってしまいまして……」
「ふん!気に入ったのは城じゃのうて城に隠された『財宝』の方じゃないか?」
満の言葉の後、マス代がそう言葉にして会話に入ってきた。満はそこでははっと笑い、肯定する。大旦那様の遺言が気にならないと言えば嘘になる、と。そんな満を見てマス代は不機嫌さを隠しもしない。
「ふんっ!お前のような欲深きものに娘がたぶらかされたとは……夕食は部屋でとる。娘が着いたら連れて参れ。ちと灸を据えねばならん!」
マス代はそう言いながら車椅子で部屋から出て行ってしまった。
「お祖母様は相変わらず、お母様が生きていると……」
「記憶が鈍るのも無理はない。足を痛められてから10年間、ずっとこの城に籠られたままなのだから」
そこで違和感を持つ咲。しかしその違和感に辿り着く前に満が博士に謎の方はどうなったのかと問い掛けた為に咲はその考えを一度他所にやることにした。謎の方は勝男から聞いたのだが、博士は何処からどう探っていけば良いのか分からないと伝えた。それに哀は伝える。
「庭に並べられたチェスの駒」
「え?」
「あのチェスボードを庭に作ったのは、宝を隠した本人だって言えば、あのチェスの駒に謎を解くヒントが隠されていると見て、まず間違いないでしょうね」
そんな哀の様子に満と貴人は感心した様子を浮かべる。
「も、もしかして、君はあの駒の意味がわかったのかい!?」
貴人がそう問うと、哀は紅茶を一口飲み、答える。
「分かるわけないでしょ?貴方達が4年を費やしても解けなかったのに。……もし解けるとしたら、この城の何処かに消え失せた、好奇心旺盛なミステリーグルメさんぐらい……かな?」
その『ミステリーグルメ』という言葉に二人は困惑の様子を浮かべる。そんな時、メイドさんが袋を持って現れ、それを歩美に渡す。それに歩美はお礼を言ったところで光彦が袋の意味を問う。歩美はそこで自身のパンを一つ取った。
「私のパン、一つコナンくんに持って行ってあげるのよ!きっと、お腹すかせてるだろうから!」
そこで満がコナンはどうしたのかと聞いてきた。博士はそれに素直に答える。
「それが、さっきから姿が見えないんじゃ。食事を済ませたら探しに行こうと思っておるんじゃが……」
それに貴人は城は結構入り組んでいるため、何処かに迷ってしまっているのだと言う。
「あの塔に迷い込んでいなければ良いが……」
「あの塔?」
「ほら、この城の左手に見えたでしょう?4年前、我妻が焼け死んだあの緑に囲まれた焼け焦げた塔の事だよ。……そう、あれは丁度2年前、ここで雇っていた新米の使用人が、一夜のうちに姿を消してしまってね。聞けば、彼はよくあの塔には何かあると言って仲の良かった使用人に漏らしていたらしく、すぐにあの塔を探したんだが、誰かが侵入した形跡はあるものの彼の姿はなく、あとは警察を呼んでこの森一帯を大捜索することになったんだ」
その後はどうなったのかと博士が問えば、その10日後、森の中で漸く見つかったと言う……餓死状態で。
それに子供3人組は悲鳴をあげ、それは何故なのかと博士が問うが、満はさあと首を傾げるだけ。警察は誤って森に入って迷ったただの事故死として処理していたらしいが、使用人の間ではしばらく奇怪な噂話が流れたと言う。それは、塔で焼け死んだ夫人たちの怨念が彼に乗り移ったというものだ。
「それ以来、あの塔の入り口は封鎖したんだ」
「じゃ、じゃあ、早く見つけないとコナンくんがお腹を空かせて……」
そこで元太と光彦はそのすがたをそうぞうしたようで、自分たちのパンを袋に入れてくれた。貴人はそこで夜が更ける前に探そうと提案し、全員で大捜索。外にも出て声を張り上げ名を呼ぶもコナンは出てこない。そこで貴人とも合流し、庭にも城にもいないという情報が分かった。ならば塔にいるのではと博士が言うが、満が扉まで行って見たが扉は鍵が掛かったままだったと言う。残りは森の中だが現在、雨が降り続いており、だんだんと雨足も強くなってきており、この状態で、しかも夜に森に入るのは危険と判断され、創作は明日の朝、警察を呼んでからする事となった。満が子供達に部屋に戻ろうと声をかければ、歩美は少しだけ走り、塔に向けて叫ぶ。
