とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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ちょっと更新が遅くなってしまいすみませんでした。

実はリアルの事情で更新出来なくて……今、現在住んでるところから引っ越しのための荷物出しと、就活中でしたので。まあ、つまりは疲れ切ってたんですよね……働き出したらどうするつもりなんだ、私。疲れるなんて毎日やで……。


第16話〜競技場無差別脅迫事件・前編〜

今日、咲はいつも通りの悪夢から目覚め、なんの約束もない休日であるなら彼女は図書館に行ったり、外でボーッとしているのだが、今日は少年探偵団達に誘われ、サッカーの試合を観に行くことになった。勿論、最初は断ろうと思ったのだ。映像に映る可能性があると考えたのも一つだが、一番の理由は残念ながら彼女にサッカーに対しての興味が全くないからだ。遊びでのサッカーは誘われれば子供らしくを心がけ、その誘いに乗りはするのだが、さすがに興味ないものを観に行くのは彼女にとっては億劫でしかない。が、最初に断ろうとした時に、子供達からのあの悲しそうな顔を見れば、断れなくなってしまったのだ。

 

彼女がそれを思い出しながらも着替え終えた。そんな時、彼女の頭に茶色の帽子が深々と被せられた。

 

「……おい、修斗。なんだこれは?」

 

「やっぱり足音聞こえてたか。……帽子だ帽子。どーせサングラスかなんか掛けて、観客席から立ち上がらずにいるつもりだったんだろ?カメラに入ったら暴露る可能性があるから」

 

「そのつもりだったが、だからこれはなんなんだ?」

 

「サングラスとかしなくても良いように、な。こういう帽子被っときゃ、お前の場合はすぐ分かんないと思うぞ。黒髪黒目なんだ。日本人なら大抵その髪と目の色だし、あとは髪型変えりゃ、すぐには分からないと思うぞ?……ということで、だ。髪型変えるからこっち来い」

 

修斗はそう言って、咲の部屋にあるドレッサーの椅子の後ろに待機する。そんな兄を見たあと、咲は頭の帽子を取り外した。被せられていたのは茶色の中折れ帽子だった。

 

「……お前が変えるのか?」

 

「使用人の人でも良いならそうするが?」

 

「それは断る。そうじゃなくて、瑠璃や雪菜は……」

 

「瑠璃も雪菜もまだ寝てる。俺も朝5時には起きるし、兄貴と雪男は6時起床。梨華はそもそもまだ帰ってきてない。なら俺がするしかないだろ」

 

「……出来るのか?」

 

「妹達に頼まれてた頃が一時期あったから、任せろ」

 

それを聞き、咲は一つ溜息を吐いたあと、化粧台の前に座った。覚悟は溜息と共に決めてきた。

 

「……ストレートにだけはしないでくれ。『仕事』のことを、思い出す」

 

「そりゃ、ほとんど黒一色じゃあな……別の色にすりゃ良いのに」

 

「……なら選んでくれないか?」

 

「……はっ?」

 

そこで修斗はキョトン顔で咲を見る。彼にとって、咲のその言葉は予想外だったのだ。そんな修斗を見て、咲はクスクスと笑う。これは彼女にとっては一つの仕返しだ。コナンの正体を教えなかったことへの細やかなる仕返し。

 

「いや、ちょっと待て。お前、見た目小学生でも中身の歳、考えて言ってるか?」

 

「ああ言ってるとも。だが瑠璃が言ってたぞ?『私達は『兄妹』なのだから気にしなくても良いだろ』と」

 

その言葉に修斗は頭を抱えて逡巡し、息を一つ吐き出し、咲に最終確認を取ってきた。それに頷くと、修斗はトボトボとタンスを引き出し、服の選定を始めた。

 

「えっと……って、なんだこの服の数。色も様々あるし……」

 

「ああ、それらは瑠璃と梨華が買ってきたんだ。ただ、正直に言えば少々困っている」

 

「……またあいつらかよ。雪菜にもしてたぞ、そんな事。……まあ良い。ほら、コレとかどうだ?」

 

