とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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はい、いきなり季節が夏から冬になりました……私が書くコナンの世界、どうなってんの?季節がすぎるの早すぎない?まあ私のせいなんですが。


第14話〜黒の組織10億円強奪事件〜

この日、毛利一家は銀行にやって来ていた。そこでコナンは1人、雑誌を座って読み、待っていた。しかしそこで目の前に座って働いている眼鏡の女性が腕時計をチラチラと見ている様子に気付き、コナンはそれに疑問を抱く。そんな時、小五郎と蘭が戻って来た。

 

「お待たせ!コナンくん!」

 

「どうだったの?探偵料の振込は」

 

「ああ!たっぷり入ってたぞ!たっぷり過ぎて通帳がいっぱいになっちまったがな」

 

それにコナンは大喜び。お昼は何処かで食べようと提案すれば、小五郎は昼から一杯酒を呑めると言い、それを蘭が諌める。小五郎はそこで新しい通帳を買わなければと話を逸らし、窓口を探す。そしてそこであの眼鏡の女性を小五郎は発見し、その女性に話しかける。

 

「お嬢さん!」

 

「は、はいっ?」

 

「この通帳を新しいのと変えていただけませんでしょうか?」

 

そんな小五郎に対して彼女は事務的に対応する。

 

「申し訳ありませんお客様。彼方で整理券をお取りになって席でお待ちください」

 

そう眼鏡の女性が示したのは整理券を発行してくれる機械。小五郎はその対応に苦笑し、順番は守らなければいけませんよねと言えば、やはり女性は事務的に頷く。それを見て小五郎は直ぐに整理券を取りに行った。そこでまた眼鏡の女性は腕時計を確認する。そんなお姉さんにコナンは話しかける。

 

「ねえ、おねーさん!」

 

「あら?コナンくん!」

 

「どうかしたの?さっきから何度も時計を見てるけど……」

 

それに女性は困ったように笑って誤魔化す。

 

「今ちょっと忙しくてね!早くお昼にならないかなって思ってたの」

 

女性はそう誤魔化すと席を外す札を置き、去っていく。

 

「知ってる人?コナンくん」

 

「うん!『広田 雅美』さんって言って、ちょっと前に新しく入った人なんだ!いつもはもっと優しい人なんだけど……」

 

そこで小五郎の悲しみの叫びが聞こえ、何事かと蘭とコナンの2人が顔を向ければ、雅美がいなくなった事を残念がっているようで、手を振るわせ、肩を落とし、嘆いている。それにコナンも蘭も呆れかえるほかなかった。コナンは時間が掛かりそうだと理解すると蘭に先に出ていることを伝え、持って来ていたスケボーを持って外へと出た。そして歩いている時、ゴトゴトっという音に気付き、その後の発生源の方へと顔を向ければ、そこには店舗の駐車場があった。コナンは何の音と気になった瞬間、今度はガシャンと何かの割れる音が響き、慌てて駐車場に入る。そして車の陰からその音の発生源に視線を向ければ、ちょうど輸送車強盗が行われていた。

 

(犯人は2人。1人はショットガン、もう1人は拳銃で武装……他の警備員は?)

 

コナンがそこで視線を左に流せば、2人の人間が積み重ねられていた。しかしコナンの距離からでは死んでいるのかどうかの判断は付かずにいた。

 

「コナンくん?」

 

そこで蘭が声をかけてしまい、犯人がその声に反応する。蘭はそれに気付かずに声をかけ続ける。

 

「何してるの?こんな所で」

 

「ほら、帰るぞ」

 

コナンはそれに対して困った時、車の発信音が聞こえてそちらに向けば、警備員がコナン達に助けの声をかける。強盗の方はと言えば、金を詰め込んだ車にコナン達に向かって走ってきていた。その際、ギリギリで小五郎と蘭は避け、強盗の車との接触はなかったが、しかしそのまま強盗車は走り去ってしまう。

 

「な、なんだ今の車は!?」

 

「現金輸送車強盗だよ!!」

 

コナンのその答えに小五郎は驚くがそんなことしてる場合ではない。コナンは直ぐに蘭に警察と病院に連絡するように言い、コナン自身はスケボーを使って追い始める。小五郎はそこで蘭に銀行にもこの事を伝えるように言い、その間に怪我人は自分が見る事を決め、直ぐに2人は行動を始める。

 

一方のコナンはと言えば、スケボーで車の後を追いかけ続けるが、しかし強盗車はスピードの基準を無視して走行しているためになかなか追いつけないでいた。

 

(くそ、なんでスピードだ!レース並みだぜ!ついていくのが精一杯だ!!)