「コナンくーーん!」
「大丈夫」
そんな歩美の隣に哀がやってきてそう声を掛ける。歩美は哀へと顔を向けた。
「江戸川くんは、貴方が心配するような柔な男じゃないわ。彼なら自分の脱出ルートぐらい、自分で見つけだせる。……ビービー泣いてる暇があったら、パンが雨に濡れないようにしっかり袋を抱えてなさい」
「う、うん……」
そこで元太達が声をかけてきたため、哀は戻るよと声を掛ける。そんな哀に歩美は問いかける。
「ねえ!なんでそんなに、コナンくんのこと分かっちゃうの?」
「さあ?どうしてかしら?」
そんな哀の態度を見て歩美はパンの袋の入り口を少し強めに握り、問いかける。
「もしかして……好きなの?コナンくんのこと」
その質問は哀にとっては予想外だったようで目を見開いて歩美を見据える。しかし少ししてちょっとだけ意地悪い笑顔を浮かべて歩美に問いかける。
「……だったらどうする?」
「え、こ、困るよ……」
それに満足したのかすぐに顔を前に向けた。
「安心して。私、彼をそう言う対象で見てないから」
「本当!?良かった!!」
歩美はその答えに心の底から嬉しそうに笑い、屋敷へと走って入っていく。そのまま歩美は元太達と共に屋敷に入り、咲と博士は哀の後ろから現れた。
「まったく、最近の子供は……じゃが、哀くんの言う通り、新一なら大丈夫。便りがないのは無事な証拠とも言うし……」
「何寝ぼけたことを言ってるのよ」
3人が屋敷に入って直ぐに言った博士のその言葉に、哀がそんな反応をする。それに博士は意味が分かってない様子を浮かべるが、哀が言葉を続ける。
「彼が何時間もなんの連絡もなしに姿を消して、私達に無意味な心配をさせると思う?……彼の身に何かあったのよ。この城の誰かに監禁されて、脱出出来ないだけか、あるいは既に……殺されているか」
それに博士が慌てて止めるが、哀は腰に手を当てる。
「兎に角、城の人に気付かれないように直ぐに警察を呼んで、虱潰しに捜索することね。そう、探すのは森の中じゃなく、この城の中……もう目星は付いてるわ」
哀はそこまで語ると、博士にしっかりするように言う。今のこの状況で、頼りになるのは大人である博士だけなのだ。それに博士は煮え切らない返事をして哀の後を追う。
(そう、今は大人である博士だけが頼り。……けれど、心配事はもう一つ)
哀はそこでチラリと隣を歩く咲を見る。ここまで一度も彼女は喋っていない。しかも現在、彼女の表情は無表情だ。けれど哀は察していた。今の彼女が少々まずいことに。
(……このまま工藤くんが本当に殺されていたとしたら……殺した犯人は、この子に殺されるわね。『咲』ではなく、『カッツ』の顔で)
そんな3人の後ろ姿を柱越しから見ているものがいるなど、3人は気付かなかった。
哀と咲、博士はそこで別れ、博士は一人、警察に電話を掛けようと廊下を歩く。そして電話を見つけ、掛けようとしたその時、『パサっ』と何かが落ちる音が聞こえ、そちらに目を向けた。そして一度受話器を置き、それに近づけばそれは血の付いた白いニット帽だった。
「こ、これは!?新一の帽子!」
そこでパカっと壁が開き、空間が見える。
「なんじゃ?この扉は」
博士がそちらに寄り、その扉の中へと入ってしまう。
「なんじゃ?ここは……」
その瞬間、博士の後ろに身を潜めていた人間が持っていた棒を博士の頭に打撃を食らわせる。そこで博士の眼鏡は飛び、地面と直撃し、レンズに皹が入る。しかしそれを拾うことはできず、博士は地面へと倒れてしまった。
そんな時、咲と哀が博士を追ってきた。
「博士?どうせ呼ぶなら私達と面識のある横溝刑事か目暮警部を……」
そう言葉にしながら電話のあるところへとたどり着くが、そこに博士はいなかった。直ぐに電話のあたりをキョロキョロと見るが博士は何処にもいない。
博士がいる扉の向こうは……犯人によって、静かに閉じられてしまったのだった。
チェスの部分の暗号って、文字で表すの中々に大変と言うか……これを表すにはチェスのルールとか詳しく知らないと絶対に書けないのではないかと思うのですが、これは私だけですかね?
それでは!