そう言って修斗が投げ渡したのは緑のタートルネックに明るい茶色のショートパンツ。

 

「まあ寒いだろうし、上に子供用のコートかなんか着とけば問題はないと思うぞ」

 

それを聞き、咲はあの黒いロングジャケットを着ようとした。それに修斗は呆れ顔。

 

「結局、黒を選ぶんじゃないか……」

 

「全てが黒一色じゃないなら大丈夫……のはずだ」

 

「はずってお前……とりあえず、その姿ならやっぱりストレートの方がいいな」

 

「……」

 

それにコクリと頷き、修斗が一度出て行ったのを見て、着替え直し始めた。そしてストレートにし、近くの姿見に自身を映す。勿論、思い出してしまうかを確認するためのものだったのだが、どうやら思い出すことはなかったようだ。

 

(やはり、黒一色だとあの組織にいるような気分になるようだな……少しずつ、別の色の服も着ていくか)

 

自己分析をしたあと、部屋を出る。その扉の前には修斗がおり、咲の姿を見て、満足そうに頷いた。

 

「似合ってるぞ?あとはさっき渡した帽子被って行けばいい」

 

そんな修斗を見て、咲はジッと見たあと、小さく笑みを浮かべる。

 

「……ありがとう、修斗」

 

それに同じく微笑みを修斗は返し、一緒にリビングへと向かって行った。

 

それからさらに時間が経ち、少年探偵団達との集合し、そのまま国立競技場には行かず、さきに商店街の所で獅子舞が披露されていた。それを他の見物客に混じって見ることとなった。咲にとって、覚えている限りは初めての獅子舞演舞だ。

 

「ねえねえ!獅子舞の獅子って、目暮警部さんに似てない?」

 

「ええ?」

 

歩美のその言葉を聞き、哀の隣にいたコナンは獅子舞をもう一度見る。言われてしまっては獅子舞が目暮の高木を怒る姿に見えてしまい、プッと吹き出してしまった。

 

「本当!そっくりだ!」

 

「でしょでしょ!!」

 

「元太くんにも似てますね!」

 

「なにー!?」

 

「ほらほら!そっくり!」

 

その光彦の言葉に元太が怒り、光彦を捕まえる。その二人にコナンはそろそろ行こうと声を掛ける。咲が時間を見れば、確かにそろそろ行かなければ始まってしまう時間だと理解した。コナンの声に元太は分かってると返し、光彦を捕まえた状態のまま、国立競技場へと向かって歩き出した。今日は天皇杯の試合。それも今日の試合はビッグ大阪対東京スピリッツなのだ。このチーム同士はよくぶつかり合うことが多いが、その試合はいつも白熱する。その分、ファンも興奮し、このチーム同士の対決時の客席はほぼ満席となる。そして試合が始まって少し経ち、東京スピリッツがゴールを決めると、哀と咲を除いた4人は歓声の声を上げ、その声がさらに咲にとってはダメージとなる。すでに彼女は耳を塞いで客席に座っていた。

 

「……あなた、大丈夫?」

 

「これが大丈夫に見えるか?」

 

「全く見えないわね。こうなる事ぐらい、分かってたでしょう」

 

「分かってはいたさ。だが……彼ら3人の悲しそうな顔を見たら、断るに断れなくなってな」

 

「……そう」

 

その返答に哀はそれだけを返し、持っていた雑誌に目を向けた。

 

「ねえねえ!今決めた人、誰誰!」

 

「スピリッツのヒデですよ!直樹のセンタリングにヒデがヘッドで合わせたんですよ!」

 

光彦が説明しながら見ている画面には、そのゴールを決めたヒデが相棒の直樹に肩を組まれ、仲間からも喜ばれている姿が映っていた。

 

「さすがヒデだぜ!」

 

「ええ!彼は怪我さえしてなきゃ日本代表入り確実って言われてましたからね!」

 

「日本代表って言えば、ワールドカップは惜しかったよな」

 

「一勝も出来なかったら、悔しいですよ」

 

「でも、なんで大人まであんなに大騒ぎしてたんだろな?」

 