 

そこで車が左へと曲がった。しかしその先にはちょうど踏切が降り始めており、コナンはニヤリと笑う。

 

(しめた!踏切だ!!ようしっ!)

 

これで勝負は決まる、とコナンは思ったが、しかし車がスピードを落とす様子はない。つまり、車はそのまま踏切を破ろうとしているのだ。それにコナンは驚くがしかし現実は変わらない。車はそのまま踏切を破り、逃げていく。

 

(くそっ!逃すもんか!)

 

コナンは意地でも逃がさないとスケボーのスピードを上げ、追跡する。そしてコナンが踏切を飛んだ時、電車がほぼ同タイミングでやってきた。そして着地とともに電車は過ぎていく。しかしコナンは着地しようとしたが失敗に終わり、車を見失ってしまった。

 

「くそっ、逃げられたか……」

 

そんなコナンを心配し、人がワラワラと集まってくる。そんな人達に大丈夫だと伝えた後、コナンが銀行に戻ってきた時には既に警察も駆けつけており、小五郎達に被害総額が伝えられたが、その総額に小五郎は顔色を青くする。

 

「え〜〜〜!?被害総額10億円!?」

 

「ああ。本店から各支店に配るために運ばれたものをアッサリとやられたそうだ」

 

その被害総額を聞いてもそうピンとはこないらしい小五郎はもう一度、同じような事をつぶやく。目暮はその間に先ほど教えてもらった犯人の車のナンバーは間違いないかを聞き直せば、コナンからも間違いないと断言される。

 

「犯人は拳銃とショットガンと装備した二人組か……まあ、ガードマンの怪我が軽かったのが幸いだな」

 

目暮の視線の先には彰が証言を取っているのが見えた。

 

「輸送車が止まったんで荷台で現金を下ろす準備をしてたんですよ。そしたら突然、窓ガラスが割れる音が聞こえてそちらを向けば、銃を構えた男が。直ぐに運転席に連絡をしたんですが返事がないんで、てっきり殺されてしまったと思い、仕方なく扉を開けたんですよ……」

 

その証言にコナンは疑問を持つ。

 

(変だな。あの時、確か俺は銃声と窓が割れる音が聞こえて直ぐに駐車場の入り口に近寄り、中を覗き込んだはずだ。その時、既に現金は運び出し始めていた。運転席を呼んでる暇なんてなかった筈だ)

 

「刑事さんだって分かるでしょ?どうしようもなかったんだって!」

 

「ねえおじさん!」

 

そこでコナンが子供らしく話しかければ彰も警備員もコナンに顔を向ける。それを見てコナンは子供らしく無邪気を装いながら鋭く切り込む。

 

「おじさんは本当に運がいいね!」

 

「え、何がだい?」

 

「だってさ!現金輸送車の窓って中が見えないようにスモークガラスになってるでしょ?」

 

「ああ、そうだな……ん?確かに。よく当たらなかったな、あんた」

 

「しかも球が跳ね返らないように小銭の袋に当たるなんて、よっぽど運がいいか……」

 

「前もって袋の位置と隠れている場所を決めていたか、だな」

 

コナンと彰の2人が少し長い髪を持つ警備員に鋭い視線を向ければ、警備員は目を見開き驚く。

 

「な、何を馬鹿な事を……」

 

「まあ安心しろ。まだ確定じゃない。単純にあんたの運が良かった可能性だってあるんだ」

 

そう彰は言うが、しかし頭の中にはコナンの言葉が残っていた。そう、確かにその可能性もある。そう考えた時、「広田くん!」と誰かの名前が呼ばれ、コナンと彰がそちらに顔を向ければ雅美が支店長に怒られているところだった。

 

「この大変な時に一体どこに行ってたんだね!」

 