その元太の言葉に歩美も同じ反応を返す。歩美のお父さんは日本が大会に出られたなんて、夢みたいとまで言ったらしい。その大会の大きさに光彦はよく分かっていないらしい。その大きさを理解しているのは、4人のうち、たった1人。

 

「バーロー。ワールドカップは世界中の国が威信をかけて闘う、スポーツ界最大のイベント。日本中が騒ぐのはあったりまえだよ。……ま、日本が一勝も出来なかったのは悔しいけど、世界の壁はそれだけ厚いって事さ」

 

(……そう言えば、あのヒゲの彼も、過去に予選試合を見ていて負けたとき、何気に悔しがっていたな……)

 

咲が思い出したのは、ロン毛スナイパーとはまた別のスナイパー。よく褐色の彼と組んでいた彼だが、そういうイベントを見ていて日本が負けたとき、何度か悔しがっている姿を咲は見たことがある。勿論、咲が見ていたと気づけば、慌てて取り繕っていた。そんな彼とは4年ほど前、彼がNOCだと言われ、少し咲が動いて以降、会ったことはない。勿論、彼は生きたままなのだが、もう彼は組織に戻ることは出来ない。当たり前ではあった。

 

咲がそんな考え事をしている間のコナンはと言えば、光彦達から責められていた。そのワールドカップで負けた後、この場の誰より悔しがっていたのはコナンだ。いつものコナンはとてもクールでかつ大人っぽいのだが、その時だけは、その試合を見ていた博士のところのテーブルの上でジタバタして悔しがっていたのだ。

 

「しゃ、しゃーねーだろ。日本のワールドカップ出場は、ガキの頃からの俺の夢だったんだから」

 

「何言ってんだオメー、ガキの頃からって」

 

「コナンくん、今でも子供じゃん……」

 

「コナンくん、一体何時頃からサッカー見てるんです?」

 

その3人からの純粋な質問にコナンは焦る。そもそも言えるわけがない理由なのだから焦って当然だ。そんなコナンの様子に哀はフッと笑う。それに気付いたコナンが後ろを向けば、サングラスをかけて雑誌を読む哀と、歓声を遮るために耳を塞いでいる咲がベンチに座っていた。

 

「何がおかしいんだよ、灰原」

 

「名探偵さんも、サッカーが絡むとただの少年になっちゃうのね」

 

「ほっとけ。大体オメー等は試合見ねーのかよ?」

 

それに哀は笑みを消した。

 

「私は付き合いで来ただけ。奴らは、私達の小さい頃を知ってるのよ。万一、テレビカメラで私達の顔が撮られて放送でもされたら、私はたちまち奴らに捕まり、咲は裏切り者として消されるわ。そうなったら貴方だってやばいのよ?だから、私はあんまり来たくはなかったんだけど……」

 

そこで哀のサングラスが取られ、それに哀が驚いて顔を上げ、慌てる。しかしそれを気にせずにコナンが被っていた帽子を代わりに哀に被せた。それに目をパチクリさせている哀にコナンは笑顔を返す。

 

「どうだ?それなら撮られても平気だろ?咲のは修斗からの配慮だろ?」

 

「ああ、まあ……ただ私は興味が……」

 

「いいから、ほらっ!」

 

そう言ってコナンに哀と咲は腕を引かれた。それに待ったを掛けようとしたが、コナンから今は組織の事を忘れて試合を勧められる。

 

「サッカーの試合は生で見るのが一番なんだからよ!」

 

そう言った彼の顔はとても子供らしかった。そんな彼の楽しんでる顔を見て、咲は溜息を一つ吐いて試合を見ることにした。そして哀はと言えば、そんなコナンの様子を見つめていた。

 

(工藤くん、貴方は夢にも思ってないでしょうね。貴方は既に、我々組織が半世紀前から進めていた秘密プロジェクトに、深く関わってしまっているなんて……)

 

そんな哀の考えを、咲は知らない。咲が知っているのは、先生の処分の決定が下される前に、その本人から聞いた組織が、先生が研究していること、そして幹部とボスのメールアドレスだけだ。勿論、幹部の中には名前だけ知ってる者もいる。研究の方は、その全てを咲が理解できてるかと言えばそうではない。彼女にとっては意味不明な部分もあり、記憶が変わってしまっているところもあり、その通りだと鵜呑みには出来ない。たとえそれを伝えたとして、伝えた相手は確実に危険に晒される。それは、咲には耐えられない。

 

(……哀の方が理解できているのだろう。それを伝えないと言うことは……なら、私からも伝えるのはやめておこう)

 

そう決めて見ている時、コナンから呆れ顔を向けられ、哀と同じようにコナンを見る。

 

「普通、こんな面白い試合を見れば、ああなるぜ?」

 

そう言って彼が指差した方へと見れば、光彦達が興奮し、大声で応援する姿。

 

「オメー等、人の持つドキドキとか、ワクワクとか、そう言う感情はねえのか?」

 

「さあ?どっかその辺探せば出てくるんじゃない?」

 

「転校して来た時もそうだ。ガキに混じって勉強なんて、恥ずかしくて仕方ねえのに、オメー等は平然と授業を……」

 

「当たり前でしょ?」

 

哀はそう言うと、笑みを浮かべてコナンに答える。

 

「貴方がいたもの」

 

「え?」

 

「あのクラスに貴方がいたから、冷静でいられたのよ。……私と同じ状況に陥った、貴方がいたから」

 

「……そうかよ」

 

コナンは目をパチクリさせた後、そう答えた。そして次に咲に目を向ければ、咲は肩を竦める。

 

「同じような答えだ。幸い、あのクラスにお前がいたからまだ冷静でいられた。ただ、あの時はお前が私と同じ状況だとは知らなかったが……あの船の時にお前に会っていて良かったよ。まだ冷静でいられたからな」

 

「そんなもんか?」

 

「見た目は同じ小学生。小学生とはいえ、知り合いと会えたんだ。動揺よりもホッとするさ」

 

それを聞き、今度は試合を見ることに集中し始めたコナン。しかし気になったことがあったのか、またコナンは問い掛けてくる。

 

「あ、あのさ……一つ聞いていいか?」

 

「なーに?」

 

「オメー等、本当は何歳だ?」

 

「84歳」

 

「えっ……」

 

哀の答えにコナンは驚く。しかし直ぐに哀が嘘だと言う。

 

「本当はーーー」

 

そこで哀の頭に被せられたコナンの青い帽子が風で飛ばされ、ラバーコートに落ちてしまう。それと同時に、其処に転がっていたサッカーボールからプシュッと音が聞こえ、ボールが弾む。それに違和感を持つコナンだが、そのボールは少し弾んだあと、すぐに萎んでしまった。

 

「どうしたんだ?コナン」

 

「急にボールが弾んだ?」

 

コナンはその理由を知るために観客席の手摺の下から体を潜らせ、ラバーコートへと降り立つ。勿論、それに気付いた係りの人が声を掛けるが、コナンにはそんなの関係ない。萎んだボールを手に取り、観察し始める。萎んだ原因はどうやらボールに穴が空いたらしい。しかし、穴の数は二つ。その穴を見てある予測を頭に浮かべた時、係りの人からまた注意を受ける。

 

「駄目じゃないか、勝手にグランドに降りちゃ……」

 

「だって!帽子落としちゃったんだもん!!」

 

「帽子?」

 

それを聞き、係りの人は帽子を探し始める。その間にコナンは地面の観察を始める。

 

(だとしたらあるはずだ……アレが、ラバーコートの何処かに)

 

そこでコナンは漸く見つけた。ラバーコートに付けたれたとある跡を。その跡に向けて持っていたナイフを何度も振り下ろし、削り始める。途中で帽子を見つけてくれた係りの人が咎める声をあげるが関係ない。何度目か振り下ろした時、ナイフの先が何かに当たった。そしてそれを手で掴んだ時、係りの人に抱え上げられて、捕まってしまった。

 

「こらっ!なんてことするんだ坊主!」

 

しかし既にコナンには聞こえていない。コナンは見つけたものを見てやはりだと理解する。しかし、その弾の種類を理解し、驚愕した。

 

(これは、7.62mm弾……フルメタルジャケット!)