「すみません。交代でお昼を食べに出てて……」

 

「まったく、近頃の若い娘達は……一体今何時だと思ってるんだ!君の時計は故障中かね?」

 

彰とコナンは頭の中にさらにもう一つの可能性が増えた。

 

(……可能性が、もう一つ)

 

(この人が、共犯者の可能性……)

 

そこで高木が戻って来た。そこでどうやら報告があったようで、逃走者と思われる車が発見されたらしい。その発見された場所は堤無津川の河川敷、TR線の鉄橋脇らしい。

 

「よしっ!直ぐに行こう!」

 

目暮は小五郎も付いてくるように言い、小五郎はそれに了承を返す。そして蘭にコナンを連れて先に帰るように言い、蘭もそれに頷く。

 

「彰くん!君も手伝ってくれ!」

 

「分かりました!……すまん、この人たちの証言取り、任せた!」

 

彰はそこで手近にいた別の刑事に自分のしていた仕事を任せ、目暮達に付いていく。そして蘭がコナンを連れて帰ろうと辺りを見れば、コナンはいつの間にか姿をくらませていた。

 

「コナンくん……また消えちゃった」

 

蘭が困ったようにそう言った頃、彰達は堤無津川に辿り着いた。

 

「トメさん!どんな感じですか?」

 

「ああっ!目暮警部!!まだザッと見ただけだが、指紋の方は綺麗に拭き取られとりますな」

 

「他の遺留品は?」

 

「ああ、デカイところでは車の荷台に空のジュラルミンケースが5つ。これも指紋は0。それと……」

 

そこでトメさんは別の鑑識の人間に先ほど見つけたモノを持ってくるように言う。

 

「運転席のシートの上に捨ててあったモノだよ」

 

そう言って見せられた2つの袋には黒い覆面と手袋が入れられていた。

 

「まあそいつにも指紋は期待出来んだろうがね」

 

そこてトメさんはコナンに気付き、にこやかに声をかけた。そこで目暮達もようやく気付き、小五郎がコナンを大声で叱った。

 

「コラー!!蘭と先に帰れって言っただろ!!」

 

「そ、それより、覆面の内側に何か着いてるよ?」

 

その言葉を聞き直ぐに覆面の内側を見れば、ピンク色の口紅が付着していた。それに彰は首をかしげるが、コナンはそれが『誰の』口紅か分かった。

 

(だがどうして……?……よしっ!)

 

コナンはそこで証拠品の覆面を奪い取り、袋の中を嗅いでみる。そこでコナンは確信したその時、小五郎の拳骨が下った。それに痛いと叫ぶが小五郎は容赦なくコナンの上着の襟を掴み、遺留品を取り戻す。

 

「大事な遺留品に何しやがる!!いい加減にしろ!!」

 

そこでこの事件は単なる強盗事件として捜査が開始されることとなった。彰はそれに釈然としなかったものの、しかしまだ考えていることが確定した訳ではないため反論も出来ず、そのまま捜査することとなった。しかしコナンだけは理解している。これが単なる『強盗事件』ではない事を。そのコナンの予感が的中するのに、そう時間はかからなかった。

 

それを理解したのは、この強盗犯が殺された話が毛利探偵事務所にもたらされたとき。

 

「えっ?この間の強盗犯、殺されちゃったの?」

 

「ああ。『貝塚 士郎』って元レーサーで、昨夜、自宅で射殺されていた」

 

(元レーサー。どうりで早い訳だ)

 

あの車のスピードの理由をコナンはここで理解する。しかし次の疑問が浮かび、それを質問する。

 

「ねえ!どうしてその人が犯人だって分かったの?」

 

「その貝塚って奴の部屋から、襲われた銀行の見取り図や現金輸送車の来る時間、逃走経路なんかを書いたメモが見つかったんだ。しかも……奴が撃たれたのと同じ拳銃で昨夜もう一人殺されてる」

 

それに二人は驚きの声をあげた。しかしその次に出される名前にさらに二人は驚くことになる。

 

「ガードマンの『岸井』だ」

 

「え?じゃあ、岸井さんも強盗犯の……」

 

「共犯で間違いないだろうな。ギャンブル好きで大分、借金があったらしい。恐らく、脅されたフリをして輸送車の荷台を中から開ける役目だったんだろう」

 