 

その頃、彰と瑠璃はと言えば、日売テレビから連絡が入り、競技場の外にやって来ていた。

 

「拳銃ですよ拳銃!競技場の中で発砲したんですよ、警部さん!」

 

「で、撃たれた被害者は何処だね?」

 

「いえ、あの撃たれたのは人じゃなくて、サッカーボールです」

 

「サッカーボール……?」

 

その一言に彰と瑠璃は顔を見合わせる。ディレクターの『金子』曰く、電話の男の言う通り、観客席の方最前列にいた青い帽子の子供の下に転がっていたボールをモニターで見ていたという。すると急にボールが弾み、空気が抜けたという。

 

「アレは拳銃で撃ったに違いありません!」

 

それに目暮は呆れた様子。彼はそれだけならエアガンを使った悪戯の可能性もあるという。それを彰も瑠璃も否定出来ない。そもそも警察は、人に被害が出るか、もしくは予告がない限り動く事は出来ない。それが本当に拳銃ならば可能だが、今の段階では判断がつかない。彰が少々悩んでいる時、声がかかる。

 

「多分、トカレフだと思うよ」

 

「ん?」

 

その声の方へと顔を向ければ、子供が6人。少年探偵団達がいた。

 

「こ、コナンくん!」

 

『少年探偵団、参上!!』

 

コナンの後ろにいた光彦、元太、歩美がそう名乗れば、コナンは呆れたように見遣る。彰と瑠璃は、競技場の時点で咲がいる事は理解していたが、まさか関わってくるとは思わなかった為、驚愕していた。

 

「き、君達も来ったのかね……」

 

「この子でしょ?おじさんがモニターで見てた青い帽子の子供って」

 

それに金子は肯定を返す。そこから考えて、コナン達が見ていたのは明白だ。目暮が見ていたかを問えば、やはりコナンが頷く。

 

「ボールが弾んで空気が抜けた。それで直ぐにグランドに降りて見つけたんだ……ラバーコートにめり込んでた、この弾をね」

 

そう言って見せてきた弾を見て、瑠璃は目を見開く。

 

「な、7.62mm弾……!?」

 

「ロシア製か……」

 

「それが装填できるロシアの拳銃といえば……」

 

「中国を経由して日本に多く密輸されてくる、トカレフと見てまず間違いない。殺傷能力が極めて高い、強力な拳銃だ」

 

そこまで言ってコナンは思考に耽る。

 

「銃声が聞こえなかったから、きっと犯人は銃口を加工してサイレンサーを……」

 

「しかし、なんでそんな事を知ってるんだね?君は」

 

目暮のその疑問はその場の誰もが持つ満場一致の疑問で、彰と瑠璃も首を傾げて不思議そうにコナンを見ていた。それを聞かれたコナンは慌てて全て小五郎から聞いたのだと言った。それを聞き、目暮は呆れ顔。今この場にいない小五郎に対して、何をコナンに教えているのだと責めた。

 

「とにかく中止だ中止!今直ぐ試合を中止して客や選手達を避難させろ!」

 

それを聞き、全員が行動しようとした時、金子からダメだと止められる。どうやら電話の男から客を避難させたり中止したりするような妙な素振りをすれば、銃を競技場内で乱射すると言われたという。それに彰も瑠璃も顔を顰める。これで避難誘導などはまず出来なくなったのだ。

 

「それで、犯人の要求は?」

 

「『ハーフタイムまでに5000万円を用意してバックに詰めておけ。置き場所はまたあとで連絡する』と」

 

「それは、貴方達に要求したのかね?」

 

「ええ。我々日売テレビに」

 

「となると、犯人は日売テレビに恨みを持つ人物か、あるいはテロリストか……その男の声に聞き覚えは?」

 

「それが、聞き取りづらい篭ったような声でして……」

 