現金輸送車の扉は外からは開けられないようになっている。そう、つまり中にいた岸井にしか開けることは出来ないのだ。

 

「じゃあもしかして、二人はもう一人の犯人に殺されたってこと?」

 

その蘭の言葉に多分そうだろうと小五郎は言う。盗んだ金を独り占めにしたくて他二人を殺したのだろうというのが小五郎と警察の見解となり、その線で捜査を始めていた。

 

「ま、捕まるのも時間の問題だな」

 

その小五郎の言葉に蘭とコナンは疑問を持つ。何故そう思うのかと問えば、貝塚の部屋からピンク色の口紅が発見されたらしい。それが遺留品の覆面に付着していたものと一致たことが伝えられ、そこでコナンがそれが雅美の口紅とも一致したのだろうと言えば、それに小五郎は同僚から同じものだと証言が取れたと伝えられる。

 

「昼飯と称し銀行を抜け出し、裏口に回って貝塚達の犯行に加わったに違いない」

 

それに蘭は信じられないという反応をする。銀行員がなんでと問いかければ、それはまだ分からないと答えられる。なぜなら彼女は既に銀行を辞めてしまった後なのだから。それも今朝、辞表が出されたらしい。それにコナンは驚いた表情で小五郎を見る。

 

「そもそも、あの銀行に勤めだしたのは半年前だってよ」

 

「どういうこと?」

 

「犯行の下見のための潜入。そう考えた方が自然ってことだね?」

 

それに小五郎は肯定を返す。その考えは大筋その通りなのだろう。しかしそれでもコナンは納得がいかない。コナンの中に残る疑問。それは、雅美が本当に口紅を落としたのかどうか。そんなミスを本当に雅美が犯したのかどうか。銀行の下見に半年も費やすような犯人がだ。

 

(それに、あの覆面についたあの口紅の位置、やけに下過ぎて顎に当たる部分だった。そして何より、彼女が被ったものなら必ず着くはずの化粧品の匂いが全くなかった。……ひょっとして、別の人間が全ての罪を彼女に被せるために仕組んだのだとしたらっ!)

 

そこまで考えれば、その彼女が最終的にどうなるかなど分かってしまう。コナンはそこで直ぐに行動を始めた。その第一段階としてまず小五郎の声で目暮に連絡し、雅美の住所を聞いた。そしてマンションにたどり着き、503号室にやって来た。そして植木鉢に隠してあった鍵に気付き、それを使って扉を開ける。そして持っていたスケボーは玄関前に置き、家の中の捜索を始めた。

 

(俺の推理が正しければ雅美さんの命が危ない。何か、何か手がかりはないか……)

 

その時、机で隠されたコンセントを発見し、そのコンセントを取る。そこから出てきたのはコインロッカーの鍵だった。

 

(おそらく、奪い取った現金の隠し場所……)

 

そこでコナンは人の気配に気付き振り向こうとしたその瞬間、首に手刀を入れられ、その力の強さも相まって意識が朦朧とする。その手刀をいれた人物である雅美はコインロッカーの鍵を手に取り、出て行こうとする。そんな彼女に意識が朦朧としながらも行くなと言う。

 

「行っちゃダメだ……広田雅美さん」

 

その名前を呼ばれ、コナンの方へと顔を向けた彼女は、もうメガネをつけていなかった。

 

「行ったら、殺される……」

 

コナンの言葉に雅美は静かに優しく微笑む。

 

「ありがとうーーーごめんね、コナンくん」

 

そこで雅美は出て行き、コナンが止める為になんとか移動するが既に彼女はいなくなっていた。そこでコナンはその場でジャンプし、塀を掴み、外の様子を見れば雅美が車に乗ろうとしていた。そこでコナンは直ぐに発信機とサスペンダーを使って彼女の車のトランクに上手く発信機を取り付け、スケボーで後を追い始める。

 

(彼女が誰かに利用されているのは間違いない。でも、黒幕は誰なんだ?)