篭ったような声となると、受話器に布を当てていたが、マスクをしていたかの二択だろうと目暮は考え、5000万円は用意したのかと聞けば、いま競技場に向かっているところだと答えられる。

 

「ようし!私服警官を総動員して、競技場内に散らばらせろ!今度犯人が電話を掛けてきたときが勝負だ!その瞬間、競技場内で電話を使用している奴を全て取り押さえるんだ!」

 

その指示を聞き、高木を入れた警官達が走り出す。そしてコナン達には帰るように言い、コナンもそれに頷いた。そんな時、金子が少し目を見開いて声をかけてきた。

 

「あれ、そこの子は女の子かい?」

 

それに歩美は少し怒りながらも答える。

 

「失礼ね!見て分からないの?」

 

確かに哀はスカートを履いており、誰がどう見ても女の子だと分かる。しかし金子は首を傾げた。

 

「変だな……確か電話の男は、6人の子供の左から二番目の青い帽子を被った『坊主』って言ってたんだが……」

 

それにコナン、哀、咲、彰は目を見開く。それを聞けば、大体の居場所、そして人数が絞れる。コナンは直ぐに目暮に声をかけた。

 

「待って警部さん!!」

 

「ん?」

 

「下手に犯人を取り押さえたら、マズイよ!」

 

それに目暮はよく分かっていない様子だった。当たり前だ。先ほどの金子の言葉を聞いていないのだから。

 

「サッカーボールはこの子達の真下にありました。つまり、犯人はこの子達の側で撃った事になりますよね?」

 

「ああ。拳銃の射程距離はたかが知れているし、外したりすれば洒落にもならんからな」

 

「側にいたなら、なぜこの子が『男の子』と間違えたんでしょう?」

 

「彰刑事の言う通りだよ!この服見れば、女の子だって誰でも分かるのに!」

 

それに目暮は半目になって答える。

 

「それはきっと、スカートが壁に隠れて見えなかったから……」

 

「つまり、壁に隠れて見えない位置……そこからだと、逆に拳銃の射程距離外。……彼らの真向かいのバックスタンド側になります」

 

「そう。つまり、僕らを見ながら発砲を予告した人間と、実際に拳銃を撃ったのは別人。……犯人は少なくとも、2人以上いるってことだよね?」

 

それに目暮が驚愕する。そして直ぐに無線で目暮から指示があるまで絶対に取り押さえるなと伝えるように、近くの警官に指示する。その間、コナンは考えていた。

 

(でもどうするんだ?この少ない手掛かりだけで、どうやって犯人を見つけるんだ?……この国立競技場にひしめく56,000人の中から……どうやって!?)

 

そんなとき、目暮が指示を出し始めた。

 

「観客席に散った各員に告ぐ。脅迫犯は2人以上だ!そのうち1人は、トカレフを所持していたものと思われる。不審人物を見かけても手を出すな!儂が指示するまでそのまま監視を続けるんだ!仲間を助けるために、犯人が何をするか分からんからな!いいか?くれぐれも刑事だと気付かれるなよ!最新の注意を払って犯人検挙に全力を尽くせ!!犯人が次に動くのは、要求した金の置き場所を指定する時!そのとき、この国立競技場内で電話を使っているありとあらゆる人物を全てマークするんだ!」

 

そこてコナンが付け加えた。

 

「あと双眼鏡もだよ」

 

それに目暮が驚いて顔を向ける。その意味を理解しかねているようだ。それに気付き、コナンは説明する。

 

「さっき言ったでしょ?犯人は電話した時、僕らの向かい側のバックスタンドで、僕らのことを見てたんだ。そんな遠くから、子供が6人いる事や、その中の1人が青い帽子を被っている事、その子の下にボールが落ちてることなんて、肉眼じゃ判別出来ないよ。多分、犯人は携帯電話の他にも双眼鏡か、もしくは……」

 

「オペラグラス!」

 

「望遠鏡」

 

「携帯のビデオカメラ!」

 

「距離は掴みにくく視野も狭いが単眼鏡」

 

「望遠付きのカメラなんて、怪しいわね」

 

「そ、そうだね……犯人の1人は遠くを見渡せる何かを使っている可能性が高い!各員はそれを踏まえてーーー」

 

そこで金子の携帯に電話が掛かる。それに全員に緊張が走る。目暮は直ぐに各員に電話を使っているものをチェックし、報告するように伝えたあと、金子にもなるべく犯人との会話を長引かせるように伝えた。それに金子は頷き、恐る恐る電話を取る。咲はコナンから視線を受け、一つ頷いて集中し始めた。

 

「も、もしもし……ディレクターの金子ですが……」

 

『……』

 

「もしもし?もしもし?」

 

『なぜ直ぐに電話に出ない?』

 

「えっ」

 

『まさかサツにチクったんじゃねえだろうな?』

 

それに慌てて金子はそんな訳ないと言う。それに犯人は納得しないものの、指示を出す事にしたらしい。

 

『まあいい。金は用意できたか?』

 

「あ、ああ……」

 

『金を置く場所は18番ゲートの出口。置く時間は前半のロスタイムに入った時、間違えんなよ?』

 

それだけを伝えると犯人は勝手に切ってしまった。その内容を全てコナンに伝えれば、コナンは何かを考え始めた。そしてそれは、咲も同じである。

 

(もし私が犯人だとして……こんな馬鹿なミスを犯すか?脅迫をするんだ。しかも2人。なら片方は携帯を使えば怪しまれてもおかしくないことぐらい、普通は理解するんじゃないか?……脅迫をし、哀を男と間違えるほどの真向かいで、望遠鏡などを使っても怪しまれない人物……私なら……)

 

そこまで考えて、咲はある推測が頭の中に浮かんだ。しかしそれをコナンに伝えることはしない。なぜなら彼女の中に浮かんだのは、良いが、それは特定するほどまで絞られているわけではないからだ。

 

(アレだった数多くあるんだ。伝えるなら、絞った後だ)

 

その後、あの脅迫電話時に携帯を使っていた人物は8人だと言う知らせとその場所を聞き、また機械室なども見に言ったかと聞けば、トイレにも張り込ませたものの、誰もいなかったと知らせを受けた。競技場から出た客も1人もいない。

 

「開いていたテレビカメラからも逐一客を監視していましたが、使っていたのはその8人だけのようです」

 

それを受け、目暮はその中に犯人グループの1人がいると考えたらしい。それに彰も瑠璃も否定はしない。しかし、彰は何かが腑に落ちないらしく、ずっと考え込んでいた。その間、目暮は金を取りに来ても普通には来ないだろうと、部下からの質問にそう答え、犯人グループを一網打尽にするのだと意気込んだ。そしてパトカーに乗せていた無線に目を向ければ、そこに無線は無くなっていた。

 

「あれ?儂の無線は?」

 

「……これのこと?」

 

コナンがそう言って目暮に見せたのは確かに無線で、目暮はお礼を言って無線を受け取る。しかし咲と哀は確かに見た。その無線に何かが仕掛けられていたのを。

 

「ねえ。あの無線に何を仕掛けたの?」

 

「ああ、盗聴器だよ。一応、警察の動きを把握しておきてーからな」

 

そこでコナンは元太達を探す。しかし何処にもおらず、居場所を聞いてきた。哀はそれにチケットの半券を見せれば再入場出来ると教えれば、喜んで走っていったと伝えた。それにコナンは口元を引攣らせる。

 

「よ、喜んでって……まさかあいつら……」

 

そのまさかであり、現在の元太達は、探偵バッチを使い、3人で犯人探しを始めていた。

 

『こちら元太。こちら元太。怪しい奴は見つかったかよ?どうぞ』

 

「こちら光彦。不審人物はいません。どうぞ……歩美ちゃん!そっちはどうですか?」

 

「ううん……こっちは別に……」

 

そこで全員のバッチに連絡が入る。それに歩美は意気揚々と出た。

 

「はい。こちら歩美……」

 

『こちら歩美……じゃねえ!!何やってんだオメー等!?相手は拳銃持ってんだぞ!!!撃たれたら死んじまうんだぞ!!!犯人は俺や警察に任せて、オメー等子供はいますぐ……』