 

それでもコナンは彼女を止める為に、もう1つの知恵を借りる事を決めた。

 

そう、修斗に連絡を入れたのだ。

 

『もしもし、なんだ坊主』

 

「頼む!力を貸してくれ!!」

 

『……結構マジな件のようだな。……仕方ない。詳しく聞かせろ』

 

コナンから事の詳細を聞き、修斗は頭をフル回転させる。しかし、彼の中でも犯人は全く出てこない。

 

(ーーーん?)

 

そこで修斗はとある結論に至ってしまった。そう、もしかしたらという考えであり、それがもし当たっていたとしたら……。

 

(……まずい!!)

 

『おい坊主!!その件から手を引け!』

 

「は?おい修斗、何言って……」

 

『俺だって詳しくは知らない。けど前に聞いたお前の事情と今回のこの黒幕を一切掴ませないほどの証拠と情報の無さ……ここまで言えば分かるだろッ!』

 

それでコナンの頭に1つの結論が辿り着く。それに余計に笑みを浮かべた。

 

「……なら願ったり叶ったりだ!」

 

『ふざけんな!!テメー、自分の命をなんで大切にしない!?自分の身を一番に考えろ!!』

 

「ここであの黒の組織の奴らを逃したら次にいつ会えるか分からねえんだぞ!?そうじゃなくともそんな危険な奴らは一刻も早く捕まえるべきだ!!」」

 

『ここで命失って一生探せなくなるよりかはマシだろ!!良いから引け!!』

 

「なら雅美さんを見捨てろって言いたいのか!!」

 

『ッ……ああ、そうだよ』

 

そこで電話口の男が苦しそうな声を出しながらもそう答える。修斗もその結論だけは言いたくもなければ下したくもなかった。けれど、彼がいくら考えても今回ばかりは『最善』が出てこない。

 

「……分かった。なら俺一人でやる!」

 

『あっ!おい!!!』

 

そこで電話をブチ切り、コナンは後を追うことに集中する。そして修斗の方はと言えばそれに舌打ちを1つ落とし、彰に電話を掛ける。

 

「兄貴、今平気か?」

 

『ああ、問題ないが、どうした?』

 

「頼みたいことがある。どこか取引するのに良さそうな場所……例えば廃工場が立ち並ぶ場所とか、其処に向かって欲しいんだ。パトカーで」

 

『……理由は?流石に俺一人で許可は出来ない』

 

「兄貴が追ってる銀行強盗犯、広田雅美。その人が確実に殺される」

 

『……は?それどこ情報……』

 

「いいから!!良いのか、悪いのか、どっちだ!?」

 

此処まで見たことないほどの修斗の必死さに彰は直ぐに決断を下す。

 

『……分かった。今回は俺が責任を取る。お前の意見に従う』

 

それを期に彼は電話を切り、修斗は椅子に背を預け、深い溜息を吐き、左腕で目を覆い隠した。

 

(……ああ。俺、本当に酷い人間だ。人一人の命を見捨てろなんて……)

 

彼はこの時、人生の中で一番の自己嫌悪に陥っていた。彼の中で一番に守るべきは『見知らぬ誰か』より『見知った人間』なのだ。だから、一番守るべき人間を考えれば、彼の中でその答えが出ることは自然といえた。けれど、それは彼の中で最も自己嫌悪を産む結論なのだ。

 

(……俺に今出来ることはこれだけ。これ以上、手出しをしたらまず間違いなく他の兄妹が危険だ。だから……すまん、雅美さんとやら。俺は……あんたを見殺しにする)

 

それから時間が経ち、雅美はとある廃れた工場にやって来た。そこで彼女はポーチから拳銃を取り出し、それを抱えたまま廃工場内に入る。

 

「どこにいるの?出て来なさい!」

 

「ご苦労だったな」

 

雅美はその声が後ろから聞こえたのに気付き、後ろへと振り返る。そこには黒い服に身を包んだお方が二人いた。一人はサングラスが特徴的な男、もう一人は銀髪ととても目立つ髪色の長髪の男。二人はニヤリと悪い笑みを浮かべて雅美を見据えている。

 

「ご苦労だったな、広田雅美。いやーーー『宮野 明美』」

 

「……1ついいかしら?あの二人を何故殺したの?」

 

その質問に二人は面白そうに笑い、銀髪の男が答える。

 