 

そこでコナンの近くにいた咲は耳を塞ぎながらも溜息を一つ零す。この後、コナンが三人からどう責められるのか、検討がついてしまったのだ。

 

『オメーだって子供じゃねえか!』

 

『私達も、犯人捕まえるの手伝いたいよ!』

 

『僕達、探偵団仲間じゃないんですか?』

 

それに渋々ながらにコナンは了承。その代わりとして、怪しい人物を見つけても1人で動かないようにと言う。見つけた際にはコナンにも連絡するように言って、それに返事が返されてからバッチの無線を切る。

 

「たくっ……」

 

「あら?案外頼りになるかもよ?相手も、子供は無警戒だろうし」

 

「確かにな。子供じゃ大人からしたら相手にもならないし、ごっこ遊びで一蹴されるだろうからな」

 

「そりゃそうだけど……」

 

そこでロスタイムの時間になる。それに三人は自然と緊張する。

 

その18番ゲートには、2人の男女の刑事が張り込んでいた。

 

「こちら『佐藤』。現金のバック、異常ありません」

 

「こちら『田宮』。バッグに近づくのは1人も……」

 

その時、足音が聞こえ、2人は警戒レベルを上げた。その鞄に近付いたのは、コートに白いマフラーグレーの帽子を被り、黒いサングラスにマスクをつけた男だった。

 

「警部、例のゲートに、白いマスクをつけた黒いサングラスの男が……」

 

「男が今、バックを取りました」

 

『周りに人は?』

 

「いません。1人です」

 

それを聞き、目暮が確保の指示を出す。その瞬間、田宮刑事と佐藤刑事が動く。まず田宮刑事という男性刑事が男に向かって突進。しかしその衝撃は軽かったようで、男は倒れることなくそのまま田宮刑事を振りほどく。そこに佐藤刑事が容赦なく腹部に膝蹴りをかまし、そのまま片腕で男の左腕をつかみ、右腕で後頭部をつかみ、そのまま地面に叩きつける。拘束された男もその勢いで倒れてしまった。佐藤刑事はそのまま男に関節技を決めていた。その間に目暮の指示で拳銃を探すように言われた田宮刑事が拳銃の確認を始める。しかし、何処にもなかった。

 

「言え!どこだ!拳銃はどこにある!!」

 

『触るな!!!』

 

その瞬間、放り出されていた携帯電話から別の男の声が聞こえてきた。それに全員の意識が向く。

 

『相棒にそれ以上触るな。観客を撃ち殺すぞ!!……さっさと離れろ!!』

 

それを聞き、素早く全員が男から離れる。倒れていた男はユックリと起き上がる。電話の男は警察がいた事に勘付いていたらしい。

 

『話が違うじゃないかよ、えぇ?日売テレビの金子さんよぉ!』

 

「そ、それは……」

 

『舐めた真似しやがって……見せしめに1人死んでもらうとするかっ?』

 

それに目暮が慌て出す。しかし犯人は止まらない。

 

『さぁて、どいつを殺してやろうか……ターゲットは選り取り見取りだぜ』

 

男はそこで優越感を抱いたらしく、おかしそうに笑い出す。それに彰と瑠璃は悔しそうに歯噛みする。しかしここでまた動こうものなら、観客が射殺されてしまう。民間の命が第一なのだ。今はまだ、動けない。そしてそれを聞いていたコナンもまた、焦り始める。

 

(やばいぞ、これじゃ……っ!)

 

その頭の中には、犯人の余裕そうな笑い声が、響いていた。




特徴で理解してくれている方もいらっしゃるでしょうが、彼のあの事件を4年前の事としました。今後の原作でいつ起こった事なのか、分かる可能性もありますが、現時点ではまだ分からないので、この小説ではこうさせて頂きました。ですので、他の方に迷惑をおかけしないようにお願いします。

もう一度いいます。これは、この小説だけの時間設定です。本当の時間はどこなのかは、原作をみんなで楽しみに待ちましょう!……説明してくださるかは分かりませんが。

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