「それが我々のやり方なんでね。さあ、金を渡してもらおうか」

 

「此処にはないわ。ある所に預けてあるの」

 

それにサングラスの男は激昂。しかし明美は態度を変えない。

 

「それより妹よ。妹を連れて来なさい。約束したはずよ。この仕事が終わったら私と妹を組織から抜けさせてくれるって」

 

それに銀髪の男は鼻で笑い、明美に近付く。

 

「ふっ、それは出来ねぇ相談だ。奴は組織の中でも有数の頭脳だからな。妹はお前と違って組織に必要な人間なんだよ」

 

「じゃあ貴方達、最初からッ!?」

 

そんな明美の様子に二人は面白そうに笑い、銀髪の男が左手で拳銃を明美に向ける。

 

「さあ最後のチャンスだ。金の在り処を言え」

 

それに明美は対抗し、隠し持っていた拳銃を向ける。

 

「甘いはね。私を殺せば永遠に分からなくなるわよ」

 

「甘いのはお前の方だ。コインロッカーの鍵を持っている事くらい分かっているんだ。それに……言っただろ?最後のチャンスだと」

 

そこで拳銃を一発発砲。その音はコナンにも聞こえる。その後、更にもう一発響き渡らせ、明美を撃った男二人はそのまま焦る事なく去っていく。彼ら二人は彼女からコインロッカーの鍵を奪い取ったのだから当たり前だ。そして2人が去った頃にコナンは到着した。そして其処に倒れていたのはやはり雅美だった。コナンが明美に近付き、声をかける。

 

「雅美さん!!」

 

「コナン、くん……どうして此処が……」

 

「発信機を、雅美さんの車に付けといたんだ。雅美さんが事件の黒幕に会いにいくに違いないと思ってね。くっそ、あの時ちゃんと話しておけば!」

 

「き、君は一体……」

 

「江戸川……いや。工藤新一、探偵さ」

 

それに明美は驚きで目を見開き、そして安心したように笑う。

 

「そう、噂は聞いてるわ。……私が雇った二人が殺され、結局私も組織の手に掛かって」

 

「組織……」

 

「謎に包まれた大きな組織よ。末端の私に分かるのは組織のカラーがブラックってことだけ」

 

「ブラック?」

 

「そう。組織の奴らが着てるの。烏のような黒づくめの姿をね」

 

そこでコナンは自身を小さくしたウォッカとジンを思い浮かべる。その時、遠くから警察のサイレン音が聞こえ始めた。これは修斗の言を聞き入れやって来た彰だ。運転は瑠璃であり、その車の中には彰、松田、伊達が乗っている。しかし彼女とコナンはそれを気にしていられない。明美はコナンの服を掴み、伝えるべきことを伝えだす。

 

「最後に、私の言うこと……聞いてくれる?」

 

そこで彼女が取り出したのは緑の26と刻まれたタグが付いたコインロッカーの鍵だ。

 

「こっちが本物……奴らが持って行ったのは偽物よ……危険を承知でコレを……」

 

そこで明美は咳き込んでしまう。もう彼女には限界が近づいて来ていた。

 

「お願い……奴らが気付く前に……もう利用されるのはゴメンだから……」

 

そこで彰達が飛び込んでくる。しかし明美の意識はそこで落ち始めた。

 

「頼んだわよ……小さな探偵さん……」

 

そこで彰達は中の様子に気付き、救急車などを呼ぶように瑠璃と伊達に指示する。その後、目暮達も駆けつけ、現場を捜索し始める。しかし残されていた拳銃には彼女の指紋しかなく、逃げ切らないと悟ったの自殺と判断されてしまった。強奪された10億円も無事に回収され、事件は終わりを迎えた。

 

ーーーしかし、コナンの中では終わっていない。

 

コナンはさらに黒の組織に向けて怒りを募らせる。必ず黒の組織の二人を捕まえてみせると覚悟を決めたのだった。




ごめんなさい。明美さんは救えなかったです。

いえ、方法がなかったわけではないんですが、それらをするには彰さんがそれが公安案件だと悟らせることになってしまいます。それでも別に構わないのですが、そこに至るまでの過程がどうやっても考えつきませんでした(これが修斗さんならもっと違った)。

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